突如落ちてきたチューリップに乗り、目の前に下り立ったのは、木連にてアキト達の行く手を阻んだはいいが、

色々あって2頭身という姿になったしまった木連の暗部に属する存在。

その名を―――

 

「とまあこの際 本名なんてどうでもいいとして」

「良くないわ! ちゃんと覚えんか!」

「で、何の用だトカゲのおっさん」

 

そんな言葉を無視してさっさと事を進めようとするアキト。

トカゲ呼ばわりされた男、名を北辰。

少々いじけ気味である。

 

「…まあいい…テンカワ・アキト、貴様には死んでもらう」

「『テンカワ・アキト』? ソレダレデスカー? ワタシハ『エイツ』イイマース、ヒトチガイデース」

「見間違う筈があるか、ふざけるのは止めろ」

 

ボケながらも流石に驚いたのかアキトは思わず背負っていたアクアをぶん投げていた。

そのままアクアは地面を転がりたまたま近くで潜伏していたカズマに激突。

揃って撃沈し魂が抜けかけているがそんな事は全く気にせず話を進めるアキト。

 

「で、いったいどういうことなんだ?」

「これから死ぬ者に言っても無駄であろう…」

「むぅ!? 生真面目なセリフを!」

「…なんの話だ」

「ねえねえ。それじゃあ、私も? 私も殺されちゃうの?」.

「知らん」

「んじゃ私は?」

「誰だ貴様?」

「「…」」

ぷちっ

「アキト、あいつ殺って」

「アキト、私が許すわ。あのとっちゃんぼーやを滅殺しなさい」

「無茶言うな…」

 

北辰に全く相手にされなかったユキナとレンナ。

標的にされなかったのが余程腹立たしかったのだろうか。

微妙なお年頃である。

 

「…私は?」

 

ラピス、出遅れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説の3号機

その36

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話はここまでだ…行くぞ!」

 

北辰が叫んだと同時に主バッタが高々と飛び上がった。

 

「ふはははは、見たか! この数ヶ月の間に更なる進化をしたこやつの…」

 

ガン!

 

ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん……ぽちゃんっ

 

「おや、何かぶつかりましたか?」

 

『………』

 

北辰が上機嫌で演説をかましつつアキトに迫ろうとした瞬間、何かが北辰を主バッタごとぶっ飛ばしてしまった。

北辰&主バッタ海の藻屑と化す。

勿論のこと一同呆然。

だがその中でユキナのみ突如目の前に現れた物体を知っているのか、暫く目を見開いて佇んでいた。

 

「まあいいでしょう。さて用事を済ませますか…あなたがテンカワ・アキト殿ですね?」

「あ、ああ…で、突然現れて自分に浸るアンタは誰だ? 保険の勧誘ならお断りだぞ」

「ふっ、私は美しき木連の戦士。その名も…」

「あーっ! アララギさん!!」

「…ユキナ殿、最後まで喋らせてください。これでは美が半減です」

 

大スクリーンで美しきポーズを交えつつ自己紹介をかましていたアララギだが、ユキナの邪魔が入り全て台無し。

何気に持っていた薔薇が折れていたりする。

 

「よくわからんが、とりあえず降りてきてくれ。このままじゃ喋りにくい」

「そうですね。では後程」

「なんかややこしいことになってきたな…しかし、トカゲのおっさん、何しに出てきた

 

酷い言われようだ。

そんなアキトの元へリョーコの乗る赤いエステバリスが下り立った。

 

「おーいアキトーとりあえずナデシコに集まれだとよー連れてってやるからエステの手に乗れー」

「おーバリウムか。りょーかい」

「あ? …おい、今なんて言った?」

「バリウム」

「…なんじゃそりゃ?」

「先日の『悪夢のチャーハン』を作り上げたお前にはちょうどいいだろう?

 だからスリは返上。今日たった今からお前はバリウム。はい決定!」

「…いっぺん死ぬか?」

「嫌なこった」

 

リョーコのエステに銃口を向けられても動じないアキト。

しかし膝はガクガク、目も潤んでいた。

 

「アクア姉ちゃん、大丈夫かー?」

「…?」

「いえ、駄目…」

「駄目なん!?」

「…!」

「もうアキトさん、突然投げるなんて酷いじゃないですか。ほらもう生気が最低ライン間近まで下降中…」

「うわー! アキト兄ちゃん、アクア姉ちゃんが大ピンチやーっ!」

「…!」

…あ、まさか敵が襲ってきたのを見計らって私を逃がす為にわざと…?

 そう、そうでしたの。やっぱりアキトさんは私の事を大事に…ああ、愛なんですね…嬉しいです…!」

「あ、復活しおった」

「…」

 

今までぶっ倒れていたアクアだが自分なりにアキトの行動を解釈し見事復活。

そして妄想いっぱいで再びくねりだす。

 

「…どうしてそう良い方へと考えが行くのかね」

「アクア姉ちゃんやもん」

「…コク」

「……………お前等…誰か忘れてねえか?」

 

すっかり蚊帳の外になっているが、その後カズマもなんとか復活。

余計混乱しそうな雰囲気が漂っていた。

 

「あーそういえばその女が例の救出対象だったな。アキト、ちゃんと連れてこいよ」

「何!? アクのお嬢を助けることが今回の作戦だったのか!?」

「今頃気付いたのかおめえは!」

 

いや、もう混乱していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では改めまして地球の皆さん。私は『木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ・及び他衛星国家間反地球共同連合体』、

 通称『木連』の優人部隊所属にして、美を愛する男アララギと申します。以後お見知りおきを。

 また我等の事を木星蜥蜴と称し敵と見なしているようですが私は敵ではありませんので」

「はいご丁寧にありがとうございます。私はナデシコ艦長ミスマル・ユリカです!

 事情は大体知っていますので身構えなくても大丈夫ですよ!」

 

一応ナデシコ代表のユリカがブイサインをしつつ挨拶を交わす。

不安一杯だ。

 

「な、なんと女性が艦長を行っているとは…これもまた美か…!」

「アララギさん、変なカルチャーショックを受けるのはその辺にしてここに来た訳を教えてよ」

「ふっ…ユキナ殿、それは勿論 私が美しく頼れる男だからです」

 

未だ健在のアフロ頭を振りつつ美しいポーズを取るアララギ。

凄まじい違和感がナデシコブリッジに花開いていた。

 

「全然意味わかんないんだけど…」

「あーたぶん、木連で何かがあってその事を伝えにアララギさんが使者として地球に送られたってことじゃない?」

「おー通訳技術発動だね」

「よくわかるな…」

「ゴート君、彼女を見誤ってはいけませんよ?」

 

便利な特技を披露するレンナ。

流石に初めて見たナデシコクルーは感心していた。

 

「で、かっこよさげなヴォイスでナルシーゼリフを言うビューティフルガイと自称しているアララギさんだけど用事は挨拶だけじゃないですよね?」

「美しさは自称ではないのですが…まあその通りです。さてアキト殿」

「な、なにか…?」

 

ギリギリで返事をするアキト。

帰ってきたのはいいがアクアとの事を散々ユキナとその他女性クルー(ユリカ、メグミ、ミナト中心)&ウリバタケ筆頭整備班に問いただされ、

今はブリッジ天井よりみの虫状態で逆さ釣りされている。

しかも何気にラピスとルリがクルクル回して遊んでいた。

 

「しかしお前、あの痺れ薬を飲んだのによくもまあすぐに動けたもんだな。本当に人間か?」

「アキト君は何故かすぐに薬を中和しちゃうのよね〜ホント何故かしら?」

「なるほど。やっぱ面白いやつだなお前は」

「…マッドな奴らめ」

「「何か言った?」」

「別に」

 

注射器をダブルで向けられ即座に否定。

怖さ倍増である。

しかしアキトが今の身体になった原因の1つがイネスの昔の行動によるのだがそんなことは全く気にしていないようだ。

気付いていないだけかもしれないが。

 

「さて、アキト殿。貴方の父上より美しき私が書状を預かって参りました」

「何、親父から!?」

「アララギさん、ワタリさんをご存知なんですか?」

「ええ、随分前から色んな意味で美しくお世話になっていました」

 

色んな意味の辺りで急に遠い目をするアララギ。

きっととんでもない事に散々巻き込まれたのだろうとレンナは推測し、敢えて問いただしたりはしなかった。

 

「それでそれで、その手紙ってどんな事が書いてあるの?」

「パパ元気?」

「まあ落ち着いてください。美しき私を慕うのは仕方の無いことですが。

 …そうですね、妹のラピス殿でも構わないでしょう、さあお読みください。美しく!」

 

流石に縛り上げられたアキトではどうしようもないと判断したのかラピスに手紙を託す。

早速と言わんばかりの勢いで封を開け、書かれている文面をゆっくり読み出した。

その内容は以下の通り。

 

おとといきやがれ。

 よおアキト、元気に人生のショートカットが過ぎるっていうか青春大暴走してるか?

 まあ俺の息子だからまず間違いなく自爆気味だろう。

 ラピスはきっと可愛いな。うん、早く会いたい。

 お供もきっと元気だろう。気に入らないことがあったらアキトを思う存分殺れ。俺が許す。

 あーあー言わなくてもいい。全部わかってるから。

 さて、お待ちかねの本題だが、その前に小話でも1つ…

  「へいマール、気分はどうだい? 良い? 悪い? 普通、最高潮、それとも…」

  「カット」

  「カット!?」

  「その心はハーフ&ハーフ」

  「そうか! でもなんか間違ってるような当ってるような微妙な感じだなっ! HAHAHAHA!」

 とまあそういう訳で、むしろ外すなと。外しちゃいかんと。俺としては主張したい。では、さらばだっ!』

 

『…………………………』

 

本気でどうしようもなく訳がわからなかった。

静寂がブリッジを包み込む。

 

「あ、もう一枚あった」

「…読んでみて」

「えっと…『あーそういえばあの北辰とかいうトカゲ野郎がそっちに向かったらしいからガンバレ。まんじゅうでも食いつつ応援してやるぞ』」

「………遅いよ」

「しかも偉そうだし…さすがはアキトのお父さん」

 

ガックリと肩を落とすレンナ、ユキナ、ラピス。

アキトのみアキト父の文面に感心していたが。

 

「そうそう、もう一枚手紙が有りました。こちらは母上からですよ」

「そっちが本命ね」

「うん、間違いなく」

 

アキト父の手紙は前座になってしまった。

もしかしたら狙っていたのかもしれない。

 

「え〜と、読むね?」

 

『なんだか世間一般が騒がしい今日この頃、元気にしてるかしら?

 私はとってもCOOLよ。

 さて、大体の事情は掴みかけて逃したと思うので私が最初から話すわね。

 まず、私とお父さんは元気よ。

 アララギ君のお陰でなんとか命拾いできたわ。

 人脈って大切ね。ええとっても♪

 あ、そうそう。逃げる最中にフクベさんという方とも一緒になったのよ。

 面白い人ね。しかもアキトの師匠なんですって? いろんな意味で凄い人ね!

 …話が反れたわ。本題に入るわね。

 木連の上層部がどうやら地球の企業と繋がりがある事がわかったの。

 どこの企業かはさすがにわからなかったけど、そこは自力でなんとかして調べあげてね。

 男の子は頼りがいがある方が良いのよ? 色々と。

 また話が反れたわ…そうそう、あのトカゲさんだけどアキトを抹殺したいがために自ら望んで地球に行ったらしいわよ?

 大変ねアキト。トカゲス○ーカーの誕生よ。

 でも本当の目的はラピスの奪還らしいわ。目的はよくわからないけど…アキト、全身全霊を持って守りぬきなさい。

 あんなのに指一本でも触れられたら汚れるわ。

 それと一緒にいたお友達とも仲良くね。

 でもよくよく考えれば女の子ばかりよね…アキト、くれぐれも過ちは犯さないように。

 もし何かあったらお母さん世間様に顔向け出来ないわ。いいわね?

 こんな所かしら…それじゃあ身体に気をつけてね。刃は毎日磨くのよ。通り魔には気をつけてね。月の無い夜は出歩いちゃダメよ。

 じゃ、またね♪

 PS:ネルガルの会長さんに会ったらけじめはつけましょうって言っておいてね

 

『……………………』

 

アキト父と大差ない文面だった。

やっぱり沈黙してしまう一同。

 

「ま、まあ無事だってことじゃない?」

「そ、そうね。それにお爺ちゃんも一緒みたいだし。良かったのかな…?」

「は、ははは…エリナ君、けじめだって」

「まあ前会長の事を言っているんだろうけど…適当に頑張りなさい」

 

しれっと言いのける。

さすがにかかわり合いにはなりたくないようだ。

 

「薄情だねエリナくん……まあそれより地球の企業と繋がりがあるって書いてあったね」

「そうですな〜となると余程の力を持つ企業になりますか…」

「プロスさん心当たりあるの?」

「ええ。地球の企業でトップクラスの実力と資金源を持っている所といえば3社に絞られます」

「その内の1つがウチね」

 

エリナが自信満々といった風に宣言する。

まるで自分が会社経営者のようだ。

 

「へぇ…ネルガルってそんなに凄いんだぁ。会長があんななのに」

「そらぁそうだろ。自分のとこで戦艦作っちまうくらいだからな。ま、あんなのでも何とかなるんだろ、意外と」

 

本当の経営者は普段からスケコマシているせいか信用は殆ど皆無だった。

だがこの程度の嫌味は普段から秘書に散々言われているので当人は全然気にしせず、ひょうひょうとしている。

器が大きいのか小さいのかわからない人物だ。

 

「ははは、まあ確かにリョーコさんの言う通りですね。そしてもう一つが明日香インダストリーです」

「あすかいんだすとりー?」

「はい、そうです。ユキナさん、実を言いますとコスモスの艦長をしていたカグヤさんはそこのご令嬢なのですよ」

「え〜〜〜〜〜! あのオバサンが〜〜〜!?」

「あ、そういえばそうだった」

「…艦長、今頃 思い出したんですか」

「ふんっ、甘いなスカ! オレなんぞ今 始めて知ったわ! 恐れ入ったか!!」

「…ラピスさん、お願いします」

「うん」

 

ラピスは返事をすると同時にステッキでみの虫アキトを回転させた。

 

「あべべべべべべべべべべ!!!!?」

 

「イイ回り具合やなぁ」

「…コク」

 

「さて、お話の続きと参りますか。ネルガル、明日香、それと同等の力を持つ企業それは…」

「クリムゾンですわ」

 

プロスの言葉を遮り発言をしたのはその企業の名を持つ少女。

先程までは完全に傍観者だったが話題が自分の身内の事に移り変わったので名乗り出たようだ。

 

「そうそう、アクアさんはクリムゾンのご令嬢でしたね」

「ええ。そして木連に手を貸しているのは紛れもなくウチですわ」

「おやおや、そんな事言っていいのかい? 自分の所の事だろう?」

「構いませんわ。どうせもう私は関係者ではありませんから」

「関係者じゃないってどういう事? あなたクリムゾンの令嬢なんでしょ?」

 

アクアの悲壮感漂う発言にミナトが疑問の声を上げる。

そしてそれに答えたのはアクア専属の医師、カズマだった。

 

「ああ、それにはちょっとした理由があってな、アクア嬢は以前ある事をやらかしちまってクリムゾンから勘当状態。

 しかも自分の家族とも連絡が取れない状態なんだよ」

「ある事? それはもしかしてあの事かしら?」

「ええ。私の誕生パーティの席に出た料理に痺れ薬を入れたんです」

「…ど、どうしてそんな事を?」

 

流石に物騒な話になり少々腰が引けているメグミがアクアに質問をする。

アクアは苦笑混じりに事の真相を話し出した。

 

「誕生パーティ、そして同時に社交界デビュー…そんなモノはあくまで表の呼び名でしたわ。

 本当はそれにかこつけて、その場でウチのトップと木連代表との会談をする事が目的でしたの」

「そう、それを知ったアクア嬢はその事が気に入らなくてあんな事をしでかした訳だ。勿論その薬は俺が調合したものだがな」

「なんだとーっ!? つ、つまりは…禁断の集団人体実験を決行したわけかっ! 大驚愕だぞこのやろう!!」

「…人の話聞いてたのかテンカワ? 半分当たってるじゃねーか

『半分当たってんのかい!!』

 

別の意味での驚愕の真実に思わずツッコミを入れてしまったクルーの面々。

だがアクアは知っていたのかニコニコ微笑むのみだ。

しかし新薬の実験台にされてしまった人達はその後どうなったのだろうか。

気になる所である。

 

「ま、まあ…なかなかアチラさんも大変なわけだと」

「なるほど合点がいったわ。どうしてここにチューリップが落ちてきたか、それは自分の縄張りなら幾らでも誤魔化す事が出きるし、

 こんなご時世だからチューリップの1つや2つ落ちてきても誰も不思議に思わない。そこに狙いを付けてアクアさんを…」

「ああ、アンタ…イネスさんだったか?…の言う通りだろうな。実際にアレが降ってくる前、姉のシャロンからそんな連絡があった。

 きっと木星蜥蜴とナデシコの戦闘のせいにしてアクア嬢を殺す気だったんだろう。

 この事を大々的にメディアに取り上げればライバル会社のネルガルは信用ガタ落ち、クリムゾンは被害者を装うだけでいい。

 暗殺に失敗しても新型チューリップの実験だけは出来ただろうし、アクア嬢が被害にあったことは間違いないからな。

 クリムゾンとしてはどっちでもいいんだろう。ま、他の目的も有ったようだがそこまでは知らねえな」

「…酷い話ね」

ま、本当はシャロンお姉さま独断でやったことでしょうから大半の原因はシャロンお姉さまにあるんでしょうけど。…でも何故かしら?

 シャロンお姉さまと私は凄く仲良くしていましたのに。

 私が小さい頃だってシャロンお姉さまにかまって欲しくてあちこちに死亡確率の高い罠を仕掛けたり、

 学校に行く際に一緒に連れて行ってくれないシャロンお姉さまの乗る車のブレーキを効かなくさせてみたり、

 家族での旅行の時に冗談でシャロンお姉さまだけヒッチハイクで現地集合させてみたり、

 仕事が面白くないって言うから嘘の辞令を出して火星に飛ばしてみたり、

 パーティの時のお料理だって大好きなシャロンお姉さまのモノには特別多く薬を盛りましたし、

 全部可愛い妹のお茶目なのに…何故なんでしょう? 全然わかりませんわ。

 まあ、もしここに攻め込んできたら問答無用で排除しますけど。

 その為の対抗方法もちゃんと考えていたんですよ? まあちょっと口には出せませんが…ふふふ」

『へ、へぇ…』

 

アクアの不気味な微笑みを見たナデシコクルーは

『こいつ、ここに放置していった方がいいんじゃないか?』という考えが浮かんだのは言うまでも無い。

シャロンのアクアに対する憎しみが嫌という程わかってしまった面々だった。

だが約1名のみは態度が何時も通りなのはお約束だろう。

 

「あーつまりマッドとサイコが手に手を取り合って夢の競演したということか。

 ぬぅ…怖いくらい波長が合ってそこはきっと阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられたのだろうな…

 そうか! あの世への片道切符無料進呈イベントか! 良かったなアクのお嬢!!」

「よーし、激しく間違ってるな。おーいメイ、ミコト、落とせ

「よっしゃ!」

「…コク」

 

「うぎょぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!?」

 

カズマが親指を下に向けた瞬間、アキトは2人の無邪気な天使に落とされた。

どこをどう落としたのかはわからないが。

 

「でもなぁ原因はなんであれ、その暗殺命令を実行する為に来たのがアレなのか?」

「そうだよねぇ〜アレいったいなんだったのかな?」

ポロロン♪

「結構おいしい役どころだったけどね」

「…イズミさん、流石に視点が違いますね」

 

全員揃って降ってきたアレに対して微妙な表情をする。

無理もないが。

 

「ユキナさん、もしかしてアレも木連の人なんですか? アララギさんもそうですけど木連って…」

「おうノリ3世の推測通りだ! あんなのばっかりだぞ」

「あきとおにーちゃん、もう復活してる…」

「まあ何時ものことですよ」

「違う〜〜〜〜!!」

「…ユキナちゃん、否定できる要素ある?」

「うっ…で、でも…」

「ユキナは正常。だから安心して」

「そうだね」

 

とりあえず保守に入るユキナ。

どうやらイロモノ系の仲間入りは勘弁らしい。

 

「で、アキトよ。あの未知の生物は知り合いなのか?」

「勿論」

 

ウリバタケの質問に何故か即答。

謎だ。

 

「し、知り合いなのか…」

「人間か人間じゃないか曖昧なヤツだが気にするなタイヤ班長。よくあることだ」

「よくあるのか!?…で、いったいあっちで何があったんだ?」

「う〜ん、なんて言ったらいいのか…ま、縁があったという事か」

「嫌な縁だな…」

「ふふ、そうですね」

「アクのお嬢…お前に言ってるんじゃない」

「知ってます」

「…もういい」

 

相変わらずやり包められるアキト。

どうやらアクアはアキトの扱い方を熟知しているようだ。

 

 

 

 

「さて、これからどうしますか」

「だがこのままアクア嬢をここに置いて行けば、またクリムゾンから何かしら接触があるかもしれんぞ」

「そうですなぁ、クリムゾンがこの程度で黙っているわけがありませんし…」

「きっと今度はちょっと出歩いただけで天地がひっくり返るほどの史上最強の罠が仕掛けられているにちがいない!

 ほら、外に出た瞬間地面が氷結してるとか! バケツに足を突っ込まざるを得ない状況下に立たされるとか!

 極めつけはバナナの皮100連発とか! いやーびっくり仰天だな!

 おいベン子秘書官、今の発言をちゃんと記録しておけよ?」

 

がごっ!

 

「ベン子言うな! 大体何にそのくだらない記録を活かす気よ」

「…ほ、ほら物覚えが悪いハテナの為にとか」

 

べしっ!

 

「誰の物覚えが悪いって?」

「…ぐお…い、いやな…えっと…」

 

すこーん!

 

「あきとおにーちゃん、物事はハッキリ言う」

「…」

 

だがアキトは返事が出来ない。

もはや喋ることも出来ないようだ。

ちなみに今回のステッキ変化は物干し竿だ。

 

ポロン♪

「物事だから物干し竿…くっくっく…ナイス」

「あっはっはっは、これは参った。おもしろおかしすぎるよ」

「笑ってんじゃないわよアンタは」

 

シリアスな場面は一瞬の内に笑いの場へと変貌してしまった。

つくづく雰囲気をぶち壊す奴である。

 

「ふふ、ご心配なさらないでください。あなた方にはご迷惑はお掛けしません。私は私でなんとかしますから」

「しかしアクア嬢、なんとかと言ってもそうそう逃げきれるもんじゃないぞ?

 クリムゾンの刺客はあんなオマヌケ野郎じゃねえだろうし、なにより始終狙われていたら身が持たねえだろう。

 ただでさえ俺のようなお付きの医者が居なきゃいけねえほどなんだから」

「そうね。病気を患っているのなら余計ここに居るべきではないわ」

「でもどうするんですか? そんな状態じゃナデシコに乗って一緒に行動も出来ませんよ。

 ナデシコはネルガルの物ですけど今は軍に属してますし、もしクリムゾンが軍に根回しをしたら何も言えません。

 それにここの医療設備もなかなかですけどアクアさんのような人を何処まで…」

 

流石に言葉に詰まるユリカ。

彼女なりにアクアの今後を心配しているのだろう。

普段のボケっぷりとは段違いの真剣な表情だ。

 

「それならば、私どもの美しき船に乗りませんか?」

「アララギ殿?」

「困った方を見捨てるのは美に反します。さあ私の手を取りなさい。一緒に美と極めようではありませんかっ!」

「…この兄ちゃん、頭イカレてるんか?」

「…?」

 

深刻な場面に割って入ってきたアララギだが言っていることは相変わらずだった。

本人は真面目なのだろうが。

 

「きっとアララギさんの所なら身を隠す場所もあるってことが言いたいと思うんだけど…」

「レンナさん」

「はい先生、なんでしょう」

「アララギさんが居る間、専属通訳をお願いします」

「え゛…了解しました」

 

プロスに頼まれては嫌と言えないレンナ。

しぶしぶ了承する。

だがアララギ自身は自分に通訳が付く事が不思議でたまらないといった表情をしていた。

 

「そうですね…この際アララギさんのお言葉に甘えましょうか。アララギさん、お願い出来ますか?」

「ふっ、美を愛する私にかかれば人1人を隠す事など容易いこと。ご安心あれ!」

「…とにかく任せろって」

「ありがとうございます。正直に言いますと、この後の事をほとんど考えていませんでしたの。助かります。

 あ、そうですわ! アキト様も一緒に如何です?」

「なに?」

 

ようやく逆さ釣りから開放され復活したアキトだがアクアに突然話を振られて戸惑いの表情を浮かべる。

本当は頭に血が上ってフラフラしているだけかもしれないが。

 

「アララギさん達の居る所にはアキトさんのお父様とお母様もいらっしゃるとのこと。

 きっとアキトさんのお父様とお母様もアキトさんに会いたがっている筈ですわ。

 それにアキトさんが一緒なら私は…」

「すまんなアクのお嬢」

「アキトさん?」

「オレはまだナデシコを降りる気はない」

「そんな…」

「なによりここにはこいつ等がいるからな」

 

そう言ってユキナとラピスの頭をぐしぐし撫でる。

撫でられた2人はちょっと赤くなり俯いた。

こんな一見微笑ましく真面目な事を言っているアキトだが、その視線の先にはミナトが胸元より

例の2人のサインが書かれている紙きれを取り出しヒラヒラ振っていたりする。

効果は抜群のようだ。

 

「そ、それならお2人も一緒に…」

「それにな」

「え?」

「親父と母さんはオレにラピUを守れと言ってきた。これはオレに対する心意気だ」

「は?」

 

アキトの突然の物言いに思わず呆けた表情になるアクア。

そしてアキトは語りだす。

 

「あの手紙の裏にはきっとこういう真実が有ったはずだ!

 『アキト、この手紙は再生紙だ』

 とこんな風な事を言っていたに違いない!

 それに母さんも…

 『アキト、殺られる前に殺れ』

 と言っているかどうかは定かではないが多分近い表現だ!」

「わかりました」

『納得しちゃうの!?』

 

アクアはアキトから何かを感じたのだろうか、一発で納得してしまった。

そんなことがわからないクルーは思わずツッコミを入れてしまう。

 

「アキトさんと私は心が通じ合っていますから、これ位わかって当然です。正に以心伝心ですね!

 それに私達はお互いの全てを知っている間柄ですし

 

そう言って少し頬を赤らめウットリするアクア。

しかも何気に意味深な爆弾も投下する。

当然そんな事を言われたら黙っているナデシコクルーではない。

 

なんだとーっ!? アキト、てめぇの女磁石はどういう戦闘力をしてるんだ!! いったい何人女を引っかけりゃ気が済む!?」

「そうだ! 例え俺が許しても世間の倫理が許さんぞ!」

「うああああああああああああああああああああん! 南の島の陽射しのばっかやろぉぉぉぉぉぉ!」

 

勿論ブリッジは再び混沌に包まれた。

ウリバタケが筆頭となっていることはお約束だろう。

 

「待て! 落ち着け! 事情を説明…」

「説明?」

「いや! 詳しく話したい所だがきっと見ても聞いても食べてもわからんと思うぞ? だから、な? な?」

 

必死に弁解を図るアキト。

だがそんな事に誰も耳を貸そうとしない。

 

「ふっふっふ、アキトぉ〜? 許婚の私としては詳しく聞きたいなぁ〜?」

「あきとおにーちゃん、何があったの?」

「アキト、ここはハラをくくって全部言っちゃえ」

「アキト、艦長命令です! 全部吐きなさい!」

「アキトさん酷いです! やっぱり私とは遊びだったんですね!?」

 

アキトに今度は女性陣が詰め寄る。

またブリッジにアキト宛の『事情説明を!』と題名が書かれたメールがコスモスより届いていた。

どうやって嗅ぎ付けたのだろう。

 

「ぬぅ…な、なんだか異様に雰囲気が重いような…」

「それはきっとアキトさんの中における私の存在の重さですわ

「そんなお前にとってのナイスな解釈にするな! 余計こじれるだろうが!」

『もうこじれてるよア・キ・ト♪』

「…そうか」

 

アキトが再び吊るされたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまあ冗談はこの辺にして」

『冗談だったの!?』

 

アクア、ナデシコクルーで遊ぶ。

本当にイイ根性をしている。

 

「何! 今の話 嘘だったのか!? …おいアクのお嬢、嘘つくと針千本が表紙を飾るんだぞ? むやみに嘘つけ」

『いや、どっちよ!?』

 

よくわからないアキトの物言いにつっこむ一同。

吊るされていても元気なヤツである。

 

「まあアンタのボケは毎度のこととして…こんなことになったのは誰が原因だと思ってんのよ」

「むぅ……………………………………………………………オレ?」

「遅い!」

「軽く1分は考えてたね」

「あきとおにーちゃん、考えるの長い」

 

それ以前に考える必要はない。

 

「まあ、とにかくその辺の事情は後々キッチリ話してもらうとして、アクアさんはアララギさんにお任せします」

「ふっ、お任せくださいユリカ殿。私がいればアクア殿の美は永久に保たれます」

「…つまり安心していろってことね」

「レン、疲れきってるね」

「…うん、さすがにツッコミと通訳の同時は堪える…しかも海で遊んだ後だから余計…」

「全く。ベン子、もうちょっとしっかりしろよな。そんな事じゃダメダメだぞ?」

 

ごげっ!!

 

「アンタが原因だって言ってるでしょうが!!」

「ナイス回し蹴り」

「レンナさん、最近力をつけてきましたね」

「ミスターのせいだろう…」

 

思わずレンナのツッコミに賞賛を送る男性陣。

余程気持ちの良いツッコミだったのだろう。

 

「が…ぉぉ…」

「お、まだ息あるぞ?」

「しぶといな」

 

心配のかけらも無い。

 

 

 

 

 

 

「さて、大分落ち着きましたね」

「…事が済むと出てくるタイミングは流石だね」

「関心してんじゃないわよ」

「ふふ…あ、そうそう。すみませんが少しアキトさんとユキナさんをお借りしても宜しいですか?」

「アキトとユキナちゃんを? どうする気?」

「別に取って食べようというわけではありませんから。ちょっとお話があるだけです」

「ユキナちゃん、どうする?」

「え? まあいいけど。ほらアキト行くよ」

「…少しは労われ」

 

そう言いながらブリッジを後にするアクア、ユキナ、アキト。

ユリカとメグミが後を追おうとしたがそこはプロスに阻まれた。

邪魔をするなら容赦なく鉄槌を下すということらしい。

この2人もプロスには敵わないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

そして展望室へと移動した3人。

南の島の夕焼けが綺麗に草むらを染めていた。

 

「…ユキナさん」

「何?」

「木連での事情は伺っています」

「…で?」

「アナタは本当にアキトさんを愛していますか?」

「え?」

「極限の状況下でアキトさんしか選ぶしかなく、とりあえずでアキトさんを逃げ場にしたということはありませんかと聞いているんです」

 

そう言ってユキナの正面に立ち目を合わせるアクア。

その目は先程までのイタズラ好きな少女の目ではなく1人の女性の目だった。

少し戸惑いの表情を見せるユキナだがアクアの目を見て何を思ったのか何時もの調子に戻りアクアを正面から見返した。

 

「最初はそうだったかもしれない。あんな事になったのは私のせいもあったし他に色んな理由あってこんなになっちゃったけど…でも今は違うんだ。

 アキトとはアクアさんくらい付き合いがあるわけじゃない。だけどアキトの良い所、悪い所、全部この数ヶ月見てきたもん。

 今の私の中にある感情が本気でアキトの事を思っているかって聞かれると正直わからない。

 でも、でもね一緒に居たい、アキトと居たいっていう感情はあるんだ。

 ううん、アキトだけじゃない。ラピス、レン、そしてナデシコの皆と一緒に居たいっていう気持ちも…。

 だからこの感情がアクアさんと同じかどうかはわからないし、アクアさんのアキトを思う気持ちには全然届かないかもしれない。けど私は…」

「もういい。ハテナ、良く出来た。お褒めの言葉を授けてやろう」

「アキト…」

 

途中から目を潤ませて正直に自分の心の内を告白したユキナ。

アキトはちょっと偉そうに肩をやさしく叩いてもう言う必要は無いと止める。

振り替えりながらその事を読み取ったユキナは今の顔を見られたくないのか袖で目を擦りつつ笑顔を見せた。

そんな所はまだまだ年齢相応の女の子だ。

 

「もうわかった。アクのお嬢もそうだろう?」

「ええ、そうですね。でもアキトさん、私を傷モノにしたくせに他の女に乗り換える気なんですか?」

「ええええええええええええええええ!?」

「ちょっ待てええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

いきなりの爆弾発言にユキナは驚愕し、アキトは全力でツッコミを入れた。

そんな2人を見ていたアクアの表情は何時ものイタズラ好きの少女の顔に戻っていたがアキトとユキナはそんな事に気付く余裕はない。

 

「ちょっとアキト! これはどういうこと!?」

「んなもんオレが聞きたいわ! アクのお嬢、いったい何のことだ? と言うよりその言動自体否定したいぞ!」

「あら、アキトさんお忘れですの? ほら私があの食堂でお世話になって初めて私の料理を食べた晩」

「……………………………………アレか」

「思い出して頂けましたか?」

「ああ…」

「アキト、本当なの!? その…傷モノって」

「あーハテナよ、少々誤解があるようだが、お前の思っているようなことじゃないぞ?」

「ホントぉ〜? じゃあ何があったの?」

「……あんまり思い出したくもないんだが…実はな」

「うん」

「アクのお嬢が作った料理がその…一種の滋養強壮効果があるモノでな」

「…ほぉ〜」

「ハテナ、落ち着け。まだ続きがあるんだ、その変なロープを下ろせ。なんか怖い」

「ふふふふふ、ホントかなぁ〜? 

 このウリバタケさんから貰った『逃走不可能・愛の捕縛ロープ』を喰らいたくなかったら納得のいく用に話してよね」

 

ピンク色のロープをヒュンヒュン回しながらアキトに詰め寄るユキナ。

またロープの端っこに『提案者ハルカ・ミナト』と書いてあったりするのだが今は割愛する。

 

「お、おう。で、続きだが…その晩、まあ例によって体が火照って眠れなかったのだ…だからロープを下ろせって、怖くて話せなくなりそうだ」

「わかったよ…それで続きは?」

「…で、身体が熱いな〜と思ってよくよく目を開けてみれば…」

「みれば?」

火の海だった」

「ええっ!?」

「あの時はやばいどころの騒ぎじゃなかったなぁ。ゾっさんなんて混乱して屋根の上で踊り狂っていたし…」

「ふふ、愛し合う2人が抱き合いながら炎に包まれ天に召される。素敵なシチュエーションでしょう?」

「余所でやって余所で」

「ああ、凄く嬉しくないシチュエーションだ」

「まぁ! そこまで喜んでいただけるなんて、私は幸せです…ああ天から光が…」

「「OK、今すぐ病院にいこう」」

 

普段から暴走気味のアクアだが昔からかなりイイ性格をしていたようだ。

クリムゾンも手を焼く訳である。

また全焼してしまった雪谷食堂はクリムゾンが弁償したらしい。

 

「まあ若気の至りというやつですね」

「その若気の至りで危うく殺されかけたんだからな…で、店から逃げ出す際にアクのお嬢が軽めの火傷を負ってな、それが傷モノという意味だ」

「…それってアクアさんのせいなんじゃあ」

「だってアキトさんったら私をにして逃げるんですもの。これは立派に傷モノにされたということですよね?」

「…アキト」

「いや、抱き抱えた姿勢がたまたまそういう事になってしまったという訳で…だから睨むな。ロープを持つな。にじり寄るな」

「まったく…まあ、大体事情はわかったよ」

「わかって頂けましたか…さてと、冗談混じりのお話はこの辺して。ユキナさん」

「なに?」

「私はナデシコに乗ることは出来ません。だから私のいない間、アキトさんを頼みましたよ。

 でもこれは降伏ではありません、宣誓布告です。私はまだアキトさんを諦めた訳ではありませんから」

「うん、まーかせて! アキトは私がいなくちゃダメダメなんだから! それに私は負けないよ?」

「ふふ、頼もしいこと…そうだアキトさん、お別れに1つ頼みごとをしても宜しいですか?

 次に会えるのは何時になるかわかりませんし、それまで私が…」

「わかったわかった、それ以上言うな。で、なんだ?」

「ちょっとこちらへ」

「だから何…むぐ!?

「あ〜〜〜〜〜っ!」

 

アキトがアクアに近づいた瞬間お互いの唇が重なった。

ユキナは一瞬硬直したがすぐに声を上げ2人を引き離す。

 

「ななななななななななにをいいいいいきななりぃ!?」

「ふふ、お別れの挨拶ですよ」

「だだだだだからててててそそそんなななな!」

「まあまあ落ち着いてユキナさん。アメリカではこの程度常識ですよ」

「ででででででも!」

「あら、だってお2人はもうキスの1つもしているんでしょう?」

「え……………っと」

「あら、まだでしたの。では私が一歩リードですね♪」

「〜〜〜〜〜!」

「それに私の身体の事をご存知でしたらこれ位許してくださいね?

 さてと、そろそろ私は行きます。お二人ともお身体には気をつけて。では御機嫌よう」

 

軽く会釈をし、微笑みながら展望室を後にするアクア。

その様相は勝ち誇っているようにも見えた。

勿論のこと取り残されたユキナはやるせなさ爆発状態。

 

「…アキト、放心してないでこっち向いて」

「………」

「…もうっ…そうだ。…よっと」

 

ちゅっ

 

「……………………………………ごふはぁ!!!?

「うわ! そのリアクションなんだかとっても失礼な気がする!」

 

ユキナの突然のキスにぶっ飛んでしまったアキト。

流石に2連続は堪えたようだ。

 

「いいいいいいいきなり何をするかハテナぁ!」

「だってアクアさんに負けたくなかったんだもん」

「だだだだだだだだからって…」

「ま、いいでしょこれ位。私たちは許婚なんだから。あ、でも唇はまだお預けね? だから今はホッペだけで許してあげる♪」

「…だ、だがなぁ、アレくらいでいちいち対抗心を燃やすなよ」

「…でも、それでもさ…やっぱり負けたくないもん」

「はぁ…わかったよ。しかしアクのお嬢はホント一種の嵐だな…過ぎ去った所には色んな意味で破壊の後のみ」

「そうだね…でもまた会えるかな…アクアさん、余命幾ばくも無いって言ってたし…もし…」

「あ? 余命幾ばくも無い? なんだそりゃ?」

「む、誰だ? いったいどこから…って、うぉ!?

 

突如聞こえた声に反応し辺りを見回すと近くの草むらが起き上がった。

そこに現れた緑色の謎の物体。

緑好きの男カズマである。

 

「…あんた何してんのよ」

「ああ、すまんすまん。いい緑色の草原だったからつい同化したくなっちまって」

「カメレオン気取り?」

「いや、言うならば『擬態生物ミドラー』出現だろ」

「怪獣か俺は…とまあそんな事はいいとして、さっきの余命幾ばくも無いって何のことだ?」

「何の事って…あんたアクアさんの専属医なんでしょ? 何で知らないのよ」

「はぁ? おいおい、そんな事 誰に聞いたんだ?」

「いや、アクのお嬢にさっきここに来る途中…」

「んな訳あるか、アクア嬢は確かに身体は弱いが命の危険性なんて無いぞ? 余命幾ばくも無い? 悪い冗談だな」

「…つまり?」

「嘘八百」

 

 

「アクのお嬢――――――っ!!」

 

 

アキトの絶叫が展望室に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、恋っていいわよね〜」

 

思わず溜息をつきながらそう漏らしたのはイネス。

こんな面白そうなことを見逃す訳がなくルリに頼み込みクルー全員で覗き見をしていたのだ。

ユリカとメグミはあまりにも煩かったのでプロスにより沈黙させられたが。

 

「でもイネスさんだともうかなり昔の話だよね」

スチャッ

「レンナちゃん、何か言った?」

「なにも」

 

レンナの物言いに俊敏に反応するイネス。

喉元に注射器を突きつけられても動じないのはさすがと言えよう。

 

「やれやれ独身女のひがみってやつか…でもそれを言うならイネスさんだけじゃなくてミナトさんも結構…」

「何か言ったかしらぁ〜?」

 

そんな声が聞こえたのかリョーコに詰め寄るミナト。

その顔はとっても素敵な笑顔だった。

 

「…あ、あはは、何も言ってねえよ、いやホント」

「へぇ〜〜〜〜〜〜?…今度ごはん奢ってね、リョーコちゃん♪」

「…わかったよ」

 

「…若いっていいですね」

「そうだねぇ〜」

ペロロ〜ン♪

「ふふふ…若人よ、飛びたて」

 

イツキ、、ヒカル、イズミの十代組は余裕綽々だ。

ちなみに男性陣は怖くて声を掛けられず、一歩も動けずに佇んでいた。

今この話題に触れると生きて帰ってこれないからだろう。

 

なお、散々暴れたユキナは風邪がぶり返し再び医務室送りとなったそうな。

ユキナの容態を心配したユリカがまたもお粥を作ろうとしたがホウメイに全力で止められたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクア嬢、本当にもういいのか? アララギはまだ時間に余裕はあるって言ってだぞ?」

「ええ、十分です」

「そうか」

「そういう事でしたら、いざ美の旅路へ参りましょう!」

「アララギ、居たのか」

「そんなことはどうでもいいのです! 私は感動しました! これ程の美しき光景を見て黙っていられましょうか!

 負けていられません! さあ一緒に美を追求しようではありませんか!!」

「追求しねえよ」

 

地球の光景に余程 感動したのかテンションが上がりまくっているアララギ。

でも言っていることは相変わらずだ。

ちょうどナデシコがその白い船体が輝かせながら夕日が沈む水平線の彼方へ飛び立つところだった。

 

「ふふふ、カズマ殿…緑の美と言う言葉をご存知ですかな?」

「な、何!? それはいったい!?」

 

カズマ、アララギの世界に興味を持つ。

今後がかなり危ぶまれる人物がまた1人増えた瞬間だった。

 

「はいはい、その辺にしてもう行きましょう。…アキトさん、ユキナさん、またお会いしましょうね♪

 …はぁ…でもアキトさんが一緒ではないなんて本当に残念です…」

「いや、俺としてはありがたい」

「あら、何故?」

「あのまま奴と一緒にいたら確実に俺が…」

「俺が?」

「笑い死ぬ」

「…そう」

「そうだ! なんなんだあのキャラは!? 場面が場面だから今まで耐えてきたがもう限界だ! 笑わせろ!!

 わはははははははははははは!!!!

 だははははははははははははは!!!!!

 ぶわははははははははははははははっ!!!!!!

 ひぃーひぃーは、腹痛ぇ――――っ!!!」

「…カズマ殿は美しく笑い上戸ですか?」

「おかしなモノに弱いのよ。よく耐えていたこと」

 

アララギの艦『きそめづき』へ乗り込んで行くアクア達。

そんな会話を他所に小さな人影が2つ、夕日を眺めながら何かを話していた。

いや、話しているのは1人だけのようだが。

 

「綺麗やなぁ〜でもこれで見納めかぁ…残念やな〜」

「…」

「ミコト、どないしたんや? おとーちゃんの笑い声が喧しくてアッチの世界に避難か?」

「…フルフル。…!」

「ん? ああ、そうやったそうやった。……やっと…やっと見付かったな」

「…コク」

「でも全部忘れてるみたいやったな…」

「…」

「ま、なんとかなるやろ。時間も機会もまだある! 大丈夫やって! な?」

「…コク」

 

「メイちゃーん、ミコトくーん、そろそろ行くわよー」

「はーい。ほな行こうかミコト!」

「…コク」

 

「ぎゃははははははははははは!!!!」

「カズマさん…うるさいです」

「…美の道は遠いですな」

 

 

 

 

 

そして全てが終わり南の島の日が沈む―――

 

 

 

 

 

「ちょっとー! 何時まで私をここに埋めておくつもりよー!? いったいさっきから何が起こっているっていうのーっ!?

 誰か事情を説明しなさい! 私は提督なのよ――!?」

 

ムネタケは海遊びをしていた頃から今までずっと首だけ出した状態で砂浜に埋められたまま忘れ去られていた。

勿論 叫んだところで誰も聞いてはいない。

だがそんな所へ海から上がってくる巨大な物体が現れた。

 

「ぜぇぜぇ…せ、折角 主バッタを改造し、ここまで来たというのに…くっ、まさか新手が居たとは…ぬかったわ…!

 このままでは閣下に顔向け出来ん…次こそは…!」

 

何か激しい勘違いをしながら海から上がってきたのは冒頭で海の藻屑と化した筈のSD北辰と主バッタ。

どうやら無事だったようだ。

 

「しかし山崎め、これを見越していたのか? まさか防水処理だけでなく酸素ボンベまで完備しておくとは…抜け目の無い奴だ」

「ちょっとアンタ!」

「む?……………地球には不可思議な生物が居るものだな。砂から生え人語を話すキノコか」

「誰がキノコよ! それより私を助けなさい!」

「随分と偉そうなキノコだな…鬱陶しいから潰してしまうか?」

 

そんな事を思案する北辰。

そこへヤツは現れた。

 

「うぉぉぉぉぉ! アキトぉぉぉぉぉ! 俺ははやったぞぉぉぉぉぉぉぉ!

 ヤツラを滅ぼしたぞぉぉぉぉ! ヒーローは勝ったんだぁぁぁぁぁ!!

 さあダイゴウジ・ガイ様の凱旋だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 ぬははははははははははははははっ!!!!!」

 

 

ドギャスッ!!

 

 

「「がべ!?」」

 

 

ジャングルより生還したのは謎の植物群に捕まっていたガイ。

今の今まで捕まり必死の抵抗の末 勝利を収め、ここまで走ってきたようだ。

そしてその直線状にいたムネタケと北辰はぶっ飛ばされ、ムネタケは無事砂浜から脱出したが昇天。

北辰は再び海の藻屑と化した。

 

「…も、もう何度目よ…」

 

「つーか、アキトぉぉぉぉぉ!! 俺を置いていくなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

その後この事を思い出したクルーが回収に来たそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ち、地球人め…絶対に許さん…ぞ…がぼがぼがぼ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキト…とアクア、モトギ親子そして北辰の運命はどっちだ!?続くような続かないような思わなくも無きにしも非ず。

 

あとがきです。

こんにちは、彼の狽ナす。

無事アクア編完結!

なんだか途中シリアスになったり甘々になったりして大変でしたがなんとかなりました!

北辰もあんなでしたけどまだまだ活躍の機会はある…はず(爆)

とにもかくにもこれでアキトの過去は大体明らかになりました。

後は誰とくっつくかが問題ですが、まあその辺りはおいおいですね(笑)

 

さて、次回はTV版にのっとっていけばアレです。

ではこの辺で〜。

 

 

 

 

プロトデビルンな代理人の感想

ぬぬう、冒頭の出遅れたラピスに失笑を禁じ得ぬ・・・これぞ爆笑美!

やっぱり間ですね、お笑いは。

 

 

>「美しく頼れる男だからです」

地域限定ネタかなー。(笑)

テレビ東京だからなー。(笑)

元ネタを知りたい人は適当なキャプサイトで「LAST EXILE」7月22日分を参照しておくんなまし。