Gemini 第一話


 今の私を見たら、月臣、貴方はなんと言うでしょう?

 本物のマモルは、なんと言うでしょう?

 昔の私は、なんと言うでしょう?

 私のやろうとしていることに対して、なんと言うでしょう?

 言い訳はしません。

 ですが、見守ってください。

 私のやろうとしていることで、この世が平和になるまで………。





 2195年 サセボ


 ネルガル重工所有のドックに、同社が開発した最新鋭宇宙戦艦ナデシコが停泊している。
 宇宙船艦の規格とは、相当かけ離れた形状をしているナデシコであるが、その性能は、現在宇宙軍が所有しているどの戦艦よりも、遥に優秀な能力を秘めている。
 とはいえ、量産されていない現状では、所詮は宝の持ち腐れ。
 戦争は、たった一隻の戦艦の性能で勝利できるほど、甘いものではないのが現状である。
 コスト面から考えれば、当然このナデシコは、戦力として期待できるようなものでは無い。
 一隻作るのに、資金や物資が掛かり過ぎるのだ。
 それゆえ、民間業者であるネルガル重工が、低コスト低資源低燃費と三拍子揃った量産型を、軍に寄付同然に提供することで、ナデシコを自由に使えるようになったのも、いわば必然と言えた。
 もっとも、大抵の業者は、そこまでして、自由に戦艦を使おうなどとは考えないのだが……。
 そのような背景を持つナデシコのブリッジには、ブリッジクルーが集められ、出航の準備が行なわれていた。
 とはいえ、ナデシコのブリッジにおける作業は、殆どコンピュータ任せになるため、行なう作業は殆ど無く、ブリッジクルーは、総じてお喋りに興じているようであったが。
 現在、ナデシコのブリッジにいるブリッジクルーは三名。
 通信士のメグミ・レイナード、操舵士のハルカ・ミナト、オペレータのホシノ・ルリ。
 経歴も年齢も体型も、全く共通点の無いこの三名は、特にそう言った事を気にした様子も無く、乙女の会話に花を咲かしていた。

「今日来る艦長ってどんな人かな? 優しくて、かっこいい人が良いんだけど……」

「そう上手い具合にかっこいい艦長って事は無いんじゃない? ブリッジクルーを女ばっかりにしてる時点で、そういう望みは薄いと思うけど?」

「そうかなぁ……」

 コーヒーを飲みながら会話をしているメグミとミナトに、オペレーター席にいるルリから解答がもたらされる。

「艦長は『頭のネジが二桁単位で足りない』女性です。火星出身の二十歳。地球連合大学を主席で卒業している、『何とかと天才は紙一重』の人物です」

「………ルリルリ、艦長になにかされた?」

「会ってもいませんが?」

 ミナトの問いに、ルリは即答した。

「でも、随分とプロフィールに悪意を感じたんだけど……」

「気のせいです。決して『意中の男性の妻だった』とか、目の前で『意中の男性といちゃつかれた』とか、そんなことは決して無いので」

「………そんなことあったんだ?」

「ありませんよ。えぇ、決して。あの『アーパー』を、どうにかしてナデシコに『乗せないよう』仕組もうとした、なんてことはありませんよ」

「………あったのね?」

「ありません」

 きっぱりと否定するルリに、ミナトは顔を引き攣らせて笑うしかなかった。
 明らかに、会ったばかりの頃のルリと、性格が変わってしまっている。
 それが良い方向にだけ向いていれば、全く問題ないのだが、かなり歪んだ方向にも向かってしまっているので、ミナトとしては、どう評価すべきか判断しかねている。

「まぁ、とにかく、そのアーパーでネジが二桁足りない頭の何とかと天才は紙一重な艦長は女性で間違いないの?」

 ルリの言った言葉を、そのまま鵜呑みにしつつ、メグミがルリに訊いた。

「あのね、メグメグ……」

「えぇ、女性で間違いありません。頭足りないのに、『何も言わなければ』美人の上に、バストが85もあるんです。許し難い事に」

 ミナトがメグミに対して何か注意をしようとしたが、それを遮って、ルリが答えた。

「それは許し難いわね」

「メグメグまで……」

「バスト85なんて凶悪犯罪者と同じです!」

「………」

 きっぱりと断言するメグミに、ミナトはそれ以上掛ける言葉が無かった。
 そんな、到底実りのあるとは思えない会話の行なわれていたブリッジに、一人の人物が入ってきた。
 腰ほどまである艶やかな黒髪をした、ほっそりとした体付きの女性だった。
 女性は、その身をブリッジクルーのオレンジ色の制服で包み、顔にはサングラスを掛けていた。
 サングラスのせいで、どのような顔かは、判別しかねたが、全体としては整っているようであり、美人に分類できるであろう。

「こちらに艦長はいらっしゃいますか?」

 鈴の鳴るような声で、女性が三人に尋ねた。

「………あの、あなたは?」

 興味深そうな視線を女性に向けていたメグミとミナトがのうち、メグミが訊ねる。

「………失礼。貴方達とは初対面でしたね。私はアマヤマ・マモル。ナデシコの経理・調停の副担当官です」

 宇宙軍式敬礼をしながら、女性―アマヤマ・マモルは、そう自己紹介した。

「本日からの乗艦なので、自己紹介が遅れました。申し訳ありません」

「いえ、気にしていませんけど」

 頭を下げたマモルに、メグミがそうフォローする。

「でも、経理・調停って、プロスさんの仕事じゃないの?」

 ミナトが、ふと疑問に思ったことを訊ねた。

「私は、プロスペクター担当官の補佐です。このナデシコの経理が一人というのは大変ですので、仕事を折半しているんです」

「へぇ〜。例えばどんな仕事してるの?」

 メグミが訊く。

「主に、お給料と残務処理関係を任されています。私の乗艦日である本日からは、スカウト・契約・ボーナスの査定も私です」

「そうなんだ〜。じゃあ、マモマモの意向でボーナスカットもありえるのね?」

「私の意向は反映しません。あくまでも、契約と規則の両面からどうするか判断する事にしています。それより『マモマモ』ってなんですか?」

 質問に答えつつ、マモルがミナトに問い返す。

「あだ名よ、あだ名。マモルだからマモマモ」

「まぁ、別にどのように呼んでいただいても構いませんが……言い難くありませんか?」

「大丈夫よ〜。慣れればどってことないから」

「そんなものですか………」

 釈然としないものを感じつつも、マモルはそれ以上追求はしなかった。

「ところで、答えを聞いていませんでしたが、艦長はいらっしゃってますか?……って、見る限りいないようですので、訊くだけ無駄でしたね」

「ここどころか、艦内のどこからも反応がありませんので、おそらく乗艦していないと思われます」

 ルリがマモルの言葉を補正する。

「乗って無い……乗艦記録は?」

 マモルが、ルリに訊ねる。
 ルリは、すぐにオモイカネにアクセスして、答える。

「全くありません。今まで一歩たりとも、この艦に乗艦していません」

「………三十分の遅刻。減俸ですね」

「遅刻で、減俸になるんですか?」

「程度によりますが、なります」

 メグミの問いに、マモルがきっぱりと答える。

「通常勤務中であれば、十分ごとに1%の減俸です。十分以下は注意だけになりますが」

 台詞を読むように、すらすらとマモルが説明する。

「期間は?」

「遅刻をした月限定になります。もっとも、悪質な場合は、半永久的になりますが」

「じゃあ、戦闘中じゃないときに、毎日十分遅刻するだけで20%以上カットされる事も?」

「ありえますよ。しかしながら、毎日になると、悪質とみなして、半永久的にカットする可能性もありますが」

 立て続けのミナトの問いにも、よどみなく答える。

「因みに、艦長は既に今月分3%カットになります」

「着任前に減俸って……なんか哀れね」

「一つ言っておきますが、艦長の遅刻で、仕事が増えて残業になるのは、私です。哀れなのはこっちですよ」

 ミナトの同情の言葉をマモルはあっさりと切って捨てる。
 取り付く島も無い。

「………残業ってどれくらい?」

 ミナトが恐る恐る訊ねる。

「一人の遅刻につき二十分前後。場合によっては三十分から一時間。因みに残業手当は出ません。完全なボランティアです」

「うわ〜………じゃあ今日も?」

 今度はメグミが顔を顰めながら訊ねる。

「酷い遅刻ですので、今日は四十分は掛かるでしょう。もっとも、艦長が始末書を書き終わる時間によって、多少前後されますが」

「最悪ですね。艦長の遅刻で残業なんて」

 ルリが止めの一言を放つと、マモルは軽く頭を抑えた。

「まぁ、私の残業の事は兎も角、艦長が乗艦したら、一応連絡いれてくださいますか? ホシノオペレーター」

「わかりました。とはいえ、いつ乗艦するか、わかったものではありませんが」

「それでも、お願いします……………」

 そうルリに頼んだとほぼ同時に、どこからか電子音が響いた。
 その電子音に、マモルが反応し、コミュニケを見る。

「?呼び出し?……ゴート保安部長から?……なんの用事でしょうか…………」

 そう呟きながら、マモルは、通信を繋げる。
 すると、中空にごつい男の顔が映ったウィンドウが表示される。
 ウィンドに映った顔は、ナデシコの保安部を指揮している、ゴート・ホーリの顔であった。

「アマヤマ経理・調停副担当官です。ゴート保安部長、何かご用ですか?」

『基地の入り口で不審者を捕まえたのだが、取調べが遅々として進まなくてな。ミスターに応援を頼もうと思ったのだが、連絡が付かなかったため……そちらに連絡したのだ』

 むっつり顔で、ゴートが手短に事情を話した。

「不審者ですか? 困りましたね……取調べはこちらの担当ではありませんし。できるとしてもプロスペクター担当官だけなのですが……」

『それはわかっているが、こちらだけでは手におえんのだ。会話が不可能な上に、なぜ基地に来ていたのかもはっきりしないというありさまでな。対応に困っている』

「……わかりました。とにかくそちらにいって状況を確認してから対応を考えます。正確な場所はどこですか?」

『営倉に入れてある。こちらに来てくれれば、あとは案内する』

「わかりました。では後ほど」

 マモルは、そう言うと、通信を切った。
 通信を切ってから、三つ数えて、マモルは大きく溜息をついた。

「はぁ〜………今日も眠れそうにないですね………」

「今日も? って、昨日寝てないの?」

 ミナトが、目を見開いて訊ねる。
 先程までの状態が、とても寝ていない人間の状態に見えなかったからであろう。
 メグミやルリも、同じように驚いていた。

「正確にはここ三日ほど。出航前で忙しい上に、本社の仕事と出航手続きの仕事が終わらなくて……先程昨日分の仕事が終わったばかりだったんです……」

「た、大変ですね」

 メグミが、顔を引き攣らせながら同情した。
 よもや、ナデシコクルーの中に、これほど忙しい人間がいるなどと、思いもよらなかったのだ。

「まぁ、慣れてますけどね……せめて、五時間……いえ、三時間ほど睡眠が取りたいところです……まぁ、無いものねだりなのですが」

 マモルは、先程とは打って変わった、疲れた表情を浮かべた。

「なんとか今日を凌げば寝られる、とか淡い思いを抱いたりしていたのですけど………艦長の遅刻と不審者の件で、霧散してしまいましたので、あと二日は眠れそうにないです」

「なんか……そのうち死んじゃいそうで怖いわね………」

「今寝られるなら、そのまま死んでも良いような感じです………というより、いっそ死ねた方が楽です」

 マモルの暗い顔に、ブリッジが暗い雰囲気に包まれる。

「まぁ、もう諦めてるので、どうでも良いんですけどね………」

「すれてるわねぇ……」

 ミナトが、顔を引き攣らせながら、そんな感想を述べた。
 それに対し、マモルは薄く笑っただけで、何も述べることはなかった。

「さて、忙しくても行かなくてはならないので、もう行きますね」

 そう言って、マモルは、ブリッジを後にしようと扉まで移動したとき、突然ルリが立ちあがり、マモルを呼びとめた。 

「アマヤマさん、待ってください」

「……どうかしましたか? ホシノオペレーター?」

 ルリの呼びかけに、立ち止まり、振りかえりながら訊く。

「私も、その不審者の人のところに連れていってくれませんか?」

「は?」

「ですから、私もその不審者の人に会ってみたいんです」

 思わず間の抜けた声を上げたマモルに、ルリが改めて言った。

「……なぜです?」

「その不審者の人、もしかしたら知り合いかも知れないので、会って確認したいんです」

 ルリの真剣な瞳を、マモルは見つめる。

「仕事は終わっていますか?」

「オモイカネが殆どやってくれるので、ほぼ終わっています」

「ならいいですよ。仕事が終わっていて、理由があるのでしたら、問題ないでしょう。今は平時ですし」

「ありがとうございます」

 ルリはマモルに頭を下げた。

「いいんですよ。これくらいなら……それに……」

 マモルは、一旦言葉を切って、微笑みながらそっとルリの頭を撫でた。

「それに……たまに、こうやって優しい事をしないと、ささくれ立った気持ちが元に戻らないですから……」

「よほどささくれ立ってたのね、気持ちが……」

 ミナトは、同情した視線を向けながら、呟いた。

「まぁ、何はともあれ、そろそろ行かないと、ゴート保安部長が待ちくたびれてしまいそうですので、もう行きますね」

 そう言って、今度こそブリッジを後にしたマモルに伴って、ルリもブリッジを出た。
 ブリッジには、ミナトとメグミが残される。

「大分疲れてるみたいね、マモマモ」

「初対面でもわかるくらいですからね……そうとうきてますよ、あれ」

 などと、二人は呟いたいた。




 ブリッジを出たマモルとルリは、ナデシコから一度下船するためにエレベーターに乗っていた。
 特に何の会話も無く、沈黙がエレベーター内を満たしていたが、ふいにルリの方が口を開いた。

「アマヤマさん。一つ訊いて良いですか?」

「答えられることであれば」

 ルリの問いに守るは即座に答えた。

「………貴方は、何者ですか?」

「は?」

 ルリの問いに、マモルはすぐには答えられず、間の抜けた声を上げてしまった。

「本来貴方は、ネルガルの中枢に関わっている重要な人間、ナデシコに乗るような立場の人ではないはずです」

「うちの会長は乗艦しようとしていましたが?」

「『元大関スケコマシ』は別です、あれは基準になりませんから」

「会長も酷い言われようですね………」

 ルリの酷い評価に、マモルは苦笑した。

「『落ち目のスケコマシ』の話は置いておくとしまして、立場以上にわからないのが、貴方の経歴です」

「…………」

 経歴の話が出た途端、マモルが目を細めた。
 マモルの纏う雰囲気も、冷たいものへと変化する。
 ルリは、その雰囲気に気付いていながらも、平然と話しを続ける。

「九歳以前の経歴がはっきりしていないですし、最近の経歴についても、何ヶ所か不備が見られました。何より……」

 そこで一旦言葉を切り、ルリは、マモルに視線を向けた。
 じっと、マモルの目を見詰め、話しを続ける。

「何より、若干十八歳とは思えない業績と、人間離れした事務能力……なにより、ネルガルの重鎮達が、軒並みあなたの能力を買っている、若干十八歳という小娘の能力を」

「良く調べたものですね、で?」

 ルリの言葉を聞き終えてから、マモルは拍手を送った。
 そして、ルリの次ぎの言葉を促す。

「改めて訊きます。貴方は何者なんですか? 少なくとも、一般人という言い訳は、通りませんよ?」

「その前に一つ良いですか?」

「なんでしょう?」

「どうして、私の事を調べようと思ったのですか? 貴方とは初対面ですし、乗員名簿の私の履歴に、不備はなかったはずですよ?」

「それは………」

 ルリは、そこではじめて口篭もった。
 なんと言い訳すれば良いのか、考えているようであった。
 ルリが良いわけを考え付く前に、マモルが再び口を開いた。

「………『前の歴史』には、私がいなかったから、ですか?」

「!?」

 ルリは目を見開き、体を一瞬震わせた。
 完全に不意を突かれた言葉に、反応が遅れる。

「な、な、な、なんで……」

「やっぱりそうなんだ? ま、だいたい想像はついてたけどね」

 先ほどとは打って変わった口調で、くすくすと笑いながら、マモルはしてやったり、という表情になった。
 ルリは、そこではじめて、かまを掛けられた事に気付いた。

「は、はめたんですか!?」

「人聞きが悪い気もするけど、まぁ、はめられるほうが悪いってことで、恨みっこ無しよ?」

「くっ………わかりました、それについてはいいとします。ですが、改めて訊きます、貴方は、いったい何者ですか?」

 マモルの言葉に、ルリは反論する事が出来なかった。
 おそらく、自分がやった時も、同じことを言うだろうからだ。

「貴方と同じ『時代の逆行者』よ。そして、おそらくは、貴方の良く知る人物」

「私の良く知る………?」

「元ラーメン屋さんの闇の王子様、といえば、察しはつく?」

「ま、ま、ま、ま、ま、ま、ま、ま、まさか!?」

 物凄く、聞き覚えのある単語に、先ほどとは比にならないほど、ルリは動揺した。

「あ、あ、あ、アキトさんなんですか!?」

「ぴんぽ〜ん。大当たり〜。賞品は出ないよ」

 マモルは、プリンス・オブ・ダークネスなどと呼ばれていた頃からは想像できないほど、能天気な声と笑顔で、ルリの言葉を肯定した。

「いえ、別に賞品なんていりませんけど……本当にアキトさん、なんですか? 雰囲気が全然違うんですけど……」

 若干落ち着きを取り戻したルリが、胸に右手を当てながら改めて訊いた。

「雰囲気は確かに変わったかもしれないけど、間違いなく本人よ。もっとも、今は、アマヤマ・マモルだけどね」

 苦笑しつつマモルはそう答えた。

「まぁ、正確に言ってしまえば、今の私は、テンカワ・アキトの記憶を持っているアマヤマ・マモルという女性。と言った方が正しいわけだけどね」

「でも、なんでまた、女性に? しかも、肉体が変化したわけでも、私みたいに、精神が昔の身体に入ったわけでもなく、全く別人の、それも女性の体に精神が入るなんておかしいじゃないですか」

 ルリは、自分の疑問を抑えきれず、マモルにぶつける。
 その時、丁度、エレベーターが目的の階についたので、二人は、会話を続けながら、降りた。
 エレベーターを降りた二人は、通路を歩き始める。

「その事については十八年以上前の話からはじめないといけないから、その話しは、また今度にしましょう。昔話は苦手だしね」

「十八年、ですか?」

「そ、十八年。だって、私がこの世界に来て、もう十八年経ってるんだから」

「なんでそんな昔に…………私は、こっちに来てから僅かに二日なんですよ? ばらつきにも程があります。同時にランダムジャンプをしたのに……」

「ちょっとまって。私は、ルリちゃんといっしょにランダムジャンプなんてしてないわよ?」

 ルリの言葉にマモルは、自分の記憶に照らし合わせて、ルリの言葉を訂正する。

「十八年前、私がこの世界に来た原因は、月臣に攻撃されたからだし、その時ルリちゃんは近くにいなかったはずだもの」

「そんな……私がこっちに来た原因は、ユーチャリスに体当たりを仕掛けたせいで、月臣さんはその時いなかったはずです」

「なんで体当たりしたのかは訊かないけど…………なんでお互いの記憶に違いがあるのかは、だいたい予想できたわ」

「どういうことですか?」

 ルリは、本当にわからないらしく、マモルに訊く。

「あくまで予測でしかないけど……私とルリちゃんの元々いた歴史が、別のものだったって言う事よ。言ってしまえば、パラレルワールド同士だった、ってことかしらね。だから、私とルリちゃんが、この世界に来た時間に、これだけの誤差が出た、と言う事よ」

「なるほど、違う世界から来たのであれば、誤差が出る可能性はありますからね…………でも、そうなると私の世界のアキトさんは……?」

 ルリは、納得すると同時に、根本的な疑問を上げた。

「ルリちゃんと同じだとすれば、この世界のテンカワ・アキトになっている………筈なんだけど、たぶん違うわね」

「なぜですか?」

「一つ目は、さっきのゴートさんの言葉よ。逆行してきたなら、当然、どういう風にすれば一番ナデシコに乗りやすいか、わかっているはず。わざわざ意味不明な言動にして、面倒な事をする必要はないんだから、逆行してきたものだとは考え難い」

 人差し指を一本立てながらマモルが答え、更に解答を続ける。

「二つ目は、私や北辰に特有だった、どす黒い気配が周囲に感じられない事」

「どす黒い、ですか……私には良くわかりません」

「その方が良いわ。この感覚は、人の道を踏み外したものにしかわからない感覚だもの。私や北辰だけで十分よ」

「私は、アキトさんにも持って欲しくありませんが……」

「それは、この世界のテンカワアキトに期待することね。私やルリちゃんの世界のテンカワ・アキトは、既に一度人の道を外れてしまったのだから、どうする事も出来ないわ」

 どこか諦めの混じった苦笑を浮かべる、マモル。
 後悔している風では無いが、浮かべた表情は、どこか悲しげであった。

「ま、とにかく、少なくともこの基地の敷地内にそういった反応は感じられないから、この世界のテンカワ・アキトは、おそらくルリちゃんの世界のテンカワアキトじゃないわね。当時のテンカワ・アキトでは、あのどす黒い感情を隠す事なんて出来ないでしょうからね」

「と、すると、私の世界にアキトさんはどこに? 間違いなく、私とアキトさんは、同時にランダムジャンプをしたはずです」

「まだ精神がジャンプアウトしていないのか、違った形でジャンプアウトしたのか……現状ではなんとも言えないわ」

 そう言い終わった時、マモルは立ち止まり、通路の側面にあった扉を開いた。
 その扉は、乗降用の扉で外部に繋がっており、二人はその扉から外に出た。
 二人はそのまま、ナデシコのあるドックを出て、営倉を目指して歩き始める。

「一つ訊いて良いですか?」

 ルリは、自分より高い位置にあるマモルの顔を見上げながら、訊ねた。

「答えられることであればね」

「貴方が、この世界にきてからの十八年……何をしていたんですか?」

「それは、答えられない質問よ」

「なぜです?」

「言えないから、答えられない質問なのよ。どんな形であれ、この十八年の事は、貴方に……いえ、誰にも話すことは出来ないわ」

 そうきっぱり却下してから、マモルはかすかに笑みを浮かべて、一言だけ、ルリの問いに答えた。

「ま、一つだけ言ってあげられるとすれば、『これからの為に』生きてきた、って、ところかしらね」

「これからの為に………アキトさん、それは……」

「ルリちゃん、一つ言っておくけれど」

 ルリが何か言いかけるのを遮って、マモルが言葉を発した。

「私は、アマヤマ・マモルよ。テンカワ・アキトじゃないわ。今後、アキトって呼んでも返事しないから」

「わかりましたアキ……マモルさん」

「よろしい。さて、目的地についたから、お話はここまでね」

 その言葉のとおり、二人は営倉に辿りついていた。
 目の前には、営倉の入り口がある。

「最後に一つ良いですか?」

 扉に手を掛けたマモルに、ルリがそう訊ねる。

「………何?」

「妙に女言葉になれてませんか? 元はアキトさんなのに」

「十八年も女やってれば慣れるわよ」

 そう苦笑しながら、マモルは営倉の扉を開いて中に入った。
 営倉の中には幾つもの扉の並んだ廊下があり、入り口付近に置かれた椅子に、コーヒーの入ったカップを持ったごつい男が座っていた。
 他ならぬ、ゴート・ホーリーである。

「お待たせしました。ゴート保安部長」

 ルリと話していた口調とは違う、丁寧な口調で、マモルはゴートに声をかけた。

「それほど待ってはいない。それより、さっそく不審者と会ってみてくれ」

 そういうと、近くにあったテーブルに、カップを置いて立ちあがり、ゴートはマモルを先導するように歩き始めた。
 ルリがいることも特に咎められなかったので、マモルは、そのままルリを連れて、ゴートの後に続く。

「ここだ」

 ゴートは、幾つもある扉の中の一つの前で立ち止まると、鉤をあけて中に入った。
 中には、簡素な机と、二脚の椅子、そして椅子の片方には、十代後半の少年が座っていた。

「あら? 誰かと思えば、テンカワさんじゃありませんか?」

 マモルは、少年の姿を確認すると、そんな事を言った。
 さも、今知ったばかりであるかのように、極自然に。
 先ほどから、予測していたというのに、だ。

「え?」

 その言葉に、少年は顔を上げ、マモルを見た。

「火星でお隣同士だった、テンカワ・アキトさん、ですよね?」

「た、確かに俺は、テンカワ・アキトです、けど……えっと………どなた、ですか?」

 少年―この世界のテンカワ・アキトは、うろたえたような、驚いたような、損な顔をしながら、マモルに訊ねる。

「私をお忘れですか? 隣に住んでいたアマヤマ・マモルです」

「アマヤマ……マモル…………あっ! 思い出した!! すっかり大人の女性になってて気付かなかったけど、お隣のマモルちゃんか!!」

「思い出していただけたようで何よりです」

 そう言って微笑みつつ、マモルは、ゴートへと視線を向けた。

「聞いてのとおり、このテンカワさんと私は知り合いですので、取り調べは私がします。すみませんが、積もる話もあると思いますので、席を外していただけませんか?」

「そう言う事なら、まぁいいだろう。他ならぬアマヤマの頼みだしな」

「有難うございます。ゴート保安担当。前の減俸を短くして差し上げますね」

「それは有り難いものだな」

 そう言いつつ、ゴートはその場を後にした。
 そしてその場には、マモルとルリ、アキトが残される。

「ルリちゃんはどうする?」

「私は残ります。話の内容が気になりますので……それよりも、知り合いだったんですか?」

「えぇ、私がこっちにき……生まれた頃から地球に移住するまでの間だけだったけどね」

 そう言いつつ、マモルはアキトの向かい側の椅子に腰掛けた。ルリは、その傍に立つ。

「さて、テンカワさん。とても久しぶりに会ったのですから、本来なら世間話の一つもしたいところですが……こちらにも時間的な都合がありますので、ぱっぱと話を進めさせてもらいますね」

「え、あ、うん」

「まず、ここに来た理由を述べてください。報告書に記載しますので」

 いつの間に出したのか、マモルは、携帯用端末を起動させながら言った。

「えっと、火星に住んでた頃、マモルちゃんの家とは反対側の家に住んでたミスマル・ユリカって憶えてる?」

「えぇ、憶えています」

「そのミスマル・ユリカに今日偶然出会って、訊きたいことがあったから、後を追ったら、ここに来ちゃったんだ」

「それで捕まったと?」

「うん」

 手早く、アキトの言った事を端末に記録しながら、マモルは溜息をついた。
 わかっていたとはいえ、改めて聞いて、昔の自分の後先考えない性格に対して、思わずついてしまったのだ。

「話はわかりました。まぁ、理由が理由ですので、すぐに釈放できると思います」

「はぁ〜……よかった……」

「よくありません」

 安堵するアキトを、マモルは睨みつけた。

「今回の不審者騒ぎで、私は報告書を書かなくてはいけないんですよ? それも詳細に。ただでさえ他の報告書があるというのに、余計な仕事が増えたんですよ? どこがいいんですか?」

 軽く頭を抑えながら、マモルは、愚痴のような言葉を紡ぐ。
 さすがに報告書が増えた事は許容し難かったようだ。

「ご、ごめん」

「いえ……こちらもここ数日寝ていなくてイライラしてしまいました。テンカワさんにあたることはありませんでした、すみません」

 マモルは、アキトに対して軽く頭を下げた。
 もっとも、マモルのいらつきは、寝ていない事や報告書の事ばかりではなく、過去の自分の能天気な安堵に対する、微かな怒りも混じっているようであったが。

「そ、そんな、謝らないでよ、悪いのは、俺なんだしさ」

「それでは、お互い様と言う事で、一度話を切るとしまして……これからどうするつもりですか? 釈放後、行く場所があるなら、送らせますが」

「う〜ん……ユリカに会おうとは思ってるんだけど……」

「そんなに恋しいんですか?」

 真顔でアキトに問うマモルに、アキトは誰の目から見てもわかるほど嫌な顔をした。

「冗談は言わないでくれ、頼むから。俺が会おうと思ってるのは、あいつが火星を離れた日に両親が殺されたから……何か知っていればと思ったからなんだ」

「そうですか……しかし、なんでミスマルさんが何か知っていると?」

「なんとなく……というより、俺の知り合いで、知ってそうな人物で、偶然見つけたから……としか言いようがないよ」

「根拠があったわけではない、と…………相変わらず、無鉄砲ですね」

 マモルは、そう言いつつ苦笑を浮かべた。

「そう言われてもね……これでも必死なんだよ」

「わかってますよ。でも、もう少し計画をたてるべきです。だいたい、見失った人と、どうやって会おうというんです?」

「それは……」

「無鉄砲な事ばかりやってると、こうやって行き詰まるんですから、今後はもっと考えてくださいね」

 そういいつつ、マモルは一枚の書類を机の上に出した。

「今回は、昔馴染みと言う事で特別に、貴方に選択肢を差し上げます」

「選択肢?」

「そうです。行き詰まったテンカワさんに与えられた、天から……いえ、私からの贈り物ですよ」

 マモルは胸ポケットからボールペンを取り出しつつ、指で弄ぶ。

「ミスマル・ユリカは現在、当社ネルガルに所属しています。しかしながら、極秘の任務についているため、社外の人物に合わせる事は出来ません。そこで、この書類の出番というわけです」

 指で弄んでいたボールペンを親指と人差し指で摘んで、摘んだ側とは反対側の先で書類を指した。

「現在、ミスマル・ユリカが就いている任務において、対木製蜥蜴用機動兵器のパイロット数にまだ定員の空きがあります。これは、その契約書です。貴方がこれにサインするなら、ミスマル・ユリカに会う事が出来ます」

「あの、マモルさん」

 アキトに説明しているマモルに、先ほどまで黙っていたルリが声をかける。

「なんですか? ホシノオペレーター?」

 アキトの手前、マモルは、口調を崩さずに、返事を返した。

「プロスさんに許可なく、契約を結んでもいいんですか?」

「さっきの自己紹介、聞いてませんでしたか? 本日からは、スカウトも私の仕事なんですよ?」

「そんなことさっきも言ってましたね……でも、ここでアキ……テンカワさんをパイロットとして雇う事に、問題はないんですか?」

「最初は研修生として訓練を積む……という契約にしますから、問題はないですよ。で、テンカワさんどうしますか?」

「………俺、あいつ等が恐いんだ………ユリカには会いたいけど………戦いなんで、とてもじゃないけど……」

 マモルの言葉に、俯きながらアキトが言う。
 アキトの感情がわかるためか、マモルは、しばしその姿を見ていた。

「……別に無理強いはしません。ここで諦めて帰るのも、一つの手です」

 アキトを見据え、マモルは、淡々とした口調で言う。

「そ、それは……そうかもしれないけど……」

「貴方に選択できる道は二つです。全ての恐怖をねじ伏せてパイロットをやるか、恐怖を受け入れ諦めて帰るか、この二つに一つしかありません」

「…………」

「考える時間は、今しかありません。重要な選択ですが、後悔の無いように選択してくださいね」

 プロスの補佐を務めているだけあり、マモルの言葉は、確実に選択を迫る。
 中途半端な解答は許さない、という気構えを持った上で、より自分に有利な選択を選ばせる。
 一種の交渉術のようなものである。

「…………役に立つかどうかは、正直わからないけど………俺を雇ってくれるというなら、雇ってくれ。俺は………ここで立ち止まりたくない」

 しばし考えていたアキトがそう言うと、マモルは、満足そうに微笑んだ。
 それは、上辺だけの微笑ではなく、心からの微笑だった。
 過去の自分が、自ら戦うことを決めた。それが、純粋に嬉しかったのだ。

「わかりました。では、契約書を良く読んで……いいですか、契約事項を『熟読』した上で、変更したい点などの交渉をした後、契約書に記名してください」

 『熟読』の部分を強く言いながら、マモルは契約書をアキトの前に移動させた。

「了解」

 そう返事を返しつつ、アキトは契約事項を上から順順に読んでいく。
 さすがに量が多く、読むのにしばしの時間を必要としたが、全部読み、アキトは一つの契約事項の変更だけを求めた。

「この『男女交際』の部分なんだけど……変更できない?」

 アキトが、契約書を差し出しながら、マモルに訊ねた。

「出来ますよ? ただ、月給から1%引かせていただきますが」

「そのくらいなら引かれてもいいから、変更してくれるかな?」

「わかりました。あ、因みに、その分も差し引いたテンカワさんのお給料の手取りですが、危険手当を含めてこちらになります」

 どこから取り出したのか、マモルは電卓で金額を表示させると、アキトに見せた。
 その金額の多さにアキトは驚く。

「こんなに貰っていいの?」

「いいんですよ、パイロットなんですから。危険手当も結構つきますし」

 ネルガルのパイロットとしては、アキトの金額は安い方なのであるが、コック見習であったアキトにとって、その金額はあまりにも大きな金額であった。

「金額に一切文句は無いよ。契約事項も変更できたし、これで契約で良いかな」

「わかりました。あ、ついでですので、無料で保険に関するところを修正しておきますね」

 マモルは、受け取った契約書の、男女交際の部分も含めた部分をボールペンでしっかり修正して、再びアキトに差し出した。

「では、これにサインを。最期になりますが、書いたら後には退けません、良いですね?」

「……覚悟の上だよ」

 マモルから契約書を受け取ると、アキトはしっかりと自分の名前をサインした。

「では、これで契約完了です。今後は、一社員として、パイロットとして、テンカワさんを扱いますので、そのつもりで」

「わかった」

「備品は後で支給しますので、とりあえずテンカワさんの就職場所に案内します。早い方が、何かと都合がいいでしょうからね」

 アキトがサインをした契約書を、手早く回収すると、マモルは立ち上がりながら言った。

「テンカワさん、取調べの時に、私物で没収されたものはありますか?」

 営倉から出る前に、マモルは一応確認する。

「えっと、自転車とか全部、さっきの男の人が……」

「そうですか。では、あとで私物を部屋まで運ばせます。その際、一応確認はしてくださいね」

「うん」

「それでは行きましょう」

 そう言うと、マモルは扉を開いて、営倉を出る、その後に、ルリとアキトが続いた。

「さて……ここまでは、『計画』通り………この先、歴史がどう動くのか…………ここからが始まりね………」

 マモルは、自分だけに聞こえないような小さな声で、口元だけに笑みを浮かべながら呟いた。

「マモルさん、何か言いましたか?」

「何も言ってませんよ」

 ルリの言葉を適当に誤魔化しつつ、マモルは歩みを進めた。
 その後に続くルリは、不意にマモルの後姿に、不安を覚えた。
 まるで、置いていかれる子供のような、漠然とした不安が一時的に心を満たした。
 その不安を口にできないまま、ルリはアキトと共にマモルに続いて歩みを進めた。
 今は考えもしていなかったが、ルリにとってもアキトにとっても、ここが、始まりだったのである。



   Gemini 第二話に続く



   あとがき

 はじめての投稿になります神帝院示現と申します。よろしくお願いします。
 初のナデシコSSを書かせていただきましたが、拙い文章で、読み苦しいところもあるかと存じますが、ご容赦願いたいです。

 さて、この『Gemini』ですが、読めばわかる通り、逆行TS物です。
 で、題名の由来は、しばらくすればわかると思いますが、一応言葉の意味的には『双子座』もしくは『双子』だと思っていただければ良いかと。
 この話の根幹になりますので、良く憶えておいてくださいね。

 正直、後書きなんて何を書けば言いか、良くわかりませんので、なんだか良くわからない文章になってしまいました。
 これ以上書くと、余計に訳がわからなくなりそうですので、この辺で失礼させていただきたいと思います。
 それでは、また、次話にてお会いしましょう。

 

 

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代理人の感想

・・・・ほうほうほう。

よくある逆行物と思いきや、意外なほどに楽しませていただきました。

特に、ちこっと毒の入った気の利いたセリフが楽しい。

話自体も面白そうですし、期待してます。

ただ、文章はちょっと荒削りで文法的に首をかしげる部分も少々あったので、そこは精進です。

頑張ってください。

 

>「バスト85なんて凶悪犯罪者と同じです!」

つまり、「目の前にいるあなたも敵です」と堂々と宣言したわけですか(爆)。

 

>「落ち目のスケコマシ」

これは劇場版で初めて出てきた呼称(劇場版ではネルガル自体が落ち目なのでこう皮肉られた)なので

ここで使うのはちょっとどうかと思いました。好意的に解釈すればルリのマモルに対するカマかけなんでしょうけども。

 

>最期と最後

「最期」というのは人が死ぬときだけに使う言葉で、普通は大体「最後」ですね。

ケアレスミスだとは思いますが、気づいてなければご用心。

 

>「もっとも、艦長の始末書が書き終わる時間によって、多少前後されますが」

本文では修正しておきましたが、

この場合は「艦長の始末書が書きあがる時間」ないし「艦長が始末書を書き終わる時間」が正しいですね。

「書き終わる」というのは「書く人間」(この場合「艦長が書き終わる」となる)が主語となる言葉で、

動詞の対象である「艦長の始末書」を主語にしてしまうのは不適当なわけです。