「…機能回復、ようやく降下軌道取れます」
「よ、よぉーし!行っきましょー!」
ユリカは戸惑いながらも元気一杯だ。
「はい、ミナトさん突入用データです」
「りょーかい、ルリルリ♪」
「え?……またあだ名?」
「ふふ…さぁてみんな準備はいいかしらぁ?」
お気楽だな。
「………しかしアレには参りましたなぁ」
「2度と見たくないな」
「悪夢ですね」
だがナデシコクルーには精神的ダメージがかなりあったようだ。
伝説の3号機
その11
ウイイイイィィン…
「ほらそこー!気をつけろー!」
格納庫では先の戦闘で使用したエステの整備で活気付いている。
「あーもう!ナデシコ全体の総点検だよこりゃ!?」
ウリバタケは頭を抱えながらも的確に指示を出している。
まあ、あんな事があったのだから仕方ないとも言えるが…。
「はぁ…これでプロスの旦那に契約書の件、こっちの言い分通してもらってなきゃ居た堪れねーぜ全く…」
どうやら契約書の不満点は改善されたようだ。
しかしよくプロスが通したものだな。
「アレを渡しておいて正解だったか…」
どうやら裏取引が行われたようだ。
でもアレとは何なのだろうか?
「いや〜我ながら見事だったな」
自我自賛しているアキト。
だがそんなに褒めらるような戦い方したか?
「うむ、勝利を祝って何か飲むか………む〜『特製!大麦小麦揉みしだき!』が無いな」
「何それ?」
「お?何だお前らか」
何時の間にかリョーコ、ヒカル、イズミが背後に来ていた。
「何だとはご挨拶だな。で?何だ今の不可思議な飲み物の名前は?」
「ふっ、よくぞ聞いてくれた!これはたった今オレが考えた名前だ!売っていないのが残念だ」
「有るかよそんなもん!」
「ナイスツッコミ。で、何か用か?」
「まあ用ってほどのものじゃ無いけどね。でもビックリしたな〜あんな事するんだもん」
「そうか?まあアレ位の事なら何時でもお任せだな!」
「…何で偉そうなんだよ?つーか2度とするな!次は本気で危ねえんだぞ!?それにアレはイズミが居たから出来たんじゃねーか!」
ポロン♪
「…忘れないで」
「ふっ…昔からよく言うだろう?アレはアレ、コレはコレって」
「お前なぁ…」
リョーコとヒカルは呆れている。
ペロン♪
「むむ…なかなか」
イズミは何故か関心している。
「火星突入、相転移エンジン反応下がりまーす」
「…?アレなんですか?」
メグミが疑問顔で前方の光の集合体を指しながら尋ねる。
「アレはナノマシンの集合体だ」
「なの?」
「ナノマシン、小さな自己増殖機械、火星の大気を地球の大気組織に近づける為に使用したんです」
「ふ〜ん」
「そう、ああやって今でも大気を組成し有害な宇宙放射線を防いでいるのですよ。例えその恩恵を受けるものが居なくとも」
プロスが揚々と語っている。
誰も聞いちゃいないが。
「ナノマシン第1層通過」
「…?そんなのナデシコの中に入ってもいいんですか?」
「大丈夫大丈夫!火星じゃみーんなその空気を吸って生きてたんだから!無害無害!ちゃーんと全部リバースされます!」
「「「「「「「おい」」」」」」」
確かにリバースはダメだろう。
しかし息の揃ったツッコミだ。
「…おお、そういえば艦長も生まれは火星でしたな」
「そうですよ!だから火星は私の故郷です!」
「……そうなんだ」
「…メグミさん?」
「え?ううん、何でもないよルリちゃん」
メグミはちょっと困りながら弁解している。
「よぉし!グラビティ・ブラスト、スタンバイ!」
「いいけど…どうせなら宇宙で使えば良かったのに」
「地上の第2陣も撃破します。艦首下方へ」
「りょーかい」
「のわああああぁぁぁぁっ!?」
「な、なんだあああぁぁっ!?」
「ひゃああああぁぁぁっ!?」
「ひょーーーーーー」
突然床が斜めリだした!
「どうしたんだぁ!?いきなり墜落か!?…はっそれともまさか吊っていた糸が切れたか!?」
ナデシコは昔の特撮の宇宙船か?
「はっしゃー!」
ぎゅおおおおおおぉぉぉっ!!
黒い奔流が地上のバッタやジョロ、そしてチューリップを飲み込む。
「…敵影消滅。周囲50キロ圏内に木星蜥蜴の反応なし」
「よし、ではこれより地上班を編成する」
「しかしその前に何処に向かいますか?生き残っているコロニーはもう無い筈ですが」
「まずはオリンポス山の研究施設へ向かいます。我が社の研究施設は一種のシェルターでしてね、1番生存率が高いんですよ」
「なるほど」
ジュン納得である。
「では地上班メンバーを」
「待ってくれ」
「何だテンカワ?」
「やりたい事がある」
「やりたい事?何だ?…まさかエステでフラダンスを踊りながら投げキッスをしつつムーンサルトをやりたいとか
『何でお前火星のクセに熱くねーんだよ!』とか言いながら火星に巨大ハリセンでツッコミを入れるという事はしないだろうな?」
ゴート、染まったな。
「…むぅ、ソレも捨てがたいが違う」
「そうか、では何だ?」
「エステを貸してもらいたい」
「何?」
「ユートピアコロニーを見に行きたいんだ」
「え?アキトの生まれ故郷の?」
「ああ」
「しかしテンカワさん。あそこにはもう何もありませんよ?」
「解ってるさ。でも行きたいんだ…っていうか行く」
「テンカワ!勝手に決めるな!」
「やかましい!行くったら行くんじゃあああぁぁ!!」
お前は駄々っ子か?
「でもテンカワ、アソコはもう…」
「行って来い」
「ベン師匠!」
「しかし提督…」
「確かにワシはお飾りだが戦闘指揮権はある筈だが?ゴート君」
「はぁ」
「それに故郷を見る権利は誰にでもあるものだ。……それにあそこは色々と、な?」
「あ…はい!ありがとうございますベン師匠!このご恩は1日くらい忘れません!」
1日かい。しかもくらいかよ。
「せめて1ヵ月程欲しいのう」
「むむ…じゃあコレくらいで」
「いやいや、やはりこれぐらいは貰わんとのぅ」
「くっ…じゃあこの辺でご勘弁を」
「…良かろう」
「はは!」
「……私、恩の値切りって初めて見た」
「ユリカ、多分史上初だと思うよ?」
コクコク
その場の全員が頷いている。
しかしどのくらいの期間になったんだ?
「でもベン師匠はいいんですか?」
「…お前が行けば十分じゃよ」
「…はいな」
なんだか何時になくシリアスっぽいな。
『ヒナギク行くよー!』
「おー行ってこーい。土産忘れんなよー」
『有るかそんなもん!』
「…ケチ」
『お前はああぁぁっ!!』
『ほらほらリョーコ行くよ?』
『全く、後で覚えてろテンカワ!』
そう言い残しヒナギクが発進していく。
「安心しろ、絶対忘れるから気にするな!」
「いい根性してるよ全く」
「おお、タイヤ班長すまんな」
「構わねえよ、事情は聞いてるからな。ほらさっさと行って来い」
「おう!」
意気揚々とアキトが出発準備に取り掛かる。
「アキトさん♪」
「ぬお!?メ、メナードか。どうしたんだ?こんな所に?」
「こんな所で悪かったな」
「私も連れて行ってください」
「は?何で?」
「無視するなよ」
ウリバタケすっかり蚊帳の外である。
「アキトさんの故郷が見たいんです」
「そうか?何にも無いと思うぞ?しかも観光名所は河童の出る水溜りだぞ?」
火星に河童なんて居るのか?
「とにかく連れて行ってください!」
「解った解った」
「やったー!」
「もうさっさと行け」
まだ居たのかウリバタケ。
「わあー気持ちいいーアキトさんの生まれ故郷って遠いんですか?」
「ああ、大体北か南か東か西の方向に3昼夜程進めば辿り着く可能性は998ヘクトパスカルだ」
「何で方向が全方位で3日掛かって可能性が気圧なんですか?」
「多分それ位かと思ってな」
「…全然解らないんですけど」
「修行が足らんぞメナード」
「修行でどうにかなるんですか?」
「なる!」
「本当に?」
「ああ!」
「可能性は?」
「148リットルといった所か?」
「何故容量なんですか?」
「お前が聞いたんだろうが!」
「私が聞いたの可能性のパーセンテージです!」
「そうならそうと言わんかい!」
「普通可能性だったらそうなります!」
「なにぃ!そうなのか!?」
「アキトさん、本気ですか?」
「なのましんのそらがきれいだな、めなーど」
「セリフが棒読みですよ…」
そんなやりとりが有ったとか無かったとか。
「問題ですよねぇ…」
ユリカが唸っている。
「まあまあ良いんじゃない?通信士の変わりなら私でも出来るし」
「う〜でも〜……………よし!」
「艦長どちらへ?」
「え?え〜と………そう!ちょっと家で飼ってる犬にご飯をあげようかなーと」
ちょっとで地球に戻る気かお前は?
「艦長…」
「う…あ!そうだ!ジュン君!変わりに艦長やっといてくれる?」
「ダメだよそんなの」
「え〜…じゃあコレで!」
ドン!と置いたのは以前も使用した人体模型(艦長の名札付)である。
「ダーメ!それにこんなの何処から持ってきたんだよ!」
「え?アキトがくれたんだけど?何か問題有り?」
犯人はアキトかい。
「有りまくりだよ!とにかくダメ!」
ゴシャ!
ジュンはツッコミで人体模型(艦長の名札付)を粉砕した!
「あー!!酷いよジュン君〜せっかくアキトがくれたのに〜」
「そんな物また貰えばいいじゃないか…」
「それもそうか!じゃあ貰ってくるね!」
「だから席を離れちゃダメだってば!」
「う〜でもアキトがのっぴきならない事になってたらどうするのジュン君!」
「何なんだよそれは!?」
…しばらくこの漫才が続いたとか。
平和である。
「バカばっか」
全くだ。
「やっとつきましたねー」
「ついたなー」
「苦労しましたねー」
「苦労したなー」
「…」
「…」
何が有った?
「でも何でアキトさんはナビゲートを頼らずに自分のカンだけで行くんですか?」
「それは自分に真っ向から挑もうということでオレのシックスセンスに頼ったわけだよメナード君」
「じゃあボロ負けですね」
「………………………………………言うなよ」
また迷ったんかい。
「…アキトさん。いじけている所すみませんがちょっと聞いていいですか?」
「…なんでぃ」
「艦長の家と仲良かったんですか?」
「何てこと言うんだお前はあああああああぁぁぁ!!!!」
突然アキトが復活し絶叫を上げた!
「え?え?何か拙いこと言いました?」
「拙いなんてもんじゃない!スカの家とオレの家が仲が良かっただと!?否、断じて否だ!!」
「そ、そうなんですか?」
メグミは戸惑っている!
「そうだ!いいか!?それこそスカの家とオレの家は毎日が戦場だったんだ!」
「せ、戦場?」
「そうだ!言うならば血で血を争うような、もう言葉にも出来ないくらい凄いことが毎日行われていたんだ!」
「い、一体なにが…?」
「口にするだけでも恐ろしいのだが少しだけ話そう」
「はい」
「まず毎日オレとスカが会う度スカの親父と家の親父がお互いを睨んでいたな。それはもう相手を睨み殺す位!」
「へ、へえ」
「時にはオレの親父に『情けないぞ貴様!それでもリサイクル魂か!!』と言ってしごかれた記憶がある」
「…どんなお父さんなんですか?」
「ああ…ごめんなさい、もうしません、だから縫い目は、縫い目はぁ………はっ!?今なんか心の傷が疼いたような」
「ア、アキトさん。もういいです、もういいですから」
「そ、そうか?ふ〜…ああ、嫌な汗かいた」
「…とにかく凄まじい環境で育ったんですねアキトさん」
「ああ…この世の地獄ってああいう事を言うんだろうな」
アキトは遠い目をした!
「え、え〜と…あ!そうそう、アキトさんは何で料理をしているんですか?」
メグミは話題のすり替えに出た!
「ん?そうだな〜あえて言うなら火星のせいだな」
アキトも乗った!いいのかそれで?
「火星の?」
「ああ、ほら見てみ」
そう言って土を掘り返す。
そこにはうぞうぞしたモノが蠢いていた。
「うええええええええぇぇぇ〜……で、これ何ですか?」
「知らないで気持ち悪がってたんかい」
「へへへ〜」
「全く…で、コレだがナノマシン?だ」
「……何で疑問形なんですか?」
「ダメか?じゃあナノマシン(泣)で」
「その行為に意味はあるんですか?」
「無い!じゃあナノマシン(笑)で決定な…で、話の続きだが」
「はぁ…」
いいのか?
「コレのお陰で空気はまともになったけど土までは良くならないんだよ。もちっと頑張らんかいお前ら!」
「ははは…」
「で、野菜とかが不味いんだよ。でも作る人が作れば、なんじゃこりゃ!?って位美味くなるんだよ。この時オレは思ったね、
絶対何かやってるな!と。で、その真相を暴く為に料理を始めたのだ」
「何かひたすらダイナミックに間違っているような気がするんですけど」
「そうか?」
「はい」
「何処が?」
「……もういいです………そうそう、それに今はパイロットもやっていますよね」
「ん?そうだな。まあアレは殆ど成り行きだしな〜と言うかエステに乗ったのも勢いだけだしな〜」
「ふふ…でも頑張ってますよねアキトさん」
「そうか?」
「そうですよ」
「そうかなぁ」
「そうですよ」
「そうか…そうだよな!まあオレに任せときゃ米粒に絵を描くことから木彫り熊掘りまで安心だな!」
匠の技?
「うん!これからも頑張ってアキトさん!」
何だか不思議と良い雰囲気になっているな。
「うっしゃー!早速…ん?」
「どうしました?アキトさん?」
ボコ!
突然アキトとメグミの足元の地面が崩れた!
「んな!?」
「へ!?」
当然2人は落下する。
「うきゃあああぁぁ!?アキトさーん!!」
「なあああぁぁぁ!?…はっ!そうか!トラップかあああぁぁ!?」
「何でこんなトコにトラップが有るんですかあああぁぁ!?」
「うむ!ソレはきっとおおおおおぉぉ!!」
「きっとなんなんですかあああぁぁ!?」
「豚汁が食べたいからだあああぁぁ!!」
「意味が解りませーーーん!!」
「修行不足だああああぁぁぁっ!!……ぬああああぁぁ!!へるぷみーっ!!」
落っこちてる最中でも変わらんなぁ。
アキトとメグミの運命はどっちだ!?続くような続かないような思わなくも無きにしも非ず。
あとがきです。
こんにちは、彼の狽ナす。
さてさてやっと火星突入!
お気楽極楽ムードは変わらず爆進中!
全然話が進んでいないということはこの際置いておく!
…ふ〜叫んだ叫んだ。
あ、あんまり気にしないでください(笑)
さあ次回はいよいよあの人の登場!
どうなることやら(汗)
それではまた何時かお会いしましょう!
みなさん、感想ありがとうございます!眠気に襲われても執筆がんばります!
…何気にミスマル親父とアキトの親父が凄いことになってしまった(滝汗)
管理人の感想
彼の狽ウんからの投稿です。
そうか、何も両家が仲が良いとは限らないですよね(苦笑)
ミスマル家対テンカワ家・・・凄く不毛な争いをしていそうだ。
それにしても、随分仲良くなったなぁ、アキトとメグミ(笑)
PS
あれだけの台詞を吐ける落下距離だと、二人とも無事では済まないと思います(まる)