ナデシコ・in・ファンタジ〜
其之弐 <円卓会議>
「やれやれ………
どうしたものだろうねェ」
広く開けた大広間。
その上座にある椅子に座り、男は呟いた。
彼の他にこの部屋にいるのは、全部で14人。
大きな円テーブルを囲み、深刻な顔を見合わせている。
「出撃、出撃!
木連から挑戦してきたんだ、こっちも打って出ようぜ!」
「ヤマダくん………いい加減、その突撃思考はどうにかしてくれないかい?
敵が、そうも真っ正直に来るわけないでしょ」
「ぐ………
ってーか、俺の名前はダイゴウジ・ガイだっつーの!」
即時決戦を提案したヤマダ家当主・ヤマダ・ジロウ(“魂の名前”ダイゴウジ・ガイ)は、上座の男……アカツキ・ナガレにあっさりと言い負かされた。
「だけどよ、アカツキ。
ヤマダの肩を持つわけじゃないが………このままにもしておけねぇと思うぜ?」
次に発言したのは、赤いスーツに身を包んだ女性―――スバル家当主のスバル・リョ―コ。
「うーん……リョーコくんの言い分も、尤もなんだけどねぇ…」
アカツキは、その言に頭を抱える。
連合国家ネルガル・最高意思決定機関………通称『円卓会議』。
今回の議題は、現在戦争状態に突入している、木連・クリムゾン教国連合の提案してきた決戦案についてのことだった。
戦争が勃発してから半年……戦いは、膠着状態に入っている。
技術力の面では、旧世界の遺産を数多く所持する木連と、ネルガルに匹敵する資産、技術を持つクリムゾンが手を繋いだことにより、連合軍の方が一歩抜きん出ていた。
対して、ネルガルは高い技術力、豊富な地下資源を武器とし、物量の面で連合を圧している。
つまりは、互角。
半年間の戦いによって、両軍の兵士は疲弊し、どちらからともなく睨み合いの硬直状態になっているのだった。
そして、三日前…………
連合から、一通の書簡が届いた。
それを簡潔に要約するなら、
『双方とも、散発的に戦っていたのでは無駄が多すぎる。
これからは、どちらかが戦闘の場所を指定し、そこで規定兵力による短期戦を行ってはどうか?
ついては、こちらからその最初の戦闘を指定したい』
というものであった。
記された場所は、ネルガル、連合のどちらにも属していない中立地帯の荒野。
規定兵力は、一個大隊から三個大隊まで(相談に応ず)。
機動兵器の使用は二十機まで。機動兵器による一般兵の殺傷は厳禁。
「ユリカくん、君はどう思う?」
ネルガル建国以来の用兵の天才。
そう名高き、ミスマル家当主・ミスマル・ユリカに、アカツキは訊いた。
「敵が何をしてくるかは、全くわかりません。
でも、逆にこちらが何かしても、連合にそれが察知されることはまずありえないと思います。
確立は、フィフティ・フィフティ。
ハイリスク・ハイリターンだけど………誘いに乗ってみる価値は、充分にあると思います」
「異議あり。
確立の問題で済むことじゃないわ」
ユリカの言葉に反論したのは、エリナ・キンジョウ・ウォン。
彼女は、現在の宗主―――アカツキ家当主・アカツキ・ナガレにその才を見出された人間だ。
財政・雑務一般のエキスパートであり、その腕は誰もが認めるところである。
「どうしてですか?
リスクの無いことなんて、この世にはありません」
「詭弁ね。
そんなことをここで論じてもしょうがないわ。
少なくとも、確率を7:3くらいにまで上げてもらえないと、私は賛成できないわね」
「いやいや、それには私も賛成でして………。
財務担当と致しましても、ここ最近の出費が多すぎると頭を痛めているところでして、はい」
エリナに賛同したのは、プロスペクターだった。
丸メガネを指で押し上げながら、困ったような顔をしている。
ネルガルの財布の紐は、彼が握っていると言っても過言ではない人物だ。
堅実かつ大胆なその手腕で、キツイこの戦局での資金運用を支えている。
「欲しいのは、確実な勝利。
これに尽きるのよ」
「無謀な賭けに身を投じるより、この硬直状態のまま戦力を立て直すほうが、遙かに有益だと思えるのですよ」
「……………」
二人の言いたいことは良くわかる。
事実、かなり逼迫しているのだ、財政的に。
無駄な戦いを増やすなど、言語道断。
二人の目は、そう言っていた。
「……そう言えば、宗主」
思い出したように、プロスは言った。
「なんだい?」
「翁には、ご相談なさったので?」
「ん……ああ、いや。
実は、まだなんだよねぇ」
少々気まずいような顔になって、アカツキは答えた。
「でも、あの人も今回の戦争には反対だったから………突っ撥ねられるかもしれないよ?
だからいままで行き辛かったんだし」
「はぁ……ま、そんな事だろうと思いまして。
もうここにお呼びしています。
兎にも角にも、お話しないことには始まりませんし」
一瞬ため息をついたあと、プロスはそう言った。
肩をすくめるアカツキ。
「相変わらず、根回しのいいことで。
んじゃ、呼んでくれ」
「承知しました」
プロスは応えると、翁なる人物を呼ぶため、大広間を出て行った。
とまぁ、シリアスもーどの人たちが、一国の命運を話し合っていたころ。
我らがアキトと北斗・枝織の主人公コンビは何をしていたのだろう?
少し、覗いてみることにしましょう。
トン、トン、トン
軽やかに、包丁がまな板をたたく音がする。
刻んでいるのは、玉葱だ。
ガチャっ…
「アキト、こんなものか?」
そこへ入ってきたのは、北斗である。
手に持っているのは一抱えほどの薪。
「うん、そんなものかな。
じゃあそこに置いといてくれ」
まな板から視線をそらさずに、アキトは答えた。
「……何を作る気なんだ?」
後ろから、北斗が覗き込む。
「さぁ、何だと思う?
当ててみな」
「うむむ……………………
タマネギ、鶏肉、だし汁…………」
アキトの出した問題に、北斗は悩む。
多少、わかるようになって生きているとはいえ、料理に関して、北斗はまだまだ未熟者だ。
枝織なら何とかわかるかもしれないが、ここで訊くのは反則であるし、第一北斗のプライドがそれを赦さない。
「………親子丼か!?」
しかし、釜にかけてあった特殊な形をした鍋を見たとたん、北斗は快哉を叫んだ!
底は浅く、2センチくらいだろうか? 取っ手は、通行を妨げないようにするためだろうか、斜め上に伸びている。
あれは、親子丼やカツ丼……丼物を作るときくらいしか使わない鍋だ。
彼女には確信があった。
「残念。
ハズレだな」
「なに!?」
しかし、アキトは無情にも違うと言う。
北斗は、驚愕に目を見開いた。
「まぁ、半分はあたってるんだけどな」
「…………どういうことだ?」
悪戯が成功したかのように、アキトはニヤリと笑った。
「ま、仕上げを御覧じろ、さ」
「???」
むぅ〜、という表情をする北斗。
眉をひそめ、首をかしげるその姿を、アキトは楽しそうに見ていた。
取り敢えず、彼らは平和なようだった。
ちなみに、その後に出た食事は『カツ丼』ならぬ『チキンカツ丼』。
変り種のメニューではあるが、北斗も枝織も、その味に充分満足していたようだった。
(続く……か?)
あとがき
書き上げたのは四月。
最終調整終わったのが六月。
そして…………今は八月(爆)。
ホント、何やってるんだろう?
まぁ、細かい見直しなんかは結構やってたんですけどね。
それでよくなってるかどうかは別問題(激爆)。
少しでも楽しんでいただける方が居られたら、幸いです。