< 時の流れに福音を伝えし者 >

 

 

 

 

 

第十一話.『気がつけば「お約束」・・・アキトさん、何がお約束なんですか?』

いつもの事でしょう。

 

 

 

 

 

 僕達は今ブリッチに集まって次の任務の説め・・・

 じゃなかった解釈が行われるところだった。

 

「えー、軍部より新しい指令が下りましたので、

 今度の任務内容を皆さんにお伝えします。」

 

 プロスさんもナデシコ内での『せ』と『つ』と『め』と『い』を

 繋げた言葉は禁句だとわかっているので使わない。

 

「ですがその前に・・・

 前回のことについてシンジさんに聞いておきたい事があります。」

 

 やっぱり聞かれちゃったか。

 あんな事があったんだもの、

 そのうちこうなるのは覚悟してたし。

 どんな風に答えよう?

 

「そうそう、俺も気になってたんだ。

 この前の馬鹿でかい化け物は何だったんだ?

 シンジのエヴァと同じフィールドを持ってたし

 心当たりならあるって言ってたよな。」

 

「シンジさんはあの生物が何なのか知っているのですか?」

 

 やっぱり誤魔化す時は真実と嘘を混ぜて言うといいって

 何処かの話にあったっけ。

 

「知っていると言えば知っているし、

 知らないと言えば知りません。

 実際、僕も解らない事だらけですし。」

 

「もったいぶらねえで教えろ!!」

 

 リョーコさんが怒鳴って僕を問い詰める。

 

「シンジさん、そう隠し事をされると

 クルーの不安や混乱の種になるので

 話してもらえませんか?」

 

「・・・わかりました。

 多少わかっている事と推測くらいでしたら。」

 

「お願いします。」

 

 僕は多少演技をふまえてしぶしぶ話し始める。

 

「以前にプロスさんには話しましたよね。

 僕の過去の事を・・・。」

 

「ええ、たしかに聞きました。

 かなり突拍子な話だったのであまり信じていなかったのですが

 もしやその話の中にあった組織と関係があるのですか?」

 

 やっぱ信じられてなかったのね。

 たしかに急にそんな話をされても信じられないよね。

 そう言えば嘘と真実を混ぜて誤魔化す場合は

 相手に真実に対する多少の情報が必要なんだよね。

 それがあって始めて混ぜた話に信用性が現れるんだ。

 まあ今ならプロスさんは前に言った話を信じてくれるだろうし

 後は使徒の事を少し歪めて話せばいいか。

 

「ええ、あの生物と同じ物を僕はそこで見て戦ったことがあります。

 そして倒したので、もういないと思っていましたし、

 その組織はもう存在しないと思ってましたから。」

 

 僕が使徒達と戦ったと言う記録はこの世界には存在しない。

 けどこのナデシコ内にそれを確認出来る人はいないからそう答えた。

 

「なるほど、それがシンジさんのわからない事なのですな。」

 

「ええ、まさか残っているとは・・・。」

 

「あの〜、ちょっといいですか?」

 

「何ですか、艦長?」

 

「さっきから二人で話してますけど

 私達には何の話かさっぱり分からないんですが。」

 

 ユリカさんが行った後に他の皆さんが”うんうん”と同時に頷く。

 

「それもそうですな。 ですが・・・

 シンジさん、話してもよろしいでしょうか?」

 

「かまいませんよ。

 話す事になるのはわかってましたから。」

 

 そして僕は話した。

 以前プロスさんに話した事を・・・

 僕の過去に似せた、偽りの過去を・・・

 

 

 

 

 

 皆の反応は幾つかに別れた。

 驚愕する人、同情する人、呆れる人(ルリちゃん)、何事も無さそうに聞く人(アキトさん)

 とても信じられないような話だけど、プロスさんが信じてくれたおかげで他の皆も信じてくれたみたい。

 

「・・・・・・」 (ブリッチ全員)

 

「・・・それで前回現れた生物は何なのですか?」

 

 プロスさんは沈黙を破って再び僕に質問してきた。

 

「あれは僕のいたところで使徒と呼ばれていました。

 僕も詳しい事は知りません、敵と教えられていただけなので。」

 

「・・・では、あれと同じ生物が他にいる可能性は?」

 

「わかりません、ただ他の使徒は必ずいると思います。」

 

「他の使徒とは?」

 

「使徒には種類があるんです。

 僕が知る限りで後十体以上。」

 

「最後に・・・

 あなたのいた組織の名前は?」

 

 ・・・言っていいのかな?

 でも、ここでいい加減なことを言う訳にもいかないし・・・

 

「・・・ゼーレです。

 どういう組織なのかは僕も知りません。」

 

「!!・・・そうですか。」

 

 プロスさんが一瞬歪んだ。

 もしかして知ってた!?

 まあ良く考えたら今はクリムゾンとかいう会社が表の顔になってるんだよね。

 ネルガルのライバル会社なんだから知っていてもおかしくないか。

 

 ・・・けど、知っていたとしても

 多分それくらいだけだろうな。

 僕の世界でもゼーレを知っている一般人だってほとんどいなかったし。

 

「わかりました。

 前回の巨大生物・・・使徒とゼーレと言うについては、

 一応本社の方に伝えておきますので。」

 

 

 

 

「シンジくん、そんな事があったんだ。」(ヒカル)

 

「ひでえ話だな・・・」(リョーコ)

 

「事実は小説より奇なりね。」(イズミ)

 

「・・・(彼は組織の計画によって容姿が変わったと言っていたわね。

 じゃあもしかしたらその変化で生体ボソンジャンプが出来る体に?)」(エリナ)

 

「シンジくんにそんな過去があったんだ。」(ユリカ)

 

「そんな事をする奴等がいるなんて・・・」(ジュン)

 

「むぅ・・・」(ゴート)

 

「そんな事があったのに

 シンジくんよく平気ですね。」(メグミ)

 

「そうよね、普通そう簡単には立ち直れないわ。」(ミナト)

 

 

 

 

 

「シンジさん、かなり無理のある話で誤魔化しましたね。」

 

「でもルリちゃん、シンジくんの話の半分以上は、

 本当にシンジくんが体験した事だよ。」

 

「そうだったんですか。

 私はてっきり端(はな)からから出任せとばかり。」

 

「ルリちゃん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「話は済んだかしら。

 まったく無駄な時間を使わせてくれちゃって。」

 

 いたのかムネタケ!!

 

 ・・・ていうか、生きてたんだな。

 あの後一体誰が助けたんだろ?

 ナデシコのクルーでは無い事は、確かだと思うが。

 それ以前にどうやってナデシコと合流したんだ?

 

 ・・・こいつも謎の多い男だな。

 

「提督!! 無駄な時間とはどういう意味ですか!!」

 

 ユリカがムネタケの言葉を批判する。

 この雰囲気でその言葉は確かに禁句だな。

 他の皆もムネタケを睨んでいる。

 

「な、なによ・・・

 無駄を無駄といって何が悪いの。

 そんな話、本当だとしても出任せだとしても私に得にならない話なんか興味ないわ。

 それより私達には大事な任務があるのよ、わかってる。」

 

 皆に睨まれようともムネタケは口を減らさない。

 ほんと口だけは達者だな。

 

「と・に・か・く!! 任務の内容を説明さしてもらうわよ。

 今度の目的地はクルスク工業地帯・・・私達が生まれる前には、陸戦兵器の生産で盛り上がっていた所よ。」

 

 口は減らなくても胆は小さいか。

 あっさり話題を変えてきたな。

 

「このクルスク工業地帯を、木星蜥蜴の奴等が占拠したの。

 その上奴等ときたら、今迄見た事の無い新兵器を配置したわ・・・」

 

 その時、誰かが・・・

 

焼きキノコのくせに・・・」

 

 プッ!!

 

 今まで皆怒っていて気づかなかったが

 見事に顔だけ日焼けしたなムネタケ。

 ブリッジに居る全員が笑いを堪えるのに必死だぞ。

 俺もそうだが・・・笑いを堪えて苦しそうなルリちゃんなんて、初めて見たな。

 

「そこ!! なに笑ってるの!!

 私の話しをちゃんと聞きなさい!!」

 

 

「は〜〜〜〜い。」(ブリッジ全員)

 

 

 皆、ムネタケの顔を見てすっかり怒気が抜けた返事をする。

 ムネタケをからかえたからだろうな。

 

「で、その新兵器の破壊が、今度の任務という訳ですね。」

 

「・・・そうよ、司令部ではナナフシと呼んでるわ。

 今迄も軍の特殊部隊が破壊に向かったわ・・・三回とも全滅。」

 

 まあ、あの兵器相手では普通の軍隊では相手にならんだろうな。

 

「なんと不経済な・・・」

 

 何やら計算しているプロスさんの手帳を、ゴートさんとミナトさんが覗いているが・・・

 一体何の計算をしてるんだ?

 それ以前に軍の費用と、ナデシコの運営費は別だろうがプロスさん?

 

「プロスさんは何の計算をされてるんでしょうね? アキトさん。」

 

「さあ? 計算が趣味なんじゃないのかな?」

 

 ルリちゃんにジト目で睨まれてしまった・・・

 

「・・・多分、それは違うと思います。」

 

「俺もそう思うよ。」

 

 触らぬ神に祟り無し・・・今後は冗談にも気をつけよう。

 そこへシンジくんが・・・

 

「ネルガルと軍って共同戦線中なんですよね。

 じゃあ、軍の予算ってネルガルからも出てるんじゃないのかな。」

 

「なるほど。 それなら納得ですね。」

 

「自分の会社から出した金を無駄使いされたら

 文句も言いたくなるな。」

 

 

 

 

 

「そこでナデシコの登場!!

 グラビィティ・ブラストで決まり!!」

 

 ブイサインをしながらユリカが宣言する。

 ま、普通はその手で勝てるよな・・・

 

「そうか!! 遠距離射撃か!!」

 

「その通り!!」

 

 絶好調だな・・・ユリカ。

 ここは無理に横槍を入れない方がいいか。

 

「安全策かな。」

 

 何故、不満気な顔をするんだエリナさん?

 もしかして艦隊戦が好きだとか?

 ・・・その期待には応える事になると思うが。

 

「経済的側面からも賛同しますよ。」

 

 ・・・今度は何の計算をしてるんです、プロスさん?

 相転移エンジンを使ったナデシコのグラビィティ・ブラストは、弾代なんてタダでしょうが?

 

「エステバリスも危険に晒されずに済みますしね。」

 

「メグちゃん、それを言うならアキトさんでしょ?」

 

「そ、そうですね。」

 

「あら〜言うわね。」

 

「本当、よく言いますよね。」

 

「ル、ルリルリ(汗)」

 

「ルリちゃん?」

 

「どうかしましたか? ミナトさん、メグミさん。」

 

 ・・・俺はノーコメント。

 今、口を挟んだらきっと大変な事になる。

 俺の生存本能がそう叫んでるからな・・・

 

「ただちに作戦を開始します!!」

 

 ユリカの叫び声を受けて、俺達はそれぞれの持ち場に逃げ出した。

 しかしルリちゃん、近頃本当に発言に容赦が無いな。

 

 

 

 

 

 

「・・・誰のせいだと思ってるんですか!!」

 

「苦労するね、ルリちゃん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギュォォォォォォンンンン!!!

 

 

 

                     グオォォォォォォンンンン!!!

 

 

 

       ガウゥゥゥゥゥゥゥゥンンンンンン!!!!

 

 

 

 ・・・巨大な衝撃音が鳴り止んだ。

 

 今、僕とアキトさんはトレーニングルームのシュミレーターで模擬戦をしていた。

 もっとも模擬戦と言っても、今回はアキトさんが考えていた技の実験。

 今までのエステバリスでは出力が足りなかったけど

 バーストモードのおかげで使えるようになったみたい。

 

 僕もエヴァにそんな技のあったらなーと思って赤い海時代(前の世界)に幾つか考えてたけど

 エヴァって単純だけど強力な攻撃が出来るから今まで必要なかったけど、

 使徒とゼーレが出てきたなら多分使う機会が出てくると思う。

 

 アキトさんの技の中には僕も思いつかないものでATフィールドでも防げないような技があった。

 それをATフィールドの応用で作れないかなーと思ってやってみたら・・・

 見事に成功、アキトさんと同じような技が出来ちゃった。

 

 それでさっきの衝撃音はアキトさんの技と僕が真似して作った技を打ち合ってみたんだ。

 そしたら両方の攻撃がぶつかり合った後、相殺してしまった。

 

「・・・すごいねシンジくん。

 まさかこうも俺の技を真似されちゃうとはな。」

 

「何言ってるんですか。

 エヴァの攻撃自体を相殺出来るほどの技を考えたアキトさんの方がすごいですよ。」

 

「同じ原理の技だから相殺出来ても不思議じゃないよ。

 だけどこの技はバーストモードじゃなきゃ使えない。

 まあ他の技も含めて体術と剣術の幅が広まったのはよかったな。」

 

「それでもまだ使えない技があるんでしょ。」

 

 これだけ強力な技があるのに、まだあるのだからすごいと思う。

 アキトさんって近頃皆の言う通り、底が知れなくなって来ちゃってるよ。

 

「ああ、一応形にはなっているんだが、

 奥義クラスの技はジェネレーターが持たなくて使えそうもないんだよ。」

 

「エステバリスでは限界ですか。」

 

「そうらしい。」

 

 アキトさん用の機体は現在制作中らしいんだけど、

 それに乗ったら多分奥義ってのも使えるようになるんだろうな。

 どんな人間離れした事を起こすんだろ?

 

「しかし・・・戦う事を拒否しながらも

 自分の力が発揮出来る事を素直に喜んでいるんだからな。

 つくづく救い難い人間なのかもな、俺は・・・」

 

 そう言ってアキトさんは表情を曇らせる。

 

「そんなことないですよ。

 アキトさんがその力を使うのは大切な人を守るためでしょう。

 大切な人を守るための力を発揮出来るようになって悪いことなんかないですよ。」

 

 

 

 

 

 

『そうです!! そんな事はありません!!』

 

 突然かけられたルリちゃんの言葉が、俺の闇に包まれた思考を晴らした。

 俺は・・・また自分の考えを愚痴っていたのか?

 

「ル、ルリちゃん!!

 ・・・ずっと見てたの? もしかして?」

 

『す、済みません・・・ちょっと気になったものですから。』

 

(でも、いつもルリちゃんって覗き見してるような・・・)

 

 覗き見がバレたので、恥ずかしそうに顔を赤らめるルリちゃん。

 そんなルリちゃんに俺は一つの質問をする。

 

「そうか・・・どう思った?

 俺達がシミュレーターで戦ってるのを見て。」

 

 ルリちゃんの視線を避けて・・・俺は下を向く。

 

『・・・まだ、底があったんですねアキトさんの実力。

 シンジさんのエヴァならあれくらいで驚きませんけど。

 エステバリスであんな戦い方も出来たんですか。

 正直な感想を言えば・・・それだけです。

 でも!!』

 

「でも・・・それもルリちゃん達を守る為の力だから、かな?」

 

 ルリちゃんが多分言いたかった事を、俺が続けて言う。

 

『そうですよ!! それなのに・・・どうしてそんな辛そうな顔をするんですか!!』

 

 黙り込んだ俺を、静かにルリちゃんが見守る・・・

 確かに、この力はルリちゃん達を守る為にふるわれる。

 だが、今後の相手は人間もいる、機械だけじゃない。

 

「(う〜ん、なんだか気まずい雰囲気になってきちゃった。

 ここは退散した方がいいかな)アキトさん、

 僕、なんだか話の邪魔になりそうなんでもう行きますね。」

 

「そうか、悪いね。

 トレーニング付き合ってくれてありがとう。」

 

「お互い様ですよ、それじゃ。」

 

 そう言ってシンジくんはシュミレーターから降りて

 トレーニングルームを出ていった。

 ありがとうな、シンジくん。

 

「話を続けるけど・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 アキトさん、今頃ルリちゃんと何話してるんだろうな。

 まあ僕が深入りしちゃいけない話なんだろうけど。

 

「シンジくん。」

 

 その時、後ろか誰かが僕を呼びかけた。

 

「・・・ヒカルさん?」

 

 背後にはヒカルさんが立っていた。

 ただ何故かヒカルさんは重苦しい表情だった。

 

「ねえシンジくん、一緒に展望室行かない?

 ちょっとお話したいんだけど。」

 

「いいですよ、行きましょう。」

 

 

 

 

 

 僕達は展望室の芝生に座り込んだ。

 

「シンジくん、さっきのブリッチでの話・・・

 本当なの?」

 

「・・・全部話した訳じゃありませんけど、

 ほとんど事実ですよ。」

 

 なぜこんな事を聞いてきたのか知れないけど、

 僕は正直に答えた。

 

「じゃあ、ほんとにシンジくんの気持ちの整理はついてるの?」

 

「ええ、前にも言ったように全て時間が解決してくれました。」

 

「・・・ほんとにそうなの?」

 

 え?

 

「ほんとに時間が全部解決してくれたの?

 私はシンジくんの過去よりそっちの方が信じられないよ!!」

 

 ・・・ヒカルさん?

 

「シンジくんが話してくれた時、確かに悲しそうな顔してた。

 でもなんだか違う気がするの。

 本当に時間がシンジくんの心を傷を癒してくれたのなら、

 もっと悲しい顔をすると思うの、古傷をまた開くようなものだから。

 でもシンジくんは悲しそうだったけど平然としてた。

 まるで傷口が開いたままで痛みに慣れてしまったかのような。

 シンジくんは慣れただけなんじゃないかな、辛い気持ちに。」

 

 慣れただけ・・・・・・そうかもしれない。

 長い時間を掛けて僕の心の傷口は開いたまま血が尽きてしまったのかもしれない。

 

「私もね、シンジくんほどじゃないけどちょっと辛い事があったんだ。

 その後パイロットになって、リョーコ達と出会って・・・

 リョーコ達とやっていく内にだんだん辛くなくなっていったの。

 今思い出してもちょっと辛いけど、リョーコ達がいるから平気。

 リョーコ達がいたから私は立ち直れたと思うの。

 シンジくんは誰かいたの? 支えてくれる人。」

 

 支えてくれる人・・・いるわけない。

 あの時から僕は一人ぼっちだった、赤い海で・・・

 いたとすればエヴァ、ずっと一緒に戦い最後まで僕と一緒にいた。

 母さんの魂が無くなったあともずっと一緒にいた、

 今も一緒に戦ってくれている。

 もしかしたらエヴァが僕の心を支えてくれていたのかもしれない。

 

 でも、エヴァには心がない。

 肉体と金属で作られた僕の言う事を聞いてくれる人形でしかない。

 僕の心を作り直してくれても、心の傷までは直す事ができなかった。

 心を傷付けるのは人の心、でも癒すのもまた人の心のみ。

 心無きエヴァでは僕の心を完全に癒す事はできなかった。

 

 長い沈黙の後・・・

 

「・・・時々思うんです。

 僕の心は本当に正常なのかって。」

 

「どうして?」

 

「泣けなかったんです、僕の仲間、友達が死んだ時、

 悲しかった筈なのに涙が出なかったんです。」

 

「・・・」

 

「僕の両親は科学者でした。

 幼い頃の僕が預けられる一週間前、僕の母親は実験で死にました。

 父親はその実験の責任者で、真実は違いますが世間では人体実験で殺したと言う事になりました。

 預けられた先では【妻殺しの息子】って扱われて、虐めの対象にもなってました。

 そんな幼いの頃から酷い扱いをされていたから辛い事に慣れて涙も出なかったのかもしれません。」

 

「もういいよ、こんな事聞いてごめんね・・・」

 

「いえいいんです。 ヒカルさんが言ってくれたおかげで自分の心に気づけたんですから。

 言った通り僕は慣れていただけだったんです。

 支えてくれた人なんかいません、あったのはエヴァだけですから。

 僕の心はずっと昔から傷だらけだったんです。」

 

「・・・私じゃその傷を治す事は出来ないかな。」

 

「わかりません。 でも、僕はこのナデシコが好きです。

 ここにいればもしかしたら治す事が出来るかもしれません、アキトさんみたいに。」

 

「アキトくんみたいにって?」

 

「アキトさんも辛い過去を背負っています。

 アキトさんの強さはそれを代償に比例して手に入れた物です。」

 

「アキトくんの強さ・・・

 あんなに強いんだからよっぽど辛い事があったの?」

 

「そうらしいです。 それ以上は僕も言えません。

 アキトさんはこのナデシコを守っています。

 最初は僕がナデシコを守るのはアキトさんに付いてきたからです。

 でも今は自分でこのナデシコを守りたいとも思っています。

 もしかしたらこのナデシコを守りきった時が僕の心の傷が治り切った時かも知れません。」

 

「そっか、頑張ってねシンジくん。

 何かあったら何時でも私に相談してね。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

 僕はお礼を言うと立ち上がって展望室の扉に向かう。

 

「あ、最後に聞きたいんだけど

 シンジくんが自由になったのって14歳の時だよね。」

 

「ええ、そうですよ」

 

「その時から時間が解決してくれたって事は、結構時間が経ってるんだよね。

 その割にはシンジくんて15歳位にしか見えないんだけど。」

 

「そうですか? 

 まあ髪の色とかが変わってから全然成長しなくなちゃいましたから。」

 

 ていうか不老不死と言っても間違いじゃ無いんだよね。

 

「じゃあシンジくんって今いくつなの?」

 

「あはは、忘れちゃいました。

 でも、もしかしたらヒカルさんより年上かもしれませんね。

 それじゃ。」

 

 ほんとに忘れちゃってるんだよ、正確な年齢は。

 年上は確実だけど。

 

 僕はそう言って逃げるように展望室を後にした。

 

 

 

 

 

 

「・・・シンジくん、年上だったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

第十一話 その二へ続く