「おかしい」
アキトは腕を組みながら、頭をあさっての方向へ傾けつつ眉間にシワを寄せていた。
速い話が悩んでいる。
「オレはつい先日、ギャンブル性を前面に押し出した形で大統領に就任したはずだ」
「あきとおにーちゃんが大統領になったら国が滅亡すると思う」
「せめて、街角で無意味に十字を切られるような人くらいに落ち着いたらどう?」
「それはどう考えても、即で職務質問を受けそうな位置だと思うんだが」
「じゃあ、ボケのMVP?」
「ならいい」
「認めるんだ…」
左右に座るのはユキナとラピス。
それでもアキトは2人にツッコミを入れながらも、何かの信念に突き動かされるように指を動かし続けていた。
「なあ2人共。空を爽快にムーンサルト級超回転しながら飛びたいと思う今日この頃、いかがお過ごしかな?」
「うん、あきとおにーちゃんとユキナと私の家族団らん」
「うん、今日もアキトとらぶらぶびーむを拡散発射してる」
2人は元気良く答えたが、アキトは何か気に掛かることでもあるのか、右手を前方に掲げた。
「ちょっと待とうか。うん、そう待つの。
なんだそのベタで甘甘で胃がもたれそうなストーリーは。幾らお兄さんが温厚でも限度ってもんがあるだろ?
そうそう。だからさ、もうちょっと話の展開っていうか、空気を読んでくれると助かるのよ。
はっきり言えば、イカンとですよ。つまりは遺憾の意を表明ですたい。思わず口調も変わるよそりゃ。
わかった? わかったな? よし、じゃあいっちょ行ってみようか」
「あきとおにーちゃんとユキナと私の背中流しっこ」
「私とアキトの初デート☆ そして、そして、愛し合う2人はのっぴきならない事に…うっ、鼻血が…」
「人の話は聞くもんだと何度言えば…チキショウ!
どっかの世界一デカイ滝から、ガムテープぐるぐる巻きの状態で落っことしたい衝動にかられるのは気のせいか!?
そんなことだから、保険の勧誘の代わりにパイプ椅子を手に持ったプロレスラーがやって来るんだよ!」
どうやら2人の頭の中では、限りなく平和な日常が繰り広げられているようだ。
アキトにとっては地獄に等しい苦行かもしれないが。
「あんた等、そこまでにして、そろそろ帰ってこい」
そんなアキトに声を掛けたのはレンナ。アキトの正面に座り、アキトと同じく指を動かしている。
「青酸カリってアーモンド臭がするんだぞ」
だが、アキトは動じなかった。しっかりと自分を保っている。
「いーから帰ってこいって。話が進まないでしょうが」
「あれ〜? レンだ。どーしてここに居るの? というより、アキトのことぶん殴らなくていいの? 今なら殴り放題だよ?」
「さ〜、よくわからないのよね。それにその事はもういいの。アイツの座っている椅子、立ち上がると爆発するようになってるから」
「へ〜」
「待て!? なんだその危険な香りがプンプンの仕打ちは! これが発動したら、年末の特番とかで放映されちまうだろ!!」
「いーから、いーから。ん? なんだかんだでコッチに戻ってきたわね」
「当然、心が折れたら負けだからな」
「いっつも折れっぱなしでしょうが」
「あからさまにね」
「あきとおにーちゃんだからこそ折れてる…あ、それロン」
大いに頷くラピスがアキトの捨て牌を見て宣言し、嬉しそうに手を差し出す。つまりは点棒出せのポーズだ。
「な、何故勝てない!? 責任者出てこい!」
「そんなのいない。じゃあ、この辺りから…」
ラピスが1つの牌を持ち上げると、その牌の中には、ある光景が映し出された。
「…くっ…職人芸…」
それを傍目に、アキトは爆弾解体作業に勤しんでいた。
「はぁ? 今、なんて言った?」
「ジッパーングは、黄金の国なーのでーすヨ!」
「回想に出てくんな」
ガンッ!
アキトはお星様として輝いた。
「あーじゃあ改めて…なんて言ったの?」
咳払い1つ、女性が不可思議満点の顔で、たった今聞かされた事をもう一度聞き返す。
しかし、相手はそんな態度に苦笑しながら再び説明を始めた。
「…ふ〜ん。で? ソレと融合するとどうなるの?」
「睡眠時間の低下、心肺機能の不調、肩こり、腰痛、便秘、目まいナドに有効です」
「そんな特殊効果もついてるの!?」
「融合したらあんまり意味ありませんけどね〜アハハハハハ。ま、がんばって改造人間となり、世界を救ってくださぁ〜い」
ゴキィ!
ふざけた口調で話す、何故か山崎にソックリな男の首元から鈍い音が発せられた。
何気に首が真横に90度ほど回転しているのは、おそらく気のせいではない。
「誰かまともな神経の持ち主はいないの〜? ねぇ〜?」
周囲に呼びかけるが反応はなし。辺りは静寂に包まれていた。
「いったいなんなのよもう…ん? なによこれ…?」
ふと気が付けば、目の前に『引いてくだされ!』と、時代錯誤もいいところの口調で書かれた付箋が貼り付けてある紐がある。
いかにも怪しさ大爆発なソレに、一瞬興味をそそられたようだが、完全無視を決め付け再び人を探し出す。
そんな彼女にダッシュで迫る人影が2つあった。
「目の前にぶらさがった紐があったら、引いてみるのが人としての人情やろが〜!」
「…!」
ドガァッ!
1人が叫び、もう1人がその叫ぶ人物を抱えながら、女性にダイレクトアタックをかますというド根性を見せ付けた。
勿論、女性は咄嗟のことで避ける事など出来ず、勢い余って手短にあった紐を引いてしまう。
「うぇ…?」
間抜けな声を出した女性は、飛び込んできた2人と共に一瞬にしてその場から消え去っていた。
残っていたのは七色の光のみ。
「………おお…新世界が見えます…」
その頃、首が曲がった山崎にソックリな男は、結構ヤバげな世界を垣間見ていた。
「伊達に風雲児は名乗っていないということか」
「凄まじい暴風雨だったわよ」
「ねえ、あれってレンでしょ? まー事の原因は色々あるだろうけどさ、これってやっぱりレンにも責任はあるわけだよね」
「レンって、やっぱりボケ?」
ラピスのツッコミに言葉を詰まらせるしかないレンナ。
そんなレンナを横目で見つつ、アキトは手牌を凝視し、1つの牌を卓上に叩きつけた。
「リーチじゃあ!」
「それロンだよアキト」
「―――!!」
ユキナの一撃により、アキトは自らの心の壁を完全破壊。
そこから現れた天使の翼を持つアキトが『こんな時こそ、初心に帰ってボケてみよう』と提案。
何人も存在するアキト達が揃って『今日は記念日だ!』と叫び万歳三唱。こうしてアキトの心には平和が訪れた。
「こ、殺して! いっそ殺して!!」
「心労から来るストレスと見た」
「「そんなタマ?」」
「そんなこと絶対に無かったね。じゃー次これね」
ユキナがアキトの捨てた牌を拾い上げ、覗き込む。
そこには―――。
「どこ、ここ…?」
「アナタは運が良い! ここは同族が集まると世間の皆々様が影で囁いている桃源郷!」
「それは悪い噂って言うのよ」
ガヅッ!
派手な音とともに謎の青年は窓を飛び出し、地面を削り取りながら消え去った。
後に残る土地はイイ具合に耕されて、種を植えれば元気のよい植物が育つことだろう。
「ハッ、何故か身体が勝手に!」
「…キサマ! さてはコレで興奮するタチか!?」
ダダダダダダダダダダダ…!
ゴスッ! メシャッ! グシャ! トロ〜…
ドドドドドドドドドドド…ばふっ
やることやって、女性は改めて布団にくるまった。それと同時にタイミングよく扉が開き、1人の老人が様子を伺う。
「目が覚めたかね」
「あ、はい。でも、私は同族ではないと常々考えています」
「…なんの話かね」
部屋に入ってきた老人―― フクベ・ジンは首を傾げるばかりだ。
「何も覚えていない?」
「……はい」
事の事情を聞いたが、帰ってきた答えは至ってシンプルなものだった。そのまま女性は俯き、口を閉ざす。
フクベは暫く女性を見つめていたが、何かを決意したのか、再び話し掛けた。
「そうじゃな…ならば記憶が戻るまでここに居るといい」
驚きの表情でフクベの顔見やる女性。だが、次の瞬間にはまたも塞ぎ込んでしまう。
「でも、ご迷惑をお掛けするわけには…」
「なぁに、ここは孤児院じゃ。迷い子がいるのならば、喜んで迎え入れるのが孤児院の醍醐味じゃよ」
「はぁ?」
よくわからない理屈を述べられ、固まってしまう女性。だが、フクベが笑いかけたと同時に女性も噴き出していた。
この時、女性―― レンナは、新しい家族を手に入れた。
勿論、これが不幸の始まりだと本人は全く気付いていない。
「ギガショック! また、死人か。なんだ、ここはどこぞの温泉宿か…?」
わけのわからない言動を放つ謎の青年ことアキトは、土に埋まりながらナノマシンによって、たい肥にされかけていた。
「…いいお話だねぇ、チーン」
すんすん泣きつつ、ハンカチで目頭を押さえるユキナ。だが、周囲の反応はかなり冷めていた。
「ふ…もう過去のことよ…」
「あったか? そんなこと」
「あきとおにーちゃん全然変わってない。それとユキナ、おばさんクサイ」
「…何故だろう。げんなり感が私を襲ってる」
ユキナはこのメンツの前で涙したことに激しい後悔をした。
そんなユキナを放って置き、レンナは昔をただ懐かしむ。その目は遥か遠くを見つめているようだ。
「そう、そうだったのよね…この後、私に名前をくれたのもお爺ちゃんだった」
「ベン師匠。アンタの決断は全て正しいかと思っていたが、この時だけはさすがのオレも首を傾げたぞ。
待てよ……そうか! もしやあれは死ぬ気の選択!? そうだったのか…そこまで考えているとは、恐れ入った」
「やかましい。はい、それロン」
「……………………ふ、ふふふ」
突然含み笑いを始めたアキトは、自らの背中にダーク色の物理的には触れることの出来ない何かを背負った。
その異様な雰囲気に、3人は飲まれそうになる。
「な、なに?」
「アキト?」
「あきとおにーちゃん?」
「ついにオレの真の姿を明かす時が来たか!」
「レン、次はー?」
「じゃあ、これで」
騒ぐアキトを無視して、レンナが掴む牌には、また別の光景が映し出されていた。
「折角の前フリが台無しだチキショー!!!!」
「あきとおにーちゃん、次回に持ち越しということで」
とりあえず、フォローに回るラピスだった。
【いろんな方向性で疲れました。どうか捜さないでください。捜されると、逃げたくなる衝動が沸いてきます】
レンナが孤児院に迎えられてから数ヶ月後のある朝、机の上には一切れのメモ用紙が置かれていた。
そこにある一文は、何故か書き殴ったように凄い筆圧で記されている。
「このご時世に家出かい!」
「アキト…」
「その眼は何だベン師匠、まさか疑ってるのか?」
「あれほど奇行の目立つ真似はよせと…」
「まあ、たまたま怒髪天ついちゃうのは何時ものことだけどな」
「やはりお前が原因か。探して来い、今すぐ」
家出してしまったレンナを探しに、アキトはしぶしぶ孤児院を後にする。
しかしその数分後、レンナが裏庭で洗濯物を干しているところをフクベに発見された。
「…アキトはどうした?」
「え? アキト? 居たかな、そんな奴」
「……」
その頃、アキトは――。
「そう言うわけで、インフレ姉さんに恥を忍んでご一緒願ったわけです」
「アキト君。そんな私達が道に迷っているという事実をどう受け止める?」
「大丈夫。この世界の全ては『釜玉うどん』で語ることが可能といっても過言ではないから」
「過言もいいとこね」
アキトとイネスが無事に孤児院に帰りついたのは、それから10日後のことだった。
また、あの置手紙はというと――。
「あーあれ。シャレ」
「結局そんなオチかよ!」
孤児院は今日も平和そのものだ。
「…楽しそうだね」
「うん、楽しそう」
「あそこに居る当人は大変なのよ」
「「でも、やっぱりアキトは変わってない」」
「ホノトね。成長してないんでしょ」
「やかましい! だから貴様らはフィジカルさが足りないと陰口を叩かれるんだ!」
「そんなことより…あきとおにーちゃん、頑張らないとそろそろハコだよ」
哀れみの目を自分の兄に向けるラピス。どうやら、負けっぱなしの兄に同情の念を抱いたようだ。
ラピスの一言によりアキトは何かに気付いたのか、全てを跳ね飛ばし、内なる力を燃焼させ始めた。
「なに? オ、オレが、負ける…? 大往生!? 閉鎖!? 完結!? 終了!? フィニッシュ!?
アディオス・アミーゴ!? み、見せもんじゃねえぞ、散れ散れ!!」
「でさ」
「無視か!」
しかし、ユキナの無視っぷりのお陰で空回りに終わったようだ。
「どうかしたのユキナちゃん」
「麻雀を延々とやり続けてるのはいいんだけど、これって何時 終わるの?」
「ユキナ、時々的を得たこと言う」
「ラ〜ピ〜ス〜?」
「訂正、たまに」
とりあえず『ペチッ』っと、しっぺでお仕置きするユキナだった。
「ま、普通なら誰かが負ければ出られるんじゃない?」
「誰かが?」
「そう誰かが」
そう言い、揃ってガックリとうな垂れているアキトを見やる3人。
目線に気付いたアキトは、ソレを振り払うかのように声を荒げた。
「な、なんだその目は! オレの快進撃はこっから始まるんだぞ! この愚か者ども!」
「それは負け役のセリフだよあきとおにーちゃん」
「今までのは練習!」
「それも同じ」
「オレの本気はこっからだ!」
「同じく」
「生きて帰ってこれたら、お前に伝えたいことがあるんだ」
「それは死にフラグ」
アキトのネタ倉庫は尽きてしまったようだ。
「結局、アキトの負けは決定的というわけね」
「おまけで、負けた奴はここから出られないとかね」
「あーよくあるね、そのパターン」
『アハハハ』と笑いあうレンナとユキナだが、どことなく乾いた笑いになっていた。
「じゃ、続きね」
「うん」
「…2人共、目がマジになってる」
「ラピスちゃん、それは気のせいよ」
「そうそう」
「…わかった」
引きつった笑みを浮かべる2人を見ないようにして頷くラピス。アキトも拭いきれぬ不安感を背負い、卓についた。
「じゃ、次は…アキトが親ね」
「――! っしゃぁ! やはり天はオレを見放さなかった!」
バシッと勢いよく牌を捨てるアキト。だが、彼の勢いはここで終わることになる。
「アキト、それロン」
「あきとおにーちゃん、ロン」
「あ、ロンだ」
「そんな…文子ー!!」
「「誰ー!?」」
「牌の名だ。くそぅ…『ルドルフ』、『ライラ』、『ジョセフ』に続いて『文子』まで! ま、一番のお気に入りの『お七』が無事だっただけでも良しとするか」
「「全部につけたのー!?」」
「あきとおにーちゃんって、結構記憶力抜群?」
ツッコミどころ満載だった。
「ま、まあいいや。じゃ、最後の締めにコレでも見てみるか」
アキトの文子と名付けた牌を拾い上げ、覗き込む。
そこでは―――。
「ふ〜スッキリスッキリやね〜」
「〜♪」
満足げに手を拭き拭きしながら歩くメイとミコトの謎姉弟。
おそらくトイレから帰ってきたと思われるが、この遺跡のどこにそのような施設があるのかは一切不明だ。
2人が満足げに演算ユニットが置かれている場所へ辿り着くと、そこは数分前とはかけ離れた光景が広がっていた。
「な、なんやのこれ〜〜〜〜!!!!!?」
「…!」
2人が見たもの、ソレを見れば誰であろうと叫ばずにはいられないだろう。
例の北辰ロボが、ものの見事に地面に突き刺さっていたのだから。
「あら、お帰り」
「お、お帰りやあらへんよ! 何をのん気にビーカーでお茶すすってんのやアンタは!」
「失礼ね、よく見なさい。これは三角フラスコよ。それにほら、こういうのって科学者としての嗜みだと思わない?」
「今は関係ないやろソレ! んなことより、いったい何があったんや!?」
手をバタバタ振りながら、イネスに説明を求めるメイ。ミコトはといえば、呆然と謎の建造物を眺めている。
「じゃあ、説明するわね。上でやってたドンパチの流れ弾というか、本命が落っこちてきて演算ユニットが、こうプチッと」
「プチッと〜〜〜〜!? うああああああああ! ど、どないする気やこれ〜〜〜!!」
頭を抱え、その辺をバタバタと走り回りながら混乱するメイ。
「子供は元気ね…あら、試験管で飲むお茶も美味しい♪」
優雅にお茶をすするイネスは、慈母の眼差しで2人のお子様を見つめていた。
「ど、どないしよ〜〜! タイムパラドックスが起きてまうやないか〜……ん? そういえば潰れたのに、ウチらまだ…はて?」
疑問顔のままその場で立ち止まり、考え込むメイ。しかし、それがこの子にとっての不幸であった。
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…
どこからか、風が吹き抜ける音が聞こえる。
それはどんどん大きくなり、不思議に思ったメイがふと上空を見上げると、その正体が判明した。
「にゅおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ドズゥゥゥゥゥン!
北辰ロボとは別の物体が、自由落下そのままにメイのすぐ近くに落下。
しかし、吹き飛ばされたメイは、ミコトが無事キャッチしてくれたおかげで事なきを得た。
「お茶会は終わりね」
「の、のん気やな…いったい今度はなんや〜?」
「…」
ホコリだらけになった3人は、降ってきた物体に視線を向ける。
そこにはお約束の如く、ナデシコがいい具合に刺さっていた。
『………………………』
揃いも揃って、メンバーは困り果てていた。
外では、双方とも多大な被害を被った地球軍と木連軍が、未だににらみ合いを続けている。
あの後、どうにかナデシコから脱出を果たしたクルーらは、イネスの説明により現状を把握。
元々演算ユニットと融合する為に造られた装置が北辰ロボに詰まれていた為、押し潰した瞬間、融合を果たしてしまったのではないか、との事。
タイムパラドックスは免れたが、肝心の演算ユニット自体が北辰ロボに同化してしまったのだ。
そこまでは良かった。
だが―――。
「あ、おかーちゃんのたーめなーら、エーンヤコーラ」
『エーンヤコーラ』
独特の掛け声と共に『カツーン、カツーン』と金属音が鳴り響く。
「…あんなので、どうにかなるの?」
「何事もやってみないとわかりませんよ」
エリナの疑問に、ユリカは満面の笑みで答えた。
2人の目線の先では、ウリバタケを筆頭に、ナデシコクルーとネルガルの社員が一斉にツルハシを振り下ろしている。
そして、少しづつ削られていくのは、その巨体を遺跡の中心に収める北辰ロボ。
更に、その北辰ロボの腕部には何故かアキトのエステも半分融合したような形で巻き込まれていた。
「でも、どーして立ち往生? もしかして合体事故でも起きたのかな?」
ユリカの呟きが全員の心の呟きとシンクロしていたことは言うまでもない。
「アキト様〜聞こえますか〜?」
「ユキナちゃ〜ん、ラピスちゃ〜ん、レンナちゃ〜ん、生きてる〜?」
カグヤやミナトが叫び続けるが全く反応が無い。
こんな調子が先程から続き、誰1人として打開策を見出せないでいた。
「仕方ないわね。私も協力するわ」
痺れを切らしたのか、エリナは北辰ロボに歩み寄り、懐から謎の塊を取り出す。
それを見ていたイネスは、頭ではわかっていながらもその考えを振り落とし、一抹の望みを託しエリナに疑問をぶつけた。
「エリナ、ソレって…」
「ん? プラスチック爆弾よ。決まってるじゃない」
「やっぱりか。で、何がどう決まってるのかしら」
「プラスチック爆弾は爆発する為に存在してるよ。そんなことも知らないの?」
「いや、そういうことじゃなくて」
イネスが何かを伝えようと奮闘するが、今のエリナには何を言っても無駄のようだ。
「あはは、エリナさんも危険物指定しなきゃダメかな〜」
「ユリカ、笑い事じゃないよ」
なんともナデシコらしい、和やかな雰囲気が漂っていた。
「なに、これ?」
「突貫工事」
「アキト、それ見たまんま」
「じゃ、破壊工作」
「それはエリナだけ」
4人は揃って、首を傾げた。
牌が映し出す光景は、まさしく自分達が居た世界そのものだったからだ。
「どうすんだよおい。一刻も早くなんとかしないと…」
「なんとかしないと?」
「プリティーさとセクシーさを売りにしているオレの相棒、ジャガバターのサント君が肥満体質に…」
「ホントどうしようか。アキトが負けたのに全然周りに変化ないし」
「う〜ん、レンのツッコミランチャーで破壊するのもアリかなー」
「ユキナ、過激」
「………もう、慣れたよ」
アキトは慣れたくない慣れを取得してしまった。
「ったく、困った時には呼べと何度も言っているだろう、アキトよ」
「おっ、オヤジ!? 自分に似合う戦闘用エプロンドレスを買うと言って家を出てから早幾年月、今までどこに行っていたんだ!?」
「ああ、近所の仕立て屋の筈がちょっと足を伸ばしたら、うっかり成層圏を抜け出していてな」
「「「え〜と…?」」」
突然現れたアキト父に戸惑いを隠せない一同。
話の内容にも疑問は盛り沢山だが、ツッコミどころか多すぎるためか、誰も2人の会話を止めに入らなかった。
「アキト、細かいことは抜きにしてコレを使え」
アキト父は話もそこそこに、懐からあるものを取り出し、アキトに手渡した。
「こ、これは…ドリル?」
「正しい漢の装備だからな」
「浪漫ってやつか」
「定番だろ?」
「「「なんの定番?」」」
突っ込まずにはいられない女性陣。
しかし、そんなツッコミを完全にスルーし、アキトは虚空を見つめ、両手でドリルを握りしめる。
次の瞬間、アキトは両目をカッと見開き、地面を掘り始めた。
「「なんの為に上 見てたー!?」」
「あきとおにーちゃんらしいといえばらしい」
「さすがは俺の息子。世間一般の常識をくつがえす、そんなお前のセンスには脱帽だ」
一方のアキトは、ツッコミなど完全無視で地面をひたすら掘る。
頑張れば、温泉の1つでも出てきそうな勢いだ。
「はぁい、イネスちゃん」
「ひ、ひやああああぁぁぁぁ!? テ、テンカワ博士ー!?」
前置きなしのアキト母の登場に、一番のリアクションを見せたのは、なんとイネス。
その狼狽っぷりは、いつもの沈着冷静さなどカケラも無い。
「イネスちゃん。お久しぶりね」
「は、はい! お久しぶりです! お元気そうで何よりでございます!」
「そうねぇ…イネスちゃんもすっかり大人になっちゃって。しかもこんなに綺麗に…嬉しいわ〜」
「いえいえいえいえいえいえいえいえいえ、とととっ、とんでもない! テ、テンカワ博士こそ、ますますお綺麗になられて!」
「あら、お世辞なんて言わなくてもいいのよ?」
「お世辞等ではありません!」
「あらあら」
微笑みながらも、満更ではない表情をするアキト母。イネスのお世辞の連射はまだまだ続きそうだ。
「…ユリカさん。アキト様の母親って何者様ですの?」
「聞かないで。危険が危ない」
「そう、あの方も有害物指定なのね」
「カグヤ様!? 今ので理解できたんですか!?」
エマを始め、カグヤガールズは最近のカグヤの変貌っぷりに驚きを隠せない。
カオルとリサコに至っては、声をすら発することが出来ないようだ。
「賑やかですね…それでカズマさん。アキトさん達は無事に出てこれるんですよね?」
「大丈夫だろ。テンカワ博士が危険を承知で、用途不明の装置を使って中に突入したからな。
それにほら、よく言うだろ? 諸刃の剣は呪いの代名詞って」
「…とーちゃん、意味わからん上に例えが不適切や」
「…」(コク)
「やれやれね」
溜息1つ。アクアが北辰ロボを見上げた次の瞬間、アクアの足元に1つの穴が空いた。
それに気付く間もなく、そこから人間の頭がモグラよろしくと言わんばかりの勢いで飛び出た。
「よーし、到着ー…むぅ? 無事に地上へ出たかと思ったんだが…暗いな。夜か…?」
ふと、アキトが上を見上げる。
そこに広がるのは、これこそまさにユートピア。
「……………ファイナルインパクト!!!!!」
この時、アキトの脳内では前人未到の大惨事が起きていた。
「火星丼が…火星丼が…カッセイドーン!!!」
「うーるーさーい」
ガドッ!
ユキナの情け容赦ないボディーブローにより、謎のシャウトを決めていたアキトは一瞬で沈黙。
血溜まりの海へとダイブだ。
「アキト、正気に戻った?」
「…ホホホ…おたわむれを」
途端、内股をモジモジさせて、右手で口を押さえつつ優雅に微笑む。
もはや、キャラが掴めていない。
「ダメ、まだイっちゃってる」
「アキトさん、そんなに私のってデンジャーですか?」
「アクアさ〜ん…ややこしいからちょっと離れててね〜」
アキトと同じく、ダメなエリアに突入してしまったアクアの背中をエッチラオッチラといった風に押し、壁際に置いておく。
たまたま通りすがった整備員が、何故かマウスピースを口から吐き出しながら吹っ飛んだのはここだけの話。
「ほらアキト。さっさと元に戻らないと、また置いてけぼりにされるよ?」
「あれだ。きっと上からの圧力が…」
「どこの圧力? 鍋?」
ラピスは本気でわかっていない。アキトはアキトで、もう訳がわからなくなっている。
「ぶっ飛んだ言い訳しないでよアキト。でも、ラピスもだんだんアキトに似てきたね。うんうん」
ラピスの成長に親レベルで嬉しがるユキナ。例えその成長が変な方向だとしても。
「あ〜もしもし?」
「ん? 客か? 誰だ、こんな時間に。おう、新聞の勧誘とかだったら貰うもの貰っといて追い払え」
「は〜い」
「よし………って、なにぃ!? ツッコミなしでノリやがった。オイオイオイ、何事だ!?」
「あきとおにーちゃん落ち着いて。きっとユキナの近所では結構盛んだったのかもしれないよ?」
「凄いご近所付き合いだな…」
「あ〜いい加減、お茶の間ミニコントはその辺にして、コッチを放置するの止めてくれんか?」
「「「癖でつい」」」
良いトリオになっているアキト、ユキナ、ラピスだった。
だがそのトリオも、そこに佇む人物を目撃した途端『あ』という声と共に、円陣を組んだ。
「なあ…」
「うん」
「えっと…」
『誰だっけ?』
ゴスッと近くの壁に頭をぶつけ、ズッコケを敢行。謎の人はかなり痛そうだ。
「う〜ん…あ! そ、そうか! あ、あなたは…」
「思い出したか!」
「毎朝ウチの庭まで掃除してくれた、生き別れの兄さん!?」
「不正解」
『ブー』という音を出し、『×』の札を出す。後、2回不正解だと失格なので答えは慎重に、だ。
「くっ…皆目見当がつかねぇ…」
「ね、ねえアキト」
「なんじゃい。もうボケてないぞオレは」
「うん。存在自体がボケだから気にしてないよ」
「…ラピII、今のはどういう意味だ?」
「…」
「目を逸らすな! 暴力には屈しないオレでも、精神攻撃にはめっぽう弱いと定評があるんだぞ!」
「目と目とを合わせて始まる恋の予感。 ロマンスはこれからだからの」
「そうそう…って、何を言わしますか、ベン師匠! って、ああ! ベン師匠だ! 思い出した!」
「やっとか、アキトよ」
「いえ、本当は気付いていました。ほら、敵を欺くためにはまず味方からって言うじゃないですか」
「何故に欺くのかの? 意味があるのか? ソレ役立つのか? コラ、聞け」
「細かいことは気にしない方向で。それで、どうしてここに?」
「だってのぅ、いつまで経っても呼ばれんし、寂しかったんじゃよ」
床に『の』の字を書きながらイジイジするベン師匠ことフクベ。
回想だけでは物足りなかったようだ。
「で、すっかり放置されていた天国に最も近い男と囁かれるベン師匠。いったい何用で?」
「何用もなにも、レンがいろいろと騒動を起こしたのじゃろう? 気になっての」
「ほら見ろ、言わんこっちゃない! やっぱりヤツは抹殺…!」
「アキトうるさい。ラピス黙らせて」
「鉄球〜」
ドゴッ
アキトはまたも血の海に沈んだ。
「すいません。ウチのバカがバカで」
「いやいや、もう知っとるし、気にせんよ。さて、いい加減、本題に入るかの」
「話の切替えが唐突だね、フクベさん」
「ちょっとレンのヤツのところまで、連れていってくれるか?」
「「え?」」
ユキナとラピスは一瞬戸惑いの表情を見せたが、それも束の間の事。2人は頷き、ナデシコへと歩き出す。
しかし、長い眉と髭に隠れ、フクベの表情を読み取る事は出来なかった。
「しのぎを削り、ここまで来たよ、ジョセフ…」
その時アキトは、鉄球の下敷きになったまま魂を離脱させる方法を身につけ始めていた。
「あれ? ここは…?」
気が付くと、レンナはベッドの上にいた。
真っ白なシーツを跳ね除け身をよじると、ベッドの脇にあるイスに見知った人物がこちらを見ていることに気付く。
「プロス先生…」
「レンナさん、お身体の加減はいかがですか?」
「はい、なんとも…ってことは、やっぱりここはナデシコ?」
「覚えてませんか? アナタはテンカワさん達と穴を掘って脱出してきたんですよ?」
プロスの言葉を聞き、暫く考え込むレンナ。
「なんか、アキトが絶叫して、私達の方へ転がり落ちてきたところまでは覚えてるんですけどね…」
「ハハハ…まあいいでしょう。それで? 野望を達成した気分はどうですか?」
「へ? ヤボウ?」
プロスが窓際に立ち、外を見る。そこでは鉄球に押し潰され、むごたらしい惨劇を繰り広げ中のアキトの姿があった。
その横では、何故かアクアがクネっている。
「おめでとうレンナさん。貴女の勝利です」
「はい、ありがとうございます。でも、きっと不戦勝だと思います」
ガシッと握手を交わし、勝利の余韻に浸る。
勿論、アキトから魂が抜け出し、ユリカとカグヤが必死になってソレを押し込めようとしている姿など、彼女の目に留まる事などなかった。
「お、ねーちゃん目覚めたんかー」
「…」
「言ったでしょ? 気を失っているだけだって」
見舞い用の花束を抱え、メイとミコト、そしてイネスが医務室に入ってくる。
3人を見たレンナは、どことなく不機嫌そうな顔を作ったかと思うと、そっぽをを向いてしまう。
「あら、どうしたのレンナちゃん」
「別に、どうもしません」
「もしかして、昔のことかー?」
「……」
無言でメイを睨みつける。
あんなことが無かったら、この場にはいなかったのかもしれない。そう考えると、レンナは複雑な心境だった。
「懐かしいなぁ、ウチらもあの選手権には客としてその場に居たんや。いや〜今、思い出してもラストの歌合戦は見物やったなぁ」
「それは…さぞ、凄かったんでしょうね」
嫌な想像がイネスの中で膨らんでいく。横でプロスも苦笑いをしている。
「レンナ姉ちゃんもなぁ、あん時は歌姫なんて言われてたんやけど…」
「待って」
「待ってください」
思わず待ったをかけるイネスとプロス。差し出された手に、ミコトが何故かポケットティッシュを置いていた。
そんな2人の無視し、メイは話を続ける。
「ジャンプの影響やろか。こっちに来たら、声の質が変わって今じゃあ…よよよ…」
((よくわからないけど、運命を恨むぞ、神!))
2人は、この時ほど神を恨んだ事は無いと後に語った。
「ま、まあいいわ。結局、アナタ達って何者なの? 詳しいところまでは、まだ聞かせてもらってないわよね」
「ん〜? ねーちゃん、どうする?」
「…好きにしたら?」
ソッポをむいたまま、レンナはぶっきらぼうに答える。
メイはそんな事をまったく気にせず、事の顛末を語りだした。
「レンナねーちゃん、そしてウチとミコトはな、この時代の人間じゃないんよ。ジャンプを使ってな、ある目的の為にここに来たんや」
「確か、その目的っていうのが、レンナちゃんと演算ユニットを融合させるってことなのよね」
メイの話に合の手を入れるのはイネス。どうにも、自分の知っている情報があると、同じように説明したくて堪らないようだ。
「そう。ウチらの時代ではな、やっぱりこの演算ユニットを巡って戦争が起きたんや。まー戦争って言うても、人の生き死には無いんやけどな。
ま、それでも戦争なんてもんはさっさと終わらせたいからな。一部の人間達が集まって考えたんや。
時間を越えて、遺跡の制御を行えば歴史も変わるやろ………というのは建前で」
「「「へ?」」」
珍しく真面目な話だったのに、突然話の腰を折られて、間抜けな声を出してしまうイネス、プロス、そしてレンナ。
「ホントのところはな、レンナ姉ちゃんがちょっとやらかしたことがあってなぁ。それの責任を取らされるという事でここに送還されたんよ」
「そ、送還? レンナちゃんはいったい何をやったの?」
「それはウチの口からはちょっと…」
(何をやらかしたー!?)
思わず、無言でレンナにツッコミを入れてしまうイネス。勿論、当人であるレンナも戸惑いを隠せない。
「ななななななによそれ!? 私、そんな事知らないし、変なことなんて全然してないわよ!?」
「しらばっくれるんか〜? ほら、選手権の前の日、ねーちゃんどこに居た?」
「え…? 確か自宅…」
「ホンマに〜?」
「そんな事言われても…いや、待てよ…確か…」
記憶の糸を手繰りよせ、何かを思い出そうと必死になる。
だが、それに待ったをかけた人物が居た。
「もういいじゃありませんか」
「…プロス先生」
「過去に何があろうと、今は今。何も変わりませんよ」
「でも、私の身体は…」
「そんな事は関係ありません。それにレンナさんは、ここでこうして生きている。それだけでいいじゃないですか」
「先生…」
プロスの言葉にメイ、イネスは言葉を紡ぎ、見詰め合う2人を眺めていた。
プロスはニコニコと笑うだけだが、少なくともレンナにとってその笑顔は、とても暖かく感じられているようだ。
「なんや、このいつになくシリアスっちゅーか、ラヴラヴな展開は」
「…メイちゃん、雰囲気をぶち壊すような発言は今は控えて。話したいことがあるのなら、私が聞くから。
でもまあ、良かったわ。まったく、先に生まれると書いて先生とはよく言ったものね」
2人の世界に突入したレンナとプロスをおいて置き、説明好きと話し好きが対面する形になった。
何気にお茶を炒れるミコトは、ただ聞き手に回るだけだ。そこへ、タイミングよく足を踏み入れる人影があった。
「そうじゃのう。レンの奴もとりあえず落ち着いたようじゃし、ワシも戦争の原因になったアレについて聞かせてもらいたいものじゃな」
「フクベ提督…いらしてたんですか」
「ほっほっほ。アキト居るところフクベ・ジンありじゃよ。ささ、そんなことより、話の続きじゃ」
「はぁ…じゃあメイちゃん、そもそも、あの演算ユニットが不安定っていうのはどういうことなの? 今まででも十分に使ってこれたみたいだけど?」
「あ〜ボソンジャンプってな、制御しないで使うと何かを失ってしまうんよ。様々なモノをジャンプさせるんや。
当然、膨大な演算処理が必要になるやろ? ろくに制御もせんとつこうたら、そりゃあ誤送信も起きてまう事必然や」
「何かを失う?」
「それは記憶であったり、身体の一部であったり、時間であったり様々や。
レンナねーちゃんは、過去へのジャンプで記憶(と良い声)を失った。
木連の連中は、跳躍を繰り返すたびに大事な仲間を次々と失った。
ナデシコの連中やって、8ヶ月の時間を失ったやろ?
それに、うち等も例外やない。ミコトは声を失ったし、ウチもあるモノを失った。
ま、きっかけがあれば戻る物もあるけどな。レンナねーちゃんの記憶みたいに。
ジャンプは禁忌なんや。どんだけ人が上り詰めようとも、神様に近づきすぎたら天罰が下るんや…と、どっかの科学者が鼻高々に言っとった」
「それはつまり二次災害発動ということ?」
メイは笑いながらイネスの言いえて妙な発言に頷く。
「ちなみに、アキト兄ちゃんがジャンプした時には、『運』が取られてたみたいやな」
「ほぉ…ちなみに残存数はどれくらいかのぅ」
「ユリカ姉ちゃんの場合は、『婚期』が遠ざかっとる」
「まあ大変」
「全然大変そうに聞こえんな。後、レンナ姉ちゃんの場合は、『巡り合わせ』がとことん悪くなっとる」
「本人にとっては、身に覚えがあり過ぎるじゃのうなぁ」
「な? 危険やろ?」
「「確かに」」
大いに頷く2人。特にイネスは自分自信もボソンジャンプを使っている為、真剣そのものだ。
そんなイネスだが、ある疑問をぶつけた。
「…ちなみに聞くけど、それって本当のことなの?」
「嘘に決まっとるやろ。嘘も方便ってな〜♪ こうでも言っとけば、使う気も失せるやろ? まあ、制御せんと危険なのは間違いないけどな」
「やれやれじゃのぅ。結局なにもわからんかったか」
「まあいいじゃないですか。そうそう、そういえばミコト君って、あなたの言ったとおり全然喋らないわよね。これはやっぱり真実?」
「……」
イスに座りながら、ミルクティーをかき混ぜるミコトを見据える。
ミコトはただ無言のまま見返すだけ。
「いや、無口なだけや」
「……」(コクコク)
「それだけ?」
「今まで生きてきた人生の中でミコトの声を聞いたのは2回くらいやな」
「無口にも程があるわよ」
「ミコトのキュートな声が出たもんなら、脳髄直撃のアタックをかけられて大変なことになるで?」
「意味不明よそれ」
イネスはもう突っ込む気力が無い。
「先生…」
「はいはい」
そんなことを全く無視した世界が、お隣で繰り広げられていた。
「え〜、なんやかんやとウヤムヤの内に事件解決の運びとなりました」
パンパンと手を打ち鳴らし、注目させたところで話を切り出したのはユリカ。
無事作業を終え、ひと段落していた所だったので、誰もが振り向く。
ユリカの背後には、重臣のようにジュンとカグヤが佇んでいた。
「外では相変わらず地球軍と木連軍がドンパチやってますが、両軍とも被害が甚大な為、決着は付かないでしょう」
「ワタクシ達が今ここですべき事は1つ。遺跡を誰の手にも渡さない事ですわ」
あれから、ユリカ、カグヤ、ジュン、エリナ、プロスらでこの北辰ロボ(演算ユニット)をどうするかで議論が繰り広げられた。
結果、ユリカの『どっちにしろ持ち出さないと、両軍のどちらかに盗られちゃいますよね?』という発言が効き、ナデシコでどうにかしようという事に。
しかし、ここで問題が浮上した。それは―――。
「ここでアンケートを取りたいと思います」
『アンケート?』
クルーらは揃って疑問の声を投げかけた。
「はい。ついさっき気が付いたのですが、ここは地球軍も木連も介入できない私達だけの場。一種の治外法権地帯!
ならば、コレをどうするかを私達の独断と偏見で決めちゃうのがセオリーってもんです。
そんな訳でアンケートを取ってコレの使い道を決めます。誰か良い案はありませんか?」
コレとは勿論、背後にそびえる、世界にあってはならないランクNo1の物体、北辰ロボ。
思案する一同の中で、真っ先に挙手したのはエリナだ。
「やっぱりここは、ネルガルが預かって、後生大事に扱う…」
『却下』
全員一致の否定に、エリナは怒りもあらわに隣でウンウン唸っていた包帯だらけのアカツキをゲシゲシ蹴りまくる。
熱線にやられても生きている辺り、さすがはネルガルの会長といえよう。
「他にある人〜」
ユリカがそう言うと、次々と案が飛び出す。
曰く。
『放置する』
『埋める』
『溶かして再利用』
『砕いて肥料にする』
『平和記念として、どこかに寄付する』
『絶対神として奉り、宗教を起こす』
などなど、様々な案が飛び交うが決定的なものは無かった。
そんな中、1つの案が飛び出した。
「宇宙の彼方に飛ばして、外宇宙へのメッセージにする。…なんてどうでしょ?」
その案に一同は――。
『駄目だろ』
やっぱり却下した。
「あれが私達からのメッセージとして受け取られるのは、さすがに侵害と言うか、屈辱的と言うか…」
「そうですかねぇ、僕としてはイイ線いってると思うんですが」
「そうかぁ? …つーかよ、オメエ誰だ?」
今頃気付いたのか、見知らぬ人物に質問をぶつけるリョーコ。その事に同意するかのように周りのクルーも頷く。
どうやら、誰1人として、その存在に気付いていなかったようだ。
「僕ですか? では、すぅぅ〜…」
謎の人物は、突然息を吸い込みながら謎の構えを繰り出し、自らのオーラを極限まで高め始めた。
周囲の人々は『ゴクッ…』と固唾を飲み、見守る。
「よろしく」
『なんなんだー!?』
スッと紳士的に右手を差し出す。さっきの前振りは無かったことにしたらしい。
「え〜と、改めて自己紹介しますね。僕は木連の唯一にして最も優秀でマッドな…」
「唯一だったら、優秀もなにもねえだろ」
「しかも自分でマッドなんて言う〜?」
ポロン♪
「で、その正体は、白い衣装からして給食当番と見たり〜」
「マッドな給食当番ってなんですか?」
「分け前を均一にしない」
『ショボっ』
自分の台詞さえぎられ、どうしようかとウンウン唸りながら悩んでしまう謎の人物。
そんな謎の人物に近づく、1つの人影があった。
ドゲッ!
「こんなとこで何してんのよ山崎」
最近、挨拶が過激になったレンナは、とりあえず蹴っておくことにしたようだ。
また、ラヴラヴはひとまず中断したらしい。
「やあ、レンナさん。元気でしたか?」
「どこ見て言ってんのよ」
蹴りで首が真後ろを向いた山崎は、手をシュタッと上げながら後ろに居たゴートの厚い胸板に挨拶をしていた。
当のゴートは何故か胸を両手で覆い、頬を赤らめている。
「アハハハ、とにかく心配しましたよ〜」
「笑うのは結構だけど、首の位置が180度変わってるわよ」
変な汗を流しつつ、山崎にツッコミ入れるレンナ。
今の山崎ならば、確実に背中をとられる心配は無いだろう。
「だいたい今更心配するなんて、どのツラ下げて言えるのかしらね、まったく」
「こんなツラですよ」
「首を元に戻してから喋りなさいよ! ホラー映画のワンシーンじゃないのよ!?」
ちょっとビビリながら山崎を『シッシッ』と手で追っ払う。
何が楽しいのか、山崎はレンナの後を追いかけていた。
「山崎博士、頑張れば飛行形態に変形できるかもな」
「…もう人間じゃないやん、ソレ。なんや、サイボーグ戦士か。しかも実写版か?」
「…」
カズマはどことなく羨ましそうに首が曲がっている山崎を傍観し、メイとミコトは『飛行形態山崎博士』を想像していた。
その先では、追いかけっこに飽きた2人が再び対面し、言い争いを再開。
他のクルーたちは、ただ遠くからポップコーン片手に見ているだけだ。
「なにはともあれ、止まって良かった良かった。暴走した北辰さんに乗ったまま世界を滅ぼしかねない勢いでしたからね〜」
「誰のせいだ誰の」
「いや〜本当に ビックリしましたよ。ふと気が付いたら、私の手元に制御用のチップがあるんですからね〜。参った、参った」
「迂闊にも程があるわ!」
「まあまあ。だからこそ、その責任をとる為に参上したのですよ」
「いらん、帰れ」
スパッと切り捨て、ユリカ達の下へ行こうとする。そんなレンナの脚にすがり付き、山崎は懇談した。
「そんな無下に扱わないでくださいよ〜」
「やかましい! 離れろ! うああ!? スリスリするなぁっ!!」
ブンブン脚を振り回すが、山崎は離れまいとしぶとくしがみ付く。
やがて疲れてきたのか、とりあえず殴って昏倒させるというオチがついてしまった。
「じゃあそういう訳で、宇宙の果てに流すで決定しました〜」
『待て』
ユリカの暴走に待ったをかける一同。
反対していた筆頭が、突然手の平を返したので、戸惑いは大きい。
「艦長、さっきまで反対してたのに、な〜んでそうなるのぉ?」
「そうですよ。訳を言ってください、訳を」
「また、気まぐれですか?」
ユリカを攻め立てるようにズズイッと迫るミナト、メグミ、ルリのブリッジ3人娘と他多数。
一同を見据え、ユリカは一言だけ言い放った。
「だって、目に見えないところに捨てたいと思いません、アレ」
そう言い、アレこと北辰ロボを見上げるユリカ。
クルーは一斉に静まり返り、暫くして同意する声がアチコチから上がリはじめた。
全員の心は今、『捨てよう』という一言に統一されている。
「それで? どうやってアレを漂流させるんだ?」
「やっぱりここはキッカケとなった跳躍法を使うのが一番でしょう」
「なるほど。いい考えね」
「あの〜勝手に話進めないでくれますか〜?」
話がまとまった途端に算段を始めるカズマ、山崎、イネスの科学者トリオ。自分の役目を取られ、ユリカは不満げだ。
ちなみに山崎は、レンナに殴られたおかげで首が元通りになり、ごくごく普通の山崎博士になっている。
「まあまあ、どのみちココから脱出するにはジャンプを使うしかないわけだしな」
「上のドンパチに巻き込まれたくないでしょ?」
「はぁ…まあそうですが。でも、いろいろと心配なこともある訳ですし…」
「う〜ん…じゃあ、融合しちゃった北辰さんを番人として同行させますか。彼ならきっとやってくれます」
「本人、全力で納得してないと思いますけど?」
メグミが北辰ロボの頭部に埋まっているカプセルを見上げながら呟く。
しかし山崎は、そんなことをまったく気にせず、どこからともなくピンク色の物体を取り出した。
「大丈夫ですよ。寂しくないように、僕がいつも添い寝してる『フラミンゴのフ〜ちゃん』をあげますから」
「いや、そういう問題じゃないでしょ」
「ほ〜ら、アレがフ〜ちゃんの新しい下僕ですよ〜」
「…バカ?」
「これで北辰さんは伝説として永遠に語り継がれていくわけなんですね…」
ミナトやルリのツッコミを物ともせず、ホロリと涙しながら、半強制的に北辰ロボを宇宙の彼方へ飛び立たせようとする山崎。
その背中と北辰ロボを眺める他の面々は『伝説の詳細は語るまい』と心の中で誓っていた。
「わかりました。でも、このままじゃあ、あのトカゲさんも可哀想ですし、前祝いでもしてあげましょうか」
またも飛び出す、ユリカのただの思いつきか、考えあってのことか、どちらにせよはた迷惑な提案。
その言葉を耳にしたナデシコクルーは、目の輝きが1秒前とは全く異なっていた。
「つまりは宴会だな! よっし、酒樽もってこーい」
「あいよー」
「酒樽!? うわっ、デカ! なにこの巨大樽! なんでこんなもんが戦艦に!? ウリバタケさん、またアンタは!
しかもテンカワ! お前、さっきまで半分死んでたじゃないか! さては嘘か! 騙しか! 相変わらずだなコンチクショウ!」
ジュンは戸惑いながら怒っている。
「酒樽用のハンマー、準備よし」
「ラピスちゃん! 大きい! そのハンマー大きすぎ! 何気に100t と銘打ってあるのは仕様!? 実はアナタってパワフルキャラ!?」
イツキはちょっとした驚きと興味の狭間で揺れている。
「でっかい杯準備よし」
「いやユキナちゃん、番付が上がったわけじゃないんだから。ちょっ、カグヤ様!?
何故に飲み干す気満々ですか!? まさかアンタ酒好き!? しかも水のように、うわわ!? 火星に降り立ち早数時間…」
エマは、またもカグヤの知られざる真実を目の当たりにし、ポエムを口ずさみだす。
こうしてこの場は、酒の匂いが充満する『お子様はご遠慮願います』といった風の宴会場と化した。
「よし、イケニエを祭壇に捧ぐのだー!」
『オー』
「ほぉ、イケニエか。なかなか粋な計らいだな」
「こういう事に関してはスペシャリストよね、あの方達」
ウリバタケの号令と共に、整備班は荒縄を手にし、ある人物に襲い掛かった。
その光景を、アキト父と母は感心半分、おもしろ半分で眺めている。
「よし、捕獲!」
『イエッサー!』
一斉に捕獲に入る整備班とネルガル社員の混合部隊。
標的は酒樽を運んだせいで疲れきっていた為、いともあっさりと捕らえられた。
「なんだよイケニエって! どこの原住民だよお前等! ちっ、さりげに殺る気満々なだな!?
スモウレスラーのビデオとか見せて度肝抜いてやるぞ!
くそっ、この荒縄さえ解ければ…! 縄抜けの神よ、今こそ降臨したまえ!!」
暴れまくるが、アキトを蓑虫のように包む荒縄はしっかりと固定され、びくともしない。
アキトはそのまま仰々しく運ばれていき、宴の中心地に立てかけれられている。
更に、その足元には、包帯に包まった半ミイラ状態のガイと九十九、元一朗、三郎太。何気に回収されていたらしい。
ユリカも多少の酒が入ったのか、顔を赤くしながらケラケラと笑いながらアキトを見上げていた。
「あははははは! やっぱり、イケニエは新鮮でピチピチな方が喜ばれるよね! え〜続いてのモノマネは…」
「だから待て! 何故にオレを供物と一緒に捧げる!? そこの妙なキャラ付けした酔っ払い、返事しろコラ!
しかも何時の間にモノマネ合戦が始まってんだ!? 更に今出てきたの、特にこれと言った特徴もない、ネルガルの社員じゃねえか!
なんだ! ここぞとばかりに目立つ気か! 無駄な努力だぞおい!
うお!? コ、コラ、ベン子! 塩をかけるな! 塩焼きか!? 塩分ひかえめは基本だぞ!」
「ほら、ピチピチよユリカさん」
「これはジタバタ言うんじゃあぁぁ! そこまでこだわるなら、一応女性の貴様がこの大役を仰せつかれ!」
「嫌」
「一言か! チキショウ、ご無体にもほどがあるぞ!」
諦めのつかないアキトは、尚も騒ぎ続ける。
不憫に思ったのか、プロスがアキトに歩み寄り、微笑みを浮かべた。
「大丈夫、ここの飲み代は全てテンカワさん持ちにしておきますから」
「まてまて、そこの会計担当! そげな横暴が許されると!?」
「テンカワさんの言うとおり、会計担当ですから」
「さすがは先生」
レンナは憧れと要望の眼差しでプロスを見る。
当のプロスは、微笑みながら、ソロバンで宴会の代金計算を始めていた。
「ベン子! 貴様、さてはまだ怒ってるな! そうなんだな!? それにお前ら全員、オレでいろんなストレスを晴らそうとしてないか!?」
『さぁ〜?』
「しらばっくれるな! さては図星か! ちょっ、テメエら! さり気にオレの足元の薪の山に点火しようとするんじゃない! 本気で死ねるわ!
まさかこうやってオレの豊満な肉体を焦がした後に、コトコト煮込んで、オレの中に眠る旨み成分を取り出す気だな!?」
「じゃあ、そういうことでいいや」
「待って、ゴメン! オレが悪かった! だから、その紅蓮の炎を近づけないでくれたまえ!
くそう! ここは全てが集まる約束の場所じゃなかったのか!?
あ、ヤジン達がいつの間にか居なくなってる! オレだけ!? オレだけに苦行が訪れようとしている!?」
「知るか。それよりアキト、さっきから聞いてれば『ベン子』、『ベン子』と連呼してくれちゃって。
んん? この口が言ったのかな? この口が言ったのな? この口が言ったのなぁ〜?」
「熱い熱い熱い! 思わず声が裏返る! あえて例えるなら、取調べ室で向けられるライトの熱量!?」
アキトの発言など完全に無視し、レンナは問答無用で聖火のように火を薪に点火。あっという間に、炎がアキトの足元を包み込んだ。
「あじゃぁぁぁぁぁぁっ!? テ、テメエら! まさかマジか! まさか、このまま社会的に抹殺!?」
「安心して。この最新テクノロジーを詰め込んだ炎ならきっと…」
「なんだそれ!? この炎のどの辺に、テクノロジーなんてモダンなものが入ってるんだ!? しかもきっとなんだ!?」
「じゃあ、最後を見守る聖職者役として、ユキナちゃん、ラピスちゃんお願いします」
「「は〜い」」
「ユキナちゃんは巫女、ラピスちゃんはシスター。これぞ究極の和と洋のコラボレーション!」
「いらねえよそんなの! しかも、話を途中でぶった切るな! 先が気になるじゃねえか!」
「じゃあ続きね。きっと…燃え広がれば2秒で灰」
「知りたくなかった、そんな事実! 事件の鍵を握る人物は、真っ先に死ぬのが運命か! 人類愛という言葉は、もはや存在しないのか!?」
炎が勢いを増してきたところで、ユリカが楽しそうに命令した。
「よーし、じゃあトドメとして清めてくださーい」
「トドメ!? ホントはお前ら、どっかの組織の回しもんだろう! 知ってるんだぞ!!」
「はいはいわかったから落ち着いてアキト。ラピスいくよ〜。それっ、清めの水〜」
「聖水〜」
巫女服に身を包んだユキナと、シスター服に着せられているラピスがバケツに入った、清めの水、聖水とは名ばかりのただの水を大量に被せる。
火は消えたが、アキトは自らのエステと同じように半分コゲていた。
「それじゃあ、盛り上がってきたところで、そろそろ飛ばしますかー」
「いいですね〜じゃあ、やっちゃいましょ〜」
『オー』
「なっ、また!? 今度はどんな危険極まりない遊戯が繰り広げられるんだ!?」
ユリカとレンナは、火が消えるや否や、酔っ払い集団を召還しアキトを取り囲む。
そのまま胴上げをしながら、アキトを北辰ロボとドッキングした特別仕様のヒナギクに乗せる。勿論、コレをやったのは整備班班長に他ならない。
後は飛び立つのを待つばかりの体制となった。
「じゃあ、見届け役として、巫女ユキナとシスターラピスも同伴しまーす」
「します」
「はい、よろしくね2人とも〜」
ブンブン手を振り、アキト達に別れを告げるユリカ達。
「アキトー、私達はアナタを勇者として語り継ぐからねー!」
「いい! こんな事で語り継ぐな! そんなのトカゲのおっさんだけで十分だ!」
この時、カプセルの中で眠り続ける北辰も、夢の中で『我もだ…』と呟いたとか。
「アキト、ほらジャンプして。この変なロボがあればCCいらないみたいだから、気兼ねなく」
「あきとおにーちゃん、ほらほら」
「いや、こんな事実に直面して、なんでそうマイペースかねキミら!」
「いーから。ちょっと耳貸して。コショコショ…」
ユキナはアキトの耳を引っ張り、息を吹きかけるというフェイントをかました後、何事かを吹き込む。
それを聞いたアキトの顔は驚きに満ちていた。
「…………ハテナ、お前」
「ふふーん。ね?」
「いーだろう! よっし、行くぞ!」
「うん!」
「いこー」
「ただしジャンプ後、ハテナはひき肉になる可能性が高いので、即座に蘇生薬を使用するように!」
「ラジャ」
「へっ!? ちょっ、それどういう…」
「ジャーンプ!」
瞬間、アキト達の乗るヒナギクと北辰ロボは七色の光と共に消え去った。
後に残るのは、遺跡に突き刺さったままのナデシコと酔っ払いクルー。
そんな事を知らない地球軍と木連軍は、未だに睨み合いを続けていた。
周りは満点の星々。
そして、この場で息つくのは、たった3人の人間と、人間かどうかも怪しい1人の人間。
「ふっふっふ、まさかこんな形であの場を逃れるとは…ハテナ、なかなか出来るようになったな」
「伊達にアキト達と一緒に行動してないもん。でも、これからどうしようかな」
「蘇生薬、効果抜群」
無事に火星から脱出をした3人。
ユキナの『ひき肉どころか炭化事件』も、ラピスの活躍により無事解決。
3人は今後の方針を話し合っていた。
「でも、ラピスは良かったの?」
「うむ。これからは、驚天動地な事が繰り返される危険な旅になるだろう。オヤジと母さんのところに戻ってもいいんだぞ?」
「ついていく」
「ラピス…」
「だって、パパとママに着いていく方が万倍危険だもん」
「その決意やよし! さて、これからの事を考える前に、1つやる事がある」
「うん、そうだね」
「アレ…」
3人が見やる方向には、プカプカ浮かぶ、奇妙な物体。勿論、北辰ロボだ。
「やれやれ、こんなもんはさっさと捨てるに限るな」
「うんうん。でも、操縦者が居ないと大人しいもんだね〜まるで、抜け殻のよう…?」
「ユキナ、どうかした?」
「あれ、気のせいかな。ほら、頭部にさ、トカゲが居た筈じゃない?」
「ああ。それが?」
「なんだかさ、トカゲが透けて見えるんだけど…」
「はっはっは、なにをバカな。いくらトカゲのおっさんだからって、脱皮でもしたと? 冗談もほどほどにしろよ」
そうは言いながらも事実を確認する為に、頭部へとヒナギクを寄せてみる。
そこで直面した真実に、3人は背筋を凍らせた。
「お、おい! こっ、これホントに透けて…って、本当に抜け殻だぞこれーっ!」
「やっぱり脱皮ーっ!? うわっ、なんだかヌメヌメでヌラヌラした液体がフヨフヨ浮かんでるー!」
「………フゥッ…」
パタッ
「あああ! ラ、ラピスしっかりー! まずい! 精神衛生上まずいよアキト!」
「よし、見なかったことにしよう。撤収!!」
こうして3人は逃げるように、その場を後にしたとか。
北辰ロボは、管制によって外宇宙へと旅立っていく。それがメッセージと見られるかどうかは一切不明だ。
そしていつの間にか脱出をしていた北辰。彼がどこへ行ったのか、それは誰にもわからない。
「み、見てろよ! オレはあんなトカゲをも凌ぐ程の武勇伝を作り上げてやるからな!」
「アキト! 変な方向の伝説を作るのは止めてよね!」
「あきとおにーちゃん、お願いだから私が健やかに育てるよう気を配って」
ユキナとラピスの言葉は親身に迫っていた。
アキトはそんな2人の言葉を胸に秘め、ヒナギクを前進させる。
「よぉし、行くぞ2人共!」
「うん、とことん付き合ってあげるからねアキト!」
「きっと暇しない」
こうして3人は旅立った。彼らの行く先々には数々の試練が待ち構えているだろう。
だが、彼らは挫けることなく前に進んでいく。
今まで直面してきた事が彼らを強くしたから。
その頃――――。
「…おや、諸経費込みでテンカワさん達の給料分ピッタリですね」
プロスのソロバンが弾き出した数値はアキト達の全財産を根こそぎ奪っていった。
こうして、アキトと北辰、そしてお供の2人のいろいろな犠牲により、世界は平和になりましたとさ。
「もしかしてバッドエンドかこれ!?」
伝説の3号機
ひとまず、おしまい
長めのあとがきです。
こんにちは、彼の狽ナす。
まず最初に、麻雀がわからない人ごめんなさい。あまり影響ないように書いたつもりですが…。
さて、やっと、やっと終了させることができました、サブタイからしていかにもバカっぽいこの話。まあバカですが(爆)
笑いが欲しいという単純明快な思いつきで書き始めてしまったのですが、1話、1話が超ド級の山であり、底が見えない断崖絶壁の谷でした。
それでも無事完結することが出来たのは、幾人もの応援と協力の賜物です(謝)
数々のネタとツッコミ、そして私自信に多大な影響(アフロとか)を与えつつ、連載当初からお付き合いしていただいたナイツさん。
オリキャラという爆弾を私に手渡し、監視の目を絶やさなかったやんやんさん。
他に、感想、意見、質問、指摘などなどを下さった方々。
ノバさん、Noirさん、住井さん、さとやしさん、恭介さん、T.Kさん、谷城拓斗さん、鴇さん、時の番人さん、DEさん、外川直明さん、yuaniさん、
tomoさん、霞守さん、黒狼さん、naoさん、R2D2さん、左京さん、MASAKIさん、正田智也さん、渡来さん、SINさん、黄昏のあーもんどさん、
altさん、中華鍋さん、ふじいさん、Sakanaさん、ディンゴさん、町蔵さん、TAK.さん、駄犬さん、春木さん、U悠G適さん、H・Wizさん、midnightさん。
(順不同)
中でも多い(8割がた)のがツッコミでした。内容がアレでは突っ込まずにはいられなかったということでしょうか?(笑)
とにかく、1回でも毎回でも感想を下さった方々。そして、感想を頂けずとも読んでくださった方々、本当にありがとうございます。
そして忘れてはいけない、管理人ことBenさん、代理人こと鋼の城さんのお二方。毎回の感想をありがとうございます。
代理人さんの場合はツッコミの方が多かったような気がしますが…ええ、最高に嬉しいですとも。
むしろ突っ込んでくださいと懇願します(笑)
さて、感謝の気持ちはこの辺にして、内容について少々説明をば。
当初はTV版全26話をギャグでやってみようというのが目的でした。だから26話で終わらせるつもりが、開始2話目で惨敗。
ボチボチと続けていくうちにオリジナルの話になり、オリキャラも出る始末。
オリキャラ:レンナ。
はっきり言って、コイツは当初のヒロイン予定でした。
けど、あまりにもお約束過ぎた為、ボツ。流れでアキトのツッコミ役、そして敵役になりました。
で、次点でヒロイン候補だった、『ユキナ』、『アクア』、『ホウメイ』、『イズミ』から2人を選出。そのまま収まるところに収まりました。
そして、この頃からでしょうか、レンナの扱いに苦悩し、コイツが嫌いになってしまったのは。
でも、折角造ったキャラですし、どうにか生かそうとして今の状態になり、やっぱり好きになってます(笑)
後はノリという流れにのってフラフラと逝き、北辰もすっかり壊れて、後戻りできない状況に。
勢い任せで最後まで来ました。
途中、息切れというか、ネタが尽きたというか、スランプめいたこともありました。
そんな時に書いたのは、もう…話の中で盛り上がりと盛り下がりがあまりにも激しいのは、そういうわけです。
全編通してのギャグの難しさ、痛感しました。
暫くギャグなSSは控ようかなとも思ったのですが、不思議なことにすっかりこの文体がクセとなっている自分が居ます。
自然に管理人さんが言うところのエキセントリックな文で書いているなんて…慣れって怖いものです。
とにかく、読んでくださる方々の中には納得できない所があったかもしれません。ギャグが嫌いな方にはごめんなさい。
なにはともあれ、無事完結。これからは、いろいろと今後の構想を練りながら、暫くは読み手に戻ろうかと思います。
一年半、SS書くだけに集中して、ろくにSS読んでないんですよね。
まあ、他の作品に影響されないよう、あえて読んでいないというのもあるんですが。
さて、長々と書いてしまいましたが、最後にもう1つだけ。
コレの続編ですが…すみません、ネタをこっちに出しすぎて書けそうにないんです。
でも、もし何かのキッカケがあり、ネタが集まれば書くかもしれませんが…まず無理でしょう。リクエストして下さった方々、すみません。
それと、おまけで書いた『エピローグ、または外伝その5』も読んでいただけたのなら、素直にありがとうの気持ちを送ります。
本当に今までありがとうございました。
それでは。
代理人の感想
なんて素敵にブリティッシュ。
ほら、「モンティ・パイソン・フライングサーカス」とか「プリズナーNo.6」とかみたいな!
意味不明!
シュール!
ハイテンション!
ツーバッドトキシン!
テイク・ザット・ユー・フィーンド!
いや、最後のは全く関係ありませんが。
それにしても、最後は妙に綺麗に締めましたねぇ。
なんだか彼のΣさんじゃないみたいだ(爆)。
「ハッ これはにせもの!」(ぉ