ナデシコとカキツバタが火星に到着する少し前、とある場所にて―――

 

「グッドモーニング♪」

「今頃、どのツラさげて来よった! この西洋かぶれが!!」

 

メイはちゃぶ台に湯呑をダンッと勢いよく叩きつけ、こぼれたお茶のシャワーを自らに浴び悶えまくる。

ミコトはといえば、メイとは対照的にお茶を飲みながらマッタリとくつろいでいた。

 

「なにを怒り大爆発させてんのよ」

「当然やろ! 当社比3倍は怒り心頭や! なにか? 姉ちゃん、勝ち組気取りか? これじゃウチらの全然立場ないやん。どうしてくれんの?」

「もしかしてアレのこと? 仕方ないでしょ取られちゃったんだから」

「しょっぱいなぁジブン」

「うっさいわよ! それにしても、山崎のお陰で助かるなんて…アイツが役に立つなんてことあるのねぇ」

 

後頭部をポリポリとかきながら、複雑な表情で明後日の方向を眺めるレンナ。

そんなレンナを横目で見つめるメイは、落胆の表情で溜息を漏らす。

 

「ほんまにありえへんわ。はぁぁ〜…出番削ってまで裏方に徹したのになぁ…もうええわ。ミコト、帰り支度するで」

「〜♪」

 

メイがミコトに呼びかけながら振り返ると、そこには荷造りにいそしむミコトの姿があった。

しかもただの荷造りに終わらず、2メートル以上はあろうかという茶ダンスを片手で持ち上げ、古めかしいリヤカーに次々と載せていく。

とんでもないほどのパワフルぶりだ。

 

「………何者よアンタの弟は」

「金メダリスト」

「どこから突っ込めばいいのよー!?」

 

レンナの叫びが遺跡内部に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説の3号機

その52

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえアキト」

 

ナデシコから飛び立ち、極冠遺跡までまだ少しあろうかという所で、ユキナが複雑な表情をしながら声を掛けた。

その表情には、戸惑いという言葉がピッタリ当てはまる。

 

「どうした、トイレか? 出かける前のトイレは基本だぞ? 仕方ないな、コンビニにでも寄って済ますか?」

「え〜と、地球直行だから…片道数ヶ月?」

「トイレならさっき乗る前に…じゃなくて! それ以前の問題!」

「「え?」」

 

兄妹揃って疑問顔を作り、首を傾ける。

ユキナはそんな2人を見ながら、溜息を出しつつエステの足元を映し出している正面モニターを指差した。

 

「この、どこからともなく取り出したエステ用のでっかいぬいぐるみは何? いつの間にか着てるし」

「カンガルーは嫌いか?」

「そういう問題じゃないでしょ! 私が言いたいのは、どうしてこの状況下でエステがぬいぐるみ被って戦場を飛んでるのかってこと!」

「よし、万年居残り組だったお前の為に教えてやろう」

 

アキトの発言に、ユキナは睨みを効かせながらアキトの首を両手で締め上げる。

その顔は満面の笑みだが、目だけ笑っていない。

 

「ギュウギュウ…どーして、出会う前の私生活を知ってるかな」

「ぐぐぐ…ぐるじい…い、いやな、お前の兄が持参じでいだメモリーを読まぜでもらっだだげのごどよ。…バデナ、ぞろぞろ限界…」

 

顔が赤から紫色に変色し始めたアキトを開放し、ユキナは怒りをあらわにしながら叫び始めた。

 

「あんのバカ兄は〜! それより、アキトも人の物を勝手に読むなー!!」

「ゲホゲホ…な、なにを言う。戦場では情報が命なんだぞ」

「絶対に使わない情報でしょうが!」

「しまった、そうだったのか」

「あきとおにーちゃんのうっかりさん」

「褒めるな褒めるな」

 

 

 

その頃、バカ兄こと九十九はというと――

 

 

 

「九十九、俺もそろそろ出るが1人でもちゃんと指揮取れよ………だから、妹の写真集は今は置いとけ」

「何を言う元一朗! ユキナの事なら24時間年中無休で迎え入れる気満々だ! 文句あるか!?」

 

声を張り上げ宣言する九十九。だが、戯言を聞く気は更々ないのか、元一朗の姿は既になかった。

末期どころか、既に終着点に到達してしまっている九十九に、同情の眼差しが周囲から送られたことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

「とにかくだ。遺跡に接近するにしたがって様々な妨害が予想される。

 そこでそれを防ぐ為に、いかにも友好的かつ大胆不敵なこの姿なら、誰も攻撃を仕掛けてこないと思い至ったわけだ。

 その証拠に、さっきから誰1人として攻撃してこないぞ」

 

どうだと言わんばかりに胸を張るアキト。

確かに遥か彼方では、地球軍と木連軍が激しい戦闘を繰り広げているが、アキト達の周りにはバッタの一匹さえ姿がない。

 

「呆れて近寄りたくないだけだと思うよ。だいたいさ、飛んでるカンガルーってどう? しかも数メートルあるし」

「いや、火星カンガルーって設定だし」

「いないでしょそんなの! ラピスも何か言ってやってよ! どう考えても、無理あり過ぎだよね!?」

「あきとおにーちゃん」

「おう」

「個人的には十分当たり。というかクリティカル」

 

グッと親指を突き出して喜びを表現するラピス。

この2人に何を言っても無駄だと悟ったのか、ユキナはガックリと肩を落とし嘆いた。

 

「激しく何かが間違ってるよぅ…」

「まったくだな!」

 

嘆くユキナの声に同調したのは、アキトでもラピスでもなかった。

カンガルーエステの前に立ちはだかったのは、三郎太の乗るジンシリーズ、デンジンとは別の機体、ダイマジン。

それに乗るのは誰であろう、親友のせいで苦労を背負っている男、月臣元一朗その人だ。

 

「そのふざけた格好が激しく気になるところだが、この際野暮なツッコミは無しだ! これ以上、お前達を都市へは近づけさせんぞ!」

 

「うるさいぞ木連兵A。景気の悪いツラ見せんな」

「邪魔しないでよ、下っぱ。帰れ」

「雑魚は退場」

 

「………あんまりだ」

 

影を背負い、ユキナ以上に肩を落とす元一朗。だが、彼の瞳はまだ死んでいない。

それが任務に対する忠誠心なのか、ただの意地かは不明だが、アキト達を睨みつけ攻撃態勢を取った。

 

「くっ…お、俺だって優人部隊の一員。この程度で挫けるか! 覚悟しろ、テンカワとお供の2人! ゲキガンビ…」

 

 

「ユキナに手を出すなボケー!!」

 

 

グシャァッ! …ヒルヒルヒル…ボスッ

 

 

見事なまでにぶっ飛ばされ、元一朗はまっ逆さまに急降下。そのまま地面に突き刺さり、沈黙した。

 

「まったく! 妹は国の宝、それを卑下にするとは…極刑に値するぞ元一朗! まあ、俺なら朝から妹大歓迎だがな! ふふふふ…」

 

突然現れたかと思えば、自分の世界にどっぷり浸りきる、元一朗の親友にしてユキナの兄 白鳥九十九。

彼の周りだけ別空間が形成されていくが、勇猛果敢にもその空間に飛び込む勇者がいた。

 

 

「私生活を覗かれた恨みー!」

 

 

ドグシャァッ!…ヒルヒルヒル…ボスッ

 

 

元一朗と並んで地面に突き刺さる九十九のダイテツジン。

そんな火星のオブジェと化した2人を見つめながら、肩で息をするユキナ。九十九とぶっ飛ばし方がそっくりなのは、流石は兄弟と言えよう。

 

「ゼー…ゼー…ふぅ、スッキリした」

「OK、容赦ナシ。イイ一撃だ」

「ユキナさすが。でも、IFS無いのにどうやって操縦したの?」

「知力と体力と火星一個分に相当する時の運で」

「「ほう…」」

 

素直に感心してしまう天然兄妹。そんな2人の感心を余所に、ちょっと遠い目をするユキナだった。

しかし、この程度でめげる九十九ではない。再び、アキト達の前にその巨体を浮かび上がらせ、立ちはだかる。

ついでに元一朗も復活したのか、一緒にアキトのエステを睨みつけていた。

 

「ふ、ふふふ…不意打ちとはな…さすがは我が妹」

「九十九、お前は人のことを言えるのか? しかもそれは、俺に対する一撃の謝罪を述べてから言うセリフじゃないのか?」

「黙れ」

 

バギャッ!

 

零距離のゲキガンパンチで修正を加える九十九。容赦がないところもそっくりだ。

 

「ぐっ…な、なにをする」

「貴様、さっきどれだけ愚かな行為を行おうとしていたのか分かっていて言ってるのか? もういい、帰れバカ!」

「バカって、そんな低レベルな罵倒を…いや、それより今は戦闘中なんだぞ!?

 だいたいお前、前線の司令だろう! こんな所にいる場合か!?」

「それは大丈夫。通りすがりの謎夫婦に任せてきた」

「その自信はどこから来る!? 大体なんだその謎夫婦というのは!? 怪しさ大爆発じゃないか!

 それにな、以前から言おう言おうと思っていたのだが…妹、妹と、お前にはソレしかないのか!?」

「悪いが、俺の頭はそーゆー事でいっぱいだ」

「自慢げに言うことか!」

「いや、妹以外に興味ない。これは仕方の無いことだ。諦めてくれ」

 

ダイマジンの肩に手を乗せ、モニター越しに慰めの表情を送る九十九。もはや元一朗は、呆れるしかない。

 

「そんなことの為に前線司令をほっぽり出すとは…呆れて物も言えないぞ九十九」

「そ ん な こ と だとぉ〜?」

「つ、九十九?」

「元一朗、そこになおれ! 修正してやる!!」

「修正はいいから、いい加減ここを通してくれるとありがたいんだがな」

「「それとこれとは別だ!」」

 

テンションが最高潮に達している九十九と元一朗に何を言っても無駄なのか、アキト達を横に置いて再び言い争いを始めてしまった。

そんな2人を見つめるアキトは、何かを思いついたのか、隣に座るピンクの髪の少女を自分の前に持ち出し九十九に呼びかけた。

 

「ほれ、お前の義理の妹になるかもしれないラピII」

「―――!」

 

そのワードが九十九の耳に届くやいなや、先程までのハイテンションぶりが嘘のように九十九はうろたえ始めた。

どうやら『義理の妹』という言葉の衝撃は、彼の心臓をぶち抜いてしまったようだ。もはや九十九に第三者の言葉は届かない。

 

「わ、忘れていた…そう、俺には新たな萌えがあった。衝撃の萌え。脳天直撃の萌え。愛情一本、萌え大爆発!

 妹ゲージ急激上昇中! ダ、ダメだ…こ、このままでは逝ってしまう…! まずい、俺のハートがドクドクと16ビートを刻んでいる!

 なんと深きことかな『義理』という言葉! これほど義理の妹という言葉に胸を躍らせることになろうとは! 恐るべし義理の妹っ!!!

 く…くそう…テンカワ・アキト! き、き、貴様! お、俺を萌え殺す気か? このような心理戦を持ち込んでくるとは…卑怯だぞ!

 だが負けん! 負けてたまるか! 畜生…俺はユキナ一直線の筈だ! しかし、義理も…義理も欲しい…!

 はっ! こ、これはまさか…世間で流行っているという ふ・た・ま・た…? い、いかぁぁぁぁぁん! これはとんでもない裏切り行為だ!

 うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!! エマージェンシー! エマージェンシー!!」

「九十九、いい加減に落ち着け! かなりヤバイ事を言ってるのに気付いていだろお前!」

「バカ兄! ラピスまで巻き込むな! いっそのこと、そのまま本当に逝ってちょーだい!」

 

錯乱する九十九をどうにか落ち着かせようと試みる元一朗とユキナ。だが、それは無駄な行為に他ならない。

次にラピスが発した言葉により、混乱に拍車がかかったからだ。

 

「………ばかちん」

 

ズギャァァァァァァァァン!

 

「ぬはぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

九十九、激しく悶える。

 

「ラピII、それはヤツの聖典でもある著書、『妹への正しい萌え方』にある項目68の『ばかちん』だ。

 見ろ、お陰でますます萌え盛りだしてしまったではないか」

「ごめんね、あきとおにーちゃん…」

 

バギュゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

 

「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

九十九、この上なく全身を痙攣させる。

 

「今のは、項目42の上目使いの『ごめんね』! ラピII、いつの間にこれだけの技を!」

「特訓の成果」

「もう、どうしようもないよ〜…はぅぅ〜…誰か何とかしてぇ〜」

 

 

そんな時、ユキナの助けを呼ぶ声に同調するかのように、飛び入り参加する奇特者が現れた。

 

 

「艦長さんはなんでも出来るんだよキーック!」

 

 

「なんの! 親友シールド!」

 

 

ドグシャッ! …ヒュルヒュルヒュル…ボスッ

 

 

元一朗、親友の手により再び落つ。

 

「くっ、咄嗟に奥の手を使ってしまったが…今のは確か、ナデシコ艦長のミスマル・ユリカさん?」

「勝利のブイ! 私だってやる時はやるのです!」

「よし、後は任せたぞスカ!」

「うおっ!? な、なんという切り替えの早さ! しかも、もうあんな遠くに!」

 

突然現れたユリカに『シュタッ』と手を上げ、そのまま全力疾走で逃げて行くアキトのエステ。

任されたユリカは意気揚々と、親友を犠牲にしてもまったく悪びれ無い表情をする九十九に指を突きつけた。

 

「アナタの相手は私です!」

「………正気ですか?」

「さっきまで正気を失っていた上に、親友を盾にする人に言われたくありません!」

 

もっともな事を言いながら、やる気満々の感情を九十九にぶつけるユリカ。そんな所へ、もう2体のエステが駆けつけた。

 

「ユリカ、幾らなんでも無茶だ!」

「大丈夫だよジュン君。こんなこともあろうかと密かに特訓してたんだから♪」

「と、特訓…?」

「うん! ひたすら座禅組んでみましたっ」

「イメージトレーニングオンリー!?」

「なんとかなるって! ねえイツキさん?」

「まあ、多少の操縦は出来るにようなってますけどね」

 

複雑な表情でユリカに同意するイツキ。そんなイツキの表情を見て、なんとなく事情を察したジュンは、諦めつつもユリカに釘を刺す。

 

「わかったよ。言っても聞かないだろうしね…僕も手伝うよ。でも、ユリカは後方支援だからね!」

「りょーかい!」

「はぁ…イツキ君、ごめんね。後でコウイチロウおじさんが色々とうるさいだろうなぁ〜」

「2人で怒られましょうね、アオイさん」

「…そうだね」

 

2人揃って影を背負うバカップル。

しかし、ユリカはそんなことは気にしない。元気を振りまきながら右手に力を込め、エステのフィールドを全開にする。

 

「話もまとまったところで突撃開始ーっ! それーゲキガンフレアー♪」

「ユリカ! 人の話聞いてた!? どこがまとまってたの!? それに後方支援だってば! おーい!!」

「本当に手間がかりますね…。でも、ナデシコは大丈夫でしょうか?」

「ま、まあ少し心配だけど、なんとかなると思うよ?」

「そうでしょうか?」

「自信はないけどね…」

 

ひたすら心配顔のジュンと、ちょっと汗を掻きつつナデシコを見つめるイツキ。

そんな2人を余所に、ユリカは勇猛果敢に九十九の乗るダイテツジンに突撃をかましていた。

元一朗はといえば、数度の痛手のせいで復活に手間取っていたりする。気を失ったりしていないのは、さすがは優人部隊の一員といえよう。

 

 

 

 

そして、当のナデシコ―――

 

 

 

「まぁーったく! ワタクシに艦長職を押し付けていくなんて、何を考えているのかしらあの人は!」

「本当です。ナデシコの兄弟艦を3隻とも落としてくれた人に艦長を任せるなんてどうかしてます」

「あなた、言ってくれるわね」

 

カグヤが睨みを効かせたところでルリは全く怯まない。

そんなルリに、おずおずと不安さを漂わせながら声を掛ける少年がいた。

 

「あの…色々とすみません」

「いいんですよ。それよりハーリー君でしたよね。あなたもオペレーターなら、私のフォローをお願いできますか?」

「ぼ、僕がですか?」

「出来ますよ。今までだって、無理矢理だけどやってきたのでしょう?」

「あぅ……いえ、やります! こうなったら最後までお付き合いします」

「おー男の子」

「微笑ましいですね」

「ヤケクソですよ!」

「「…がんばってね」」

 

暖かく見守っていたミナトやメグミは、ハーリーの事情を察するやいなや、更に暖かい眼差しを向けた。

ナデシコはカキツバタのクルーを乗せたことにより、いつもより団結力が強まったようだ。

 

「こうなったらやりきってみせましょう! グラビティーブラスト発射! 続いて相転移砲チャージ! 連合軍に遅れをとるわけにはいかないわ!」

「カグヤさん」

「なによ?」

「残念ながらエネルギー不足です。次のチャージまでちょっと時間がかかっちゃいますので、その辺はご了承ください」

「は? 何を言ってるの。相転移砲って、まだ一発しか撃っていない筈でしょ?」

「実はウリバタケさんの無茶な改造のおかげでエネルギー消費率がグーンとアップしてたりします。省エネって言葉知らないんでしょうか?」

 

正面モニターに映るエネルギー消費率を見て、愕然とした表情をするカグヤ。

そんなことはお構いなしに、ウリバタケが声も高々と自らの発明に自画自賛した。

 

「だが、その代わり破壊力倍増! 俺の発明はな、しょんぞそこらの物とは訳が違うんだぜ? どうだ、驚いたか!」

「…サラリーマン魂を燃焼させて復活のプロスさん。ここは1つ、お願いします」

「ウリバタケさん。給料50%カット」

「待てぇぇぇぇっ! なんだそりゃ!? 納得いかねえぞ!」

「ならばボーナス一括払いにしますか? それだと計算して…」

 

シャカシャカと宇宙対応正義のソロバンで計算を始めるプロス。

その指さばきは目に捉えることは不可能なほどに速い。

 

「ま、待ってくれ! 家には腹を空かせた妻と子供が…!」

「前借りで5年分ほどですね」

「聞いてくれよ俺の話!」

「プロスさんの伝家の宝刀は誰にも防げません」

「ルリルリ、誰に言ってるの?」

「教訓ってやつです」

「痛いほど良く分かる教訓だね」

 

ウリバタケの給料は30%カットで落ち着いたらしい。勿論、誰1人として同情するものなど居ない。

 

 

 

 

「くっ、邪魔をしないでください!」

 

九十九の焦りを含めた声がダイマジン内部に響く。

ユリカの無謀とも言える突撃がどう作用したのかは不明だが、ダイマジンの動きは著しく鈍っていた。

 

「ダーメ! アキト達には重大な任務があるんだから、邪魔はさせませんよ」

「だからと言って、女性に手を上げる訳にはいきません! それに…我が崇高な思い、アナタ達には到底理解出来ないでしょう?」

「…ユキナちゃんのことですか? それともラピスちゃん?」

「両方です!」

「…ある意味男らしいな」

「人してはどうかと思いますけどね」

 

九十九の拳を握り締めながらの発言に、ちょっと離れた位置でコメントするジュンとイツキだった。

 

「九十九、お前いい加減にしろよ!?」

「元一朗、お前は黙っていろ! 人生の汚点を白日の下に晒されたいか!?」

「な!? お、お前、いったい何を掴んでいる!? いや、ここは親友として、この際だからはっきりと言わせてもらおう」

「いい度胸だ。事と次第によっては悲劇が待ち受けるぞ?」

 

上着のポケットに手を突っ込み、何かを握り締める九十九。

それが何なのかは九十九本人にしかわからないが、元一朗は多少怯みながらも九十九に対し、はっきりきっぱり言い放った。

 

「…以前からお前は妹萌えとか言っているが、所詮妹は妹。決して結ばれないんだぞ? わかっているのか!?」

「ぺっ」

「うわ、唾吐きやがったコイツ」

「元一朗、お前は何もわかっていない。いいか、禁断の愛に挑んでこそ、男の浪漫というものではないのか!?」

「だからって、わざわざ無茶苦茶高いハードルに挑もうとするなよお前は!」

「わからないのか? 一番身近にある萌えである妹に萌えずして漢を語れるか!!」

「―――――!」

「わかったようだな。そう、妹こそ最上の萌え。禁断の果実は何よりも最高の味なのだよ」

「…今、気付いたんだが」

「なんだ」

「身近に萌えるのは勝手だが、お前はそこから一歩も前進してないんじゃないのか?」

「―――――!」

 

図星のようだ。

 

「う、うるさい! 妹免許皆伝の俺にとって他の萌えなど不要だ! ナナコさんにしか愛を見出せないお前に何がわかる!」

「ふ…ふはははは! 自ら墓穴を掘ったな九十九!」

「な、なに…?」

「お前はナナコさんを見誤っている。今まで一緒にナナコさんを見守ってきたとは到底思えんな!」

「確かにナナコさんは素晴らしい女性だ。可愛らしくもあり、家事全般もこなせ、スタイルも抜群。正に理想の女性だろう。

 だが! 所詮は二次元の女性ではないか!」

「確かに彼女は二次元の女性だ。俺もそれは十分承知している。だがな、お前はナナコさんの事で1つ忘れていることがある」

「なんだと…?」

「さっきお前は、俺に対し何もわかっていないと言った。だが、何もわかっていないのは九十九、お前自身だ!」

「俺が…? ナナコさんをか?」

「本気でわからないようだな。妹免許皆伝だと? 笑わせるな! 正に言語道断! 愚の骨頂!」

「なに!? 全世界妹連盟を敵に回す発言だぞそれは!」

「ならば貴様…ナナコさんには、ロクロウという兄が居る。それはつまり、ナナコさんが妹だということを忘れているお前はなんだーっ!」

「俺が悪かった」

 

素晴らしく潔い九十九は素直に頭を下げた。

その変わりっぷりに、元一朗は思わず感心してしまう。それほどに、九十九の目は爽やかだった。

 

「素早い寝返りだな」

「人間、過去の事にこだわっていては前に進めないぞ元一朗」

「うむ、それでこそ九十九だ」

「そう褒めるな。しかしだ…やはり彼女は最高だな」

「そうだ、俺達はやはり…」

「「ナナコさんだ!」」

 

結局、散々遠回りをして回帰してしまう九十九。心が通じ合った2人は、もう誰にも止められない。

本来の目的を忘れ、何処かへと飛び立つ寸前だ。

 

「元一朗、なんだか無性に走りたい気分じゃないか?」

「ふ…いいだろう。どこまでも付き合うぞ九十九」

「よし、『未来』と書いて『あした』までゴーだ!」

「真実の愛の前には、何者も無力である! どこまで突っ走ってやるさ!!」

 

「ユリカ、僕達はどうしたらいいんだろうね?」

「とりあえず面白そうだから見守ってようか」

 

しかし、それに待ったをかける人物がユリカとジュン以外に存在した。

 

「待ちなさいよ、そこのボケコンビ

「「「「!?」」」」

「さっきから聞いてれば、まったく妹だのナナコさんだの。ふふふ、ちゃんちゃら可笑しいわ」

 

額に手を当て、含み笑いをするイツキ。だが、その目は相手を萎縮させるほどにギラついている。

まさに獲物を狩る、野獣の目だ。

 

「イ、イツキ君?」

「イツキさ〜ん、気が迷ってませんか〜? 目が血走ってますよ〜」

「な…き、貴様! 俺達ならまだしも、ナナコさんを愚弄する気か!」

「しかも、妹まで小馬鹿にするとは。どういうつもりだ!?」

「いいわ、特別に教えてあげる。最上の萌え、それはね…心に直撃するような、内面に広がる広大な美しさよ!」

 

ビシャァァァァァァン!!

 

「「何言ってるのー!?」」

 

声も高らかに自らの真実を暴露するイツキ。しかも、雷をバックにするという念の入れよう。彼女は今、煌びやかに輝いていた。

勿論、ユリカとジュンのツッコミは彼女に届いていない。

 

「「な、なんだと…」」

「所詮、貴方達の言う萌えは薄っぺらい表面的な部分にすぎないわ。真の萌えを貫くならば、真実を見極めなさい!」

「イツキさーん。ちょっと意味がわかりませんよ〜」

「イツキくーん! 帰ってこーい!!」

 

ちなみに、イツキの後ろで演出効果を行っているのは、とりわけ『美』にうるさい人物だ。

例によって、背中にブースターを背負い、薔薇の花びらが散っていたりする。

 

「ふふふ…まさかこのような所に我が心を理解出来うる人物が居ようとは。今日は良くも美しき日だ」

 

『どこから出てきた…』

 

この疑問はもっともだった。

 

 

 

 

 

「ん? 今、一瞬ナデシコの動きが止まりましたけど、どうかしまして?」

「いえ、魔空間を見た気がしただけです」

「そう」

 

謎の空間を検知した瞬間、オモイカネが頭脳が炸裂しそうになったので、即座にルリは再起動をかけた。

勿論、魔空間とはユリカ達が存在しているフィールドを指す。

 

 

 

 

 

 

一方、アキト達の乗るエステは、カンガルーの格好が功を奏したのか、ほぼ無傷の状態で遺跡へ到着していた。

 

「やたらと疲れたなぁ」

「ホント…もう気力残ってないや」

「く〜…かぷかぷ」

 

しかし3人は既にグロッキー状態となり、ラピスに至っては栄養補給にいそしむ始末。

それを先程からずっと遺跡上空で待ち構えていたレンナは、呆れ半分怒り半分で見つめていた。

 

「ちょっと、これから本番だってのにしっかりしてよ」

「来週辺りに延期してもらえないか? 少々気だるい。そんじゃあ、帰るわ」

帰るなー! ここで決着をつけなきゃ、何時つけるのよ! 文句は言わせないからね!」

「あ〜わかったわかった。だが、その前にだ」

「何よ。命乞いなら聞く気ないわよ?」

「前々から疑問だったんだが…何故にお前はそんなに怒り狂っているのだ?」

「…………マジで言ってるのかアンタは。忘れたとは言わせないわよ! 今までの私の苦労を!」

 

その時、レンナの頭の中では、アキトとの今までの日常がダイジェストで放映。そして放映終了。

放映後に各所で以下のような感想の声が寄せられた。

 

三郎太―――『涙が止まらねえ!』

 

源八郎―――『人生七転び八起き。明日も日は昇る』

 

ユリカ―――『うっ、うっ…イイお話ですね。チーン!』

 

カグヤ―――『修羅場? 地獄? 混沌? 当てはまる言葉が見つからないわ』

 

プロス―――ヒュンヒュン! 『今日も相棒が唸りますよ』

 

他にも『初めて涙しました!』『後、3回は見ます!』『最高ー!』『因果関係が知りたい』『人知を超えた自然の驚異を垣間見ました』…等々。

とにかく大盛況のうちに幕である。

 

 

「ぶ ち 殺 す ! …いや、    

 

 

当然の如く、レンナの気力はMAXまで上昇。正に火に油を注ぐとはこのことだろう。

同じくして、アキト達も過去を振り返っていた。

 

アキトの回想―――

 

「ベン子! 貴様をオレの下僕としてやろう!」

「ありがたき幸せでございます、アキト様」

 

ユキナの回想―――

 

「レン、アキトと私の幸せを支援する為にも、邪魔なメス豚どもを仕留めてくれるよね?」

「くっくっくっく…この返り血の味がたまらねぇぜ…」

 

ラピスの回想―――

 

「パクパクパク…」

「あっあっあっ…」

 

以上、回想終わり。

 

「「「どうしてだろう…?」」」

 

3人揃って、さっぱりわかっちゃいなかった。勿論、先程の回想は多分に妄想が入り混じっている。

 

「この3バカトリオがー!」

 

「3バカ!? 3バカって言われた! それって私も入ってる!? ウソー!!」

「なんという…褒め言葉!

「さすが3バカトリオのリーダー、あきとおにーちゃん。めげない」

 

「こぉのぉ黙ぁれぇ〜ボケナスどもぉ〜♪」

 

マイク片手に謎の歌を唄いあげるレンナ。しかし、ソレは今までのモノとは別物だった。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁっ! 耳が、鼓膜がぁ!」

 

「ピ、ピンポイントで私らだけに直接攻撃?」

「実戦の中で成長してる」

 

ユキナとラピスはウリバタケ特製の対音波防御耳栓を着けているのでどうにか無事だが、無防備のアキトはそうはいかない。

ついでにエステもかなりガタが来始めていた。

 

「ま、まだ大丈夫! まだイケル! 『永遠の十代』という名札を掲げたオレには、狂音なんぞ効かんわ!

 よし、そんな訳で速やかに撤退じゃ! 妖精さんもそう言っている!」

「あきとおにーちゃんが夢の世界の住人になってるよユキナ」

「…耳から脳へいったのかな? う〜ん、この場合、耳に息吹きかければ復活するかな?」

「たぶん、いろんな意味で効果はテキメンだと思う」

 

ラピスの言葉に後を押され、ユキナがアキトの耳に息を吹きかけると、瞬く間にアキトは平常心を取り戻した。

しかし、失ってしまったモノもあるのか、少々うな垂れ気味だ。

 

「うう…だぁーもう、とにかく聞け! ソッチ側は限りなくヤバイんだよ!」

「やかましい! アンタの方が色んな意味でヤバイわよ!」

 

「最近の世界情勢を考える」

「世論の調査によりますと、支持率は下降の一途を辿っております」

 

「直球ストレート過ぎやしませんかアネゴ!」

「昔の人は言いました。『屍は越えるためにあるのだと』。だから安心してお逝き!」

 

「ソフラン!」

「C!」

 

「ちきしょう! 話が全く通じねえ!」

「「いやいやいやいや」」

 

パタパタと手を振り、ボケ合戦に合の手を入れるユキナとラピス。止めないと、いつまでも続きそうだ。

 

 

 

 

 

 

その頃―――

 

「レンナさん、立派なボケに育って…」

「プロスさん、それは誉めてるの? 嘆いてるの?」

 

プロスの血の色ハンカチが心の汗で湿っていく。笑いなのか、本気で悲しいのか、嬉し涙なのか、かなり微妙だった。

ナデシコブリッジは今日も平和だ。

 

 

 

 

 

 

「もういい! アンタを殺して私は生き永らえる!」

「生きるのか」

「アンタとは別世界で生きたいのよ! 文句ある!? ちなみに目標1.5世紀くらい! 歳で言うと150歳!」

「しかも長寿世界一を目指す根性か!」

「どうしようアキト。レンったら本気だよ」

「どっちに本気だそりゃ!?」

「きっとどっちも本気」

 

レンナの人生は太く長くなりそうだ。

そんな問答が続く中、1つの通信がレンナの元の寄せられた。

 

「はい、アナタの決意はわかりました。いや〜感動ものですよ。これは是非とも、僕が手を貸してあげねばなりませんね」

「山崎? アンタどこに行ってたのよ? いやそれより何を…?」

「たった今 完成したばかり! いきますよーファイナル・トランスフォーム発動! スイッチオーン! ポチッ」

 

山崎が手元の謎ボタンを押した瞬間、レンナの乗る機体が、そして遺跡内部が細かく振動を始めた。

 

「な…なによこれ!?」

「さあ、今こそ活躍の時ですよ! いってらっしゃい、北辰さん3号! あなたの本当の力を見せ付けてください!」

「へ!?」

 

戸惑うレンナなどお構いなしに、遺跡内部から次々と破片が舞い上がり、レンナの機体に吸い寄せられていく。

同時に、かんなづきから1つのカプセルが射出される。その中には肉片と化した筈の北辰が、元の人間の形を保った状態で冷凍保存されていた。

ちなみにコレが、謎の協力者の手によって山崎宛にクール宅急便の中身だったりする。

北辰が入ったカプセルは、レンナの乗る機体の頭部に吸い寄せられ、そのまま装着。

更に、遺跡から飛んできた破片も次々と同化を果たし始め、機体は凹凸を繰り返しながらみるみるうちに変形し、1つの形を成した。

 

「成功です! レンナさん、アナタと北辰さんの活躍を期待しますよ!」

 

親指を突き出し、ニッコリした笑みをレンナに送る山崎。最終合身を遂げたレンナの機体は、遺跡の直上に堂々とその姿を現した。

構造は一切不明だが、レンナの機体は見上げる程に巨大なロボと化している。ちなみに外観は編み笠北辰で、ごっついロボ形態だ。

 

 

 

「うわあああああーっ! 何かすっごい嫌ーっ!

  この中に居るの嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

「はっはっは、巨大ロボは男の浪漫であり美学ですよ」

 

なんだかんだで、山崎もゲキガンガーマニアだったようだ。

無論、冷凍状態の北辰に意識が無いのもお約束である。

 

「うそおおおおおお!? な、なんなのアレー!? ねえ、アキトー!!」

「……」

 

しかし返事が無い。どうやら息絶えているようだ。

 

「ショック死してるー!? なんでアキトの方が衝撃受けてんのー!?」

「また、逝っちゃった」

「あーもう! はい、人口呼吸…ぷーぴー…」

「ユキナ、吹いてばっかりだとあきとおにーちゃん破裂する。その証拠に顔色がとんでもないことに…」

 

いろんな意味で崖っぷちに立たされるアキト。

そしてレンナはといえば、無茶苦茶な合体のおかげで脱出も出来ずにジタバタと内部で暴れまくっていた。

 

「たーすーけーてー!」

「あれー? 気に入りませんか? 折角成功したのに」

「何をもって成功としてるんだアンタは! こんなもの、世界中を敵に回しても気に入らないわよ!!」

「でも、遺跡内部の部品を使ってるから跳躍はし放題ですよ? アレの組成って、レンナさんの身体から摘出したものと同等のものですし」

「性能はいいのよ! 問題は見た目! 悪趣味にもほどが……私の身体から摘出したものですって?」

「そうです。調べた結果、どうやらアレは何かと融合する為の装置みたいな物だったようですね。

 その特性を利用して、合体機構にしてみました。どうです、凄いでしょ? でも、どうしてこんなものがレンナさんの身体にあったんでしょうねぇ?」

 

次の瞬間、全チャンネルに謎のジャミングが入った。

 

 

 

「説明しましょう!」

 

 

 

 

『3』

 

 

『2』

 

 

『1』

 

 

『どっか〜ん』

 

 

『なぜなにナデシコ!』

 

 

みんなの知恵袋、説明お姉さんの登場だ。

 

「はい、みなさんこんにちは。あらゆる疑問にお答えるする『なぜなにナデシコ』の時間がやってまいりました。司会はこのイネス・フレサンジュ」

「そしてアシスタントのメイ&ミコトや〜よろしゅうな〜」

「……」(ぱちぱちぱち)

 

『………』

 

突然の事態に、ナデシコ勢、連合軍、木連、そしてアキト達は固まってしまった。

 

「さて、今回の疑問。レンナちゃんの身体にあった謎の物体とは?」

「よっしゃ、親切丁寧にウチらがわかりやすく答えるから、ちゃんと聞いときや〜」

「……」(パチパチパチ)

 

無言で拍手するミコトに手を振って答えるイネスとメイ。どうやらメイとミコトは、帰る間際のところをイネスにスカウトされたようだ。

勿論、2人の格好はお姉さんとウサギさんである。

 

 

 

「…あの3人はいったいなんですの?」

「1人は説明に生涯を捧げる三十路手前の女性。残り2人は神出鬼没のせいで出番殆ど無しの謎姉弟です」

「イネスさんったら、見かけないと思ったら絶妙のタイミングで出てきたわね」

「でも、どうやってこっちの会話拾ってたんでしょう?」

 

謎に満ちたイネスの奇行に、メグミはただ戸惑うばかりだ。

 

「それでルリさん、そのお三方はいったい何処でこのショートコントを繰り広げているのですか?」

 

「プロスさん。ショートコントじゃなくて『なぜなにナデシコ』。ここは大事。試験に出ますよ?」

 

「はっはっは、ツッコミが入りましたね」

「それで、3人の居場所ですが…遺跡中心部、最下層に居るようです」

「はぁ!? どうしてそんな所に居るのよ!?」

「それ以前にどうやってそこまで移動したんだろうねぇ」

「なんだ、アカツキさんにエリナさん、居たんですか」

「「ほっとけ」」

 

少々肩身が狭くなっている2人だった。

 

 

 

「さっきのわけのわからない合体のせいで遺跡上層部のフィールド発生装置が破損した事で、通信状態が良くなったようね。

 本当は結構前から通信を試みてたんだけど、全然繋がらなくて」

「ホンマに無茶しよる。ま、ええけど。

 さて、この疑問に答えるには、まず『ボソンジャンプ』、木連では『跳躍』と呼ばれとるモノがどんものなのか理解せなあかん」

「では、ボソンジャンプについて説明しましょう。そもそも…」

「……」(くいくい)

 

イネスの説明に待ったをかける為に、白衣をくいくいと引っ張るミコト。

訝しげな表情で振り向くイネスが見たものは、ホワイトボードを片手に掲げながら何かを訴えかける表情をするミコトの姿。

 

「み、ミコト君、なにかしら? さすがにホワイトボードでの強打は勘弁してほしいわね」

「あ〜要は、簡単に説明せいっちゅうこっちゃ」

「…わかったわよ。事細かに説明すると皆揃って寝ちゃうしね。じゃあ簡単に。

 過去にナデシコが火星から地球へジャンプした時、クロッカスが地球から火星にジャンプした時、そして極めつけはアキト君の木連へのジャンプ。

 どれもこれも時間に関わるジャンプだった。それは何故か?

 ボソンジャンプはね、ただの空間移動方法みたいに思われているみたいだけど、これだけの例があるとなるとその認識を改めなければないない。

 早い話が、ボソンジャンプは時間移動と考えた方が適切ね。まあ、空間移動は、そのついでで起きてる現象と言ったほうがいいかしら?」

「そうや。そして、ここにあるこの四角いもんが、ジャンプする為に必要なことをしてくれる、ごっつうおりこうさんの演算ユニットや。

 ジャンプが起きるたびにコイツが膨大な演算をしてな、跳んだもんの行き先やら時間やらを計算してるんよ。

 だから万が一コイツが壊れようもんなら、世界がエライこっちゃな事になるんや。凄いやろ!」

 

『結局、何が言いたいんだお前は』

 

自慢げに語るメイにツッコミを入れる一同。補足をする為に、イネスが更なる説明を始める。

 

「要は、演算ユニットの破壊によりタイムパラドックスが起きて、今までの出来事が全てチャラになると言いたいのよ。

 つまりはジャンプが絡んだ出来事、こんなバカげた戦争も無かったになる。それが良いか悪いかは人それぞれでしょうけど」

「うんうん。ジャンプの説明はこんなもんでいいな? じゃあ主題の話にいこか。実はここだけの話、この演算装置にはもう1つ大事な事があるんよ」

「……」(いそいそ)

 

ミコトがどこから持ってきたのか、遺跡のミニチュアを運んきた。

結構細かいところまで再現されているのが、作ミコトとなっている辺り謎である。

 

「はい、ここ注目。この演算ユニット、一見ごっつい装置に思えるけど、実はこれって時々誤作動起こすんよ。

 要因は色々あるけどな、時々動作が不安定になってしまうんや。そこでコイツを安全に制御する為に、あるもんが必要になる」

『あるもん? いや、あるもの?』

「はい、あるもの。これがなんなのか? これてについて一番良く知ってるのは誰であろう、レンナちゃんアナタですね?」

 

サインペンでビシッとレンナを指すイネス。当のレンナはといえば、ただ押し黙るだけだ。

レンナの沈痛な表情を見つめながら、メイは過去にあった出来事を懐かしんでいた。

 

「いや〜思い出すなぁ、演算ユニット選手権」

『選手権!?』

「全世界から選りすぐりの人材が集まってな、演算ユニットと共に世界を取り戻そう! とか言って該当者を集めてな、選抜したんよ。

 ま、おもいっきり怪しいから大半の奴は帰ったけどな。つーか、騙してたんやけど」

『おいおい…』

 

その選手権とやらが、いったい何時開催されたのか聞く気力も失せてしまう程に呆れ果てる一同。

そんなことはお構いなしにイネスはさっさと話を進める。よっぽど説明を続けたいようだ。

 

「とにかく、今の状態でジャンプを使い続けるのは危険だというのがここでの結論。

 演算ユニットを安定させる為、幾人の中から選出されたレンナちゃんに演算ユニットと融合するための変な機械を組み込んだ。

 その変な機械こそが、レンナちゃんの身体にあった謎の物体の正体。そして、あるものとはレンナちゃんの事というわけ。わかったかしら?」

「ふむ。つまりは、人間用の瞬間接着剤みたいなもんか」

「…わかりやすいんだか、わかりにくいんだか微妙な解釈ねアキト君」

 

折角の説明を一言で片付けられ、納得のいかないイネス。

そんなイネスのツッコミを無視し、レンナに同意を得ようとするアキト。だが、ソレが命取りになることに本人は気付いていない。

 

「なあ、ベン子もそう思うよな?」

「ベン子言うな!」

 

次の瞬間、北辰ロボから膨大な量の光の渦が発せられた。

 

 

ズドガアアアアァァァァァァンッ!!!

 

 

『……………』

 

「次言ったら確実に消すわよ?」

 

マジ声で脅すレンナ。一方、今の衝撃波を目の当たりにした者達は、放心した状態で動く事すら出来ない。

 

「キャ、キャァァァァァッ! 地割れが! 地割れが! とんでもない威力ですよ! 有り得ないですよ!!」

「ピカッて光って、ピカッて光ってズドーン! で、ガラガラガラ! バカーン!!」

「ツッコミランチャー、パワーアップしすぎ」

 

交渉役の3バカトリオは途端に逃げ腰になった。ちなみに『ツッコミランチャー』は山崎が夜なべして改造した特注品だ。

勿論、各所でも起きる大混乱。これでは、続きを説明の続きを話しても、誰1人として聞き入れないだろう。

それを察したのか、イネスは通信を切った。

 

「あーもう。まだ終わっとらんのにー」

「ああなったら仕方ないわよ。まあ、残りは後でたっぷりと説明するからいいとして…今はこれでいいんじゃないの? 

 どうせ、レンナちゃんの身体には謎の機械は無いから、融合する事も出来ないんでしょ?」

「それはそうやけどぉ…あーあ、これであの子が来る意味も無いやないかぁ。折角、秘密アイテムを持ってきてくれるのに〜」

「じゃあ、いよいよなのね?」

「当たり前や。そもそも自分自身の事やないか」

「それもそうか」

 

イネスが頷いたと同時に、目の前に七色の光が溢れる。そこには、1人の少女が佇んでいた。

 

「やっほ〜来たよ〜」

「アイちゃん。久しぶりやな〜」

「……」

 

顔見知りなのか、アイと呼ばれた少女に駆け寄るメイとミコト。

イネスは、ただその光景を見守っていた。

 

「はい、メイちゃん。約束のもの」

「確かに。う〜ん、ゴメンなアイちゃん。めっちゃ無駄足になってもーたわ。でも、このプレートは預かっておくな。なんかの役に立つかもしれんし」

「そうなの? 苦労して持ってきたのに無駄足なんてぇ」

「全部アキト君のせいよ。間違いなく」

「お兄ちゃん…? あ、そうだ。ねえ、オバチャ…じゃなくてお姉さん」

「何かしら?」

 

イネスの両手には、ごっそりと注射器が握られていた。打たれたものなら、ほぼ間違いなく別人になり得る量だ。

 

「お兄ちゃんに伝えておいて。火星丼の代金さっさと払えこのやろうって」

「利子分も含めて請求しておくわ」

「うん、ありがとー」

「あきんど根性やな。逞しいでホンマに…お?」

 

不意に、アイの身体が再び輝きだした。それは役目を果たした為なのか、イネスの言葉に満足した為のかは定かでないが。

 

「そろそろ時間やな」

「あら、もう?」

「じゃあ行くね。また…会えるよね?」

「勿論や。なあミコト?」

「…」(コク)

「じゃあ、それまでバイバイ」

「バイバイや〜」

「…」(ぶんぶん)

 

勢い良く手を振り、アイに一時の別れを告げる。

そんな3人を見つめていたイネスだが、ふと何かを思い出したのか、アイに小瓶を手渡した。

 

「なにこれ?」

「男をにできる秘密の薬♪」

 

アイの将来は決まっているとはいえ、かなりの不安要素を残すイネス。半分ヤケになっているのかもしれない。

 

 

 

 

 

一方その頃、遺跡の外ではアイが発していたモノとは別の光が、辺りを蹂躙していた。

 

 

 

 

 

ズバァッ!

 

「ぬぁー!?」

「て、提督! 先程の攻撃で味方艦10大破、その他数え切れない程の艦が煙噴いてます!!」

「見ればわかるわ! ユリカー! 無事でいろよー!!」

 

コウイチロウの活躍はそれほど長く持たなかったようだ。

 

 

 

 

 

シュバァッ!

 

「なっ…レ、レンナ殿張り切ってるなぁ」

「そうですね。ウチの艦も被害を喰らってますけど」

「重力波砲。跳躍砲。ミサイル。無人兵器。全て使用不能です」

「本当に張り切ってるなぁ!!」

『心中、お察しします艦長』

 

源八郎の叫びは愁いをおびていた。ついでに乗組員は揃って涙した。

かんなづきは色んな意味で戦線離脱状態だ。

 

 

 

 

 

ズシャァッ!

 

「ほお〜」

「凄いわねぇ」

 

縦横無尽に走る攻撃を眺め、感嘆の声を漏れる。

ここは木連の指令室。そしてそこに鎮座するのは、通りすがっただけで大役を任せられた1組の男女。

 

「お2人共! か、感心してる場合ですか! 無人兵器の8割方が消滅! 優人部隊の艦にも被害が及んでいるんですよ!?」

「…潮時か?」

「ええ」

 

木連兵の報告とも、非難とも取れる声を聞きながら、男が退散の意を女に示す。

 

「帰るのかね?」

 

そんな2人に声を掛けるのは、ようやく復活の草壁春樹中将。

突然現れたかと思えば、部隊を指揮し始めたこの夫婦に対し、草壁は何故か一辺の疑いも持っていない。

 

「世話になったな」

「ではお元気で」

「ああ、気をつけて」

 

後ろ手を組みながら、健闘を称える眼差しを2人に送る。萌え障壁を脱した草壁は、一回りも二回りも懐が広くなったようだ。

男女を見送り、ようやく一息といったところにバタバタと誰かが走る音が聞こえたと思った次の瞬間、勢いよく扉が開かれた。

 

「か、閣下!」

「ん? おお思春期君、今までどこに?」

「そんなもの、とっくの昔に終わりました…って、何言わせるんですか! それより、どこにじゃないでしょう!

 先程の侵入者が現れたという報告を忘れたんですか!? 私が筆頭となり艦内の探索を行いますって許可を貰ったじゃないですか!」

「その時の指揮は白鳥に任せておいたからな。はっきり言えば知らん」

知らないってアンタ! な、ならばその白鳥少佐はどこに!?」

「前線で大活躍しているようだ」

いないのかよ! な、ならば今までは閣下が指揮を?」

「いや、見ず知らずの夫婦が指揮をしていた」

「なにやってたんだアンタはー!!」

 

シンジョウの血管がぶち切れ寸前。

だが、草壁が今まで何処でどのように過ごしていたかを聞かされた途端、同情の眼差しを草壁に送るシンジョウだった。

 

 

 

 

 

バシュゥッ!

 

「な、なんですのー!?」

「バカでっかい謎の人型兵器より発せられた熱線により、あちこちでエライことになってます。ま、言わなくてもわかりますね」

「非常識ですわー!!」

 

叫びながら、カグヤは目の前のコンソールをひたすらに乱打。それを止めに入ろうとしたゴートは、返り討ちにあい密かにお肉の塊になっている。

カグヤガールズが治療に当たるも、復帰の目処は立っていないのがその表情に表れていた。

 

「ついでに言えば、ナデシコの近くで熱く語り合っていたヤマダさんとゲキガンタイプ1体が、巻き添えを喰ってコゲてます」

「それは別にどうでもいいわ」

 

哀れ、ガイと三郎太は撃墜のシーンも無いまま退場となってしまった。

 

「この艦も兄弟艦と同じ運命を辿るんですかね…ふふふ…

「メグちゃん、不吉なこと言わないでよ。あはは…

「ああ…僕の人生ここで終わるのかな…は、ははは…

 

既に諦めムードのメグミ、ミナト、ハーリーの3人。さり気に聞こえる乾いた笑いが不気味だ。

 

「ハーリー、やり残したことがあるのなら今の内だぞ」

「それでカイオウ提督のやり残した事が、パエリヤを食べることですか」

「お、プロスさんも食うか?」

「そうですねぇ、折角ですから頂きますか」

「言っとくけど、残したら物凄いことが起きるよ?」

「「心して食します」」

 

年配オヤジズはホウメイ監視の下、萎縮しながらパエリヤを食した。ある意味、度胸が据わっている。

 

 

 

そして、敵味方関係なしに大規模な攻撃を仕掛けている当人はというと―――。

 

 

 

「だ、誰か止めて〜! ここから出して〜!」

 

未だに内部で暴れていた。もしかしたらこのせいで滅茶苦茶な攻撃が行われているのかもしれないが、本人はそれどころではない。

 

「レンナさ〜ん、縦横無尽もいいですけど、もう少し小規模でお願いしたいですね〜」

「山崎ぃ! これ全然思い通りに動かないっていうより、どうしようもなく制御不能じゃない! どうしたらいいのよ!?」

「御武運を」

 

やっぱりニッコリした笑顔で敬礼しつつ、山崎は逃走を計る。この時の彼の背中は、やたらに丸まっていた。

 

「あ、あの野郎〜〜〜〜〜!」

 

ぶちッ!

 

この時、彼女の中で何かがぶち切れた。元々ぶち切れてはいたが、奥底にある切ってはいけない何かが切れた。ものの見事に。

 

「キエェェェェイヤァァァァァ!」

 

「「「吼えた!?」」」

 

レンナはもう後戻りが出来ない状態に陥った。目はもうヤバイほどに光っている。

当然、こうなったら誰にも止められない。

 

「ここまで来たら、もうアキトも何も関係ない! まとめてチリも残ず吹っ飛ばす! いや、吹っ飛べこの野郎!!」

「どういう理屈だそりゃ!? ったく、脳みそ溶けるか沸くかどっちかにせい!」

「やかましい! アンタのよりはまだまともよ!」

「ねえレン! もう、こんな不毛な事止めようよ!」

「いいの! 悪は退治してこそ意味があるのよ!」

 

ビシッとアキトを指差すレンナ。完全に悪認定だ。

 

「アキト! 悪人って言われてるよ!」

「やれやれ…ヤツめ、意味を取り違えてるぞ? オレは悪などではない!」

「正義でもない」

「ラピス言うねぇ」

「こいつは手厳しいなぁ! はっはっはっは! ………仕方ねえや 、マジでいくか」

「え?」

「あきとおにーちゃん?」

 

突然のモード切替えに戸惑うユキナとラピス。こうなれば、やることは1つだ。

 

「「前後の繋がりがまったくない発言はどうかと思うよ?」」

「ほっとけ!」

 

裏手ツッコミをかましつつも、アキトの表情は今まで見たこともない程、真剣そのものになっている。

気合一発、自分自身に言い聞かせ、最後の勝負に出る覚悟を決めるアキトの姿がそこにあった。

 

「とにかく、これが最初で最後だ。真面目モードでやってやる!」

「「おおおおお!」」

「おうし、こうなったら直接取り付いて、ヤツを引きずり出して、ビシビシ説教するからそこんとこよろしく!!」

「おお! アキトが今までで一番のやる気を出してる! よーし、行けアキト! ヒァウィゴゥ!!」

「何語じゃそりゃ!?」

「あきとおにーちゃん。ウリバタケが取り付けた秘密のスイッチがここにあったりするけど…使う?」

「まさにお約束だな! この際、贅沢は言ってられねぇか! よっしゃ、いくぞおおぉぉぉぉぉぉぉ!?

 

掛け声と共に『ウリバタケ工房特製』と記された謎のスイッチを押すアキト。しかしその掛け声は、何故か悲鳴へと変貌していた。

 

「な、なんじゃこりゃああああああ!? 早ぇ!? 早すぎる! 制御できねえぞこんなの!!」

「うわわわわわ!? あ、アキト! 早すぎて音声が取り越されてるよ!!」

「その場に居ないからわからん!」

「あきとおにーちゃん、き、気持ちわるい…オエエ…」

「吐くなーっ! 限界ギリギリで止めてろーっ! し、しかし…本気でやたら早いぞこれ!?」

「アキト! この『ウリバタケ工房特製』っていうのが最大級のヒントだと思うよ!」

「それだー! タイヤ班長! アンタ、オレの機体に何しやがった!?」

 

「仕様だ。慣れろ」

 

だが、ウリバタケの返答は返答になっていなかった。

 

「あんだとぉぉぉぉぉぉっ!? このままじゃあ自滅は必至! こうなったら、何故かある緊急停止レバーを…!」

 

バキッ!

 

「「「折れたー!?」」」

 

「そんなもん、ただの飾りだ」

 

「「「えーっ!?」」」

 

「グッドラック」

 

「アンタはたった今、オレの中で無駄改造屋に大決定だ!」

 

ウリバタケの光る歯が、今はただ眩しかった。

 

「え、ええい! このまま突撃開始じゃぁぁぁぁっ! おんどりゃあああああああ! 覚悟しいやぁぁぁぁぁ!!!」

 

アキトの叫びが空しく響き渡りながら、エステバリスは全速力でレンナの機体目掛けて体当たりをかまそうとする。

 

「オーレ!」

 

だが、やっぱり何故かある赤い布で華麗にさばかれてしまった。

 

「ぬおおおお!? ま、前が見えーん!」

「うがー」

「うわっ、ラピスが赤い布見て興奮してる!」

「むぅ、そういう属性の持ち主だったか」

「属性!?」

「ちなみにオレの属性は、限りなくスリルとサスペンスだ」

「じゃあ私は?」

「いや、それはちょっと…」

「どうして目を背けるのー!?」

「がおー」

 

アキト達は混乱しながら物凄いスピードで彼方へと飛び去ってしまった。勿論、赤い布を被ったまま。

どうやらアキトの真面目モードは、空回りに終わってしまったようだ。

 

「…はっ! し、しまった、逃げられた! なんて巧妙な罠…侮れないわ!」

『実は遊んでるだろアンタ』

 

その場に居る全員から、こんなツッコミが入ったのは言うまでもない。

どうやら北辰ロボは、レンナの本能でのみ反応を示すらしい。山崎の性格が伺える一品だった。

 

 

そしてここにもまた、アキトと同じくやる気をかもし出す人物が1人。

 

 

「そ、そんな…アキトが……くっ…こ、こうなったら私がやるしかないね!」

「ユリカ!? 何、寝ぼけたこと言ってるの!?」

「アキトの死は無駄にしない!」

「死んでませんよ」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、当のアキト達は―――

 

 

「おお、アレは我が家の跡地」

「ラピスここどこ?」

「ユートピアコロニー跡」

 

 

道に迷っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

オー…

 

突如、悲しげな声らしきものが、北辰ロボより発せられた。というより、泣き声そのまんまだ。

 

「わっ、トカゲさんが泣いている!」

『そりゃそうだろうなぁ…』

 

その場に居る全員一致の呟きは、勿論それを作った当人には届かない。

同情漂う雰囲気へ水を差すように、再び無差別攻撃がユリカ達目掛けて襲い掛かる。だが、ユリカは負けなかった。

 

「ええい! 他人バリアー!」

 

シュバァッ!

 

「ぎゃー!!」

「つ、九十九ー!?」

 

九十九、自分が同じような事をやった報いか、散る。

 

「さあ、ジュン君も!」

「いや、ユリカ。それはさすがに…」

「アオイさん、なりふり構っている場合じゃないですよ! はい、他人バリアー!」

 

ズバァッ!

 

「俺もかー!?」

「もう和平は無理だろうな…」

 

ジュンは心底そう思い、嘆いた。

 

「はっ! もう盾が無いよイツキさん!」

「さすがにこんな所で、切り札のバリアであるジュンさんは使えませんし…」

「イツキ君、サラッと怖いこと言わないでくれる?」

 

ジュンの扱いは九十九達と大差ないようだ。しかし、乱射される熱線の嵐は待ってくれない。

そんな所へ、駆けつける奇特な人物がまたも現れた。

 

「はっはっは! ここは僕の出番だね?」

「「アカツキさん、いい所に」」

「え?」

 

ジュドバァッ!

 

「何故にー!?」

「ネルガルも終わりか…」

 

ジュンの呟きはアカツキの悲鳴にかき消されてしまった。そして、次の盾は間違いなく自分なのであろうと思い、辞世の句を書き始めるジュン。

その背中は、哀愁がひたすら漂っている。

 

「う〜ん、これじゃあキリがないね…よぉーし、こうなったら手段は問わない! 最後の手を使うよ!」

「とうとう来たか…ひたすら手段を問いてほしい気持ちなんだけど…聞いてないね」

「いえ、きっとジュンさんの事ではないですよ」

「え?」

 

呆けるジュンを余所に、ユリカはナデシコブリッジに通信を繋げた。

 

「カグヤちゃん! アレやって!」

「ほ、本気ですの!?」

「もち」

「…どうなっても知りませんわよ! ホシノさん、最終安全装置解除! ナデシコ最終兵器を発動させます!」

「らじゃー」

「え!? ちょっと、そんなの私は知らないわよ!?」

 

聞き捨てならない言葉に待ったをかけるエリナ。だが、既にソレは動き出していた。

 

「ウリバタケさん、準備は?」

「おう、準備OKだ! 最後だからな、やっちまえ!」

「カグヤ艦長代理。発射準備完了しました」

「じゃあ、行きますわよ! Yユニット発射ーっ!!!

「ちょっと待てー!!!」

 

エリナの制止も無駄に終わり、ナデシコからYユニットが切断され遺跡直上に構える北辰ロボ目掛けて飛び出していく。

この案はユリカが出し、カグヤが同意した上で技術提供を施し、ウリバタケの改造とルリのサルタヒコ説得の賜物でここにある。

だが、ここで意外な事態が起きた。

 

『ふははははははは!』

 

「何、この笑い声!?」

「また盾希望者でしょうか?」

「イツキ君、君って…」

 

突如として現れた5つの影。それはYユニットの先端に悠然と佇んでいた。

 

 

「ある時は神出鬼没が売りな宅配員」

 

「またある時は美しさを品評する審査員」

 

「またある時は敵味方関係無く軍を率いる司令官」

 

「と、その副司令官」

 

「そしてまたある時は、軍の重い腰を上げさせるのに一役買う外務官」

 

 

「「「「「しかしその正体は! 彼方よりの…」」」」」

 

 

バシュッ!

 

 

謎の5人組は、登場わずか数秒で光の中に消え去ってしまった。

 

『結局誰だったんだー!?』

 

「…あれは、まさか…」

「いや、そんな筈は…」

 

プロス、そしてコウイチロウが一瞬垣間見えた5色のアフロを目の当たりにして、戸惑いの表情を見せた。

過去に見覚えがあるのか、必死にその事を忘れようと努力する2人。どうやら、あまり良い思い出ではないようだ。

結局、5人組の謎を残したままではあるが、そんなことはお構いなしにYユニットはその飛行を続ける。

 

「あまいな!」

『!?』

 

どこからともなく響く声。それは勿論、消えた筈の彼の声だ。

 

「この程度の攻撃、アフロには効かんわ! むしろイイ感じにコゲてアフロ増強!!」

『なんじゃそりゃー!?』

「ヤツを止めるにはコレだけでは心許ないだろう! 手を貸すぞ、諸君!

 いくぞ! こんな時しか使えない最終アフロ奥義! 必殺、アフロボソン召還!」

 

5人はまったく同じ動作で片手を掲げ、その手で自らの頭にあるこんもりとした物体、アフロを掴み取る。

そして勢いもそのままに、アフロを遥か上空へ投げ飛ばした。

 

『アフロ取れたー!?』

「お陰でアフロなくなったから正体バレバレですね」

「だから最終奥義なのだよナデシコのオペレーター」

「少女です」

 

ルリはこんな時でも自分を忘れない。

 

「…で、その変なアフロが浮いてるのはいいんだけど、何も変化ないわよ?」

「お嬢さん、見せ場はこれからだよ」

 

レンナに向かい、『ちっちっち…』と指を横に振りながら、キザに決める元赤いアフロの人物。

そして赤い人物を筆頭に、残りの4色の元アフロが手を天に掲げ声を張り上げる。

 

「「「「「さあ我が元へ来い!」」」」」

 

5人が同時に『パチン!』と指を鳴らすと、浮かんでいたアフロが七色に輝きだし、北辰ロボの真上に七色の光の塊が現れた。

そこに現れたのは、過去にグラビティーブラストに巻き込まれ、真っ黒にコゲたエステバリス。

勿論、それに乗るのはバカ筆頭の名を欲しいままにする人物、アキトだ。

 

「ふはははっ! 最後のシメは、やはりオレかー! 見知らぬ人達よ、わかってるねー!」

『誰だか気付いてないのかー!?』

 

アキトは素で気付いていない天然さんだ。

 

「張り切っていくぞぉぉぉぉっ! ぬおおおりゃぁぁぁぁぁぁっ!」

「あきとおにーちゃん、叫んでるとこ悪いんだけど…」

「なんじゃ!」

「今度はユキナが潰れたトマト状態に…」

「………何事にも犠牲はつきもの!」

 

ビシッ!っと親指を上げ、現実逃避するアキト。いつもの事なので、ラピスは大して気にもせず自分の役割を果たそうとする。

 

「え〜と、さっきの蘇生薬まだあったかな…」

 

いそいそと作業するラピスとヤバイことになっているユキナを見ないようにして、アキトは最後のシメに入った…かに思われた。

 

「目立ってない!」

「突然なにを言い出すんだアキト!?」

「なんかオレがイマイチ目立ってない! もう最後の筈なのに、あろうことかサブキャラ大集合でオレの勇姿が霞んでいるような気がする!」

「それはきっと不況のあおりだ! 気にするな! だがなアキトよ…今ここでヤツを殺れば、お前は一躍スターになれる」

「そ、それは真か!」

「真だ! だから殺ってこい! 俺はここでお前の晴れ姿を見守っていてやる」

「わかった! オレ殺るよ! 殺ってみせるよ! ありがとう、赤くて見知らぬ人!」

 

『趣旨変わってるぞオイ』

 

意気込むアキトにツッコミが入る。だが、今のアキトにツッコミの声など聞こえるはずもない。

 

「方向を見失ってるねアキトのヤツ」

「ユキナ、無事復活」

「ふふふ…これでこそアキトさんですね」

「「…アクアさん、いつの間に…」」

 

勿論、背後で囁く2人と合の手を入れる1人が居たとしてもそれは変わらない。

全てをシャットアウトしたアキトは、全身全霊を込めた一撃を携え、北辰ロボ目掛けて突撃を再開した。

 

「いくぜ! 必殺、ボソンジャンプで奇襲アターック!」

 

「そのまんまのネーミングじゃないのよー!」

 

 

ズガゴォォォォン!

 

 

アキトの体当たりとYユニットの直撃が同時に炸裂し、さすがの北辰ロボもその巨体のバランスを崩した。

そして、北辰ロボが一直線に落下する先には―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「うひゃぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

遺跡の中心、演算ユニットがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐしゃっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ』

 

 

 

ナデシコ勢から。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ』

 

 

 

木連から。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ』

 

 

 

その他大勢から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ━━━━━━っ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、見事に潰れたな」

 

各所から起こる悲鳴とは裏腹に、アキトののん気な声が何故かよく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキト…とその他全員の運命はどっちだ!? 続くような続かないような思わなくも無きにしも非ず。

 

あとがきです。

こんにちは、彼の狽ナげふはぁ!(吐血)

すみません…そ、そろそろ限界がキてたりします。カラータイマーなんて鳴りっ放しです。勿論、最後まで書く所存ですが…ええ、ガンバリマス。

では、気を取り直して…お約束って良いものですよね。王道と言い換えても可です。…決して自己弁護しているわけでは(以下略

いつものように、ネジ跳んでるだけですから気にしないで下さい(爆)

とにもかくにも、お約束なんだかどうだかよくわからない展開が続いてます…いますが…そう! それも次で終わり!

もう、いいですよね!? もうゴールしてもいいんですよね!? そうなんです。次回、最 終 話ですよ!(号泣)

長かったです…連載を開始し、気が付けばもう1年半程。常に頭の中ではネタが浮いては沈んでました。

でも、それも最後! だから次回もボケたおします!(いつもどうり)

そんな訳で、また次回。

 

 

 

代理人の感想

クライマックスだと言うのに・・・・・

クライマックスだと言うのに・・・・・

 

最後までこんなんかー!?

 

まー期待はしてましたが(爆死)。

 

 

 

 

 

ついでに誤字も最後までげふんげふん(爆)