第七話    新たな未来の始まり 

 

 

「もう直ぐだよね……アキトが帰って来るのは。」

「そうだね、火星脱出から八ヶ月。
 そろそろ、地球に戻ってくる頃だね。」

「じゃあ、今日はこれ位にしておこうか。
 予定の八十パーセントは完了しているし、残りは仕上げだけだね。」

「そうしよう、近頃は警戒も厳しくなってきたし、
 注意しておくに越した事はないしね。」

「うん、じゃあもう寝るね。
 お休みハーリー。」

「お休みラピス。」



「もう直ぐ、もう直ぐですね!
 艦長、お待ちしておりました!」

 

 

 

 

 今回も目覚めると、展望室だった。

「おはよう御座います、アキトさん。」

「おはよ、ルリちゃん。」

 それにしても、ルリちゃんの方が何故早く目覚めているんだ?
 不思議な事だ。
 そう思いつつ、体を起こそうとしてみると…

 忘れていた。
 当然この二人も一緒にいるに決まっていたのに。

「お〜い、朝ですよ〜〜
 もう起きないと遅刻しちゃうぞ〜〜」

 二人とも、ピクリともしない。
 むむ、俺ならこれで飛び起きるのに。
 なら次は、

「朝食の準備が出来たぞ〜〜」

 ピクッ

「今日の朝食のメニューは〜…」

「はっ!!」

 ユリカ…
 とてもお前の性格に沿った目覚め方だな。
 イネスさんは、まだ俺に抱きついているが、取り合えず無視。
 ユリカにブリッジに行ってもらわなくてはな。

「ルリちゃん、現状をユリカに教えてあげてくれない?」

「はい。
 本艦ナデシコは連合宇宙軍と木星蜥蜴に周りを囲まれています、
 端的に言いますと、二つの軍隊の交戦ポイントです。」

「のええ〜〜〜、
 なんでぇ〜〜、ど〜してぇ〜〜!!」

「ユリカ、まずルリちゃんに指示を送れ、
 その後、ブリッジへ急げ、他の事は全て後回しにしろ。」

「うん、そうだよね。
 ルリちゃん、グラビティブラストを蜥蜴に向かって発射。
 直後にフィールドを張って誰もいない宙域へ。」

「了解しました。」

「じゃあ、ブリッジに先に行ってるね。
 アキトも直ぐに来てね。」


 ユリカの判断は良かったはずだが、
 やはり、連合宇宙軍にもグラビティ・ブラストの余波は伝わっており、
 今回も連合宇宙軍の司令官から苦情を言われていた。


 それにしてもイネスさんはまだ起きないのかな?

「イネスさ〜ん。
 いい加減狸寝入り止めてくれないと、キスしちゃいますよ?」

「何時から気付いていたの?」

 俺から離れながら聞いてくる。
 少し顔が赤いかな。

「ユリカが叫んだ後に、腕に力が入ったんですよね。
 そこで、ね。」

「ふ〜ん、失敗したわ。
 ところで、聞いてくるぐらいだったら何故してこなかったの?」

「幾ら俺でも、衆人環視の下でしようとは思いませんよ、それに戦闘中でしたし。
 したくなったら、何時でも呼んで下さい、イネスさんに呼ばれたら飛んできますよ。」

 こんどこそ顔を真っ赤にしたイネスさんの横を笑いながら通り抜ける俺。

 

『敵、第二陣来ます。』

「有り難うオモイカネ…艦長、敵第二陣が来ます。」


 敵の大群が目の前に展開している……
 まさに雲霞の如く、だな。
 それに対して、こちらはナデシコ一隻。
 アカツキ、かっこいい出番なんて考えずにさっさと来てくれると嬉しいぞ。


「リョーコ、作戦は?」

「この数だぜ?
 作戦なんて無駄、各自戦況に応じて最善を尽くせ!」

「「「「了解!」」」」

 勇んでバッタと交戦に入った俺達だったが…

『おい!どーなってんだよ?
 敵の攻撃が強力になってやがるぞ。』

『バッタさん達のフィールドも強化されてるよぉ〜〜』

 撃墜したと思ったバッタが、何事もなかったかのように向かってくるのを見て皆驚いている。
 当然だろう、倒したと思えばこそ次の敵を目標にしているのに、
 そこから攻撃されては無防備な一面を見せてしまうことになる。

『ふふふふふ、強い敵こそ望む所!
 最後に勝つのは正義だ!!
 くらえ!ゲキガン・パーーンチ!!』

 訂正、若干一名燃えているのがいた。
 しかし、敵に押されだしているのもまた事実。
 今迄の一機分を、今では二機がかりでどうにかこなしているという所だろう。

 それでも、戦線が崩壊しないのは流石である。
 皆腕は一流だし、火星で経験も積んだしな。



『テンカワ、今何処にいる?』

 リョーコちゃんから落ち着いた声で通信が入った。

「何処って、どうしたの?」

『ちょっとバッタに囲まれちまってさ…
 包囲網を敗れそうにもないんだよな。』

 さすがにここからリョーコちゃんの所まで行く間敵さんが待っていてくれるとも思えないし…
 そうか、今こそ出番だぞ、アカツキ!


 まさか俺の内心の声が聞こえたわけでもなかろうが、

『外部から包囲網に一撃を加える。
 その隙に脱出したまえ。』

 その言葉とともに包囲網の一部のバッタが消し飛ぶ。

『君達、下がりたまえ!君達のエステでは辛すぎるだろ!』

 クールな声、キラリと光る歯、そしてお姫様を助ける王子様並の登場シーン。
 惜しかったなアカツキ、俺がいなければリョーコちゃんを落とせたかもしれないのに。
 もはやリョーコちゃんには俺しか見えていないぞ、遅かりし由良之助!!

『誰だよテメーは!!』

 いくらなんでも命の恩人にそれはないんじゃないか、リョーコちゃん。
 それとも俺にだけ、助けてもらいたかったのか?

 そんな埒もないことを考えていたその時、

『後方から重力波来ます。』

 ルリちゃんの言葉とともに閃光が駆け抜ける。


 ドゴォォォォンン!!


『敵、二割がた消滅。』

『うっそ〜〜!』

 ユリカ、お前はお嬢様なんだからその言葉遣いは止めたほうがいいと思うぞ。

『第二波来ます。』


 ドゴォォォォォン!!

『す、凄い!』

『!多連装のグラビティ・ブラスト、だと!?』

『と言う事は…』

 その後、もはや俺達の出番は有り得ないという事で、ナデシコへ戻った。
 もちろんアカツキを連れて。



 そして、ナデシコの格納庫にて…

「やあ、始めましてナデシコの皆さん。
 俺の名はアカツキ ナガレ、コスモスから来た男さ。」

 見事に歯を光らせているが、だから無駄な努力だぞアカツキ。
 既に大部分の女性は俺に好意を持っているからな。

 

《艦長、今の提案を受け入れてくれる事を信じているよ。》

「はあ、取り合えずクルーの皆と相談します。」

《ふむ。取り合えず、ナデシコはコスモスに向かいたまえ。》

「コスモス?」

《ナデシコ二番艦だよ。》

 

 コスモスは、ナデシコと同型艦というのも憚られる位のものだった。
 確かに、その独特なシルエットは同じである。
 しかし、艦のスケールが違いすぎる。

 普通、一つの戦艦を別の戦艦の中に入れる、という発想をするか?

 現在ナデシコはコスモス内部に係留されている。

 

「さて、説明しましょう!」

 気合入ってるなイネスさん。
 まあ、こんな不思議な事が起きれば普通の人でも色々説明をしたくなるものだしな。

「火星でチューリップに入って、現在に至るまでに八ヶ月が経過している事は事実!」

「なにーー!!」

 皆ノリがいいな。

「これは、チューリップを通り抜けると、瞬間移動する。
 という事ではないことを示しています。
 さて、問題は何故このようなことが起こるのか、という事なんだけど、
 事例が少なすぎるため、あくまでも推測でしか言えないけれど、
 私の見解では、『ああ、』」

「取り合えず、その話はまた今度、という事にしまして。」

 さすがだな、プロスさん。
 あのイネスさんの説明を途中で止めてしまうなんて、しかも一番いいところで。

「それでネルガル本社としましては、連合軍と共同戦線を張る事になりまして……
 それに伴い、連合海軍 極東方面隊に編入される事がきまりまして、はい。」

「ええぇーー!!」

「私達に軍人になれって言うの?」


「そーじゃない。
 ま、一時的な共同戦線みたいなものかな。」

 アカツキが割って入る。
 しかし、普通のパイロットがそんな方針を言えるものではないぞ。

 

 

 

(ラピス?)

(アキト!無事だったんだね!!)

(ああ、どうにかな。
 そっちの進行状態はどんなかんじになっている?)

(えへん!!
 Aプランは昨日の内に完了したよ!!
 今日からは、Bプランに突入してるよ!!)

(それは…凄いな。
 頑張ったんだね、ラピス。)

(うん!!)

(今は会いにいけないけど、
 もう直ぐ会えるよ、ラピス。)

(うん…さよならアキト。
 なるべく速く迎えに来てね。)

 

 

 

 

「え〜、今日から我が艦に配属された、新しい提督さんです。」

「ぶ〜〜〜」

 本人目の前にしてブーイングができるなんて凄いな皆。

「は〜い、
 皆さんお久しぶりね〜」

 それにしても連合軍もこいつの扱いに苦慮しているんだな。
 ムネタケ・サダアキ宇宙軍少将、別名キノコ、日本産。

「アタシが提督になったからには、ビシバシ鍛えてくからね!」

 もちろん、そんな台詞を聞いている人間は誰もいなかった。


 そう、エリナが自己紹介を始めたからである。

 エリナ。
 未来で一番関係の深かった女性。
 …エリナの身体の弱点は今でも覚えている。

「はじめまして。
 エリナ キンジョウ ウォンです。
 これから副操舵士として、ナデシコに乗らせてもらいます、よろしく。」

 その目は俺を凝視していた。
 そう、品物を検分する目付けだ。
 さてさて…何時までその顔を維持する事が出来るかな?
 また直ぐに、俺の魅力に参ってしまうだろうに。
 いや、今回はもっと積極的に落とすか?

「どうして会長秘書が直接乗り込んで来るんです?」

 プロスさんがブツブツ文句を言っているな…
 しかし、会長秘書は問題にしておきながら、会長の事は気にしていないのか?

「では、今後とも宜しくお願いします。」

 

 

 

 

「まさか…貴方まで乗り込んでいるなんてね。」

 薄暗い廊下で男女二人が小さな声で話している。

「例の彼に興味があったんだよ。」

「それで、第一印象はどうなの?」

「…う〜ん、正直解らないって所だね。
 だが、裏を持っている人間のような気がするね。」

「貴方でも、見極められないなんて…
 でも、ますます彼に興味が湧くわね。」

「エリナ君…これは僕の勘なんだが…
 彼には関わらない方がいいかもしれない。」

「嫌よ。
 私は興味のあるモノは、自分で確かめる事にしているの。
 貴方も知っているでしょう。」

「確かにエリナ君の性分はよく解っているが…」


 こうして美しい蝶は、自分でも知らぬ間に蜘蛛の罠に自ら囚われの身になりにいくのであった。

 

 

代理人の「ちょっと待ていアキト!」のコーナー(笑)

 

今回は・・・ナシ!

まあ、つなぎみたいな話だから仕方ないと言えばそうなんだけど・・・・やっぱつまらん(爆)

キスのくだりも皇さんのアキトだったら今更突っ込むほどのポイントではないしね〜(笑)

まあ、代理人としては次回に期待しましょう(何を)。