時を見た者
第五話

パイロットの二人がブリッジに入った瞬間、一つの影がアキトに飛び掛ってきた。

「アキトー!」
ヒョイ
ズベー
ガシャン

しかしアキトはその影を見事に避けながらブリッジへと入った。そうして入ったブリッジにはなんともいえない空気が流れていた。そんな空気を破ったのはやはりというか、苦労人のプロスであった。

「いやーお二人のおかげで無事ナデシコは発進できました。とくにテンカワさんはパイロットでもないのにご苦労様です。」
「いえ、俺にできることをしたまでですよ。それにあの程度ならイツキ1人でもお釣りがきますよ。」
「いやいやあの技術はすばらしいですよ。どうですパイロットとして働きませんか?もちろん相応の給料をお支払いしますが。」
「…そうですね、コックとの両立を認めてくれるのならば。」
「いいのですか。そうすると貴方の負担が大きくなりますが。」
「かまいません。」
「わかりました、ではのちほど契約の変更をいたしましょう。」

そうプロスとアキトが話していると先ほどの陰が復活した。

「アキト~なんで避けるの。もしかして照れてるの。もう照れなくてもいいのにアキトの恥ずかしがり屋さん。」

そう言って陰…ナデシコ艦長のユリカは顔を赤くして左右に振った。そんなユリカのしぐさにアキトは懐かしそうな顔を一瞬だけして、言った。

「もしかして火星で隣だったミスマル・ユリカか?なつかしいな〜。」
「へーアキト知り合いなの。」
「ああ、昔のお隣さんだ。」
「そ、そうなのかいユリカ。」

そんな会話を聞いていた存在感のない男。ナデシコ副長のアオイ・ジュンがユリカに聞いた。声が震えているのは微妙な男心であろう。もっともそんなジュンの様子にまったく気づくことなくユリカが答えた。

「アキトはね〜ユリカの王子様なんだよ。小さいころからユリカがピンチになると助けてくれたの。」
「そ、そうなんだ。」

その瞬間ジュンは燃え尽きて白くなってしまった。そんなジュンをほっといてイツキがとりあえずユリカに報告をした。

「艦長任務終わりました。」
「ごくろー様です。」
「そういえばイツキさんとアキトさんは知り合いなんですか?」
「そうだよルリちゃん、昔いっしょの部隊にいたんだ。」
「そうですか。」

この発言にルリは内心驚いていた。まさかアキトが軍に入るとは考えもつかないことだったからだ。ルリの考えていることがわかったのかアキトは苦笑してしまった。そんな二人を見てこんどはイツキが質問した。

「二人とも知り合い?」
「ああ、昔ちょっとしたことで知り合ったんだ。」
「さてと、報告も終わったし。…アキト、今から食堂行くわよ。」
「りょ〜かい。そう言えばミアさんもこの船に乗っているよ。医者としてね。」
「ホント!よかった、生きてたんだ。後で会いに行くわ。」
「それより食堂に呼んだほうが早いよ。さっきご飯を食べる途中で呼び出されてたから、まだお腹空いてるだろうしね。」
「そう、楽しみだな〜。」

二人は会話をしながらブリッジを後にした。そんな二人を見てルリが
(ライバル決定でしょうか?)
と考えこんでしまった。また、ユリカも自分も食堂に行こうとしたがプロスに捕まり、遅刻について説教を受けていた。

ズズズー
麺をすする音だけが食堂に響く。だれもがラーメンを食べているイツキに注目していた。今、イツキが食べているラーメンはスープが赤いタンタンメンである、しかし、スープの赤さは普通のタンタンメンの何倍も濃く、想像を絶する辛さであり見ているだけで舌がしびれるものだった。ちなみにこれをつくっている時にアキトがホウメイに「だれを殺すんだい。」
と聞かれてしまったのはしょうがないだろう、作った本人でさえ食べたいとは思わないものをイツキは美味しそうに食べるのだから信じられない。人にだす料理は必ず味見をしているアキトがただの一度も味見をしないのだ、そしてそのタンタンメンを美味しそうに食べているイツキの姿はある意味、見物するに値する光景だろう。

「ふ〜ごちそうさま。やっぱりアキトの作るものが一番ね。」
「この料理に関していえばうれしいのかわからないよ。」
「イツキさんも変わりませんね~安心しましたよ。」
「ミアさんもおかわりなさそうで安心しました。」

そう言いながら二人は楽しそうに笑いあう。しかしイツキはアキトからミアの乗る理由を聞いてすこし気遣うようにミアを見る。そんなイツキの気持ちをさっして大丈夫だといわんばかりに微笑むミア。そんな二人を見ながらアキトはすこし辛そうな顔をした。もっともよほど親しいものでなければ気づかぬかすかなものでは遭ったが。
しばらく三人で談笑しているとルリが食堂に入ってきた、アキトを見つけると真っ直ぐに三人に向かって歩いてくる。

「あの、アキトさん。」
「なにかな、ルリちゃん?」
「イツキさんといたという部隊のことを聞きたいんですけど。」
「私たちも聞きたいな。」

ミナトとメグミもついてきたようだ。ちなみにまだユリカは遅刻のことをプロスとゴートにお説教されていた。

「うーん、どんな部隊といわれても特になにかあるわけでもないよ。…しいていうのならすこし個性的な部隊ではあるけれどね。」
「そうね〜。周りからは軍人らしくないともいわれていたからね〜。」
「そうですね。でもいい人たちでしたよ。」

そう言い昔を思い出す三人。まさか過去の世界において自分の知らないアキトの過去を聞くことになるとは考えもつかず、ルリは過去を共有しているイツキとミアに少しの嫉妬心を抱いてしまった。

「部隊の名前は?」
「火星防衛軍機動兵器部隊特務小隊“灰羽”だ。」
「“灰羽”?なんかあまりかっこいい名前じゃないわね。」

 そう、ミナトに言われてアキトとイツキの二人は苦笑してしまう。今まで自分たちの部隊名を言うと、十人中六人くらいに同じようなことを言われてきたのだ、火星を離れ、地球ですらそのようなことを言われれば苦笑するしかないのかもしれない。

「そうですね。」
「確かにあまり良い名前じゃないわね。」
「一応意味はあるんだけれどね。」
「どんなです?」
「俺たち“灰羽”は機動兵器やオプションのテストを行っていたんだ。今あるエステのフレームや装備のいくつかも俺たちがテストしたものだよ。」
「火星って土地が広かったからテストにもってこいなのよ。それでそのテストをするのが私たちの任務の一つだったの。特務っていうよりも実験隊ね。」
「それが何で“灰羽”って名前につながるんですか?」
「テスト段階でまだ白か黒かもわからないものを扱うから、そのどちらでもない灰色を使っているの。そして羽の部分は実験機が無事に巣立つことを願ってつけられたの。」
「実験部隊だったから腕が立つことが第一条件だけどね。だからかな〜個性の濃いやつらが集まったよ。」
「その部隊の一員って自覚ある?」

その言葉を聞いてルリは二人の関係が少しわかった気がした。確かに同じ部隊にいれば親しい関係にもなるだろう、もっとも二人のじゃれあいがうらやましいほどに自然だったが悔しかったが。

それからしばらく女性5人は談笑していた。アキトは食堂の片付けや明日の仕込をしていたがひと段落すると1人食堂を出て行った。そのことにルリが気づいたときにはもう見えなくなっていた。

「どうしたのルリちゃん。」
「いえ、アキトさんがいないもので。」
「本当だ。ジュースでも買いに行ったかな。」
「ちがうわよ。」

イツキがその意見を否定する。

「じゃあ、どこにいったかわかりますか?」
「たぶんあそこね。」
「あそこ?」

「フー。」

ここは喫煙所。そこでアキトは一服していた。

「やっぱりここね。」
「一本吸うか?」
「私は吸わないわよ。」
「アキトさん、タバコ吸うんですか。」
「ああ、気分転換にね。」

そんなアキトを見てルリは信じられなかった。かつてアキトは舌がやられるといいタバコを吸うことはもちろんなく、また吸っている人にもあまりタバコの最中には近づかなかった。それが今では自分から吸っている。軍人になることも予想外ではあったが想像できないわけでもない、軍人になった理由も想像がつかない分けではない。だが、タバコをすっているアキトは違和感がありすぎる。
 
「たしかにホウメイさんとかにもやめたほうがいいと言われてるんだけど。どうも癖になちゃったからね、しょうがないかな。」
「しかしね〜、その年で癖になるほど吸っているのも問題よね。」
「灰羽じゃ誰も気にしなかったがここじゃやばいかな?」
「一般企業の船だからね。」
「ま、平気だろ。」
「いつから吸っているんですか?」
「十五。」
「へ!」

この発言にはさすがに前回のナデシコで鍛えられたルリもおどろいた。仮にも軍属だったものがそんなに早く吸っているとは思えなかったのだ。そんなルリにイツキがため息をつきながら説明した。

「うちだけよ、さすがに体が基本のパイロットにそんな早くからタバコを吸わせていたのは。」
「は〜。」
「じゃ、二人ともまた後でね。」
「ああ。」
「あ、はい。」

そう言いイツキはさっていった。後に残された二人に沈黙が流れる。しばらくしてからルリがアキトに質問をした。

「何で軍に。アキトさん軍を嫌ってなかったですか?」
「確かに軍は好きじゃないよ。ただ体を鍛えるのにはもってこいの場所だし後々のことを考えたら軍にいたという経歴はあってもいいと思ってね。」
「何でです?」
「一番はエステの操縦に関してかな。軍にいたのならばできてもおかしくないし。今日みたいに俺のほうからパイロットになることを申し出てもおかしくないだろ。」
「そうですか…じゃあユリカさんのことはどうするんです。」

そう、アキトは未来においてユリカを取り戻すために力を求めた。奪われた復讐のために力をつけた。そんなにもユリカを愛したアキトが過去においてユリカとの関係をどうするのかがもっとも聞きたいことだった。

「ユリカか…そうだな“今のユリカ”はどちらかというと妹かな。けっして俺の愛したユリカではないだろう。」
「だけどユリカさんはユリカさんです。それにここが私たちの過去ならばアキトさんが愛したユリカさんです。」
「そうだね、だけど言葉にするのは難しいけど今のユリカに会った時感じたのは本当に妹に感じるような愛おしさだったよ。」
「どうしてですか?」
「ここが過去だから。俺はねルリちゃん前回もそうだけど再会した時からユリカを好きだったわけではなかった。」
「え!」

これを聞いてルリは不思議だった。ユリカは再開したときからアキトのことを好きだといっていた、そしてなぜかアキトも再開した時からユリカを好きだったんだと思っていたいたからだ。

「俺はね、共にナデシコで成長していったユリカを愛したんだ。あいつはここでいろんなことを経験し魅力的な女性となっていった。そんなユリカを俺はだんだんと愛していったんだ。」
「でもこれからユリカさんは…」
「前回とは違う経験をする。そうだろう、俺たちはそれをする。ユリカの成長も前回とは違うだろう。そうしてユリカの気持ちもな…これから俺があいつにどんな感情を持つのかもわからない。愛するようになるかもな…もっとも振られるかもしれんが。」
「第一あいつが俺を愛するかすら分からんだろう。つまりあいつとの関係はこれからなんだよ。」
「そうですか。わかりました。」

そう言いアキトは笑う。その顔には虚勢はみられない。本当にそう思っているのだ。ルリは思った、そんなふうに笑えるまでこの人はどれだけ考えてきたのだろうかと。すくなくとも昨日今日ではないはずだ。だからこそ何もいえない、それこそ昨日今日この世界に目覚めた自分には。それと共に寂しさも感じていた。自分とアキトの間にある時間の違いに。
そして二人の間に再び沈黙が訪れる。しばらくしアキトが席をたった。

「もう休むよ。明日はいろいろよと大変だからね。」
「そうですね、お休みなさい。」
「お休みルリちゃんも早く休みなよ。」

 アキトが部屋に戻ると、ドアの前には顔に笑みを浮かべたイツキがいた。そんなイツキを見たアキトは苦笑しながら近づいていった。

「どうしたんだ、お前の部屋はこっちじゃないだろ。」
「聞きたいことがあったのよ。」
「なにを?」
「アキト、貴方どうやって地球に来たの?貴方は、他の誰でもない貴方だけは地球に来れるはずないでしょ。」

そう言うとイツキは目を鋭くしてアキトを見る、どんなウソも見逃さない、許さないという意思を込めて。

「あの時、火星から最後に脱出したのは私たちのシャトルだった。これは間違いないわ。そして貴方はそのシャトルには乗っていなかった。」
「そう、オレはあのシャトルには乗っていない。そしてそれ以外のシャトルにも乗っていない。」
「なら、なんで貴方はここにいるのかしら?私たちの後に自力で脱出した人たちはいないわ。そして自力での脱出は不可能でしょうね。」

 アキトが生きていたこと、それ自体はイツキにとってはとてもうれしいことだ。死んでしまったと思っていた仲間が生きていた。しかし、アキトと最後に分かれたときの状況を考えれば素直に喜べない。生きている、そのことは驚くことであっても不思議がることではない、だが、地球にいることはおかしい。そして、そのことが分かるアキトはどう答えれば良いか分からない、少なくともボソンジャンプのことが言えない以上明確に答えるわけにはいかないからだ。

「さあ、自分でも分からないよ。気づいたら地球にいたとしかいえない。」

アキトもこう言うしかない。いずればれることでも今言うわけにはいかない。この時期にナデシコにイツキが乗っていたことは完全に予想外だったのでよい言い訳を用意していないのだ。どう言えばイツキに納得してもらえるのか、アキトは考え込んでしまった。

(これ以上は聞き出せないか。…本当に理由が分からないんではないでしょうけどね)

 そんなアキトの様子を見てイツキはそう結論付けた、自分が地球にいた理由をなぜ答えないのか、それについては分からないが、アキトが現時点で答えないことは感じ取れた。そして、決して自分たちを信用していないのではない。ならばもう少し待ってみようという。

「分からないならいいわよ。じゃ、あたしも部屋に戻るかな、夜更かしはお肌に悪いからね。」
「ああ、お休みイツキ。」

そういってイツキは帰っていった。イツキの後姿を見送りながらアキトは心の中で謝った。

(ばればれか、悪いな、イツキ)

そして、同時に感謝もした。うそを言っている自分を信じてくれたことに対して。

(ありがとな)


あとがき
更新が馬鹿みたいに遅れてしまいました。なんとかがんばって更新を続けるので暖かい目で見守ってください。
さて、ルリとイツキはある意味対照的な位置にいるキャラになっています。ルリは過去(未来)のアキトとについて良く知っており、イツキは現在のアキトについて良く知っています。そして、ルリにとってイツキは自分の知らないアキトを知っているとても気になる存在です。そのあたりをうまく書ければと思っています。これからもよろしくおねがいします。

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

んー。

文章ってのは自分の頭の中に浮かんだ物をそのまま書けばいいと言うものじゃないんですよ。

「丸い卵も切りようで四角、物もいいようで角が立つ」と言いますが、

同じ内容の文章でも書き方伝え方で読者の受ける印象はまるで違う物になります。

スクーさんにその意図はおありで無かったかもしれませんが、

特に冒頭のアキトがブリッジに入ってくる部分などは伝えようという努力を全面放棄したような、

ただの言葉の羅列になってしまっているんですね。

一読者として、更なる努力を要望したいと思います。