影から光へ 〜新たなる旅立ち〜
第一話 「出会い」
北辰…北辰……――――
誰かが我を呼んでいる…
そう感じ目を開けた。
仰向けのまま、上を向いている、その目に飛び込んできたのは、なにもない真っ白な空間。
しばらくその空間を眺める。
だが、相も変わらず、ただただ真っ白な空間が広がるだけだった。
なぜ自分はこんなところにいるのか?
その手がかりを得るために、ようやくはっきりしてきた頭で、記憶を探ってみる。
「我は火星でテンカワアキトと戦った。
そして彼奴の乗る黒き機体の操縦席あたりを潰した。
それから巨大な拳が迫ってきて………?」
そこから先が思い出せない。
とりあえず思い出せたことから推測してみる。
操縦席を潰した機体が動いた、つまり彼奴は生きている。
我は負けたと言うことか。
それから、迫る巨大な拳、途切れる記憶。
それは、つまり…………
「我は死んだのか………」
結論を自分に言い聞かせるように口に出す。
死か……それならなんとか納得できる。
だが、なぜこんなに意識がはっきりしている?
手足だけでなく、自分自身が存在していることまではっきりわかる。
それともこれが死というものなのか?
そもそも死など経験したことなどないからな、わからんのも当然だ。
「……ふっ」
自分で考えたことがおかしいことに気づき、苦笑する。
『なに笑ってるの?』
突如、笑い声に反応するかのように声が響いた。
「何奴!!」
とっさに声がした方に振り向きながら、身構える。
振り向いたその先にいたのは、薄い金色の光を纏った少女だった。
「貴様は何者だ。」
少し殺気を篭め、突然現れた少女に問う。
『知りたいの?ふふ、秘密だよ。』
「……冗談に付き合うつもりは無い。」
さらに殺気を強めて問う。
一般人なら喋ることもままならない、下手すれば気絶している強さだろう。
だが、その殺気を受けながらも、目の前の少女は平然として応える。
『やだなぁ、軽い冗談なのに。
答えるからさ、そんなに怖い顔しないで。
私の正体だったよね?
私はあなた達が言うところの遺跡だよ。』
「先刻も言った筈だ、冗談に付き合うつもりは―――」
『冗談じゃないよ。』
言おうとしたことを遮り、即座に否定する。
「なに?」
一瞬、それも冗談かと思った。
だが、先程と違い、少女の顔は引き締まり、嘘を吐いているという表情ではなかった。
「……それは真なのか?」
数瞬、尋ねるべきかどうか迷ったが、表情が真剣だからという理由だけで完全に信用するわけにはいかなかった。
『本当だよ。まあ、いきなりこんなこと言われて信じろ、と言われても無理なことだと思うけどね。』
「それは当然のことだ。
そこまでわかっているなら、我の質問に答えてもらおう。
何故、我はこのような場所にいる?」
単純かつ明瞭な質問。
しかし、自分の状況を知り、かつ真実も知ることが出来る
これで全てがわかる
そう思うと、唇が乾く。
……緊張しているのか?この我が?
今までのどんな任務でも感じたことがないような緊張感。
…いや、一度だけ…感じたことがある…
あの男、復讐人と成り果てたテンカワアキトと対峙した時。
そのときの感覚に似ている。
……なるほど、好奇心か……
我がこの程度のことに興味を引かれるとは……
……フッ……まるで子供だな。
だが、それもまたよいか。
なにせ……
『お〜い、もしも〜し、聞こえてます〜?』
「……む、どうした?」
『どうしたじゃないよ。
私がせっかくあなたの質問に答えてあげようとしたのに、
ぼ〜っとしちゃってさ。』
少女はそう少し怒っているような表情で言った。
どうやら自分の考えに浸ってしまっていたらしい。
「ふん、質問しておきながら呆けてしまったことは謝ろう。」
『それが人に謝る態度?』
「そんなことはどうでも良い。
我の質問に答えてもらおうか。」
自分でも少々不躾だとは思ったが、そう言って答えるよう促した。
『はいはい、わかりましたよ。
まずこの場所のことからね。
ここは遺跡の中。
っていっても、遺跡の中に直接入ってるわけじゃなくて、遺跡が作り出した空間にいるんだけどね。
そしてなぜあなたがここにいるのか。
それは、私があなたをここに呼んでもらったから。』
「呼んでもらった、だと?
貴様は先程『自分は遺跡だ』と言っていたな。
ならば我をここに呼んだのは貴様であろう。」
すぐに少女の言ったことの矛盾を指摘する。
『ああ、そういえば簡単にしか言ってなかったんだっけ。
ちゃんと説明すると、確かに私は遺跡だけど、一部分でしかないんだよね。
遺跡って外見は一つだけど、内部ではいくつかの領域に分かれてるんだ。
送られてきたイメージを解析する部分、それを受け取って演算する部分とかね。
ようするに、分業性になってるんだよ。
そのなかで、私が担当しているのは送られてくるイメージの監視。
一番最初にイメージをうけて、遺跡の力、あなた達はボソンジャンプって呼んでるんだっけ?
それを悪用しようとしている場合にはキャンセルする。
それが私の役割なんだ。
だから、私には何かをジャンプさせたりする能力はないから、それを担当してるとこに頼んであなたを呼んでもらったってわけさ。』
「なるほどな。だが、我はキャンセルされたことなどなかったが?
誘拐、証拠の抹消、各地の襲撃。
どれも跳躍を悪用して成したもの。
貴様が監視者というなら、何故キャンセルしなかったのだ?」
『それはね、ちょっと前まで封印されてたからだよ、遺跡を造った人たちの手でね。』
造った者達によって封印されていた?
そのようなことをして一体どのような利点が…
…なるほど、そういうことか。
「遺跡の力を自由に使うためには、貴様は邪魔だった。
人間は便利な物の悪しき使い方をすぐに思いつく。
どこかに忍び込んで気にくわない奴を殺す、などとな。
だが思いついた使い方をしようにも、貴様がいると全てキャンセルされてしまう。
故に、元々は移動を楽にしようと考えて造った者達が、欲望に負けて貴様を封印した、そういうことだな?」
結局、遺跡を造った古代火星人も、同じ人間だった、か。
『あなたの言った通りだよ。
人を殺す云々はな〜んかあなたの考えみたいに感じるけどね。』
「……否定はしない。
ところで、何故貴様は封印から目覚めたのだ?
この世には、貴様の封印を解ける者などいないはずだが?
貴様を封印したという古代火星人は、もうこの世に存在していないのだからな。」
『それはね、遺跡に女の人が融合させられたでしょ?
その時にいじられたところがさ、どうやら封印に関係するとこだったみたい。
いじった本人は気付いてないみたいだけど。
さすがにすぐに解除ってことにはならなかったけど、度重なるジャンプや実験が刺激になって、解けたみたいなんだ。
まあ詳しいことは私にはわからないんだけどね。』
このことを聞き、我は少々驚いた。
なぜなら、遺跡をいじっていたのは、ある意味我以上の外道で、木連最高の頭脳の持ち主、山崎だったからだ。
偶然とはいえ、古代火星人の封印を解いたのだからな。
そのことを知ったら悔しがるだろう。
…いい気味だ。
「貴様のことは大体わかった。
そろそろ本題、貴様が我をここに呼んだ理由を教えてもらおう。」
ようやく本題に入る。
どのような企みがあるか、その腹にあるものを見極めてくれよう。
『わかった。
あなたを呼んだ理由、それはね、私に人間の生活を体験させて欲しいからなんだ。』
「………なに?」
少女の言ったことを理解できず、間抜けな声を出してしまった。
『なに?じゃないよ。
だから、私に、人間の生活を、体験させて欲しい。
わかった?』
まだ頭が混乱している我に言い聞かせるように、少女はゆっくりと自分の要求を言う。
「貴様、何を考えているのだ?」
未だに頭が少女の言ったことを処理できず、そんなことを聞いてしまう。
『あなたが何を考えてたのかは知らないけど、私は人の生活というものをしてみたいだけ。
1人で行くことも出来るんだけど、私は人の世界のルールを知らないから―――
だから、あなたに人の世界の案内人を頼もうとここに呼んだんだよ。』
「本当に、本当にそれだけなのか?」
『そうだよ。』
少女はすぐにきっぱりと答えた。
「はぁ……」
ため息をつくとともに身体から力が抜けていく。
予想外の、いや、予想などできよう筈も無い答えに、今まで気を張り詰めていたのがバカらしくなった。
『まあ案内人を頼む候補はあと3人ほどいたんだけどね。』
気が抜けたままの頭で聞いていたが、すぐに“誰だ?”という疑問が生じてきた。
「その3人とは誰なのだ?」
こんな疑問が浮かんできたことに少しも戸惑わず、少女に訊ねる。
『ん〜、名前までは知らないから、その人の記憶とイメージだけね。』
そう言って、少女は語り始めた。
『一人目は、激しい憎悪に身を焦がす人。元々は優柔不断で熱いところがあって、子供っぽい人かな。
二人目は何かを深く後悔している人。この人も元々は熱かったみたい。他には〜、決断力はあるかな。
最後の人は、何か二つの思いに板ばさみになって悩んでる人。今はそれを隠してるみたい。
やっぱり熱かったみたいで、自分達の正義を信じて疑わなかったって人かな。
私が受けたのではこんな感じ。』
少女の言葉を聞いて記憶と照らし合わせてみるが、1人目くらいしか思い浮かばない。
「そして我を合わせて4人か。その中で何故我を?」
記憶の人物探りはあきらめて、そう訊ねる。
『そうだねえ…あなたの記憶が一番気になったから…かな?』
「我の記憶が一番気になった、だと?」
『うん。あなたの記憶からうけたイメージは、心が2つあるって感じ。
1つの心の上にもう1つがかぶさって、隠してるみたいだったな。
隠れてる方はあったかくて、隠してる方は冷たくて…
あと、さっき言った3人よりずっと悩んで、苦しんでるように感じたんだよね。
だからさ、なんでかな〜って知りたくなったんだよ。』
1つ1つ思い出すように、少女は言った。
…自分の心を偽り悩んでいる、か。
言われたことを心の中でかみ締めて、言葉を発する。
「貴様の言う通りかもしれぬな。
いいだろう。貴様の思惑に乗ってやろう。」
『本当に!?よかった〜。』
安心したといったように表情を崩す。
…そんなに嬉しいのか?
そんなことを考えていると、少女が喋りだす。
『さて、あなたの了承も得られたわけだし、いこっか。』
「…わかった。」
『じゃあわたしの手をつかんで。』
そう言い手を差し出してくる。
人と手をつなぐなどいつ以来のことか…
そんなことを思いながら差し出された手をにぎる。
『行き先やイメージはこっちに任せて。
あなたは体の力を抜いてリラックスしてて。』
言い終えるとすぐに少女と我を光がつつみこむ。
徐々に光が強くなっていき、それとともに意識も遠のいていく。
そう感じながらも、意識が途切れないように必死にこらえていた。が、
『いくよ』
その声を聞くと同時に意識は途切れた。
それ故、
『……さよなら、みんな……』
少女の呟きを聞くことは無かった…
〜〜第二話へ続く〜〜
○ あとがき ○
初めまして、ようやく第一話投稿のシロです。
まずはお詫びから。
お詫び1
前回投稿のプロローグにあとがきをいれずにそれ一つだけ投稿してしまい、
申し訳ありませんでした。
これ以降ないように気をつけます。
お詫び2
第二話投稿が数ヶ月先になります。
なぜなら自分はこれから人生のロッククライミングの時期に入るからです。(意味不明ですが)
楽しみにしている方(いるかわかりませんが)申し訳ありません。
(正しい理由はご想像におまかせします。)
ようやく後書きです。
友人に、早く投稿しろ!などとせっつかれてせっつかれてようやくできました。
プロローグ投稿してからもう2ヶ月ほど経つのですね…
自分の執筆速度の遅さが情けなく感じられます。
自分は北辰を主人公に選んだわけですが、正直なところかなりつらいです。
いきなり明るくなっても変、かといって喋らなさ過ぎるのもダメ…
それに横文字だとイメージに合わない、と。
かなり頭を悩ませています。
第一話は自分なりに妥協して妥協して、北辰にあのくらい喋ってもらいました。
さて、次回はようやく「器」の登場です。
スープはスープだけあっても料理じゃない、注ぐ器があって初めて料理として完成する。
何のことかわからないかもしれませんが、そこは考えてください。(何
まだまだ未熟な上に投稿する時期も最悪というダメダメっぷりですが、
読んでいただければ幸いです。
では第二話で。
管理人の感想
シロさんからの投稿です。
おお、北辰が主役をしてる(笑)
何だか性格も丸くなってるし・・・今後、どんなキャラになるんだろう?
遺跡が候補に上げていた残りの三人。
一人目と二人目は分かりましたが、三人目がちょっと微妙です(苦笑)
う〜ん、誰だろう?