私、追いかけますから、何処までだって。
例え、アキトさんの生存確率が一%以下だとしても、私は捜し続けますから。
だってあなたは私の好きな人なんですから・・・・・・
∞黒のお姫様∞
第二話・裏:それぞれの旅立ち
【連合軍総合病院】
アキトさんがランダムジャンプで消えて数日後、
私はユリカさんのお見舞いに病院に来ていました。
アキトさんの事は既にユリカさんも知っている筈です。
事実上アキトさんをランダムジャンプさせてしまったのは私の作戦が原因です。
ユリカさん、私の事恨んでるでしょうね。
私はユリカさんの病室の前に来て立ち止まります。
何を言われるかわかりませんが私は逃げるつもりはありません。
私は意を決して扉をノックしました。
「は〜い、どうぞ♪」
予想に反して扉の向こうからあまりに気の抜けた声が聞こえました。
おかしいですね、アキトさんのことを知っているのなら落ち込んでいると思ったのですが。
まだ、知らされていなかったのでしょうか?
プシュー
考えていても仕方ないので私は中に入ることにしました。
「あ、ルリちゃんいらっしゃい。
お仕事頑張ってる。」
ユリカさんはベットに体を起こして座っていますが元気そうです。
とても病人には見えません。
「はい、ユリカさんも元気そうで何よりです。
もうすぐ退院でしたよね。」
「うん、ずっと心配かけててごめんね。
退院してアキトが帰ってきたらまた一緒に暮らそう。」
「あっ」
やっぱり先日の事、ユリカさん知らなかったんですね。
話さなきゃだめですよね、先日の事。
「ん、どうしたのルリちゃん。」
「実はユリカさんに話があるんです。
先日アキトさんを見つけたんです。
何とか捕まえようとしたんですがアキトさんの船のジャンプユニットを壊してしまって
アキトさんの船が・・・
「ランダムジャンプしちゃったんでしょ、ルリちゃん。」
え?
「知ってたんですか、ユリカさん?」
「うん、昨日お父様に教えてもらったの。」
「・・・・・・すみません、ユリカさん。
私のせいでアキトさんが。」
「なんで謝るの、ルリちゃん?」
ユリカさんは何がなんだかわからないような顔をしています。
それはもうおもいっきり。
「だってランダムジャンプなんですよ!!
何処に行ったのか解らないんですよ!!」
私はつい大声で叫んでしまいましたがユリカさんの表情は変わりません
私こそ何がなんだかわからなくなってきています。
「何処に行ったのか解らないの今までも同じだったよ。
それに探しに行かなくたってアキトはちゃんと返ってくるよ。」
「どうしてそんな簡単に言えるんですか!!
もしかしたらアキトさんはもう死んでいるかもしれないんですよ!!」
私の叫びは続きます。
なんでユリカさんはこんなにも落ち着いていられるんだろう。
その全ての答えは次のユリカさんの言葉で分かりました。
「アキトは絶対死なないよ。 アキトはユリカの王子様だもの。」
このセリフ・・・確か何処かで聞いたような・・・
私の頭の中で先日のアキトさんとの会話が再現されました。
『それにわかったんだ。 ユリカは俺のことが好きな訳じゃないって。』
「なに言ってるんですか!!
ユリカさんはよくアキトさんのことを好きって言ってたじゃないですか!!」
『ああ、だが好きなのは王子様だったんだ。
ユリカはその理想を俺に押し付けていただけだったんだ。』
「どうして・・・・・・」
『俺達が誘拐された後、ユリカは遺跡と融合させるために丁重に扱われたのに対し、
俺は多くの実験で何度も死に掛けたんだ。
そのことを研究員がユリカに伝えた時に弱りきった聴覚でもはっきり聞いたんだ。
【アキトは絶対死なないよ。 アキトはユリカの王子様だもの。】
ってな。 その時俺は分かったよ。
ユリカは決して俺を見てるんじゃないってな。
もうユリカのことなんてどうでもいいんだ。』
「アキトさん・・・・・・」
アキトさんがユリカさんを愛していないといった理由
ユリカさんが言ったのはそれとまったく同じ言葉でした。
「だから、ルリちゃんも探しに行かなくたっていいんだよ。
アキトはちゃんとユリカのところに戻ってくるんだから。」
私はユリカさんの話を聞いていく内にだんだん腹が立ってきました。
この人はアキトさんを自分の所有物かなにかと思っているのかと。
それとこんな人をアキトさんと一緒になることを祝福した自分と
こんな人を大切な姉だと思っていた自分と
アキトさんに帰ってきてほしい理由にこの人の名前を出してしまった自分に。
「ユリカさん、仕事があるので私もう行きます。」
「えー、もう行っちゃうの?」
「私も忙しい身なので。」
そう言い切って私はこの部屋をすぐに出ました。
アキトさんの言っていた事はこういうことだったんですね。
それでもアキトさんはユリカさんを助けるために必死に戦ったんですね。
それなら私もアキトさんを捜し続けます。
アキトさんが命懸けでユリカさんを捜したように私もどんな方法を使ってでも探します。
前みたいに死んだからって諦めません。
あの時も探していればもっと速く会えたかもしれないんです。
見つけ出してあのメッセージの約束を果たしてもらいます。
私も同じ思いを伝えたいから。
ピピッ!!
ハッ、どうやら思いに耽(ふけ)り過ぎてたみたいです。
コミュニケがなっています、誰からでしょう。
『こんにちわ、ルリちゃん。』
「何ですか、イネスさん。」
私はそっけない返事をします。
自分で言うのもなんですが考え事を中断させられて不機嫌です。
『あら、そっけない返事ね。
せっかくアキトくんの事が分かったかもしれないのに。』
「なんですって!!
教えてください今すぐ!!
さあ早く!!」
『お、落ち着きなさい、ルリちゃん。』
「これが落ち着いていられますか!!
アキトさんは何処にいるんです!!」
『場所がわかった訳ではないわ。
ただ、ランダムジャンプの情報が手に入ったのよ。
それとアキトくんに探し出せる可能性も雲を掴むような物だけどあるかもしれないわ。』
「本当ですか!!
ならなおさら早く教えてください!!」
『わかってるわ。
ならこっちに来てちょうだい。』
「わかりました。」
やっと手掛かりが見つかりましたか。
アキトさん、絶対見つけ出しますからね。
【ネルガルボソンジャンプ研究所】
「いらっしゃい、早かったわね。」
「アキトさんが見つかるかもしれないのに
もたもたしてなんかいられません。
それで何がわかったんですか。」
「まあそんなに焦らないで。
ちゃんと説明してあげるから。」
「手短にお願いします」(きっぱり)
「・・・わかったわ。」
明らかに残念そうな顔をしないでください、イネスさん。
「それじゃあ説明するわね。
今この研究所では遺跡つまりはジャンプユニットを
管理、研究をしているわ。
それほど進展がある訳ではないけど。
それでこの世界の何処かで誰かがボソンジャンプすると
遺跡か起動してジャンパーのイメージを演算して
別の場所に送るのは知っているわね。」
「ええ、依然イネスさんが散々説明してくれましたから。
それとアキトさんと何の関係があるんです。」
「覚えていてくれてありがとう。
でも話は最後までちゃんと聞いてちょうだい。
アキトくんの事を話す前に遺跡の機能についてもう少し説明しておかなければならないわ。
遺跡は誰かをジャンプさせる時に二回動くの。
一回目はジャンパーを粒子に変換し情報を遺跡に取り込む。
二回目は取り込んだ情報を演算したイメージの場所に転送し粒子を再構築させる。
これがボソンジャンプのメカニズムよ。
それでこれがアキトくんにどんな関係があるのかと言うと
アキトくんのランダムジャンプした時間帯に遺跡が起動したのが観測されたわ。
ただ問題なのはその時遺跡は一回しか動かなかったという事。」
「それはどういうことですか?」
「つまりジャンプインはしたけどジャンプアウトはしていない。
過去の例からすれば過去か未来に跳んだという事よ。」
「じゃあこの世界の何処を捜しても・・・」
「いない可能性が高いわね。
少なくとも一ヶ月以上過去に跳んだのなら既に死んでしまっている筈よ。
未来に行ったとしたら会える可能性はあるかもしれないけど
何時になるかわからない上、私達の寿命が先に尽きてしまうかもしれないわね。」
「それがさっき言っていた会える可能性ですか?」
「いいえ、ちがうわ。 今のはただ待つだけの話。
私はさっき探し出せる可能性と言ったわ。
それも特定の人間にしか出来ず十二分に死の可能性があるわ。
それだけのリスクを払っても会える可能性は皆無といえるわ。
それでも聞きたい?」
「もちろんです。」
戸惑うことなく即答しました。
私は決めたんです、どんな方法を使ってでもアキトさんを見つけると。
「見事なくらいに即答ね。
これじゃあ話しても止める気にはなりそうもないわね。」
当然です!!
「じゃあ一緒に来てちょうだい。
アキトくんを追いかけるにはある物が必要だから。」
「はい。」
私はイネスさんについて奥の部屋に行きました。
「ここよ、この部屋は私専用の研究室なの。」
扉の上には
【イネス・フレサンジュのドキドキ研究所】
と書いてあります。
何がドキドキなのか怪しさたっぷりですね。
「さあ、入って。」
中に入ると誰かいました。
この人は・・・
「ラピスラズリですね。」
桃色髪の女の子はこくんと頷いて答えてくれました。
「ルリ、アキトノ前ノ家族。」
「ムッ!! 私は今でもアキトさんの家族です!!」
「チガウ、今ハ私ダケガアキトノ家族。」
「違います!! 私が!!・・・」
「はいはい、喧嘩はそのくらいにして。
話が進まないわ。」
イネスさんが私達の仲裁に入ります。
そうでしたね、今はアキトさんの方が大事です。
ラピスとはいずれ決着を付ける事になるでしょうが。
「それでなぜ彼女がここにいるんですか?」
「彼女が探し出せる可能性がある特定の人物よ。
そしてルリちゃん、あなたもね。」
「私がですか?」
イネスさんはいろんな薬品の入った棚を開けて
中から何かを取り出しました。
「これよ。」
イネスさんの手の中には二本の無針注射器がありました。
中には何かのナノマシンが入っています。
「これは何ですか?」
「これは遺跡で新しく発見されたナノマシンよ。
それもA級ジャンパーが持っているボソンジャンプのためのナノマシン。
これがあれば理論上A級ジャンパーになれるわ。」
「理論上というのは?」
「・・・このナノマシンを普通の人またはB級ジャンパーに打てば
確かにボソンジャンプのコントロールが可能になるわ。
でもそれでは人の肉体は持たないの。
今の後天的な遺伝子処理ではA級ジャンパーと同じにする事は出来ないわ。
でもルリちゃんとラピスなら例外だわ。
あなた達はジャンプのための処理を受けている訳ではないけど、先天的な処理のおかげで
A級ジャンパーほどではないにしろ、ジャンプに対する耐久力があることわかっているわ。
このナノマシンを打てばかなりA級ジャンパーに近づく筈よ。」
「つまりA級ジャンパーならアキトさんを探せると言う訳ですか。
それならイネスさんでも問題無い筈ですよ。」
あとユリカさんでも・・・
「残念ながら完全なA級ジャンパーでは無理なのよ。
A級ジャンパーはジャンプを行うことに本能的なものを持っているわ。
自分が意図的にジャンプする時ジャンプ先が不鮮明なら何時までたってもジャンプしないし
ランダムジャンプの場合はジャンプアウトする場所が必ず生きられる環境が選ばれるわ。
この事でアキトくんがランダムジャンプで死んだ可能性はなくなっているわ。
つまり私がアキトくんを追おうとしても何処にいるのか解らないからジャンプ出来ないの。
でもあなた達の場合、ジャンパーとしての本能がないからアキトくんをイメージするだけでジャンプは可能よ。
もちろんそれでアキトくんのところに行ける確証すらないし
行けなければ本当に何処に飛ばされるか解らないわ。
それこそ宇宙空間か太陽の中かも知れないわ。
それでもアキトくんに会うためにこのナノマシンを使う?」
「はい、私はどんなことをしてでもアキトさんを探すと決めましたから。
会える可能性が雀の涙ほどでも。」
「私ハアキトノ目、アキトノ耳、アキトノ手・・・
私ハアキトノ全テ、アキトノイナイ私ハ考エラレナイ。」
なかなか言ってくれますね。
でも私は負けませんよ。
「そこ、変な事で争わない。
それじゃこの注射器を打って。」
イネスさんから無針注射器を渡され
私達は首筋にナノマシンを打ちました。
体の中に広がっていくのがわかります。
「ナノマシンが全身に行き渡ったかしら?
それじゃあはい、CCよ。」
次にCCを渡されました。
「ジャンプ先がどんなところか分からない以上
分かるのはアキトくんだけよ。
いい、アキトくんの事だけ考えなさい。」
「はい。」
「(こくん)」
私達はCCを発動させると体にナノマシンの模様が生まれ。
まわりをジャンプフィールドが覆いました。
「アキトくんに会ったらよろしくね。」
そうイネスさんの声を聞いて私達は光を残して消えました。
ピッ ピッ ピッ
・・・ここは?
見覚えがあります。
たしかここは私が昔いた研究所。
何でこんなところに?
ガチャ
部屋に誰かは言ってきました。
あれは・・・・・・プロスさん?
この前会った時よりなんだか若く見えるのは気のせいでしょうか?
「始めまして、ルリさん。
私はネルガルのプロスペクターといいます。
この名前は本名ではなくペンネームのような物でして
私の事はプロスとでも呼んで下さい。」
プロスさんは名刺を出しながら自己紹介をしてきます。
始めまして?・・・どういうことでしょう?
「実は今度ネルガルで戦艦を作りまして
あなたにはその戦艦のメインオペレーターになってもらおうと思い
我が社で雇わせて貰いました。
それとその戦艦の名前はナデシコといいます。」
ナデシコ!?
じゃあやっぱりここは過去の世界。
この世界にアキトさんはいるんですね。
アキトさんなら多分ナデシコに関係しようとしてくる筈です。
アキトさん、私待ってますからね。
私達が初めて会った場所。
最初のナデシコで。
代理人の感想
・・・・・まー、よくあるユリカヘイトものかなと。
え、このパターンいい加減飽きたって?(爆)