機動戦艦ナデシコ(劇場版after)


〜after the rebellion of Mars〜


第1話 『終わり』から『始まり』へ

 
 
 
 
 

火星の後継者の叛乱から2ヶ月。
 
俺は何故かミスマル・コウイチロウ提督に呼び出されていた。
 

「連合宇宙軍少佐 カザマ・ヤヨイ『紫陽花』(アジサイ) の艦長として
 
ナデシコCと共に、アキ、いや、コロニー連続爆破犯の確保の任にあたってもらいたい」
 

・・・・は?今、なんと言ったのだろうか。確か、艦長として・・・
 
 
「何か、不満でも?カザマ君」
 
 
探るようなミスマル提督の声にはっと我に返る。
 
 
「ですが、私はただのパイロットに過ぎません。私が艦長などと・・・!」
 
 
「だが、たかがパイロットに過ぎない者が少佐にまで昇級できるとでも?」
 
 
ミスマル提督の言葉に偽りは存在しない。確かにパイロットふぜいが少佐などと普通なら
 
ありえない話なのだ。
 
 
「・・・アジア戦線での君の活躍は聞いているよ。初陣で、チューリップ2機撃破。無人兵器
 
は数知れぬ。それも、エステバリスではなくデルフィニウム。それ以降は数々の死線をくぐり抜け
 
今は・・・。軍で君がどのように呼ばれているか、知っているかね?」
 
 
「・・・『黒紫の華』。すいません・・・俺その名で呼ばれるの、好きじゃないんです」
 
 
自然と声がトーンダウンしてしまう。この通り名は、幾多の犠牲の元になりたっているのだから。
 
 
「すまなかった。・・・それで、返答は?」
 
 
ミスマル提督の目が鋭く光る。
 
まるで、中途半端な言い訳では逃さない、とでも言っているかのように。
 
 
「・・・命令、なんですよね」
 
 
半ば諦めたような問いに、ミスマル提督は軽く頷く。
 
どうせ、軍人である限りは、上の命令には服従しなくてはならないのだ。
 
まして、ミスマル提督直々の命令ともなれば断ることはできなかったのだ、初めから。
 
 
「・・・了解しました。ミスマル提督」
 
 
では、何時頃になるのですか?と聞こうとして固まる。

先程まで威厳を保っていた顔が、まるで・・・いや、正確な表現は避けておこう。
 
 
「そうか〜、行ってくれるか〜、いや〜すまないねカザマ君。なんせ、いきなりユリカがナデシコに
 
乗ってアキトを探しに行く、なんて言うから心配で心配で。まあ、カザマ君が一緒なら何が起こっ
 
ても 大丈夫だろう」
 
 
そういえば、行方不明だった長女が帰ってきたって言ってたな。
 
でも、これじゃあ、軍を私的に使ってるのと 一緒じゃないんだろうか?
 
一応、突っ込むのはやめておく。
 
突っ込んだら最後、こっちの世界に戻って来れないという噂があったからだ。
 
 
(実際、突っ込んだヤツは全治2週間の精神的な怪我を負わされたらしい・・・)
 
 
「それでは、紫陽花乗船は明後日の明朝9時、場所はサセボのドックだ。君の健闘に期待している」
 
 
「はあ、それでは失礼します」
 
 
いきなり真顔に戻る提督を見て、俺は何故か頭痛を感じながら部屋を後にした。
 
 
「・・・あれほどいい男なら、ルリ君の恋人役もつとまるかもしれんな・・・」
 
 
などと、コウイチロウが呟いたのはヤヨイの耳には届かなかったのだった。
 
 

 
 
 

 

「あーあ、俺一体何やってるんだろうな・・・」
 
 
ミスマル提督の部屋を出てから、俺は自室に戻ることなく外をうろついていた。
 
もちろん軍の制服のままなので、当然人目を引いてしまう。
 
しかし、軍の広報活動のおかげで『黒紫の華』はすでに『ナデシコ』と同じ位の知名度がある。
 
例え、自分が私服であったとしてもあまり意味は無いであろう。
 
カザマ・ヤヨイとしての自分はそこにはなく、ただ『黒紫の華』としてしか見られない。
 
 
(まさか、上層部に俺の考えが読まれたのか?)
 
 
こんな自分に嫌気が差し、軍を辞めようとしたのはつい最近の事だ。
 
しかし、今回の紫陽花乗船の命令。
 
英雄だった者の結末。
 
それがどうなるか、わからない訳ではない。
 
だが、いい加減軍の人形にされるのはまっぴらだった。
 
 
(紫陽花乗船・・・まだ何か裏がありそうだな)
 
 
「やれやれ、半ば気分転換のつもりだったのに、な」
 
 
小さく呟き、足を『日々平穏』へと向ける。
 
こぢんまりとした店だが、そこのマスターの腕と、どこか頼り甲斐のありそうな風貌に
 
引かれて、1日に1回はそこに顔を出すようにしている。
 
 
「ういーっす」
 
 
のれんをくぐって、習慣になったマスターへの挨拶をする。
 
 
「おや、今日はえらく早いねえ。どうする?いつものように一杯やるかい?」
 
 
「それもいいですけど、真昼間から酔ってたら『黒紫の華』の名ががた落ちですから
 
止めておきますよ」
 
 
カウンターに座りながら、半ば自棄気味に答える。前にも述べたように『黒紫の華』は
 
自分とは違うものだ。
 
 
「そんなに自棄になるもんじゃないよ。まだ先は長いんだからね」
 
 
いきなりのマスターの質問にびっくりする。それほど顔に出てただろうか?
 
 
「・・・やっぱ、わかっちゃうもんですかね。そういうのって」
 
 
「あんたの場合、いつもはひょうひょうとしてるのに何故か悩み事とか気になる事がある時は
 
そういう難しい顔をするのさ。わかりやすいんだよ、あんたは」
 
 
「それがわかるのは、今の所ホウメイさんくらいですよ。あ、火星丼お願いします」
 
 
「私にわかられてもしょうがないだろうに・・・彼女の1人でも作ったらどうだい?」
 
 
「まさか。俺の彼女なんて、ただ不幸になるばかりですよ、きっとね」
 
 
出された水を眺めながら、答える。
 
名が売れすぎるというのは色々な所で弊害を生む。それも、本人の思わぬ所で。
 
厨房にホウメイさんが使う包丁の音だけが響く。俺も、ホウメイさんも何も喋らない。
 
少しダーク入った俺の口調になにか感じたのかもしれない。ここだと何故か俺の本当が出てしまう。
 
 
「ところで、今日は大して客が入っていませんね。何か、あったんですか?」
 
 
話題を別の方に切り替える。自分が作り出した沈黙とは言え、何かやりきれないものが自分の中に残る。
 
 
「客が入ってないのは、今日は昔馴染みが色々集まるからさ。表に張り紙あったはずなんだけどねえ・・・
 
あいよ、火星丼お待ち」
 
 
・・・確かに、あったよーな。なかったよーな・・・
 
ゆっくりと張り紙があるであろう場所の方を向くと・・・あった。
 
『本日、15時〜17時貸し切り』
 
慌てていつも左腕についているコミュニケを見る。
 
15時10分前・・・どうする?一応火星丼食ってから帰るか。それとも・・・
 
 
「すいません!!ホウメイさん。俺、帰ります。俺ここにいたらヤバイでしょ」
 
 
「ふーん。私の料理、残すってのかい?」
 
 
口元は笑っているが、目は笑ってない。正直言って、かなり怖いのだが。
 
 
「・・・いただきます」
 
 
完全にその視線に負けた形で、立ちかけた席にまた座る。
 
 
「よし・・・それにあの子達はそんな事関係ないだろうしねえ
 
 
そのまま火星丼に手をつける。早く食べないといけないのはわかっているのだが、ホウメイ
 
さんの手前、それは許されないだろう。多分。
 
 
「どうも」
 
 
「こら、ハーリー。さっさと来いよな」
 
 
「そんな事言ったって・・・かんちょぉ〜」
 
 
その3人組が入ってきたのは、俺が丁度火星丼の半分を攻略した所だった。
 
 
「・・・ぶっ」
 
 
・・・つい口に入れたタコさんウインナーを吹き出してしまった。
 
汚いと言うなかれ、だって、お前。仮にも連合宇宙軍の有名人3人組だぞ。入ってきたのは
 
『電子の妖精』ホシノ・ルリと、ナデシコCのクルー達(確か、高杉 三郎太大尉とマキビ・ハリ
 
少尉だったと思うが)であった。
 
 
「ちょっと早く来すぎちゃいましたか」
 
 
「いや、気にしなくていいよ。どうせこの人は表の張り紙を無視して入ってきたんだから」
 
 
・・・うう。そんな言い方はないでしょう、ホウメイさん(涙)
 
ま、確かに気付かなかった俺が悪いんだけど。
 
 
「あれ、あの人は・・・」
 
 
「知り合いなんですか、艦長」
 
 
「バカ、あの人は艦長の乗ってた初代ナデシコと同じくらい有名な人だぞ。確か・・・
 
『黒紫の華』って通り名で有名なエステバリス、じゃない、デルフィニウムライダーだ。
 
さすがの俺も、あの人には敵わないだろうな」
 
 
「へ〜え、サブロウタさんがそんな事言うなんてめずらしいですね」
 
 
「・・・ハーリー、口には気をつけたほうがいいぞ(怒)」
 
 
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
 
 
一瞬後、俺には何が起こったのかよくわからなかった。
 
ただ、いつのまにかマキビ君が目の前から消え去っていた。
 
噂には聞いていたが、とてつもない速さだな、マキビ君・・・
 
さすが軍の中で有名になるだけある・・・
 
 
「どうも、ホシノ・ルリです。今度の任務ではよろしくお願いしますね」
 
 
「え、あ、はい、よろしくお願いします。ホシノ少佐」
 
 
マキビ君達の漫才(笑)に気を取られていて全くと言っていいほどホシノ少佐が近付いてきた
 
事に気付かなかった。
 
返した言葉が完全に裏返る。自分でも情けないとは思うが、ホシノ少佐と言えば軍の中では
 
アイドル的存在なのだ。
 
・・・・でも、勘違いするなよ。俺はロリコンじゃないっっ!!
 
 
「ちょうどよかった。今度の任務の件でお話があります。サブロウタさんもこっちへ」
 
ホウメイさんと何やら話をしていたタカスギ大尉がホシノ少佐の横に座る。
 
つまり、ホシノ少佐を中心に右に俺、左にタカスギ大尉って形だ。
 
 
「あ、ホウメイさん。私チキンライスで」
 
 
「じゃ、俺はいつものやつね」
 
 
「ところで、マキビ君はいなくてもいいんですか?彼も一応ナデシコに乗るのでしょう?」
 
 
2人の注文が終わったところで質問してみる。
 
マキビ君は先程走り去ってから、帰ってくる気配はない。
 
 
「いいんです。別に」
 
 
「腹が減ったら帰ってくるって」
 
 
・・・不憫だ。
 
彼が軍の中で『世界一不幸な少年』と呼ばれているのが少しわかった気がする。
 
 
「ところで、なんです。艦長。わざわざこんな口実まで用意して」
 
 
「それは・・・」
 
 
タカスギ大尉の問いに考え込むホシノ少佐。
 
何か、話しづらいことでもあるのだろうか?
 
 
「俺、邪魔だったら退散しますけど」
 
 
すでに、火星丼は食べてしまっている。何も俺がこの場にいる必要はない。
 
ホシノ少佐は俺にも話があるらしいが、俺に聞かれたくない話ならそれが終わるまで
 
そのあたりをぶらぶらしているが・・・
 
 
「いえ。あなたにも、聞いてもらいたいんです・・・実は、今度の任務はかなり長くなります。
 
今回の私達の目的、聞いてますよねカザマ少佐」
 
 
「コロニー連続爆破犯の確保、だと思いますが?」
 
 
俺の言葉を聞いて、少し眉をひそめるホシノ少佐。それは隣のタカスギ大尉も一緒だった
 
何か悪い事を言っただろうか、俺は。
 
 
「その爆破犯、テンカワ・アキトさんは今、ボソンジャンプで行方をくらませています。
 
現在、アキトさんの情報はほとんど皆無。追おうにも相手は単独ボソンジャンプができます。
 
ですから、私達が彼等に追いつくのはほとんど不可能です。ですが・・・」
 
 
「「ですが?」」
 
 
「私は、意地でもアキトさんをここに連れ戻します。例え、いくら年月が過ぎたとしても」
 
 
なんとなく言いたい事はわかる。
 
要は、自分についてくるかどうかを確認したいようだ。
 
 
「俺は、全然問題無いっすよ、艦長。いつまでも、俺はついていきますって、それが副官と
 
しての勤めってもんでしょう?」
 
 
タカスギ大尉が横でホシノ少佐に答える。
 
 
「・・・それで、あんたはどうするんだ?」
 
 
ホシノ少佐とタカスギ大尉の視線が俺に集まる。
 
 
「俺も、特に問題はありません。それも、『電子の妖精』の護衛ともあれば喜んで」
 
 
「はあ」
 
 
俺の言葉に、少し顔を赤らめるホシノ少佐。
 
少しキザっぽかったか?
 
 
「じゃあ、俺はそろそろ失礼しますよ。邪魔したらいけませんから」
 
 
席を立ち、小銭をカウンターの上に置き、ビシッと2人に敬礼して、店を出る。
 
 
「それでは、また明後日に」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

後書き
 
 
 
どうも、はじめまして、紫月と言います。
 
今回、初めて投稿させて頂きます。
 
いきなり連載物を書いてしまった・・・
 
話の流れとしては、劇場版のafterってところです。
 
主人公がオリジナルですので、少しわかりにくいかもしれません。
 
(まあ、自分の表現方法が悪いだけですけど・・・)
 
ここで、1つ主人公について説明を・・・
 
カザマ・ヤヨイ  23歳 連合宇宙軍のエースパイロット
 
         ちなみに、男です。
 
         髪は長く、腰まである。
 
         年の割りには、幼い顔立ちで17,8に見られる。
 
         イツキの義弟でもあります。
 
さて、これ以上は話の中で色々明かしていくと言う事で。
 
最後になりましたが、自分の拙い文を読んで頂き本当にありがとうございました。
 

 

代理人の感想

ヤヨイ? 男? 外見十七、八歳? 腰までのロンゲ?

・・・・・・・・・すいません、物凄く軟弱な外見しか思い浮かびません(爆)。

きっと女装も似合うんだろうなぁ(核爆)。

 

ちなみにイツキは確かTV登場時十七歳だったような気がするので

4〜5年差し引いてもヤヨイってイツキより年上なのでは(爆)。