時の流れる天の河
   〜〜何時か出会う私達〜〜










プロローグ










暗室の中、巨大なスクリーンに二隻の戦艦が映し出されている。

雄大な火星をバックに繰り広げられる追走劇。

闇夜の如き宇宙を駆け巡る白亜の二隻によってなされるそれは、ともすれば演舞のようにも見える。

無論、実際にその二隻に乗って居るものたちはそんなことを微塵も考えていないだろうが・・・


しばしの時を無駄に費やした後、逃走していた戦艦が虹色の光を纏い始めた。

元より音の無い映像から、確かに伝わる一瞬の静寂。

しかし、そんな静寂を破るように、追いかけている戦艦からアンカーが打ち込まれる。

無謀としか思えない行動は、それだけ決意の重さを窺わせる。


だがそれが、運命と言う歯車を狂わせる・・・・・・



突如として先行する戦艦の光が強くなり、後続の戦艦をも飲み込んでゆく。

明らかに異常な事態に、双方の動きが停滞する。

一瞬の閃光の後、果てしない闇の中に残されたのはただ火星だけだった。













「と、まぁこんな具合さ」


さして大きくも無い部屋の一面、盛大に映し出される砂嵐を前に、椅子に腰掛けた男が言う。
その言葉の中には微かな後悔の念が含まれていた。


「そうか」


男の後方、部屋の入り口付近の壁際に立つもう一人の男の声。
何の感想も含まず、ただ声を掛けられたから答えたといった風の口調。


「やれやれ、自分から『見たい』って言い出しといてそれはないんじゃないかい?」


椅子に座った男は呆れながらも何処か楽しむように会話をする。


「必要がある、と言っただけだ」


そんな抑揚のない返事に、椅子に座る男は微かに笑みを浮かべた。
まるでこのやり取りを待ち望んでいたかのように・・・


「ま、いいんだけどね。・・・・・・彼のことを頼むよ。なんだったら一発ぐらいぶん殴ってやってくれ」

「可能な限りはそうする」


そんな言葉で満足なのか、男は嬉しそうに笑ってみせた。
壁際に立っている男は、用事は終わったとばかりに部屋を出て行こうとする。


「ああ、最後に・・・・・・『彼女』にも顔を見せていってくれよ」

「それは俺の役目ではない」


全てに無関心であるかの如き言葉を残し、男は音もなく姿を消した。





・・・・・・・・・五分後



「さて、たまには仕事でもしようかな」


自らの役目を終えた男が、ゆっくりと立ち上がった。




これは、新たな歯車を廻さんとする者たちの物語である・・・・・・・・・