「ぬぅ…ベン子め、秘儀・超級歌激殺の威力が向上していたな…未だに鼓膜が酔っている」

アレは何時の間にか技になっていた。

 

そんな訳でレンナのヴォイスによって何処かへとぶっ飛ばされたアキトは只今漂流中。

既にコスモスの姿は見えず、戦場も遥か遠くだ。

 

「全く、どんなパワーアップぶりだ!遺憾の意を表明するしかないじゃないか!」

だがまだまだ元気そうである。

「よぉし…無事帰ったらヤツの部屋に10万ピースのジグソーパズル置いちゃる!くっくっくっ…コレでヤツは寝不足よ…」

どうやら帰る気も満々のようだ。

「さて…ええい動かんかぁ!あんな狂音に負けてどうする!?」

コンソールをベシベシ叩きエステに気合を入れるが当然エステは無反応。

 

『ピ―――――――――――――――――――――――――――』

 

先程から聞こえるのはフリーズした音のみだ。

 

 

「だぁー!ピーピー煩いわ!!俺が岡っ引きだったら『御用だ!』言いながら走りだしてるところだぞ!?」

 

 

訳のわからない事を叫んでいるアキトだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説の3号機

その31

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキト様!アキト様!!返事をしてください!アキト様ぁーっ!!!」

コスモスブリッジにてひたすらアキトの名を連呼するカグヤ。

その形相はかなり危険だ。

 

そして勿論。

「アキトぉ!?アキトー!!いきなり未亡人なんて嫌だよー!?」

ユキナも暴走していた。

しかし結婚前なのに未亡人はないだろう。

 

アキトが何処かへ行ってしまってからこの2人、ひたすらこんな状態である。

お陰でブリッジは未だ混沌としている。

 

「アキト……うん、そうだ、そうだよ。ここで叫んでいる場合じゃない。こんな時こそ妻たる私の出番じゃない!!

ざばぁぁぁん!

波飛沫を背負い、ユキナは天井に指を突き上げるポーズをとった。

「う〜ん…でも、どうしたら…ん?どしたのラピス?」

指を突き上げたまま考えに没頭しているとラピスが真剣な目で袖をくいくいしていた。

「…あきとおにーちゃん助けたい」

「ラピス、あんた…そうだよね!アキトを助けられるのは実の妹のラピスと妻の私しかいないよね!」

その原因を作ったのは他ならぬ木連から脱出してきた仲間なのだが今はそんな事は頭に無いらしい。

「コラ、そこのお子様?さっきから、何をほざいていますの?」

アキトという言葉だけは聞き逃さないカグヤ、感動の場面に割って入る。

「何よオバサン、邪魔しないでよ」

「お、オバ!?…ひくひく…ほほほ、おかしいわね、この超絶美貌の持ち主カグヤがオバサンなどと…これだからお子様は…」

「あーもう年増うるさい!よっし、ラピス行くよ!」

「うんっ」

「あ!コラ!ちょっと待ちなさい!さっきの言葉訂正していきなさーい!ワタクシはまだ二十歳です!!」

だがその言葉は空しく響き渡るのみだった。

 

「…ホント、いい度胸してるわねユキナちゃん」

「うんうん、こりゃ後の始末が大変だわ」

「このやりとりも通算65回目。その度に…」

「「「…はぁ」」」

カグヤガールズ、ちょっと陰を背負う。

エマは特にだが。

 

 

「でもユキナ、あきとおにーちゃん助けるってどうするの?」

「ふっふっふっ、このユキナちゃんに任せなさい!いい考えがあるんだから!」

「…わかった」

何だか嫌な予感がしたラピスだった。

 

「さあ到着!ラピス乗り込むよ!」

「…ゆ、ユキナ…これって…」

「ふっふっふ〜ラピスってあいえふえす持ってたよね?」

「IFS?うん…でも、これは…」

「なら大丈夫!はい、つべこべ言わずに乗り込む。ほら!ぐいぐいっ」

「あう…狭い」

「これで準備完了!パイロットスーツも持ったきたし…完璧!よーし行くよー!ラピスGO!」

「…もうヤケ。あきとおにーちゃん待ってて」

ガション!

何か重い音が格納庫で響いた。

 

「ん?何だ?あ!?コラぁ!誰だ予備のエステに乗ってるのは!?」

「あーそういえばさっき小さな女の子が2人乗り込む所を見たような…」

「見た時点で止めろやお前は!」

「でも班長…さっきの変な音のせいで俺ら未だに動けないじゃないですかぁ…」

「そういえばそうか」

どうやら整備班はレンナのヴォイスで身体が動けずにいるようだ。

本当に恐ろしい音である。

 

そしてユキナとラピスはエステに乗り込みアキト救出を行う気らしい。

無謀以外の何物でもない。

 

『艦長!艦長!こちら格納庫!一大事ですよ!』

「何よ!今忙しいの!ワタクシのアキト様が遭難中なのよ!?これ以上の一大事なんてあるものですか!!」

『んな事言ってる場合じゃないですよ!先日保護した内の女の子2人が予備のエステに乗って…のわああぁぁぁっ!

ばしゅぅぅぅぅっ!!

ユキナ&ラピスエステがコスモスより飛び立つ。

その辺の整備員巻き込んで。

 

「な、何ですってええええええぇぇぇぇっ!!!!!?」

カグヤの絶叫が響き渡った。

 

「ちょ、え!?今、何て言ったんですか!?」

「ええ!?ユキナちゃんとラピスちゃんがエステに乗って飛び出したぁ!?」

「ちょ、ちょっとそれってさっきの助けるってそういう事!?」

「何やってんのよアンタ達は!身体張ってでも止めなきゃダメでしょ!?」

「お、落ち着けみんな!こういう時は心を安らかに、心頭滅却すれば火の車…」

「ちょっとなんなのよ!?一体何事!?状況を説明しなさい!!」

「あらら…いくらラピスちゃんがIFS持ってるからって無茶するわねぇー」

上からエマ、カオル、リサコ、エリナ、カイオウ、ムネタケは大騒ぎだ。

事の原因を作ったレンナは冷静だったが。

 

「みなさん静かに!」

ぴたっ

だが突然のカグヤの一括により静けさを取り戻すコスモスブリッジ。

「とにかく状況確認を急いで!アカツキさん達に至急この事を報告!すぐにあの2人が乗ったエステを捕まえるように指示!

他のエステ隊には蜥蜴が近づかないよう支援に回るように伝えて!それとユキナとラピスが乗っているエステに通信を繋いで!大至急!」

「「「りょ、了解!」」」

カグヤの命令に即座に行動を開始するカグヤガールズ。

普段がアレでもいざという時は真面目なようだ。

「それではホウショウ、私達は戦線を離脱します

「…は?」

「え?何?」

「カグヤ艦長?」

そのセリフに思わず聞き返してしまったカグヤガールズ。

「あの…カグヤ様?何をする気ですか?」

「勿論ワタクシもアキト様の救出に向かうのです!あんな子供に任せていられますか!!」

断言だった。

「ダメです」

即答で返すエマ。

「整備班!今すぐエンジンの点検をしなさい!え?身体が動かない?根性でなんとかなさい!無理?

言い訳は聞きたくありません!さあ早く!超特急で!事は急を要するのです!!」

しかしカグヤは無視。

「カグヤ様!」

「…ホウショウ、邪魔をする気ですか?」

「当たり前です!まだ戦闘の真っ最中なんですよ!?それをただでさえ軍から疎まがられている私達が戦線を離脱してどうするんですか!

ますます仲がこじれる事になりますよ!?」

「…ホウショウ」

「なんです?」

「後は任せました。カグヤはこれより愛に生きる為1人飛び立ちます!」

何気に最高の敬礼をしつつブリッジを後にしようとする。

「はい、任せられました………って、違います!戦闘中にブリッジを離れるなんて何を考えているんですか!!」

「何を…?決まっているではありませんか!アキト様オンリーです!!

「コスモスの事を考えてください!大体何をする気ですか!?」

「コスモスが動けないのであれば私が1人、シャトルに乗り救出に向かいます。止めても無駄ですよ?」

「ダメったらダメです!ほらカオルとリサコもカグヤ様を止めて!」

「でもねぇ何を言っても無駄のような…」

「あら簡単よ?」

「「え?」」

「えいっ」

どすっ!

「ぐふっ」

カグヤ、落ちる。

「止まった…じゃないわよ!カオルあなた何してんの!?」

「大丈夫。みね打ちだから」

「そうじゃないでしょカオル…ほらエマも何か言って…私はもう…うう…」

 

「私が何をしたというの?

私はただひたすら忠実にお仕事をしているだけ。

なのにこの理不尽さは何?

どうして同僚はこんな人達ばかり?

1人は暴走で凶暴で我侭。

1人は道端を歩いていれば必ず職務質問をされる。

1人は何かとすぐ泣く。

どうしよう。本当にどうしよう?

明日から新しいお仕事探そうかしら?

良いのがあるといいな。

ねえお星様?

ねえ妖精さん?

ねえ小人さん?

私に明るい未来をくださいな」

 

「あー君達」

「…ま、まだまだぁ…」

「む、しぶといわね」

「カオルぅ…お願いだからもう止めてぇ…郷里のお母さんは泣いてるわよ〜…うっうっ…」

「…あ、流れ星…うふふふ…」

カイオウが声を掛けるがカグヤとカグヤガールズはもうダメな感じだった。

 

「……えーとね?今がどんな状況かわかってるよね?艦長と副長がそんな調子だと士気ってものが…」

戸惑いつつも現在の状況を再認識させようと話を聞かせるが勿論聞いちゃいない。

「…どうせ俺なんて……」

「カイオウ…生きていれば良い事もあるわよ」

ムネタケに慰められるカイオウだった。

 

「………聞いてた?」

『ああ勿論』

「状況は飲み込めてるわね?」

『まぁ大体』

「じゃあ、あの2人が乗ったエステ任せたわよ」

『エリナ君、そうは言っても戦線を維持するだけで精一杯なんだけどなぁ〜…』

「がんばりなさい」

『エリナくーん…』

問答無用だ。

 

「ユキナちゃん…ラピスちゃん…アキトを頼んだわよ」

遠い目をしつつ2人にエールを送るレンナ。

原因の張本人がよく言ったものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

で当の2人だが…

「ラ、ラピス!?こ、この揺れなんとかならないのぉ!?」

「む、無理!エステなんて初めて動かすし…い、言うこと聞いて…!」

クルクル回りながらぶっ飛んでいた。

「「うひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」

前途多難である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてどうしたもんか…」

アキトの呟きがコクピット内に響く。

あれから色々やってみたようだがエステの機能は未だ回復せず、とりあえず生命維持を優先としている状態である。

「ぬぅ…本気で大ピンチか…?」

どがぁっ!!

「ぬぉぁ!?」

珍しく考えに没頭していたアキトだが突如何かがエステにぶつかった。

「ど、何処の馬鹿野郎様だ、いきなりオレのエステに特攻喰らわせてきやがったのは!?」

『や、やっほー頼れる奥様ユキナちゃんが迎えに来たよ〜…うぇ…』

『…や、やっと止まった…』

アキトの問いに答えるようにウィンドウが開き、ボロボロの2人が映し出された。

「ぬぅ…何かが間違っているような気がしないでもない本日晴天なり」

『『何かが』じゃないわよ全く…それに宇宙に天気は無いって』

「だってほら、なんていうか、「めっ」て感じ?」

『…』

「こらこら、そこ引くな」

『はぁ…ホントに平和な奴だよねアキトって。まあ元気そうでなにより』

『あきとおにーちゃん、平和?』

「まあそうだな。言うならば『光合成の上にも3年ほど棒に当たってみる』ということだ」

『意味不明だよ』

『…ユキナ、あきとおにーちゃん何が言いたいの?』

『う〜ん、私レンじゃないから通訳は無理』

『そう…』

『でもまぁ、無駄な体力使ってるだけなんだろうけどね』

「何を!?何処が無駄だ!不適切な発言は控えい!!」

『さーてラピス、アキトのエステ動きそう?』

『ちょっと待って』

とりあえずアキトは置いとくことにしたようだ。

「放置!?」

その行為にツッコミを入れてみるアキト。

『何とかなるかもしれない…やってみないとわからないけど』

『どれ位かかりそう?』

『う〜ん…1時間もあれば何とか…』

『じゃあ問題無いかな』

「いや問題大アリだぞ?」

またも口を挟むアキト。

『じゃあすぐにやろうか』

『わかった』

「また放置!?」

がっくりと肩を落とすアキトだった。

 

『アキト楽しい?』

「…全然」

『良かったね』

「良かないわ!」

何気にいいコンビなアキトとユキナだった。

 

『あきとおにーちゃん、とにかく復旧作業に入るよ?』

「…おう、頼むわ」

『じゃあ一旦エステの動力全部落とすね。再起動に30分くらい掛かるけど、いい?』

「…構わんぞ」

『うん。あ、それとね、当然その間は生命維持装置止まるから、30分間息止めて我慢しててね』

「激しく待て」

『はい、ストッ…』

「待て言うとろうがぁ!!!」

『何?アキト煩いよ?』

『あきとおにーちゃん、騒がない』

「あーコホン!君達そこに座りなさい」

『『え?』』

「…いいから座れ」

『…というよりもう座ってるんだけど』

『狭いけど…』

「オゥ、シット!なに言うとるアルか、この方々は!とにかく30分も息止められるわけなかろうぞなもし!!」

『何人なのよアンタは…』

「まあ『めんつゆ』でないことは確かだ………って、んん?お、お前ら何時から居た!?」

『『遅い!!』』

「…いや〜実はさっきから独り言にしちゃあ声が聞こえると思ってたんだよ…妖精さんじゃなかったのか」

何気にヤバ気な発言である。

『妖精さんって…』

『そんなの何処に居るの?』

「ん?見えないか?ほら、さっきからここに…」

だがアキトが振り向く先には何もなし。

「…まあなんだ。時にはこんなこともありけりといった所か?」

『『誤魔化すなあああぁぁっ!!』』

「とまあそんな事はどうでもいいとして」

『アキトが言ったんじゃない』

『あきとおにーちゃん、わがまま』

「とにかくお前ら!」

『『なに?』』

「助けに来てくれた事は素直に礼を言うとビリが言っていた」

『素直じゃないじゃない』

『あきとおにーちゃん、結局素直じゃない』

 

 

「あうう…た、助けて…僕等の副将軍様…くはっ…」

その頃、ビリことハーリーは生死の境をさまよっていた。

 

 

「だがな!よりによって2人だけでこんな所まで来るとは一体どういう了見だ!?危ないだろうが!」

『アキト…でもやっぱり心配だったんだもん…』

『あきとおにーちゃん…私も…』

「ぬぅ…2人共…そこまでオレの事を…」

ちょっと感動するアキト。

『だってアキトが居なくなったらこれからの人生プラン台無しだもん!ちゃあんと約束通り一生面倒みてもらわないと!』

『おーユキナたくましい』

「やっぱ帰れお前ら」

前言撤回だった。

 

とりあえず無事到着したユキナとラピス。

元気一杯である。

アキトは何時も元気だが。

 

 

 

 

 

 

 

「あきとおにーちゃん…ごめん、無理みたい」

「そうか…」

「アキト…こんな所で恥ずかしいよ…ラピスだって見てるし…でもそんなワイルドな感じも中々…」

何処か危なげな語りが聞こえる。

「さ、さて、それならば問題はどうやってコスモスに戻るかだ」

「あきとおにーちゃん、珍しく真面目だね」

「当たり前だ。これ以上ラヴラヴかまされたらオレの身がもたん!」

「アキト、それどういう意味?」

軽く睨みながらアキトを問いただすユキナ。

「さぁて、どうするかな!」

勿論アキトは誤魔化した。

「でもやっぱり今の状態じゃコスモスまで戻るのは無理。エネルギーが足りない」

「そうか…」

「アキトー…後で大事な話があるから逃げないでね」

「ラピU!解決法はないか!?」

疑い眼差しがかなり痛いアキトだった。

「う〜ん…やっぱり片方のエステのエネルギーパックを取り出してそれを使いながら、もう片方のエステに乗って戻るしかないと思う」

「え

「ほ、他に方法は!?他にはないのかぁ!?」

「ない」

「よっし決まりだね!アキト〜ずっとこのまんまだね〜」

「…ラピU」

「何?」

「そういう事ならオレ、一旦自分のエステに戻りたいんだが…」

「うん、そうした方がいいと思う。凄く狭いでしょソコ」

「多数決が決まったぞ。離せ

「え〜…」

何だかんだで騒いだ後、アキトのエステの復旧作業を行う間、アキトは一時ユキナとラピスが乗るエステに非難していた。

だがコンソールを扱わなければならないラピスは当然パイロットシートに座る。

そして残りの2人は…

「もう少しこうしていたいかも」

「本気で勘弁してくれ」

背後で抱き合いながら収まっていた。

勿論のこと直立不動で固まっているアキトにユキナが抱きついているだけだが。

 

「あ…いかん、気が遠くなりそうだ…し、しっかりするんだマイハート!」

「アキト、死ぬ時は一緒だよ」

どっちにしろアキトはピンチだった。

 

「よし!よーく見てろ2人共!いくぞ宇宙空間バンジーだ!」

ヤケになって妙な事を叫びだすアキト。

1度自分のエステに戻ってエネルギーパックを取り出せばまた戻ってこなければならない事実を激しく頭からおいやっているようだ。

「「ばんじー?」」

「そうだ!バンジーだ!」

「……さっきから持ってるゴム紐はその為だったんだね」

「おお、気がつかなかったな」

どこから持ってきたのだろうか。

「…でもなんでバンジー?」

「苦悩に苛まれたらバンジーだろう?」

「そうなの?」

「うむ。今日の星占いにそう書いてあった」

どんな占いなのだろうか。

「とにかく気をつけていってらしゃーい♪」

「あきとおにーちゃん、すぐに戻ってきてね」

「どえりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

気合一発、勢いよく自分のエステに飛び移るアキト。

勿論何故バンジーなのかは謎である。

 

「という訳でただいまーっ!!」

「アキトーおかえ…」

がすっ!

「けびっ!?」

「…ハテナよ。入り口に立ってたら危ないぞ」

「あきとおにーちゃん、ユキナ聞いてない」

アキトの出迎えをしようとコクピットからのり出していたユキナはアキトのドロップキックを喰らって見事に撃沈した。

「おーい、生きんのかー?死んでんのかー?しっかりせーい。ほらこれ何本に見える?…見えんか。グッバイ、ハテナ」

目を閉じているのに見えるわけがない。

「うう…」

「……ちっ、生きてやがる」

どぐしっ!

「今、何て言った?」

ガコンッ!

「あきとおにーちゃん、ユキナを殺さない」

即座に復活したユキナ、きっついツッコミを入れる。

勿論トドメ役のラピスもツッコミを入れる。

使用したのはアキトが持ってきたエネルギーパックだ。

無重力なので軽々である。

 

「…気が付いていたんならさっさと起きろよ」

踏んだり蹴ったりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「とにかく行くぞ!」

「はーい♪」

「あきとおにーちゃん、気をつけて」

流石にラピスではエステの操縦は無理という事でアキトがパイロットシートに座りユキナとラピスは後ろに漂っている。

勿論アキトがこれでもかってくらいに主張したのは言うまでもない。

 

そしてエステは飛び立ち、いくばかの時間が過ぎる。

 

「…さて」

「うん」

「…」

何故か微妙な空気が流れている。

「ここはどこだ?」

いきなり迷ったようだ。

 

「アキトぉ!なんでナビ使わないのよ!」

「あきとおにーちゃん、カンだけで飛んでた」

非難の嵐だった。

「うむ!何故かオレの本能がこっちの方向に向かえと呼びかけていると感じとったのだ!文句は言わせん!!」

勿論アキトは動じない。

「何よそれ?」

「震えるぞハート! 燃えつきるほどヒート!!踊れトルネード!!!轟けタイフーン!!!!唸れゴッドパワぁ―――!!!!!」

「…アキトが壊れた」

「あきとおにーちゃん…何事?」

本当に何事だろうか?

「…さて、深刻な事態という事は理解できたか?」

「「全然」」

無理な話だった。

「まあ簡単に言うと」

「「うん」」

「空気が足りない」

「…は?」

「ほへ?」

「だから、エステに3人も乗ったもんだから酸素が足りなくなちゃったんだなこれが。はっはっはっ!」

「えーーーーーっ!!!!」

「…笑い事じゃない」

またもピンチである。

「ど、どうするのー!?」

「…あきとおにーちゃん」

「うーむ……ここが何処かもわからんしなぁ…ここから月表面に行くのも無理だし…コスモスの位置も掴めんし…む〜…絶体絶命?」

「いやーーーーーーっ!!!!!」

「ユキナ落ち着いて」

「そうだね」

「早っ」

「……もしかして結構ず太い神経してんじゃねーか?」

ちょっと呆れ気味なアキトだった。

 

「でもどうしよう…」

「エネルギーはまだ持ちそうだけど…」

「参ったな…お?」

「ん?アキトどうしたの?」

「あきとおにーちゃん、何か見つけた?」

「うむ。敵だ」

「「え?」」

「ほれ、アレを見よ」

アキトがモニターを指差す。

ユキナとラピスがそれにつられて指差す方向を見ると…

 

ばしゅしゅしゅしゅしゅ…!!

 

大量のバッタがミサイルを撃つ瞬間の光景だった。

「「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!?」」

「はい先生!もう帰りたいです!」

「そんなこと言ってないで逃げてーー!!!」

「あきとおにーちゃん、早く」

「おう!流石にまだ死ねないからな!」

「そうだよ!まだ私、アキトとキスもしてないんだから!」

「ユキナこんな時に…」

「全くだ!」

「え?」

「あきとおにーちゃん?」

「約束したからな!安心しろオレが守ってやる!だから信じろ!」

「アキト…うん!」

「あきとおにーちゃん、カッコイイ」

「オレの第六感を!」

「「それは嫌」」

「…」

うなだれるアキトだった。

 

「とにかく反転!逃げるぞ!」

「「おー!」」

エステが振り返り、逃げに徹しようとする。

 

がづっ!

 

「ぐばっ!?」

「うわっ!?何!?」

「何かにぶつかった…」

だがまたも何かが立ちふさがったようだ。

「またか!今度は一体って…なにぃぃぃぃぃぃっ!?

「な、何でこんなトコに次元跳躍門がー!?」

「こっちではチューリップ」

「ぬぅ…おそらくさっきのバッタとこのチューリップ、月攻防戦の増援だな。

…お、そういえばスカの幼稚園時代の組が確か『ちゅーりっぷ組』だったなぁ。更に言えばチューリップはユリ科だ。ぬぅ、因縁めいたものを感じる」

またも訳のわからない事を呟くアキト。

そんなアキト達の前に立ちふさがっているチューリップの口が開きだした。

「まずいな…」

「アキトぉ」

「あきとおにーちゃん…」

退路を絶たれ、まさに大ピンチ。

ユキナとラピスはアキトにしがみつき震えている。

「…安心しろ2人共、何時でも一緒だ」

「アキト…」

「あきとおにーちゃん…うん」

「きっと天国という所はサービスサービス!サービスエース!ってな感じのところだから楽しいぞ?まさにリゾートだ!」

「でもアキトって、天国に逝ける?」

「微妙」

「お、お前ら…」

アキトのセリフは台無しだった。

そんな事をやっているうちにチューリップの口が開ききる。

「あ!な、何かが出てくるよ!?」

ユキナの声と共にソレは飛び出してきた。

「あれ?木連の戦艦にあんなのあったかな?」

「…白い船…」

「…って、待て!あ、あれは…ナデシコ!?」

チューリップから出てきた戦艦。

それはかつてアキトが乗っていた艦、『ナデシコ』だった。

「な、なんでナデシコが…はっ!まさか定番のニセナデシコか!?

「「違う違う」」

思わずぱたぱたと手を振り否定するユキナとラピス。

そんなことをやっている内にナデシコはチューリップから完全に飛び出た。

更に…

「…アキト」

「なんじゃ」

「あの船の中央部分って何?」

「…発射口だ」

「何の?」

「言わずと知れたことだろう」

「…そうだね」

「発射口開いてる」

「「あ〜嫌な予感」」

勿論それは的中する。

 

 

ギュォォォォォォォォォォォッ!!!!

 

 

「「「ひびゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」」」

 

黒き本流がナデシコより放たれ宙を裂いて行く。

勿論近くに居たアキト達を巻き込みながら。

 

「何か久しぶりーっ!!!」

「私は始めてーっ!!!」

「…目…回る…」

そしてそのままぶっ飛ばされていく。

 

 

 

 

 

 

 

「アキト様ぁ!何処ですかーっ!?」

「カグヤ様。少し落ちついてください」

「そうそう。冷静に」

「本当に戦線を離脱しちゃったわね。後でどうなることやら」

結局コスモスは月攻防戦を抜け出しアキトの捜索に出たようだ。

 

「アカツキさん。反応ありました?」

「いや、ダメだね。ヤマダ君はどうだい?」

「ダイゴウジ・ガイ!…こっちも反応ナシだ…アキト、生きてろよ!お前とはまだゲキガンガー全話を見尽くすという約束があるんだからな!」

エステ隊も勿論捜索に当たっている。

 

そこへ…

 

バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!

 

「「「うわ!?」」」

黒き帯が通り過ぎてゆく。

「敵ですか!?」

「でもそれらしい機影は見当たらないねぇ」

「じゃあ今のは…ん?」

 

どがぁ!

 

「げはぁ!?」

何かがガイの機体に衝突した。

「ヤマダ君、大丈夫かい?」

「一体…あら?アレは…」

ヤマダの機体にぶつかったモノ。

それは…

 

「「「きゅぅぅぅぅぅぅぅぅ…」」」

 

先程ぶっ飛ばされたアキト達が乗ったエステだった。

無事生還である。

 

 

 

 

ちなみに木星蜥蜴の増援部隊は先程放たれたナデシコのグラビティーブラストと追撃に出たコスモスとそのエステ隊によって壊滅状態。

連合宇宙軍もなんとか勝利を収めたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミッション・コンプリートね!」

「いや、あんた何もしてないでしょ」

レンナの勝利宣言にツッコミを入れるエリナだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃ハーリーはというと。

 

「ははははは!海賊旗は我が命!貴様等の汚ぇ手になんか触らせるかぁ!!………あぅ…」

 

新たな世界を垣間見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、アキト達が乗っていた機体は例によってコゲて真っ黒になったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

アキト…とナデシコクルーの運命はどっちだ!?続くような続かないような思わなくも無きにしも非ず。

 

あとがきです。

こんにちは、彼の煤iかのしぐま)です。

帰ってきたぞ♪帰ってきたぞ〜♪

という訳でナデシコ帰還!やっとこ帰ってきました!

その14から消えて早…4ヶ月近く!(本気で8ヶ月後に出そうかと思っていたのはココだけの話)

とにかく長かった…(遠い目)

 

さて、次回は全員集合!

よーっし!気合入れて書くかーっ!!…って、待てよ…?

全員集合って、一体メンバー総勢で何人居るんだ!?

しかもナデシコクルー、最近書いてなかったからキャラ忘れてる!(爆)

やばい……………書けるかどうか不明!(極爆)

 

ではっ!(爆死)

 

 

代理人の感想

いや、まぁ、なんというか。

癒されるなぁ(爆)←なんか違うだろうそれは