大黄金時代にして大混乱時代にして大暗黒時代の只中にあり混沌が渦巻く世界。
これはそんな世界の片隅にある1つの街で繰り広げられる、とある科学者と技術屋の血と汗と涙と油にまみれたドロドロなお話である。
変態科学者と技術屋とロボっ娘と
某所、某刻。
科学薬品の臭いが漂い、機会音が鳴り響く薄暗い部屋の中で、1人の男と少女が熱く語り合いに励んでいた。
否、一方がただ叫んでいた。何故かエレキギターをかき鳴らしながら。
「ふ〜む、やはぁり、この大! 天! 才! たる我輩の口に合うのは食物はそうそうない物であるなぁ。
二グラス亭が休みでなければ店の端から端までのメニューを全て頼み、むさぼり尽くす覚悟もあろうというのに。
これはやはり我輩が偉大すぎる為、神が与えたもうた試練なのか。嗚呼、なんと罪作りな我輩。禁固刑500年は免れぬ運命か!?」
「博士、五月蝿いロボ」
ゴンッ!
鈍い音と共に、男は鼻血を噴出しながらキリモミ状に飛び上がり天井に激突。そのまま重力に逆らうことなくまっ逆さまに急降下。
胴体着陸を無理矢理実行させられ、結構なダメージを受けてもんどりうっている男の名はドクター・ウェスト。
天才と名乗らない日は無いが、変態科学者と言われる日も毎日という男だ。
一方、男をぶっ飛ばしたのは小柄な少女。しかし、握られた拳は闘士を思わせる気質を放っている。
語尾に何故か『ロボ』と付ける少女の名をエルザという。
「おご…ぐぁぁっ……エ、エルザァァァァッ! いきなり何をするのであるか!
危うく五臓六腑に染み渡りつつも、お腹と背中がくっついてペッタンコー風味になるところを寸前で回避した我輩はとっても素敵!
しかぁし! 生みの親に対するこの仕打ち。いったい、いかなる事情がおありか!?」
「なにを言ってるロボ。エルザが折角電話して出前を取ってやったのに、博士がケチを付けたからだロボ。当然の仕打ちロボ」
仁王立ちで変態科学者を睨むエルザ。何を隠そう、彼女はウェストが作り上げた人造人間なのだ。
「変態と天才は紙一重」。どこからの誰かが常々そう言うのも日常茶飯事だったりする。
「ふふん、見くびるなよエルザ。こう見えても我輩、食通の中では結構名が知られているのだ!
我輩に会った人々は口々にこう言う。アナタが王では微妙だと。イァァァァァ! やはりこの大! 天! 才! に愚民は畏怖してしまうのかぁ!
というか、伸びてるラーメンは100人が100人マズイって言うと思うなボク」
「だったら最初から食うんじゃねえロボ。あーあ、評判の中華飯店のラーメンがオシャカになってるロボ。
もったいないオバケが出たら『のし』付けて即座に差し出してやるロボ」
『日々平穏』と書かれたドンブリを部屋の外に出しておくエルザ。
本来ならば後で店員が取りに来るのだが、回収率は何故か五分五分らしい。
「まあよい! だがエルザ、これだけは心して聞け!
料理はハート! 料理はテクニック! 料理は時によってパワフルに! つまり心! 技! 体!
それすなわち生命の危険信号が赤ランプに達する程のドツキ合いにより生まれる、友情・努力・勝利に繋がる至高の境地!
だからこそ、我輩の最高傑作であるエルザ、我輩はお前にこそコレを理解してもらいたい! むしろ切望!
幸い、お前には技術も力もある。残るパーツはそう! ハート! 愛! ラァァァァブ!!
そこで我輩は考えた。エルザが我輩を『愛しの人☆』として尽くすという行為で、全てを兼ね備えることが可能になるのではないかと。
というわけで、エルザ! 我輩の熱い胸板にダイブを許す…こぉぉぉぉぉい! そして我輩の胃袋に至高の一品をプリィィィィィィィズ!」
「ふざけんなロボ。この場で肉塊になりたくなかったら、今すぐその口を閉ざすロボ。なんなら手を貸すロボ」
口よりも先に手が動くのか、エルザはどこからともなくトンファーのようなモノを取り出し、殺る気満々でウェストを標的に定めた。
殺意の気配をかもし出す彼女に、および腰になりながらもギターを弾き鳴らし誤魔化しに余念が無いウェスト。
そんなウェストに構うことなく、エルザはエモノに仕込まれた銃口をウェストの鼻先に当てがった。
「ぬぉあ!? エ、エルザ待つのである! お、落ち着け! 落ち着くのである!
常にご近所で天の申し子と噂されるこの我輩といえど、そんなモノを喰らったら、やたらと風通しが良くなってしまうのであーる!
エルザ、良い子のお前なら分かってくれるな?」
「分かんねえロボ」
そして始まる銃の乱射。改造トンファーに仕込まれた銃口が絶えず火を放つ。
勿論、ウェストの取る選択は逃げ惑うのみ。
「ノォオオオオオオオォォォォォッ!!! NOォォォォォォォッ!!!!」
銃口から発射された銃弾の雨は、獲物を喰い尽くさんと逃げ惑うウェストに襲い掛かる。
ウェストが逃げた先の床は剥がれ、実験用具は粉みじんと化していく。ゴミ溜めと化していた研究所は更に腐界へと変貌していった。
「エルザ、ストォォォップ! 我輩はしばしの休息を所望する! タィィィィィムアゥゥゥト!!
早い話が心臓がバックバックと早鐘の如く鳴り響き、このままでは我輩凄い勢いでマズイっぽいですよ!?」
「じゃあ、さっさとトドメさしてやるロボ」
ズゴォォォォォォン!!!
何故か既に持ってるバカでかい大砲から発せられた問答無用の一撃により、ウェストを中心に辺り一面が木っ端微塵に破壊された。
勢い任せでウェストは天井を突き破り大空へと舞い上がる。
「ぬおああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
そのまま上昇気流に乗ってどこまでも遠くへと飛び上がりゆくウェストをエルザは眩しそうに眺めた。
「ん? エルザ、ウェストの野郎はどうした?」
そんなエルザに声を掛ける人物が1人。
その人物は油で汚れたツナギ服を着込み、大小様々なガラクタとも思える機械が詰まったダンボールを抱えながらこちらへと歩いてくる。
エルザは振り向きもせずに、さも当然とばかりに答えた。
「博士は大空に舞ったロボ」
「…またかよ」
ツナギ服を着た男はエルザの背後に立ち、呆れ果てた表情をしながら天井に開いた人型の穴とエルザの持つ大砲を交互に眺め溜息を漏らした。
「は〜…嫌なこと思い出しちまった…」
「ロボ?」
エルザの疑問の声はツナギ服を着た男に届かない。何故なら、彼の胸中では様々な想いが巡っていたからだ。
一昔前。どこかの街。その裏通り。
ある日、ウェストはフラフラとおぼつかない足取りで幾分かひび割れたアスファルトの上を歩いていた。
しかし、何故か手にはエレキギターが握り締められ、指はひたすら動きまくり大音量のエレキ音を撒き散らしている。
「くぅぅぅぅー! いったいここは何処なのであるかー!?
気まぐれで路上ライブを試みた結果、未開の土地に足を踏み入れてしまった我輩。
さながら迷える子羊ちゃん? キャー助けてー我輩食べられちゃう〜☆
これはもう哀しみの旋律を響かせ、世にはびこる愚民共に我輩へ暖かな手を差し伸ばしてもらおうか!
助けてくれた方から先着順に、もれなく特別にサイボーグ手術を施し、我が下僕として馬車馬の如く一生コキ使ってやるのであーる!
さあ聴け! 我輩の悲しみの歌を! 聴け! 我輩の慟哭を! 聴け! 我輩の悲痛な叫びをー!」
目に涙を浮かべ、帰り道の分からなくなったウェストは、周辺住民の迷惑も顧みずにエレキギターの音波を撒き散らす。
しかし、それを止めたのは、近所のオバチャンでもなく、チャリンコに乗った警官でもなく。
チュゴォォォォォォン!
「ぐぶおぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ウェストを中心としたド派手な爆発音だった。
「あーわりーわりー。うっかり、リリーちゃんのミサイルを暴発させちまったよ。しっかし、さっきの超音波は一体なんだったんだ?
アレのお陰で思わず手が滑っちまったよ。ったく」
向かいの町工場から顔を出したツナギ服を着た男が、ブツブツと文句を垂れながら、後ろ頭を掻きつつ歩いてくる。
爆発の中心地にはちょっぴりコゲたウェストが痙攣をしながら仰向けになっていた。
「おー兄ちゃん、生きてるかー?」
「な、なにをしやがるか貴様ー! 我輩に向かってミサイルの洗礼をお見舞いするたあ…さては貴様、敵だね? つーか、悪だね?
よーし、そこを動くんじゃねえぞぉ! この我輩自ら、ネチネチと陰険さが漂う方向で殺ってやるので覚悟しやがれぇ! 御命頂戴仕る〜!」
コゲた身体に鞭打って、無理矢理立ち上がり、エレキギターを掻き鳴らしながら抗議の声をあげまくる。
ツナギの男はあまりの事に暫く呆然としてしまうが、どうにか声を掛けることに成功した。
「あー…そこの存在自体が非合法みたいな兄ちゃん」
「な!? ななななななななナンデスト!? 今、なんと言いやがりましたか貴様!
返答次第では法という武器を巧みに使い、真実を捻じ曲げて世から抹消必至であるぞ?
くぉぉ…我輩のこの快進撃はどこまで続くのであるかー!? 怖い。我輩の才能が怖い。ああっ、我輩ってなんてトレビアン!」
「とりあえず中に入れや。怪我の手当てと茶くらいは出すぞ」
「あ、すまんね」
ウェストの熱き勢いはツナギの男に受け流されてしまった。
「おおっ、貴様中々渋い趣味をしているではないか。さては影の実力者か?」
ウェストは怪我の手当てのさながら、周辺を埋め尽くす様々な物体に目を奪われていた。
それは自分の作り出す芸術品とは多少違う性質を持つものの、どことなく惹きつけられるモノがあったからだ。
「なんだ兄ちゃん、こういうのに興味があるのか? そうよ、これこそ我がウリバタケ工房が贈る究極の一品達だ!」
ツナギの男、ウリバタケ・セイヤが両手を広げ、自らの芸術品達を紹介し始める。
ウェストはウリバタケの言葉を真剣に聞き、頷いていた…が、それはほんのひと時のことだった。
「ぶぁっはっはっはっは! こ、これが究極ですと? ふははははは! やはり庶民の考え出すモノはこれが限界か。
この世紀の大! 天! 才! ドクタァァァァァッ! ウェェェェェストッッッ! には到底及ばないのであーる!」
「な、なにぃ?」
「む? もしや我輩の名を知って畏怖したのか? 驚いた? 驚いちゃったの? ぶはははははは! 無理もない。
凡人から見れば我輩のような大天才にお目にかかることなど無にも等しいであるからな!
よし、我輩を敬うことを許そう。さあ、思う存分我輩を奉れ。 さあ! さあさあ! さあさあさあさあさあ!!」
ウェストはバカ笑いを上げながらエレキギターを弾き鳴らし、自らに陶酔する。
あまりのハイテンションぶりに、またも呆然とウェストを見つめてしまうウリバタケだったが、状況を理解するや否や猛然と抗議の声を上げた。
「て、てめえ! さっきから聞いてりゃ好き勝手言いやがって! だったらテメエはどうなんだ。俺以上のモノを造れるってのか? え?」
「ぬぬぬぬわにぃぃぃぃ!? き、貴様、この大! 天! 才! たる我輩に向かってなんたる暴言!
舐めるな愚民。まあ、我輩にそれだけの暴言を吐くその度胸だけは買ってやるのである。
しかぁし、我輩の考える究極のマッスィィィィンを見て、ほえ面かいても知らぬであるぞ?
これがその設計案、『先行試作型破壊ロボ・スーパーウェスト無敵ロボ二十八號(色塗りナシはお約束よ)』の見取り図である!
さあ、活目して見よ! 見やがれ! 見て泣けぇ! へへーん」
ウェストが懐からぶ厚い用紙の束を取り出し、ウリバタケにやたらと丁寧に手渡す。
半信半疑の表情でその用紙に目を通していくウリバタケだが、みるみるその表情は変化していった。
「こりゃあ…」
「ふっ、驚いたか。どうだ。このような素晴らしい設計など貴様には出来まい。
ああ、我輩って本当に凄い。周りからの目線が我輩の背中に突き刺さる。
あ、痛い痛い! は、刃物の類はご勘弁であーる! でも、ちょっぴりクセになりそう…これはまさか新たな目覚め!?
さあ、文句の1つでも付けられるものなら付けてみろ! ぶははははははは!!」
「失敗作だな」
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!」
途端、絶望的なギターの音色と共にウェストは悲鳴をあげた。あまりの騒音に湯のみに亀裂が入っている。
そんな些細なことは気にも止めず、ウェストはウリバタケに焦りまくった顔を近づける。推定距離2センチメートル。
「ど、どこどこ?」
「少し離れろ。そのまま俺のピュアな唇に触れようもんなら、容赦なくえぐるからな?
それより、ほらここだ。全体のバランスが悪すぎる。このまま造ったらすぐに自滅しちまうぞこれ」
言われた箇所をなぞるように目で追いまわす。その点に気付いたのか、ウェストはあからさまに不機嫌な顔を作り考え込んでしまう。
「むぅ…おかしいであるな。我輩の頭脳をフル稼働し設計した兵器に欠点などあり得ない筈なのであるが…」
「オメーの自信過剰はもういい。まー確かにコレは一見完璧なんだがな…。それとな、コイツにはもう1つ目に見えない大きな欠点がある」
「なに? まだ何かあるというのか。言ってみろ愚民。聞いてやるから」
「浪漫が足りねえ」
「…ロマン…?」
「そうだ浪漫だ! 世間一般では男の浪漫と言う!」
「それはどこの狭い世界の世間一般であるか? 初めて聞いたのである」
「うるせえ! 破壊兵器なら浪漫の代表、ドリルの1つでもつけやがれ! なんだこりゃ? 武器が飛び道具だけなんて俺は認めねえぞ!
ロボットにはドリル、ロケットパンチは当たり前! 出来るなら合体分離もこなし、究極変形もしてみやがれ!
更にはパイロットに美少女は必然! これこそ浪漫! 男の追い求める永遠の憧れ!
オラ、この一瞬で設計図を書き換えてやったぞ! 見ろ! そして浪漫を知れ!!」
ビシッとウェストの眼前に訂正個所だらけの設計図を突きつける。
なにげに「赤ペン先生印」となっているのは永遠の謎だ。
「な、なんなのであるか、その会心のスマイルは。大体、これ以上加える要素な………」
「お? どうした、話半分で黙りこんで。そんなに俺の言葉に打ち震えたか?」
「くふぉぉぉぉぉぉ!? 我輩のハートを鷲掴み!!」
「な、なんだ!? 脳が沸いたか!?」
猛然とギターを掻き鳴らし大絶叫のウェスト。さすがのウリバタケも一歩引いていた。
「なんたる盲点! このような素晴らしきオプションがあったとは! よし、コレをすぐに重箱に詰めてくれ。テイクアゥゥゥゥゥト!
ぬぅぅぅぅ…ベスト・オブ・ジーニストを目指す我輩としては後悔ばかりが先走る思いであーる!」
「オメー、ジーパン掃いてねーだろ」
「ハッ!」
「まあいい。とにかく、それでいってみろ。まあ、この通りに造ればイイ出来になるかもな」
設計図を指し、固まったままのウェストを見据えるウリバタケ。
その目は真剣そのもの。まさしく仕事人の目だった。
「ふん…見くびるなよ。『かも』ではない、『出来る』のである。.後は材料と時間、そして情報さえ加われば完璧なのである」
「へぇ〜…」
「わー反応薄ー。信用ねー」
ウリバタケの淡白な反応にウェストはとっても寂しそうに体育座りをしながら悲しみの旋律を響かせる。
一方のウリバタケは暫くウェスト作の設計図とにらめっこをしていたが、何かに思い至ったのかイジケるウェストに目を向けた。
「なあ…もし、もし出来ればだけどよ、良かったらコレの設計さ、俺にも手伝わせてくれねえか?」
「はいぃ?」
予想だにしない発言に、ウェストは髪の毛を「?」にしながら目の前で真剣な表情をする男を見返した。
よくよく見れば、瞳が燃え盛っていたりする。
「見てわかるだろうけどよ、俺もこと改造に関しては結構やってるが、イチから物を作るのにも憧れてんだわ。
けどなぁ、いろんな面で障害があってな、このままじゃあ何時出来るかどうかもわからねえ。
本当だったらこういうのは人に頼っちゃいけねえのはわかる。だけど…」
「わかった。皆まで言うな」
ウェストはやたらと男前になりながらウリバタケの肩をポンと叩き、最高の笑みを作った。
途端、ウリバタケの表情は花が咲いたようにほころぶ。
「じゃあ」
「やだ」
一瞬にして、この場は春爛漫から氷河期へと突入開始。ブリザード級の寒風が吹きすさんだ。
2人は沈黙したまま、互いに睨み合う。
「へへへへへ…」
「ふふふふふ…」
どちらからかはわからない。笑いあいながら、全身から変なオーラをにじみ出し始めた。
「勝負だこのやろう! 俺が勝ったら大人しく手伝わせろ!」
「ふはははは! 身のほど知らずが!
ならば我輩が勝った暁には、最近開発した洗脳装置の実験者第一号に抜擢してやるのであーる。感謝しろ!」
「上等だ変態兄ちゃん!」
「むぉぉ!? だ、だーれが変態だ! もう許さん! さあ、往くぞ! 燃えろ! 燃えるのだ我輩のハァァァァァトッ! レェッッッツプレェイッ!」
ウェストがエレキギターを掻き鳴らしたかと思うと、突然背後に何かがせり出してくる。
ウリバタケはそれを見た瞬間、凍りついてしまったかのように動きを止めてしまった。
「ふはははは! さあ、貴様の家族を人質に取ったぞ! 動くんじゃねえぞオラオラぁ!!」
「いきなり人質かよ!」
「手段は選ばん。これこそ、我が悪道の真髄であーる」
「よし、わかった。こうなったら動きまくる所存なり!」
猛然とウェストに向かいダッシュを始めるウリバタケ。何故かウキウキしているように見受けられる。
「ぬおおおおおおおおおおお!? しょ、正気か!? まさか巷で噂の血も涙も無い輩か貴様!」
「へっ、今更そんな脅しが効くと思うな! つーか、むしろ滅ぼせ。アレ」
「………言葉も無いとはこのことであーる」
呆然とするウェストに標的を定め、ウリバタケは懐から謎の機械を取り出しおもむろにスイッチを押す。
すると、工房の片隅にあった人型サイズの箱が揺れ動き、次の瞬間 箱から銃弾の雨が飛び出した。
「うおおおおおおおおおお!? う、撃ちやがった! 人質が居るのに本気で撃ちやがった!! なーんて奴であるか!」
「ワハハハハハ! 見たか! ウリバタケ特製兵器の数々を! 俺様が丹精こめてブローアップしたモンはそこいらのとは一味違うぜぇ?
そんな中で、こんなこともあろうかと、あ、こんなこともあろうかと造っておいたパーフェクトリリーちゃん3号Ver1.38! これぞ俺の最高傑作!
我が愛するリリーちゃんにエステ用の武装を人間サイズまで縮小した上、全てのフレームの要素を集結させた究極のフレームを搭載!
見たか! すげえだろ! 貸さねえぞ? さあリリーちゃん、なにもかも粉微塵にしちまえー!」
「結局、それだけ武装しても体当たりが最も強いのであろう?
エステバリスというのは最強の攻撃が体当たりだというではないか。全く、美学のカケラも無いとはこの事であーる」
「あ、謝れ! 俺だけじゃなくて色んな人に今の発言をしたことをまんべんなく謝れ!!」
そして意味不明な言動を発しながらウリバタケは総攻撃を開始した。周辺はもう完全に戦場だ。
もはや工房などは跡形もなくなっている。ついでにウリバタケの理性も跡形も無い。
「むおおおおおおおお!! も、問答無用とはきったねえやり口であるな! さすがの我輩もちょっと引いちゃったのであーる」
「人のこと言える立場か!」
「まー逆切れ? いやーねー」
「ほんっとムカツク奴だなオメエは!」
「はぁ? ムカツクぅ? 何であるかソレは。新しい発明? 特許は取得済?」
「ぐあ〜〜〜〜!!!」
ウェストの馬鹿にしまくったセリフに、本気で怒りをあらわにするウリバタケ。
高笑いを続けるウェストだが、白衣をクイクイと引かれ、背後を振り返った。そこに居るのは、現在人質中のウリバタケの奥さんの姿。
「もういいです。もういいですから。だからいっそのこと後腐れのないように、あの人を粉微塵にしてやってくてさい」
「…あの、奥さん。突拍子も無く、いきなり我輩を家庭崩壊に加担させるのは止めてほしいのであーる」
「やられたらやりかえす。これ世界の常識。覚えとけ変態」
「……あんた等夫婦の常識はいったいどうなってるのであるか?」
「「よく言うだろう、『無理が通れば、道理が引っ込む』と!!」」
「………さ、殺意が満ち溢れているのであーる…」
背後でうずくまりながらも、しっかりウェストを盾にしてウリバタケの奥さんは凄惨な笑みをウェストに見せつけた。
ウェストの膝がプルプル震えていたりするのは本能からの警告だろう。
「なにはともあれだ。オイてめえ! 俺様に向かって随分と言ってくれたじゃねえか。覚悟出来てんだろうなぁ?」
「五月蝿いわよアンタ! いつもいつも好き勝手。今度という今度は我慢の限界だよ! 覚悟するのはアンタの方じゃないのかい?
まあ、アンタの作るヘボ機械なんかにやられるアタシじゃないけどねぇ」
「なにぃ!? 聞き捨てならねーな。なに? 俺の作り出した愛すべき発明品が、お前の握り締めるベビー用品にも劣るだぁ?
面白れえ…勝負してやろうじゃねえか」
「まあ、その度胸だけは買ってあげるよ。でもね、アタシの実家に伝わる秘儀の数々を受けても笑っていられるかしら?」
「ケッ、ぬかせ! 俺はおめえをぶち倒し、自由を勝ち取る! 自由を我が手に!!」
燃え上がる2つの闘志。そして、みなぎる力。ウリバタケ夫妻の闘争は今ここに始まった。
「我輩、もしかして修羅場に巻き込まれてる…? そしてやっぱり待ち受けるのはお約束? ぬぅ、キツイっすねソレ」
ウェストはひたすら置いてけぼりになっていた。
「「そこ邪魔ぁ!!」」
ズゴシャアアアアアアア!
「ぎゅぶらあああああああああああああああ!!!」
ウリバタケ夫妻の超絶アタックを喰らったウェストは、ウリバタケ工房の壁を突き破りどこかへと消え去ってしまった。
当然、2人は未だに闘争の真っ最中。
この争い、丸一日続いたという噂は翌日ご近所さんの間で賑わうことになる。
「という訳で、勝者たる俺はここに居るわけだ」
「…博士が更に変な方向に逝き始めたのは、その頃からだったロボね」
「へっ…ウェストの野郎に燃えとは漢とは、そして萌えとはなんなのかを延々教授した熱き7日間は今でも忘れなれねえぜ」
「うわ〜凄まじく聞きたくねえロボ」
おもいっきり眉毛を八の字にさせ、顔を歪めるエルザ。これ以上語らせまいと、砲門をウリバタケの鼻先に突きつける。
一触即発の雰囲気が漂ったが、突然起こった悲劇に場は尚混乱した。
「見よ、我輩のオリンピック選手に勝るとも劣らない華麗な…ブゥゥゥゥゥメラァァァァァァァン!!!!」
ガシャァァァァァン!!
「なんじゃぁぁぁぁ!?」
「ロボ〜〜〜〜〜〜!?」
窓を突き破り舞い戻ってきたのはドクターウェストその人。
しかし元気に戻ってきたその当人は突然死にかけていた。
「ぐぉぉ…ガラスの破片が身体中を駆け巡る…色々とトラウマになりそうですよ?」
「博士ー」
見かねたのか、エルザが仰向けに倒れ付すウェストに駆け寄る。
途端、ウェストは地獄の底で仏様を見つけたような表情を作った。
「オオッ、エルザ! 業界初の偉業を成し遂げた我輩の為、わき目も振らずに駆けつけたのであるな。
だが、心配するなエルザ。こう見えても我輩、巷ではちょいと知られたファイターなのだ。
頑丈さだけはどこぞの筆箱の上をいくともっぱらの噂なのであーる。あ、ちなみに我輩のファイトマネーは不要であるぞ?」
「跳び膝蹴りロボー!」
ゴギッ!
至福の表情でエルザを迎えようとしたウェストの首元にエルザの左ヒザがクリーンヒット。
あんまり出てはいけない音がウェストから出てしまった。
「おごおおおおぉぉぉっ!!」
ウェストは勢いそのままに海老反り状態を維持しつつ壁際まで転り、その辺のガラクタに突っ込み沈黙。
途端、何故か『只今リカバリィ中』の立て看板が出現していた。
「ふざけた事ぬかすと厚みが無くなるくらい殴るロボよ?」
「いや、それもヒデエが蹴りの方も十分ヒデエと思うぞ」
「窓ガラスを粉微塵にした罰ロボ」
「オメー、さっき大砲で天井に大穴空けなかったか?」
「過去に捕らわれちゃ駄目ロボ」
「我輩、死にそう…」
ウェストはリカバリィが追いつかないのか、黄泉への旅路の準備段階に突入を始めていた。
「しかしまた随分とダイナミックで身体張ったご帰還だな。アメリカンスタイルにでもモデルチェンジしたのかウェスト」
「何を言うんだロボ。博士がモデルチェンジしようものなら、それこそ手が付けられないロボ。
そうなったらエルザは容赦なく博士を消滅させる覚悟ロボ。大丈夫、博士ならきっと分かってくれるロボ」
「ひ、酷いであるぞエルザ! そ、それが生みの親に投げかける言葉であるか!?
あまりに、それはあまりにも惨い仕打ち! ああっ、我輩のロンリーハートはブレイク寸前!」
「うるせえよ。んで、何があったウェスト」
ウリバタケが問い掛けると悲しみのギターを掻き鳴らしていたウェストは表情を一変させた。
その顔は待ってましたと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべている。
「おうよ。ついさっき入った情報によると、例のヤツラが動き出したとの事だ」
「出撃か」
「ふふふ、無論だ。往くぞエルザ!」
「ロボ」
「我輩とエルザ、そして我輩の弟子であり、舎弟であり、助手であり、下僕でもあるウリバタケ・セイヤの力があれば向かうところ敵ナシであーる!」
「俺は技術屋だ」
ウリバタケはメガネを光らせたかと思うと、物凄い勢いで特製巨大スパナを一閃。
勿論、標的となったウェストは問答無用でぶっ飛ばされ、ゴミ貯めに再突入した。
「ったく、テメエにはあの条件を呑んで協力者として手を貸してるだけじゃねえか。勝手にオメエの所有物みたく言うんじゃねえ」
「ぬぅぅ、冗談の通じない奴であるなぁ。まあよい。だが、お前と我輩には共通の想いがあるであろう?」
「ちっ…それを言われたら何にも言い返せねえだろうが」
「まあよいではないか。それによく言うであろう。昨日の敵は今日の友と…故に我輩達は既にツーカーの間柄?」
「はあっ! そ、そうか! つまりは以心伝心ってやつだな」
妙に納得したのか、ウンウンと頷くウリバタケ。そして滝のように涙を流し、あさっての方向を眺めるウェスト。よくわからない空気が流れていた。
「いつの間に義兄弟の杯を交わしたんだロボ? それより共通の想いってなんだロボ?」
「聞きたいかエルザ」
「すげえ嫌な予感が胸中を過ぎる思いがするロボが、一応聞くロボ」
「それは…」
「それは?」
「「アンドロイドな娘ッ子を造ること! これぞ男の浪漫!!」」
腕を組み、2人は声も高らかにそう宣言した。そして2人はガッチリと固い握手を交わす。
ウェストは歯を光らせ、ウリバタケはメガネを光らせ、不敵な笑みを浮かべる。
「…」
しかしこの時、エルザの思考回路は1つの結論を導き出していた。
エルザは男の浪漫
↓
エルザを色々好き勝手
↓
エルザは欲望のはけ口
↓
エルザ = 奴隷
↓
死
エルザの考えなど露知らず、2人の妄想は加速し続ける。
「だが、まだまだである! 更に男の浪漫を付随するのである! それこそ真の強さに近づく為の第一歩!
なんてひたむきな我輩。ファンレターは24時間受け付けているのでご遠慮なくなのであーる!!」
「勿論だ! そして敵に負けた時は服装ボロボロで退場! 見えそで見えない。これぞ浪漫! これぞ俺達のジャスティス!
それに昔からよく言うだろう? 『規則と女の子の服は破るためにある』と! ブラボー! 男の浪漫! ビバ! ロボっ娘!」
両手を握り締めつつ天高く両拳を突き上げる。2人は今、正に最高潮だ。
「「燃えて、萌えて、世界制覇! YHAAAAAAA!!」」
そんな時、『ぷっちん』という音がどこからか聞こえた。
その発生源たる人物は凶悪という代名詞が似合いそうなエモノをバカ2人に向け、無表情で引き金を引いた。
「死ねロボ」
ちゅどごぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!
「「ギャァァァァァァァア!!」」
2人の妄想人は空高く舞い星に帰ったと、エルザは今日の日記に書いたとか。
「エルザ、ご苦労様。お茶飲む?」
「ロボ」
ウリバタケの奥さんは、今日ものん気に監視カメラの映像を見つつ、お茶を淹れていた。
あとがきだったり。
何を書いているんだろうと小一時間ほど頭痛を迎える今日この頃。いかがお過ごしでしょうか。私はとっても頭抱えてます。
こんにちは彼の煤iかのしぐま)です。
さて、なにを間違ってか、こんなものをお送りしてしまいました。
コレは、ナイツさんの書く「N-デモンベイン」の外伝という形で書かせてもらいましたが…外伝にすらなっていないような気がします。
何故にコレを送ることになったのかというと…。
某所。某日。とある2人が電話で語らっていた。
「難しいもん書いてますね〜。ネタだったら出来る限り提供しますよ?」
「じゃあいっそのこと外伝を書いたらどうでしょ? ウェストのセリフもいつも通りに書けばいけるのでは?」
「あー壊れセリフなら確かにいつものことですしね」
「じゃあ、書きましょう」
「え〜」
「書きましょうよー」
「ええ〜」
「書け」
「Yes,Sir!」
※結構脚色はあります
…なにOKしてる自分。教訓:「後悔先に立たず」
久々のSS書きでネタを集めて書いて、またネタを集めてなんてのを繰り返して…。疲れました。楽しかったですけどw
もういろいろスミマセン。ナイツさん、ご満足デスカー?
では〜。
代理人の感想
奥さん、いつの間にあんな人に(爆)。
ああ言う亭主と結婚しているとは言え、ナデシコでも数少ない常識人だと思っていたのにっ!
まぁ、Σさんにネタにされたのが運の尽きってことですなぁ(なむなむ)。