題名 時の流れに身を任せ
著者 皇
第一章 一話 「男らしく」でいこう!!
プロスさんに連れられてナデシコの艦橋を案内されていると、女の子の声がした。
「こんにちは、アキトさん。」
何故ここにルリちゃんがいる!?
何故俺を知っている!?
何故優しい顔をしている!?
「おや?ルリさんはアキトさんとお知り合いですか?」
「ええ、そうなんですよプロスさん。」
馬鹿な!!
そんな俺の困惑をよそにプロスさんとルリちゃんの会話は進んでいく。
「そうですか…ではテンカワさんの案内をお願いできますか?」
「はい、解りましたプロスさん。」
そうしてプロスさんが去っていくのにも気づかず、俺はパニクッていた。
そんな俺を微苦笑しながらルリちゃんは話しかけてきた。
「…案内、しますかアキトさん?」
どうやらルリちゃんも一緒に過去に戻ってきたのだと嫌でも解らせてくれる笑顔だった。
「…必要ないのは解っているんだろう。ルリちゃん?」
「ええ、もう逃げられませんよアキトさん」(ニコッ)
お互いの視線が絡み合う・・・
俺は気づいたらルリちゃんを抱きかかえていた。
「あ・あの、ア、アキトさん?」
ルリちゃんは顔を真っ赤にさせ、声を裏返しながらもじっとしていた。
俺はそのままの姿勢でルリちゃんの耳に囁く。
「驚いたよ、ルリちゃんまで戻っているなんて…
でも嬉しいよ、、またルリちゃんにあえて。」
ルリちゃんもオズオズと腕を回しながら答えてくれた。
「私もです、アキトさん!!」
しばらくそのまま抱き合っていたが、名残惜しい気がしながらも、ゆっくりルリちゃんから離れる。
ルリちゃんも残念そうな顔をしながら腕を下ろしていたようにみえた。
落ち着いて、ルリちゃんに詳しく話を聞くと。
一週間前、気づいたときにはナデシコのオペレーター席に座っていたとの事。
そして俺を待っていたそうだ。
一縷の望みを抱いて。
「でも、いきなり抱きしめられるとは思いもしませんでしたけどね。」
悪戯っぽく笑いながら(やはり顔は真っ赤だが)そんなことまでいってくる。
そんなルリちゃんを見ていると、少しからかってあげたくなってしまった。
「またルリちゃんに逢えてとても嬉しかったからついね…
でもルリちゃんは、俺に逢えてもそんなに嬉しくなかったんだ…
悲しいな・・・」
顔を伏せながら少し沈んだ声でそういってみた。
ルリちゃんは予想どうりに反応してくれた。
あたふたと慌てて、そして大声で叫んでいた。
「そ、そんなことありません!!!
私だって、私だってどんなにアキトさんに逢いたかったか!!!
抱きかかえられてどんなに嬉しかったか!!!!」
俺はニッコリ笑いながらルリちゃんにこたえた。
「ふふ、よくわかってるよルリちゃんの気持ちは。
でもそんな大きな声だと周りの人にまで聞こえちゃうよ?」
その言葉で慌てて周りを確かめるルリちゃんに、
「もう遅いかもしれないけどね。」
止めを刺しつつ、また抱き寄せた。
「もう知りません!!」
一層真っ赤な顔になり、拗ねて逃れようとするルリちゃんに囁く。
「ルリちゃん…戦闘が始まる。」
急にシリアスになった俺にビックリしながら、ルリちゃんも時間を確認している。
「そうですね…では私もブリッジに帰ります。
バッタに後れを取ることはないと思いますが、気を付けて下さいね。」
「ああ、解っているよ。
また後でね。」
「俺は…テンカワ・アキト、コックです。」
昔通りの言い訳…
そして昔通りの掛け合い。
「アキト!!アキト、アキト!!アキトなんでしょう!!」
「…ああ、そうだよユリカ、久しぶりだな。」
「本当にアキトなんだね!!
あ!!今はそんな事より大変なの!!
そのままだと戦闘に巻き込まれるよアキト!!」
「パイロットがいないんだろ?
俺も一応IFSを持っているからな…囮役ぐらい引き受けてやるよ。」
「本当?…うん、解ったよアキト!!
私はアキトを信じる!!
やっぱりアキトは私の王子様だね!!」
「…テンカワ機、地上に出ます。」
ルリちゃんの声を合図に、
俺は再び、あの無人兵器の群れと出会った。
「…今は俺の実力は隠しておいたほうが賢明だな。
ここは過去と同じく、囮役と誘導に徹するか。」
結局俺は、バッタ120機を全滅させてナデシコに向かった。
勝手に身体が動いてしまったのだ(汗)
後が怖いなと思いながらのナデシコへの帰還だった。
俺がデッキに帰還すると…ユリカとプロスさんが待っていた。
「すごい!!すごい!!アキト!!
アキトって強かったんだね!!やっぱりアキトは私の王子様だったのね!!」
満面の笑みで、俺の無事を喜んでくれている。
やはり変わらないよな…その微笑んだ顔は。
「いや、何とか倒せただけだよ、まぐれだよ。」
俺も軽く答えを返す…
正直言って、ユリカに未来のことを話す積もりはまるでなかった。
そこへプロスさんが割って入ってきた。
「テンカワさん、まぐれでは済まされませんよ。
いったい何処であのような技術を身に付けられたのですかな?
あれでは、『白銀の戦乙女』と同等かそれ以上の力の持ち主ということになります
よ。」
連合軍のエースパイロットを引き合いに出してくるとは思わなかった。
それに顔は笑っているけど、目は真剣そのものだった。
「いえ、エステに乗り込んだら何故か懐かしい感じがして。
それにシンクロ(オイッ)したとでも言うのか、まるで自分の身体を動かすかのように動かし方が解ったんですよ。」
俺は無理やりにでもこれで押し通すつもりだった。
「それを信じろと?」
「信じろも何も、本当のことですよ。」
俺とプロスさんとの間で火花が散ったように感じられた。
プロスさんは数十秒も俺のことをじっと見ていて、
俺は内心冷や汗を滝のごとく流していたが、不意にプロスさんは目をそらせた。
「…ふー、いいでしょう。
テンカワさんの言うことを信じましょう。」
俺は勝ったと喜んだのだが、そこでプロスさんの眼鏡がキラリと光った。
「では、テンカワさんはパイロットとしても働ける、ということですな。」
「え、ええ、まあ、そう言う事になりますね。」
「丁度良かった。
実は、パイロットが不足していたんですよ。
この契約書にサインを…」
何処からか取り出した契約書を嬉しそうに見せるプロスさん。
俺は過去と同様に、コックとパイロットの仕事を兼任することとなった。
その後俺とプロスさんの話の最中、デッキの隅でいじけていたユリカが煩く付き纏ってきたが、
「生まれて初めての戦闘だったんだぞ。
安心したら気が抜けて、気分が悪くなったんだよ。」
そう言って逃げるように廊下に出た。(実際逃げたのだが…)
ピッ!!
「アキトさん…」
突然コミュニケの画面が現れ、ルリちゃんの心配そうな顔が見えた。
「ユリカさんにも…事情を話されないのですね。」
「・・・こっちの世界の人間には、言うつもりはないよ。」
そしてルリちゃんの目を真っ直ぐ見ながら自分の考えを言う。
「なるべく過去と同じ行動をする。
そうしないと、予測の出来ない未来を招いてしまい、いざという時にどうしたらいいか解らなくなってしまうからね。」
「…アキトさんがそう言われるのなら、もう私は何も言いません。
ですが、…アキトさんが死ぬ事が解っている人を前にして、助けずにいられますか?」
相変わらず問題の本質を、そして一番痛いところ突いてくるんだね。
「…すまない、正直言ってその事には自信がない。
ガイや白鳥九十九、火星の生き残りの人達、サツキミドリの人達も・・・
…俺は、理解していても、実行する事は出来ないかもしれない。
…何故なら彼らを見捨てることは、悲劇の未来へ続くことだから!!」
「それでいいんですよ、アキトさん。
私はそんなアキトさんだからこそ、支えてあげたいと思うんですから。」
「有り難う、ルリちゃん・・・心強いよ、本当に。」
ルリちゃんに感謝の気持ちを込めて笑顔で応える。
「そうだ!!早速だけど相談があるんだ。」
「何でしょう?」
「実は…」
俺はラピスに頼んだことを話して…
「…という事を、お願いしたいんだけど。」
「…結構考えているんですね、アキトさんも。」
ルリちゃんは、辛辣な言葉で俺を苛めておきながら、
一転して悪戯を見つけられた時のような表情で笑いかけてきた。
「勿論、その作戦には参加させて貰います。
…それにラピスには、ハーリー君を付けましょう。」
「まさか、マキビ ハリ君も…」
「はい、覚醒後すぐに私に連絡して来ました。」
…この時点では、お互い面識がないはずだろうに。
ただの馬鹿か、何も考えていないのか。
少しラピスを預けるには不安もあったが、代わりになる人もいないので仕方なく頼むことにした。
「…出来れば直ぐに連絡を取って、ハーリー君にラピスの補佐を頼んでくれないか?」
「はい、解りました…それではまたブリッジで。」
「ああ、また後で。」
ピッ!!
それを最後にルリちゃんとの通信は終わった。
…まあ、昔通りなので仕方が無い事だが。
キノコ副提督が叛乱を起こした。
どうせ失敗するから俺は食堂から動くつもりはもうとうなかったが…
食堂で久しぶりに料理を作りながら時間をつぶしている間に、
連合宇宙軍のトビウメの登場、ミスマル提督の超音波攻撃、ミスマル親子の漫才もあった。
そしてユリカはマスターキーを抜いてジュンとプロスさんを連れて、トビウメへ向
かっていた。
そのうちに、皆が食堂に集まってきた。
ルリちゃんともう一人を除いて皆暗かったが仕方が無いだろう。
「どうした!!皆、暗いぞ!!
俺が元気の出る物を見せてやる!!」
暗くない人間は、相も変わらず熱かった…
それを懐かしんでいると、隣の椅子に座ったルリちゃんが俺に尋ねてきた。
「どうします?
もう直ぐユリカさんが帰ってきますよ。」
「う〜ん、前回は勢いで反撃したからな…って
考える必要なかったみたいだよ、ルリちゃん。」
俺達の目の前ではガイが皆に踏まれてもの言わぬ状態になっていた。
皆の後ろに付いてルリちゃんと話しながら廊下を歩いているとミナトさんと出会った。
「あれ〜、ルリちゃんってアキト君と仲がいいんだ?」
「はい、そうなんですミナトさん。」
「ふ〜ん、いつの間に仲良くなったの?
私もアキト君のこと狙ってたんだけどな〜」
ピクッ!!
ルリちゃん、顔が怖いぞ。
ミナトさんの冗談に決まっているだろう。
「あはははは、ミナトさんったら冗談が上手いんだから。
俺なんかに興味なんてないくせに、ルリちゃんをからかおうとして。」
無難に回避行動を取れたと自賛していたところにトマホーク(何時の時代だ)が撃
ち込まれた。
「あら、本気なんだけどな〜ア・キ・ト・君。」
何故だ?
過去において俺に興味を全然見せなかったミナトさんが。
ルリちゃんを一番可愛がっていたミナトさんが。
俺は隣を見るのがとても怖かったが、恐る恐るそこを見ると、そこには笑った顔の般若がいた。
「あ、あの、ルリちゃん?」
「…良かったですね、アキトさん。
私には関係ありませんから・・・私、少女ですから。」
そういうと俺の方を見ることなく、ブリッジへ行ってしまった。
止めるまもなく去っていくルリちゃんを見送った後、ミナトさんに本音を聞いてみた。
「…あの、ミナトさん、先程のは?」
「だから本気よ。」
「…でもまた、何故俺なんかを?」
「あら、たった一機であれだけのバッタをいとも簡単に全滅してしまう技量。
それを誇るでもなく、何故かコックとパイロットの掛け持ちをしていること。
私が乗り込んだときにはあんなに無表情だったルリちゃんにあんな顔をさせてしまうこと。
極め付けが雰囲気が危険な感じでありながら、母性本能をかきたてられずにはいられないこと。
こんなにミステリアスな人に、興味を持たない人はいないわよ。」
確かに俺は陰のようなものを持っているだろう。
しかしミナトさんは、年上が好みであったのではないのか?
そんなことを思っているうちにルリちゃんから連絡が入った。
「お楽しみのところを、失礼します。
チューリップが近づいてきています、アキトさんはデッキに向かってください。」
未だ怒っているルリちゃんの氷の視線に見送られ、急いで格納庫に向かう俺であっ
た。
「…今回もマニュアル発進ですね。」
俺を苛めるのに余念がないな、ルリちゃん。
「…今回はちゃんと飛行ユニットを付けて行くよ、ルリちゃん。」
「そうなんですか…せっかくのアキトさんの見せ場なのに。」
「…ルリちゃ〜ん、勘弁してよ。」(涙)
そんなこんなでチューリップは、ナデシコのグラビティ・ブラストの一撃により殲滅した。
もちろん、ユリカの奴はジュンを置いてきぼりにしてきた。
「しかし…ルリちゃんの成長には驚かされるよな。
…そうだよな、ルリちゃんが俺のあの二年間を知らないように、
俺も知らない、ルリちゃんの二年間があるんだよな。
…ふふっ、何か寂しい気もするが、いいことなんだよな。」
(ラピス…)
(何、アキト?)
(…頑張ろうな。)
(…うん、私も地球で頑張るから、
アキトも頑張ってね。)
(…ああ、じゃあまた。)
(うん。)
ラピスも精神的に、急激に成長している。
これが娘を持つ親の気持ちか、などと思いつつ俺はナデシコへ帰還した…
代理人の「ちょっと待ていアキト!」のコーナー
俺は気づいたらルリちゃんを抱きかかえていた。
ルリちゃんってこの時点で11歳だよ? アキト、ロリコン決定。
なお次点としてアキトのセリフ
「なるべく過去と同じ行動をする。」
も挙げておきましょうか。
バッタを全滅させた時点でもう完全に手遅れだって(笑)。