「む〜…」
「うわ!?か、カグヤ艦長!?…そ、その顔どうしたんですか?」
ブリッジに現れたカグヤを見て驚きの声を上げるハーリー。
「お、おいカグヤ君?昨晩は一体何があったんだ?なんだか凄い悲鳴が聞こえたような気が…」
続いてカイオウ副提督も驚きの表情で声をかける。
2人が驚く訳、それは…
「くくく…」
「ぷっ…」
「ふふふ」
「…アナタ達?いい加減にしないと怒りますよ?」
カグヤの歯型だらけになった顔のせいであった。
「はぁ…本当に酷い目に合いましたわ…でもアキト様さえ居ればこのカグヤは何者にも負けません!」
でもめげずにトリップし、ガッツポーズを決めるカグヤだった。
また某所では…
「ゆ、ユキナちゃん?どうしたのその顔?」
「目真っ赤。それに変な跡いっぱい」
「うう〜…次こそは〜…」
こちらも全然懲りていないユキナであった。
伝説の3号機
その29
「あれ?そういえばアキトは?」
「アキト?さあ、私は見なかったな。ラピスちゃんは?」
「ううん知らない。医務室には誰も居なかった」
どうやらアキト、エマに言われた通り早くに医務室を抜け出したようだ。
もっとも、あの状態のカグヤが襲撃してくる事はないと思うが…。
「どうしたんですか皆さん、こんな所で?」
「あ、イツキさん」
通路の真ん中で相談していたユキナ達に早朝トレーニング帰りなのかタオルを首にかけたイツキが話しかけてきた。
「アキトが何処にもいないのよ」
「テンカワさんが?」
「うん。何処に行ったのかなーって話してたとこ」
「あきとおにーちゃん、逃亡中」
「そうですか…あ、もしかしたら朝食を食べに行かれたのでは?この時間帯なら丁度いいですし」
「「おお、なるほど」」
『ぽんっ』と手を叩き納得のレンナとユキナ。
とてとてとて…
「あ、あらら?ラピスちゃん?」
イツキが声を掛けるが聞く耳を持たず、すたすたと何処かに行ってしまうラピス。
どうやらお腹が空いていたらしく、朝食という言葉に反応して食堂に向かったようだ。
昨晩のアレでは足りなかったのだろうか?
「きょろきょろ…アキト居ないねー」
「そ、そうですね…」
ユキナの擬音言葉にちょっと戸惑いつつも一緒に食堂を見回し、アキトを探すイツキ。
「A定食大盛り」
だがラピスはマイペースで早速ご飯だ。
「はーい…って、あなた誰?しかも子供?更に大盛り?」
ラピスの登場に戸惑う生活班の制服を着た食堂勤務の女の子。
「どうしたんだい久美?A定食大盛りなんだろ?」
「え?う、うん」
「ならハッキリ言えや。なあ、お前もそう思うだろ?」
「うむ!その通りだ!返事や掛け声はスッキリ爽やかクールミントってな感じで伝えると効果抜群だぞ!」
「「「いや、意味わかんないし」」」
思わずツッコミを入れる食堂勤務の方々だった。
「あーアキト居たー!」
「何やってんのよアンタは」
「A定食まだ?」
「昨日の今日なのにもう馴染んでますね…」
アキトをようやく見つけたのはいいが、面々のペースにイツキは脱力気味だ。
そして当のアキトは何故か厨房でひたすらお品書きしていた。
バイトだろうか?
「おうアキ坊、ご指名だぞ…それとその今にも超常現象を引き起こしそうなお品書きは後にしろ」
「あんたが頼んだんだろう…でもいきなり賑やかになったね」
「アキトさん、知り合い?」
「うむ。チーム名『深爪の躍動』の下位打線だ」
「「「なんだって?」」」
思わず聞き返す食堂勤務クルーの方々。
無理もない。
「だから…ん?なんだラピU?」
「お腹空いた」
何時の間にか足元に来ていたラピスに気付くアキト。
「そうか。よし、ちょっと待ってろ。今5時間程かけて最高の朝食を作ってやる!」
「…5時間経ったら昼食」
「何?ならば更に5時間程かけて昼食を…」
「それじゃ夕食」
「ぬ…ならば更に…」
きりが無い。
「…おうアキ坊。やけに親しいようだが、その子は?」
「ああ、妹だ」
「「「「…は?」」」」
沈黙があたりを支配した。
「ふ、ふふふ、アキ坊、寝言は寝てから言え」
「そうだよ。心臓に悪いったらありゃしない」
「アキトさん。冗談は顔だけにしてね」
食堂勤務のクルーはアキトの肩に手を置き『困ったもんだ』といった表情である。
「遺伝子の神秘というやつでしょうか…」
イツキは何故か遠い目をした。
「なんてこったいジョージ!誰も信じちゃくれないよ!」
「さ、んなことより仕事仕事」
「そうだね。ほいA定食お待たせ」
「はい、気をつけて持ってね」
「うん」
アキトのボケはものの見事に無視された。
「…なるほど。みんな照れ屋さんなんだな?」
でもアキトはめげなかった。
「「「違うわ」」」
ツッコミは入れられたが。
「それでアキト、なんでここに居るの?」
「おう、実は朝飯を食いに食堂に忍び込んだんだがな、まだ開店前だったから適当に食料を強奪して勝手に調理しようとしたんだが、
運悪くそこのお嬢様に見つかってしまってなぁ…で、この状態だ。羨ましいか?」
「全然」
「それで、そのお嬢様って誰?」
「嫌だねもう!こんなオバサン捕まえてお嬢様なんて!照れちゃうよ!!」
突如悶えだしながらアキトの背中を『ばしばし』叩く食堂勤務のお人。
「…お母さん、いい年して悶えないでよ」
「大体おめえがお嬢様なんて呼ばれるわけねえだろうが。今年でもう…」
グリュッ!
どさっ
「お、お父さん…」
「あらあら、いやだよアンタったら。こんな所で寝ないでおくれよ」
いい根性している久美母であった。
「とまあそういう訳だ」
「うん。わかった」
「そうね。事情は掴めたわ」
「…お代わり」
本当にわかったのだろうか?
「あー腹減ったー…ん?なんだか賑やかだな。お、イツキ何してんだこんなトコで?おーい?」
朝食を取りにきたガイだが入り口付近で遠い目をしているイツキに声を掛けるが、今だ帰ってくる気配はない。
「なんだってんだ一体?…まあいいか。おう、オレはいつものね!」
「あ、ヤマダさんいらっしゃい」
「俺はダイゴウジ・ガイだって言ってんだろうが!」
「お母さん、そうだっけ?」
「さあ知らないね。で、ヤマダいつものと」
「ダイゴウジ ガイだ!」
「ヤマダだろ?」
「違う!それは俺の表での通り名だ!本来の俺は闇を切り裂き、世を儚み、悪を滅し、人々の希望たる存在。その名は…!」
「「ヤマダ」」
「ちがぁぁぁぁぁぁう!ダイゴウジ・ガイだ!!」
「わかったわかった。わかったからさっさとコレ持ってきな、ゴンザレス」
「違うと言ってるだろうが!俺の名はヤマダ…!」
「ほら、ヤマダさんじゃない」
「…え?」
「久美、次はなんだい?」
「えーと、B定食2つと朝がゆセット1つ」
「はいよ」
ガイを無視してさっさと仕事に戻る久美とその母。
「…あら?」
ガイ、惨敗。
「…はっ、ここは何処?私は誰?コレは何?」
やっと戻ってきたイツキ。
何故か目の前ではレンナ達が朝食を食べていた。
そして自分も席について朝食を食べていた。
本能だろうか?
「うー…でも折角だから私がアキトにご飯作ってあげたかったなぁ」
「ユキナちゃん。あんまりラヴラヴかますと昨日と同じ目に合うよ?」
「ラヴラヴ…?」
イツキ、またも戸惑う。
「大丈夫大丈夫!私とアキトの間には既に崩れようのない絆が生まれてるんだから!ね、アキト?」
ユキナが振り向いてアキトに呼びかけるが、そこには先程ユキナが頼んだ焼き魚定食と紙切れが一枚のみ。
「…何コレ?え〜と、何々?…『すってね アキト』」
「「…は?」」
「あ、もう一枚ある。『棚の下に入ってます アキト』」
「「…へ?」」
アキトよ、何時からお前は棚に入るサイズになった?
「主語が抜けてんのよアイツは。つまりダイコンおろしが欲しいなら自分ですれってことでしょ」
「…よくわかりますね」
「アキトのやつ〜逃げたなー!ぷんぷん!…しゅっしゅっ」
起こりながらもダイコンをすりおろすユキナ。
まあダイコンおろしが欲しかったのだろう。
「ごちそうさま」
で、先程から全然会話に加わらなかったラピスは既に食べ終えたようだ。
まあ育ち盛りだから仕方あるまい。
「はいはいお粗末様」
「ラピスちゃん、よく食べるね〜」
「…美味しかった」
「ん!嬉しい事言ってくれるじゃねーか!」
「あんた、首曲がったままだよ」
「気にすんな!」
久美父、顔が横を向いたまま喋っている。
器用だ。
「あ、そういえば。ねえイツキさん、この船って一応戦艦ですよね?」
「え?ええそうですが…それが何か?」
イツキ、久美父の器用さに興味を引かれつつもレンナの疑問に答える。
「でもその割には軍人って感じの人があんまり居ないような気がするんだけど…」
「あ、その事ですか。なんでもネルガル…あ、コスモスを作った会社なんですが、そこの会長が独断と偏見でクルーを選んだらしいんですよ」
「ふ〜ん…じゃあ異様に女性比率が多いのは?」
「言わずと知れたことでしょう」
ネルガル会長って…。
「でもね、意外と悪い人でもないんだよ?」
「あ、確か久美さんだったかな?」
「うん。でね?実は私達って、見ての通り親子なんだけど本当は月に住んでたんだ。でも木星蜥蜴の襲撃にあって店が無くなっちゃってね…
そんな時、たまたま通りすがったネルガルの会長さんが『どうだい君?うちで働いてみないかい?キラン☆』って言ってくれたの。もう大助かりだね!」
「「…え〜と?」」
頭を抱えるレンナとイツキ。
「それって勧誘っていうよりはナンパじゃない?…もぐもぐ」
「え?」
ユキナのツッコミに固まる久美。
「まあそうだよな。誘われたの久美だけだし、それを強引に俺達も一緒に就職させちまうし」
「全くだよ。それをこの子は疑いもせずにねぇ」
大したものである。
「あはは。でもいいじゃない!そのナンパな会長のお陰で助かったんだから!」
久美は笑って誤魔化した。
「…変な会長」
「うんうん、確かに」
「1度見てみたいかも」
「…はは…あ、そうそう。レンナさん、ユキナちゃん、ラピスちゃんは後でブリッジに来てください。提督と艦長が色々と聞きたい事があるそうです」
「「「はーい」」」
「え〜と、それでテンカワさんは?」
「あきとおにーちゃん…?」
「アキトの事だからその辺で溶けてるんじゃない?」
「いやいや、多分生身で真空を漂ってるんでしょ」
アキトの行動って一体…?
「…あらら?」
ちなみにガイはその時、いつもの定食(ゲキガン定食、別名お子様ランチ)を持ちながらまだ呆けていた。
「まったく!大体いくら明日香と技術協定結んだからってわざわざそこから人員持ってこなくてもいいじゃない!
しかもほとんどのクルーもノリで決めるなんて!」
所変わってここはコスモス内の通路。
そこに1人の男に向かって怒鳴り声を上げている1人の女性が居た。
「ははは、まあ確かにね。でも、そのお陰で有能なクルーが短期間で揃ったじゃないか。僕が連れてきた人材もなかなか優秀のようだし。
それに明日香が仲裁に入ってくれたおかげで軍とも仲直り出来たんだからいいじゃないの」
「もう!プロスペクターが居たらこんな事にならなかったのに!」
「まあまあエリナ君落ち着いて。それになかなか好条件で技術協定も結べたんだから良しとしようよ。
その条件だって彼女達をナデシコシリーズに乗せるだけなんだし、こっちとしては願ったり叶ったりじゃないか」
「だからって明日香の連中を機密だらけの船に乗せるなんて…下手をしたら大損害をこうむる事になるかもしれないのよ!?」
「はいはい。まあ過ぎた事を言っても始まらないって」
「全く!大体、貴方があんな怪しい条件を一発OKしたのがそもそもの原因なんだからね!わかってる!?」
「ま、まあそれはね、その場の雰囲気と言うか…にっちもさっちも行かなかったと言うか…」
「結局ほとんど脅しに屈したようなもんでしょうが」
「…はい」
それはつまり、誰かが暴れたのか?
「道楽もほどほどにしてよね。ただでさえナデシコが行方不明になってこっちは大変だってのに!」
「わかった、わかったから。ほら落ち着いて。綺麗な顔が台無しだよエリナ君?」
「やかましい!」
エリナと呼ばれた女性はもう血管切れそうだ。
「おう、そこの国防総省が認めるほどの夫婦漫才ぶちかましてるお2人さん」
「誰が夫婦よ!」
「はっはっはっ、それはまた怖いねぇ」
即座にそれぞれの反応をする2人。
「お取り込み中の所すまんが、ちょっと未来への旅路という名の道を教えてもらえないか?」
「…何言ってんのあんた?」
その疑問はもっともである。
「やれやれ…エリナ君」
「何かしら?」
「なんであいつは僕に直接話し掛けてるのかな?アポは取ったのかい?」
「あ、そうでしたね。コホン、悪いけどこのウスラバカに話すときはまず私を通してね?…え〜と、あなた名前は?」
「ふっ…エリナ君、さり気ない言葉の中にするどい嫌味が効いてるね…」
「そうなのか?んじゃ早速、オレは…おお、これは!?まさかアレが!?な、テンカワ・アキトだ!
18歳のナイス・ミリオン!ちなみに添加物は使っていません」
「あきとおにーちゃん、18歳のいい感じな100万の食材」
「テンカワ・アキト。18歳の幻いっぱいな、まいだーりん」
「テンカワ・アキト。18の究極的増殖をする純国産物」
「テンカワ・アキト。18の国に生息する未だ未知の生命体。発見例は極僅かである」
伝言ゲーム?
「そうかい、大変だねぇ」
いや、納得するのか?
「…って、ちょっと待てや!後半思いっきりかわってるぞ!?つーか、お前らいつの間に現れた!?」
アキトが指差す方向にはレンナ、ユキナ、ラピスが『何を今更』といった表情で佇んでいた。
「まあ、そういうもんだしね」
「そうだよねぇ」
「あきとおにーちゃん、そんなもん」
「わかる。わかるわよ」
エリナよ、何がだ?
「まあそれはいいとして、テンカワ君だったかしら?悪いけどこれからこのできそこないに話しかける時は今と同じように私を通してね?」
「ああ…遠まわしにいじめられてる…」
「お、そうなのか?でも何でまた?」
「そういうものなのよ」
「そうか…色々有るんだろうな…」
「色々有るのよ…」
2人して何を想像しているのだろう?
「で、何でわざわざそんなことするんだ?」
「何でこんなめんどくさい事するの?…だって」
「エリナ君、日本全国には新聞が100種以上あるんだよ?知ってたかい?」
「そうなんだ」
突然まめ知識炸裂である。
で、それを真面目に聞くのは何故かラピスだ。
「突然現実逃避すな」
「やれやれ仕方ないねぇ。え?何で話し掛けるのにエリナ君を通すかって?それは勿論僕が偉いからさ!」
「偉いから…だって」
「ほぉ…どれ位だ?」
「どれ位?…だそうよ」
「そこは秘密だねぇ」
両手を肩の位置で固定しヤレヤレのポーズを取る男。
しかし、いちいちエリナが間に入らないと会話できないのか…。
「ネルガルの会長だから偉いのは当たり前だって」
「ほ〜会長か。そいつはまた偉いもんだな。凄い凄い」
「会長だから凄いって」
「はっはっはっ!勿論さ!!………はっ!?な、何故僕がネルガル会長だと分かったんだい!?」
「何で?」
「思いっきりコイツがばらしてたぞ?」
「私が喋ったって」
「はぅあ!?エ、エリナくーん!!!」
男の悲痛な叫びが木霊した。
「あ、私の名前はエリナ・キンジョウ・ウォンよ、宜しく。で、なんてことをーっ…だって」
「知るか、んなこと。それで系統は?」
「け、系統?そうねぇ…私はキャリアウーマンかしら?」
「ちなみに僕は…」
「お気楽極楽トンボ。通称大関スケコマシ。別名、将来なりたくない大人ベスト3よ」
「エリナくーん!!」
ネルガル会長、泣き入る。
「そうか、良くわかった。で、いい加減直接話していいか?この喋り方は疲れる」
「ええ全然OKよ。私も疲れたわ」
「あの…僕の立場は?」
「「無い」」
断言である。
「…かたなし」
「いうならばバカね」
「いやいや、人としてどうよ?ってとこでしょ?」
「…いじいじ」
いじけるネルガル会長、アカツキ・ナガレであった。
「あら、皆さんお揃いですわね」
「あ、艦長」
全てのやり取りを遠くから静観していたイツキがカグヤの存在に気付いた。
もはや近づくのも躊躇われるのだろうか…。
「…私は用事がありますのでこれで」
「あらあら…会長秘書さんは相変わらずワタクシとはお話をしようとしませんね」
「ははは、まあエリナ君は気難しい所があるからねぇ〜。さて、カグヤ艦長、こんな所に一体何の用かな?もしかして面白いことでもあった?」
流石はお気楽極楽トンボ、立ち直りは早いようだ。
「決まっていますわ!なかなかブリッジに顔を出して下さらないアキト様を迎えに来ましたの!」
両手を組んで『乙女のポーズ』をしながらアキトににじり寄るカグヤ。
「お、おおおおおおう!そ、それははははごごごごご苦労!…だが迎えになんぞ来なくても全然だいじょーぶだ!だから寄るな来るな近づくなぁ!!」
「もう、アキト様ったら照れちゃってゥアナタの運命の人、カグヤが今、手を差し伸べますわ〜〜〜〜!」
カグヤがアキトに迫る!
「ささっ」
「む…そこを退いてくださらない?邪魔ですわよ?」
だがユキナがその行く手を阻む!
「ブリッジには私が連れていくからアンタは艦長の仕事してなさいよ」
「ほーっほっほっほ!何を言いますの。これも立派な艦長の仕事ですわ。さあお退きなさい」
「いや」
「お退きなさい!」
「いーや!」
「「ぬぬぬぬぬぬ…」」
2人の睨み合いが再び始まった。
ただし2人共歯型が付いた顔なので迫力は無いが。
「…何事だいこれは?」
アカツキ、少々呆然としながらイツキに事の事情を求める。
「あ、この方々は先日保護した漂流者なんですが、その中にカグヤ様の知り合いが居まして…それでその事で少々モメてしまって…」
「おやおや、昨日の騒ぎはソレだったんだね。しかしまた偶然もあるもんだね。それで、その知り合いってのは一体誰?」
「えっと…ああ、あそこで通路脇に設置してあった消火器を盾にしてぷるぷる震えている人です」
遠目に見ても分かりやすい格好をしているアキトであった。
「的確な表現ありがとう。とても分かりやすいよ」
「いえ」
「それで、あの2人一体どうしたの?」
今度はレンナに声を掛けるアカツキ。
さり気に肩に手を置こうとしたがわき腹にイイモノを貰って断念したようだ。
「あれ?ん〜まあ、言わば女の戦いね」
「ぐぉぉ………へ、へぇ。カグヤ艦長にそんな人居たんだね…でもなんで君達はこんな所をさまよっていたんだい?この辺りは危険宙域だよ?」
「…そこは乙女の秘密ってことにしておいて」
「なるほど。奥が深いねぇ」
「いや、そこはツッコんで。即座に。力一杯。限りなく」
思わずツッコミを強要するレンナだった。
『あのー艦長?』
そんな賑やかな場面へ水を差すようにハーリーから通信が入った。
「「むむむむむむ…」」
だが当然この2人は聞いちゃいない。
『艦長?カグヤ艦長?かーんちょう?』
「「ぐぬぬぬぬぬぬ…」」
『カグヤ艦長!』
「「うるさい!!」」
『はい』
ハーリー、手も足も声も出ず。
『うう…カオルさーん、やっぱりカオルさんからお願いしますよー』
『うーん、でも私が言った所で聞くわけないし…どうしようかエマ?』
『おはよう小鳥さん
おはよう太陽さん
おはよう私
今日も…いえ今日から私は生まれ変わる
そう、呪縛を切り捨て今こそ飛び立つ…自由の空へ
困難の日々も振り返れば良い思い出
さあ行きましょうみんな
輝く未来へ
今日の私は誰よりも輝いている』
またも幻想空間である。
『エマー、マイポエムはその辺にして何とかしてよー』
『…はいはい、いい所だったのに…え〜と…よし、ハーリー君、これ読んでみて』
ハーリーの目の前に1つのウィンドウが現れる。
『え?…これをですか?』
それを見たハーリー、少し戸惑う。
『何事も経験よ?』
『はぁ…では…カグヤ艦長』
「なんですの!?」
『え、え〜と、アキトさんが背後で婚姻届を持って手を振ってますよ?』
「なんですってぇぇぇぇぇっ!!!!!!!?」
「え!?どこどこ!?」
カグヤばかりかユキナも反応したようだ。
しかし辺りを見回してもアキトの姿は無し。
恐らく逃げ出したのであろう。
「どこにも居ないではありませんか!ハーリー君!いくら研修中とはいえ、こんな悪辣非道な虚構を行うなんて許しませんよ!」
「そうそう!子供だからって何もかも許されるわけじゃないんだよ!?」
『そんなぁ…』
ハーリー涙目である。
「ハーリー君、今日のおやつ無し!」
「誰だかしらないけど、後でお尻ペンペン!」
「…かわいそう」
ラピス、同情する。
『う、う、うわああああああああぁぁぁん!僕が悪い訳じゃないのにーっ!』
ハーリーは泣きながら逃げ出した!
『説得は無理か』
『いや、元々説得する気ないでしょ?』
『ハーリー君、今は耐えて…うう…』
カグヤガールズよ、それでいいのか?
「全く、それでホウショウ、一体何の用です?」
『え?ああ、軍本部より通信が入っています。えっと…あら?この方は…』
「誰なんです?」
『カグヤ君!』
「「「「「「わ!?」」」」」
突如濃い親父のどアップな顔が映し出された。
「み、ミスマルおじさま?ど、どうなされたんですか?」
『ああ、だがその前に…久しぶりだねカグヤ君』
「は、はぁ、お久しぶりです。それで一体何の用でしょうか?コスモスは現在サラシナ参謀の直轄で、極東方面軍とは関わりが無い筈ですが…」
『うむ。実は先程そのサラシナ参謀から連絡が有ってな…なんでも漂流者を保護したそうじゃないか』
「ええ、その通りですわ」
『その内の1人がナデシコのクルーだという報告は真かな?』
「はい。確かに記録にも残っていますし、間違いはありません」
『そのクルーは何処かね!?ま、まさかユリカではないのか!?どうなんだ!?カグヤ君!』
だんだんモニターの顔の大きさが肥大していくユリカの父、ミスマル・コウイチロウ。
目が血走ってて危ない。
しかも何故か劇画タッチだ。
「ん?この騒音公害にしかならないような声はもしや…」
と、その声を聞き天井裏から現れたアキト。
そんな所に避難していたのか。
『む?…き、貴様はあのイカレ親父の息子!』
「おお…そういうアンタは…ピザ屋ベアナックル・ユートピアコロニー支店長!」
『いや…あれは夜のバイトで…』
コウイチロウ…苦労してたのか?
『ってそんなことはどうでもいい!何故お前がそこにいる!?』
「決まっている!ちょっとデッド オア アライブな日々を過ごしていただけだ!!」
そんな日々でいいのか?
『そうか、ご苦労』
「いやいや当然のことですぜお代官様」
『ふっふっふっ、越後屋、そちも悪よのぅ…って、違う!』
「好きなくせに」
『う、うるさい!ええいもういい!カグヤ君!何故コイツがコスモスに!?』
「ほほほほほほほ!決まっています!この私の高貴で、それでいて知性と教養が溢れる姿を拝見しに来て下さったのですわ!
ああ…愛…そう、これは愛なのです!もはや私とアキト様の間には不変の絆が…」
カグヤ、トリップする。
『…え〜と、だれか他に事情を話せるものはいるか?』
『では私が』
『おお、エマ君か。では説明してくれ』
『はい、漂流で保護。終わり』
『……………………………………あの、もうちょっと具体的にお願いできるかな?』
「じゃあ、私が…『世弐下』に乗って漂流していた所をコスモスのクルーが発見しアキトを含む4名を保護しました。以上です」
いや、そのクルーが撃墜しかけて船の自爆に巻き込まれたが抜けている。
「…そうか…それでそのクルーの中にユリカは居たのかね!?どうなんだ!?」
「…」
「どうしたのかね!黙っていては分からんではないか!ユリカは!?ユリカは居ないのかね!?」
だがエマ、レンナを含む面々は返事が出来ない。
「どうなんだねーっ!!!!!!!!!!?」
どうやらコウイチロウの轟音によって気を失っているようだ。
ちなみに最初の第一声でユキナ、ラピス、イツキ、アカツキは気を失っていた。
「ぬぅ…ミス提督、ちょっとうるさいぞ。うっかり死ぬところだったじゃないか」
しかしアキトはマイ耳栓でギリギリ回避したが…死ぬところだったのか!?
『誰がミス提督だ、誰が!ワシは男だ!それにミスマル・コウイチロウという立派な名前もあるわ!』
「何?気に入らないのか?じゃあ…スカ親父、スマイル、マルコ、巫女、カレールウ、
香味野菜、海の神秘、未知の丸印、スイッチのどれがいい?」
『ぬぅ…個人的にはスマイル辺りが…って、違うわ!ワシの事は素直にコウちゃんとでも呼ばんか!』
それもどうだろう?
「わかった。じゃあ『ブーメラン』で」
「「「「「『『『『なぜ!?』』』』」」」」」
気絶していた筈なのに思わずツッコミを入れる面々であった。
「流石はアキト様、抜群のセンスですわ…ゥ」
約1名は呆けていたが。
「お母さん、何だか賑やかだね」
再び食堂。
あの轟音はここまで聞こえるらしい。
「いいんじゃないかい?その方が楽しくてさ…よっと」
ごぎっ
「…おお、元に戻った」
久美父、無事首治る。
…もしかしてこの艦の整体士ってこの人なのだろうか?
「…お?」
「…お母さん、ヤマダさんまだ呆けてるよ?」
「ほっときな。その内正気に戻るさ」
「あーあ、折角の料理が冷めちまってるじゃねーか」
久美父がガイの手にある定食を取ろうとしたその時、何処からともなくあの声が聞こえてきた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!!!!」
「ん?何だ?」
ドドドドドドドドドドドド…
「お、おおお?」
「大人なんて嫌いどぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
どごしゃっ!
「ごぶっ!?」
「おごぁ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!」
どどどどどどどどどどどどどどど…
そして嵐は去っていった。
「「…」」
久美父、またも散る。
そして、ガイも散る。
「…お母さん、今の何?」
「今日は晴れだった筈だけどねぇ」
宇宙に天気はあるまい。
その頃…
「全く!艦長は何処ほっつき歩いてんのよ!大事な話があるっていうのに!」
ぶつくさ言いながら歩く人物が1人。
「ん?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
ずごぁっ!
「あぎゃぁ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!」
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど…
天災は忘れた頃にやってくる。
「な、なんなのよ…」
ぴくぴくしなが通路に横たわる人物。
実はこの艦の提督、ムネタケ・サダアキだったりする。
そして嵐と化したハーリーの暴走はまだ止まらない。
「うわーーーーーん!!!もうお家に帰るーーーーーーーーっ!!!!」
ぐきっ
「ぐべっ」
…いや止まった。
【止まらなきゃ、止めてみせよう、泣き虫ハーリー】
ハーリーの頭上にそんなウィンドウが突然開いた。
「酷いやアメノホヒ…」
【強く生きろハーリー】
お前は親父か。
アキト…いやハーリーの運命はどっちだ!?続くような続かないような思わなくも無きにしも非ず。
あとがきです。
こんにちは、彼の煤iかのしぐま)です。
そんな訳で残りのコスモスクルーを出してみました。
まとめるとこんな感じです。
おなまえ | おしごと | 一言 |
アカツキ・ナガレ | パイロット | 会長でロン毛でスケコマシ |
エリナ・キンジョウ・ウォン | 副操縦士兼コスモス総務担当兼アカツキのお目付け役兼…色々 | この方もとんでもキャラになる可能性が… |
久美 | 食堂勤務 | 登場はもうほとんど無いかも |
久美父 | 食堂勤務 | 和食・中華担当、実は器用? |
久美母 | 食堂勤務 | 洋食担当、整体士? |
ムネタケ・サダアキ | 提督 | 扱いは少なめ |
アメノホヒ | コスモスAI | …まあ神話繋がりってことで(汗) |
ミスマル・コウイチロウ | 極東方面軍指令 | ユリカパパ、でも登場は今後もあるかどうか… |
サラシナ | 参謀 | 恐らく名前のみ(爆) |
最後の2人は乗ってませんけど(汗)
しかし…無理矢理もいいとこですね(滝汗)
まあなにはともあれ…食堂のおばちゃんは最強です(え?)
…では!(ええ?)
代理人の感想
こう、えぐりこむように打つべし打つべし。
つーか、エリナさん今でもじゅーぶんはっちゃけてます(爆)。
・・・・・・これ以上トンデモになる余地があるんだろうか(汗)?