題名 時の流れに身を任せ
著者 皇
序章
爽やかな風を感じた。
草原の緑の匂いが感じられた。
もう何年も前に失われたはずの懐かしい…
今更夢を見るなんてと思いながら
ゆっくりと目を開けてみた。
だが
そこには…
頭上には煌々と輝く白銀の円
「綺麗だ…」
思わずため息がでた。
「じゃなくて、何故月が見える?」
そう自問してみても答えは返らない。
あわてて周りを見回してみると
何故か見覚えのある自転車と荷物。
自分自身を触ってみても
はっきりと感触がある。
夢…では無い?
現実の世界?
だとしたらここは・・・
頭の中が夢か現かわからず混乱していた。
その時、俺の脳裏に聞きなれた声が聞こえた。
(アキト!!)
(…ラピスか?)
(うん!!今、私は昔いた研究所にいるの。
ねえどうしてなの?)
昔の研究施設だと!!
まさか…過去に、過去に戻ったというのか?
しかし…ラピスとのリンクが繋がっているのは何故だ?
イネスさんがいたら説明してくれたかも知れないが…
(…それにアキト、私の身体がちいさくなっちゃてる。)
そのラピスの言葉で、俺は確信をした。
俺は、俺達は、過去に戻ってきたんだ!!
(そうか…信じられない事だが、過去に跳んだらしい。)
(やっぱりそうなんだ…)
俺は心の奥底で願望を抱いていたらしい。
もう一度あの頃へ、という願望を。
そんな願いが叶う事など無い筈だった…
今、俺は全てをやり直せるのか?
全ては白紙に戻ったのか?
いや違う!!
俺の身勝手な願望が、全てを白紙に戻したんだ。
ならば…同じ過ちを繰り返す訳にはいかない!!
(ラピス!!頼みがある。
今の年月日を教えてくれ。)
(うん…えーと、今は2196年の…)
やはりあの時か…
ユリカと再会し、ナデシコAに乗ることになる
全ての始まりの時。
(ラピス、必ず北辰よりも先に研究所から助け出してみせる。
だからこれから頼む事を、地球で実行してくれないか?)
(…うん、わかったよアキト。
私はアキトを信じる。)
(…ありがとう。)
そして俺はラピスにある計画を託した…
この計画は、この先どうしても必要な事だった。
そうして、俺が計画を全て話し終える頃、
東の空から太陽が昇り始めていた。
(…以上だ、ラピス。
俺はこれからナデシコAに向かう。)
(うん…何時でも話しかけてもいい、アキト?)
(ああ、何時だって話し相手になってあげるよ。)
(…あれ?ラピス?)
(何、アキト?)
(リンクがちょっとおかしくないか?
ラピスから話しかけてみてくれないか。)
(うん、いいよ。)
俺はリンクを遮断するイメージを持ってみた。
…ラピスの声が聞こえない。
(…アキト!アキト!!お願い返事して!!(涙))
(すまん、ラピス。
どうやら意識するとリンクを遮断できるみたいだな。)
(…アキト、私はアキトの目でもなくて、アキトの耳でもなくなって、アキトの…
アキトにとってもう必要ないの?)
(そんなわけ無いだろう!!
リンクしていようがいまいが、ラピスは俺の大切な家族の一員だぞ。)
(ありがとう、アキト…)
絆が切れたように感じてしまっているのだろうな…
一人ぼっちで寂しいんだろうな…
だが済まんラピス、今は傍にいてやれない。
(…じゃあ、行って来る。)
(…頑張ってね、アキト。)
そして、俺は運命の場所へと向かった。
自転車で坂道を駆け上る俺の目の前を、一台の車が走り抜ける。
その車のトランクは閉められないほどの荷物が詰められており…
「ここまで再現されるとはな…」
改めて、過去に帰ってきたことを実感していると、
ガラン、ガラン!!
もの凄い勢いで、スーツケースが俺に向かって落ちてくる。
昔を懐かしんでいた俺に避ける術は無く、
ドカ!!ボグ!!
前回と同じようにぶつかってしまった。
しかし前回といい、よくこんなのに当たっても死なないよな俺…
キキキッッ!!
ガチャ!!バタン!!
パタパタパタ!
目の前の車が急停車し。
一人の女性が車から降り、俺の方へ走り寄ってくる。
「済みません!!済みません!!…あの怪我などありませんか?」
時が止まった…ように感じた。
逢いたくて、逢えなくなった人。
忘れようとして、忘れられなかった人。
「…ああ、大・丈夫だ…
とりあえず……この散らかった荷物を集めようか。」
周囲に飛び散った洋服などを見て、そう提案する。
「ありがとうございます!!」
洋服を集めながら、チラチラと彼女のほうを見てしまう。
そんな俺に気づいたのか、
「…あの、ぶしつけな質問ですが、
何処かで、お会いした事ありませんか?」
俺の顔を覗き込みながら、彼女が話しかけてくる。
「ええ、あなたのことはよく知っています。」
もう少しでその言葉が出てきてしまいそうだった。
「気のせいですよ。」
断腸の思いで言葉を搾り出す。
「そうですか?」
「ユリカ、急がないと遅刻するよ!!」
…どっちみち遅刻するんじゃなかったか、ジュン?
「解ったよ、ジュン君!!
では、ご協力感謝します!!」
そう言い残してユリカとジュンは去って行った…
前回と同じく子供の時の写真を残して…
やがて車が見えなくなった頃に、
俺は低く、自嘲気味な笑い声を上げる。
「ふふ…ははははは、
やっぱり忘れる事なんて出来ない。
だからこそ、絶対に同じ未来になんてさせやしない!!」
俺は決意を新たにし、ナデシコAに向かって自転車を走らせた。
「はてさて…
貴方は何処でユリカさんと、お知り合いになられたんですかな?」
俺は軍の見張りに連行され、今はプロスさんと話をしている。
…ここまでは、以前と同じ展開だな。
さて、相手は交渉のプロだ…どうしようか?
「実はユリカとは、幼馴染なんです…
で、さっきユリカとぶつかって、
その時に落としていった写真を届けにきたのと、
ユリカに聞きたい事があって、ここまで追い駆けてきました。」
…時を翔けても上手い嘘一つ言えないとは…
「ふむ、ではちょっと失礼させていただいて、
貴方のお名前なんて〜の、とポチッとな。」
「おや?全滅した火星から、どうやってこの地球まで来られたんですか?」
俺のDNA判定の結果を見て驚くプロスさん。
俺は過去と丸っきり同じ質問に内心苦笑しながら、
やはり過去と同じ返答をした。
「…記憶に無いんですよ。
気が付いた時、俺は地球にいました。」
過去と同じ展開を期待していると、
「あいにくとユリカさんは重要人物ですから、簡単に部外者とお会いできません。
…しかし、ネルガルの社員の一員としてならば、不都合はかなり軽減されます。
実は我が社のあるプロジェクトで、コックが不足していましてね。
テンカワさん、貴方はコックでありかつ、無職らしいですね、どうですこの際ネル
ガルに就職されませんか?」
流石プロスさんだな、上手く話を進めるもんだ。
一言もナデシコの名前を出さずに俺をスカウトするか…詐欺じゃないのか?
「こちらこそ、願ってもないです。
実はこの先どうしようかと、困っていたんですよ。」
「では早速ですが、こちらが契約書になっています。
お給料の方は、ピッポッパッと…こんな感じですが。」
ええっと確かこの辺に…
おっと、あったあった。
駄目もとでも、とりあえずは交渉してみるか。
「え〜と、プロスさんちょっといいですか。
契約書のこの部分なんですが…」
「…そこがどうかしましたか?」
一瞬顔を歪めながらもすぐにそんな気配を消せるのは流石だ。
俺も見習わなくてはと心に誓う。
「ここをこのように変えて…」
「いやいや、せめてこのように。」
などとプロスさん相手に交渉をしてみる。
プロスさんもこの条項に気づかれたら諦める気でいたのか、あっさりオーケーを貰ってしまった。
これでナデシコ艦内で恋愛が出来る!!
こうして俺は無事ナデシコに乗船を果たした。
そして俺は運命の再会を果たす・・・
後書きの様なもの
はじめまして皇です。
Benさんの名作を初めてSSを書く私なんかがいじってしまってよいものか
悩みつつも書いてしまいました。
話はアキトの性格が違うほかは、原作どうりに進んでいきます。(多分)
飛んでいる部分は原作と同じことがあったと思って頂けたら幸いです。
また私自身色々な方のSSを読んでいる為、似通ってきてしまう部分が出るかもし
れませんが、
その点は、ご勘弁いただけたらなと思います。
最後に「時の流れに」の設定を使うことを快く承諾していただいたBenさんと、
駄文に付き合っていただいた皆さんに感謝しつつ、 失礼します。
代理人の「ちょっと待ていアキト!」のコーナー
初投稿の皇さんです!
それにしてもこのアキト、逆行物のアキトは並外れて強く、御都合主義に守られているという常識を覆し、
なんかマヌケ(笑)!
いや、実に親しみが持てますね〜(笑)。
そして今回の「ちょっと待ていアキト!」はもちろんココ!
これでナデシコ艦内で恋愛が出来る!!
するつもりか!
・・・・・誰と(汗)?