< 時の流れに福音を伝えし者 >

 

 

 

 

 

 

アフリカ編・第二話 塵灰の双姫

 

 

 

 

 

 ピッ!!

 

 

 通信ウィンドウに私の親友が映る

 

「クリス、久しぶり!!」

 

『マイ!! どうしたの急に!?』

 

 私が突然連絡したから驚いているわね。

 一ヶ月ぶりくらいかしら、クリスと話をするのは。

 

「エヘヘ、明日やっとそっちに戻れるのよ。

 だから連絡の一本くらい入れておこうと思って。」

 

『え!! マイ、明日帰ってくるの!?』

 

「うん、いろんな所回ってみるのもよかったけど、

 やっぱりクリスがいないんじゃ調子が出ないのよね。

 明日からはエースチームの復活よ!!」

 

 遠征部隊のパイロットメンバーなんてすっごくトロいし、

 チームじゃ戦いにくくてしょうがないんだもの。

 一人で戦ったほうがましってくらい。

 

『うん、そうね・・・』

 

「どうしたのクリス、覇気がないわね。

 いつもの無駄な元気は何処にいったのよ?」

 

『無駄はよけいよ、ちょっとね・・・』

 

「どうしたのよ、ほんとに元気ないじゃない。

 悩みがあるんだったら相談に乗るわよ。」

 

『実は・・・・・・』

 

 

「ええぇぇぇ!!! 好きな人ができた〜〜〜!!!」

 

 

『ちょ、ちょっとマイ!! 声が大きいわよ!!』

 

 それがなんだって言うのよ!!

 クリスに先を越されるなんて!!

 

「で、誰なの!?

 そのクリスの恋人って!!」

 

『こ、こ、こ、恋人じゃないわよ!!(//////)

 ただ私が勝手に好きになっただけでまだ!!』

 

「あ、そうなんだ。」

 

 そういえば好きな人としか言ってなかったわね。

 焦ったわ、私なんかめぼしい人すらいないんだもの。

 

「それで何を悩んでいるのよ。

 好きなら好きって言っちゃえばいいじゃない。

 まさか言うのが恥ずかしいとか?」

 

『それもあるんだけど、それ以上に倍率が高すぎて・・・』

 

「倍率?

 倍率ってあの学校の入学受験とかに使うあれ?

 何で好きな人と倍率が関係があるのよ。」

 

『だってシンジくんすごくもてるんだもの。

 あ、シンジくんって言うのはその好きな子なんだけどね、

 うちの基地の半分くらいの女性がシンジくんのファンみたいなの。』

 

「ちょっと待って、今好きなって言わなかった。

 それに基地の半分の女性がファンなんてそんな人いた?

 それだけ人気なら私が知らない筈無いじゃない。」

 

『確かにマイって人の恋愛話が三度の飯より好きだったわね・・・

 相談する相手を間違えたわ。』

 

 失礼ね、クリスの恋を成就させるのはパートナーとしての私の勤めじゃない。

 別に邪魔する気なんかないわよ。

 

「それでそのシンジくんってどういう人なの?」

 

『この前うちの基地に配属されてきた子で年下なの。』

 

「年下って・・・私達だって基地内で最年少なのよ。

 一体何歳なのよ、その子?」

 

『わかんない、お母さんに資料を見せてもらったけど年齢が書いてなかったのよ。

 多分15歳くらいだと思う。』

 

「15歳って・・・そんな子本当に軍に入れちゃっていいの?

 私達だって親のおかげで入れているようなものなのに。」

 

『配属されたって言ったけどシンジくんってネルガルからの出向社員みたいで、

 軍に入ってる訳じゃないからそういうこと関係してないみたいなの。』

 

「ふ〜ん、で基地の半分の女性がファンってマジ?」

 

『マジよ、だから困ってるんじゃない。

 あのミズキさんだってシンジくんに惚れちゃってるんだから。』

 

「えぇぇ!! あの男嫌いのミズキさんが!?」

 

『そうなのよ、何でも年下が好みだったみたい。』

 

 これはいいネタを聞いたわ。

『男嫌いのミズキさんは実はショタ!!』何てネタおいしすぎるわ。

 帰ったらこのネタをどうやって広めよう?

 私の顔が自然とにやける。

 

『マイ、何か変な事考えてるでしょ。

 言っとくけどミズキさんの事は基地中でもうとっくに噂が流れて、

 今じゃ沈静化し始めているくらいよ。』

 

「え?」

 

 そ、そんな、せっかくの噂を広めると言う楽しみが・・・

 

『ミズキさんってすごく露骨なのよ。

 もうだれが見ても解るってくらい。』

 

「そ、そうなの・・・」

 

 あのミズキさんがねえ。

 一時期、クラウリア准佐一筋のレズかなんて噂が流れた事もあったけど・・・

 

 あ、それ流したの私か。

 

『なんか話がずれちゃったけどライバルが多すぎるの。

 マイ、どうすればいいと思う?』

 

「それはもう押すしかないでしょ。

 押して押してその子を独占するしかないわ!!」

 

『い、いきなりそんな事言われても・・・』

 

「そうやって引いたら負けよ。

 恋愛も戦争と同じ、負ければそれまでなんだから。」

 

 う〜ん、我ながら名言だわ。

 私はちょっぴり自分のセリフに酔いしれてしまう。

 

 

 ピピ〜ッ!! ピピ〜ッ!!

 

 

 そんな時、私の部隊の集合合図がかかった。

 今いいところだったのに・・・

 

「クリス、集合が掛かっちゃったからもう切るわ。

 この話の続きは明日帰ったらするから、それじゃ。」

 

『ちょっと!! マイ ピッ!!

 

 私は通信を切って集合場所へ向かう。

 明日が楽しみね、ほんと。

 

 

 

 

 

 

 翌日、私は予定通り基地へと帰ってきた。

 私は自分の機体を動かして格納庫に移動する。

 途中に見なれない紫の機体がクリスの機体の隣にあったわね。

 何なのかしら、あの機体?

 

 わたしが機体を固定してアサルトピットから出た。

 

「お〜い!! マイちゃ〜ん!!」

 

「あ、コウジさん、久しぶり。」

 

 その時、アサルトピットを出たところの私に声がかかった。

 下のほうで手を振っている男の人に私は返事を返す。

 

 その人の名前はヨシカワ コウジ。

 まだ二十代なのに、この基地の整備部長で私のエステバリスを希望通りにカスタムしてくれた人。

 腕はなかなかの物でカスタムしてくれたエステはとっても扱いやすい。

 

 私は設置された階段で下に降りた。

 

「元気そうだな、マイちゃん。

 遠征部隊ではどうだった?」

 

「いろんな所を回ってみるのは結構楽しかったんだけど、

 即席のチームで戦ってたから調子が出なくて、出なくて。

 やっぱりクリスと組んでるほうがすっごく戦いやすいわ。」

 

「ハハハハハ、マイちゃんもそうだったのかい。

 クリスちゃんも少し前まで同じようなこと言ってたよ。

 今はシンジのことで頭一杯だからそれどころじゃないみたいらしいがな。」

 

 コウジさんは笑いながらそう言う。

 ふ〜ん、クリスの奴けっこう真面目に悩んでるんだ。

 

「そう言えばクリスは何処にいる?

 パートナーが帰ってきたって言うのに出迎えもしないなんて。」

 

「マイちゃん達の到着時間はこちらには分からなかったからな。

 まあ到着したのはもう基地全体に伝わってるだろうし、すぐにこっちに来るんじゃないか。」

 

「マイ〜〜〜〜!!」

 

 そこへ、遠くのほうから私を呼ぶ声がした。

 その声はだんだんこっちの方に近づいてくる。

 

「ほら、来たみたいだぜ。」

 

 格納庫の扉からマイが入ってきて、私のところに走りついた。

 

「はあ、はあ・・・マイ、せめて着く直前にでも連絡入れてよ。」

 

 クリスは走ってきて乱れた呼吸を整えながら私に言う。

 

「そんな事言ったって輸送船の中だったんだから通信する機会なんてなかったわよ。

 それを言う為にわざわざ走ってきたの?」

 

「何言ってるのよ、昨日話の途中だったのに通信を勝手に切っちゃったじゃない。

 マイは口が軽いからどんな尾にヒレの付いた噂を流されるかわからないじゃない。」

 

「あら、私は噂を流す時は間違いなく正確に伝えるわよ。」

 

「流されるだけでも十分迷惑よ!!」

 

「冗談よ、ジョウダン。

 じゃ、そろそろ行きましょっか。」

 

 私はクリスの腕を掴んで格納庫の出入り口へ向かう。

 

「ちょ、ちょっとマイ、行くって何処によ!?」

 

 クリスは私に引っ張られながらも私に言い返す。

 

「そんなの決まってるじゃない。

 クリスの愛しの人のところへよ。」

 

「い、愛しの人って・・・何言ってるのよ!!

 それになんでシンジくんのところに行かなきゃいけないの!?」

 

 鈍いわね〜・・・

 

「だから、そのシンジくんにアンタの思いを伝えによ。」

 

「ええぇ〜〜〜!!

 マ、マイ!! いきなり何言い出すのよ!!」

 

「コウジさ〜ん、私の機体の整備お願いしますね。

 連日の戦闘で結構が無理が来てたので。」

 

「おう、任しといてくれ。

 それと、何だかわからんが頑張れよ。」

 

「コウジさん、応援してないで助けて下さいよ!!」

 

 クリスの悲鳴のような声を聞きつつ、

 私は格納庫を後にした。

 

 クリスの好きなシンジくんって子、どんな子か楽しみね。

 

 

 

 

「で、そのシンジくんて何処にいるの?」

 

 私は歩いていた通路でクリスに聞いた。

 

「場所もわからずに歩いていたの、マイ?」

 

「だって私、彼の名前と年くらいしかマイに教えてもらってないじゃない。

 何処にいるかなんて帰ってきたばかりの私にわかるわけないでしょ。

 それで、何処にいるの?」

 

「今頃の時間帯だと多分食堂で手伝いしてると思う。」

 

「食堂?・・・

 シンジくんてコックなの?」

 

「ううん、パイロットよ。」

 

「パイロット!? 機動兵器の?

 その子って私達より年下でしょ!!

 そんな年齢で戦場のほうに出てるの!?」

 

「私達もそんな事言えた義理じゃないでしょ。」

 

 そ、それはそうかもしれないけど・・・

 

「・・・この際その事は隅に置いとくわ。

 でも何でパイロットが食堂で手伝いをやっているの?」

 

「シンジくんが前にいたところではコックを兼任してたんだって。

 それで自分から食堂を手伝っているみたいなんだけど、

 シンジくんの料理ってとってもおいしくって・・・」

 

 クリスが顔を赤くして嬉しそうに話し始める。

 これは重傷ね、クリスがここまで虜になるなんてほんとにどんな子かしら。

 ますます会うのが楽しみになってきたわ。

 

 

 

 

 

 食堂に到着すると席には数人程の客がいた。

 この時間帯は普通昼食を済ませてしまった後だからあま人がいない。

 でもその数人の中にクリスのお母さんのクラウリア准佐がいた。

 

「クラウリア准佐、霧島マイ少尉ただいま帰還しました。」

 

「ご苦労様でした、マイ少尉。」

 

 親友の母でも上官なので敬礼をして戻ってきた報告をする。

 

「それでマイちゃんは昼食を食べに来たの?」

 

 そして急に和んだ雰囲気で私に問い掛ける。

 クラウリアさん、公私をはっきり区別してるのよね。

 

「いえ、ここに新しいパイロットがいるって聞いたんで会いに来たんです。」

 

「そう・・・」

 

 クラウリアさんは視線をクリスに移し、その後また私に戻した。

 

「そういう事ね。」

 

 そう言うとクラウリアさん面白そうに微笑んだ。

 

「シンジくんならもうここにはいないわ。

 多分訓練場で男性隊員とやりあってるんじゃないかしら?

 モテる子はつらいってこういう事をいうのかしら?」

 

「あの・・・それはどういう意味ですか?」

 

「彼って男女両隊員と仲良く出来て人気があるんだけど、

 女性にモテることに関しては男性隊員に結構恨まれているらしいの。

 だから訓練ついでに憂さ晴らしを考えている人がいるみたい。」

 

「だ、大丈夫なんですか?

 彼って私達より年下って聞きましたけど・・・」

 

「最初は私達も危ないと思ったけどシンジくんって結構強かったから安心したわ。

 訓練場に行けばすぐわかると思うわ。」

 

「はあ・・・」

 

 軍人相手に安心出来るほど強いってほんとにいったいどんな子なの?

 

「じゃあ訓練場のほうに行ってみますので。」

 

 私はクリスをつれて食堂を出ようとする。

 

「あ、マイちゃん、ちょっとまって。」

 

 私は一度そこで引き止められ、

 見るとクラウリアさんが傍に来るように手招きをしていた。

 傍に来ると耳を傾け、クラウリアさんは私にだけ聞こえるように話し出した。

 

「マイちゃん、クリスって結構奥手だから気の変わらないうちは応援してあげてね。

 それとあまり深入りし過ぎると逆効果だから気をつけて。」

 

 あはははは・・・・・・

 クラウリアさんには私の考えがバレバレだったみたい。

 

 私はその忠告を了解してクリスと共に訓練場のほうへ向かった。

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 私達は訓練場の前まで来ると扉を開けて中に入った。

 だけど中に入った瞬間、私は言葉を失ってしまった。

 

「一体何があったの?」

 

 訓練場はかなり広く一辺五十m程の四角い部屋になっている。

 そしてその広い床には何十人もの人が倒れ伏せていた。

 さいわい血の匂いはしないから死んではいないみたいだけど、

 これじゃあまるで戦国時代の合戦場(かっせんじょう)の後みたい。

 

「シンジくん、また派手にやったわね。」

 

「うそ!! これをそのシンジくんって子がやったの!?」

 

「うん、始めは驚いたけど今じゃ日常茶飯事だし。

 男性隊員達も懲りないのよね。」

 

 日常茶飯事って・・・いつもこんな事をやっているの?

 クラウリアさんの行けばわかるってこういう意味だったのね。

 話を聞けば聞くほど解らない子ね、シンジくんって子は。

 

「ところでそのシンジくんって子は何処にいるのかしら。」

 

 訓練場を見渡してみると一人だけ立っている人がいた。

 あれは・・・

 

「ミズキさん。」

 

 私は名前を呼びつつミズキさんの元へ屍(笑)を避けながら向かった。

 ミヅキさんは立ってはいるが手を膝について息を切らせている。

 

「はあ、はあ・・・マイさん、久しぶりですね。」

 

「ミヅキさん、大丈夫ですか?」

 

「ええ、何とか大丈夫です。」

 

 そう言って深呼吸をして息を整える。

 

「ところでミズキさん、あなたもシンジくんと言う子と訓練をしていたんですか?」

 

「ええ、と言ってもほとんど歯が立たないし、

 近頃やっと立っていられるようになったくらいですよ。」

 

 ミズキさんは白兵戦が超一流でこの基地内でも、

 男女隊員両方を含めて勝てる人はほとんどいないっていうのに。

 

「それでそのシンジくんって何処にいます?」

 

「シンジくんなら今さっき部屋に戻りましたよ。

 ほとんど二人と入れ違いで。」

 

「そうですか。 クリス、その子の部屋ってわかる?」

 

「うん、何度か言ったことあるし。」

 

「じゃ、そこへ行くわよ。

 ありがとうございました、ミズキさん。」

 

 私は訓練場を出て、クリスの案内で彼の部屋へ向かった。

 

 

 

「もしかしてマイちゃんももうシンジくんを・・・

 これ以上ライバルは増えてほしくないのに・・・」

 

 ミズキさんの不安の呟きは私には届いてはいなかった。

 

 

 

 

 

「そういえばクリス?

 そのシンジくんの部屋には前に何しに行ったの?」

 

「べ、別に何しに行ったっていいじゃない!!」

 

「むきになるところが怪しいわね。

 クリスも結構やるようになったのね。」

 

「ち、違うわよ!!

 私から行ったんじゃなくてシンジくんにお茶に誘われて・・・」

 

「へえ、大胆なのはその子のほうなの。」

 

「だからそうじゃなくて!!

 ああ、もう、ほら着いたよ!!」

 

 そう言ってクリスは立ち止まり私も立ち止まった。

 目の前の扉の表札には『イカリ シンジ』って書いてある。

 名前からしてやっぱり私と同じ日系人みたいね。

 でも、イカリ シンジって何処かで聞いたような・・・

 

「呼び鈴押すわね。」

 

 クリスが扉の横の呼び鈴を押した。

 

 

 ピンポ〜ン!!

 

 

「は〜い。」

 

 扉の向こうから返事が聞こえた。

 私はクリスの後ろに立って出てくるのを待つ。

 やっと会えるのね、そのシンジくんって子に。

 

 

 プシュー!!

 

 

 扉が開くと中から白銀髪の真紅の瞳をした少年が出てきた。

 確かに私達より年下みたいだし顔立ちは日系人だけど、

 この髪と瞳の色にはちょっぴり驚いた。

 でもそれ以上にその色に何か神秘的な物を感じた。

 これならファンが出来ても不思議はないわね。

 

「クリスさんだったんですか。

 今丁度お茶にして所なんですけどいっしょにどうです?」

 

「あ、うん、それもいいんだけど、

 実は私の友達を紹介しに来たの。」

 

 クリスが私を見せるように横に退く。

 

「えっ、誰なんで・・・すか?・・・」

 

 シンジくんが私を見た途端急に声を震わせ、口を開けたまま固まってしまった。

 どうしたんだろう?

 

 

「・・・・・・マナ。」

 

 マナって誰?

 

 

 

 

 

 

 

 

その二へ続く