このお話はちょっと時を遡って木連脱出を果たした4人組、アキト、レンナ、ユキナ、ラピスが暇を持て余していた際のお話。
それは火星を過ぎ、ユキナの許婚宣言が飛び出した数日後に起こった。
「あきとおにーちゃん」
「ん?なんじゃラピU?今オレは雑巾を縫うので忙しいんだ。
用件ならば手短に、詳しく、とことん切り詰めて、オレの睡眠時間分くらいで話せよ?」
「え〜と…」
ラピス、困る。
「ちくちくっと…ふむ、いい出来だ」
ラピスが困っているのを他所に雑巾を縫い終えたようだ。
「う〜む、このトカゲのおっさんの顔をあしらったアップリケがいい感じだな」
そんな不気味なもの付けるな。
「う〜ん………え〜とね?」
「おう、何だ?」
またも雑巾を縫いながらラピスの質問に答えるアキト。
今度はどんな雑巾になるのか…。
「あきとおにーちゃんの子供の頃ってどんな事があったの?」
「…なぬ?」
「あきとおにーちゃんの子供の頃の話が聞きたい」
「………そうか。何時の間にかラピUも成長したんだな」
雑巾縫いつつ遠い目をするアキト。
しかし今の会話の何処に成長との関わりがあったのだろうか?
「とにかく聞きたい」
「おう、わかったわかった。じゃあよーく耳を傾けて聞くんだぞ?」
「うん」
「…だからって耳を斜めにして聞く必要性は無いぞ」
「え?」
45度の角度で固まりながら疑問顔のラピス。
天然がここにも…。
「まあとにかく話すぞ?聞くも涙、語るも涙なことだが…準備はいいか?」
「そうなの?…うん、わかった」
「よし、それは今から大体525万6000分くらい前の話だ」
「…つまり10年くらい前」
「…」
レンナに続き、ラピスにまで一瞬で計算されてしまいちょっと寂しい気持ちのアキトであった。
伝説の3号機 外伝
それは始まりの日
ここは火星・ユートピアコロニー。
そしてある通りを歩くのは何処にでもいる普通の家族2組。
それはある日のこと、両家は親子共々遊びに出かけていた。
これはその帰り道の出来事である。
「いやはや、中々楽しめたな」
「はっはっはっ、全く。たまには童心に帰ってみるのもいいものですな」
信じられない事だが、いい雰囲気を漂わせているのはアキト父とコウイチロウだ。
「結構面白かったですね」
「ええ。家族揃って出かけるだけで、こんなに楽しめるとは思いませんでしたわ」
談話をしている奥さんズも仲良さ気にしている。
「はいアキト、あ〜んして?」
「止めんか!恥ずいわ!消失しろ!」
ユリカのあ〜ん先制攻撃にアキトは問答無用で反撃だ!
「ふふ、本当に仲の良い事」
「ええそうですね」
仲がきっと良いであろう2人を奥様ズは暖かく見守る。
和やかな光景だ。
「む?ちょっと待てミスマル」
「ん?何だ?テンカワ」
アキト父、コウイチロウが何かを食べるのを見て止めに入った。
「お前…タイヤキを尻尾から食べるとは一体どういう了見だ?何かの冗談か?笑えんぞ」
「何?尻尾から食べるのは一般常識ではないか。ほれ見ろ、タイヤキもそうして欲しそうに見ているではないか」
無理矢理自分に目線を合わせている様に見えるのは気のせいだろうか?
「バカを言うな。タイヤキは頭から!これ以外にはありえんだろうが!…こくこく…ほら、タイヤキも頷いているぞ!」
ひたすらタイヤキを揺すって見えるのは幻覚だろうか?
「おいおいテンカワ、幾らなんでも頭からは無いだろう。それではタイヤキが恐怖におののくではないか」
「何を言うミスマル!だったら尻尾から食べられる方がタイヤキにとって苦難の道だろうが。それこそ非道というものだ!」
どちらにしろ食べられるタイヤキはどうすれば…?
「何!?バカを言うな!そもそもタイヤキは尻尾から食べたほうがアンがだんだんと増えていき楽しめるではないか!」
「それこそ邪道というものだ!最初にアンの多いところを食べていき最後に皮を食し口をスッキリさせるのが王道だろうが!」
「ふん。それは貴様の口が軟弱だからだ」
「はっ、お前が貧乏臭いだけだろうが」
子供の喧嘩である。
「き、貴様!よりによって貧乏臭いだと!?」
「お前こそ軟弱だと!?」
どっちもどっちだ。
「ぬう…こうなったら決着を付けるしかないか」
「ああ…望む所だ。頭と尻尾、どちらが強いか勝負だ!」
いや、頭と尻尾で勝負って…。
しかも強いってそんな…。
「あの、アナタ?一体何を…?」
「もしもーし?アナター?」
奥様ズ困惑する。
「ねえねえアキト、お父様何を怒ってるのかな?」
「知るか。それよりユリカ!オレの分のタイヤキ食うな!しかもお前一体何個目だ!?既に2桁行ってるだろ!?」
「え〜」
お子様2人はのん気だった。
「覚悟はいいなミスマル!」
「望む所だ!テンカワ!」
「「いざ、勝負!!」」
グシャッ!
「ぐはっ…」
「ごふっ…」
いきなりクロスカウンターが決まった!
両者ダウン!
「まだまだ…!」
「この程度…!」
だが2人共すぐに立ち上がり再び向かい合う!
まだ気力はあるようだ!
「「ぬおおおおぉぉりゃああああああぁぁっ!!!」」
更に突進する2人!
勝負の行方はいずこ!?
ガスゥッ!!
「げふっ…」
「がはっ…」
またも相打ちのようだ。
「くっ…こうなったら、アキト!」
「ん〜なんだ父さん」
「ちょっと体借りるぞ」
「は?」
「む…そう来たか。ならば、ユリカ!」
「は〜いお父様、何?」
「ちょっとパパに協力しておくれ」
「はい〜?」
「行くぞミスマル!」
「返り討ちだわテンカワ!」
2人は身構えた!
「くらえ!アキトハリケーンっ!!!」
「甘いわ!ユリカボンバーっ!!!」
ぶんっ!!!
「のおおおおおおおぉぉっ!!!!!?」
「きゃはははははははっ!!!!!?」
親父ズの武器と化したアキトとユリカが迫る!
むちゅっゥ
「「「「あ」」」」
「ぬああああああ!?…あ、アキトがお婿に行けない身体にぃぃぃぃぃ!」
「あ、あ、あ、ああああああーーーーっ!!ユ、ユリカが汚されたーーーーっ!!!」
いやお前等のせいだろう。
「おのれミスマル!もはや生かしておけん!」
「それはこちらのセリフだ!我が娘を汚すとは…もはや存在自体認めんぞテンカワ!」
「「いい加減にしなさい」」
ずどごぉっ!
「「げふほぉ!?」」
戦いの終止符は奥様ズが打ったようだ。
「「ぐう…ば、バイクで轢くのは反則…がくっ」」
奥さんにはやっぱり勝てない2人であった。
「えへへへへへへへ〜もうこれでアキトのお嫁さんになるしかないね♪アキト、一生宜しくねゥ」
「……………………………」
ユリカが暴走する横でアキトは真っ白になりながら涙していたとか。
この後、目を覚ました親父ズが再び激突したが決着はつかなかったそうだ。
ちなみにそのとばっちりで近くにあったミスマル家が半壊したそうな。
勿論奥様ズのカミナリが落ちたのは言うまでもない。
こうして息子と娘のファーストキスを犠牲にし、長きにわたる両家(親父達)の争いは始まったのであった。
「とまあ、そんな事があったある日なのだよ」
「じゃあ、パパとミスマルパパはタイヤキの食べ方が原因で仲が悪いの?」
「おう。まあ譲れない気持ちはわかるな」
「…私にはわからない」
普通はわからないだろう。
「………………あ、それであきとおにーちゃん、いったいどこら辺が泣けるの?」
「何?泣けないか?」
「…無理」
「そうか?」
「絶対無理だと思う」
「そうだったのか」
何故か納得するアキト。
「まあ、とにかくオレの親父とスカの親父せいでオレの純情は儚く散ったのだ」
なんともまあ、なさけない理由で散ったものだ。
「ふ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。じゃあアキトって初キッスはそのユリカって人だったんだ〜〜〜」
「…ふっ、今となっちゃあ、オレの悲惨な青春の1ページよ」
本当に悲惨である。
「なるほどなるほど、つまりアキトの昔の女の話なんだね?」
「おいおい、たちの悪い冗談を…って、ぬあ!?ハテナ!?い、何時の間に!?と言うより何時から居た!?」
「ん〜大体『雑巾を縫うので忙しい』って言ってたところ位かな?」
「…最初っからじゃねーか」
「あきとおにーちゃん気付いてなかったの?」
アキトならば気付く筈もあるまい。
「まあ、そんな事はどうでもよくて。アキトぉ〜?」
「な、何だ?もしかして障子にホコリでも溜まってたか?じゃあすぐに掃除をば…」
先ほどから縫っていた雑巾(今度は主バッタ柄)を持ち出て掃除に行こうとするアキト。
「がしっ…ふっふっふ〜私は姑じゃなぁ〜い」
「ひひゃぁぁぁぁっ!すんませーん!だから離してくれぇぇぇぇ!!」
「いいよ〜?でも1つ条件!」
「じょ、条件?何だ?」
ユキナに迫られちょっと涙目なアキト。
「え、ええとね?…えっと…もじもじ…」
「…」
「…ねえ、その『ほら、指を指しちゃいけません。きっと疲れているのよ』って顔止めてくんない?」
「顔を見てオレの考えを読むとは…よくぞここまで…よし、もはやお前に教えることはない!さらばだ!」
「うん、今までありがとう!…がしっ…って、逃がすわけないでしょ!」
「…ちっ」
あっさり捕まったアキトである。
「では改めて…コホン…えっと…あのね?…アキト、許婚の私にもキスしてほしいなゥ」
どがーん!
ユキナ、爆弾発言またも投下。
「………………………………………ふっ」
ぱたりっ
「ああ!アキト!?何、爽やかにいい顔して気を失うの!?コラ!ちょっと!!」
アキトを揺り動かすも全然目を覚ます気配無し。
「まあ、無理もないわね」
「うん」
その2人のやりとりをひたすら傍観するレンナとラピス。
「さてと…はい、ラピスちゃん。今日のオヤツ」
「…あ、タイヤキ」
「何だかアキトの話聞いてたら食べたくなっちゃってね。でも変な船よね〜タイヤキ焼き器が欲しいな〜って思って倉庫を探したら出てくるんだもの」
「パパとママの設計した船だから」
「それもそうか」
それで納得出来るのもどうか…?
「…で、レンは頭と尻尾どっちから食べるの?」
「それなんだけどね…」
ぱかっ
「割って食べたらいいんじゃないかと思うのよ」
「ぬぉ!?そ、そんな解決法が!?」
アキト衝撃。
「「「…おい」」」
「あ」
ちょっとした沈黙が辺りを支配する。
「アキト〜気絶したふりしてたね〜?」
まずユキナが再起動。
「い、いやほら、あの時は…そう!何故か睡魔と言う名のカフェインが光臨して…」
「矛盾してるわよその発言」
「うん」
「こ、こんな時にツッコミいれるなーっ!」
「アキト〜〜〜〜〜」
「はっ!?……………………………………さらば!」
シュタタタタタタタッタタ!
アキトは何故かステップを踏みながら逃げ出した!
「あー!こらー!!待てーー!!私にもキスーー!!!」
ダダダダダダダ…!
ユキナ、唇を『むちゅっ』と突き出しながらアキトを追いかける。
しかしユキナよ、少々性格変わってないか?
「…むぐむぐ…平和ね」
「…つぶあん…」
そんなある日であった。
「アキト〜キス〜!」
「こいつマジだよ神様ぁ!助けてーっ!!」
「うわ!酷いよアキト!それが許婚に対する言葉なの!?もうちょっと愛を込めてほしいなっ!ぷんぷん!」
なお、この2人がキス出来たかどうかは定かではない。
終わりでやんす。はい。
あとがきです。
こんにちは、彼の煤iかのしぐま)です。
そんな訳でお送りしました外伝その3『それは始まりの日』如何でしたでしょうか?
この話、元々は『外伝その1』の親父ズの争い始めた理由という名目で書いた『外伝その0.5』のリメイクだったりします。
実はこの『外伝その0.5』、オチがあまりにくだらなかった為に希望者のみに配布し、投降自体は見合わせていたのですが、
今回、ナイツさんの再リクエストにより大幅改定を行いお送りした次第です。
…まあ私の書くものは大体くだらないオチなんですが(汗)
さてさて、またも脱線してしまった感じですので本編に戻りたいと思います。
それでは本編でお会いしましょう!
代理人の感想
仲良きことは美しきかな。
・・・いや、割と本気でw