初めまして、宜しくお願いします。
_あ、初めまして。
“彼”のことで、お話ということですね。
例の「戦神」シリーズのことだとか………。
_ええ。
失礼ですが…随分とお若いんですね。
ふふ、会った方、みんな言われます。
でも、公表はしないでくださいね?
_勿論です。
それが取材の条件でしたものね。
有難う御座います。
_えーっと、それでは、お名前を。
はい。
ティア・スティル=ロイドと申します。
一応、自由業……ということになりますね。
「漆黒の戦神」アナザー
ティア・スティル=ロイドの場合
_あらら、自由業というのは………
あら、違わないでしょう?
就職しているわけでも無し、自分で営業をしているわけでも無しなんですから。
_まぁ、そうですが…………
せめて、クリエイターとでも言われては?
ふふふ、それもそうですね。
でも、気取ってるような気がして……あまり好きではないんですよね、その言い方は。
まぁ、そんなことはどうでもいいですね。
_では、気を取り直して………
“彼”と知り合ったのは、どういういきさつなのでしょうか?
そうですね…………。
あれは、月の美しい夜のことでした。
眠りにも就けず、暇を持て余していた私は、何気なく深夜の散歩に出ていたんです。
_それはまた、風流ですね。
ええ、月がとっても綺麗でしたし………
それに………………
何かに誘われたような気もしたんです。
そして私は、月光と予感の導くままに、森の中へと入って行きました。
_ほうほう。
月光に照らされたウィーンの森って、言葉に表せないような感じがあります。
その中の、少し開けたところで、私は“彼”と出逢ったんです。
_それはまた、ドラマチックな出逢いですね。
そんなものじゃなかったですよ。
何しろ、“彼”が着ていたのは、あの……戦闘服というんですか、漆黒のプロテクターに同じく黒いバイザーという怪しい格好でしたからね。
ビックリ仰天して、後をそっとつけてみたんです。
_そ、それは………
キてる人にしか見えませんよねぇ。
くすくす、はい。
何者だろう、この人は。
こんな深夜に森の奥で。
そんな感じでした。
でも…………
_でも?
同時に、なにか深い孤独のようなものも感じたんですよね、………“彼”の背中に。
むしろ、それが何かを知りたくて、私は“彼”の後をつけたんです。
_で、どうなりました?
あっさり見つかりました。
_あはは。
気付かれてないと思ってたんですけどね。
そーっと、もう少し近づこうとした瞬間、背中越しに、
『さっきから、何をつけまわしてるんだい?』
って言われちゃって。
もう、飛び上がって驚きました。
_ギョッとしたでしょうねぇ。
それで、どうなったんですか?
暗い森、全身闇で塗り固められたかのような漆黒のいでたちをした怪しげな男。
悲鳴を上げて逃げ出してもおかしくないシチュエーションなんですけど……………
何故か、動かなかったんですよね、私。
_足が竦んだとか、そういうのではなくて?
ええ。
雰囲気……だったんでしょうね、多分。
怖い……といったものは全然無くて、むしろ優しげなそれが漂っていました。
そして“彼”ったら…………
_?
『こんな時間に、女の子が一人で出歩いちゃいけないよ。
送ってあげるから、早く家に帰りなさい』
って言うんですよ?
レディに対して、それは失礼ですよね?
_あ、あははは………(ナゼか何も言えないインタビュアー)
で、どうしたんです?
あっさりと引き下がったわけでもないんでしょう?
ええ、それはもちろん。
“彼”に興味も出ていましたからね。
『もし連れ帰ったりしたら、「この人が私にイタズラを〜〜〜!!!」って叫んであげる』
って言ったんですよ。
_そ、それは……“彼”にはキくでしょうねぇ……(冷汗)
ええ、クスクス。
“彼”、見事なまでにうろたえちゃって。
『で、ででで、君はどうしたいんだい!?』
って、何でも言うこと聞いてくれそうな感じになっちゃいました(笑)。
それで、貴方の目的を教えて、って言ったら、渋々ながら、
『……この付近に、以前落下したらしい小型チューリップの偵察さ』
って答えてくれました。
驚きましたよ、もう。
何でそんなことをするのか? 貴方の名前を教えて。
速攻でそう訊ねたら、返ってきた答えが…………
『俺の名前は、テンカワ・アキト。
西欧方面軍に出向中のサラリーマンだよ』
_驚いたでしょうね。
そりゃあもう。
“彼”の伝説は、聞き及んでいましたもの。
尤も、尾鰭のついたウワサ話だと思ってたんですけど、“彼”の持つ雰囲気は尋常じゃなかった。
タダモノじゃないって感じたんです。
思わず、
『連れてって!!』
って叫んでましたね。
_どうなりました?
勿論、『駄目だ!!』って一喝されました。
_当然でしょうね。
で、どうしたんです?
ふふ、大人しく引き下がるわけないでしょう?
大きく息を吸い込んで、
『キャアアァァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!!!!
ここに変質者が〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!』
って。
_(汗)(汗)(汗)。
花が咲くように笑った私に、“彼”も観念したみたいになっちゃいましたね。
_(キャラ変わってるよ、このヒト………
それに、『花が咲く』じゃなくて、『ニヤリ』が正しいんじゃあ……)
何か言いました?
_いえ何も。
でも、流石の“彼”も、全面降伏だったみたいですねぇ。
…まあいいでしょう。
そして、私は見たんです。
伝説を……………。
_小型チューリップ、ですね。
いえ、違います。
_え?
そこまで行く途中で、怪しげな男たちに囲まれたんですよ、私たち。
_怪しい男たち、ですか?
ええ。
“彼”と違って、胡散臭さをぷんぷん漂わせた連中でした。
尤も、黒ずくめってところは同じでしたけどね(笑)。
黒いスーツにサングラス。
_「お約束」というやつですね。
確かに(笑)。
しかも開口一発、
『ティア・スティル=ロイドだな?
私たちと一緒に来てもらおう』
ですから、笑っちゃいますよね。
_……とことん「お約束」ですねぇ(笑)。
それで、どうなったんですか?
“彼”が一歩前へ出て、……………
『この娘に何の用だ』
『……なんだ、貴様は?
おい!』
側の男に、一言怒鳴りつける男。
『はい』
同時に、その男の手には一丁の拳銃が握られていた。
『黙っていてもらおう。
用があるのは、そこの小娘だけだからな。
大人しくしているなら、命だけは助けてやらんことも無い』
半ば嘲るような、尊大な口調で男は言った。
―――瞬間。
“彼”……そして辺りの雰囲気が、変わった。
『…………!!?』
張り詰めた、冷たさすら感じる緊張感。
その変化に、男たちは顔色を変えた。
彼等は筋金入りのプロだったのだろう。
だが、十年以上のキャリアを持ってしても、いま受けているほどのプレッシャーに出くわしたことは、その人生で無かったに違いない。
蛇に睨まれた蛙。
―――そして、十秒後。
その場に立っているのは、ティアと“彼”だけとなっていた…………………………………………
(以上は、ティアさんの話から再構成したものです)
_…………………………………………。
一瞬にして、五人からなる男たちをあっさりとノックダウンしたんです。
残像すら、私には捉えることは出来ませんでした。
その、壮絶なまでの強さ、凄絶なまでの美しさに、私は一瞬にして魅了されてしまっていたんです。
_……なるほど。
では、チューリップは?
見つけはしたんですけどね。
結局、完全に壊れてたみたいで、無人兵器に出くわしたりすることもありませんでした。
“彼”にとっては、骨折り損だったかもしれませんね(笑)。
_それはそれは………(苦笑)。
“彼”との出逢いは、とても有意義で、そして素晴らしいことでした。
その頃、実は少しスランプに陥っていたんですけど………
完全に、吹っ飛んじゃいましたから。
_あぁ、そう言えば…………
インタビューの前に調べさせてもらいましたが、お話の時期の少し後に新作を発表されてましたよね。
はい。
“彼”は私にとって、誘拐とスランプの両方から救ってくれた恩人です。
そして……………
何十枚、何百枚でも、一生をかけて描きたいひと……ですね。
_では、最後に“彼”に一言。
アキトさん、御久しぶりです。
私の絵、見てくれていますか?
あれから、何枚もあなたの絵を描きました。
でも、公表はしていません。
最初の、私の復活の一作以外は。
いつか、見に来てくださいね?
それまでに、また何枚も描いておきますから……………。
それでは、近いうちにお会いできることを祈っています。
_有難う御座いました。
人物補足
<ティア・スティル=ロイド>
彗星の如く画壇に現れた天才画家。
しっかりとした強い筆遣いと、何処か漂う朧気な雰囲気のミスマッチは、著名画家たちからも絶賛されている。
インタビューの中にあった「新作」とは、“彼”…「漆黒の戦神」テンカワ・アキトをモデルにしたとされる「黒と蒼銀」。
約二年半振りの新作となったこの作品は、彼女の新たな一面を切り開いたと各方面から絶賛された。
なお、彼女は年齢について一切明かしておらず、様々な憶測が流れている。
還暦を過ぎているとか、まだ二十歳前だとかいう説も。
取材担当の私は運良く会うことが出来たが、彼女との約束もあり、年齢は一切記さないものである。
民明書房刊「新説 漆黒の戦神、新たなる軌跡」3巻より抜粋
「お呼びでしょうか、舞歌様」
扉が開き、三人の男が私の部屋に入ってきた。
九十九君、元一朗君、源八郎君だ。
「あら、早かったわね」
「はい、緊急のお呼びということでしたので……………」
敬礼をくずして、九十九君は言った。
「なんのご用でしょうか?」
元一郎君の問い。
「実はね………これを見て欲しいのよ」
そう言って私が取り出したのは………
二枚の絵だった。
いえ、『絵』と言うよりは、『ラクガキ』と言ったほうがいいかもしれないわね。
どうやら、男を描いているらしいことは解るのだけど、四頭身だしデッサンは狂ってるしクレヨンだし……………
はっきりいうと、両方とも幼稚園児の絵と大差無いレベル。
そして九十九君は、感想を正直に言った。
「何ですか、そのラクガキは?」
「どこかの幼稚園児のお絵かきですか?」
元一郎君も正直だった。
でも、正直なだけでは世の中は生きてゆけないのよね〜。
あら?
源八朗君だけは、何にも言ってないわね。
思慮深いのよねー、彼。
沈黙は金なり、かしら?
………ちょっと違ったわね。
でも、だからってどうなる状況じゃないけどね、いまは。
「……だそうよ?」
私は、後ろの衝立の影にいる人物に声をかけた。
瞬間。
辺りを支配した怒気に、九十九君、元一郎君、源八朗君の三人は硬直した。
衝立の上に、真っ赤な『昂氣』が立ち昇ってるわね…………。
あらら〜、三人とも(特に九十九君と元一郎君)、私を泣きそうな目で見てるわ。
そして、真紅の『昂氣』を身に纏った彼女が、衝立の後から姿を現した。
「貴様ら………よくも、好き放題言ってくれたな………?」
あ、眼には本物の殺気があるわね。
「ま、ま、ま、まさか…………
あのラクガキ…もとい!!
絵を描いたのは…………!?」
「そ、北斗と枝織ちゃんよ」
最初に絵を見せられて、判断を聞かれた時は、どうしようかと思ったわね〜。
多分、あのアキトくんの暴露本に触発されたんでしょうけど。
九十九君たちと同じ感想なんて言ったら、シヌ目に遭うのは目に見えてるし。
………まぁ、同じ感想だったんだけどね。
だから、この三人を呼んだんだけど。
…身代わりとも、人身御供とも言うわね。
真紅の輝きが、北斗の躰から溢れ出る!!
「問答無用!!」
「「「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」」」
そして、扉ごと三人は吹き飛んでいった。
………成仏して頂戴。
でも………
「ふぅ……」
懐から一枚の紙を取り出す。
北斗と枝織ちゃん……二人とのことをとやかく言えないレベルだなんて…………
解っていたけど、ショックだわ…………。
東舞歌。
彼女自身、絵心は全く無いのであった…………(合掌)。
ナデシコ内にあるおしおき部屋。
その部屋の中で、椅子に縛り付けられている男が一人。
言わずと知れた、テンカワ・アキトである。
「さぁ、アキトさん。
覚悟はいいですか?」
「え、えっと、みんな……………
お,俺は、別に何も悪いことは……………
いえ、ゴメンナサイ」
仁王立ちになったルリを初めとする女性陣に、何とか抗弁しようとするアキトだが。
一斉に向けられた、怒りと嫉妬に燃える三十の瞳に、白旗揚げて全面降伏。
そんなアキトに、ルリはニヤリ笑いを浮かべ、
「ではアキトさん。
次の中から、好きな選択肢を選んでください。
一、添い寝。
二、混浴。
三、ヴァーチャルルーム。
四、お泊り。
五、二十四時間の自由権。
誰が選ばれるかは、私たちの“話し合い”で決まりますが」
その権利を獲得するために新たな血の雨が降るのだろうが、それはまた別の話。
「え、ええっと………………」
答えられないアキト。
まぁ、どれを選んでも嬉しい目と死ぬような目にあうことは、100%間違いないが。
「ろ、六番………っていうのは、ないよね……は、ははは……………」
苦し紛れに笑いを取ろうとするアキトだが、それは完璧な逆効果。
だが。
「そうですね……………
でしたら、ひとつ提案があります」
「えっ!?」
なんと、ルリが譲歩するかのように見える!
「私が、三つの質問をします。
もしそれに答えられたなら、今回のおしおきは無しにしてあげましょう」
「ほ、ホントかい、ルリちゃん!!?」
「ち、ちょっと、ルリちゃん!?」
「何考えてるのよ!?」
「どういうことです!?」
響き渡る、アキトの希望を見つけた声と女性陣の戸惑いの追及。
しかし、ルリはそれを気にしたそぶりも見せず、
「い・い・で・す・ね?」
迫力のある声で言った。
その声に何かを感じ取ったのか、女性陣の追及は止む。
「いきますよ、アキトさん」
「わ、わかった!!」
対するアキトは、一筋の光明を見つけたかのよう。
だがしかし。
「宇宙には涯がありますか、それともありませんか?
時間は有限ですか、それとも無限ですか?
死後の世界はありますか、それともありませんか?」
「え?」
一瞬にして打ち砕かれるその希望。
「さぁ、答えてください、アキトさん」
「そ、そんなこと言っても……………」
「答えられないなら、私が代わりに言ってあげましょうか?」
口篭もるアキトに、ルリは言う。
「つべこべ言ってないで、逃げ道は無いということをいい加減に悟り、私たちのおしおきを受けなさいということです。
これが三つの質問の答えです」
そして告げられる、死刑宣告。
「そ、そんな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!!」
数時間後。
おしおきルームには、すっかり憔悴しきったアキトだけが残されていましたとさ。
(ちゃんちゃん)
あとがき
え〜、勢いで書きました。
舞歌と北斗は出したかったので、例の三人組に被害者となってもらいました(笑)。
合掌。
それにしても、優華部隊ってどうやって「戦神」シリーズを手に入れてるんだろう?(爆)
でも、「抜粋」ってことは………他にもいろいろ書いてあるってことですよね?
……読んでみたいなぁ(笑)。
ちなみに、ティアの年齢は………十四歳だったりします(爆)。
このことを彼女たちが知ったら、おしおきはより苛烈を極めてたりして(笑)。
それでは。
管理人の感想
昴さんから投稿第七弾です!!
今度は画家ですか?
確実に職業別に勢力(?)を増してますね(笑)
今後もアキトの犠牲者は増えつづけるのでしょうか?(爆笑)
しかし、毎回毎回・・・北斗と舞歌は努力をしてるね〜
源八郎はどうみても巻き添えだろう(苦笑)
それでは、昴さん投稿有難うございました!!
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