今日も、一日が終わる。
 焚き火の炎を見つつ、アキトは枝で薪をつついていた。

 あたりに響くのは、ぱち、ぱちと、赤く燃える炎に炙られた薪が爆ぜる音だけ。

「………遅いな」

 呟く。
 そして立ち上がると、アキトはテントの方へと歩いて行った。



この星空の下で






「…少し、遅くなったか」

 梢からは、星が見えた。

 都会では考えられないほど、空気が澄んでいる。
 満天の星空とは、こんなことを言うのだろう。

 別段、珍しいものでもない。
 宇宙にいたときなど、四六時中眺めていたものだ。
 その輝きに、美しさを感じたりすることも無かった。

 だが、こうして見ると、どこか違う趣を感じるのは、不思議なことだ。


 瞬いていることが、何か影響を与えているのかも知れんな。


 ふと、益体も無いことを考える。
 軽く走っていた身体は、何時の間にか止まっていた。

「……ふっ」

 跳ぶ。
 音すら起こさずに、彼女は近くの木の枝に飛び移っていた。

 二度、三度。
 同じことを繰り返すと、あっという間にその気の天辺まで登る。

「…………………」

 夜空を見上げ、何とはなしに想いを巡らせる。


 自分の居場所………
 そんなものが出来るなど、考えもしなかった。
 真紅の羅刹……この、俺に。


 幸せ………
 そんなものを望めるなど、考えもしなかった。
 闘うことしか出来ない…この、俺に。


「不思議な……ものだ」

《……そうだね》

「…………」

《アー君と出逢って、みんなと出逢って…………。
 こうして北ちゃんとお話が出来るようになったのだって、ね》

「そう、だな…………」

《『運命』なんて言葉、大嫌いだけど………
 過去のことは、『運命』っていうしかないよね。
 だったら………『運命』に感謝、だね》

「フン、そういう用法なら、『運命』とやらも粋なものだ。
 そんな、粋な『運命』を歩むためには…未来は、切り拓かねばな」

 微かに笑うと、彼女は、一気に地上に飛び降りた。

  ――ストン

 軽い身のこなしで、殆ど音も無く着地する。

 時間は、更に経っている。
 体内時計では、十分くらいだろうか?

 もう充分に待たせているはずだ。
 これ以上遅くなると、少しうるさいかもしれない。

 そう思うと、北斗は、さっきよりも少しスピードをあげて、走り出した。





「…………おや?」

 アキトの待つテントの近くまで来た時。
 北斗は、あたりに漂う香ばしい匂いに気づいた。

 林を抜け、少し開けた場所に出る。


「お、遅かったじゃないか。
 …食うだろ?」

 アキトはそう言うと、炙っていたパンを差し出した。
 どうやら、匂いの元はそれのようだ。

「気が利くじゃないか」

 少し笑うと、北斗はそのパンを、アキトから受け取る。

 いい具合に焼けていた。
 そのままかぶりつく。
 ジャムやバターなどは、わずかな例外以外は一切つけない。

「ん、ほら」

 アキトは、そんな北斗に、同じくテントから出してきた瓶を渡した。
 中には、マーマレードジャムが入っている。

 もぐもぐと口を動かしながら、北斗はそれを手に取った。

 「例外」のジャムだ。
 アキトお手製のそれだけは、北斗もつけるようである。


 二人とも無言で、パンを食べる。
 だが、会話が無くとも、暖かな雰囲気が辺りを包み込んでいた。

 たったそれだけのことで、一日の疲れが、じんわりと溶けていくような気がする。

「…………いいものだな」

「ん?」

「何度、こんな時間を過ごしても…………
 その一回一回が全てかけがえの無い時間なんだと思える」

 星空を見上げながら、北斗は呟いた。

「……そうだな」

 それだけを言うと、アキトは口を閉じた。
 北斗の肩に手を回す。

 一瞬、北斗は怪訝そうな顔をしたが、
 “ふん”と笑うと、アキトの肩に頭を預けた。


 瞬く星は、静かな光を投げかけている。
 虫の声も無い。
 焚き火の爆ぜる音だけが、二人を包み込んでいた。













あとがき

 あれ?
 う〜ん………最初の予定では、北斗が風邪で寝込んでアキトが看病するはずだったのに(爆)。
 何でこうなってるんだ?

 でも、これもいいかも(笑)。


 ゆっくりと流れる時に身を任せ、何気ない時間を…………。
 そんな優しい時間を、感じてもらえたでしょうか?
 少しでもそう感じてもらえたのなら、幸いです。

 それでは。


 

 

 

管理人の感想

 

 

昴さんから投稿第八弾です!!

シチュエーションもさることながら・・・

一体、どうしてこの二人はこの場に居るのでせう?(笑)

まあ、コイツ等のする事だからな〜

案外、合同訓練をしてるのかもしれない(爆)

 

それでは、昴さん投稿有難うございました!!

 

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