「で、おめえは何者なんだ? 変な格好しやがって…しかもヤマダと瓜二つな顔だぁ? 斬っていいか?」
「何を言いますか! これは神聖なる戦闘服ですよ!?
まあ顔に関しては世の中には自分そっくりな人間が3人は居るといいますから問題ありません…たぶん。
と、とにかくですね、そのナイフを突きつけるのを止めてくれるとありがたいんですが…聞いてます?」
通信越しにそんな会話をする2人。
突然の事に最初は戸惑いの色を見せた面々だが、相手の話を聞くうちに本当は敵対心が無いことがわかった。
何か理由があるとのことなので、警戒しながらも和やかに話を続けている。
和やかといってもあくまで見ようによってはだが。
ポロロ〜ン♪
「ふっ、そっくりさんはサックリ斬るってことね…リョーコ、いいボケだわ」
「はっ! も、もしかしてヤマダ君って某研究機関の実験用クローンだったんじゃ…?」
「ヤマダさん、親戚ですか? まさか家族中同じ顔とか…うわ、かなり怖いです…」
「同じ顔で同じ趣味かい? やれやれ熱血は1人で十分だよ」
「だぁーっ! うるせぇ! ちょっと顔が似てる程度でガタガタ騒ぐな!」
『いや、滅茶苦茶似てるし』
「…確かにちょっと目じりとか似てるか?」
『そういうレベルじゃない』
どうやら2人は相当似ているようだ。
ガイはあまり認めたくないようだが。
「たたたたたたた大変だよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」
そんな場面に大声を張り上げて割り込んだのは物凄い形相をしたユキナ。
後ろには回りを警戒しながら匍匐前進するエリナとそのエリナを踏みつけるイネスの姿も見える。
「ユ、ユキナ…? ユキナか!? ユキナなんだろ!? 俺だ! お前の兄…!」
「……………………………………え〜と、どちらさんでしたっけ?」
「………………」
ズドガァァァァァン!!!!!
謎の機動兵器は自爆してしまった。
伝説の3号機
その40
「な…! そ、それ本当なんですかエリナさん!」
「そうよ…。だ、だから首絞めないで、苦しいわ…」
エリナに事の詳細を聞いたユリカは顔を真っ青にし慌てふためいていた。
ちなみにエリナも揃って真っ青だ。
おまけに泡も吹いている。
謎の機動兵器が自爆した直後、ナデシコへ戻った面々。
同時にアキト達の事を聞かされたユリカは動揺し、直後エリナの絞殺にかかった。
勿論、無意識である。
「ぐふっ…」
「あ、落ちた」
直後、ジュンの脳天チョップにより我を取り戻したユリカ。
しかしエリナの意識は既に彼方へ飛び立っていた。
「…部外者は早く出てってよ」
「ユキナぁ〜! お兄ちゃんが悪かった。だから機嫌を直してくれ〜!!」
こちらは何故か医務室。
ベッドに居座る包帯だらけのミイラに向かって先程の機動兵器に乗っていた筈の男が、
涙やら鼻血やら顔から出てくる全ての液体を噴出しながら土下座をしている。
「私にお兄ちゃんなんていない。
もし私のお兄ちゃんなら妹より漫画の人形を選ぶなんていう外道行為しないもん。
まあ、そんな人が私のお兄ちゃんだったら間違いなく無視して放置だけどね」
「ユキナぁぁぁぁぁぁぁ! 俺が馬鹿だったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
もうフィギアに目を向けたりしなから許してくれぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
もう何度土下座をしたことか、床はへこみ、そこに男が流した液体が溜まっていた。
この男、先程からユキナの兄と名乗っているが、もしここにアキトが居たら確実にこう言うだろう。
『お、お前はスターオムツ! さてはゲキガンガー限定フィギアが欲しくて地球まで足を伸ばしやがったな!? うむ、天晴なり!』と。
ちなみにアキトの言う『スターオムツ』とはユキナの実の兄、『白鳥九十九』のことだ。
「で、そのフィギアとやらはどうしたの?」
「うむ、あれは元一朗のせいで壊れた。だからもうお前しか見えないぞ?
だがもしあのフィギアが再び目の前に現れたら天秤にかけてしまうやも…しかしわかってくれユキナ!
これは漢の歩む道なんだ!」
「帰れ」
「何故だユキナぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
またこの男、極度のシスコンでもある。
「やれやれ、過去に何があったか知らないけど…許すなんて無理な話ね。
アナタが自爆なんてするもんだから大怪我しちゃったじゃない。ユキナちゃんだけ」
ユキナに冷たくあしらわれたショックが相当大きかったのか、九十九は自分の乗ってきた機動兵器を自爆させてしまった。
自分はコクピットである頭部を離脱させ無事だったが他の面々はそうはいかない。
1番近くに居たエステバリス隊はフィールドをギリギリで張り難を逃れたが、爆発の威力が相当あったのか、
機体にかなりの負荷がかかり各エステともオーバーヒートしてしまった。
少し離れた場所に居たエリナとイネスは運良く近くにあったマンホールに身を潜め怪我1つしていない。
だがユキナのみ逃げ遅れ全身大怪我。
包帯でぐるぐる巻き状態になり、ミイラ女になる始末。
ちなみに爆発の影響で街には大規模なクレーターが出来てしまい、そこへ水が流れ込んでちょっとした湖になっている。
数年後には観光地へと変貌しているだろう。
「なあ、ホントにアレがあの凶悪なロボットに乗ってたのか?」
「私もかなり疑問です…滅茶苦茶ヘタレじゃないですか」
「う、う〜ん実際乗ってるところを見たわけだし間違いないんじゃないの?
まあ、こんな光景を見たら疑いたくもなるのはわかるけどね」
そんな会話をするのはガイ、イツキ、アカツキの3人。
一応敵の捕虜という事で九十九を連行しようとしたのだが、
本人が『ユキナに会わせてくれ!』と懇願するため医務室に連れてきたのだ。
「あんなのは俺とは違う…ゲキガンガーを愛するヤツはあんなにはならねぇ…」
「でも似てますよね」
「似てるねぇ」
「あんなのと似てる言うなぁ! すげえ悲しいわ!!」
シスコン丸出しの九十九を横目に騒ぎまくるガイ。
相当嫌なのだろう。
ちなみに酔っ払い3人娘、リョーコ、ヒカル、イズミは只今自室にて撃沈中。
次の日は二日酔い決定だろう。
「…行方、わからないんですか?」
「ゲホッ…ええ。ボソンジャンプに巻き込まれたテンカワ君とフクベ・レンナは北辰、ラピス・ラズリ共々どこかへと消えてしまったわ」
「そんな…アキトさん…さっきまでお話してたのに…」
「エリナさん、何気に丈夫ね〜」
数時間が過ぎ、多少なりとも落ち着いたのか、今は各クルーとも自分の仕事を淡々とこなしていた。
だが先程のエリナの話を聞いたブリッジクルーは何時もの元気など皆無に等しく、まるでお通夜のような雰囲気が漂っている。
「いえ、もしかしたら消息を摘めるかもしれません」
「それホントですかプロスさん!」
「ええ。で、ですから落ち着いてください艦長…。
私も落とす気ですか…?」
ユリカ、今度はプロスの絞殺にかかる。
無論のこと、ジュンが再び脳天チョップをかましユリカを我に返らせた。
落ち着いたユリカを正面に見据え、プロスが語りだす。
「さて、今この艦にはその誘拐に加担したと思われる人物を捕虜として確保していますね?」
「はい。ユキナちゃんのお兄さんと名乗る変態の可能性大の人ですね?」
「そこまで言わなくてもいいんじゃ…」
「なるほど。その男に尋問するわけだなミスター」
「その通りですよゴート君。艦長、ですが一応彼は軍の管轄下に置かれる捕虜ですから軍に許可を貰い…」
「許可ならもう取りました! プロスさん、すぐに始めてください! 手段は問いませんから!!」
「凄い行動力…」
「アキト君のことになるといつもの倍以上の処理能力を発揮するのね、うちの艦長は」
おそらく裏でユリカの父、ミスマル・コウイチロウが大活躍したのだろう。
強い親子である。
「そういうことでしたら早速始めましょうか。
それではアオイさん、少々用意してもらいたいものがあるんですが…」
コンソールを操作しジュンの目の前にリストが映し出された。
そのリストを見た瞬間、ジュンは我が目を疑い、プロスの笑顔を見据える。
だがプロスの表情は変わらない。
間違いなく本気の目だ。
「こ、これを一体何に使う気ですか…?」
「は? 話を聞いていなかったのですか? 尋問ですよ。尋問」
「………」
ジュンは冷汗を掻きつつもなんとか頷く。
また、横からそのリストを見たゴートも動揺にビッシリ汗を掻いた。
何気に遠い目をしてしまう。
いったい何が記されていたのだろうか。
「ねえルリルリ、あれ何が書いてあるの?」
「………プロスさん、血とか出ないですよね?」
「血!?」
「はっはっは、勿論ですよ。そのような無粋な真似は致しません」
「ならいいんですけど…」
「まあ、この方法でダメなら札束で顔をひっぱたいてみますか?
いえ、待って下さい…ふむ、こちらの方がいけそうですね。
ルリさん、オモイカネに記録してあるユキナさんの画像を良い物だけピックアップしておいて頂けますか?」
「?……ああ、なるほど。それなら安全ですね。すぐに用意しておきます」
安心したのか普段どおり仕事をこなすルリ。
しかし微妙に肩が震えているのは気のせいではない。
「ね、ねえメグちゃん…プロスさんって、何を使う気だったのかな?」
「知りたくありません。知ったら今夜うなされそうですから」
プロスにまた謎が増えた瞬間だった。
「さあ皆さん、目指すは場所はわかりました! 準備はいいですか!?」
『…なんの?』
コケッ
ユリカ、コケる。
「なんのじゃなくてー! アキトの救出に向かうんですよ!」
「あのー艦長?」
「はい?」
「アキト君ってさナデシコ降りたんじゃなかったけ?」
「…あ」
「あれは絶対忘れてましたね」
「ユリカですから」
ユリカの後ろで呆れるプロスとジュン。
そんな2人には目もくれず、クルーの説得にあたるユリカ。
流石に自分の大事な人のピンチとなると真剣さの度合いが違う。
「アキトが敵に捕まったかもしれないんですよ!?」
「あーテンカワならなんとかなるだろ」
「もしかしたらボソンジャンプのせいで大変な事になってるかもしれないんですよ!?」
「テンカワなら大丈夫だろ。しぶといし」
「今頃心細い思いをしてるかもしれないんですよ!?」
「アキト君だったら1人でもOKOK♪」
「ボケても誰も突っ込んでくれなくて寂しい思いをしてるかもしれないんですよ!?」
ポロン♪
「その気持ちはよくわかるけど…テンカワ君なら1人でボケもツッコミも出来るし」
「怪我とかして痛い思いしてるかもしれないんですよ!?」
「アキト君なら多少怪我くらい自力で治すわよ」
「う〜〜…」
アキトを助ける口実が無くなったのかモニターに写るクルーの顔を睨みつけるユリカ。
「艦長よぉ、助けたいって気持ちはわかるぜ。オレだってアイツは心配だよ。
だがなぁ、今俺たちは軍に所属してるんだ。
下手に動いたら懲罰もんだぜ? それにナデシコだってどうなるかわからねえんだぞ。
ここはネルガルに任せたらどうだ?」
「その通りだぜ艦長。それにアイツ等が生きてるかどうかもわからねえし、何よりあの捕虜の言った事が当たってると決まったわけじゃねえんだ。
もう少し様子を見たらどうだ?」
「それにさ〜まだエステちゃんの修理終わってないよ〜?
今、外に出て敵に襲われたらひとたまりもないよ?」
「更に敵の位置もわからないし数もわからない。無謀よ」
「あら〜何気にシリアスイズミちゃんね。艦長、ウリバタケさん達の言うとおりよ?
艦長がアキト君を思う気持ちもわかるけど、それ以前にナデシコクルー全員のことも考えなきゃダメよ〜?」
「そうだよユリカ。テンカワ達には悪いが僕らには僕らの役割があるんだ。
後はネルガルに任せておこうよ」
「…わかりました」
「おお、艦長。ようやくわかってくれましたか」
「ええ。簡単な事でした」
「は?」
今まで俯いていた顔をキッと上げクルー全員を見据える。
その目は決意に満ちていた。
「ウリバタケさん! 開発費を2倍にします!」
「何ぃ!?」
「リョーコさん! 剣術道場の開門許可を下ろします!」
「ホントか!?」
「ヒカルさん! アシスタントを5人つけます!」
「うそ!? ホントにぃ!?」
「イズミさん! 漫談ショーの公演を月イチで行ってもらって構いません!」
ポロン♪
「ふっ…」
「アカツキさん! 合コンのセッティング協力します!」
「へぇ…」
「ヤマ…もといダイゴウジ・ガイさん! 改名の手続き及びゲキガンガーグッズ・コンプリ−トに全面的支援を行います!」
「マジでかー!?」
「イツキさん! ジュン君あげます!」
「…アオイさんってユリカさんの所有物なんですか?」
「ジュン君! 仕事もう手伝わなくていいよ!」
「本気かい!? …と言うかユリカ、さっき凄いこと言わなかった?」
「ミナトさん! 有休増やしてあげます! 好きなだけ寝ててください!」
「あら♪」
「プロスさん! 会計処理、私も手伝います! それに今残ってる仕事全部引き受けます!」
「なんですとーっ!?」
「ゴートさん! 美少女フィギアと着ぐるみを置く専用の部屋を用意します!」
「…信じたぞ?」
「イネスさん! 例の特大クマさんあげます! ついでに実験体の1つ、2つ用意します!」
「あら? いいのかしら」
「エリナさん! 秘蔵のヤツあげますから後で取りにきてください!」
「まっ…♪」
「ルリちゃん! 好きなジャンクフードの自販機を設置してあげます!」
「…はぁ」
「オモイカネ! バックアップ用の機材を買ってあげます!」
【いいの?】
「他のクルーの皆さんの不満も全部改善します!」
『おおおおおおお!』
ナデシコ各所から上がる驚きと歓喜の声。
その声が静まりかけたのを見計らいユリカが再び呼びかける。
「ただし!」
『ただし?』
「この条件はアキトを救出するのを手伝ってくれたらの話です! ダメならさっきの話は…」
「皆まで言うな、艦長さんよぉ」
「ウリバタケさん…?」
「へへ…そこまで真剣だとはね…正直心打たれたぜ」
「リョーコさん…」
「うんうん。約束を守ってくれるなら余裕で手伝っちゃうよー!」
「ヒカルさん…」
ポロ〜ン♪
「漫談ショー…来てね」
「は、はい…」
「わかったよ艦長。じゃあ今度デートしてくれるかな?」
「アカツキさん…嫌です」
「艦長! アンタの熱く燃えるハート、確かに感じたぜぇ! 俺に任せておけー!!」
「私のハートはアキトで燃えてますから♪」
「あの艦長…アオイさんと一緒になる時は…」
「勿論、私が牧師役やります!」
「ユリカ、僕の意見は?」
「知らない!」
「艦長、ほらグズグズしないで準備するわよ?」
「ミナトさん…はい!」
「艦長、予算で足りない分は艦長のお給料から引きますので」
「……生活費くらいは残しておいてくださいね」
「既に数は3桁を超えているのでかなり広めで頼む」
「えっとぉ〜…格納庫の片隅じゃダメですか?」
「艦長、アキト君なら大丈夫よ。彼の丈夫さは私が保障するわ」
「そうですね!」
「アナタには負けたわ。ま、私も彼らには色々と用事があるし、手伝ってあげるわよ」
「素直じゃないですね〜」
「私は基本的に信じてませんが…協力します。どーせ行くんでしょ?」
「あったりまえ!」
【さあ、いつでもいいよー! どーんとこい!】
「うん! どーんと行こう!」
胸を張りブイサインをする。
あちこちから上げる歓声が更にユリカを勇気付けた。
「よぉぉし! 野郎共! さっさと補給終わらせて出発準備にかかれ!」
『アイアイサー!』
「アキトはいいとしてもレンナちゃんとラピスちゃんは必ず助けだすぞー!」
『勿論だーっ!!』
「…アキトを二の次にしないでくださーい」
クリスマスの時よりも更に騒がしく、そして活気付くクルーの面々。
皆の顔は揃って笑顔。
ユリカも自然といつもの笑顔を取り戻していた。
「艦長…」
「あ、メグちゃん。えっとメグちゃんには何がいいかな? 皆の分やらなきゃいけないからあんまり凄いものは…」
「いいえ、私は別になにもいりません」
「…え?」
「アキトさんを助けに行くんですよね? だったら手伝います。
ここだけの話…私、アキトさんに見切りつけてたんです。
実際もうお別れを言ってたんですよ? でも突然こんな事になっちゃって…。
好きな人を助けたいって思うのは当然の事ですよ。だからみんな艦長の言葉に動かされたんです。
それに私も好きだった人を助けたいです。だから…手伝います! いえ、是非手伝わせてください!」
「メグちゃん…そうだよね! アキトは私を待ってるよね!」
「いえ、それは多分無いと思いますけど」
「………メグちゃん」
またも落ち込むユリカ。
買収という最終手段を使い、今ナデシコは1つになった。
「では、機動戦艦ナデシコ…月に向かって出発します! 発進!!」
ユリカの掛け声と共に天高く飛び立ってゆくナデシコ。
九十九に問いただした結果、北辰とその仲間は月近くに潜伏しているとの情報を得ることが出来た。
ナデシコクルーは補給を急ピッチで終了させ、軍との話合いもそこそこに月へと出発。
再び宇宙が物語の舞台となる。
その頃、九十九はというと―――
「ああ…その通りだユキナ…ゲキガンガーは良いよな…熱く燃える魂は最高だよな…」
アッチの世界に旅立っていた。
「ぐふ…ぐふふふふふふ…」
「な、なんなのよコイツ…? それよりココ何処よーっ!
誰か居ないのー!? 私は提督なのよ! 今すぐ助けなさい!!」
ブリッジから何処かへ落とされた筈のムネタケも何故か同じ場所に居た。
おそらくオモイカネの陰謀だろう。
「行け…行くんだ…」
「な、何よ…ちょ、ちょっと近寄らないで!」
「レッツゴーパッション!! 飛び立てユキナ・ゲキガングワァァァー!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
この後、何が起こったのかは一切不明である。
「ねぇ…私はどうなるの…?
アキトぉ〜無事でいてね〜」
ユキナ、普段の行動力が無いと誰にも相手にされず。
「バカ」
【ばっか】
ゥンッ!
「うぉぁぁぁっ!?」
ザバァァァァァン!!
派手な水しぶきが上がる。
突如、上空に光が現れた瞬間、人が落ちてきたのだ。
それは北辰のボソンジャンプに巻き込まれた筈のアキトだった。
当人は現在、水中生物と化している。
「うごぁ!? 腹打ったぁぁっ!!」
しばらく水中でもがいていたようだが勢いよく立ち上がってみせるアキト。
どうやら怪我などはないようだ。
「くそっ! もう少しで世界記録が…!」
どうやら競泳と勘違いしているらしい。
「…アキト様?」
「へ?」
聞き覚えのある声が背後より聞こえる。
振り向くとそこには一糸纏わぬカグヤの姿。
「ぐばっ…!」
「ああ!? アキト様!? アキト様ー!」
アキト再び水中に没す。
というより血の色に染まった風呂に沈む。
【ハーリー、また来たよアイツ。しかも突然女風呂に】
「…」
【…若いね】
ハーリー、鼻血の海に沈む。
「起きて…」
声が聞こえる。
「起きてください」
それはとても暖かな声。
「では目覚めのキスを・・・」
いや、アキトにとっては恐怖の声だった。
「はい、ストーップ! 止まって止まってー…止まれぇぇぇぇぇっ!!」
「あんっ…もう、アキト様ったら起きてらしたんですね。
はっ、もしかしてワタクシの目覚めの口付けが欲しいが為に目を閉じてらしたとか…?
そうですわよね。あのような姿を見られたらもうワタクシ、アキト様以外の男性の所へはお嫁に行けませんわ…。
アキト様はその事を踏まえてわざとこのような事を…。
ああ…でも結納もまだですのに…アキト様ったら…だ・い・た・んゥ」
「頼むから止まってくれ、おむすび山…」
人の話を全く聞かず、カグヤは悶えたままだ。
きっと頭の中ではピンク色の出来事が繰り広げられているのだろう。
「アキト様は必ずカグヤの元へ帰ってきてくださると信じておりましたわ…さあ! 再開を喜びあいましょう!!
そして…私達は1つにぃっ!!!」
「ラリアーット!!」
ゲスゥッ!!
見事なカウンターが決まった。
「…これはいったい何事ですか?」
「ああ、気にするなマンション。トチ狂った野生動物を倒しただけだからな」
「…は? ………ああ!? カ、カグヤ様、しっかりしてくださーい!!」
「早いところ連れて行ってやれ。窓のない病院に」
酷い言い草だ。
ちなみにアキトもボロボロ、かなりの激戦が繰り広げられたのだろう。
「全く! 何を考えてるんですかアキトさん!」
「いや、深く考えたら負けだぞ?」
「少しは考えろアンタは!」
「本当にね。いきなり天井から降ってくるんですもの。
もしかして…覗いてた?」
リサコの一言に突如湧き上がる怒気。
エマ、カオル、リサコの3人は目がイイ感じに座っていた。
どうやらあの場に居たのはカグヤだけではないらしい。
「な、なんだ…この底知れぬ威圧感、それに…背後に見える禍々しいオーラは…!
くっ、トライアングル姉さんズの本領発揮か…!? うぉぉ…完全にバーサク状態だな!
これは…殴られるのか…? いや、むしろ刺される!?」
どうやら病院送りになるのはアキトも含めて3人になりそうだ。
「そんな事があったんですか」
「そ、そうだ…か、身体が…」
「そうならそうと早く言いなさいよ。危うく首を飛ばすところだったわよ?」
「病室で刀振り回すなんて…ううっ…そんな風に育てた覚えは無いのに…」
「育てられてないない」
「ほらほら、静かに。で、アキトさん。
先程のお話から言いますと、その場に居たのはレンナさん、ラピスちゃん、それに北辰とかいうトカゲですね?」
「…お、おう。それで本当にここには、オレしか居ないのか?」
「はい。コスモス艦内及び月基地をくまなく探査しましたがそれらしい人影は見当たりませんでした…」
流石に友達がそんな事態に巻き込まれたことが心配なのか、エマは幾分か沈んだ表情をする。
「なんてことだ…」
「アキトさん、そう気を落とさないで。きっと2人とも無事ですよ。そう信じましょう」
「そうそう。こういう時は前向きにね」
「うう…良い話…」
「いや、本題はそこじゃない」
「「「は?」」」
アキトの一言で固まる3人。
「確かに2人が行方不明なのはショックだ。 おそらくアイツに捕まったと考えていいだろう。
できることなら…できることなら全力この現実を否定したい。いっそ夢ならとも思う。
しかし危惧しているのはそこじゃあないんだ…」
「え? じゃあ何を…?」
「ああ…トライアングル姉さんズはあの2人の特性を知っているだろう?」
「「「特性…? ……………あ」」」
「わかっただろう? だからな今のオレの中に渦巻く感情はあいつ等じゃなくてトカゲ御一行様の心配なんだよ!!」
「「「…」」」
「オレはあの2人がヤツとその仲間を喰いでもしないかと、もう心配で心配で」
「「「…」」」
「ほら、あんなの食べたら確実にお腹壊すだろ? まったく、薬代もバカにならんのだぞ…」
「「「…」」」
どう反応していいかわからず、ただ呆然とする3人。
そして布団の中で頭を抱えつつも顔は笑っているアキト。
だがその背後で蠢く物体に気付いた時にはもう遅かった。
「ほーっほっほっほっほっほっ! ほーっほっほっうっげふぅっがふほっ……!」
「き、気が付かれたんですかカグヤ様!? まだ本調子ではないんですから無理に高笑いしなくても…」
「何を言うのホウショウ! 今ここには邪魔っかしい小娘や、天然ボケボケの幼馴染、そしていつもアキト様の後を着いてくる妹さんもいない!
つまりこれはアキト様と2人きりになれる絶好のシチュエーションを獲得するチャンス! これを逃す手がありますか!!」
カグヤは天に拳を突き上げ勝利宣言だ。
「警部! オレが事前に調べ上げた『おむすび山』の情報を報告します!
1つ、その怪力は常人を遥かに凌ぐ。
2つ、実は明日香インダストリーのご令嬢。
3つ、オレが遺伝子レベルの恐怖を感じる相手。
そして身体的特徴、
身長:オレより低い。
体重:意外と軽い。
B:ここはライバルを抜いていると思われます。
W:やられました。
H:どうしたものかと。
以上であります! ご指示を!!」
「……………アキトさん、いきなり食堂に転がり込んできて、そんな事言われても全然意味不明なんだけど」
突然の事に久美は戸惑い、アキトは必死の形相だ。
「ちっ、冷ややかなクールビューティーさんめ!」
「何事だい?」
「あ? アキ坊じゃねえか。いつこっちに来たんだ?」
「頼む! かくまってくれ! 今、オレは追われてるんだ!」
「「「いや、知らん」」」
「冷たっ!」
「どーせ、その追っ手って艦長だろう? だったら俺らは艦長の味方をするさ」
「そうそう。アンタもそろそろ落ち着いてもいいんじゃないかい?」
「アキトさん、結婚式には呼んでね♪」
「薄情モンばっかだぁぁぁ! やっぱ都会は怖えぇ! オラ田舎に帰って畑耕すだ!」
「か え し ま せ ん ゥ」
「ノ━━━━━━━━━っ!!!!」
食堂にアキトの悲鳴が木霊した。
アキトの命運もここまでだろうか。
「ねえエマぁ。ナデシコにアキト君がここに居ること伝えなくていいの?」
「そこなのよね…本当ならそうするべきなんだけど…カグヤ様が…」
「チィーン!…ぐずっ…困ったものね…はぅ」
「あの…それで肝心のレンナさんとラピスさんの事は…?」
「そちらに関しては月基地より警備隊を周辺の探査に出して貰っている。
ハーリー心配するな…と言うより、お前もう復活したのか?
何気に血の気の多いやつだな」
コスモスブリッジはいつものナデシコ同様、独自のペースでほんわかとしていた。
また現在のコスモスは補給及び補修作業中の為、どちらにせよ動けない。
クルーのやる事と言えば周囲の点検くらいのもの。
つまり暇なのだ。
「でもラピスちゃん達、大丈夫かしら?」
「まあ大丈夫でしょ。レンナさん、結構強いし」
「ええ…あのツッコミは標準レベルを遥かに超えているわ」
「そうだな。今頃はきっと―――」
「さあラピス君。まずは血を採るからお注射しますよ〜はい、腕出して」
「いや〜!」
「そんなことがあったり」
『…』
「その後に…」
「じゃあラピス君。お風呂にも入って綺麗になってきてね。この後は身体検査するよ」
「いや〜!!」
「こんな状況だったり」
『…』
「更に…」
「はい、脱ぎ脱ぎしましょうね〜」
「いや〜!!!」
「なんて事態に陥っているやもしれん」
「大ピンチじゃないですかっ!」
「と言うよりカイオウ提督…その考えはさすがに…」
「ねえ…もしかして提督ってそういう趣味?」
「…ああ、私の周りは危険がいっぱい…怖いわ…ぐすっ」
カイオウ、思いっきり白い目で見られる。
「おいおい、ただの冗談だぞ? だいたいそんなド変態この世にいるわけないだろ」
「そうですよね。きっとラピスさんもレンナさんも無事ですよ」
「ま、世の中広いし、どうなるかわからないけど…そんな都合良く変質者に会ったりしないわよね!」
「うう…もし会ったら即座に逃げてねラピスちゃんにレンナさん」
「−変態−
あなたは何故そこに行き着いたのか。
きっとつらいことがあったのでしょう。
周りは誰もあなたを気遣ってくれない。
だからあなたは1つの道を見出した。
でもその道は決して足を踏み入れてはならない覇道の道。
待ち受けるのは非難と軽蔑。
何があなたをそこまで追い詰めたのか私にはわからない。
でも1つだけ言わせて。
一歩踏み外したら警棒と拳銃と手帳がトレードマークのナイスミドルにゲットされちゃうのよ?
だから…ほどほどに♪」
そんな冗談を言いつつ談笑する面々。
その頃、月近くの宙域。
そこに一隻の艦がひっそりと佇んでいた。
その中で―――
「さあラピスさん、このメイド服、ウェイトレス、シスター、看護婦、スチュワーデス、婦警、海賊、
ブレザー、騎士、OL、お姫様、着物、聖歌隊、テニスウェア、セーラー服、学生服、
連合軍仕官服、チャイナ服、幼稚園児、お殿様、ドラキュラ、くの一、占い師、大工、魔女、
ミュージシャン、雷様、ジャージ、ガンマン、ウェデングドレス、踊り子、浴衣、ピエロ、
ロボット、秘書、バニーガール、レースクィーン、侍、胴着、きこり、盗賊、狩人、技師、
全身タイツ、チアガール、歌舞伎、海女、体操服、画家、消防士、保母さん、腰ミノ、
エスキモー、インディアン、料理人、ゲキガンガーよりナナコさん、天使、リトルデビル
の格好のどれがいいですか?」
「いや〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「あ、着ぐるみもありますよ?
ほらネコさん、イヌさん、カエルさん、ゾウさん、ライオンさん、カバさん、ニワトリさん、
キリンさん、おサルさん、ワニさん、カメさん、クマさん、ウシさん、キツネさん、ゴリラさん、
アヒルさん、タヌキさん、ヤギさん、パンダさん、ブタさん、イルカさん、ウマさん、トラさん、
ウサギさん、カニさん、カタツムリさん、ウナギさん、ペンギンさん、サカナさん、ヒツジさん、
シカさん、ネズミさん、コウモリさんなどなど。
そうそう、怪獣さんもあるんですよ?」
「い〜や〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
残念ながらその変態野郎は実在した。
しかも想像以上のが。
「山崎…何時まで遊んでおる」
「おや、北辰さん。どうですか身体の調子は?」
「ああ、大分いい。しかし山崎、どうやってあの二頭身の身体から元の身体に戻した?
不思議でならないぞ…魔法でも使ったか?」
「いいえ科学ですよ。魔法? あっはっはっはっ、やっぱり北辰さんって妄想癖あるんじゃないですか?
そんな精神世界に逃亡する人なんて滅してしまいますよ?」
言い方は軽いが内容はヘビーだ。
「…まあいい。元も戻してもらったことには変わりないからな。
見た目も以前と変わりないようだが…1つ聞きたい。
今度は何かおかしな仕掛けなどしていないだろうな?」
「あはは、いやだなぁ〜僕が北辰さんの身体を改造なんてするはずないじゃないですか〜」
「どの口が言うか貴様は」
「まあまあ、いいじゃなですか細かいことは」
「まさか…また何かやったのか!?」
「え〜? 僕は知りませんよ?」
「目を見て話せ、目を見て!」
「怖いから嫌です」
笑って誤魔化す山崎に詰め寄る北辰。
最近までの二頭身が相当堪えているのだろう、その顔は必死そのものだ。
だがどんなに迫られても山崎はのらりくらりとはぐらかす。
「とにかく落ち着いてくださいよ。例えアメーバに変身しようが北辰さんは北辰さんですから」
「変身!? しかもアメーバ!? 貴様、我の身体に何をした!?」
「さぁてと、ラピスさんの検査が終わったら次は…」
「無視するな! 話を聞かんか!」
「そういえば北辰さん、彼女はどうしてます?」
「…まったく貴様は……ああ、あの女か。案ずるな、暴れられぬよう拘束してある」
「そうですか。いや〜彼女、いい実験体になりそうですよ。
まったく、以前会った時にもっとよく調べておくんでした。
こんな事を見過ごしていたなんて…残念で仕方ありませんね、いやホント」
「ほぉ…貴様がそこまで言うとはな。
だが何をする気だ? ラピス・ラズリよりも価値があるような目つきだが…?」
「ふふふ、今は秘密です」
無邪気な笑みを浮かべる山崎。
その顔からはどのような事を考えているのか伺うことはできない。
「もう何でも構わんから早く終わらせろ。至急木連に戻り、閣下に地球の状況を報告せねば…」
「まあまあ、やっと一段落したんですから少し休みましょうよ」
「のん気な事を言っている場合か。
貴様こそ余裕など出さずに与えられた役割を果たせ」
「大丈夫ですよ。こう見えてもキッチリ仕事はこなしてるんですから。
主バッタのバージョンアップパーツだってイイ出来だったでしょ?」
「ならば小娘と戯れてなどいるな。だいたい木連に居た際にもフラミンゴ…だったか?
あんなもので実験を行うなどと…。ふざけているのか貴様?」
「やだなぁ。アレはちゃんとした実験だったんですよ?」
「ほぉ…だが何故フラミンゴなのだ?」
「ピンクとか好きだから」
断言だった。
「…まさかラピス・ラズリに執着していたのは、髪がピンク色だとか…そういう理由ではあるまいな?」
「え? まさしくその通りですが?」
「………………………どっと疲れた。もういいからさっさと済ませろ…」
「はいはい。あ、ついでに北辰さんもやりますか?
ラピスさんのお着替え」
「誰がやるか!」
本気で怒る北辰。
譲れない何かがあるのだろう。
ピピッ
「おや?」
「…どうした」
「ええ、侵入者です」
「何?」
『わははははははははっ!!!!!』
突如、辺りに響く高らかな笑い声。
だが辺りを見渡すも、その人影は見当たらない。
「何事だ!」
「ん〜もしかしてイベントですかねぇ。だったら楽しみだな〜」
「そんなわけあるか!」
「…ぐすっ…何?」
「助けを呼ぶ声が聞こえる時、俺達は彼方より舞い降りる!」
「険しき使命を背負った私達に不可能はないわ!」
「美しきその姿を見たあなた達はひれ伏すしかなくなるでしょう!」
「そして頭に掲げる正義の証!」
「さあ、お仕置きの時間ですね♪」
「な、何奴!」
「まるっきり悪者のセリフですね〜」
「悪人面…」
「やかましいわ!」
「ふははは! 赤き羽を配るは街角の心温まる一コマ!
しかしその内面では世界を我が物にと企む偽善者!
さあ、あなたも世界の恵まれない子供たちに愛の手を! レッドA!」
「ほほほ…青き空のように光り輝く私の愛車はいつでもノンストップ!
というかブレーキ付いてません! むしろそれ何でしょう?
さあ恐れぬのならかかってきなさい、今すぐ轢いてあげるわよ! ブルーA!」
「はっはっは! 今世界に舞い降りた美しき男!
勿論、美しさではランクインは間違いなし!
美の探求は永遠に続くでしょう…この黄色きバラに誓い! イエローA!」
「ぶわははは! 緑こそ我が命! 頭の先から爪先まで全部緑だ、文句は言わせん!
ジャングルから青汁までなんでもOK! むしろモロ直球!
この信念、散らせるものなら散らしてみろ! グリーンA!」
「ふふふ…例え生い先短くともあの人を慕う桃色の想いは永遠に不滅!
邪魔をするならば問答無用で獄殺ですわよ?
さあ来なさい…アナタの心の反面教師! ピンクA!」
『我等! アフロ戦隊・アフレンジャー!』
チュドドドドドォン!!!!!
『見参!』
無論5人ともアフロだ。
アキト…とラピス、そしてアフレンジャーの運命はどっちだ!? 続くような続かないような思わなくも無きにしも非ず。
あとがきです。
こんにちは、彼の狽ナす。
ごめんなさい(平謝り)
くだらなさ&バカさに拍車がかかってきました(爆)
何故こうなったのかは私にもわかりません。
前半はイイ感じかな〜? なんて戯言をほざいていたのに…気が付けばこんなでした(爆死)
ちなみに…あの5人の正体は不明です(爆散)
感想
もちろん、代理人もアフロだ。
まぁそれはさておき。
ユリカ最高!
さすがはナデシコ最強最大の痴智将!
と言うかむしろ愛って偉大?!
イエッヒー!(爆)
※只今アフロのため、芸風が変化しております。
>「イツキさん! ジュン君あげます!」
爆笑。
>「…アオイさんってユリカさんの所有物なんですか?」
はい、そうです。
>さあ! 再開を喜びあいましょう!!
何の再開だーっ!(核爆)