時を見た者
第三話

「やっと会えましたね。アキトさん」

そう言い、その少女ホシノ・ルリは笑顔を浮かべた。
そんなルリの様子にプロスは驚いていた。ルリはスカウトされた時から表情をだすことがなくそんなルリが偶然スカウトしたアキトを見て笑顔を浮かべていた。

「おや、お二人は面識があるのですか?」
「はい」

プロスと話す時にもルリはアキトから視線をはずさない。アキトの姿を確かめてとてもうれしそうである。そんなルリの様子をこちらもうれしそうに見ながらアキトが言う。

「久しぶり、ルリちゃん」
「ええ、アキトさんもお元気そうで安心しました」
「アキトさんこの子は?」
「ホシノ・ルリと言います。はじめましてミア・コーリアスさん」
「私を知ってるの?」
「はい、乗員名簿に載っていましたから。アキトさんもその時乗り込むことを知ってきたんですよ」
「貴女はなんでここにいるの。お父さんの見送り?」
「いえ、私もナデシコに乗るんです」
「貴女みたいな女の子が!」

うれしそうに話すルリを見てミアは驚いてしまった。まさかこんな少女が戦艦に乗り込むなど思いも寄らぬことであり思わず隣にいたプロスをにらんだ。そんなミアの様子にプロス苦笑してしまった。こんな年齢の少女が乗り込むことが非常識ということをいちおう自覚していたようだ。

「お二人はいつ知り合ったんですか」
「ずいぶん前にちょっとした事でしりあったんですよ。しばらくお互いに連絡をとっていなかったのでここで会えるとは思いもしなかったですけどね」

そう言うとルリはうれしそうに微笑んだ。
プロスはそれを聞いてふと疑問をもった。アキトの経歴を調べたことからアキトとルリが出会っていることが不思議なのだ。アキトは生まれてから火星を出ていない。ルリもネルガルの監視の下、地球を出ていない。こんな二人が何時、知り合ったのか、しかもただの知り合いではなくかなり親しい間柄であることがプロスには分かった。だからこそプロスは気になった。

(…少し、調べてみますか。)
「すいません、少しアキトさんと二人で話したいのですがいいでしょうか」
「私はいいですよ」
「…そうですな。では私はミアさんを案内しますのでルリさん、テンカワさんの案内をお願いできますかな。ではミアさん、参りましょうか」
「そうですね。アキトさんまた後で」

そういってプロスたちは離れて行った。
二人がいなくなるとルリがアキトに抱きついた。アキトは驚きながらもルリが泣いていることを知るとやさしく抱きしめた。

「グスゥ よかったぁ。アキトさんも無事で。…心配したんですよ」
「心配かけてごめん。ルリちゃんも無事でよかった」

ふたりはしばらく無言で抱き合った。
しばらくするとルリが顔を赤くして離れた。

「…ごめんなさい、取り乱しちゃって」
「そんなことないよ、俺のせいだからね、むしろそんなに心配してもらえる資格は俺にはないのに」
「資格なんて必要ないです。アキトさんは私の大切な人なんですから」
「…ありがとう」

そんなルリの気持ちを聞いてアキトは泣きそうになった。過去あのような行動をとった自分をルリは心配していてくれた。嫌っていても不思議ではないのに。
しばらくするとルリがアキトにミアについての質問をした。

「アキトさん、彼女はあの…」
「そうだよ。アイちゃんのお母さんだよ」
「でも彼女は」
「そう、本来ならもういないはずの人」
「アキトさんが助けたんですか」
「ちがうよ。…ただ俺の影響が無いわけではないだろうけどね」
「アキトさんはいつまで戻ったんですか?」
「火星にいたころまでさ。そのときミアさんたちと知り合ったよ。前より早くね」
「そうですか。…じゃあ火星からの難民が前より多いのもアキトさんが?」

そう、ミアもそうだが前回はさほどいなかった火星からの避難民は今回は多くいるのだ。

「いや、それに俺は直接関わってはいない、ただ影響を及ばしたことは考えられるけど…以前より多くの人と火星にいたころ関わったからね」
「そうですか…アキトさんここは本当に私たちの過去の世界でしょうか?」

ルリは本当にここが過去の世界であるのかを疑問に思っているのだ。なにせ火星の避難民の数は決して少なくない。自分の知る過去とはすでに状況が違う。もし、過去の世界ではなく、平行世界だったとしたら自分が知っていることが通じないかもしれない。そのことはこれから自分が望むことを考えたら恐怖にすら繋がるほどのことである。
そんなルリにアキトは微笑みながら自分が未来においてイネスから聞いたことを伝える。

「ここが俺たちの過去の世界であることは確かだと思うよ。イネスさんが言っていたことだけど、ボソンジャンプでの時間移動、空間移動は同一の時空間でしか行うことができないそうだよ」
「そうなんですか?」
「ああ…彼女はそのことに関して言えばオレたち以上に心配していてね。ずいぶんと時間をかけて研究した結果に解ったことでね。うれしそうに話してくれたよ」

そう言いながらアキトはその時のイネスの喜びようときたら普段の彼女からは考えられないほどであることを思いだして笑う。
そんなアキトに不思議そうな顔をしてルリがたずねる。

「なんでイネスさんはそのことを研究したんですか?…話を聞く限りとても必死だった様ですけど?」
「彼女は今のオレたちと似たことを経験しているよ。…もっともオレたちは精神だけで彼女は肉体ごとだったけど」
「…!そういえばイネスさんは!」
「そう…過去に飛んでいる。それもオレたちとは比べようもないほどの過去に」

それを聞いてルリもなぜイネスが必死になって研究したのか理解した。彼女は不安だったのだ、だから必死に研究し確信をもとめたのだ。そして、そんな彼女が手にした確信は信頼できるものであり、ルリの不安を消すのに十分だった。

「そうですね。イネスさんのいうことなら間違いないですね。…これからどうします?」
「基本的な歴史は前回とかわらないだろ?」
「ええ、火星からの難民も歴史を変えるまでの影響は今のところだしてません。その人たちはいま西欧の方面にまとまっていますから、影響を及ぼしてくるのはきっと戦後になるでしょうね。避難民のみなさんは今軍が管理してますから」
「軍が?」
「ええ、へたに騒がれて今の状況を混乱させたくないんですよ。…ただでさえ軍は負け続けてますから、敗色を臭わせるものは人の目に触れさせたくないみたいですね」
「そうだね。皮肉もそのほうが歴史を知る俺たちにも都合がいい」
「たしかに、ただどうなるかは解らないですよ。火星の難民は決して少ないわけではないですから」
「それでも俺はやる。ガイや九十九たちを救ってみせる。ほかに前回と違うことはあるかい?」
「あと一つ。ミアさんとは別に今ナデシコに乗っていてはいないはずの人がいます」
「だれ?」
「…さんです」
「彼女がかい。…まあ問題はないだろう。むしろ助かるな」
(あいつの腕は間違いなくリョーコちゃんたちと同レベル、ホントに嬉しい誤算だ。)

どうやらアキトとルリのよく知る人物であるようだ。…もっともアキトはその人物に対してルリ以上に知っているようだが。

「そうですね。でもどうします。彼女がいるとなるとアキトさんがエステにのるきっかけがなくなりますよ。…もちろんアキトさんが危険な目に遭わないのは嬉しいですけど」
「そのへんは任せて、俺に考えがあるから」
「解りました。…そういえばラピスさんは?」
「ラピスも無事だよ。少し仕事を頼んであるからまだネルガルの研究所だけど」
「仕事ですか?それにまだ助けないんですか?」
「ああ、たしかにいやな場所だけどラピスが仕事をするには最高の機材がそろっている。それにガードもかたいから敵に襲われる心配もない。後は北辰たちが来る前に助ければいい」
「どんな仕事なんですか?」
「…をたのんだ」
「そうですか、ではハーリー君にサポートさせます」
「彼も無事だったのか」
「はい昨日連絡が来ました」
「そうか、頼んだよ。そろそろ行かないと時間がないね」
「そうですね、案内必要ですか」
「いじめないでよ。…そうだね、久しぶりのナデシコをルリちゃんと歩くのもいいかもね」
「そうですね。じゃあ最初はどこへ?」
「食堂だね。俺の職場だしね」
「じゃあ久しぶりにラーメンを食べたいです」
「わかったよ。腕によりをかけて作らせていただきます。その前にホウメイさんの合格を手に入れないと」
「がんばってくださいね」

そう言いながら二人は思い出のナデシコのなかを歩いていった。
そうして二人が向かった先は食堂、そしてホウメイに挨拶をするとさっそくホウメイのテストがはじまった。

「あんたが新しい料理人かい。じゃあなにか作ってもらおうかね」
「わかりました、じゃあラーメンを作ります」

ナデシコの食堂を預かるホウメイのテストが始まったそのとき、食堂にミアとプロスが入ってきた。

「これは良い時にきましたな、テンカワさん私の分もおねがいできますかな」
「私の分も」
「わかりました。4人前作りますね」
「4人?」
「私の分もです」
「ルリさんの分もですか」
「ええ、アキトさんの手料理久々なので楽しみです」

そう言いルリは本当に嬉しそうに笑った。それを見てホウメイはルリが年相応の顔をしたのを嬉しく感じた。これまでのルリはなにをする時でも無表情で笑顔など見たことなかったからだ。そしてプロスは。
(お二人は以前に直接会っているようですな。…そうすると、いったい何時お会いしているのでしょう。少なくとも文通や、メール交換だけの関係ではないようですが。)

プロスは最初、二人がメール等のやり取りをしていたのかと思っていた。ここに来るまでにミアにアキトの地球に来てからの行動を聞いて、少なくともミアと地球に来た時から後に知り合ったわけではないと確信し、ならば火星、地球間で可能な交流としてメール交換を考えていたのだが、今ルリが“アキトさんの手料理久々なので楽しみです”と、言ったことにより二人が直接会っていることが分かりプロスの考えが間違っていることを証明されてしまった。

(やはり、部下に調べさせましょう。敵対組織の人間である可能性がありますからな。…テンカワさんのご両親のことを考えれば決してありえないことではない。)

そうプロスは考え、部下に二人の関係を調べさせることにした。そしてプロスの思考が終了するとアキトのラーメンが完成した。

「はい、完成です。召し上がれ」
「「「「いただきます」」」」

ズズー
ちゅるるー

「へーたいしたもんだよ」
「これは予想以上でしたな。いやーすばらしい」
「やっぱりアキトさんのラーメン美味しいです」
「昔と変わらない味です」
「これなら安心して任せられるよ」
「ありがとうございます」

アキトのラーメンが予想以上に美味しいことに満足したプロスとホウメイ、いつものように美味しく食べているのはミア、そして昔のアキトのラーメンに近いことを喜んでいるルリ。4人の言葉を嬉しそうに聞いているアキト。そんなほのぼのした空気に突然サイレンの音が鳴り響いた。

ビービービー 

「これは!」
「敵襲ですね」
「ルリさんブリッジに行きましょう。アキトさんとミアさんはここにいてください」
「「はい」」

そういうとルリとプロスはブリッジに走っていった。

「大丈夫でしょうか」
「だいじょうぶ。ここの人たちはみんな一流の腕を持っている。そうやすやすと木星トカゲには負けないさ」
「はい」
(それにあいつが出るだろうから、前回と同じ量のバッタならあいつだけでも十分だろう。それに俺もでるしね。…会ったらきっと怒られるだろうなー。)

そういいミアを安心させるアキト。だがその心の中ではこれから出撃するであろう人物に再会した時のことを考えてすこしブルーな気分だった。どうやらトカゲよりもその人物のほうがアキトにとっては怖いようだ。

(…今のうちに逃げるか?)

本当に誰なのだろう。

あとがき
アキトとルリが再会しました。これからこの二人が協力してガイや、九十九を助けていくことになります。そして、プロスは今後もアキトたちを疑ってもらいます。決して嫌な役ではなく、プロスならアキトとルリの関係を疑い、調べるはずであるという私の想像によるものです。そしてアキトの言うあいつとは…次回のお楽しみということで。

 

 

代理人の感想

カッコを閉じるときは、句点”。”は普通つけません。

後、説明を丁寧にするのはいいことなのですが、

プロスは最初、二人がメール等のやり取りをしていたのかと思っていた。ここに来るまでにミアにアキトの地球に来てからの行動を聞いて、少なくともミアと地球に来た時から後に知り合ったわけではないと確信し、ならば火星、地球間で可能な交流としてメール交換を考えていたのだが、今ルリが“アキトさんの手料理久々なので楽しみです”と、言ったことにより二人が直接会っていることが分かりプロスの考えが間違っていることを証明されてしまった。

この文などはちょっと長すぎるかと。

「プロスは最初、二人がメールか何かでやり取りしていたのだろうと思っていた。ミアに地球に来てからのアキトのことを聞いていたし、ルリの特殊な環境も考えると直接会ったとは考えにくい。だが『手料理』と言う事は少なくとも一回、アキトとルリは直接会ったことがあるということになる」

文章や表現にもよりますがこれくらいには圧縮できるでしょう。

情報量を多くするのはいいのですが、だからといって文も長くすると冗長になります。

特に重要ではない箇所なら、「簡にして要を得た」表現が必要になってくるかと思います。