時を見た者
第一話
火星ユートピアコロニー上空…
そこに一つの白い船があった。ユーチャリス、純潔の花言葉を持つ名を冠した美しき船。
そして“闇の皇子”と呼ばれる男、“テンカワ・アキト”と彼に助けられ彼の目となった“闇の妖精”“ラピス・ラズリ”の乗る船である。
「ここが、アキトとの生まれた場所?」
「そうだよ、俺の故郷だ。多くの人たちから忘れられた場所。そして多くの人たちが生活し、かつての戦争で多くの人たちが亡くなってしまった場所。悲しみに染まった俺の原点」
そこにあるのは大きなクレーターとその中心にそびえる巨大な人工物。かつて木連が火星に送り込んだ次元の門チューリップがあるだけだった。
360度見渡す限りの荒野にあるその場所はなぜか墓標のようにも見えた。
「なぜここに来たの、ここには何もないのに」
「一つは墓参りだよ。両親とそしてここで亡くなったもう俺の記憶の中にしかいない大事な人たちにね。あとはなんとなく来たくなったんだよ。もう何年も来ていないから、思い出したら寂しくてきたくなったのかもしれないね」
そう寂しそうな、何かを思い出すような顔でアキトは言った。ラピスにはその気持ちが二人をつなぐ“リンク”により伝わってきた。アキトがこんな気持ちになるのはナデシコのことやユリカやルリのことを思い出すときだけだった。
いや、もしかするとそれ以上の寂しさを感じる。
二人を思い出す時には懐かしさや暖かさ、愛しさ、そしてそれを奪われた時の怒りや憎しみなどの感情があった。寂しさを感じたことはないわけではないがここまで大きな寂しさを感じたことなど一度もない。
ラピスは不思議に思った。アキトにとって、たとえ寂しさという感情であってもナデシコやユリカやルリを思う時以上の感情をそれらと関係のないものを思う時に出てくるとは思いもしなかったからだ。
たしかにユリカとの思い出の地でもある。しかし、アキトの気持ちがもっとも高まったのは“俺の記憶にしかいない大事な人たち”のことを言った時だったのだ。
「その人たちはユリカやルリより大事なの?」
「何でそう思う」
「だってアキト寂しそうだから」
そう言われアキトはだまりどこか遠くを見るような目をした。なにも見ることのできないその目で、それゆえに見えるというように遠くを見た。
そして言った。
「それはきっともう誰とも共有できない思い出だからだよ」
「誰とも?ユリカは?小さいころアキトといっしょにいた。イネスもここにいた」
「その人たちはユリカと別れた後にあったんだよ、イネスとはあの戦争の時シェルターで始めて会ったからその人たちとは面識はない。あの戦争の時からこの場所で過ごしたあの時間を共有できた人はいない。だからとてもさびしいのかもしれないな」
そう言ったアキトはとても寂しそうだった。親においていかれてしまった子供のように、とてもとても寂しそうな顔だった。
ラピスはそんなアキトを見て胸が痛くなった。そんなラピスの気持ちに気づいたのかアキトはラピスを見て言った。
「そんな顔をするな、ラピスがいるからこそ俺は故郷を見ることができる、ラピスにはとても感謝をしているんだよ」
「ホント?私はアキトの力になれているの?」
「ああ、本当だよ。ラピスがいてくれて良かったと思っているよ」
そんな言葉を聞いたラピスは自分の胸の痛みがなくなるのを感じていた。
そんな時アラームがなり響きこちらに近づいてくる存在を二人に教えた。
ピーピーピー
「どこからくる?」
「上、宇宙から降りてくるよ」
「なぜこんな近くに来るまで探知できなかった。宇宙には監視用のバッタはもちろん火星衛星上の監視衛星にハッキングをしていただろう」
「バッタの方は識別信号が味方だったから報告がこなかったみたい、監視衛星はこっちのコントロールをすでにうばわれているよ!」
「こちらを上回るハッキングだと?そんなことができ味方の識別コードを手に入れられる人間など…彼女か!」
はるか上空より来るのは先の大戦を鎮めた船であり自らの思い出がつまった船の後継機であり、そして自分の養女となった娘。自分の妹といってもいいもう一人の妖精“ホシノ・ルリ”の乗る船。ナデシコCだった。
「見つけましたよアキトさん。今度こそいっしょに帰ってもらいますよ」
「艦長が燃えている。こりゃただじゃ終わらんな」
「かんちょ〜なんで僕たちだけなんですか?」
「私のわがままにクルーを巻き込むわけにはいきませんから」
「僕らはいいんですか〜」
「いいんです」
「そんな〜」
「いいじゃねえかハーリー、そんだけ艦長に頼りにされているってことなんだかれよ」
「そ、そうですね僕がんばります」
(単純なやつ)
そう今ナデシコCに乗っているのはルリ、タカスギサブロウタ、マキビハリの三人しか乗っていない。もともとワンマンオペレーションで動くことのできるナデシコCにはルリ以外の人間はいなくとも動くこができる、だからこそルリはクルーたちに迷惑をかけないため三人できたのだ。二人が乗っているのはいざという時のためにルリが二人にはナイショでつれてきていたのだ。他のクルーは某企業の新オープンのテーマパークのフリーチケットをなぜか出した覚えの無い抽選の当選で手に入れ、都合よく軍の休暇と重なったためにそこに遊びに行ったのだ。
ちなみに誰一人としてそのことに疑問を持たなかったそうだ。
ナデシコを確認したアキトは苦笑いを浮かべながら指示を出した。
「ラピス、俺が“ハトホル”で時間を稼ぐその間にジャンプの準備をしておけ」
「了解、…アキトいいの?」
「ああ」
“ハトホル”、今だ戦場に身を置くアキトのためにアカツキたちネルガルの面々が作り出したアキト専用機。
黒曜石のように黒く光り背中には羽のようなバーニアを持つスマートなフォルムをしている。量産を考えていない完全な一品物。小型相転移エンジンに代表される最新機器にそして、
『準備万端だよアキト兄。』
『でもいいの?アキト兄』
「いいんだよ。心配してくれてありがとなブロス」
『あ〜、ブロスばかりひいきしちゃやだ。アキト兄のばか!』
「ごめんごめん、ディアも準備ありがとな」
そうこの二人こそハトホルの目玉であるオモイカネ級コンピュータの縮小版だ。この二人のおかげでアキトの戦闘での負担は大きく減少した。もともと五感が効かないのをラピスとのリンクで支えているのに機動兵器の操縦など通常は無理、それをナノマシンを使い機動兵器のコンピューターと無理矢理繋げていたのだからその負担は計り知れない。
しかし縮小版とはいえオモイカネ級である二人ならばその負担を減らすことができる。
これらの装備を搭載したハトホルはまさに最強の機動兵器である。ちなみに費用のほうは下手な戦艦よりずっと高くついたがアカツキは笑いながらアキトに渡した、不器用な男の親友へのプレゼントであり、イネスたちの気持ちが詰まった機体だった。これを渡され名を決める時にアキトはエジプトの神話から名をとった。その時のアキトの気持ちはだれにもわからない。おそらくはアキト自身にも。しかしアキトこの機体にはその名がふさわしいと感じていた。
そんな機体に乗りアキトは養女と再会する。自分に良く似た妹と。
「アキトさん帰ってきてください。ユリカさんも待っているんですよ」
「帰るつもりはない、君の知っているテンカワ・アキトは死んだ。ここにいるのはその抜け殻だ。第一テロリストである俺が戻れば二人に迷惑をかけてしまう」
「あれは火星の後継者が証拠を消すためにやったことです。それにアキトさんは被害者ですよ、世論を味方につければ残った罪もなくなります。ミスマルの叔父さんだって協力してくれるだろうし、ネルガルだって動きます。アキトさんが帰ってこれない理由は一つもないです」
「あるさ、たとえ誰が許しても俺と俺が殺してきた人々が決して許さない」
「それこそかっこつけてます」
「そうかもな、だがこれは譲れない思いだ」
「私も譲るつもりないです。今日こそはつれて帰ります」
「がんこだね。だれに似たんだか」
「あなたですよ、他にだれがいるんです」
こんな二人の会話をきいていたナデシコのふたりは
「艦長が二人いるみてー」
「なに言ってんですか似ていませんよ」
と、関心と嫉妬の心を出していた。
「その人数でこのハトホルを止めることは不可能だよ。こちらの識別コードをとるためにネルガルにハッキングした時にこいつのスッペクをみなかったのか」
「そのデータはホストコンピュータのなかにも無かったですよ。多分イネスさんあたりが消したんでしょうね。残念です」
「そうか、ならいまから教えてやろう、コイツの力をな」
「そうはいきません。タカスギさん出てください。ハーリー君“あれ”の準備を」
「「了解」」
そうしてナデシコより出てきたのはタカスギの乗るアストロメイアと無人機のスーパーエステバリスの機動兵器部隊だった。
「無人機ごときで止められるか」
「ただの無人機ではないですオモイカネとハーリー君の操る機体ですよ。そんじょそこらの部隊より強いですからね」
「やってみせてもらおう」
そうして戦闘が始まった。
もっとも両者とも相手を殺すつもりがないため決定的な攻撃を繰り出せずしばらくは様子見の戦闘が続いていた。
「アキト準備大体終わったけどルリのハッキングが邪魔で最後の作業ができない」
ラピスとルリのハッキング対決はジャンプの準備と無人機を操るためにコンピュータを使っているために膠着状態がつづいていた。
能力で言えばナデシコのほうがいいのだがハトホルの思いのほかの強さにオモイカネの力を無人機の制御に回しさらに個人の能力でいえばルリよりハッキングになれているラピスに苦戦をしいていた。
アキトと共に火星の後継者と戦っていたラピスはハッキングなどの経験はルリを上回っていた。
「わかった、今からナデシコに攻撃を加えるからその隙をつけ」
「わかった」
「これは予想以上ですね。タカスギさん向こうの艦を狙えますか?」
「少し厳しいですね。性能は完全に向こうのほうが上です」
「ハーリー君もう少し一人でやれませんか?」
「そんな、無理ですよエステなんて動かしたこともないのに、これ以上オモイカネのサポートを減らされたら向こうの動きについていけませんよ〜」
「そうですか。私のほうもハッキングの腕では負けていなすね、悔しいですけど」
「どうします?」
「危険を承知で無人機のサポートを無くします、一気にハッキングをするしかないですね」
「わかりました。ほれハーリー根性みせっぞ。(ここで男を見せれば艦長にアピールできるぞ)」
「がんばります!」
「ありがとう。いきますよ、え?」
「な!」
「うそでしょ!」
ルリたちが覚悟を決めたその時、ハトホルが今までのが小手調べといわんばかりにスピードを上げてナデシコに向かった。そのスピードにあっけにとられた三人は反応を遅らせアキトとの接近を許した。
「ごめんねルリちゃん、俺は帰ることはできない!」
至近距離からのレールガンの攻撃によりルリのハッキングが途絶えた、その一瞬でユーチャリスはジャンプの準備を整えた。
「アキト戻って」
「さよならルリちゃん」
「行かせるか!」
タカスギが止めようとしたその時、味方のはずの無人機がタカスギ機に取り付いた。
「な、ハーリーなにすんだよ」
「そんな!無人機を乗っ取られた、けどだれが、…そんなあの機動兵器からのハッキング!」
「アキトさんがやったんですか!」
『私たちを知らなかったのが致命的よね。』
『そうだね〜知ってたら対処できたのにね。』
「イネスに感謝しなきゃな」
そうあのすきだらけの一瞬にディアとブロスのふたりは無人機にハッキングをしコントロールを奪ったのだ。
アキトからのハッキングを警戒しなかったのとこの二人を知らなかったためにやすやすとハッキングを受けてしまったのだ。
そうしてハトホルはユーチャリスに戻っていった。
「ラピス、ジャンプだ」
そして時間が惜しいためにアキトがハトホルに乗ったままの状態でジャンプをしようとしたその時、
ドガガガガガ
「この衝撃は何だ!」
「ナデシコがアンカーを打ち込んだよ」
「なに!」
タカスギを回収したナデシコが最後のチャンスとアンカーを打ち込んだのだ。
「逃がしませんよ、アキトさん」
「こうなれば俺がでてアンカーを切断する。ラピスハッチを開けろ」
「アキト!ジャンプフィールドが暴走しているランダムジャンプになっちゃうよ!」
「!ルリちゃんアンカーを外すんだ!ランダムジャンプに巻き込まれるぞ!」
「いやです、アキトさんをおいていけません!」
「二人を巻き込む気か!」
「そ、そんな…オモイカネアンカーを外して」
『ダメ、まにあわない』
「くそ、すまんみんな」
ヴウン
こうして二つの戦艦は虹色の光に包まれてこの世界から姿を消した。
代理人の感想
えーと、会話多すぎ。
加えて状況・心情の説明が全く無いのも困り物。
アニメなら絵や声優さんの演技で様々な情報を伝えることが出来ますが、小説には文章しかありません。
文章で、絵や声、音と言った媒体が伝えていたものを全て伝えなくてはなりません。
その意味で、今回は圧倒的な情報不足だといえるでしょう。