機動戦艦ナデシコSS

Rebellion 〜因果を超えし叛逆者〜

 

Episode:06 火星へ・・・

 

 

 

 

 

サツキミドリコロニーでの戦闘から数日、一路火星への進路を取るナデシコは、然したる問題も無く、穏やかな航海を続けていた。そして時は過ぎ、ナデシコは火星の目前へと迫っていた。窓から外を覗けば、まだ小さいながらも火星を視認出来る位置にまで近付いてきているのだ。目的地に近付いてきたとあって、ナデシコのクルー達は、否応無しに盛り上がっていた。

 

 

 

 

 

「貰ったぁ!」

 

「甘いね。」

 

周囲に障害物の何も無い宇宙空間を疾駆するリョーコのエステバリスが、手にしたイミディエットナイフで背後から切りかかる。が、アキトのエステバリスカスタムは、振り向く事さえせずに、その攻撃を軽くいなしてしまう。

 

「はい、頂き。」

 

必殺を期して放った一撃をあっさりかわされ、体勢を崩したリョーコ機に、アキト機のライフルの銃口が突きつけられる。これで、勝負ありである。銃口が火を吹き、一瞬視線が光に染まった後、景色が暗転、「GAMEOVER」の文字が浮かび上がる。

 

「はぁ〜・・・やっぱり勝てないかぁ・・・。」

 

シミュレーターから離れたリョーコは、さして悔しそうな素振りは見せずにそうぼやく。これで彼女がアキトに負けるのは3度目である。そのいずれも、あまりに一方的な勝負であった。尤も、それは彼女に限った事ではない。アキトとリョーコ達は、合流以来幾度となくシミュレーターで勝負している。結果は、リョーコ達3人娘の全敗。個人勝負でも、3人同時に挑んでも、アキトには勝つ事はおろか、いいところまで持って行くことさえ出来ていなかった。更に、ガイを加えた4人で挑んでも同じ結果に終わってしまうのだ。今の戦闘でも、前衛を務めるリョーコとガイの隙を突いて突撃してきたアキト機に、虚を突かれたイズミとヒカルはあっさりと撃破され、リョーコも至極簡単に撃墜されたのである。

 

「う〜ん、やっぱり駄目だったねぇ。今度こそいけると思ったんだけどなぁ〜。」

 

「フゥ・・・まだまだ力量の差は大きいと言う事ね。」

 

リョーコより先に撃墜され、休憩していたヒカルとイズミも、言葉ほどには悔しそうではない。別に彼女達はパイロットとしての誇りが無い訳ではない。当然、悔しさはある。が、ああも見事に圧倒されると、却って清々しい気分になるのだ。

 

「お、ヤマダの奴も墜とされたみたいだな。」

 

そう言うリョーコの視線の先では、ガイのパーソナルカラーである青色に染め上げられたエステバリスが、漆黒のエステバリスの攻撃によって撃墜されるシーンが映し出されていた。

 

「火星に付くまでに、せめて一撃位は当てられるようになりたかったんだけどねぇ。」

 

「全くね。」

 

シミュレーターでは、ガイが呆れたような表情のアキトに何事かをがなり立てている。どうやら、もう一勝負挑まれているようだ。それにリョーコも加わり、結局アキトはガイとリョーコ相手にまた戦うハメになってしまった。それを眺めていたヒカルとイズミは、声を揃えてのたまった。

 

「・・・平和だねぇ〜・・・」

 

「・・・平和ね・・・」

 

・・・勝負の結果は、言うまでも無いであろう。

 

 

 

 

 

「そろそろ火星への降下体勢に入る。前にも言ったと思うが、8ヶ月程連絡は取れなくなるから、そのつもりでいてくれ。」

 

暗闇に包まれた部屋の中、アキトは通信機に向かって話し掛ける。相手は地球に居るアカツキだ。ネルガル本社との直通回線であり、地球−火星間程の距離が開いていても、通信可能な特殊な回線である。尤も、遣り取り出来るのは音声のみ、しかも一世代昔の衛星通信並に、タイムラグが発生してしまうのが欠点と言えば欠点だが。

 

「理由は・・・まだ言えないんだっけね?まぁいいさ。取り合えず、8ヵ月後の合流地点は了解したよ。その際に、ブラックサレナも持っていくようにすれば良いんだね?」

 

「ああ、手数をかけるな。・・・開発状況の方はどうなっている?」

 

「取り合えず、ブラックサレナは殆ど開発完了済みだよ。君が見せてくれたデータを今のエステカスタムに規格が合うように調整するのに手間取っているけど、8ヵ月後には間違い無く完成させる事が出来る。『アレ』に関してだけど、こっちはまだまだだね。いいとこ、5%って所かな?」

 

「やはり、難しいか?」

 

「まぁ・・・用いる技術が桁外れだからね。ブラックサレナだって十分規格外なのに、更にそれの上をいくとなると・・・ね。せめてフィリア君が居てくれれば多少は違っていたかも知れないけど、彼女をこっちに置いておくと、逆に今君のエステカスタムを整備できる人間が居なくなってしまうし。ま、無いものねだりさね。」

 

どこかおどけたようにいうアカツキ。音声オンリーの通信の為確認する事は出来ないが、今もモニターの向こうで、人を食ったような表情を浮べているのだろう。そんな事を思いつつ、アキトは表情を苦笑に歪めた。

 

「無いもの強請り・・・か、確かにそうだな。ある意味、俺がやっている事は、究極の無いもの強請りかもな。」

 

「コラコラ、またそうやって自分の中に色々と抱え込もうとする。責任感があるのは悪い事じゃないけどね、何でもかんでも抱え込んでしまうのは、あまり感心しないな。」

 

「ん・・・肝に銘じておく。それじゃ、そろそろ通信を切る。あまり長い事繋げて、盗聴でもされたらコトだからな。」

 

「解った。それじゃ、8ヵ月後の再会を楽しみにしているよ。」

 

「お互いに・・・な。」

 

画面に通信回線が切断された事を示す文字が浮かび上がるのを尻目に、アキトはシートの背もたれに体を預けた。暗闇の中、天井を見上げつつ、呟きを漏らす。

 

「・・・ブラックサレナ、そして『アレ』が完成すれば、戦力と言う点に於いては問題無い筈だ。後は、因果の修正力がどのようにして働くか・・・。」

 

呟きつつ、アキトは天井に向けて手を伸ばす。まるで、そこにある見えない何かを掴み取ろうとするかのように・・・。

 

「例え如何なる障害が立ち塞がろうと・・・後に退く事は許されない・・・。唯只管に、前へと進むのみ・・・か・・・」

 

目を閉じ、物思いにふけるアキトに耳に、コミュニケの着信を告げる音が聞こえる。通信機能をONにすると、困ったような呆れたような、些か微妙な表情を浮べたルリが顔を見せる。

 

「?どうかしたの、ルリちゃん?」

 

「ええ、実は・・・前にも起きたちょっとした暴動が・・・」

 

「今回も起きた・・・と?」

 

頷くルリ。アキトは疲れたような溜息を吐きつつ、ぼやく。

 

「流石と言うか何と言うか・・・まぁナデシコだしなぁ・・・」

 

「・・・ナデシコですからね・・・」

 

軽く頭を振って気持ちを切り替えると、アキトは考えを巡らせた。

 

「・・・確か、前回はこの件の最中に敵が襲ってきたっけ。なら、俺は何時でも出れるように、エステのスタンバイをしておこうか。」

 

「解りました。それじゃ、ハッチは此方で操作しますね。」

 

「ん、頼むよ。」

 

通信が切れると、アキトは再び溜息を吐きつつ、椅子から立ち上がる。そして、部屋を出つつ、理解し難いとでも言うかのように、呟いた。

 

「全く・・・間も無く火星に降り立つって時に・・・。しっかし・・・別に恋愛禁止ってだけで、あそこまでムキにならなくても良いような気もするんだけどねぇ・・・。それもナデシコ故って事かな・・・?」

 

そう言う事が問題に発展する理由、或いは責任の一端が自分にある事を全く自覚していないアキトであった。

 

 

 

 

 

「我々は〜っ、ネルガルに断固抗議する〜っ!」

 

それ程広くは無いブリッジの中、態々拡声器まで使ってウリバタケががなりたてる。その周囲では、何やら色々と書き込まれたプラカードやら何やらを持った、恐らく整備班の人間であろう数人の男性を初め、10数人の男女が立っている。ウリバタケの両隣にはリョーコとヒカルが陣取っており、その辺は嘗てと同じ光景であった。時を隔てても変わらないナデシコの面々に、ルリは思わず苦笑を漏らしてしまう。尤も、あまりに微かな苦笑であった為に、それに気付いた者は直ぐ隣に座って退屈そうにしていたラピスだけであったが。

 

「あの、兎に角落ち着いてください!もう直ぐ火星に降りるんですよ?そう言う事は、後に・・・」

 

イマイチ事情が飲み込めていないユリカが説得を行うが、ウリバタケ達は全く聴く耳を持たない。寧ろ、火に油を注ぐ結果に終わってしまっている。

 

「これが落ち着いていられるか!大体だなぁ、いい年した男女がいて、仲良く手ぇ繋いでハイ終わり・・・なんて事があると思うか!?そっから先を望むのが、大人の恋ってもんだろうが!」

 

(・・・アキトさんなら、それで終わりになっちゃいそうですけど。)

 

等と、些か失礼な事を考えるルリである。と、ウリバタケの主張が一段落するのを狙ったかのように、スポットライトを浴びたプロスがブリッジに現れる。

 

「その先・・・と言うのが、そもそもの問題なのですよ。」

 

何時の間にやら手にしていた電卓に何やら打ち込みつつ、プロスは続ける。

 

「まぁ普通に恋愛している場合はまだ良いですが、更に関係が進んで結婚、出産なんて事になりましたら、出費が嵩みますからなぁ。大体において、この件に関しては皆さん合意為さっている筈ですが?」

 

「あ!?何時俺等が合意したってんだ!?」

 

「これです。」

 

と言ってプロスが手にした一枚の書類を掲げる。それは、クルーがナデシコに乗る際にネルガルと交わした契約書である。その下のほう、小さな文字で書かれた一文を示しつつ、プロスは説明する。

 

「この部分に、弊社との契約中は一切の恋愛行為を禁ずる事に同意する、とあります。つまり、この契約書に同意した時点で、皆さんは恋愛禁止に同意した、と言う事になるのですよ。」

 

ある意味正論ではあるが、またある意味では横暴である。今まで傍観していたミナトやメグミ達ブリッジクルーも、流石にこれには不満の表情を見せる。それらを見て取ったウリバタケが、我が意を得たとばかりにプロスを攻め立てる。

 

「大体、んな契約書を隅々まで読むような奴がいるか!?いねぇだろ!?」

 

「あ、私読みました。」

 

『へ?』

 

突然会話に参加してきたルリの声に、プロスとラピスを除く全員が揃って間抜けな声を漏らす。

 

「その契約書、私全部読みました。あ、因みに。件の文章の部分は削除させて貰ってますので。」

 

「はっはっは、どうやら正当性は此方にありそうですな。」

 

「ぐっ・・・」

 

ルリと言う思わぬ味方を得たプロスは勢いを盛り返し、逆にウリバタケ達は勢いを削がれる。更に、今まで黙って推移を見守っていたフィリアが、休憩中に無理矢理ウリバタケに連れて来られた恨みをぶつけるかのように、追い討ちとなるであろう事実を口にする。

 

「因みに、私達元々のネルガル社員は、その部分の規制が為されてませんから。恋愛は自由に出来る事になっているんですよ。」

 

「何ぃぃ!?」

 

フィリアの言葉に、血の涙を流さんばかりに悔しがるウリバタケ。他の抗議に来ていたメンバーも、意気消沈している。流石に見兼ねたか、ユリカが何か励ましの言葉を言おうとした瞬間、それは起きた。

 

「あ、あの――」

 

 

 

ドゴォォォォォンッ!!

 

 

 

「きゃぁ!?」

 

「な、何だぁ!?」

 

突如ブリッジを襲った衝撃と爆音に、一気に騒然となるブリッジ。こうなる事を予め知っていたルリは、冷静に事実を告げる。

 

「敵襲です。」

 

「え、敵!?でも、ディストーションフィールドは・・・」

 

「ディストーションフィールドはちゃんと安定しているよ。でも・・・」

 

ユリカに何か聞かれる前に、ラピスがフィールドが健在である事を告げる。そしてそのラピスの言葉を引き継いで、ルリが告げる。

 

「この敵は、迎撃の必要があります。」

 

「皆さん、この件はまた後程と言う事で、其々の持ち場に戻って下さい!」

 

ユリカの声に追い立てられるように、皆其々の持ち場に戻っていく。そんな中、ふと思い出したように、ユリカが声を出す。

 

「あれ、そう言えばアキトは?」

 

その声に、ルリは簡潔に答えた。

 

「アキトさん、既に出撃してます。」

 

「へ?」

 

 

 

 

 

ルリの言葉通り、敵の攻撃がナデシコを揺さぶってすぐ、アキトは出撃している。眼前に迫る無人兵器の群れを見遣り、敵戦力を確認する。

 

「戦艦4隻に駆逐艦12隻、無人兵器は数えるのもバカらしい程・・・か。無人兵器は後からくる筈のリョーコちゃん達に任せて、俺は駆逐艦を墜とすとするか!」

 

敵戦力の分析を終えると、一気にスピードを上げ、群れの中を突っ切っていく。敵の接近を感知した無人兵器群が、一斉にミサイルを発射する。無数の小型ミサイルがアキトのエステカスタムに殺到してくるが、アキトは焦る素振りも見せない。

 

「悪いが・・・俺の相手はお前達では無いんでな!」

 

更にスピードを上げ、ミサイルや無人兵器の群れの間を縫うようにして飛び去る。ミサイルは目標を失って彼方へ飛び去り、無人兵器達はアキトの動きを追う為に一瞬動きを止める。その瞬間・・・

 

 

 

ドゴォォォォォォンッ!!

 

 

 

後方から追い付いて来たリョーコ達が撃ったラピッドライフルの弾丸が、方向転換の為に一瞬動きを止めたバッタを撃墜していく。

 

「ふぃ〜、やっと追いついたぜ!」

 

「アキト君、出るの速過ぎるよォ!」

 

「火星に降りる前の一仕事って所ね。」

 

「前はあんまり活躍出来なかったからな、今度こそ活躍させてもらうぜ!」

 

口々に言いながらも、次々とバッタを撃ち落していく。前回は宇宙空間での戦闘に慣れていなかったガイも、2回目の出撃という事もあってか、動きが滑らかになっている。

 

「ヒカル、イズミ、ヤマダぁ!一気に決めるぜ!」

 

「おっけぇ〜!」

 

「解ったわ!」

 

「任せろ!って、俺の名前はガイだ!」

 

リョーコの号令を受けて、ヒカル、イズミ、ガイの3機のエステがバラバラに展開し、3方向からバッタ達を一箇所に集めるようにして追い立てる。そして、バッタ達が程よく集まった頃を見計らい、3機が離れる。密集したバッタの群れに、ディストーションフィールドを展開したリョーコ機が突撃する。

 

「貰ったぁぁぁぁ!」

 

 

 

ドゴゴゴゴゴォォォォォォンッッ!!!

 

 

 

ディストーションフィールドを纏った突進によって、次々と爆発・四散していくバッタの群れ。敵陣を突き抜けたリョーコ機はすぐさま反転、残存のバッタを駆逐していく。ヒカル達も加わり、バッタの群れはあっという間に殲滅された。

 

「先ずは・・・一つ!」

 

リョーコ達が無人兵器を相手取っている頃、バッタ等無人兵器の壁を抜けて、後方の駆逐艦12隻に迫っていたアキトは、先ずは手近な一隻に狙いをつける。リニアカノンの攻撃を回避しつつ接近、至近距離からレールカノンを放つ。

 

 

 

ドゥッ!ドゴォォォンッ!!

 

 

 

至近距離から放たれた一撃は、駆逐艦の機関部に直撃、唯の一撃で沈んでしまう。それを見る事も無く、アキトは次の獲物に向かう。

 

「二つ、三つ目!!」

 

 

 

ザンッ!ズバッ!

 

ズガァァァァァァァンッッ!!

 

 

 

イミディエットソードが閃き、2隻の駆逐艦を纏めて沈める。射程内にアキト機を捉えた最後部にいる戦艦からも攻撃が開始されるが、高速で飛行するアキト機には掠りもしない。

 

「四つ目!」

 

 

 

ドゥッ!ドゥッ!ドゥッ!

 

ドゴォォォォォォンンッ!!

 

 

 

雨のように降り注ぐリニアカノンの攻撃を避けつつ、レールカノンを3射。狙い違わず機関部に直撃し、轟沈する。アキトの勢いは、全く衰える事を見せない。

 

「良し、次!」

 

 

 

 

 

アキトの驚異的ともいえる戦闘風景は、ナデシコのブリッジにも流されている。メインモニターに映し出された漆黒のエステバリスカスタムの動きは、ブリッジにいる誰の目にも驚嘆すべきものとして映っていた。

 

「いやはや、此処まで来ると最早呆れるしか無いですな。」

 

「むぅ・・・目の前の映像が無ければ、冗談としか思えん強さだな。」

 

プロスとゴートは、感心しつつも、半ば呆れている。エステではなく性能で段違いに劣るデルフィニウムとは言え、一度は機動兵器の操縦を経験しているジュンは、アキトの桁外れの力量に絶句している。

 

「・・・アキトの本気は、まだまだこんなものじゃ無いんだけどね。」

 

「現状ではこんなものでしょう。それより艦長、敵部隊後方に位置する戦艦まで、アキトさんに任せっきりにするつもりですか?」

 

「え?あ、そう言われてみればそうだね。それじゃ、グラビティブラストスタンバイ、狙いは敵戦艦!途中の駆逐艦やバッタ達はアキト達エステ隊に任せます!」

 

縦横無尽に飛び回るアキトのエステに見惚れていたユリカが、ルリの指摘で慌てて我に返り、指示を出す。それにより、呆然としていた他のクルーも自分の仕事を思い出した。

 

「メグミちゃん、アキト達に通信をお願い。内容は、『駆逐艦及び虫型兵器の殲滅終了と同時に、これから転送するグラビティブラストの射線軸より離脱しつつ、帰艦して下さい』、で。」

 

「解りました。・・・此方ナデシコ、エステバリス隊、聞こえますか?・・・」

 

ユリカの指示を受け、メグミが早速通信を繋げる。後は、時が来るのを待つだけだ。

 

 

 

 

 

「12、ラスト!」

 

 

 

ザンッッ!!

 

ドドドドォォォォンッ!!

 

 

 

イミディエットソードの一撃が、駆逐艦の艦首部分を切り裂く。アキトが最後の駆逐艦の爆発を見遣った時、丁度通信が入った。

 

『アキトさん、聞こえますか?』

 

「メグミちゃん?」

 

『これから敵戦艦に向け、ナデシコがグラビティブラストを発射します。射線軸のデータ-を転送しますから、それから離脱しつつ、帰艦して下さいとの事です。』

 

「了解。丁度駆逐艦も殲滅し終わったし、直ぐに帰艦するよ。」

 

通信が切れると同時に、グラビティブラストの射線軸を示したデータがエステのモニタに映し出される。その射線軸に被らぬよう、アキトは帰艦を開始した。

 

 

 

 

 

「エステバリス隊、全機の離脱を確認しました。射線軸、オールクリア!」

 

「グラビティブラスト、チャージ完了です。」

 

「それじゃ、グラビティブラスト発射ぁ!」

 

 

 

ヴァァァン・・・・・・バシュゥゥゥゥゥゥゥンッッ!!

 

低い唸り声のような音を立て、重力の波が解き放たれる。漆黒の空間に解き放たれた重力波は、進路上にあった残骸を呑み込み、固まって進攻して来ていた戦艦4隻を纏めて捉ええ、破壊する。距離が離れている為規模は小さいが、宇宙に咲いた爆発の華が、確かに敵戦艦を沈めた事を示していた。取り敢えず戦闘が終わって皆が一息つく中、1人毅然とした態度のまま、ユリカが声を出す。

 

「ルリちゃん、引き続きグラビティブラストのチャージ開始!」

 

「はい。」

 

「艦長?」

 

突然のユリカの指示に、理由を知っているルリは素直に従う。が、それ以外のクルーは唖然としている。そんな彼等に、ユリカは笑顔だがどこか不機嫌そうな色を含めた表情を浮べて説明する。

 

「火星の敵に対して、軌道上から先制攻撃を行います。上手くいけば、それで当面の敵は全滅させられるかも知れませんし。」

 

「そっか、そうすればエステバリス隊の人達も危険に晒されなくて済みますもんね。」

 

ユリカの説明に納得いったメグミが、ポンと手を打ち合わせながら言う。と、からかうような表情で、ミナトがメグミに言う。

 

「心配なのはエステ隊全員じゃなくて、アキト君の事なんじゃないの〜?」

 

「え、そ、そんな事無いですよぉ!」

 

あからさまに図星と解るほどにうろたえるメグミと、それを聞いて面白く無さそうな表情になるユリカとルリ。因みに、もう1人反応を示しそうなラピスは、既に此処にはいない。サブオペレーターであり、比較的仕事が少ないと言う利点を生かし、さっさと帰艦してきたアキトの迎えに行ってしまっている。実は、ユリカが不機嫌なのはその所為もあったりするのだ。

 

「と、兎に角!グラビティブラスト、火星地表に向けて発射!!」

 

ユリカの指示で、再びグラビティブラストが解き放たれる。と、突然、ルリが珍しく焦ったような声を出した。

 

「あ・・・」

 

「あ?如何したの、ルリルリ?」

 

「・・・艦内の重力制御を行うの忘れてました・・・」

 

 

 

 

 

「で、結局こうなるんだな・・・」

 

格納庫で、手摺の部分に片腕でぶら下がりつつ、アキトが疲れたように呟く。そんな彼のもう片方の腕は、彼にしがみ付いているリョーコ、ヒカル、イズミ、フィリアの4人を支えている。更に、その首に腕を巻くようにして、ラピスもしがみ付いていたりする。

 

「何だってこう、お約束の部分は変わらないんだろうな・・・」

 

そんな事を呟くアキトの足元では、積み重なるようにして倒れている整備班達が、恨めしそうな顔でアキトを睨みつけている。勿論、その筆頭はウリバタケだ。

 

「ハァ・・・何でこうなるんだ・・・?」

 

等とアキトが疲れたように呟く。が、当然の事として、その呟きに対し、同情の意を示すものは誰一人としていないのであった。

 

 

 

 

 

こうして、一部の人間の精神に大きな疲労感を残しつつ、ナデシコは火星の大地に降り立つ。そんな彼等を、始まりの紅い大地は、静かに受け容れるのであった・・・。

 

 

 

 

 

Episode:06・・・Fin

 

〜後書き〜
刹:というわけで、第6話です。

 

ア:漸く火星に到着したな。次は・・・イネスさん登場か。

 

刹:プラス、火星脱出まで一気に行っちゃいます。

 

ア:そうか。・・・そう言えば、これって最終的にどれ位の長さになるんだ?

 

刹:まだ未定。まぁ、20話は越えると思うけど。

 

ア:・・・長いな。

 

刹:・・・長いね。

 

ア:一体何人位の人が、最後まで付いて来てくれるだろうな?

 

刹:・・・言うな。

 

刹&ア:それでは、Episode:07でお会いしましょう。

 

 

代理人の感想

ん〜、割とお約束な話でしたので取り立ててコメントはないですね〜。

 

ただ、一寸気になったこと一つ。

「強請り(ねだり)」「只管(ひたすら)」「態々(わざわざ)」など普段使わないような漢字変換は

なるべくしないほうがよろしいかと思います。

単に読みにくくなるだけですので。