時の流れる天の河
〜〜何時か出会う私達〜〜
第3話 早すぎる「さよなら」? ・・・それで、いいんですか
さて、いよいよナデシコが地球を脱出するときが近づいてきた。
それは即ちガイの命運を左右する事件であり、俺達が未来に挑戦する最初の一戦でもある。
現時点で前回と明確に違う事例はマキトの存在のみだ。最初はあいつがいることで前回と大きな食い違いが出るかと思ったが、今のところ驚くほどに小さな誤差しかない。
明らかに異質な存在でありながら、むしろ『正しい』歴史を作ろうとしているかのように見えるマキトの行動は、今後俺達にとって最大の壁となるかもしれない。
ちなみに、なぜ突然こんな考えを持つようになったかと言うと、ウインドウが写したマキトの映像のせいだ。
まぁ早い話が―――
『ジョーが〜!! ゲキガンガーが〜!!』
『お前にも分かるか! 分かってくれるか!!』
と言う熱いやり取りに、かつての自分を重ねて哀しくなってしまっただけなのだが。
「アキトさん、顔引きつってますよ」
「いや、まあ・・・」
なんというか、勘弁してくれと言う思いと、自分が無くしたものの懐かしさがダブルで掛かってきて何ともいえない心地だ。
ついでにこれはつい今の映像だ。何とはなしにルリちゃんに頼んでマキトの映像を出してもらったら、いきなり男泣きする二人が出てきた訳だ。
現在第4防衛ラインの只中、自分の乗る艦が攻撃を受けているときに此処まで自分の世界に入れる二人には幾らかの畏怖を覚えた。
・・・正直に言うと、次の瞬間には無表情のままウインドウを閉じていたルリちゃんのほうがナチュラルに怖かったが。
確かにブリッジで流すべき映像じゃないけどさ? メグミちゃんもミナトさんも思いっきり引いてたけどさ?
「ア〜キ〜ト〜!!
さっきからルリちゃんと二人で何やってるの? ユリカも混ぜて〜」
後ろから俺とルリちゃんの間に割り込むようにユリカが顔を出した。
混ぜて〜ってお前何歳だ? そして艦長が持ち場を離れるな。ついでにその振袖はどういう理論の賜物だ?
「ただの世間話だよ。じゃあそろそろ格納庫のほうに行くかな」
我ながら露骨だとは思うがとにかくユリカからは距離をとろう。
もう少し自分の中で気持ちが落ち着いてくればユリカとも普通に話せるかもしれないが、今の段階ではとてもそんな気にはなれない。
と、どうしてルリちゃんが俺の袖を掴むのかな?
「まだ時間はあるでしょう。幼馴染の再会なんですから少しでも話していたらどうですか」
「うんうん、ありがとうルリちゃん! と言うわけでアキトは私とお話する!!」
ル、ルリちゃん!? 何でまたこんな展開に!? 俺の気持ちを裏切ると!?
「でもルリちゃんってば、敵に塩を送ってばっかりで大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ、ミナトさん。何の問題もありません」
「そ、そう?」
・・・・・・ルリちゃん、なんだか間違った方向に強くなってない?
ミナトさんを迫力でたじろがせるなんて、昔からは想像もつかないな。
『敵機確認』
「ありがとう、オモイカネ。
艦長、残念ですけど時間切れです。第3防衛ラインに入りました。十分後にはデルフィニウム9機と交戦になります」
「う〜ん、仕方ないか。それじゃあアキトはヤマダさんと合流してエステバリスで出撃、ナデシコの防衛をしてください」
しゃきん、と音が聞こえそうなくらい、ユリカの切り替えは早かった。
距離を置こうとしている筈の俺が、思わず感心してしまうほどに。
普段の子供っぽさとこんな時の芯の強さを併せ持つユリカだからこそ、俺はあれ程に――いや、この想いは捨て去ると決めたはずだ。
「あ、ああ、了解だ、ユ「俺の名はダイゴウジガイだ!!」・・・ガイ、お前何をやってるんだ?」
メインウインドウに映し出されたガイは既にエステに搭乗し、今にも出撃しそうだ。
ついさっきまで部屋でマキトと熱い涙を流していたはずだが。
「決まっている!! 前回は諸々の障害でお前に遅れをとったが正パイロットがコック風情にそう何度も出番を取られてなるものか!! 悪いが今回は俺が活躍させてもらう!!」
『諸々の障害』って、ガイのはめてたギブスが障害の全てだと思うぞ?
「いや、別に活躍するのはお前の自由だがちゃんと作戦分かってるのか? 大体今の時間で装備類はちゃんと持ってるのか?」
「ふっふっふ、俺には秘策がある!」
「ちょっと待てそれは――」
「ってわけで〜、レッツ! ゲキガイン!!」
「だから待てって!」
こっちの言葉など一切聞かずに青のエステバリスは雲海へと飛び立っていった。
「・・・ヤマダ機、出撃しました」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」(一同)
・・・たまにはのんびりと出撃させてくれよ・・・・・・・・・・・・
どうやら奇襲で1機を落とした後はガイも逃げ惑うしかなかったようだ。
俺が戦場に出てみると、ガイは7機のデルフィニウムに追い回されている。
1機だけ少し離れたところに居るが・・・・・・ジュンか? ナデシコと通信をするつもりだろうな。
「何故だ、ウリバタケ!! どうして重武装タイプを射出してくれない!!」
「だ・か・ら! こんな位置関係じゃ換装する前に打ち落とされるって言ってるだろうが!! テンカワも行ったし一回戻って来い!」
「ヒーローが敵に背を向けられるか!!」
・・・逃げてる割に元気だよな、ガイの奴。
そもそも必死に逃げ回ってる今の状況は敵に背を向けてないのか?
ってのんきに考えてる場合じゃないな。ガイを追い回しているデルフィニウムを何とかしよう。
ドンドンドンッ、ドンッ!!
とりあえず2機を無力化する。本当は一気に殲滅したほうが手っ取り早いんだが、流石にそんなことをしたらプロスさんに完全に目を付けられてしまうだろう。
面倒くさい話だが、俺自身の衝動を抑えておくためにも無駄に本気を出したくは無い。
っと、ジュンとユリカの通信が始まったな。幾らなんでもこんな所で前回と違いが出てくるとは思えないし、取り敢えずはガイの方を何とかしておこう。
「大丈夫か? ガイ」
「くっ! またしても美味しいところを・・・」
・・・・・・大丈夫そうだな。
しかし、この先毎回こんな調子じゃあやっていけないだろう。ここは一つ釘でも刺しておいたほうがいいな。
「ガイ、お前はヒーローにとって基本的なことを忘れているぞ」
「何?」
「いいか、ガイ? ヒーローは遅れてくるものだ。最初に敵と戦うのはナンバー2とかその辺の仕事だろ」
「な!!?」
別名噛ませ犬、というのは黙っていたほうがいいんだろうな。
これで少しでもガイの特攻癖が直ってくれればいいんだが。
「随分余裕だな、テンカワアキト!!」
「ジュンか」
ユリカとの通信に一区切りついたところで、ジュンがこちらに向かってきた。聞いていた限りでは話の内容は前回と全く同じだったな。
『ここが私の居場所』、それがユリカの答えだ。
かつての俺はその言葉に少なからず共感していたが・・・今の俺にもナデシコに居場所があるかな・・・・・・
「テンカワアキト、僕と勝負しろ!!」
ふむ、前のときは問答無用だったはずだが・・・俺が現時点でそれなりの腕を披露しているからか?
ジュン自身機動兵器の操縦は初めてだから、自分を奮い立たせようとしているのか。
だが、説得の余地があるなら出来る限り戦いたくは無いんだよ、俺は。
「本当に全部納得した上で言っているなら仕方ないが、お前はこれがナデシコにとって最善だと思うのか?」
「少なくともたった一隻の戦艦で火星に行くなんて無謀なことをするより、地球で連合軍と共に戦ったほうがいい筈だ!!」
まぁ普通はそう考えるよな。
だが、それで納得しないからこそのユリカでありナデシコなんだ。
「ユリカの言葉を聞いてなかったのか? あいつにとって軍は自分の居場所じゃないんだ。
他のクルーだって、軍と共に戦うためにナデシコに乗ったわけじゃない。
逆に聞くが、お前は軍に戻れば自分が望んだ通りの自分で居られるのか?」
我ながらひどい理論だ。ジュンが軍に内心不満を持っていることを知っているからこその理屈。
それに・・・多分ユリカのあの発言も、本当の意味を理解しないで言ったものだろう。まだ第一歩を踏み出した段階なのだから、ナデシコが自分にとってどんな意味を持つのかなど分かるはずも無いのだが。
「・・・・・・分かってるさ。僕が望んだ正義は連合軍には無かった。上層部の人間は私利私欲のために力を振るい、末端に居るものですらやっていることはただの戦争だ。
正義の味方として地球を守るという想いが、軍の中でどれほど軽んじられていたか!」
ジュンの言葉には、俺がゲキガンガーを捨てた時の気持ちと通じるものがある。
理想として描かれた正義の味方。だがそれは『木連』という実体を持ったときには決して絶対の正義ではなかった。
結果として『アニメだから』と納得することが出来た俺とは違い、ジュンの場合は自らがそこに属していることの板挟みもあるのだろう。
今思うに、俺とジュンは結構似ているのかもしれない。
「そこまで分かっているならいいだろう? 俺達が戦う必要なんて無い。
むしろユリカの傍で手助けをしてやってくれ。あいつが実力を発揮するには、きっとお前の助けが必要だ」
「・・・確かに僕もそれを望んでいたさ。今だって、その気持ちは少しも変わってはいない。
ナデシコのほうが、理想をなくした軍よりよっぽど居心地はいいだろう。
でもそれでも・・・・・それでも僕は、僕だけは正義を貫いてみせる!!」
ゴォォォォオオオオオ!!
ガシャンッ!!
!! 不意を突かれた!!
いきなり突進してきたジュンに一瞬反応が遅れ、モロに体当たりを受ける。
それ自体のダメージはたかが知れているが、戦いの中では致命的な隙が生まれる。
ジュンのデルフィニウムが大量のミサイルを発射する。
回避が・・・間に合わない!!
――――ドクン
その時、俺の中で何かが弾けた・・・・・・
<JUN>
信じられない・・・・・・
僕が放った大量のミサイルは、相手に当たる前に全て打ち落とされていた。
ミサイルを打ち落とした相手は、当然のように僕の前で無言のまま佇んでいる。
何も言わずただそこに居るだけの相手に、恐怖した。
「少尉!!」
部下の声が響く。この部隊の本来の隊長、極東方面軍で5本の指に入るパイロットだ。
それが―――
ドドンッ!!
一瞬で散っていく・・・・・・
「貴様!!」
自分たちの隊長がやられたことで、他のパイロット達が一斉にあの機動兵器に攻撃を仕掛ける。
いや、仕掛けようとした。
ドンッドドドン、ドンドンドドン!!
まるで冗談みたいに次々と部下達が落ちていく。
一方的に、攻撃をしようとしている者から順番に打ち落としているのか。
一番近くに居るはずの僕が攻撃されていないのは、単に僕が動いていないからだ。
当然、他に誰も居なくなれば・・・その銃口は・・・・・・僕に―――
「アキトさん!!」
今まさに僕に向けられようとしていた攻撃が、その一言で止まっていた。
確か、オペレーターのホシノルリ・・・
「・・・俺は・・・・・・何を」
呆然とした声が聞こえてきた。自分のやったことが理解できていないような声が・・・
「第2防衛ラインまでもう時間がありません。急いで戻ってきてください」
その言葉で、急に意識が現実に戻ってきた。
ガシン!
機体に軽い衝撃。見ればもう一機の青いエステバリスが僕を引っ張っている。
「ったく世話の焼ける連中だぜ。おいテンカワ、お前もぼさっとしてないでさっさとナデシコに戻るぞ」
「・・・・・・ああ、そうだな」
「ちょっと待て、別に僕はナデシコに戻る――「ジュン」
つもりはない、という言葉をテンカワが遮った。
「俺は守れなかったんだ」
「え?」
「一番大切なもの、他の何を捨ててでも守りたかったものを俺は守ることが出来なかった」
「一体何を言っているんだ」
「必要なときに必要なものを俺は持っていなかった。後になってどんなに手を伸ばしても遅いんだ。一度失ったものは取り戻せない」
「テンカワ・・・」
ついさっき圧倒的な力で僕たちを蹴散らしたはずのテンカワの声は、ひどく弱々しかった。
まるで、何かに疲れ切って起き上がることも出来ないで居るかのように。
「俺は、お前に俺がしたような後悔をして欲しくない。俺みたいな抜け殻は一人で十分だ。
お前にとって本当に守るべきものが何であるか俺は知らない。だが、ナデシコはきっとその手助けになる。だから、今はナデシコに戻ってあいつを支えてやってくれ」
既にナデシコは目の前だ。上空を見上げれば、この艦を落とそうとするミサイルの雨が降ってきている。
僕が守りたかった正義が、僕が守りたかった人に襲い掛かっている・・・・・・
僕は、何をしていたんだろう?
「テンカワ」
「ん?」
「僕が何を一番守りたいのか、正直僕にもはっきりとは分からない。でも」
本当に、自分が可笑しくて笑ってしまう。
この状況で何を選ぶかなんて決まりきっている。
「今から地球に戻るのは無理だよ」
結局、自分で出した答えではないけれど、いつかそれを見つけたいから・・・・・・
<RURI>
―――と言うわけで、明らかに不自然な力を見せたアキトさんがプロスさんにしょっ引かれている中、アオイさんの歓迎式です。
「ユリカ、ごめん」
「謝ることなんてなーんも無い! ジュン君は友達として私のこと心配してくれたんでしょ?」
「いや、あの・・・」
「うんうん、ジュン君を傷つけないで居てくれたアキトに後でいっぱいお礼をしておかなくちゃ」
憐れですね、アオイさん。
ミナトさんとメグミさんもアオイさんのことを哀れみの目で見つめてます。
「まあまあまあまあまあ、とりあえず生きてりゃいい事あるって! 頼むから、俺より目立つ死に方しないでくれよな!」
恐ろしく縁起の悪いこと言ってますね、ヤマダさん。
しかし、アキトさんが動けない以上、この場面でのヤマダさんの死を避けるためには私の手でヤマダさんを足止めしておく必要があるんですよね。
さて、どうしましょう。
『ルリ、副提督が動き出した』
おや、もうですか? 別に前回は監視していたわけではありませんけど、このタイミングではヤマダさんと鉢合わせようが無いですね。
ひょっとして労せずして回避できたんでしょうか?
何しろヤマダさんはここで―――
「ふっふっふ、どうやらあいつもヒーローを志す者の一人らしいからな! 実力も相手にとって不足は無い!! 次の戦いでどっちが真の主役となるかはっきりさせてやるぜ!!」
とか好きなことほざいていらっしゃいますし。
とはいえ一応他の人が居ないことも確認しておいたほうがいいですね。
「現在格納庫に人はいますか?」
『一人居る』
慌てて映像を出してみると、そこにはマキトさんの姿がありました。
なんでまたよりによってこの人なんですか。
『艦長が待機命令を解除してない』
・・・・・・・・・そういえばしてませんよね、ユリカさん。単に忘れているだけなんでしょうけど、この場合勝手に休憩に入ってる整備班の人たちに問題ありです。
ってそんなこと言ってる場合じゃないです。今からどうこう出来る話ではありません。
問題はマキトさんをどうするかですが・・・・・・ん? ひょっとしてマキトさん物陰に隠れてません?
「ほら、アンタたちさっさとこれに乗りなさい」
格納庫に入ってきたムネタケ副提督が部下たちを急かしています。どうやらマキトさんには気が付いていないようですね。
もし気が付くようなら私が見ていると言う必要がありますが・・・
と、最後に艦載機に乗り込もうとしていた副提督が何故か立ち止まり周囲を見回しています。まるで何かを探しているかのように。
「ひょっとして来てるかしら?」
「何か用か?」
!! どういうことでしょう? 声と共にマキトさんが物陰から姿を見せました。
「アンタこそ何かあるわけ? まさか見送りって事も無いでしょ?」
「ただの保険だ」
「なるほど、もしアタシが来なかったら腕ずくで放り出すつもりだったわけね」
「・・・・・・・・・」
何なんでしょう、この会話は。まるでこの二人、以前から知り合いだったみたいです。
それに『保険』って・・・・・・まさか・・・
「まあいいわ。
そうそう、せっかくだしこれ返しとくわ。おかげでつまらない話聞かされたわよ」
そう言って副提督は何か小さな塊をマキトさんに投げつけました。
無造作に受け取る動作といいさっきの口調といい、普段のマキトさんとはかけ離れた雰囲気を纏っています。
「正義を貫いてみせる、ね。
そんな台詞最後に聞いたのはいつだったかしら」
その声はひどく懐かしそうで、それで居て何かに悩んでいるようでもありました。
「副提督?」
「すぐ行くわ。
・・・・・・それじゃあ、さよならってとこね。お望み通り、アタシがこの艦に顔を見せることは二度と無いでしょうよ」
そう言ってムネタケ副提督は連絡船に乗り込みました。
すぐに連絡船は発進、格納庫には沈黙が戻ります。
マキトさんは連絡船が消えていくのを見届けた後、ゆっくりと格納庫の出口へと歩いていきます。
そして、出口に立ったところで一度だけ振り返り一言―――
「少し、惜しかったか」
そんな呟きを残して去ってゆきました。
あとがき
どうも、なんでジュンの話なんて書いているんだろうと自分で首を傾げています、すげかえ4号です。
たぶん初期の構想ではジュンが主役級の扱いだった事の名残だと自己分析しているのですが、ジュンの幸せはフレームの隅にあると気が付いた今、仮に活躍の機会が与えられたとしても夢オチだったり実は誰かの掌の上だったりストーリーの流れに影響しない回想シーンだったりになると思います。
そして今回のラストでムネタケさんは存在を抹消されました(違)。
彼も初期の構想ではそれなりに活躍するはずだったせいか、最後にちょっと補正が入ってますが。
正直な話、私の力量ではムネタケをちゃんと矯正するのは無理でしたのでとりあえずここでさよならです。
まあ今後全く登場しないとも限りませんけどね。
それではこの辺で。もしよろしければまた次回でお会いしましょう、すげかえ4号でした。
代理人の感想
ひでぇっ!?(爆笑)>なんでジュンの話なんて書いているんだろう
まぁ彼は彼で地味の極みながら重要なキャラクターですしね。
まぁ本当に活躍させないつもりならそもそも置き去りにしなければ良かったかなと思わないでもありませんが。w