何処とも知れない、朧な景色。

 どうやらまた、夢の中にいるらしい。

 ここは……どうやら、撫子学園の校内のようだ。

 しかし、何だろう? この違和感は。

 通い慣れているはずのこの場所に、何故か親しみを覚えない俺がいる。

 凍てついた廊下を、人影を求めてさまよい歩く。だが、何処にも、誰もいない。

 ここはあの、ロードヴァンパイアの夢ではないのだろうか?

 俺はなんとしても、彼女と会わなきゃならない。会って、彼女の居場所を訊き出さなきゃならない。

 気が付くと、俺が歩く廊下の先に、人影がある。

 誰だ? そう思うよりも早く、人影は向こうからやってきた。

「生憎だったな。ここはお前の捜す、ロードヴァンパイアの世界じゃない」

 そう言って、そいつはニヤリと口元を歪めてみせた。









「VJEDOGONIA」

EPISODE04 「決意」









 いつからそこにいたのだろうか。最初からそこで待ち受けていたのか?

「ちょいと腹に据えかねることがあったんで、割り込ませてもらったぜ」

 奴が着ているのは、見慣れた撫子学園の詰め襟だ。

 その顔には、間違いなく見覚えがある。

 それも、とりわけ身近な誰か……そう、毎朝鏡の向こうに見るほどに……。

 なぜだ? なぜ、こいつは俺と同じ顔をしている。

「一度、面と向かってはっきり言っておこうかと思ってな」

 輪郭も、目鼻立ちも、俺と瓜二つだ。

 だが……俺は、あんな笑い方をすることがあるのか?

「何の、ことだ?」

「すっとぼけるなよ。ゆうべの殺しだよ。まったく、何だありゃぁ? あのブザマな戦い方はよぉ」

「……なに?」

 俺はあのとき、間違いなく必死だった。それをブザマだと……どういうことだ?

「あんなチンケな奴に手こずりやがって、見れたモンじゃあなかったぜ」

 こいつ……何が言いたい?

「極めつけはあの邪魔くさい猿轡だ。ありゃ一体何の冗談だ? むかついて仕方がねぇ」

 あれは……確かに気持ち悪い。だが、あのおかげで最後まで正気を失わずに済んだんだ。

「ああしないと俺は、前みたいに、訳も解らず無茶苦茶なことに……」

「まるで解っちゃいねえよ、オマエ」

 呆れたように手で顔を覆い、俺と同じ顔のソイツは吐き捨てる。

「ああじゃねえだろ? オマエの狩り方は。もっと吠えて、猛ってよぉ、思う存分に楽しむもんだ。違うか?」

「誰だ、お前は……!」

 怯えているのを気取られないよう、精一杯の敵意を込めて、ニヤニヤと笑うソイツに訊いた。

 だがそんな俺の虚勢を見透かすように、ソイツは一層、顔を笑み崩れさせる。

 やめろ! 俺の顔で、そんな風に笑うな!

「鏡ぐれぇ見たことあんだろ? どっからどう見たってよぉ、俺はお前じゃねえか」

「だから、なんでだ? どうして俺の格好をしてるんだ、お前は、いったい誰だ!?」

 訊くんじゃなかった。心のどこかで、そんなことをつぶやく俺がいる。

「オレはオマエだよ。なぁ、テンカワアキト」

 そして、奴は俺がもっと聞きたくない答えを返してきた。

「オマエが忘れてる、本当のオマエだ」

 そう言い放ったソイツの口から、ぞろりと鋭い牙が覗く。射抜くような鋭い眼光が、いつの間にか血の色を帯びていた。

 ……嘘だ……俺はそんな化け物じゃない……。

 逃げようと、一歩、後ろに退がる。

 だが、そこにあるはずの床がない。足場を失って、悲鳴を上げながら、俺は、真っ暗な底なしの闇に落ちていく。

 暗い……何も、見えない。

 ただ、あいつの真っ赤な眼光だけが、落ちていく俺を見下ろしている。

『オレハオマエダ』

 違う……違う……俺は……!

『オマエハオレダ。オレトオナジバケモノダ。チニウエタ、バケモノダ』

 俺は……俺は……!




 飛び起きて、毛布をはね飛ばしてから、俺は全身がぐっしょりと寝汗でまみれていることに気付いた。

 カーテンの隙間から入り込んでくる光が、やけに眩しい。

 いま、何時だ?

 カーテンを開けるのは躊躇われて、俺は机の上に投げてあった腕時計を手に取る。


[多摩市 松が谷 PM1:48]

 一時、四十八分……まだまだ陽は高い。今の俺には、正直辛い時間だ。

 頭にまだ鈍痛が残っている。もっとも、寝不足というわけじゃなく、俺の身体の方に影響してるんだろう。

 そう、俺の身体に。

 それにしても、目覚める前に何か、たまらなく嫌な夢を見ていた気がするけれど、綺麗に記憶から抜け落ちている。

 ロードヴァンパイアの夢だとしたら、思い出せないのを悔やむところだ。けれど、どうにも違う気がする。

 それに引き換え、昨夜の記憶は鮮明だ。鮮明であるからこそ、信じられない。よくもまあ、あんな真似が俺にできたもんだ……。

 恐かったかと言えば、そりゃぁもちろん恐かった。けれど以前のように、自分が自分でなくなるような体験と比べれば断然マシだ。昨日の俺は、最後まで身体の自由が効いていた。ナオが持ってきた一連のものは、それなりの効果を上げたってことか。

 それにしたって、あまり思い出したくない体験には違いない。俺は……あんな化け物と殺し合いをするような人種じゃない。

 銃で撃たれて、腑をグシャグシャにされるあの感覚……いくら死なないとはいっても、あんな痛みに何度も耐えられるわけがない。

 ……ったく、なんで俺があんな目に遭わなきゃならないんだ!?

 あんなのは聞いてない。連中の代わりに化け物と戦うなんて、まるで話が違う。

 ヤガミ・ナオ。ラピスの仲間だという吸血鬼ハンター。だがあいつが要求してきたことは、ラピスの話とはまるで違う。最初から俺を利用する気だったとしか思えない。

 だが、本気で俺に同情しているようだったのも、確かだ。あれは演技ではなかったと、思える。俺がそう思いたいだけなのかもしれないが。

 ハンガーラックに掛けてあった服のポケットを探り、一昨日、ラピスから貰った紙片を探し出す。

 ごく簡単な図だけで示された地図。昨日はそもそも、ここに訪ねにいくはずだったんだ。

 とにかく、今夜こそもう一度ラピスに会おう。そうして、一度話をしてみなきゃならない。そうじゃなきゃ埒があかない。

 いったい、俺をどうするつもりなんだ?

 手早く着替えると、そのまま掛けてあるジャケットを手に取る。そうして外に出ようとしたが、ふと思い立って机の引き出しに仕舞いっぱなしだったサングラスをかける。

 リョーコちゃんやユキナちゃんには散々似合わないと言われたやつだが、この日差しの中出歩くのは、いまの俺にはあまりにもきつい。これぐらいのことはしなきゃ、とても耐えられないだろう。




 最新の設備と古典的な調度品の数々。その相反するものが同居する部屋に、彼らはまた集まっていた。

「昨夜は、まんまと一杯食わされたみたいだな、ヤマサキ」

 椅子にどっかりと腰を下ろしながら、口元に冷笑を浮かべながらジュンが言う。

「ええ。様子見のつもりではあったのですが……案の定、と言ったところでしたな」

「……貴様、手勢を失っておいてその余裕は何だ?」

「これはこれは、お気に障りましたか? ミスターD。あの程度の練度の低い輩なら、いくらでも替えが効きますでしょうに」

「貴様……それが仮にも将の端くれが口にする台詞か?」

「いや、確かにV・ウォーリアを潰されたのは、痛かったですがね」

「……敵の力を知る上では、仕方ないでしょうね。少なくとも、これで相手はV・ウォーリア一体では厳しいということが判ったから」

 謙虚な言葉とは裏腹に、白衣の女の顔は苦々しげであった。

 だが、V・ウォーリアが敗れたこと自体は、実のところ彼女にとっては、そう問題ではない。

 問題は、このヤマサキという男が、組織において着実にその力を蓄えていること。この敗北によって、それにさらに拍車がかかることだった。

「事の隠蔽はできたのかい、ドクター?」

「ええ。警察より先に現場を押さえられたから。ただのボヤ騒ぎで片付けられているわ」

「そうそう、検証では多少の進展がありましたよ」

 相変わらず、ニヤニヤとした笑みを張り付けながら、ヤマサキが言葉を続ける。

「現場から、人間のものではない血痕が回収されています。V・ウォーリアのものとも一致しません」

「で、何か解ったのか?」

 興味なさそうに、ジュンが言う。

「血痕から検出されたV酵素は、ロードヴァンパイアのものと合致しました。つまり、相手は姫君の継嗣と言うことですな」

 ロードヴァンパイアの継嗣。さすがにその言葉には、ジュンと、Dがぴくりと反応する。しばし、重い沈黙がその場を支配する。

「しかし、例の学校の学生の線っていうのは、消えたんじゃなかったのか?」

 内心の動揺を悟られないようにしながら、ジュンが沈黙を破る。

「もう少し、柔軟な発想をしてみてはいかがでしょう?」

 それにしても、人を食ったような笑みだ。講義でもしているつもりなのか、それとも単に馬鹿にしているのか、このヤマサキという男、何を考えているのか知れたものではない。

 他の三人とも、その思いを新たにする。

「問題のヴァンパイアが、昼は大手を振って出歩いているとしたらどうでしょうかね?」

「ヤマサキ、あんた、気は確かか?」

 ジュンの揶揄を無視し、ヤマサキは騎士へとその視線を投げる。

「ミスターD、そのような例、六百年を数えるあなたの生では、聞いたことはありませんかな?」

「ヴェドゴニア……」

 騎士……Dは硬く表情を殺した顔で、小さく呟いた。

「確かに、その可能性はゼロではないな。姫に咬まれた後、失血死する前にハンターに保護され、手当を受けていたとすれば……有り得る話だ」

「ヴェドゴニア……ですって?」

 聞き慣れぬ言葉に、女史は首を捻る。科学者として自らの知識にない事柄に対し、悔しさと共に好奇心を覚える。

 悪い癖だとは自分でも思うが、止められない。

「中途半端に血を吸われた人間が一命を取り留めると、希にそういう現象が起こる。見た目は人間と変わらないのだが、生命を脅かすほどの出血に見舞われると、吸血鬼として覚醒するのだ」

「確かに、厄介な相手ではありますねえ」

 騎士の講釈を引き継いで、ヤマサキが話を締める。どうも喋り好きというのか、自分が話の中心にいないと気が済まない質らしい。

「そうなれば、其奴がハンターと共闘しているのにも説明がつく。もとの人間に戻らんと、血親である姫を狙う腹であろうよ」

「これは、調査の指針を改める必要がありますかな」

 騎士の言葉を受けて、またもヤマサキが話し出す。

「撫子学園に狙いを絞り、不審な人物を洗い出しましょう。いずれ必ず尻尾を出します」

(撫子学園を除外したのは、お前じゃないか)

 一人で話を進めるヤマサキを睨み付けながら、ジュンは内心毒づく。もっとも彼自身、自分が戦略家というものからはほど遠いことを知っているので、なにも口に出すことはなかったが。

「ドクター、各拠点の守りを固めてもらえますか? おそらく相手は、もう、こそこそ嗅ぎ回る程度では満足しないでしょうから」

「成る程ね……向こうにしてみれば、こちらに対抗するための、絶好の凶器を手に入れたってことになるでしょうし」

 返ってきたイネスの答えに、ヤマサキは満足そうに頷く。

「はい。すでにあちらは、二度に渡ってこちらの手勢を退けています。このままでは、増長するのは時間の問題ですな。とすれば、次は真正面から挑んでくるのではないかと」

「そこまで説明してもらわなくてもいいわ。そうね、相応の備えは、必要でしょうね」




[多摩市 日々平穏 PM2:35]

 ラピスたちに会いに行こうと決めた俺だったが、その前に寄るべきところがあることを思い出していた。

 俺のバイト先である食堂、『日々平穏』。

 ほんの半年前に出来たばかりの新しい店だが、その味と量、そして安さから、すでに人気の店としてその地位を確立している。

 店長のホウメイさんはまさに凄腕の料理人で、和洋中何でもござれときたもので、それを物語るように、メニューの豊富さは並の店では歯が立たない。

 そのどれもがまた絶品であり、これで人気が出ないわけがない。

 ホウメイさんも実に気さくな人で、また俺の両親ともどういう縁かは知らないが、見知った仲だという話だ。

 そんなわけで、料理が趣味と言っても過言ではない俺にとって、ここでのバイトはまさに願ったりかなったりだった。

 店舗は新築のアパートの一階になる。それを知って引っ越そうかとも一瞬思ったが、それにかかる費用がやはり馬鹿にならない。そんなに遠いというわけでもないので、今のアパートにそのまま住んでいるわけだ。

 ドアには準備中の札が下がっている。けれど、この時間ならホウメイさんは昼の片づけと夜の仕込みに忙しいはずだ。

 ドアを開け、俺は店内に入る。ドアに付けられたベルが、来客を告げる。

「悪いねー、札見えなかったかい? いま準備中なんだ」

 ベルの音を聞いて厨房の奥から姿を見せたホウメイさんだったが、俺を見てすぐに、

「なんだ、テンカワかい。どうした、今日はバイトじゃないだろ?」

 と、いつもの気さくな笑みを向けてくる。

「いえ、ちょっとお話があって……」

 俺の様子を見て、何かを悟ってくれたのか、ホウメイさんは手近なテーブルを視線で示す。それに従って、俺は椅子を引いて腰を掛ける。

 それから俺は、しばらくバイトに出られそうもない旨を告げた。ホウメイさんはしつこいくらいに理由を聞いてきたが、もちろん答えられるはずもない。

 それでもしきりに食い下がるホウメイさんだったけれど、俺がどうしても話さないと悟ると、あきらめたように両手を広げて、肩をすくめて見せた。

「まあ、いいさ。どうしてもって言うんだったら、しょうがない。辞めるって訳じゃぁ、ないんだろう?」

 俺はそれに、曖昧に頷くしかなかった。もちろん、辞めるつもりなんてない。またここで、ホウメイさんに料理を教えてもらいたい。

 だが、それが本当に可能なのか。

 それを思うと、気が重くなって仕方がなかった。

「すいません、今日はそのことを言いにきたんで……」

「そうか……テンカワが抜けるとなると、しばらくキツイかねえ……ああ、気にしないでもいいよ。一人でも何とかなるからさ」

 俺の顔色を見て、そう気遣ってくれるのが、いちばん、辛い。

「ところでテンカワ、もう昼飯は食べたのかい? まだだったら、何か作ってやるけど?」

「いえ、これからちょっと用事があって出かけなきゃならないんで」

「そうかい。じゃあテンカワ……頑張りなよ」

 笑顔でそう言ってくれたホウメイさんに、俺は本当に嬉しくて何度も頭を下げた。


「さて、と」

 アキトが店を出たのを確認して、ホウメイはポケットから携帯電話を取り出す。そして手早く番号を呼び出すと、何処へかとかける。

『もしもし?』

 電話に出た声は、若い男のものだった。少年か、青年か。だがそこには、年齢以上の深みといったものがある。

「……ああ、ツヴァイかい。例の話のことだけど、さっそく頼めるかい? いま、ちょうど店を出たところだからさ」




 暗い、洋館の中。

 その玄関ホールに二人は立っていた。

 一方は黒い服に身を包んだ男、もう一方は薄桃色の髪の、幼い容姿の少女。

「どうして彼に、あんなことをしたの?」

「……ゆうべの話か?」

 ナオの言葉に肯いてから、ラピスは視線で続きを促す。

「あいつにも言った通りさ。信用しきれなかったから、試した。それだけさ」

「ナオ……彼は犠牲者なのよ? それだけは忘れないで」

「そいつは、そうだ。だがな、綺麗事はひとまず置いておこう」

 手にしたライフルを傍らに置いて、ナオはゆっくりと立ち上がった。

「俺たちは、イノヴェルチの喉元に迫ってる。事がロードヴァンパイアに関われば、連中は本気だ。のっけからキメラヴァンプが二体なんて時点で、そいつは分かり切ってる」

「だからって、彼を……」

「あいつを助けるには、イノヴェルチの本拠地に乗り込まにゃならんだろう。そのときはキメラヴァンプだけじゃない、噂の『三銃士』だって出てくるだろう。俺たちだけじゃ、まず無理だ」

「……大丈夫だよ」

 ナオの言葉を遮って、ラピスが強く言い切った。

「私だって、連中とは互角に戦える。だって私は……」

「互角じゃだめなんだ、ラピス」

 今度は、ナオがラピスの言葉を遮る番だった。

「確実に勝って、無事に戻れる……そんな『狩り』じゃなきゃ、とてもお前を行かせられない」

「…………」

「さっきも言ったように、あいつを助けるにゃ、俺たちだけじゃ力不足だ。なら、手伝って貰うしかないさ」

 これで話は終わりだと言わんばかりに、ナオはライフルを手にとって、奥の部屋へと歩き出す。

「あんな風に、無理矢理変身していたら……彼の吸血鬼化は、輪をかけて進行するよ」

「遅かれ早かれ、同じ事だ」

 足を止め、首から上だけを巡らせてナオは言葉を続ける。

「そうなる前に、ロードヴァンパイアを狩る。そのために、一番確実な手を、俺は採ってるつもりだ」




 暮れなずむ国道に、俺は愛車のカタナを駆っていた。

 平日ならラッシュアワーにあたる時間帯だが、日曜とあって交通量は少ない。やがてそれも、16号から西に抜けた辺りでさらに減る。

 町田街道を大戸で外れ、さらに西へ。地図に示された通りに、カタナを走らせる。

 ずっと、背後についていた一台のバイクに、まったく気づかずに。


 彼は、ずっと目の前のバイクを追っていた。

 恋人から借りたドゥカッティだが、普段の足には車を使うことが多かっただけに、バイクは不慣れだった。

 だがそれも、こうして公道を普通のスピードで走る分には、申し分ない。付かず離れず、微妙な距離を持って彼は追跡を続けていた。

 本来尾行は、何人ものメンバーで交代して行われるものだ。そうすれば、追う側の人間は次々に変わるため、対象に気づかれ辛い。

 かつて様々な技術を叩き込まれたときに、そう教わっていた。

 しかし、いまは人手がない。

 だが相手は本当に素人だった。そう聞いていたのだから、当たり前ではあるのだが。

「……!……」

 その彼を追い抜く、真紅の影。

 彼の駆るドゥカッティ同様、真っ赤にカラーリングされたバイクに乗った、黒いコートに身を包んだそいつは、カーブの手前で彼の前に出ると、その行く手を塞ぐように蛇行を始める。

「くそっ!」

 慌ててブレーキをかけ、リアをスライドさせて停止する。

 顔を上げて前を見たときには、追っていた対象も、真っ赤なバイクの影も、カーブの先へと消えていた。すぐにドゥカッティを始動させ、後を追ったものの、もう追いつけないだろう。

「ちっ……」

 彼……かつてツヴァイと呼ばれた彼は、見事にしてやられたことに、舌打ちするしかなかった。


 地図に示された私道の入り口は、よほど注意していなければ気付かないほどに小さかった。もしこの地図がなかったら、きっと見落としていただろう。

 カタナをその私道に入れ、バイザーを上げて道の延びる先を見る。

「すっごい砂利道だな、こりゃ……」

 転ばないよう、十分に徐行しながら、その舗装のない林道を走る。曲がりくねっているために、どれだけ奥に踏み込んだのか、そしてどれだけの距離を走ったのか、感覚がおかしくなってくる。

 腕時計に視線を落とし、時刻を確認する。この林道に入ってから、かれこれ二十分あまり。もうそろそろ、何か見えてもいいと思うんだが……。

「うわ……」

 そう思った矢先、左右から覆い被さるような木々の梢が不意に消え、ヘッドライトが拓けた敷地を照らし出した。

 その先に浮かび上がるのは、古びた洋館。

 ここが、そうなのだろう。


[神奈川県 城山町 PM5:30]

 寂れ果てたその洋館は、いったいいつ頃に建てられたのか、そしていつから廃墟となっているのか、見当もつかない。

 誰かの別荘だろうか? しかしこんな妙なところに……。

 そう言えば、地図で確認したとき、近くに大きなダムがあったはずだ。その湖底には沈んだ村があるという。もしかすると、いま入ってきた道は文字通り裏道で、本当はそちらから入ってくるのが正しいのかもしれない。

 しかし、この寂れ具合といい、月明かりの中にシルエットで浮かび上がると、不気味としかいいようがない。

 用がなければ近寄りたくもない。

 だが、この中に入って連中に会わないことには、話が先に進まない。俺は意を決し、カタナを押しながら、形ばかりとなった門をくぐった。

 これで庭一面に弟切草でも咲いていれば、一昔前のゲームなりホラー映画なのだが。さすがにそんなことはなかった。

 それでも、玄関に向かう足取りは、足音をたてないように必要以上に慎重になる。

 見れば、一階の窓に漏れる光がある。ラピスとナオ……だろうか?

 もちろんここにいるとすれば彼らしかないのだが、本当にホラー映画の登場人物になったような気分だった俺は、嫌なことを考えてしまう。

 ドアを開けた途端、怪物が襲いかかってきたりとか。

 その怪物が、現実にいることを知っているだけに、冗談になっていない。もっとも、俺もそれに対抗できるだけの、化け物の仲間なんだが……。

 重々しいドアの前に立ち、ノブに手をかける。ドアは外見通りというか、随分と軋みを立てて、ゆっくりと開いた。

 ドアをくぐり、玄関ロビーに入ると、そこには案の定、ラピスとナオの二人がいた。

「やぁ、ラピス」

「……こんばんは」

 俺の声に、不器用ながらも微笑みを見せて、ラピスが答えてくれる。その目に哀れみのようなものを見て取ったのは、俺の思い違いだろうか。

「よぉ、こっちには挨拶なしかい?」

 ふざけた調子で片手を上げ、ナオが声をかけてくる。

 どうにもこの男の真意が読めない。いったい、何を考えているんだ?

「昨日は、ご苦労だったな」

「まずそれだ! あんな話、聞いてなかったぞ!」

 口を開いた途端、堰を切ったように不満が飛び出してくる。そう、協力するにしろ何にしろ、これだけははっきりしておかないとならない。

 そして、向こうの答え次第では、俺の返答もまた、変わる。

「そうね。ナオ、アキトの前で、ちゃんと説明してくれないかな?」

 いままで聞いた中でももっとも強い調子で、ラピスがナオに詰め寄る。どうやら昨日のことは、ナオの独断専行だったらしい。

 そしてそれに、ラピスは納得していない。

「オーケー。まぁあれだけのことをやらせといて、説明も何もなしってのは、俺としても悪いとは思うからな。ここで一つ、方針会議と行くか」

 飄々とした調子は崩さずに、ナオは階段に腰を掛ける。それを睨み付けたまま、俺はラピスとナオとで、正三角形を描くような位置に立つ。

「まずは、この狩りにあたってのテンカワアキト君の役目だ」

「ラピスの話では、夢で見たことをあんたたちに告げればいい。そうだったはずだ」

「ああそうだ。もちろんそれでも構わない。それで、間に合うと本気で思っているならな」

 間に合わない……そう言いたいのか?

「協力なんかしない、そう言うなら、それもまあ仕方がない。そのときには、こっちとしては、お前が人間じゃなくなった頃に出向いて、その心臓に杭を打ち込むだけの話だからな」

 ……だろうな。俺が吸血鬼になれば、こいつらの狩りの対象になる。ちょっと考えれば、わかることだ。

「ここでもう一つ、方法がある。こちらから怪しいと思うところに出向いて、虱潰しに当たっていく。候補が少なくなれば、それだけ当たりを引く確率も高くなるだろうしな」

 ナオの言っている、その理屈はわかった。筋も通っている。実際、夢見でロードヴァンパイアの場所を探ると言ったところで、それが出来るまでどれだけの日数がかかるかわかったもんじゃない。

 そもそも、彼女が自分の居場所を教えてくれる保証など、どこにもない。なにせこちらは、彼女を滅ぼそうとしているんだから。

「しかしそれには、俺とラピスだけじゃ無理だ。敵のガードが、堅すぎる。だがそこに、ヴェドゴニアであるお前が加われば、話は別だ」

 確かに……俺なら、あの化け物にも正面から対抗できる。それはすでに実証済みだ。

「どうだ? 当てになるかどうか判らん夢見に頼るより、よっぽど確実な方法だと思うがな」

 ……しかし、なんか、頭にくるな。理屈が通っているだけに、余計に。

「なぁ、ラピス」

 俺が声をかけても、ラピスは黙り込んだまま、硬い表情で床を睨んでいた。

 俺に隠していることがある。

 その様子が、それを雄弁に物語っている。

「正直に答えてくれ。君は、俺が見る夢に、どれくらい期待してたんだ?」

「……それしかない。そうは思っていた」

「間違いない、とは思ってなかったんだ?」

 ラピスは渋々顔を上げ、冷たい眼差しで真正面から俺を見る。そして、ゆっくりと、肯いた。

「いいよ、はっきりと言ってあげる。確実性は、まるでない。うまくいく可能性は低いよ。一縷の望みと言っていい」

 やっぱり、そうか。彼女もそう、判ってたのか。

「でもやっぱり、私は、あなた自身を戦わせるなんて、選択肢に入れたくない」

「……そっか。それが聞ければ、十分だよ」

 どこか吹っ切れたような声だったと、自分でも思う。

 いまのラピスの答えを聞いた瞬間、俺の腹は決まった。

「わかった。やるよ」

 もちろん、いざというときになれば、決意が鈍るかもしれない。でも、いま決めた覚悟は、嘘じゃないとはっきり言える。

「あんた達の化け物狩りに付き合う。上手くやれる自信なんて、ないけどな」

「よっしゃ。頼むぜ、相棒」

 立ち上がったナオが右手を差し出してくる。サングラスに隠れた瞳は見えないが、口元には笑みが浮かんでいる。

 その手を握り返しながら、俺は固い声で言い放つ。

「とりあえず、信用させてもらうぞ。だから……」

「判ってる。お前が人間に戻れるよう、尽力させてもらうさ」

 そして俺の肩を叩くと、ライフルを片手にホールを横切り、奥の部屋へと消えていった。

「ラピスも、よろしく」

「……」

 ラピスにも手を差し出したが、彼女はえもいわれぬ表情で俺を一瞥しただけで、くるりと背を向けて、ナオとは別の部屋へと消えていった。

 そしてそこには、差し出したまま手持ちぶさたな手で頭を掻きつつ、ひとまずこれからどうしたものかと、思案にくれる俺が残された。

「おう、まだ突っ立てたのか」

 ドアを開けたまま声をかけてきたのは、ナオだ。ライフルは持っていない。

「時は金なり……さっそく今夜から動き出す。その上で、いくつか説明がある。来いよ」

 促されるまま、俺はナオが立つドアをくぐった。

「うわ……」

 そこは、有り体な言い方をすれば、武器庫だった。ごく普通の日本人であれば、まず一生お目にかかれないような、人を殺すために作られた道具の数々。それが、俺の目の前に無造作に転がっている。

「ここにあるモンは、お前の好きに使っていい」

「これ……みんな、あんた達の?」

「戦利品さ。いままで俺とラピスで滅ぼしてきた、ヴァンパイアどもが使ってた代物だ。連中は、こういうものには目がないんだ。『狩りは紳士の嗜み』とでも思ってんのかね?」

「……悪趣味な奴ばっかりだな」

 ナオの話を半分聞き流しながら、並べられている武器を眺めていく。

 どれもこれも、実用性を通り越した凶暴な意匠が凝らされている。必要以上に植え付けられたスパイク、鋸歯のように加工された刀身……威力だけを求めていれば、こうはなっていないだろう。

 そう、これらは全て、ダメージを与えるだけではなく、どうやって苦痛を味あわせるか……そのために作られている。見ているだけで吐き気がしてきそうだ。

「ただ、集めたはいいんだがな。どれもこれも、人間向きには出来てないんだ、これがよ」

 ナオは机の上から、一振りの刃物を手に取った。ペルシァの刀剣のような、三日月型に湾曲した刃が、どういったわけか三枚平たく重ねてある。

 そう思った次の瞬間、仰々しい金属音とともに、それは形を変えた。三枚の刃がバネ仕掛けで弾け、プロペラのような形に展開する。

「こんなモン振り回してたら、自分の腕を切り落としちまう。吸血鬼なみの反射神経でもない限り、な」

 ようするに……俺にお誂え向きだと、そう言いたいわけだ。

 半ば呆れながら見回していると、見覚えのあるものが目に飛び込んできた。

「レイジングブル・マキシカスタム。前にも一度、持たせたな。使い心地はどうだった?」

「いや、これといって特に……」

 見た目こそ仰々しいが、撃ったときの感触は、それほどではなかった。昔持ってたエアガンと大差なかったな。

 そう答えながら何気なく手に取ろうとして……。

「!?」

 危うく足の上に落としそうになった。

 軽々と扱っていたはずの銃なのだが、まったく別物のように感じる。持つだけで一苦労だ。

「総重量で四キロってとこだな。片手じゃ照準するのも無理だな。撃てば反動で手首がヘシ折れること、間違いなし。立派な吸血鬼用のカスタムガンさ」

 両手で元にあった場所に戻しながら、俺は背中を冷や汗が流れるのを自覚していた。自由に使っていいったって、どれを選んだらいいかすらわからないぞ?

 武道の経験は、ある。何度も言うように、田舎の爺ちゃんに叩き込まれた。だがそれは空手や柔術の合いの子みたいなやつで、武器を扱った経験はない。

「俺には、無理だよ」

「いまは、そうだろうな。だが一度吸血鬼になれば、造作もないはずだ」

「まあ、一度その銃を使ってみせてることだしな。だが、使えると扱えるじゃ、まったく別物だぜ?」

 俺が言うと、ナオはもっともらしく頷いてみせる。

「確かにそうだ。だが、吸血鬼には解るんだよ。その凶器を、どうやって使えばいいかな。言ってみれば、その道具の声が聞こえるんだ」

 声が、聞こえる……。

 言われてみれば、あのときも俺は初めて手にした銃をどう使えばいいのか……自然と解ったような気がする。

「だが、知識だけは仕入れておけよ。直感だけじゃこなせない複雑な操作もある……とくに、銃器はな」

 それから俺は、ナオからひとしきり例のリボルバーの扱い方の説明を受けた。おかげで、どうすれば撃てるのか、弾丸を交換できるのか……普通の高校生には必要のない知識を、手に入れることが出来た。

 そのあともナオは次々と武器を取り出しては、俺にその使い方を実演してみせる。もっとも、あまりにその手際が良すぎて、見ただけではさっぱりだったりしたが。

「……ところで、一ついいか?」

「ん、なんだ?」

「俺のこと、ヴェドゴニアって言ってたよな。どういう意味だ?」

「ああ……気にすんなよ」

「気になるから、訊いてるんだよ」

 思わず語気を荒げる俺に、ナオはどうしたものかと天井を見上げる。

「……東欧の民話でな、死後に自分もヴァンパイアになる、吸血鬼と互角に渡り合うハンターに成長するっていう忌み子のことだ。転じて、吸血鬼になりかけのハンターを意味するスラングになったのさ」

 吸血鬼になりかけ……確かに、その通りなんだろうが……いい気分がしないのは、確かだ。

「さてと、俺もそろそろ自分の準備をせにゃならん。表に車を廻しておく。気に入った武器に目星をつけて、持ってきな」

 そのまま部屋を出ていこうとドアに手をかけたところで、ナオは振り返った。

「着替えも、忘れるんじゃないぞ」

「着替え……か」

 一人残され、俺は溜め息をつく。だがもう決めたからには、やるしかない。

 見れば、部屋の片隅に昨日のレザースーツが置かれている。濯ぐぐらいのことはしてくれたんだろうが、返り血の匂いが、まだ生々しく残っている。

 顔をしかめながら、その革の拘束衣に袖を通す。相変わらず着心地は最悪だ。だが、いまの俺にはどう見てもぶかぶかだ。つまり、それだけ俺の身体が変貌するというわけか。

 しかし、武器を選べと言われてもなぁ。

 さっきの説明では、はっきり言って半分も頭に入っていない。とはいえ、丸腰ってわけにもいかないだろう。

 ひとしきり眺めた後で、俺はナイフとリボルバー、それにグリップの部分に斧の刃が取り付けられた、一際物騒なショットガンを持っていくことにした。


「……あ」

 ホールに戻ったところで、ラピスと出くわした。彼女も例の長柩を抱えている。前から思っていたことだけれど、よく真っ直ぐ歩けるもんだと感心する。

 そっか……今夜は、彼女も一緒なのか。

「準備は……いいみたいだね」

「ああ」

 あえて調子よく返事を返す。だがラピスの不機嫌そうな表情は、一向に晴れない。

「やっぱり、迷惑かな」

「ううん。考えてみれば、あなたにだって戦う権利はあるよね。それに、ナオの言うとおり、私たちだけじゃ厳しいのも確かだし」

 口振りからして、本当は俺の同行を認めたくはないんだろう。だが、現実がそれを許さない。そして自分の意地で、それを見失うほどに愚かではないといったところか。

「でもさ、それって買い被りだよ。たまたま今までは上手くいっただけで……」

 だが俺のその言葉を、頭を振ってラピスは否定した。

「あなたは最強だよ。それは間違いない。この先どんな化け物がでてきても、たぶんアキト、あなたには敵わない」

 なんだよそれ。それこそ買い被りだ。

「信じられないって顔だね。でも、それがロードヴァンパイアの血を受けた者の運命なの」

 また出た。実のところ、そのロードヴァンパイアってのはどんなヤツなんだろうか。

 俺が知っているのは、その外見だけ。だが、見た感じとてもそんな恐ろしい化け物だとは、到底思えない。

 むしろ、守らなければならない、そんな対象にさえ思えてしまう。

 ……もちろんそんな感情、今の俺には邪魔なだけ、なんだろうけどな。

「吸血鬼化する犠牲者は、つねに加害者の能力を継承する。つまり、最強たるロードヴァンパイアの牙を受けたあなたは……もっとも危険な吸血鬼になりかねないの」

「……褒め言葉じゃ、ないよね、それ」

「だから、お願い。本当の敵はあなた自身。アキト、己の闇に、呑み込まれちゃだめだよ」

 己の……闇。

 なんだろう、一瞬、何か漠然としたイメージが浮かんだが、はっきりとした形になる前に、霞んで消えてしまった。

 気がつくとラピスは先に行ってしまっている。外からはハマーのアイドリング音が低く聞こえてくる。ナオの準備も済んだようだ。

 ……行くか。

 狂宴の、真っ直中に。




[埼玉県 三芳町 AM2:40]

 周囲を田畑に囲まれた空虚な土地。片田舎と呼ばれるところなら、いくらでもありそうな風景。その中にぽつりと取り残されたように、殺風景な建物が建っている。

「まず最初のターゲットが、あそこだ」

 路肩に停めたハマーの車内から、ナオがその建物を指さす。

 見たところ、何の変哲もない倉庫だが、いったい何があると言うんだろう。

「あそこに、ロードヴァンパイアが?」

「宝箱の中身は、開けてみなけりゃ判らないってのが相場だろ?」

 言いながら、ナオはライフルを手に車を降りる。その後を追うように、俺とラピスも降車する。

「とりあえずはルートの確保だ。準備を頼むぜ」

「わかったわ」

 ナオはその体格には似合わない俊敏な動きで、闇の中に溶けるように消えていった。

 しかしなぁ……どっからどう見ても、化け物が隠れ潜んでいるようには見えないんだけれども。近所に民家がないとはいえ、国道から畑一つ隔てただけの、それこそどこにでもありそうな倉庫だ。

 だいたい、明かりが灯っている。つまりは、どこかの会社の所有物で、ちゃんと使われてるってことだ。

「あそこ、人がいるんじゃないの?」

「そりゃそうよ。警備は厳重になってるだろうね。あちらさんもそろそろ警戒し始めなきゃ、嘘だもの」

 あまりにも呆気なく、答えが返ってきた。さも当然と言わんばかりに。

 あちらさんって……そういえば、そうだ。昨夜ナオの罠に中に踏み込んできたのは、怪物だけじゃなかった。数人の連れ添いがいたはずだ。

「俺が戦う相手は吸血鬼じゃなかったのか? 人間と殺し合うなんて……そんな」

「もちろん、アキトが相手するのは吸血鬼だけでいいよ。あとは、私たちが引き受ける」

「あとはって……人間もか?」

「吸血鬼に組するなら、ね」

 ラピスは唖然とする俺に向き直ると、例の冷たい視線で真正面から射抜いてくる。

「敵は、そういう組織なんだ。闇の眷属の秘密を求めて、悪魔に魂を売ったのよ」

「なんだって……?」

「吸血鬼の存在を知った人間が、みんな狩る側に立つわけじゃない。その不老不死の命に憧れる者だっている」

 なんだか、話がますます漫画かアニメじみてきた。

「キャマリラの兵隊に出くわしたんだってね? 奴らも、そんな連中の集まり。私たちは、そんな悪魔の犬とも戦っているの」

 なんてこった。ようやく覚悟を決めてやってくれば、相手には人間もいるってのか。片棒を担ぐと思うだけでも、気が退ける。

「吸血鬼ってさ、他の吸血鬼に咬まれた人間がなるんだろ? つまり、あいつらも昔は人間だった……んだよな」

 俺が怖じ気づいたと思ったのか、実際間違いとは言い切れないんだが、ラピスは俺をじろりと一瞥する。

「なら、人間の定義って何? 指の本数? 目の個数?」

「……」

「吸血鬼は死体なの。歩く死体。人として尊ぶべき要素はすべて抜け落ちて、邪悪な部分だけが残っている。欲望と嗜虐、狡猾さの塊みたいな連中なの」

 そこまで言うと、ラピスは顔を上げて、さらに強い口調で言い放った。

「そんな生き物を、人間と呼べるの?」

 俺は何も言い返せなかった。いや、何も考えられなかったと言うべきだろう。

「いま迷うのは構わない。当然のことだと思うしね。でも、奴らと相対したなら、慈悲も哀れみもかけちゃいけない。いずれ解るよ……奴らのやることを、目の当たりにすれば」

 そこまで語り終えたところで、ラピスの視線が、ぴくりと宙に浮いた。

 どうやら、耳にはめた通信機に聞き入っているようだ。ナオからの通信だろうか。

「……私たちも、行くよ」

 言葉とともに差し出されたのは、昨日ナオに填められた、あのクロームの猿轡だった。

 それを受け取りはしたものの、どうにも付ける気になれない俺を見て、ラピスは溜め息をつく。

「いいわ。行きましょ」




「お姉ちゃん……」

「大丈夫……大丈夫よ、メティ」

 ミリア・テアは、不安のあまりに自分の袖を引くメティスを抱きしめながら、その不安を癒すように囁いた。

 難民キャンプに従軍医師として派遣されていた彼女だったが、ある日突然、そのキャンプが謎の集団に襲われた。

 何者なのか、まったく判らない。

 ただ彼らは、難民たちをトラックに乗せると、見知らぬ土地へと運び去った。

 船にも乗せられた、飛行機にも乗せられた。最後に辿り着いたのは、この遠い島国。

 外に出られたわけじゃない。だが、自分たちを監視する警備員たちの話す言葉に、覚えがあっただけだ。

「日本……」

 学生時代、留学していた経験を持つミリアには、日本語は比較的馴染みのある言葉だった。同僚には日本人もいたため、彼らと偶に日本語で会話することもあった。

 しかし、自分たちをこんなところまで連れてきて、いったいどうしようというのか。

 改めて、周囲を見渡す。

 打ちっ放しのコンクリートの室内に、彼女たちを始め十人あまりの人間が座り込んでいる。人種は様々だが、その境遇は皆、似たようなものだ。

「安心して。お姉ちゃんが一緒だから、ね?」

「うん……ミリアお姉ちゃん」

 ミリアとメティスは、本当には血は繋がっていない。それどころか、この部屋に連れてこられて、初めて顔を合わせたのだ。

 だが、それがどれほど問題になるだろう?

 このような状況で、怯えている幼子を、必死に慰めようとする彼女の思いに、嘘偽りなどない。

 ミリアはメティスの頭を優しく抱き寄せながら、天井へと視線を向ける。そこにはさっきから、彼女たち室内の人間を冷たく見下ろす監視カメラ。

 その向こうで、この光景を眺めているのは、いったいどんな奴なのか?

 そのとき、重々しい音とともに扉が開いた。全員の視線が、一斉にそこに凝視される。

 姿を見せたのは、ここに連れてこられたときにも見た、白衣の男だった。

「そこの二人、出ろ」

 白衣の男に呼ばれ、ミリアとメティスが外に連れ出される。部屋から出た二人の後ろで、再び無情にも閉められる鋼鉄の扉。

 残された人々に思いが巡る間もなく、二人は白衣の男と、その護衛らしき男たちに歩かされる。

「お姉ちゃん……」

 心細いのだろう、メティスの手が、ギュッとミリアの手を握る。ミリアもまた、そのメティスの手を握り返す。

 どれだけ歩いただろうか、二人はまた別の鋼鉄の扉の前に連れてこられた。

「入れ」

 ただそれだけを言うと、白衣の男は踵を返して去っていく。その背に問いつめようとしたミリアだったが、護衛の男たちがそれを押しとどめ、二人を無理矢理部屋の中へと押し込んでしまう。

 ゆっくりと閉じられる扉。それが自らの運命を暗示しているようで、ミリアは無意識のうちに身体を震わせる。

 部屋の作りは、さっきまでいた部屋と大差なかった。ただ、こちらの方がずっと狭い。

 その部屋の中に、異常な巨躯の男が二人、全身を黒いコートで包み込んで、椅子に座っている。

 その表情は襟元に隠されて、はっきりとは窺えない。だが、その舐るような視線は、ミリアに嫌悪感を与えるには十分だった。




 倉庫に近づいてみると、入り口のドアが薄く開き、中の淡い照明が洩れている。傍らではナオが、誰かを抱え込んで物陰へと移動している。あれがたぶん、見張りだったんだろう。

 その四肢からぐったり力が抜け、ただ引きずられていく姿は……死体のようにも思えた。それ以上、努めて考えないようにする。

 気絶してるだけ、なんだよ。きっと。

「俺は一階を当たる。ラピスはアキトと一緒に地下を」

「わかった。アキト、行くよ」

「ああ」

 答えて、ナオの横をすり抜けて、中へと入る。

 最後に中に入ろうとしたナオだったが、背後に視線を感じ、ライフルを構えて振り返る。

「気の……せいか?」

 しばらく様子を窺っていたが、どこにもおかしな様子はない。首を軽く傾げつつ、ナオは倉庫の中へと入っていった。


 コンクリートむき出しの、ひんやりと冷気が漂う地下。足下を照らす照明は淡く、頼りない。

 確かに、何か後ろ暗いことがあるなら、それを隠すのはこういったところにだろう。

「こっち」

 ラピスに促され、足音を忍ばせて階段を降りる。

 降りてみると、何処か上とは雰囲気が違う。何が……そう考えて、あることに気がついた。地下にある扉は、どれもやたらと頑丈なのだ。こんな倉庫にあるのが不自然な、そう、どこかの研究所を思わせるような。

 ってことは、もしかして、ビンゴ?

 もしそうなら、あらかじめ準備をしておくべきだろうか……つまり、一度『死んでおく』か?

 だが、踏ん切りがつかない。当たり前だ、自分で自分の首をかっ切るなんて、自殺の練習をするようなものだ。あっさりと出来てたまるか。

 だがそんな俺にはお構いなしに、ラピスはどんどん先に進んでいく。おそらく、俺の出番を作るつもりはないんだろう。

 それはそれで有り難いんだが、やはり、あんな小さな女の子に任せきりというのも、気が退ける。

 けれど、やはり俺は煮え切らない。覚悟は決めた、その筈だったのに……。

「私は向こうを見て回るわ。アキトはそっちをお願い。くれぐれも、出過ぎた行動はしないようにね」

「……わかった」

 分岐路に差し掛かり、ラピスと分かれる。

 彼女の小さな姿が見えなくなった途端、急激に心細さが襲ってくる。

「しっかりしろ、テンカワアキト…」

 軽く頬を叩いて、気合いを入れる。

 それが功を奏したのか、俺の嗅覚を、嗅ぎ慣れない匂いが刺激する。

「これは……死臭?」

 慌てて、匂いを辿っていく。

 何処だ……何処からだ!

 やがて辿り着いたのは、重々しい鋼鉄の扉の前だった。船の甲板に出るときのような、レバー式のいかつい奴だ。

「ここか……!」

 匂いの元がここに間違いないことを確認して、レバーを引く。しばらく悪戦苦闘していると、やがてゆっくりとドアが開き始めた。

「……うぅっ!?」

 そこに広がっていた光景は、俺の想像をあっさりと超えていた。十人以上はいるだろうか、それだけの人たちが、折り重なるようにして倒れている。

 そのどの瞳にも、光はない……死んでいる。

「こんな……こんな……」

「まったく、ひどい有様だな」

 いつの間に!?

 背後から聞こえてきた声に、俺はその場から跳びすさると、構えを取る。そこにいたのは、昨日も見た黒いコートの影だった。

「真紅の羅刹……!?」

 なぜ奴がここにいる?

 まさか、俺を狙って!?

「そういきり立つな。俺もこんなところでやり合うつもりはない」

 俺の気を静めるように、ことさらゆっくりとした口調でそう言うと、奴は一人の小さな女の子の遺体の側に屈み込み、その顔を隠しているフードを降ろした。

「どうやらここは、吸血鬼の餌場だったようだな」

 だが俺は、フードの下から現れた奴の素顔に、面食らっていた。

 軽く束ね、ポニーテールにした腰までの紅い長髪。おそらくこれが、二つ名の由来なのだろう。

 もちろん俺が面食らったのは、それではない。面食らったのは……。

「女……なのか?」

「生物学上は、な。俺自身、そんなことを考えたことはないが」

 そう、フードの下から現れたのは、目を見張るような美女……いや、美少女の顔だった。聞いていた話から、勝手に厳つい男を想像していただけに、そのギャップが激しい。

「ここを隠れ家に使っている連中……『イノヴェルチ』は、世界中から難民を集め、選別している」

 女の子の、開いたままだった瞼をそっと閉じてやると、真紅の羅刹と呼ばれるその少女は、立ち上がって俺に語りかけてくる。

「難民を……? 何のために」

「実験材料さ。より強力な、生物兵器……キメラヴァンプを作るためにな。そして不適合だった者は、こうして奴らの餌になる」

 本当……なのか?

 本当の話なのか?

「唯一救いがあるとすれば、ミイラ化して吸血鬼として甦ることがないってことだな。世界中、至る所で同じことが起こっている」

 何……だと?

 いつしか俺は思いきり拳を握りしめていた。

 ようやく、ラピスが言っていた意味が理解できた。

 こんなこと……人間に出来ることじゃない!

 ついさっき、俺はラピスに疑問をぶつけていた。

 吸血鬼も、元は犠牲者……もともとは、同じ人間……。

 だが、こんな光景を目の前にして、そんなことを言えるほど俺は、無抵抗主義な人間じゃない。怒りのあまり、握りしめた拳が細かく震えている。

「おい」

 自分でも、こんな声が出せるとは思わなかった。それほどに冷たい声で、俺は目の前の少女に向かって言い放つ。

「お前も、そんな連中の仲間なのか?」

「違う。俺は……」

「何が違うんだ!?」

 そう。話じゃ真紅の羅刹……こいつも、吸血鬼に組する組織の人間だ。ならば、当然……。

「落ち着け。俺は、お前の力を貸してほしいだけだ。そんな連中を、滅ぼすために!」

「俺の、力を?」

 話がおかしな流れになってきた。

 吸血鬼側の人間の筈のこいつが、俺に力を貸してほしい? それも、吸血鬼に組する奴らを、滅ぼすために?

「信じがたいのは解る。だが……」

 言いかけて、止まった。少女の表情が、一瞬にして引き締まる。そして、俺にもその原因は分かった。

「聞こえたか?」

「ああ。向こうの方角だ!」

 弾かれたように、俺たちは走り出した。

 聞こえてきたのは、何者かの悲鳴。

 誰なのかは判らない。だが、それがためらう理由になどならない。

 なるはずがない!


 ナオは早々と一階の捜索を終えていた。

 このような建物の、一階に何かあるとはもともと思ってはいなかった。本命は地下だろう。それでも万一のために探っては見たが、案の定と言ったところだ。

 ライフルを構え、地下への階段を下りていく。すでにラピスとアキトが向かっているが、こういった地下施設というものは、その規模を想像しにくい。

 捜索が何処まで進んでいるのか、とりあえず合流を果たさなければ……。

「……足音?」

 忍ばせるといった言葉とはまったく無縁な、甲高く響く足音。警備兵かとも思ったが、それならもっと騒がしいはずだ。

「アキトの馬鹿か?」

 あの素人が。

 戦力としてはともかく、こういった潜入にはやはり向いていないか。

 だが、放って置くというわけにもいかず、ナオはその漆黒のコートを翻して走り出した。


 走る。ただ、ひたすらに。

「向こうだ!」

 分岐を行き過ぎようとした俺を、少女の声が呼び止める。立ち止まって耳を澄ますと、確かに声はそちらから聞こえてくる。

 構造上、反響のために声の元は突き止めづらい筈だった。だがいまの俺の聴覚は、はっきりとその場所を特定できる。

 しかし、その俺と同等、もしかするとそれ以上の感覚を持つこの少女はいったい何者なんだ? 人並みはずれて優れた、なんてレベルは遙かに超えている筈なのに。

「いくぞ!」

 ともかくいまは、悲鳴の元に急がなければ。

 再び走り出した俺たちは、やがて一つの扉の前に辿り着いた。そして、その前でナオと合流を果たす。

「おい、アキト! もっと慎重に行動を……!?」

 後ろにいる、真紅の羅刹の姿に気付いたのだろう、ナオが目を白黒させている。だがそれもほんの僅かの間であり、すぐに手にしたライフルを突きつける。

 だが、そのナオの前に俺はその前に立ちはだかる。

「アキト!!」

「話は後で! この中で悲鳴がするんだ!」

「何!?」

 やりとりの間にも、助けを求める……そう、女性の声が聞こえてくる。一時も迷うことなく、俺はそのドアを蹴り開けた。

 飛び込んだ俺たちの前に広がっていた光景は、目を覆いたくなるようなものだった。

 烏賊なのか、蛸なのか。判別がつかない軟体質の怪物が、その触手のような手足で、小さな女の子を縛り上げている。

 すでに女の子はぐったりとしていて、力無くうなだれていた。その首筋には、見紛うことのない咬み痕。

 もう一体、蛭だろうか、同じく滑りを持った皮膚の怪物が、女性を組み敷いている。

「メティ! メティ!」

 その女性は俯せに押さえつけられているにも関わらず、女の子の名前だろう、ただひたすらに叫び続けていた。

 しかし、その声が女の子に届いているとは思えない。

 それでもなお、そうせずにはいられないのだろう。女性は必死に女の子に向けて手を伸ばそうとするが、その手は怪物に押さえ付けられ、一センチとして動くことはない。

 そして蛭の化け物の口が大きく開かれ、鋭くのびた犬歯が彼女の白い首筋に向かって……。

 ズドン!

 いきなりの轟音が、部屋中に轟いた。

 胸板に大穴が空き、蛭男は強烈な勢いで壁に叩き付けられる。

「ふざけんじゃねぇ……このクソ野郎どもが!!」

 ナオのライフルだった。続けて放たれた徹甲弾が、その狙いを過たずに化け物を撃ち抜いていく。

「グァ?」

 そこで初めて俺たちの存在に気付いたように、もう一体がこちらを向いた。

 爛々と輝くその瞳が、侵入者である俺たちを睨み付ける。

 過去に何度も、俺を恐怖に凍り付かせた、吸血鬼の眼差し。

 だがいま、俺はいつになく平静に、静かな怒りを持ってそれを受け止めていた。

 こいつらを許せるか? ……許せるはずがない!

 なら……どうする?

 抱えていた猿轡を、口に填める。そしてベルトから抜き放ったナイフを、俺は首筋に押しあてた。

 硬く冷たい、死の感触。

 人間であることを捨て、死の淵を超えて別の化け物へと変貌させる、その輝き。

 けれど、これが今の俺に出来る、ただ一つのこと。

 鋭い痛みとともに、首筋から血が吹き出す。その圧力に、さらに傷が裂け広がっていく。

 ……痛かったろう、苦しかったろう。連中の手にかかった人たちの痛みは、こんなものじゃなかったはずだろう。

 その万分の一かもしれない。だがこの痛みは、奴らに殺された人たちの、その無念だと思うことにした。

 そしてその無念が、俺に戦う力を与えてくれると、今は信じよう。

 彼らの代わりに、奴らを滅ぼすために!!


 レザースーツが全身を締め上げる。骨が、筋肉が、人間以外のものに再構築されていく。

 抜けていく暖かさの代わりに、漲っていく力。この力の限りを持って、俺は奴をぶちのめす。

 首の傷が、塞がっていく。ナイフを握る手に、力が込められる。

 ここにきて、どうやら奴も俺が何者か気付いたようだった。威嚇するように触手を広げ、奇声を上げてのしかかってくる。

 一気に膨張した軟体が、俺の視界を埋め尽くす。このまま体重で押しつぶす気なのだろうが、俺にはそれから逃げる気もなかったし、その必要もなかった。

 襲いかかってくる触手の塊を、俺は真っ向から受け止める。そのまま滑らぬよう奴の体表に爪を立て、素早く真下に潜り込む。そして下肢の力だけで一気に担ぎ上げると、そのまま部屋の外へと投げ飛ばした。

 ビチャッと湿った音を立てて、廊下の床に張り付く怪物。あの軟体から考えて、投げ技では大したダメージは与えられないだろう。

 左手にナイフを持ち替えると、肩に担いでいたショットガンを少女に向かって投げる。少女がそれを受け止め、構えたのを見ると、俺は廊下へと飛び出していった。


 アキトが投げよこしたショットガンを構えると、真紅の羅刹は女性と蛭男との間に立った。

 ナオの撃ち込んだ弾丸は確実に奴を貫いていたが、キメラヴァンプの驚異的な再生能力を考えれば、すぐに動き始めるだろう。

「ふん、斧にもなるのか……物騒な獲物だな」

 呟きとは裏腹に、その顔は綻んでいた。

「さあ……こい、化け物が!」

 銃身を持ち、大きく振りかぶって蛭男へと向かっていく。ようやく再生を終えた蛭男が、その腕を少女に向かって大きく伸ばす。

 半身ずらしてそれをやり過ごし、戻る前に斧を叩き付ける。

「キシャァァァァッ!」

 先の無くなった腕から吹き出す体液が、床や壁を汚していく。千切れ飛んだ腕が、ビチビチと別の生き物のように跳ね回る。

 それをブーツの硬い靴底で踏みつぶし、ナオがサングラス越しに鋭い視線を蛭男に向ける。

「俺にもやらせろや……久しぶりに、腸が煮えくり返る思いなんだよ……」

 宣言と同時に、構えたライフルが火を噴く。部屋中に響きわたる轟音。撃ち出された鉛玉が、次々に怪物の四肢を打ち抜いていく。

 だが軟体質の肉体には、それでも大きなダメージとはならないらしい。銃弾の雨の中を、蛭男はしっかりとした足取りでナオに向かっていく。

 マガジンが空になり、凶暴な嵐が止む。勝機と見たか、蛭男はその目を醜く歪ませて、奇声とともに突進する。

「甘いわ!」

 その突進に合わせるように、横薙ぎに振るわれる斧。少女の一撃は、怪物の肉体を両断するとまではいかなかったが、それでも大きく跳ね飛ばし、その巨躯を再び壁に叩き付ける。

 マガジンの交換を終えたナオが、ニヤリと少女に笑みを向ける。少女は面白くなさそうに鼻を鳴らし、だがそれでもちらりとナオを一瞥すると、その足を怪物へと向けた。


 狭い廊下の中では、奴の巨体はかえって邪魔になるようだった。いくら肉体が柔らかいとはいえ、もともとの大きさが大きさだ。こちらの動きに完全についてこれていない。

 だがこちらの一撃も、大した効果を上げていないのが本当のところだった。

 ナイフで腕を切り裂いても、リボルバーをその身体に撃ち込んでも、その柔軟な身体がダメージを吸収してしまう。そしてそんな小さなダメージは、吸血鬼特有の再生能力ですぐに回復してしまう。

 どうやら奴もこちらが攻め倦ねていることに気付いたようで、より大胆に向かってくるようになってきた。

 高々と触手を振り上げ、そのまま廊下の幅いっぱいに広げて振り下ろす。単純だが、効果的な攻撃だ。こちらとしては後ろに下がって距離を取るしかない。

 距離を取ったところで、リボルバーの速射。五発の弾丸が、一瞬のうちにクロームの塊から撃ち出される。

 しかしその鉛の矢も、大きく広げた触手に受け止められてしまう。

(チッ!)

 舌打ちしながら、スピードローダーですぐに弾丸を補充する。これだけ繰り返せば、もう弾倉交換の練習は要らないだろう。

 しかし、ショットガンを置いていったのは間違いだったろうか。あっちの方が、遠距離でも近距離でも明らかに威力が上だ。

 とりあえず、あの触手を根本から断ち切るぐらいのことは出来たかもしれない。

 待てよ?

 俺の脳裏に、閃くものがあった。

 ようはあの触手が、使えなくなればいいんだ。切り落とさなくとも、動かせなくなればそれで事は済むはず……。

 よし。

 俺は決断する。

 このままではいずれこちらが追い込まれる。ならばやってみる価値はある。

 ナイフを左手に、銃剣を振り出したレイジングブルを右手に構え、俺は突進する。

(ウォォォォッ!!)

 雄叫びを上げつつ、レイジングブルを乱射する。それは触手に簡単に受け止められるが、それは予想通りだ。俺の突進の、出足が止められなければいい。

 レイジングブルはあっという間に全弾を撃ち尽くし、虚しい金属音を奏でるだけになる。それでも俺は突進を止めず、真正面から突っ込んでいく。

「グォォォオォォゥッ!」

 俺の突進を無謀な特攻と見て取ったのか、化け物の口が不気味に歪むのが見える。そのまま奴は両腕を高々と掲げ、そして俺を叩き潰そうと振り下ろす。

 ここだ!

 すかさず飛び込むと両手を空にし、触手が分かれ始める部分、根本をそれぞれ鷲掴みにする。

「グォッ!?」

 化け物の慌てた様子が、はっきりと見て取れる。両腕に力を込め、その容赦ない握力で握り潰す。

「ブギュウオォォッ!!」

 激痛に身をのたうたせる化け物。だが俺は掴んだ両腕を離すことはない。潰れた箇所に、さらに爪を突き立てる。これだけやれば、すぐには再生しないだろう。

 そして俺は、力任せに化け物の両腕を左右の壁目掛けて投げつけた。

 湿った音と共に、壁に打ち付けられる触手。すかさず俺は左手でナイフを拾うと共に、その触手に向けて投げつける。

 コンクリートの壁に、触手を巻き込んで突き刺さるナイフ。そして右手で拾い上げたレイジングブルの銃剣で、もう片方の触手も壁に縫いつける。

「シギャァァァァァ!?」

 これで使えないだけじゃない、奴は身動きもできなくなった。

 止めを刺すなら、今しかない!


「まだくたばらねえか!」

 蛭男に向けて乱射されるナオのライフル。すでにいくつのマガジンを使っただろうか、残りは少ない。それでもまだ、怪物に止めを刺すには至っていない。

「ハアッ!」

 ライフルの間隙をついて繰り出した、少女の後ろ回し蹴りが空を切る。壁を砕き、その中を露にするほどの威力を持った一撃だったが、当たらなければダメージは与えられない。

 冷たい冷笑を浮かべ、怪物は硬く硬化させた腕を振るう。怪物の自在に硬度を変化させられる肉体は、攻撃を吸収するだけではなく、鋼の硬さを持つ武器ともなる

 身を反らしてそれをかわした筈の少女の頬に、薄く紅い線が引かれる。続けて振るわれた一撃を、斧の刃で受け止める。

 ジリジリと体重をかけてくる怪物の、脚を払ってベクトルの向きを変える。怪物が体勢を立て直したときには、すでに少女は身体を旋回させて斧を叩き付けようとしていた。

「グォッ!?」

 それでも怪物にとっては、距離があったのが幸いした。その身体の柔らかさを生かし、あり得ないところまで身体を曲げて刃をやり過ごす。遠心力を味方に付けた刃は、それが災いしてか、壁に深々と突き刺さる。

「シネ!」

 少女に向けて、その巨体を踊らせる怪物。だが突然噴き出してきた気体に、その動きは止まることになる。

「コ、コレハ……!?」

 見る見るうちに、全身が凍り付いていく。状況が飲み込めない怪物の目の前で、気体が噴き出し続ける壁から、少女は斧を引き抜いた。

「ここの構造は調査済みだったんでな。液体窒素のパイプが巡らされていることは知っていた。あとは実際にそれがどこにあるかを確かめれば良かったんだが……上手くいったようだな」

「マ、マサカ、ハジメカラコレヲ……?」

 その怪物の問いには答えず、代わりに少女は冷笑を浴びせる。

「今だ!」

「おう!」

 動かない標的に当てることなど、ナオには造作もないことだった。マズルフラッシュの閃光が、部屋の中を照らし出す。撃ち出された弾丸は、確実に怪物の心臓を貫いていた。

「アグォァァァァァッ!?」

「……灰は灰に、塵は塵に……地獄にいきな、クソ野郎が」

 断末魔の絶叫と共に、青白い炎を上げて灰になる怪物。その亡骸に、ナオは唾を吐きかける。

「さて……こいつを持っていってくれや」

「……これは?」

 ナオから投げ渡された小さな鍵を指先にぶら下げながら、少女は怪訝な顔を見せた。

「猿轡の鍵だ。向こうも決着、着いているだろうからな」

「……判った」


 化け物の目前まで一足飛びに踏み込み、右の前蹴りを、人間でいえば水月の辺りに叩き込む。身を屈めた化け物の肩に左足で飛び乗り、さらにそれを踏み台にして右の膝を顔面に叩き込む!

 鈍い感触が膝に伝わってくる。身動きできないところへの一撃は、確実にダメージを与えたようだった。

 後方に宙返りして着地すると、すかさず腰を落として右腕を大きく後ろに引く。

 作るのは拳ではない。指をそろえて伸ばすと、いまだに悶える奴の喉元目掛け、一気にそれを突き出した。

 伝わってきたのは、想像していたよりもずっと柔らかい感触だった。俺の繰り出した貫手は、化け物の喉に突き刺さり、さらには後頭部を突き破って飛び出していた。

 腹を蹴り付け、その反動を利して腕を引き抜く。まとわりつく、滑った感触が、俺の感情を高ぶらせる。

 もう動かない怪物の、弛緩した胴を滅多矢鱈に打ち付ける。さっきまでのが訓練された武術の動きなら、いまのこれは本能の赴くまま、ただひたすらに欲望を満たそうという、獣の動きだった……。

「もういい! アキト!!」

 俺の襟首を誰かが掴み、押さえ付ける。首の後ろで金属音がしていたかと思うと、俺の口元を覆っていたクロームの指が剥がれ、俺の顎は自由になる。

「ガァァァァッ!!」

 顎の開放感に俺は形振り構わぬ雄叫びを上げ、そして鋭く伸びた牙を怪物の喉笛に深々と突き立てる。

 喉を潰された怪物は、絶叫を上げることさえ出来ないようだった。ただ身体を硬直させて、俺を振り払おうともがき暴れる。

 それを無理矢理押さえ付けながら、俺はごくりと喉を鳴らして熱い血潮を貪り飲む。

 喉元を過ぎていく、粘り気のある液体。それが身体中に回るにつれて、猛り狂っていた炎が徐々に治まっていく。

 不意に襲ってくる、脱力感。それに抗うことなく、俺はその場に大の字になる。

 コンクリートの冷たい感触が、ごわつく革越しに伝わってくる。

「灰は灰に……塵は、塵に」

 そう唱えたのは誰だったのか。それを確かめる気力もないままに、大きな爆発音が鼓膜を揺らす。次いで漂ってきた火薬の匂いに、どうにか上半身を上げると、ショットガンを手に立ちつくす赤毛の少女の背中と、青白い炎に包まれる怪物の姿があった。


 アキトのものだろう雄叫びと、しばらくして聞こえてきた銃声に、ナオは決着がついたことを察していた。

「おい、大丈夫か?」

 うつ伏せに倒れている女性の元に駆け寄る。キメラヴァンプにはやられていないようだったが、きちんと調べないことには安心できない。

 そして助け起こしてみて気がついた……さっきは余裕がなかったのでそこまで見ていなかったが、間違いなく美人と言っていい。

 栗色の長髪に、暗い藍色の瞳……ナオは、わけもなく緊張してる自分に気がついて、内心で焦る。

「お、おい? 大丈夫か?」

 それを表に出さないようにしながら、もう一度呼びかける。少し身じろぎした後で、女性は目を覚ました。

「あ……私は……?」

「どうやら、大丈夫みたいだな」

 まだ人間であることを確認し、安堵の息をつく。

「メティ? メティ!?」

 自分が置かれていた状況を思い出し、女の子の姿を求めて視線を走らせる。

 その視線は、すぐに止まった。部屋の隅に、打ち捨てられるように転がっている小さな姿。側に駆け寄ろうとした女性の肩を、ナオは押さえ付ける。

「おい、アキトはきちんと、始末したんだよな?」

 いつの間にか扉の傍らに立っている赤毛の少女に、ナオが問いかける。

「ああ。心臓を潰したのは、この俺だがな」

「……そうか」

 ナオは床に置いていたライフルを取り上げると、ボウガンに矢をつがえる。女の子がゆっくりと上体を起こしたのは、そのときだった。

「メティ!」

「あぶねぇ!」

 咄嗟にナオが女性の手を引く。その鼻先を通り過ぎていく、影。

 目の前を飛びすぎていったその小さな影が何だったのか、ミリアは判別できなかった。いや、誰なのかは判っていた。だが、それを頭が理解しようとしていなかった。

 どこか獣じみた動きで、幼子が振り返る。あどけない表情は、変わらない。だがその目は赤く爛々と光り、口元からは鋭い犬歯が覗いている。

 そして……首筋の痕は、消えていない。

「メティ……?」

 ミリアが少女の名前を呼ぶ。だがもう、それに反応する幼い子供はどこにもいない。

「ナオ……?」

 アキトも、戻ってきたようだ。

 だが、あの様子ではもう一戦は無理だろう。もとより期待してはいないが。

 ゆっくりとした動きで、ナオはライフルを構える。その狙いの先で、少女はゆらゆらと揺れながら立っている。

 銀の矢は、真っ直ぐにその胸を貫いた。ミリアと、アキトが息を飲んだその目の前で、少女の身体がびくり、と電流が走ったかのように脈打つ。

 そのまま、何が起こったのか理解していないような表情のまま、彼女の身体から白い煙が立ち上っていく。

 見えざる炎に焼け崩れていくその姿から、誰も目を逸らすことはできなかった。

「いや、いや、いやぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ミリアの絶叫が、響き渡る。その中で、かつてメティスと呼ばれていた少女は、灰となって崩れ落ちた。


「俺さ……死に物狂いで……我を忘れて戦って……精一杯やったんだ」

 ハマーのタイヤにもたれ掛かるように座り込みながら、俺は隣に立つラピスに話しかけていた。

「なのにさ……助け、られなかったのかよ? あんなのって、ありか? あの子が、何をした?」

 身体中を包み込む、倦怠感。変身が解けたときの脱力感とは違う、身体の重さ。

「俺の……せいなのか?」

 俺が……悪いのか?

「アキトは、アキトに出来るだけのことをしたよ」

 俺に視線を向けないまま、ラピスは言った。

 いつもの冷たい、突き放すような声色。だが、それがどこか震えているように聞こえたのは、俺の気のせいだったのか。

「悲しいと思う。辛いと思う。でも、立たなくちゃダメ」

 どうして?

 こんな俺に、これ以上何が出来る?

「戦うことを選んだんでしょう? だったらもう、泣いている暇なんて、無いよ」

 そうなんだ、よな。

 これ以上、あんな子を増やさないために、俺は奴らを……潰す!


「ワンマン・アーミーが、まさか女だったとはね」

「ふん、その名で呼ばれても、嬉しくはないがな」

 真紅の愛車にまたがったその少女と、ナオは一人で相対していた。

 ラピスはアキトについてハマーの側だ。助け出せた女性も、泣き疲れたのか、車内で横になって眠っている。

「あの女はどうする気だ? かくまっておくにも、限界があるだろう」

「さあてね、どうしたもんか」

 心当たりは、あるにはあった。明日にでも、連絡を取ってみなければなるまい。

「しかし……本気でイノヴェルチと事を構える気か、キャマリラは」

「……キャマリラは関係ない。これは、俺自身の意志だ」

 そう答えたときの、瞳に込められた光。そこに嘘がないことを、ナオは自身の直感で読みとっていた。

「まあいいさ。ともかく、今夜は助かったよ」

「じゃあな。どうせすぐに、顔を合わせることになると思うが」

 ヘルメットを被り、アクセルを吹かす。

「一つ、聞いといていいか?」

「なんだ?」

「お前、名前はなんて言うんだ。二つ名じゃなく、な」

「…………北斗、だ」

 それだけを言うと、北斗はバイクを急発進させる。タイヤマークが、アスファルトに黒々と残る。走り去っていく真紅のマシンを見送ってから、ナオはハマーへと近づいた。

「ホント、どうしたもんかね」

 後部座席で眠るその女性に視線をやってから、ナオは視線を上げる。

 ここまでくると、夜空の星もそれなりに見える。

 ポケットから煙草を取り出し、口にくわえると、久しく使っていなかったオイルライターに火をともす。

 しばらくぶりのその一服は、やけに苦かった。




「たった今、報告がありました。三芳町の『集餌所』が、何者かの襲撃を受け壊滅したそうです」

 思わせぶりに言ったヤマサキの報告に、だが、他の三人は彼が思っていたほど大きな反応を示さなかった。

「ふん、昨日の今日で、さっそくこれか。せわしない連中だな」

 紅蓮の騎士が、つまらないとばかりに鼻を鳴らす。

「警備は増強していたんだろ?」

「ええ。V・ウォーリア二体を派遣しておりました」

 ジュンの問いにヤマサキが答えを返す。

「その上で、これか」

「実に面目ない。これからの研究課題ですな」

「だが、いいのか? デモンストレーションは明後日だったはずだろう?」

「その通りです、ミスターD。ですので皆様方、このことはどうぞご内密に」

 いつものように笑みを張り付けた顔で、ヤマサキが飄々と言ってのける。

 確かに、キメラヴァンプは『吸血鬼をも凌ぐ戦闘能力』が、その売り口上だ。それが現実にはこれでは、イメージダウンも甚だしい。

「ですが、これ以上ない実戦テストですからな。ある意味ハンターたちには感謝しないといけませんなぁ」

 どこから取り出したのか、ヤマサキは扇子で自らの頭をぱちりと叩いてみせる。

 この男にとっては、ハンターたちと命を懸けて戦う兵隊たちも、実験室のマウスと大差ないのだろう。

「肝心な姫様はここにいらっしゃいますからな。精々、ハンターたちにはデータ取りに協力していただきましょう」

 そう嘯きながらヤマサキは、填め殺しのガラス窓で仕切られた隣室を見遣る。

「ね、ユリカ嬢?」

 そこには、機械のくびきに捕らわれた、白い眠り姫がいた。

 青い髪を流して瞼を閉じたその姿は、まさに神々しいまでの美。

 穴を開けた白い、大きな布を被せられただけの衣服も、むしろそれを引き立たせている。

 唇に吐息はなく、なだらかに起伏する胸もまた呼吸に波打つことなく、絶対の静止の中で、その少女は眠っていた。

 その永遠を思わせる眠りの中で、いかような夢を見ているのか……誰にも窺い知ることは出来ない。

 夜魔の森の女王。ミスマル・ユリカと呼ばれた最古の吸血鬼は、ここで静かに眠っていた。



...EPISODE04 END











<次回予告>

 あなたのために、僕は歌う。

 あなたのために、僕は奏でる。

 あなたの微笑みに魅せられ、それを見ていたいと願ったから、

 あなたのために、僕は……唄う。

 それが僕の、望みだった。


 EPISODE 05 「楽師」







<あとがき>

 ひとまず、代理人殿ゲットしました(笑)。

 いや、マジでニトロの広告塔になるつもりで書き始めたんで(苦笑)。

 ファーストプレイがどのキャラだったのか気になりますが……(弥沙子じゃないのは確実ですけど)。



 さて、本編ですが、拒否していた猿轡を自らの手でつけ、怒りのままに変身する。コミック版では見せ場の一つですが、やはり辛いシーンです。

 原作でもそうですが、本気でキメラヴァンプをぶちのめしてやりたくなりますね。戦闘ではやたらとムキになってました。

 もっともこのアキトにはそれだけの力があっても、それに振り回されてしまっているのですが……。

 それにしても、ようやくユリカが登場しました。

 いや、話の中には出てきてたんですけどね、ロードヴァンパイアって。もちろん一話からこの配役は決まってましたが、隠してた方がインパクトがあるかな、と。

 彼女が捕まっている様子ですが、劇場版のあれに近いものを思い描いていただければと。はっきり言っちゃえば、あの姿があるんで、ユリカがロードヴァンパイアになったんですが。

 ちなみに彼女の力ですが、某月姫風(笑)に言えば「最古の死徒」となります。ロアなんかじゃ歯が立たないでしょうね、滅ぼせるかどうかは別問題ですが。

 アルクェイドもアーカードもいないので、最強の吸血鬼の名は欲しいままです、はい(笑)。

 さて、いきなり共同戦線を張った真紅の羅刹こと北斗ですが、人間離れした身体能力を見せています。人間の手では扱うのも困難であろう巨大な斧を、軽々と振り回す彼女。その正体は果たして……。



 それでは、次の夜の闇の中で……。




 

代理人の仮面舞踏会(マスカレード)



ひとまず、ゲットされました(笑)。

実を言うと同じニトロプラスの「ファントム オブ インフェルノ」も
ついでに強奪(爆)してきてあるので「ヴェドゴニア」を終えたらプレイ予定。
シナリオライターさんが同じらしいので否が応にも期待は高まりますね。

ちなみにファーストプレイは「おんなさつじんけん かおり」(このネーミング好き)で終えました(笑)。
主人公とヒロインよりむしろ脇役の愛憎劇に惹かれるものがあったのはここだけの秘密です(爆)。



しかし、やはり読んでいて辛いシーンでした。
キメラヴァンプを倒した後=怒りをぶつける相手ももういない、ので余計に。
現在サードプレイですが、ハードなシナリオの多いこのゲーム内でも指折りに気の重いシーンです。

※しかも必ず通るシーンだし!(爆)


それはそれとして、脇役の愛憎劇が好きな私としては次回に期待させて頂きましょう(笑)。
(実を言うとジュンをこの役に当てたのがこのSSの最大の注目点ではないかと思っていたりします)

それともう一つ。どうにも惹かれるんですよね、報われない献身とか愛とかって(苦笑)。