「皆さんこんにちは、
機動戦艦ナデシコ・オペレーター、ホシノ・ルリです(ペコリ)
前回のお話は・・・・・・話してないですね。
読み切りの形では初ですか・・・。
今回のお話しは艦長とアキトさんが結婚するちょっと前のお話です。
山も落ちもなにもないお話です。
ついでに私の今回の台詞はこれだけです。
では、始まりです」
結婚前
ドドドドドドドッ
物凄い土煙と地響きをあげて一人の男が早朝の街を駆け抜けている。
ついでに何か叫んでいるようだ。
「ユ〜リ〜カ〜〜〜!!」
その男はある家の前で止まると、そのまま中に入って行ってしまう。
キキッ!
ガララララ
「ユリカッ、 ユリカー、 ユ〜リ〜カ〜!」
スッ
「ユリカ?」
ガラッ
「ユーリーカ〜?」
ガチャッ!
「ユリカ、隠れてないででておいで」
バタン!!
「ユ・リ・カ〜」
家の中を探し回った男の目に最後に残った部屋の入り口、襖が映っている。
「ユリカーーー」
襖を静かに両側に開けて男が見た光景は、幸せそうに眠る未来の息子と養女だった。
ガクン
屋敷から此処まで走ってきた疲れが漸く出たのか、男が膝をついた。
そしてそのまま座り込むと、両方の目から滝の様に涙を流しながら叫ぶ。
「オオ〜〜、ユリカ〜〜〜〜!!!」
その音の大きさに、家は壊れるかと思うほど揺れ動いた。
流石にそれだけの揺れが起きた為に、元凶の未来の息子も目を覚ましたようだ。
「んっ……んん〜…………」
瞼が再びくっついてしまいそうな様子であるが、どうにか起動には成功したらしい。
掛け布団事ムクリと体を起こし、周りをキョロキョロ見る。
その視点が一ヶ所で固まった。
それを見た瞬間、先程までの眠気など吹き飛んでしまった。
慌てて布団の上に正座して挨拶をする。
「えっ、え〜と〜、 あ、あの………お、お義父さんお早う御座います」
そう話し掛けられ、今迄涙を流し続けていた男はピタリと涙を止めた。
「うむ、お早うアキト君」
その挨拶の言葉だけで動きが止まってしまう二人。
「「…………………」」
「ん〜〜むにゃむにゃ。」
アキトの隣の布団ではルリがまだ夢の国で遊んでいる。
ある意味強者である
「「………………」」
二人の間ではまだ会話が始まらない。
あまりの居心地の悪さにアキトがオズオズと声をかける
「あっ、あの〜、こんなに朝早くにどうしたんですか一体?」
久しぶりの休日だからゆっくり起きようと思っていたアキトは、普段と余り変わらない時間に起きてしまった事よりも、
朝日も昇らない時間にコウイチロウがこの家にやってきた事の方が一大事だった。
だがアキトの不用意なその一言で、またもコウイチロウは涙を滝のように流し始めた。
「ユーーリーーカーーーー!!」
大分耐性が付いてきたと思っていたアキトであったが、この至近距離でこの攻撃を受けてしまっては対処の仕様がない。
耳をキーーンとさせて再び夢の国へ旅立とうとした。
だが、コウイチロウがアキトの体を揺さ振ってそれを阻止する。
「アキト君、ユリカは何処にいる?
何処にいるのかねっ!?」
コウイチロウの鬼気迫る迫力に圧倒されながらも、アキトがどうにか声を出す。
「ユ、ユリカなら、実家に帰るって出かけてから帰ってきてないですよ」
それを聞くとコウイチロウはアキトの肩を掴んでいた手を離し、悄然としながらアキトに紙を突きつけた。
「アキト君、これを見てくれ。
ユリカが、 ユリカが〜〜〜」
コウイチロウがそう言ってアキトに見せた紙。
それには綺麗な字でこう書かれていた。
『 少しの間旅に出ます。
ちゃんと帰ってくるから心配しないでね、お父様。
ミスマル・ユリカ 』
余りにも簡潔すぎたので、裏面も見てみたがそこには何も書いてなかった。
手紙を畳んでコウイチロウに返そうとしたが、コウイチロウの顔が直ぐ目の前にまで来ているのに吃驚して後退さる。
「アキト君、ユリカが居なくなったっていうのに落ち着いているね?
まさか何処に居るのか知っているとか?」
唯でさえ近付けていた顔を更に近付けるコウイチロウ。
その距離ならばキスしてしまっても、風の所為にしてしまえるほどの距離である。
アキトがコウイチロウから顔を遠ざける為に、体を反らしながら応える。
「お、お義父さん落ち着いて下さい」
しかしアキトが顔を遠ざけて距離を取ろうとしても、遠ざかった分コウイチロウは前に出てくるので結局二人の距離は広がらない。
「んん〜、ユリカが、ユリカが居なくなったんだぞ〜〜。
これが落ち着いていられるかっ!!」
アキトは正座していた為その場から逃げる事は出来なかった。
その為、とうとうアキトの背中は布団にくっ付いてしまった。
傍から見るとコウイチロウがアキトを押し倒しているとうな格好である。
…………美しくない事この上ない。
「お、お義父さん、ほらユリカももう大人ですし……」
「ユリカはいつまでもわしのむ・す・め・だ〜〜〜!!」
鼻息も荒くコウイチロウが叫ぶ。
誰もコウイチロウの娘でなくなるとは一言も言っていないのだが………。
「だ、だからお義父さん………………」
巨大なビルから目の覚めるような美女が出てきた。
「まったく、なんで私が来なきゃいけなかったのよ。
こんな仕事は極楽トンボがするべき仕事よ」
不愉快そうに愚痴を零しているが。
待つ事もなく目の前に黒塗りのリムジンが止まる。
「お疲れ様でした」
リムジンのドアは彼女が何か言う前に開けられる。
「ん、ありがと」
お礼を言いながらリムジンに乗り込む。
バタン
エリナが車内に入ると静かにドアが閉められる。
そのまま滑る様に動き出す。
勤労意欲の湧かない仕事を終わらせても、気分の乗らない会社回りはまだまだ続く。
エリナの気分は回復していなかったが、それでも次の仕事を考える為気持ちを切り替えようと車外を眺めた。
そんなエリナの視界に良く知っている人らしき人が入った。
「……まさかね。
こんな所に居るわけないないじゃない。
彼女は今頃………」
エリナは一瞬擦れ違っただけなのでそれが自分の知っている彼女だという自信が持てなかった。
彼女の事を考えると平静で入られなくなるものがある。
正確には彼女を選んだ男の事を考えると、だが。
そんな気持ちもあり、彼女だと思ってしまっただけなのかとも思った。
彼女がいつも放っていた雰囲気とも違う気がしたし・・・
しかし万が一という事も考えて確認だけはしてみるつもりになった。
「ちょっと、ご免なさい。
悪いんだけど、少しUターンしてみてくれないかしら」
「はい、わかりました」
エリナが声をかけると運転手は嫌な顔一つしないで即座にハンドルを切る。
キキキー
ガチャ
先程エリナが見かけた所よりも少しだけ進んだ所で車を止めさせる。
「呆れた。
なんで貴女がこんな所に居るのかしら?」
エリナがその人の進行方向に立ちながら声をかける。
その人は呆けたような顔をしてエリナを見詰める。
その様子に眉を顰めながら更に言葉を続ける。
「ま、いいわ。
こんな所で立ち話もなんだし。
どこか喫茶店にでも入らない?」
一応問いかけの形を取ってはいたが、殆んど強制的なものだ。
エリナは相手の反応を確認することなく、車に近付き先に帰るよう指示を出す。
「この後の予定は全てキャンセルね。
どうしても不味い事があったら極楽トンボでも向かわせなさい」
指示を出し終えて戻って来ても相変わらず道の真ん中で突っ立っているのを見て、腕を掴んで引っ張っていく。
「ほら、行くわよ」
「コーヒー二つ」
「…………」
ウエイトレスに注文して、そのコーヒーがきてもまだ何も喋らない。
その様子にエリナが痺れを切らしてきた。
「あのね、時間は無限にあるわけじゃないのよ。
何か悩みがあるんじゃないの?
さっさとそれを曝け出しちゃいなさいよ」
そんなエリナの言葉にも反応が鈍い。
この人のこんな様子は今まで見たことがないエリナは心配するよりも気味が悪くなってきた。
「あ〜〜。
大体今日はアキトくんはどうしたのよ?
貴女だけで遊んでるわけでもないんでしょ?」
その言葉にやっと顔を上げた。
「うんん、今日はアキトはいないよ。
ユリカだけ」
のろのろとコーヒーに口をつけながらそれだけを言う。
ようやくユリカが言葉を発してくれたことに安堵しながら言葉を紡ぐ
「それじゃあ何。
アキトくんと喧嘩でもした訳?」
「ううん、アキトは優しいから喧嘩なんてしないよ」
惚気とも取れる台詞をあっさりと口にする。
「じゃあ何よ!?」
エリナの苛々しながらも辛抱強く問いかける。
ユリカが何か迷うような素振りで口篭る。
そんな様子を見て、流石にエリナも先を急かすような事はできないと感じた。
「あっ……」
何度か口を開こうとしてその度に口を閉ざしてしまう。
果たしてどれ位の時が過ぎたのだろうか?
エリナのコーヒーのお代わりが何杯目になった時だろう、ユリカが重い口を開いた。
「アキトは本当にユリカの事好きなのかなって……」
コーヒーを飲んでいたエリナがもう少しで吹き出してしまうところだった。
「ゲホゲホゲホ。」
どうにか体勢を立て直したエリナはキッとユリカを睨んだ。
『それを私に聞く?
貴女が、私に?』
睨みつけたままそう言い放とうと思ったのだが、どうにか言うのは止めた。
替わりに気のない素振りで言う。
「さあ?
私はアキトくんじゃないから解らないわ」
それを受けてユリカは更に落ち込んだ。
「そうだよね。
解らないよね……」
それを見てしまうとエリナとしては放っておけなくなってしまう。
慌ててフォローの言葉をかける。
「あ〜〜、でも傍から見る限りじゃアキトくんは貴女のこと好きだと思うわよ。
………大体なんで今頃そんな事思うのよ?」
「そう?
やっぱりアキトは私を好きかな?
そうだよね、アキトは私を好きだよね!」
やっといつもの調子に戻ったユリカにホッとしつつも先程の質問に答えて貰ってないエリナはもう一度質問してみた。
「ねえ、何で今頃そんな事考えたのよ?
もうすぐ結婚式じゃない」
再度の問いかけにユリカも気付いた。
「うん、もう結婚式だって考えたらちょっとね………。
ほら、アキトって誰にでも優しいからユリカのこと本当に好きなのか自信なくなっちゃって。
このまま本当に結婚しちゃっていいのか分からなくなって……」
エリナの方を見ないように下を向いて話す。
「はあ〜、マリッジブルーってやつね。
大丈夫よ、アキトくんは貴女を選んだのよ」
エリナが元気付ける。
その一方で、何で自分が元気付けなくちゃいけないのかエリナ自身も腑に落ちない物を感じていたが。
「そうかな?
アキトはユリカを選んでくれたのかな?」
いつもの自信は何処へいったのか、ユリカらしくない弱気な発言が続く。
「ほらほら、貴女もいい加減になさい。
そんな事じゃ、本当にアキトくんも愛想を尽かすわよ。
それでもいいの?」
「だめーーーー!!!!!
だめだめだめーーーー!!! アキトは私を好き!!!!」
エリナのからかいを含んだ問いかけに椅子を後ろに倒して叫ぶ。
店内の目が一斉に注目するのに気付いたが、今はそんな事を気にしている暇はない。
「ほらごらんなさい。
それが貴女の気持ちよ。
自分でも解っているじゃない」
エリナが魅力的な笑顔で微笑みかける。
そしてそのまま言葉を続ける。
「貴女はそのままの貴女でアキトくんに向かっていけばいいんじゃないかしら。
多分アキトくんもそれを望んでいるわよ」
エリナの言葉を受け止め、ユリカも何か感じる物があった。
「そうだよね。
アキトはユリカの事大好きだもんね。
うん、そうだよね」
何かが吹っ切れたユリカ、一人頷いている。
そんなユリカを顔には笑みを浮かべながら静かに見守る。
考えが纏まったユリカが体ごとエリナの方を向いた。
「エリナさん、ありがとうございます。
ユリカはユリカのままアキトに向かい合ってきます!」
言い終わるやいなや、ユリカは後ろを振り返らずに突き進む。
そんなユリカにはもはや興味はないのか、エリナは冷めてしまったコーヒーを飲みながら呟く。
「まったく、上手くやればアキトくんがフリーになったかもしれないのに・・・
でも結局私ってこういう女なのよね」
半ば自嘲めいた言葉ではあったが、それでもエリナはそんな自分を気に入っているのは間違いない。
柔らかい笑みを浮かべたまま冷めて美味しくなくなったはずのコーヒーを飲み干した。
「さ〜てと、仕事に戻らなくちゃ。
どうせ極楽トンボじゃ勤まらないだろうし」
店を出たエリナは少し機嫌が良くなっていた。
『新郎新婦の入場です。
皆様、暖かい拍手でお迎え下さい』
ワアァーーー
パチパチパチ
扉の向こうが一層騒がしくなった。
ユリカの前に腕が出される。
「さあ行こう、ユリカ」
その顔には満面の笑みが見て取れる。
ユリカも笑顔で応えながら、その腕を取る。
「うん、アキト」
扉が開かれる。
眩しいばかりの光の世界へ二人で一緒に踏み出す為に。
後書き
御無沙汰しております。
この話は年始で集まった際に祖父が言った『そろそろ曾孫を………』の一言から思いつきました。(今頃年始の話ですが……)
私は親戚の中で下の方なので関係ないと聞き流していたところ、一つ上の従兄弟がもうすぐ結婚とのこと………。
もうそんな歳かと少しブルーになりまして、
結婚+ブルー=マリッジブルー ではないかと(笑)
ただそれだけで生まれた話です(爆)
管理人の感想
う〜ん、意外なキャラの意外な話だ(苦笑)
しかし、まあユリカも婚前にはそう考えるんでしょうね、一応(爆)
それにしても、エリナが応援隊として登場するとは予想してなかったな〜
ルリは本当に最初の挨拶だけだったし(笑)
・・・・ところで、この3人は何処に住んでるんだ?
コウイチロウがあれだけ探し回る広さの家って?(汗)