時を見た者
第四話
すこし時を戻りここはブリッジ。現在は三名のクルーしかいない。
アキトたちをスカウトしに来たもう一人の男。ナデシコの保安部に所属するゴート・ホーリー。スタイル抜群でモデルも真っ青の操舵士ハルカ・ミナト、どちらかというとかわいい系の顔をしているそばかすがチャームポイント通信士のメグミ・レイナード。
つい先ほどまではルリもいたのだがつい先ほどブリッジより出て行った。
「そういえば艦長と副長まだですよね。どんなひとなんだろ〜。」
「メグミちゃんあんまり期待しないほうがいいわよ、戦艦の艦長なんておじさんの可能性が高いんだから。あんまり美化するとショック大きいわよ。」
「え〜、でもやっぱり期待しちゃいますよ。ここが軍ならまだしも企業の戦艦ですよ。きっと軍とは違いますよ。」
そう言いメグミは目を輝かせた。そんなメグミに苦笑しながらミナトは黙っていたゴートに聞いてみることにした。
「ねえ、ゴートさんは艦長を知ってる?」
「会ったことはないが資料を読んだ。」
「本当ですか、どんな人です。かっこいいですか。」
「そうだな、優秀な人間であることは確かだな。士官学校を主席で卒業し天才といわれるほどだ。」
「すっごいわね〜。」
「そんなことはいいです。かっこいいですか。」
そんなメグミにたいしてミナトは「若いわね〜。」と小声でつぶやいた。
そしてゴートはメグミを見ずにこう言った。
「かっこいいかは別として君の期待にはそえられんぞ。」
「へ、なんでですか?」
「艦長は女性だ。」
「え〜!」
「へ〜そうなんだ。でもゴートさんそういうことは最初に言ったほうがいいわよ。」
「気をつけよう。」
そしてミナトは思い出したようにルリの席を見つめた。
「どうしたんですか?」
「いえね、ルリちゃんがどこに行ったのかな〜と思ってね。ほら最初に会ったときよりあの子表情豊かになってきたじゃない。」
「そうですか、あたしは気づきませんでしたけど。」
ルリは意識がもどってからも急に態度を変えたら変だと思い演技をしていたのだが過去においてもよき姉であったミナトの目はごまかされてはいなかった。
そしてミナトはルリの変化を本当の姉のような気持ちで喜んでいた。この母性ともとれるミナトの暖かさは過去においてもナデシコを影から支えていた。
「それにしても艦長遅いわね~。」
「遅刻ですか?」
「たしかに、来る途中何か問題が起こったのかもしれん。人を遣ったほうがよいかも…。」
ビービービー
突然ブリッジに警報が鳴り響いた。
「木星トカゲの襲撃です。」
「なに。」
突然の警報に現状を把握しているとルリとプロスが戻ってきた。
「何事ですかな?」
「トカゲだ。」
「現在連合軍が対応をしています。」
「ちょっとなにがあったのよ!」
メインオペレーターのルリが戻ってきたことにより状況がより詳しくわかってきた。
そんなブリッジに二人の男性が入ってきた。一人は小柄な老人でありながら鋭い目をしているフクベ・ジン提督。そしておかっぱ頭でオカマのような口調のムネタケ・サダアキ副提督である。じつはネルガルが呼んだのはフクベだけだったのだが軍が無理矢理ムネタケをつけてきたのだ。建前上はフクベの補佐ということでネルガルもことわれなかったのだ。プロスは人件費が増えたと少しいやそうな顔をしていたが。
「木星トカゲの攻撃です。現在連合軍が対処をしています。」
「ルリ君地上の様子を出せるかね。」
「はい、…この青いのが連合軍です。赤いのが木星トカゲです。」
「このバツがついたマークは?」
「やられた軍のマークです。現在約30が撃破されました。のこり5,4,2,1,今最後の軍が撃破されました。」
「ちょっとはやすぎない〜。」
あまりのふがいなさにミナトは驚きの声をあげる。
(いやはや、少しお金をケチりすぎましたかな。)
などと心のなかで考えているプロス。
「なら、早くこれ出しなさいよ。このままじゃ生き埋めじゃないそんなのあたしいやよ!」
「無理です、艦長がまだのためにエンジンが始動できません。」
「なんですってー、こんなとこで死にたくないわー。」
と、キノコがわめいているとブリッジのドアが開いて二人の男女が入ってきた。
そしてあの“伝説”が生まれた。
「みなさ〜ん。わたしが艦長のミスマル・ユリカです。ぶい!」
時がとまった。その中で三人の人間の思考だけは動いていた。
(これでみんなのハートをきゃっち)
(なつかしいですね。これ。)
(ユ、ユリカかわいい。)
いまさら誰か、表記するまでもないだろう。
そんな中いち早く正気に戻ったプロスがユリカに言う。
「艦長早速ですがマスターキーを。現在木星トカゲの攻撃を受けています。」
「は〜い。メインエンジン点火。」
「マスターキーを確認。メインエンジン始動します。」
「それで艦長どうするのかね?」
「おとりを使いトカゲを集めてグラビティーブラストで決まりです。パイロットの方に出撃命令を。」
「現在二人いるうちの1人しか出れません。」
「ほえ、なんで?」
「もう1人は足を折って現在医務室で治療中です。」
「そうですか。仕方ありません。もう1人のパイロットだけで出てもらってください。」
「わかりました。(でもアキトさんどうやってエステに乗るのだろう。さっきまで食堂にいたから偶然を装うのは無理だし。)」
ルリがアキトの今後の行動を考えているとプロスに通信が入った。
「はい、これはどうしました…そのことをどうして…たしかにそうですが…わかりましたお願いします。艦長パイロットがもう1人います。」
「え、でも名簿には二人しか。」
「ええ、その方は違う部署の方なんですが幸いエステの操縦経験がおありのようでパイロットをすることを申し出てくれましたよ。」
「平気なんですか。」
ユリカの疑問ももっともである。いくら経験があるとはいえパイロットが務まるわけではない。今1人いるのだから無理をする必要もない。ユリカの疑問にプロスが答えた。
「ええ、その方の経歴を調べたらパイロットとしての腕前もなかなかのものでしたよ。いや〜本当にラッキーでした。」
「そうですか。ではその人も出てもらってください。」
「わかりました。整備班にエステの準備をさせます。またオモイカネにその人の案内をさせます。」
「おねがいね。」
(それにしてもプロスさんがOKするとは、アキトさん今までなにをしていたんですか?)
ルリがアキトの経歴に疑問を感じているなか先に出ていたエステが戦闘を開始した。
ここは食堂。つい先ほどまでアキトとプロスが話をしていた。ミアがけが人の治療のために医務室に向かっていったそのすぐ後にアキトはプロスに連絡をとって自分も出撃することを申し出たのだ。
「おまえさんパイロットだったのかい。」
「ええ、少し前まで。もっともコックのほうがウソというわけでもないんですが。」
「そうかい、でもいいのかい?パイロットやめたからここにはコックで入ったんだろ。」
「そうですね。でもそんなことを言っている場合でもないですから。これでも多少は腕に自信がありますから。」
「あんたがいいならあたしゃ何もいえないよ。ただ死ぬんじゃないよ、あんたの料理は気に入った。もう少し食べたいからね。」
「ありがとうございます。じゃあ行きますね。」
そうホウメイに言うとアキトは戦場に走っていった。
場面は変わりここはエステの中、いままさに戦闘中である。
パイロットの女性、かつてのナデシコにおいて敵兵器のボソンジャンプに巻き込まれ命を落としたイツキ・カザマである。なぜ現在彼女がナデシコに乗っているかというと前回より多くの火星駐留軍が地球に戻り、木星トカゲの戦力が前回より詳しくわかったためネルガルがパイロットを増員したのだ…もっとも気休め程度だが。
そんなイツキは現在空戦フレームで出撃していたちなみにカラーは濃い目のグリーンに肩には灰色の羽のマークがついている。とても綺麗な動きでエステを動かしバッタをかく乱している。
「それにしてもさっき連絡があったパイロットはまだかしら。でも下手な人が来るよりはこのままこないほうが良いけれど。」
どうやらもう一人のパイロットが怪我をした瞬間を見たためにすこしクルーの腕を不安に思っているようだ。たしかに「ガイ・スーパーアッパー」などといいながら整備の終わっていないエステでこけて怪我をしたのを見れば不安にもなろう。その上増援でくるその人は本職のパイロットではないという。それがさらにイツキの不安を増大させていた。
「まったく下手な人間は邪魔になるのに。大丈夫でしょうね。」
<たぶん足手まといにはならんよ。イツキ。>
「え…この声は!」
イツキに通信が入るとともに数体のバッタが爆発した。地上にはいつの間にかピンクの陸戦フレームのエステが戦闘を開始していた。
「アキト!」
<久しぶりだな。つもる話もあるが今はバッタどもの相手をするのが先だ>
「…解ったわよ。あとでくわしい話を聞かせて頂戴。」
<あー、おてやわらかに。>
「考えてあげるわ。」
そう言いながらも二人はバッタを落とすことを忘れない。二体のエステがすばらしいコンビネーションでバッタの間をすり抜ける。そのすばらしい操縦技術はまるで見ているものにはダンスのような美しさを思わせた。
その様子を見ていたブリッジの面々はその操縦技術にため息をもらした。
「すごいですな〜。まさかこれほどとは。いや〜予想をこえてますな〜。」
「二人は知り合いみたいね。」
「そうですね〜プロスさん。男の方のお名前を教えてくれませんか。」
「テンカワ・アキトさんです。もともとはコックとして雇ったのですがこれはパイロットのほうもお願いするべきですかな。」
「テンカワ・アキト…うーんどこかで聞いたような…。」
ユリカがアキトの名前を思い出そうとしているなかもう1人戦闘とは関係ないことを考えている者がいた。
(アキトさんとイツキさんがこの時点で知り合いなんて、これはアキトさんに詳しく聞く必要があります。…ライバルが増えてしまったのでしょうか。)
とアキトとイツキの間を不振がるルリ。…なんのライバルかは考えてはいけない。しいていうのならお約束である。
まあ、ブリッジ要員の中心である二人が戦闘とは別のことを考えているとミナトが報告をした。
「エンジンあったまったわよ。」
「わかりました。ルリちゃん二人にランデブーポイントを伝えて。」
「わかりました。アキトさんイツキさんこの場所に来てください。」
<アキトさんイツキさんこの場所に来てください。>
「了解。イツキ行くぞ。」
<いいの?これくらいなら私たちで殲滅できるわよ。>
「いいさ。ナデシコの初戦闘にそんな無粋なことはしないほうがいいさ。」
<…それもそうね。初めての手柄はゆずりましょうか。>
「さあ行くぞ、バッタどもをエスコートしてやらないとね。」
<物騒なエスコートよねー。同情しちゃう。>
そういいながら二人は確実にバッタを誘導していく。
そしてアキト機が空に飛んだそのとき、海の中からナデシコが出てきた。
<グラビティーブラストはっしゃー。>
ギュオオオン
ナデシコより放たれた黒い波は残りのバッタを全て飲み込んだ。
その発射音はまるでナデシコの産声であった。それをアキトとイツキは空から見ていた。
<すごいね…これがあの時あれば…。>
「そうだな、だがそんなことをいっても意味がない。これからのことを考えるほうが彼らの弔いになる。」
<そうだね。それにしてもアキトが乗っているとはね〜。>
「俺も知らなかったさ。偶然とはすごいな。」
<それにしても重いわね〜。落としちゃっていい?>
「やめんか。」
そうアキト機はとんだ直後イツキ機に腕をつかまれ飛んでいたのだ。この行動は実は大変危険であり両者が大破する危険がある。そんなことをさも当然にやる二人の腕は確かに一流だ。…もっともそんなことを相談もなしにやる二人の信頼関係のほうがすごいのかもしれない。
そんな二人にユリカから通信が入った。
<おつかれさまでした。ナデシコに戻ってください。>
「わかりました。イツキたのむ。」
<はいはい、運んであげるから今度私の好きなもの作りなさいよ。>
「りょ〜かい。」
そんな二人を見ていたユリカは突然叫んだ。
<あ〜思い出した。アキト、アキトだよね。何でここに?あ、わかったユリカのピンチに駆けつけてくれたんだ。あ〜ん、やっぱりアキトは私の王子様なんだね。」
その声の大きさのすごいこと。とっさにアキトとイツキは耳をふさいだ。しかし音量調整のある通信越しでこれである。ブリッジのすごさはいかほどか。現にユリカ以外に平気なのは意外なことにフクベしかいない。なぜ無事だったのかを後にフクベに聞くと
「年の功じゃよ。」
と答えた。さすが亀の甲より年の功である。
ちなみにルリは
(油断していました…なんかパワーアップしてませんか。)
どうやら耳をふさぐことを忘れていたようだ。まあ、前回はこれほどすごくなかったからしかたがないが。
ところでエステバリスの操縦に使われているIFSとはパイロットの思考を直接エステに伝える、つまり耳を押さえる動作をしたイツキのエステはその思考をうけ耳をふさぐ動作をした。つまりつかんでいたアキトのエステを離してしまったのだ。当然、陸戦形のアキトのエステは重力にしたがって海に落ちた。
「へ、あ、アキトごめ〜ん。離しちゃった。」
<いいからさっさと引き上げてくれ。>
「は〜い。」
そう言いながらアキトを引き上げるイツキ、もっともその目は笑っていないが。
どうやらいたくご立腹のようだ。この二人になにがあったのか、ともかく二人のエステはナデシコに帰還した。
あとがき
おひさしぶりです。前回からだいぶ時間がたってしまいました。作品作りの難しさを実感している状態です。これからはもう少し早く作れるようがんばりますので、よろしくお願いします。
代理人の感想
うーにゅ、ちょっと単調かなぁ。
ただ出来事を並べてるだけで、盛り上がりって物がないんですよね。
文章力はそうすぐには上達しませんが、構成はちょっと気をつけてみるだけでも結構違う場合があるので頑張ってください。