機動戦艦ナデシコ(劇場版after)


〜after the rebellion of Mars〜


第3話 『私らしく』を探しに


 
 
 
 
 
 

「全く、ヤヨイのヤツ、一体どこ行ったんだろ?」
 
 
 
やっとのことで意識を取り戻した私は、1人で紫陽花艦内をぶらついていた。
 
 
プロスペクターさんは依然固まったままだったので、そのままにしてある。
 
 
まあ、艦内の事は事前に調べてあったので、今から艦内を見て回る必要はないはずだ。
 
 
なぜプロスペクターさんに付いて行こうと思ったかと言うと、答えは簡単。
 
 
ヤヨイのヤツがいたからだ。
 
 
スキあらば殺そうと思っていたのに、あの金髪おばさんのせいでヤツを見失ってしまった。
 
 
 
「・・・機体の整備にでも行こうかなあ」
 
 
 
自分と昔馴染みにしか扱えない代物だ。メカニックの人には言っておいたが、死人が出てないと
 
 
いいんだけど。
 
 
 
「ったく、最新型だって聞いてたのに、あんま前とかわんねえじゃねえかよ。お、あんた確か」
 
 
 
「中葉 蛍です。これからよろしくお願いします」
 
 
 
シミュレーターから出てきたのは、パイロットのスバル・リョーコさんだった。
 
 
 
「さすが、ですね。これ一応、一番難しくはしてあるんですけど」
 
 
 
「馬鹿言うなよ。あんただって、これくらい楽勝だろ。噂は聞いてるぜ、中葉 蛍大尉」
 
 
 
スバルさんの目が少し細くなる。
 
 
一体、どんな噂を聞いてるんだろう。まあ、あまり聞いて面白いものじゃない事は確かだけど。
 
 
 
「・・・俺と勝負しないか。夕飯でもかけて」
 
 
 
「別に、いいですよ。私もヒマですし」
 
 
 
答えて、シミュレーターに滑り込む。
 
 
 
「機体はなんでもいいんですか?」
 
 
 
「別にかまやしねえよ。俺だって使うわけだしな、自分の機体を」
 
 
 
「わかりました。戦場は、おまかせします」
 
 
 
「OK。それじゃ、行くぜっ!!」
 
 
 
目の前に暗礁空域が広がる。宇宙戦をしようってことね。
 
 
レーダーにちらりと目をやり、スラスターを噴かせる。
 
 
相手の位置がわからない今、同じ所に留まっているのはただの馬鹿だ。
 
 
それに、相手の方が索敵能力は上だ。こちらの動きはほとんど丸見えなハズ。
 
 
 
(それなら、こうするまでよっ!!)
 
 
 
グラビティブラストを広域放射し、まずは邪魔な物を排除する。
 
 
 
「おいっ、いきなりそれかよ!!」
 
 
 
スバルさんが、驚いた声を上げる。
 
 
まあ、確かにちょっとやりすぎたかもしれない。
 
 
いつもは時雨がある程度威力を抑えてくれるからなあ。加減が効かなかったみたい。
 
 
 
「それなら、接近戦だっ!!」
 
 
 
スバルさんの赤いエステバリスが、急激に近付いてくる。
 
 
デストーションフィールドを張った上での突撃。
 
 
確かに、威力は恐ろしいんだけど・・・
 
 
 
「当たらなければ、意味はないですっ!!」
 
 
 
機体を操作し、突っ込んできたスバルさんをやり過ごす。
 
 
 
ガツッ!!
 
 
 
「な!?」
 
 
スバルさんへ攻撃を仕掛けようとしたその時、機体に衝撃が走った!!
 
 
背中への被弾。
 
 
どうやったのかよくわからないが、おそらく自機を囮にして、ライフルをそこらの岩にでも固定。
 
 
後はオートマでタイミングよく発射。
 
 
普通のパイロットなら、考えもつかないような戦い方。
 
 
 
「へっへえ、こっちもただ突っ込んだ訳じゃないって。油断したな、『戦場の白百合』さん」
 
 
 
確かに・・・そうかもしれない。
 
 
仮にも相手はあのナデシコに乗っていた人だ。
 
 
それなりの実力は持っているとわかっていたはずなのに。
 
 
 
「まだまだ、勝負はこれからです。行きますよっ」
 
 
 
気を入れなおすために1つ深呼吸をする。
 
 
背中にマウントしてある巨大な薙刀を引き抜くと、今度はこちらから仕掛ける。
 
 
 
「はっ!!」
 
 
 
こちらの繰り出した一撃を、紙一重で避けるスバル機。
 
 
 
だが、甘いっ!!
 
 
 
避けられる事は計算済みっ!!

 
 
 
「くっ!!」
 
 
 
1回転して放った蹴りがヒットしスバル機が後方へと吹き飛ぶ。
 
 
 
「さすが、ですね。まさか、あの瞬間に・・・」
 
 
 
コクピットに、右脚部損傷の表示が出る。
 
 
 
「なに、この程度でやられてたらアキトに笑われちまうぜ」
 
 
 
あの瞬間、ダメージを弱めるために自分から後方へ飛びさらに一撃をこちらに与えられた。
 
 
自分にやれと言われても、やる自信なんかない。
 
 
 
「テンカワ・アキト。あなたの元同僚だった人、ですね。今は・・・」
 
 
 
「今は行方不明。だから、これから探しにいくんだよっ!!
 
 
 
一気に間合いを詰められ、ディストーションフィールドを張った拳が目の前に迫ってくる。
 
 
何とかそれをかわすと、間合いを取るために機体を後退させる。
 
 
しかし、スバル機からの猛襲がそれを許さない。
 
 
 
「くっ!!」
 
 
 
焦りが私の中に生じた時、いきなり目の前が真っ暗になった。
 
 
 
「え?」
 
 
 
「どーなってんだよ、これは」
 
 
 
どうやら、スバルさんのほうも同じことになっているらしい。
 
 
なんとかしてシミュレーターから出ると、スバルさんも外にいた。
 
 
 
「一体どうしたんでしょうね。故障かな?」
 
 
 
「まさか。いくらなんでも早すぎ・・・」
 
 
 
いきなり、艦が揺れた。
 
 
そのあと、爆音が響く。
 
 
 
「何だ、なにかあったのか?」
 
 
 
ブリッジ!!誰かいる?現状を説明して!!
 
 
 
取りあえず、コミュニケでブリッジを呼び出す。
 
 
 
「はい。今サセボドックメインゲート以下5ヵ所で爆弾が爆発したみたいです。それに乗じて
 
 
 何人か変な人達がこちらに向かっています」
 
 
 
答えたのは、金髪の子供だった。
 
 
どうやら、乗員名簿で見たオペレーターのコハクちゃんだ。
 
 
 
「わかった。じゃあ、ヤヨイ・・・じゃない艦長にも連絡して。私達もすぐに行くわ」
 
 
 
「わかりました」
 
 
 
「それじゃあ、スバルさん。ブリッジへ・・・」
 
 
 
ウインドウが閉じると、スバルさんへと声を掛ける。
 
 
が、スバルさんは通路の奥のほうを凝視している。
 
 
つられてそちらを見ると、編笠の男が2人そこに立っていた。
 
 
 
「まさか、さっき彼女が言ってた不審人物?」
 
 
 
「・・・おい。あんた、生身での戦いはできるのか?」
 
 
 
「ええ。一応は」
 
 
 
昔、戦場で感じたような緊迫した雰囲気がその場に流れる。
 
 
 
「女。そこをどけ」
 
 
 
ひょろりと背の高い編笠が短く言い放つ。
 
 
 
「どかねえっていったら?」
 
 
 
スバルさんの言葉に、何の反応も示さない編笠達。
 
  
ただ、殺気だけが膨らんでいく。
 
 
 
くる!!
 
 
 
もう1人の編笠から放たれた手刀を、後ろに半歩下がってかわす。
 
 
実際、かなり早い。
 
 
昔、月臣さんに色々教えてもらわなかったら今の一撃でやられてしまっている。
 
 
 
(それに・・・この型は!?)
 
 
 
手刀から、身を沈めて足払い、そしてあごを狙う掌底。
 
 
連携はオリジナルのようだが技そのものは自分が教えてもらった木連式柔そのものだ。
 
 
まさか、木連の関係者なの?
 
 
そう思いながら、相手の流れるような攻撃をかわす。
 
 
確かに、強い。
 
 
だが、私には微妙に届かない。
 
 
 
「しゅっ」
 
 
 
短い呼気を吐き、こちらからも打って出る。
 
 
それなりの使い手ではあるが、所詮そこまで。
 
 
少なくとも私の敵じゃない。
 
 
相手から放たれる拳打をかいくぐり、自分の間合いへと持っていく。
 
 
肘を相手の腹へと打ち込み、倒れかかる所を背負い投げの要領で投げ飛ばす。
 
 
 
「チッ、やるな。女。だが、もう1人の方はどうかな」
 
 
 
空中で1回転し、ひらりと着地する編笠。
 
 
ちらりとリョーコさんの方を見ると、確かに押されてはいるがまだそれでも致命傷というわけではない。
 
 
だが、長期戦にもつれこんだ場合、私達に勝ち目はない。
 
 
 
流石の私も、2対1で勝てるとは思っていない。
 
 
「そう?結構大丈夫そうよ。大した事ないんじゃない、あんた達」
 
 
 
「・・・」
 
 
 
こちらの挑発を無言でかわす編笠。
 
 
 
「どんな目的かは、教えてくれないの?」
 
 
 
「話しても理解できまい。無駄な事はせぬ主義でな」
 
 
 
まあ、そう簡単に機密をバラすヤツはいないだろうケド・・・
 
 
 
「ふ〜ん。それならもう帰ったら?教えてくれないんじゃ、話にならないしそれに、時間経てば
 
 
ネルガルの人達も来ちゃうけど?」
 
 
 
紫陽花のコンピューターに相手の動きが把握できて、まさかネルガルの人達が何も知らないって
 
 
はずはないだろう。
 
 
 
(・・・もしこなかったら、ネルガルもここまでの会社だったって話だけどね)
 
 
 
さらりとシビアな事を考え、目の前の編笠に集中する。
 
 
 
「それまでに、お主等を倒し我等の目的が達成できればいいだけの話だ」
 
 
 
言葉が終わるのとほぼ同時に、編笠がすばやく踏み込んでくる。
 
 
だが、先程の肘打ちが効いたのか動きが一瞬鈍くなる。
 
 
 
(もらった・・・!!)
 
 
 
相手の首筋に蹴りを放つ。避けられる間合いではない。
 
 
編笠は左腕を上げ、防御の形を取る。
 
 
しかし、自惚れるわけではないが自分の蹴りの威力はかなりのものだと思っている。
 
 
防御したとしても、その程度で威力を殺されるような蹴りじゃないっ!!
 
 
 
「くっ!!」
 
 
 
脇腹に鋭い痛みが走る。
 
 
こちらの蹴りと同じタイミングで相手の右足の蹴りが脇腹にヒットしていた。
 
 
 
(・・そう。左腕は捨てたってことね、さすが、とでも言っとこうかしら)
 
 
 
衝撃にふらつく体を無理矢理もとの体勢に戻し、追いすがってくる編笠から離れる。
 
 
 
「実力的には、ほとんど互角みたい、ね」
 
 
 
予想以上の相手の動きに、少しばかり驚く。
 
 
 
「互角?笑わせるな、小娘が」
 
 
 
ニヤリと笑って、左腕を動かしてみせる。
 
 
自分の蹴りを受けたあの左腕を、だ。
 
 
捨てた、というのは間違いで効いていなかったとでもいうのだろうか?
 
 
まさか、そんなハズが!?
 
 
 
「もう1度問う、そこをどく気はないのか?」
 
 
 
一瞬の攻防だったのは間違いないのだが、こちらはもう息が上がってしまっている。
 
 
それに比べ、相手の方は、全く疲労が見えない。
 
 
 
(実力を、測り違えたの?)
 
 
 
「・・・悪いけど、通す気はないわ」
 
 
 
意地だけで、その冷酷な声に答える。
 
 
 
「それでは、仕方がない。死人が2人ほど出るな」
 
 
 
「それは穏やかじゃありませんねえ。ま、ここは冷静に・・・」
 
 
 
こちらが再度の攻撃に備え、構えようとした時に背後から声が掛かる。
 
 
 
「プ、プロスさん!?」
 
 
 
スバルさんが驚いた声を上げる。
 
 
まあ、私も驚いていない訳じゃないんだけど・・・
 
 
 
「・・・新手か。まあよい、この場は退くとしよう」
 
 
 
プロスペクターさんを見て何を感じたのかはわからないが、プロスペクターさんの登場で
 
 
こっちが助かった事は確かだ。
 
 
 
「黙って見逃すとでも思ってんのかよっ!!」
 
 
 
スバルさんが叫ぶ。
 
 
編笠達はスバルさんを一瞥すると、一言、小さく呟いた。
 
 
 
「・・・跳躍」
 
 
 
瞬間、青い光に包まれ編笠達はその場から消え去っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

薄暗い照明が、参加者一同を照らしている。
 
 
先程の事件の説明のために私達、紫陽花クルーはナデシコC艦のブリーフィングルームに
 
 
集められていた。
 
 
 
「忙しい所をすいません。ですが、今回の襲撃事件の説明、至っては・・・今回の任務の詳しい
 
 
内容をお知らせしたいと思います」
 
 
 
ナデシコCの艦長のホシノ・ルリ少佐が立ち上がって話し始める。
 
 
でも、こちらも襲撃事件はともかく、自分が行う任務の事についてはわかっているはずなのに
 
 
いまさら、説明とはどういう事なのだろう。
 
 
 
「あ、でも、今回の任務のことくらいは、私だってわかるよ?」
 
 
 
ちゃっかりとヤヨイの隣に座っているコハクが、同じ疑問を抱いたのか質問する。
 
 
ユーチャリス、及びブラックサレナの拿捕、それとテンカワ・アキトとラピス・ラズリ両名の確保。
 
 
それが、今回の任務。
 
 
その為に、この紫陽花や、私やヤヨイのようなエースパイロットと呼ばれるような人材が派遣された
 
 
はず、なのだが。
 
 
 
「つまり、表向きだけ、という事です」
 
 
 
ドアのところに立っていたプロスペクターさんが、何か意味深な言葉を呟く。
 
 
 
「あなた方の任務は、テンカワ・アキト、ラピス・ラズリ両名の確保、と言うことになっていますが
 
 
私達ナデシコクルーの目的は、あくまでその2人を探しにいく、と言う事で、逮捕する、というわけでは
 
 
ありません」
 
 
 
「な・・・」
 
 
 
ホシノ少佐の発言に、つい声を上げてしまう。
 
 
 
「それは、軍に背く事になるんじゃないの? そんなことをしたら・・・」
 
 
 
「ミスマル提督には許可をもらっています。それに、許可なんかなくても私は探しに行きます。だって、あの人は
 
 
私にとっても、ナデシコクルーの人にとっても大切な人なんですから」
 
 
 
金色の瞳には、とても少女とは思えない意思の強さが秘められているような気がして、つい目をそらす。
 
 
 
「俺は、先日言った通りホシノ少佐についていくつもりだ。1度約束した事だ・・・そう簡単には変えられないだろ?」
 
 
 
砕けた口調で、ホシノ少佐に笑顔を向ける。
 
 
 
「それに、俺達にはもう軍にいる場所がないんだ。蛍、お前もわかっているはずだろ?」
 
 
 
そう、自分でもわかっている。
 
 
戦争において活躍した者の、戦後の末路、なんて。
 
 
実際、かなりの嫌がらせを受けているのだ。
 
 
まだ積極的にこちらを消そうとしないのが唯一の救いだが、そう遠くないいつかに、軍は積極的に動き出すだろう。
 
 
 
「私はついていくよ。ここ以外に私の居場所なんてないし、なんてったってヤヨイがこの艦にいるんだからねっ!」
 
 
 
コハクがヤヨイの右腕に抱きつきながら言う。
 
 
そう、あれくらい大事な物が私にもあれば、簡単に思考を停止してしまえるのに・・・
 
 
私には、戦う事しかない、の?
 
 
 
「蛍さん、そんなに考え込まないで下さい。私達は別に強制している訳ではないんです。出港は明日になりますから、それまでに
 
 
決めておいてくれればいいです」
 
 
 
「・・・わかりました、少佐」
 
 
 
なんとか声を絞り出してそれに答える。
 
 
 
「それでは、先程の襲撃に関して説明します。ナデシコC及び、紫陽花に侵入した編笠達は、2ヶ月前のコロニー連続爆破事件に
 
 
関わっていた者達の仲間だろうと予想されます。目的はおそらく、私やハーリー君、コハクさん達のようなマシンチャイルドの
 
 
拉致、もしくは殺害でしょう」
 
 
 
「少佐、すまないが話が見えない。2ヶ月前のコロニーの一件は、火星の後継者達が起こしたはず。俺達はそんな編笠の話は
 
 
聞いてないんだが。」
 
 
 
ヤヨイが知っているか?という風な視線を送ってくるので、軽く頭を横に振って答える。
 
 
私にとっても、初めて聞くような事だ。
 
 
木連時代に、そのような部隊がある、ということは噂程度で知ってはいたけれど。
 
 
 
「火星の後継者達の目的が、ボソンジャンプによる革命だった、という事はお2人ともご存知ですね」
 
 
 
それをたった1隻で鎮圧したのが、目の前の少女、ホシノ・ルリ少佐。
 
 
そこまでは、軍の者なら大抵は知っている。
 
 
「その為に、ジャンパーの人達をさらっていた実行犯が、今回の襲撃の編笠達の仲間、というわけです。
 
 
それに、編笠達の話は、その時のナデシコCのクルー、それとネルガルの方達くらいしか知りません。一応報告書は
 
 
出しましたが、どうやら下のほうには行っていないようですね」
 
 
 
でも、どうして編笠の存在を隠す必要があるのかしら?
 
 
まさか、軍と関係が?
 
 
 
「蛍、あまり詮索はしない方がいい。ただでさえ俺達は危険人物なんだ。これ以上は、危険だ」
 
 
 
ヤヨイが、同じ事を考えたのか視線を少佐のほうに向けたまま厳しく言い放つ。
 
 
いつものヘラヘラしたような面影はなく、戦場で見せるような顔つきに変わっている。
 
 
 
「私からも質問なんだけど〜、なんで私達マシンチャイルドが狙われなきゃいけないの?」
 
 
 
「その能力の高さゆえ、だろうな。1人でも艦を動かせるような処理能力だ。2、3人いれば、経済をコントロール
 
 
できる。そうだろ?ホシノ少佐。」
 
 
 
「そうです。ボソンジャンプに加え、私達のような処理能力を持った者がいれば、正直、世界の実権を握ることは簡単でしょう。
 
 
ただし、その技術はネルガルしか持っていません。会長がアカツキさんなら技術を外に漏らす事はないでしょうからその心配は
 
 
ありません」
 
 
 
電子の妖精達の力?
 
 
そんなに恐ろしいものなのだろうか?
 
 
確かにナデシコのような艦を一人で動かすまでの処理能力は認めるが、世界を把握するまでの実力を持ち合わせているのだろうか。
 
 
正直、自分はヤヨイ程の危機感を覚えたわけではないのだ。
 
 
そこまで妖精の力を信じているわけではない。
 
 
 
「ただ・・・リョーコさん達が見た編笠のボソンジャンプ、あれが本当にボソンジャンプだとすれば、先の大戦の原因となった
 
 
火星の遺跡、あれが何者かによって奪われた可能性がある、という事です」
 
 
 
「ボソン粒子の反応はなかったのか?」
 
 
 
「少なくとも、オモイカネは何も感知していません。そちらのオモイカネはどうです?」
 
 
 
尋ねられたコハクは、少し考えるような素振りを見せる。
 
 
 
「う〜ん、こっちも反応はなかったと思うけどな〜」
 
 
 
曖昧なコハクの言葉に多少の疑問を持ちながらも、そのまま話を続ける。
 
 
 
「わかりました。それでは、確認のために私達ナデシコは遺跡のある月に向かいます。ヤヨイさん、紫陽花のほうは・・・」
 
 
 
「無論、大丈夫だ」
 
 
 
「それでは、明朝10時、ナデシコ及び紫陽花は月に向かうと言う事で、今回のミーティングはおしまいです。各員明日に
 
 
備えて準備をお願いします」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ミーティングが終わった後、私は一人紫陽花のバーチャルルームにいた。
 
 
自室に戻ってもよかったのだが、考えがまとまりそうになかった。
 
 
一面に草原が広がり、赤い光が瞼を打つ。
 
 
何故こんなビジョンを選んだのかよくわからない。
 
 
一日の終わり際の風景。
 
 
昔夢にまで見た草原の風景。
 
 
自分の過去を、罪を暴き出すそれは一瞬の残光を放ち、そして消える。
 
 
ただぼうっとそれを見上げ、思う。
 
 
自分が望む唯一の物は一体なんなのか、を。
 
 
紫陽花乗艦。
 
 
それで見つけられるのなら、それでもいい。
 
 
しかし、ただ今までのように戦い、勝つ事だけで得られるものだろうか?
 
 
機械のように与えられた任務をこなしてきたあの頃のように。
 
 
 
「おい。どうしたんだ、蛍。もう日は沈んでるけど」
 
 
 
聞きなじみのある声が、後ろから聞こえてくる。
 
 
考えるよりも早く身体が動き、その人物に足払いをかけ地面に押し倒す。
 
 
 
「まさか、私達2人だけの時に私がどういう行動を取るか、忘れていたわけじゃないでしょ?」
 
 
 
いつも携帯している小銃をその男の額に押し付ける。
 
 
何度繰り返された事だろうか。
 
 
あの忌まわしい事件が起こったときから、私はこうやって1人の男を追いかけている。
 
 
 
「忘れていたわけじゃない。でも、ちょっと話がしたくて、な」
 
 
 
「へえ、いまさら謝罪でもするつもり?」
 
 
 
小銃を額に突きつけたまま、問い掛ける。
 
 
指は常に引き金にかけたままだ。
 
 
いつでも、撃てるように。
 
 
いつでも、殺せるように。
 
 
 
「フッ、馬鹿言え。俺は身に覚えなんかないよ。どうして俺が謝罪しなきゃならない?」
 
 
 
明かりのない空間の中で、その声はひどく鮮明に聞こえる。
 
 
その台詞は、私に引き金をひかせるのに、十分な理由だった。
 
 
ガゥン
 
 
 
「そう殺気立つなよ。俺はお前を挑発しにきたんじゃない」
 
 
 
暗闇の中でさえ、はっきりと輝く双眸がまっすぐにこちらを見ている。
 
 
 
「なら、そういう発言はっ!!」
 
 
 
撃つ瞬間、手首を横から掴まれ弾がそれた。
 
 
そのまま捕まえられている手首を、なんとか振りほどこうとするが全く歯が立たない。
 
 
 
「控えろ、か?だが、昔はそんな理由などいらなかったんじゃないのか?俺が何を言おうと
 
 
関係ないんじゃなかったのか?」
 
 
 
「あ・・・」
 
 
 
思わず私は声を上げていた。
 
 
自分の中の変化。
 
 
そうだ。
 
 
昔は特に考える事もなかったのに、なぜ私はヤヨイを撃つのに理由を探したの?
 
 
 
「とりあえず、俺の上から下りてくれないか。いつまでもこのままじゃ話ができない」
 
 
 
私の腕を解放して、おどけたように腕を広げてみせる。
 
 
先程までの真面目な顔はどこにいったのか、ヤヨイは軽く笑ってみせる。
 
 
 
「なによ、話って」
 
 
 
ヤヨイの上から下りながら言う。 
 
 
つい投げやりになってしまうのは仕方のないことかもしれない。
 
 
自分でもわからなかった変化を、彼に見抜かれたのが悔しかった、のかもしれない。
 
 
 
「ああ。今回の紫陽花乗艦の件なんだがな」
 
 
 
ぽんぽんと草を落とすような仕草をして空を見上げるヤヨイ。
 
 
・・・この草も本物じゃないんだけど。
 
 
 
「何を迷ってるか知らないが、いい加減、軍に縛られたまんまってのはヤメにしないか?」
 
 
 
星空を見上げたまま、こちらを見ずに話を続けるヤヨイ。
 
 
 
「戻る所がないなら、これから作ればいい。戦う事だけがすべてだったなら、これから見つければ
 
 
いい。まだまだ人生先は長い。人形のままで終わるより、血の通った人間として、少なくとも俺は
 
 
人間として生きていたい。だから・・・」
 
 
 
「紫陽花乗艦を決めたってわけ?」
 
 
 
「ああ。お姫様を守るナイトってのも悪くないなってな」
 
 
 
「・・・幼女趣味」
 
 
 
「馬鹿!そんなんじゃないって!!」
 
 
 
半ば冗談の一言に過敏に反応するヤヨイ。
 
 
そのリアクションじゃ事実と思われても仕方がないとおもうんだけどな。
 
 
 
「・・・それで、どうするんだ?ホシノ少佐が言った通り、強制はしない。でも、俺としては、お前にも
 
 
来て欲しいんだがな」
 
 
 
また星空を見上げ、問い掛けてくる。
 
 
暗くてよくわからないけど、おそらく真面目な、戦場にいる時と同じような顔をしているのだろう。
 
 
この急激なギャップにも、いつのまにか慣れている。
 
 
それだけの時間をこいつと共有していたのかと思うと、少し複雑だ。
 
 
春夏秋冬。
 
 
それこそ暇さえあれば、狙いに行っていたような気がする。
 
 
 
「それって、プロポーズでもしてるつもり?」
 
 
 
「茶化すな。俺が艦長という立場上、使えるパイロットは多いほうがいい。それだけだ」
 
 
 
「それだけ、ね」
 
 
 
そんなにはっきりと言い切られても、なんか寂しいんだけどなあ。
 
 
なんか、ホシノ少佐と比べて思い切り扱いが違うような気がするんだけど・・・
 
 
 
「そろそろ部屋に戻らないか?明日の準備もしなきゃだしな」
 
 
 
「明日って、まだ私は行くなんて言ってないけど」
 
 
 
「じゃ、これからもよろしくな。お互い、上手くやってこうぜ」
 
 
 
全く人の話を聞いてない。
 
 
聞かないだけならまだしも、勝手に決めちゃってる。
 
 
 
「だーかーらー、私は・・・」
 
 
 
「私は?」
 
 
 
「う・・・」
 
 
 
薄い笑みを浮かべながら、ヤヨイが言い返してくる。
 
 
こちらが言い返せないのを見越して、だ。
 
 
意地が悪いとしか言いようがない。
 
 
 
「・・・いじわる」
 
 
 
「それは、昔からわかってた事だろ?」
 
 
 
バーチャルルームから出ようとしていたヤヨイが振り返って笑う。
 
 
 
「それじゃな、また明日。頼むぜ、副長殿」
 
 
 
ひらひらと手を振って出て行くヤヨイ。
 
 
1人取り残された形になった私は、ふと夜空を見上げた。
 
 
なにもかも包み込んでくれそうな優しさが、そこにはある。
 
 
 
「軍を抜けても、何も変わらない。だったら、ヤヨイの言うようにここで探すのも、悪くないかもしれない」
 
 
 
夜空に向かってひとりごちると、私はバーチャルルームを後にした。
 
 
 
明日の出航のための準備をするために。
 
 
 
 
 
 
 

あとがき。


 
 
えー、どうも、ついにダメ人間の仲間入りをしてしまった紫月です(笑)
 
最近、とある趣味の方に人気な、はじめてのおる○ばんをプレイしましたが・・・
 
なんなんだ一体!?
 
主人公っ、貴様、人としての良識はあるのかっ!?
 
・・・っと、余談は置いといて・・・
 
 
長らくお待たせしてしまって、本当にすいませんでした。
 
大学入試やらそれにともなう引越しなど、色々な事があって、全く書くことが出来ませんでした。
 
今後はそんなことのないよう、誠心誠意努力していく次第です。
 
さて、話の方なんですが、今回、機動戦、格闘戦、共に書いてみました。
 
難しいぜちくしょうっ!!
 
なんて、言っていられないので、なんとか書き上げました。
 
と言う事なんで、戦いに関しての描写や、全体を通してのご指摘、ご指南等ありましたら
 
ぜひメールして下さい。
 
もちろん、感想でも大感謝です。
 
それでは、このあたりで失礼します。
 
このような拙い文章を読んで下さって、本当にありがとうございました。

 

 

代理人の感想

人としてアレはこの世から排除すべき存在です。

さあ、今すぐCDを叩き割り汚染されたHDを初期化しましょう。

 

という余談はさておき(核爆)。

 

ちょいと小粋なヤヨイ君と一途なホタルちゃんの会話がなかなか。

・・・・ひょっとしてヤヨイも駄目人間の仲間入りですか(爆笑)?