「…早かったな」
努めてぶっきらぼうに尋ねるアキト。
「アキトの為に急いで来たの」
ユリカは全く気にしていない…いやそもそもアキトに邪険にされていると言う認識が有るのかさえ怪しい。
「敵、全て射程に入っています」
「目標、敵まとがめてぜ―んぶ、ってえぇ――!!!」


一条の黒い光が全てを飲み込む、今この時歴史が流れ出した……


バッタが光に飲み込まれていくのを見ながらアキトが呟く。
「……此処から全てが始まったんだな」
私も出来る限りのお手伝いをします…
共に歴史を変えていきましょう、マスター

「…あぁ頼むぞ『プラス』」

 

 

 

 

     機動戦艦ナデシコ

                      時の帰還者

 

 

 




 「……テンカワ・アキト、パイロット以上」
 アキトは現在ブリッジにいる。
 何故か艦長命令で此処に来て自己紹介をしろと言われたからである。
 たかだか一パイロットに艦橋にまで上がらせ自己紹介をしろと言うか…普通?
そんな考えが脳裏を過ぎらなかった訳でもないが、その事はあえて考えない事にした。
 所詮はナデシコ、幾ら常識・良識を掲げても…いや掲げるだけ無駄…と言う奴である。


 一応『俺なりの』自己紹介は終ったのだが勿論周りが許してくれる筈は無かった。
 「エ―――それだけ?つまんない…」
…そう言われましてもねミナトさん、これ以上は話せないんですよ。
「趣味とかはなんですか?」
ルリちゃんが開口一番にそんな事を聞いてくるとは…少し意外だな……
「特に無い」
以前なら料理と答えられたが…今はとてもそんな事言えないしな……
「何でそんな暑苦しい格好しているんですか?」
「五感を病んでいて……この服とバイザーで五感を補助している為だ」
「す、スミマセン…失礼な事聞いてしまって」
「…いや、いい気にするな」
そして―――
「アキト…体の具合が悪いの?でも安心して!!このミスマル・ユリカが王子様の為にこの世で一番のお医者様を紹介してあげるからね!!!」
―――ユリカ、お前の温もりが俺を傷つけ……そして狂わせる……だから俺も覚悟を決めなくてはならない。
「ユリカ…君の知っている『テンカワ・アキト』は死んだ。もうこれ以上過去の思い出にすがるのは止めろ」
そう言うと俺はユリカの返事を待たずに艦橋を出て行った。


「…なんか雰囲気悪いですねミナトさん」
「そうねメグミちゃん…
でも何か訳がありそうね
「ユリカを傷つける奴……許せない!!」
「いやはやテンカワさん…一体なにが有ったのですかな?」
「むう…」
思い思いにアキトの事を批評するブリッジメンバー。
その殆どが批判的であるのは仕方が無い、そうアキトが仕向けたのだから。
最も若干一名ほど批評になっていない人物も居るが其れは無視である。
「むう……(泣)」

「艦長の話だと10年ぶりに会ったんでしょう?何もあんな言い方しなくても…」
「そうね…艦長もあんまり気にしないほうが……って?」
 ミナトが慰めようとするが…
「死んだ…ってアキト……なんかハードボイルドみたいで素敵、イヤンイヤン(ハート)」
そう言いながら一人トリップするユリカを見て何も言えなくなってしまった。
いい加減邪険にされていると気づいても良い筈なんだが……



「……バカ(断言)」


―――アキト居住区―――
自室で一人物思いに耽るアキト。
あれだけはっきりと拒絶したんだ、暫くはユリカも俺に近寄らないだろう……多分。
一人居住区で考えるアキト…悲しいかな断言できない所が……
だけど相手はあのミスマル・ユリカ…この程度では諦めないという事は此方も先刻承知だ。
…最も先刻承知だから何か具体的な対策が取れるか?と言われれば、何も取れません…としか答えられないが……
……思考が暗くなってきた他の事をしよう。
努めて暗い思考を無くそうとするアキト。
「アカツキに無事出航できた事を知らせてやるか…」
コミュニケを操作してアカツキに連絡を入れる、このコミュニケは特性で普通のコミュニケでは届かない所まで送信できそして送信内容は例えオモイカネでも見られない。
最も物理的な盗聴・盗撮(つまり隠しカメラや隠しマイク)はどうにもならないが…

暫くして軽薄そうな会長が出てきた。
「こちら愛の伝道師アカツキ―――やあテンカワ君、どうやら無事出航できた様だね」
「あぁ何とかな…だがこれからムネタケが反乱を起こす」
「一難去ってまた一難かい…?君も大変だね」
なんとも緊張感の無い返事が返ってくる。
「そう思うなら何故ムネタケを乗せた?
軍との協定では軍人を一人オブザーバーとして乗せれば良かったはずだぞ?
それに奴の事は教えたはずだぞ」
「いや―――呼びもしてないのに勝手に来る、
その執念に押されてね…ってそんな恐い顔しなさんなって」
「もったいぶらずに説明しないからだ…」
「ハイハイ…全くエリナ君といい君といい、ネルガルの会長ってのはもっと偉いはずなんだけどな」
「アカツキ…!!!」
アキトの声が何やら危険なものに変わっていく。
「そんなにカッカしなさんなって…まじめな話、
最初は乗せない事も考えたんだけどね、そうすると今後の歴史が変わってしまう…
そうなると困るのは君だろ?」
「…確かにそうだが奴はいろんな意味でこのナデシコにとって危険だ」
「オヤオヤ…ネルガル最強のSSである君にそんな事を言わせるなんて、
彼も唯のキノコじゃないってとこかな?」
「……アイツが危険なのはガイを殺害するからじゃない…アイツは自分の出世と保身の為なら何でもする…といった所だ」
 「自分の出世と保身の為なら何でもする…か、軍も企業も同じだね……確かにそんな奴は居ない方がいいだろうね」
 「だったら何故!?」
 「僕は君よりもああいったタイプの人間を見てきている…だからその対処法も知っている訳さ」
 「どうすれば良い?アカツキ」
 「なに簡単な事さ、単に恐がらせばいいのさ」
 「……其れだけで大丈夫なのか…やはりもっと直接的な方法の方が……」
 「彼を殺すと言うのかい?確かに其れも一つの解決法だよ…
でも其れだったら彼一人にしか効果が無いよ?
今後またそんな奴が乗らないとは限らないだろう?」
 「…つまり意図的に生かしておく事でナデシコに乗る事へのリスクの高さを周りに教えさせる訳か…」
 「ご名答、ただ中途半端はいけないよ?やるからには徹底的にね?」
 「…任しておけ、俺は『プロ』だぞ、毎夜うなされる様な恐怖を与えてやるよ」
 「それは楽しみだね…やり過ぎてクルーを恐がらせないでよ?唯えさえ女性クルーが多いんだから」
 「…約束はできんな」
なにやら軽い口調で物凄く恐ろしい事を相談している二人。
 「さて次になんだけど、君は今後艦長とどう接していくつもりなんだい?」
 一瞬の静寂が二人の間に落ちる。
 「…俺はもうアイツと、ユリカと一緒になるつもりは無い、先程ブリッジでその旨をしっかりと伝えた」
 「…つまり彼女には何も話さない…って訳だね」
 「あぁ、確かに全部を話せばこの仕事…かなりやり易くなるだろうが…その代わりユリカは俺しか見なくなるだろう」
(彼女が信じないって事を考えないのかね…もっともそれだけ信用されているって事なのかね。)
 そんな事を考えるアカツキ。
「それじゃあ駄目なんだ…ユリカには俺とは違う奴と幸せになって欲しい…って聞いているのか?アカツキ」
「うん?…あぁ聞いているよテンカワ君、つまりあれだろ?
僕が艦長と仲良くやって良いってこと……テンカワ君本当に恐いよ、その顔かるい冗談じゃないか(汗)」
「……分かっている」
「まったくそんなに大事なら始めから素直になれば良いのに」
「何か言ったか?アカツキ」
「い、いや全くもって何も言っていないよ、き、気のせいじゃないかな?それよりもさほら、さっき確りと別れ話をしたって言ったよね?」
必死に話題を変えようとするアカツキ。
「あぁ、それが何か?」
「君に聞いた話だと、そう簡単に諦めるような人じゃないようだけど…?」
「心配するな、あれだけ確りと拒絶したんだ…幾らあいつでも暫くは―――――」



「アキト、ねえアキトってば居るんでしょ?お話しようよ!!!」



そう言いながら『ガンガンガン』と扉を叩く某人物…今話題になっている人物と同一人物なの間違い無いだろう。
思わず前のめりにのめり込むアキト。
「ハハハハ…どうやら見当違いだったね」
そう言いながらアキトの後姿を見るアカツキ、後頭部に大粒の汗が流れているのはご愛嬌と言った所か……
「いったいアイツは…………」
こみかめを押さえながら呟くアキト…それ以上は言葉にならないようだ。
「じゃ、じゃあ僕はこの辺で退散するよ、アディオス」
さっさと通信を切るアカツキ、揉め事から逃げだしたわけだ…賢明である。
このまま居留守でもしようか…と考えたが合鍵の存在を思い出してその考えを却下する。
「出るしか無いのか……?」
疲れたように呟くアキト、その姿からは『黒い王子様』の雰囲気なぞ全く窺えなかった。
良くも悪くもナデシコに乗った事がアキトの精神面に変化を起こさせている様だ。


「…なんの用だ?」
感情を押し殺した声で聞く。
「久しぶりに会ったんだよアキトとお話がしたい」
「話す事は無い…勤務中の筈だろ。ブリッジに戻って仕事したらどうだ?ユリカ」
屈託の無い笑みを浮べながら言い寄るユリカをアキトは追い払おうとする。
「えぇ!?でもぉ――私はアキトとお話がしたい!したい!!した〜〜〜い!!!」
両手をぶんぶん振りながらイヤイヤをする。
(アイツもよくこんな事をしたっけ…もっとも同一人物なんだから当たり前か)
「仮にも艦長だろ?これから今後の行動が発表される筈だ、早く艦橋にもどれ」
「だったら仕事が終ったらお話してくれる?」
「さっき話す事は無いといった――」
「アキトとお話がしたい!したい!!した〜〜〜い!!!」
イヤイヤイヤ…
「だから話す事は―――」
「したい!したい!!した〜〜〜い!!!」
ブンブンブン…
「いや…しかし―――」
「したい!!した〜〜〜い!!!」
フリフリフリ…
「………」
「した〜〜〜い!!!」
ブンブンフリフリイヤイヤ………


「…分かった、仕事が終ったらな……」
結局押し切られてしまったアキト、まだまだ…である。
「えっ本当?じゃあまたね〜〜〜♪」
そう言って通路をスキップしながら去っていくユリカ。
その後姿が見えなくなるまでアキトは見続けていた。
(現金な奴だな……)
と思ったりしたのは此処だけの秘密だ。


「さて、俺もそろそろ動くか…」




―――ブリッジ―――
「ユリカ・ブリッジイン、いえ〜〜〜い♪」
ブイサインをしながらユリカがブリッジに入った。
「あら艦長随分きげん良いわね…どうしたの?」
「あ、分かります?ミナトさん実はさっきアキトの部屋に行ったんですよ
そしたらアキトが仕事終ったらお話しても良いって言ってくれて」
ほけら〜〜〜とした笑い……とでも言おうかそんな笑みを浮べながら「アキトとお話アキトとお話♪」とぶつぶつ言う姿は少し……いやかなり恐いものがあった。

「なんか艦長恐いですね…」
「駄目よメグミちゃんそんな事言ったら」
「……バカ」

「と…とにかく艦長これからナデシコがとる今後の方針を…って艦長?」
アキトとお話アキトとお話♪…早くお仕事終らないか「艦長!!」は、はいなんでしょうかプロスさん」
「まったく…とにかく本艦ははこれよりスキャパレリプロジェクトの一環として火星に向かいます」
「「火星〜〜〜?」」
ミナトとメグミが声をそろえる。
「そうです火星です。かつて木星蜥蜴が侵攻してきた際、連合軍は火星から撤退しました。ですが火星に残された人たちは?」
「もう死じゃったんじゃないんですか?」
ルリが淡々と返答する。
「確かにそうかもしれません、しかしそれを確かめに行くのです。
それにテンカワさんは少なくとも1年前までは火星に居ましたので希望が全くない訳ではありません」
「火星ね〜〜〜」
「火星ですか…」
「くうぅ―――必死に助けを待つ人々を助けに行く、やっぱ正義の味方はこうじゃなくちゃ」
「ま、人助けだからまあいいっか」
取り合えず皆の意見は火星行きに賛成多数に成ったが…

「そうはさせないわよ!!この船は私が頂くわ!!!」
ムネタケの後ろに付く武装した兵士達。
「血迷ったか!?ムネタケ」
「ふふ。火星に行くなんてとんでもない。この船は私が有効に使ってあげるわ」
「おやおや、軍とは話が付いていますが?」
「そんな事私の知った事じゃないわ。この船は私が…私の為に役立たせて貰うわ」
銃を片手に小学生以下の理論を振りかざすキノコ、はっきり言って危ない。
「その人数でなにができる?」
ゴートが特に慌てる出なく尋ねる。
「おあいにくさま、出航前に潜入した私の部下がとっくに各部署を制圧しているわよ」
「残念だがそいつらは既に処理して終っている」
押し殺した声がムネタケに後ろからかけられる。
「ひいぃ!!」
思わず声を上げ振り返るムネタケと兵士達。
「あ、アキト」
実に嬉しそうな声を出すユリカ。
「ふ、ふざけんじゃ無いわよ!!全部処理したなんてハッタリ通じると思うの!?」
驚きの余り完全に声が裏返っているムネタケ。
「今からハッタリかどうか見せてやる…」
そう言って手元のコミュニケを操作する。
「……ホウメイさん?」
「テンカワかい?こっちは大丈夫だよ」
そういってフライパン片手に豪快に笑うホウメイ、アキトもつられて苦笑してしまった。
「……ウリバタケさん?」
「おぉ――!!テンカワか、こっちも大丈夫だぞ!!こいつらが変な事したらスパナでぶったたいてるからな!!」
スパナ片手に酷い事を言うウリバタケ。
「……どうだまだやるか?」
「ブ、ブリッジを制圧すれば問題ないわ、お前たちやりなさい」
兵士達がマシンガンを構えアキトに向け発砲しようとするがアキトの動きはそれ以上に速かった。
「グハ!!」
一瞬で間合いを詰めた兵士のボディーに発剄を決め壁まで突き飛ばす、そしてその勢いでやや後ろ隣に居た兵士に踵落しを見舞い床に叩き伏せる。
「チィ――!!」
銃での応戦を諦めた兵士の一人がナイフに持ち替えて接近してくるが、突き出した手を取り相手の勢いも利用して片手で投げ飛ばす。
「ゲェ…」
そんなカエルがつぶれた様な声を出して投げ飛ばされた兵士が壁からゆっくりと落ちていく。

「すごい…」
「すごいすごい!!やっぱりアキトはユリカの王子様だね!?」
アキトの尋常ならざる実力に湧き上がるブリッジ。
だが次の瞬間にはアキトの放つ殺気に飲まれ何も言えなくなった。
いや、殺気と言うには余りにも禍々しい…強いて言うなら鬼気といった所か……


「残るはお前だけだな…」
必要以上に殺気を込めた声で話し掛ける。
「ひぃ…こ、こっちに来るんじゃないわよバケモノ!!
連合宇宙軍の将校にこんな事していいと思ってるの!?これは宇宙軍への反逆とみなす―――!?」
しかしそれ以上は声にはならなかった。
「軍?反逆…?面白い事を言う……」
 ムネタケの首を絞めその体を宙に持ち上げながらアキトが言う。
「貴様ら連合宇宙軍様が火星の時何をした…?軍がアイツにいったい何をした…?答えろ!!!!」
声を荒げるがもちろん返事は返ってこない。
もっとも首の骨をへし折らんとする様な力で握られている以上返事など出来るはずも無いが……
ムネタケは既に口から泡を吹いて気絶している。
「テンカワさん…もうその辺に……皆さんが恐がっていますよ」
見かねたプロスがアキトの耳元にそっとささやく。
「…そうだな」
そう言って気絶したムネタケを放り捨てる。
「…ミスターこいつ等を格納庫に運んでくれ……コンテナに詰め込む」
「コンテナ…一体どうして?」
「なにすぐ分かるさ」
そう言ってブリッジを後にするアキト。


「海中に連合宇宙軍の艦隊らしき機影を発見…浮上して来ます、どうしますか艦長?」
「ほえ?え―――と取り合えず回線を繋いでくださ―――い」
浮上してきた艦隊に回線を繋ぐ。
「ユリカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
カイゼルヒゲ…もとい連合宇宙軍提督ミスマル・コウイチロウの御出ましであった。



―――トビウメ艦内―――
「さあユリカたぁ――んとお食べ」
「はい、お父様」
そう言って世にも幸せそうにケーキをほお張るユリカ、この姿からはとても1隻の艦長とは想像できないだろう。
ちなみに現在ナデシコはマスターキーを抜いてはいない。
ユリカが此処にいるのもあくまで『会社の意向を確かめて伝える』ためである。
「はぐはぐはぐ…あっそうだお父様聞きたい事があるのですが」
 そう前置きし表情を引き締める。
「なんだいユリカ」
こちらは相変わらず表情が緩みまくっている。
「アキト…アキトについて聞きたいんです」
「アキト?アキト…はて誰のことだいユリカ?」
カイゼルヒゲ…もといコウイチロウの口元が微妙に引きつっているのは気のせいではないだろう。
「火星の時、お隣に住んでいた子供の事ですお父様」
「おぉ…ひょっとしてテンカワ夫妻のお子さんの事かい」
「そうです、今ナデシコにアキトが乗っているんです」
「なんと!…それで一体アキト君のなにが知りたいんだユリカ?」
「実はアキトに何かあったみたいで…軍人さんの事凄く恨んでいるみたいなんです…
アキトになにがあったのか心当たりありませんか?お父様」
もちろんコウイチロウには思い当たる節が無いわけでは無かった。
アキトの両親が殺された事件の事だ
手を下したのは一部のテロリスト達であるが、決行した日がちょうど軍が火星から引き上げる日と重なって起きた事件。
軍が火星から引き上げる日は極秘にされていた事から軍の一部がこのテロリスト達と繋がっていると当時はまことしやかに言われたものだ。

「……軍人を恨んでいる理由は察しがつく。
この戦争が始まった時、軍が火星にいる一般市民を見捨てて逃げた事だろう。
恐らくアキト君はこの事で軍を恨んでいるのだろう」
コウイチロウは嘘をついた、アキトの両親の事はまだ娘には早すぎる…という配慮からだ。
「そうですか…」
気まずい沈黙が落ちる、次にそれを破ったのは部屋に入ってきたプロスペクターと兵士であった。


「報告します、ナデシコから『ムネタケを持ってきたぞ』と言うエステバリスが着艦許可を求めています、いかがしますか?」
「あ…きっとアキトだお父様」
「本当かねユリカ?キミ着艦許可を与えなさい、それと後で通信を繋いでくれ」
「了解しました」
敬礼をして兵士が去っていく。
「さてネルガルからの返事はどうだったのかね?」
プロスペクターを真直ぐ見据えながら聞く。
「提督…結論を申し上げます。ナデシコはあくまでネルガルの所有物でありその行動にいかなる制約も受ける必要はありません」
「そうか…しかしそれではナデシコは連邦宇宙軍と一戦交える事に―――!?」
突如大きな揺れがトウヒメを襲う。
「一体何事だ!?報告しろ!!」
「本艦真下にある休眠中のチューリップが突然活動を開始しました」
通信兵が叫ぶように報告する。
「さあ、ユリカマスターキーを渡しな―――って何処にいる?」
「此処ですわお父様」
ウインドウがコウイチロウの前に出る。
もちろん場所はヘリの中からだ。
「そんな所で何をしている?危ないぞ!?」
「そんなのナデシコに戻るためです。艦長である限り艦を見捨てるような真似をしない…お父様から教えられた事です」
「ユリカ早くナデシコに戻れ!!その間の囮は俺がする!!!」
ユリカとコウイチロウの間に新たなウインドウが割り込む。
「分かったアキト待っててね」
そう言ってユリカのウインドウが消える。
「君が…アキト君?」
ユリカのウインドウが消えたため自然とコウイチロウとアキトが向き合う。
「おと―――いえミスマルの小父さんお久しぶりです…でわ」
「ちょっと待ちたまえ!!」
慌てて通信を切ろうとするアキトを止める。
「なにか…?」
「ユリカから君が軍を恨んでいる事は聞いた…
君の両親にはすまない事をしたと思っている。だがあの事件には軍は無関係だ」
アキトの顔がキョトンとしたものになる、しかし直ぐにコウイチロウの言いたい事が分かって苦笑する。
「おじさん…別に俺はそんなことで軍を恨んでいるのでは無いですよ」
「では火星の事かね…?」
「それも違います、俺には囮の役があるので…この辺で失礼します」
「待ってくれ、最後に顔を見せてくれないかアキト君」
アキトは一瞬躊躇するがバイザーを外す。
 瞳孔の開ききっている金色の瞳、その瞳はコウイチロウの方を向いているがコウイチロウを写していない。
 「…アキト君その目は…一体……?」
 アキトはコウイチロウに構わず話を進める。
「ミスマル提督…何があっても……例えナデシコが沈んだとしても、貴方の娘は貴方の元に帰します、安心して下さい……それでは」






通信をきりバイザーをかけ直す。
「プラス…戦況報告」
活動中のチューリップ、クロッカスとパンジ―を飲み込み現在はナデシコに向かっています、後エステバリスが一機ナデシコから発進しました
「分かった。いくぞ『プラス』!!」
イエス、マスター
漆黒の閃光がチューリップに向かう。




 
「ナデシコを追わないのですか提督?」
「現戦力ではナデシコの拿捕は不可能と判断する、ひとまず帰投する」
そう言って部下を下がらせる。
チューリップは既に破壊された。
直接破壊したのはナデシコだが…
ナデシコが来るまで囮をつとめた二機のエステバリス特にアキト君の見せた活躍は異常なものだった。
彼はチューリップの繰り出す全ての攻撃を見切り、そして全く無駄の無い動作で的確に反撃した…
ギリギリの所でかわし、そして反撃。
その様はまるでその身に破滅を願うかのようであった…
ナデシコを待たずにチューリップを破壊できたのでは無いのか…そう思っているのは私だけでは有るまい。




「アキト君……君の身に一体何が有ったのだね?…なぜそんな悲しい目をする……?」
その答えは一向に出る気配は無い。



                             続きます続きま〜〜〜す

 後書き
 最近、皆さんからの感想メールを頂ける様になりました霜月です。
 これほどメールが嬉しい物だとは、つい最近まで知りませんでした、ホント皆様に感謝しています。m(_ _)m
 其れはそうと、メールでよくこのSSのエンディングが物凄く暗いものに成るのでは…?と質問されます。
 ……大丈夫です、その点だけは、必ずしやハッピーエンドを迎えさせて見せます。
 もし、どうしてもやばくなったらウリバタケさんで行きます(ご都合主義とも言う)
 ……もっともエンディングまで書き上げられるかの方が心配なんですがね。
 まっ…此処までダークで救いようの無い初期設定で始めた自分が悪いのですが……ダークさだけではアクションNO−1なのでは?などと思っていたりもします。
 どうやら長くなりましたのでこの辺でお開きにしようと思います。
 それでは皆さん第4話でまたお会いしましょう。


人物・兵器紹介
〜テンカワ・アキト〜

 言わずと知れた『機動戦艦 ナデシコ』の主人公である。
 未来においてミスマル・ユリカと結婚をしていたが新婚旅行で乗ったシャトルが爆発炎上その為戸籍上では死亡となっている。
 もっともこれが『火星の後継者』の仕業である事は言うまでも無い、連中の研究員が施した数々の実験の為、五感を消失しており余命も救出された時点で後5年程と診断された。(イネス診断)
 ユリカ救出後は皆の前から姿を消したが、ユリカの余命と遺跡との再融合の計画を聞きつけユリカの前に姿を表す事を決意、コロニー『アマノイワト』において僅かな間だけだがユリカとの再会を果たす。
 失意の中、ランダムジャンプを決行その結果過去に飛ばされ現在に至る。
 余談だが、現在の所アキトが未来から来ている事を知っているのはアカツキとエリナの二人だけである。(プロスペクタ―もこの事は知らない)
 現在のネルガルとの関係は、アカツキ個人に協力的な私的軍隊と言った所か…なおアキト専属SSはネルガルのSSに属している訳ではない(つまりプロスの部下では無い)
黒いスーツ、黒いマント、黒いバイザーと黒ずくめの格好をしている、少なくとも夜道では会いたくない人種である。

余り…否、まったく知られていないが黒百合をこよなく愛する(3年程前から)青年でもある。
自らの乗るエステバリスの機体名を全て『ブラックサレナ』にしたり、所有している刀を『黒百合』としたり(別に銘が有るのだが…)コードネームも『黒百合』だったり…と、その事に関する逸話には事欠かない。
自室に黒百合の花を生けているのは此処だけの秘密だ……(汗)

 

 

 

管理人の感想

 

 

霜月さんからの投稿です!!

いや〜、流石ユリカ嬢ですね。

もう、思いっきりゴーイング・マイウェイ(笑)

冷たかろうが優しかろうが、アキトの命運は決まっていたんですね(爆)

しかし、このアキトの設定って・・・

変わったな、お前(爆笑)

 

では、霜月さん!! 投稿有難うございました!!

 

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後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!

出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!

 

 

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