第四話 東方からの尋ね人
その話を聞いた時、誰もが作り話だろうと思い気にも留めなかった。
今迄もそんな噂話は出来ては、消えていっていたからだ。
今回のその話も、やがて直ぐに消えていってしまうと。
しかし、その話は立ち消えることなく、今も囁かれ続けている。
「あのエリナ・キンジョウ・ウォン女史に、ついに意中の人が！！」
彼女レイナ・キンジョウ・ウォンの姉、エリナについての話だった。
レイナは、最初にその話しについてコメントを求められると、
無視をしていた。
どうせ、今迄あった話しと同様根拠のないガセネタだと思ったからだ。
レイナには、エリナが誰かに夢中になっているなど、到底考えられなかったからだ。
今迄も、噂は腐るほど出来ては消えていたが、
その噂が出来た理由を検証してみると、
曰く、エリナが男と一緒に楽しそうに歩いていた。
仕事が上手くいって機嫌が良かっただけだった…
曰く、エリナが男と喫茶店で待ち合わせをしていた。
仕事の取引先の相手だった…
兎に角、エリナの傍に男が居ただけで噂になってしまっていたのである。
根拠薄弱な事、この上ない。
従ってレイナがその噂に関心が無かったからといって、責められる要素はないだろう。
しかし今回の噂は、今迄のものとは一寸違っていた。
曰く、エリナが男と腕を組んで歩いていた。
曰く、エリナが男と遊園地で遊んでいた。
しかし、今回の噂が今迄の噂と決定的に違っている事があった。
即ち、噂が二週間以上経っても衰えるどころかますます過熱していったのである。
同じ男と一緒に居るのを見たという目撃情報も、引っ切り無しに入ってくるのである。
レイナが重い腰を上げたのはそんな頃だった。
噂の出所を求め、会社内で色々な人と話しているレイナが良く見られた。
そしてレイナは色々な噂を集めた上で一つの結論に辿り着いた。
エリナは、その男と付き合っている筈がない。
レイナがそう結論付けた、最も大きな要因は噂になった相手の男にあった。
その男は、現在エリナと同じ職場で働いており、
ついこの間まで無名であったにも拘らず、現在ではアジアで最も有名な人間の一人になっていた。
男の名前はテンカワ・アキト。
その男の名前に辿り着いた時、レイナは噂のあらすじが読めたと思った。
つまりエリナの活躍を快く思わない連中が、現在同じ職場に居る有名人とエリナが付き合っていると言いふらし、
スキャンダルによって、エリナを追い落とそうとしているに違いないと。
エリナは、その頭の良さと行動力とで、一気に会長秘書にまでなったが、その分敵も多かった。
特に、頭の固い重役連中には、エリナを潰そうと隙を窺っている者が多かった。
その連中が噂を流したのではないか、レイナはそう思ってしまったのだった。
それ程その噂は、エリナの事をよく知っているレイナには信じられない様なものだった。
レイナが知っているエリナは、男にうつつを抜かすなどという事は天地が引っ繰り返っても有り得そうになかった。
現にエリナに対しては、学生時代から非常に多くの交際の申し込みがあったが、
レイナの知る限りその申し込みを受け容れたという話も、自分から誰かに申し込んだと言う話も一度もなかった。
そんなエリナが、いくら相手が英雄だろうと男と腕を組んで歩いている図や、遊園地で遊んでいる図は、
どんなに想像力を働かせても、レイナの頭の中には浮かんで来なかったのだ。
しかし、時が過ぎてもその噂は一向に衰えなかった。
その為レイナもテンカワ・アキトについての情報を集めるようになっていった。
TVの特集は全て欠かさずチェックした。
アキトを特集している雑誌や本も買い漁った。
そんな中でナデシコが軍の要請で極東での作戦任務に就くことになった事を聞き、エリナに連絡を取る事にした。
噂の真相と、テンカワ・アキトのありのままの姿を知る為である。
「姉さん、久しぶり。
私よ、レイナよ。」
「あら、珍しいわねレイナ。
何かあったの、貴女の方から連絡してくるなんて。」
「そんなんじゃないわよ、
何か姉さんと話したくなったから…それとも忙しかった？」
「ううん、ちょっと暇だったし。
私も久しぶりにレイナと喋りたかったわ。」
そんな姉妹のとりとめのない会話に続いて、レイナがさり気なく核心を突く質問をする。
「ねえ、姉さん。
今会社で面白い噂が流れてるんだけど聞いてみない？」
「面白い噂？
一体どんな噂なの？」
「う〜んとね、うちの会社の秘書が姉さんも乗ってるナデシコの英雄と付き合っているって言う噂なんだけど。」
「わ、私とアキト君は、ま、まだっ」
「ふ〜〜ん。
姉さんは彼の事アキト君って呼んでるんだ。」
「な、な、な、」
レイナの鋭い突っ込みにエリナは何も言えなくなってしまう。
レイナも今迄に見たことが無いほどエリナは取り乱している。
「で、姉さん。
本当の所、彼とは何処まで進んでるの？」
「…………」
ボンッ！！
そんな音が伝わって来なかったのが、いっそ不思議に思えてしまう位一瞬にして顔色が変わるエリナ。
「ねえ、姉さ〜〜ん。
可愛い妹の質問に答えてくれないの？」
「…………」
「ぶ〜〜。
じゃあ、彼の事についてで良いからさ〜。
彼ってどんな人なの？TVでやっているのほんとの事なの？」
レイナは最早顔を赤くしているなどと言う状態を通り越しているエリナを思う存分からかって遊んだ。
その様子を見ると、どちらが年上か分からないな…
◇ ◇
「う〜〜ん。」
寝苦しい事この上ない。
俺は夢現にそんな事を考えながら目を開けてみる。
どうせサラちゃんが抱きついてきているんだろうと思いながら。
しかし、俺の予想は見事に裏切られた…
俺が体を起こそうとしても動かない。
左右から俺の体を何者かが押さえつけている。
仕方が無いので左右を見回そうと顔を右に向けてみると、
サラちゃんが幸せそうな顔で眠っている。
これはある程度予想済みのことである。
しかし、体は左側からも抱きつかれている為に起き上がれない。
左には一体誰が、そう思って左にも顔を向けると、
アリサちゃんがいた。
何故かとても嬉しそうな顔で俺の事を見詰めていた。
「おはようございます、アキトさん。
よく眠れましたか？」
そんな台詞を俺の腕を抱えながら言ってくる。
……よく眠る為には、一つのベットに三人で寝ているようでは無理だと思うんだけどな、俺は。
大体何時の間に二人とも入ったんだ…
それに先に一人が居たら、後から入ってきた方は普通一緒には寝れないと思うぞ。
この二人には常識を期待しない方がよさそうだ。
それとも、相手が双子の姉（妹）だったから気にしなかったのか？
う〜ん、分からん。
「うん、もう一寸寝ていたかったかな。
でも充分寝られたよ。」
「そうですか、よかったです。」
アリサちゃんは俺と同じベットで寝ているのが、さも当然かのようにのたまうたうえ、
ニッコリと笑いかけてくる。
「それで、アリサちゃんはどうして俺と一緒になって寝てるの？」
どうやって俺の部屋に入ったかなど、答えが分かり過ぎているので尋ねない。
あの爺さんがサラちゃんの時と同様、手を回したに違いないからだ。
「そんな事を御聞きになるなんて………愚問ですわ、アキトさん（ポッ！）」
可愛い！！可愛すぎる！！
いつもの様子からは想像も出来ないような、ピンクの可愛らしいシルクのパジャマと、恥らって赤くなった顔。
そして止めの今の台詞。
俺は気付かぬ内にアリサちゃんを抱きしめた。
その行動に俺自身も驚いたが、このまま進んでしまうのもありだろう。
「アリサちゃん、とっても可愛いよ。
でも出来れば、そんな様子を俺以外の誰かの前では絶対に見せないでね。」
そのままアリサちゃんにキスしようと顔を近づける。
アリサちゃんも目を閉じて、俺に応え様としてくれている。
もう、触れるかな、という時に声が聞こえてきた。
「う〜〜ん。煩いな〜〜。
誰よ朝から静かにしてよね〜〜。」
サラちゃんがお目覚めのようだ。
そうだ、今はサラちゃんも俺の部屋に居るんだったっけ。
流石にサラちゃんとアリサちゃんを一遍に最後まで……という訳にはいかないか。
………この間は期待したけど…
「あ、ごめんねサラちゃん。
起こしちゃった？……
…じゃないでしょう！ここは俺の部屋だよ！
別に入ってくるなと言うつもりもないし、一緒に寝るのも嬉しい！！
だけど、起きるのは俺に合わせてくれてもいいんじゃないの！」
俺の嘘偽り無い本心からの叫びだった。
女性と、それもサラちゃん達の様な美女と一緒に寝る事については何の文句も問題も無い！！
唯、俺が出かける際にも未だベットで寝ているのを見るのは切ないんだ〜〜！！
俺の魂の叫びが通じたのか、サラちゃんもアリサちゃんも約束してくれた。
「そうね。
私も朝一番にアキトに逢いたいし……これからは一緒に起きてあげる。」
「分かりました、アキトさん。
これからは私が、アキトさんの起きる少し前からアキトさんが起きるのをベットの中で待つようにします。」
二人に俺の真意が伝わったらしい。
これにて一件落着かな。
安心したら眠たくなってしまったが、もう起きないといけないな…
「じゃあ、もう起きよっか。
………サラちゃん達は着替え持ってきてるの？」
アリサちゃんはピンクのパジャマで、サラちゃんはブルーのパジャマ。
その格好で自分の部屋まで行くとなると大問題だな。
この部屋は士官用だから一寸離れたところにあるんだよな。
従って帰ろうとした際に、多くの人に見られてしまう可能性が高い。
夜とかなら未だすれ違う可能性も低いんだが…
「いえ、持って来ていません。」
「私も持って来てないわ、アキト。」
なるべく他の人間には見せたくないんだよな…
そうだ、良い事を思いついた。
「だったら、これからは着替えも持ってきたらいいよ。
そうすれば二人のパジャマ姿を俺以外の男に見られなくて済むから。」
本格的な同棲の前触れかな…
でも、今の所基地内ではサラちゃん達以外に他にいい人居ないし…
別に誰も困らないよな。
◆ ◆
美女が、この基地に辿り着いた。
彼女の名前はレイナ・キンジョウ・ウォン。
ネルガルから、アキトのエステバリスの整備士として派遣されていた。
レイナにして見れば、この基地への派遣に立候補した理由は唯一つ。
エリナが惚れたという、テンカワ・アキトを見るためだけであった。
レイナしか激戦地に行こうという物好きは現れなかった為、事実上アキト専用の整備士になっていたが。
現在のアキトが使っているエステバリスはネルガルが最先端の技術と社外秘のブラックボックスが多数付いている為、
そこいらの整備士には取り扱えるものではなかったのだ。
そんな訳でレイナは基地に降り立ったのだが、
基地に着いて直ぐに、途方にくれてしまっていた。
その理由は、この基地が余りにもノホホンとしている為であった。
レイナだって、最前線に行くと決めた時からある程度の覚悟をしていた。
流れ弾に当たるかも知れない、飛蝗に殺されるかもしれない…
それ位の覚悟は充分してきた。
しかしレイナのそんな覚悟を嘲笑うかのように、この基地の雰囲気は平和すぎた。
実は誤って別の基地に来てしまったのではないかと本気で心配してしまうぐらい、最前線らしくない。
レイナは意を決して、近くを通りかかった女性に話しかけてみる。
「あの、済みません。
私、今度ネルガルから出向になったレイナ・キンジョウ・ウォンと言います。
この基地にテンカワ・アキトさんはいらっしゃいますか？」
話しかけられたのは金髪の美しい女性――サラであった。
>
「あら、初めまして。
私はサラ・ファー・ハーテッドよ、宜しく。
で、アキトなんだけど、この基地にいるわよ。」
あっさりと認められてしまい、レイナは余計に混乱してしまう。
「えっ？
と言う事は、ここが最前線の基地で、最も激戦地で、え〜〜と、え〜〜と…」
余程こんな雰囲気の基地が最前線であるとは認めたくないらしい。
ま、ここの雰囲気よりも、ネルガル本社に居た時の方が暗いというか、ピリピリしているというか…
兎に角、最前線の方が平和な空気に包まれているのが不思議でならないらしい。
「ちょっと、落ち着きなさいよ！
息を吸って〜〜、吐いて〜〜。もう一度吸って〜〜」
サラは一度落ち着かせるのが先決だと、レイナに深呼吸をさせた。
「ス〜〜、ハ〜〜〜。」
レイナも大人しく深呼吸をしている。
「……と言う訳で、この基地は最前線にありながら明るい雰囲気なのよ。
実際アキトが来てから、この基地から戦死者は一人も出てないしね。
分かった、レイナ。」
「ん、ありがと、サラ。」
この二人、随分と仲良くなったらしい。
もう、呼び捨てになっている。
言葉遣いもタメ口になっている。
「じゃ、折角だからアキトの所まで案内してあげる。」
そう言ってサラが前に立って歩き出し始めた時に、レイナが先程から気になっていた事を問いかける。
「ねえ、サラ。
さっきっから『アキト』『アキト』って呼び捨てにしてるけど、二人ってそういう関係なの？」
少し険悪な風がレイナの方から流れて来ている様な気がするが、それもしょうがないだろう。
何といってもレイナがこの基地に来た第一の目的は、姉の想い人テンカワ・アキトを見る為だったのだから。
それが着いた早々美人がそのアキトの事を親しげに呼び捨てにしているのだから…
「そういうって、どういう関係の事なの？」
ここでライバルになるかも知れない相手に牽制ができない所がサラのサラたる所以だろう。
これがアリサだったら、これ幸いと自分のものだと主張していただろうが…
レイナもそんなサラの様子を見て、少しは安心したようだ。
「ううん、分からないなら別にいいの。
それより早く連れて行ってよ。」
あっさりとサラの質問を切り捨て、催促するレイナであった。
そして、それに乗ってしまうサラ…
◇ ◇
「ア〜キ〜ト〜〜。
お客さん連れてきたよ〜。」
俺が昼食の忙しさも終わって、少しのんびりと後片付けをしていた時に、サラちゃんが入ってきた。
サラちゃんが連れて来たのは、漆のような黒髪を持ち、黒曜石のような瞳を持った美女であった。
久しぶりに東洋系の美女を見た。
それにしても、こんな美女のお客が来る予定なんて無かったぞ？
ま、美人は何時でも歓迎するけどね。
「初めまして、テンカワさん。
この度テンカワさんのエステバリスの整備士としてネルガルから出向となりました、レイナ・キンジョウ・ウォンです。
どうぞ宜しくお願いします。」
「レイナちゃんか…こちらこそ宜しく。
もっと気軽に話してよ、敬語なんて使わないでさ。
ってあれ、キンジョウ・ウォンってもしかして、エリナさんの？」
「そうですか、じゃ、遠慮なく、
はい、エリナの妹です。
私も姉さんと同じく、アキト君って呼んでもいい？
それとも義兄さ『ああっと』」
「レイナちゃん。
ネルガルから今来たんじゃ疲れてるだろ！
俺が今から昼食作ってあげるよ。」
別にエリナの事を出されても、やましい事は何一つ無い！！
でも取り合えず、『義兄さん』は止めて欲しい。
それにレイナちゃんにだって一人の男として好きになって欲しいからな。
呼び方って大事なんだよな…
「え〜いいな〜。
アキト、私には？」
サラちゃんがそんな事を言ってくるが、それは丁重にお断りしよう。
今はサラちゃんに構っているよりも、レイナちゃんを落とす事が何よりも重大な問題である。
「サラちゃんは今食べたばかりじゃないか…
それにこれから仕事だって言って食堂から出て行ったばかりじゃないか。
お仕事頑張ってね。」
俺にそう言われると、自分が仕事を放り投げている事を思い出したのか慌てて食堂から出て行こうとしている。
「あ〜〜〜、そうだった！！
じゃあレイナ、また後でゆっくり話しましょ。
それとアキト、後で特製チャーハン作ってね。」
その言葉が聞こえた時には、サラちゃんは既に食堂から姿を消していた。
しめしめしめ。
予定通りにサラちゃんがいなくなって、レイナちゃんと二人っきりになれたぞ。
まずはエリナ関係から話をしていくべきだろうな。
「そう言えば、さっき『義兄さん』って言おうとしていたみたいだったけど、
どうしてそんな台詞が出てきたの？」
俺のその台詞に、食堂の様子や俺の手元を覗いていたレイナちゃんが反応した。
「えっ？
だって姉さんとアキト君は付き合っているんじゃないの？」
予想通りエリナとくっ付くと思っているんだな。
俺としてはくっ付く相手はエリナだけでは無いんだがな…
「う〜〜ん、レイナちゃんにそんな事を言われるなんて光栄だけど、エリナさんとは本当にそんな関係じゃないんだけど…
ま、エリナさんかっこいいし憧れてるのは間違いないんだけど。」
ここで全てを否定してしまうのは得策ではないだろう。
真実を全て話す必要はないが、本当の事を混ぜつつ話を作った方が尤もらしいだろう。
「え〜〜、そうかな〜？
姉さんに聞いたら、満更でもなかったけど？」
結構可愛い所があるからな〜、エリナは。
からかわれると、むきになったり、失言が多くなったり。
ただ、現状ではいらん事を話しやがって、エリナの奴。
落とし難くなるだろうが…
そんな感想しか俺の頭には浮かんでこない。
それでも俺は負けやしないが。
絶対にレイナを落としてみせる。
「本当？
俺をからかってるんじゃないの、レイナちゃん。
それで俺が喜んでいるのを見て楽しむつもりだとか。」
「そんな悪趣味な事しないって！
大体、ナデシコの英雄にそんな事して無事に済むとは思えないし。」
やはりレイナちゃんも俺の事を知っていたらしい。
その割には普通に話してくれているんだが……
「からかわれた位で怒ったりしないよ。
それに淑女に手をあげるなんてこと、俺には出来やしないし。」
さて、一体どんな風に落としていこう？
俺に悪い印象は持っていないようだが、どの手が一番手っ取り早く落とせるだろう？
ここは姉のエリナと同じ様な手でいってみるか。
「それで、レイナちゃんはエリナさんに悪い虫がついたんじゃないかと思って探りに来たの？」
俺のこの台詞に思い当たる事のあるレイナちゃんは返事が出来ないでいる。
「俺としてはレイナちゃんにそんな目で見て欲しくないんだけど…」
少し寂しそうに自嘲気味に言ってみる。
レイナちゃんもエリナと同じくこんな台詞に弱いらしい。
「あ、ごめんアキト君。
私そんな目で見てたかもしれない………これからはアキト君を個人として見るようにする。」
レイナちゃんは素直な性格らしい。
明るく人懐っこいのは直ぐに判ったが、性格も良いというのはポイントアップだな。
それにこれなら簡単に落とせるな。
焦る必要はまるでないな。
「偉そうな事いってごめんね。
でもやっぱり、レイナちゃんに男として見て欲しいし……
はい、ラーメン出来上がり。」
さらりとそんな事を言いつつ出来上がったラーメンをレイナちゃんに差し出す。
その際にニコリと笑いかけるのを忘れてはいけない。
「あ、うん。
ありがと。」
レイナは顔を赤らめながら、ラーメンを食べ始めた。
顔を一切上げないのは照れているからだろう。
そんなレイナちゃんをじっと見詰める。
俺のその視線に気付いたのか、やっと顔を上げるが、俺と視線が合うとまた下を向いてしまう。
「ねえ、アキト君。
何か食べ辛いんだけど…」
どうにかそんな事をレイナちゃんは言ってくる。
勿論俺はそんな事は気にしない。
「そう？
気のせいじゃない？」
俺はニコニコ笑いながら、未だレイナちゃんを見詰め続けた。
ますますレイナちゃんは食べ辛そうだったけど、問題ないだろう。
レイナちゃんは俺の作ったラーメンを美味しそうに食べてくれた。
俺が何でこんなに料理が上手いのか不思議そうにしていたが…
こういう意外性のある特技って結構ポイント高いんだよな。
今迄もこれで大勢の女性を落としてきたからな。
「で、此処がオペレーター室。
ほら、あそこでサラちゃんが働いているでしょ。
基本的には、サラちゃんはここにいるよ。」
「基本的にはって、それ以外の場所でも働いてるの？」
「ま、それは追々にね。」
それを今言ってしまうのはレイナちゃんを落とす事が出来難くなってしまうからな。
それに、どうせレイナちゃんもサラちゃんと同じ場所で働く事になるんだし。
「トレーニング室がここ。
俺は多分ここか、食堂かにいるよ。」
「あ、そう言えば不思議だったんだけど、どうしてアキト君が料理作ってるの？」
「ああ、初めてこの食堂で食事をした時に、『もっとこうした方が美味しくなる。』や『俺の方が上手に作れる』って言ったんだ。
そうしたら、実際に作ってみろという事になって………
で、何時の間にかこの状態になってたって訳。
…若しかして、俺のラーメン美味しくなかった？」
少し上目遣いでレイナちゃんを見詰める。
「ううん、とっても美味しかった！！
本当よ！！今迄に食べた中で一番美味しかった！！」
「そ、嬉しいな。
レイナちゃんにそこまで褒められると。」
俺のその言葉に、自分の言った台詞を思い出して真っ赤になっているレイナちゃん。
その姿もいいな。
「あ、丁度いい所に……アリサちゃん、一寸いい？
レイナちゃん、彼女はアリサちゃんって言って、サラちゃんの双子の妹さん。
アリサちゃん、こちらはレイナ・キンジョウ・ウォンさん。
俺のエステバリスの整備をしてくれる為に、今日着いたばっかりなんだ。」
運良く部屋に入ってきたアリサちゃんをレイナちゃんと引き合わせる。
それにしても、サラちゃんも入れて、三人に囲まれたら見た目も鮮やかで、物凄く目立つんだろうな。
何て言ったって、金、銀、黒の髪をした美女三人だもんな。
そんな事を考えている内に、二人の挨拶は終わったらしい。
「じゃあ、引き止めてごめんね、アリサちゃん。
トレーニング頑張ってね。」
俺はアリサちゃんが一緒に案内すると言い出す前に、会話を切り上げトレーニングルームからレイナちゃんと出て来た。
「で、こっちがレイナちゃんが働く事になる格納庫。
俺のエステバリスは…」
俺は食べ終わったレイナちゃんを基地内のいろんな場所を案内した。
これはレイナちゃんと親しくなるという事だけでなく、基地内の他の男にレイナちゃんは俺が落とすのだという意思表示でもある。
レイナちゃんは微塵もそんな事は気付いていないだろうが。
で、いろんな場所で俺と一緒にいるレイナちゃんを見せつけ、あらかたの男達の戦意を喪失させた後、
俺はやっと格納庫にやって来た。
この頃には既にレイナちゃんも随分仲良くなってくれた。
何かある度に笑いかけていたからな。
テンカワスマイルを大盤振る舞いした上、優しい雰囲気を心掛けたし。
これで落ちなかったら、丸っきり別の方法を取らなければいけなかったな。
「レイナちゃん、早速だけどエステバリスの調整を手伝ってくれるかな？
本当に疲れている所悪いと思うんだけど、みんなを、レイナちゃんを守る為に俺は全力を尽くして頑張りたいから。
できる事は全てやって置きたいんだ。」
嘘である。
今現在やって来る飛蝗どもなら今のままで何等問題ない。
というよりも、お釣りがくるぐらい余裕である。
しかしここでは、俺が皆を全力で守っている、というのを印象付けようと思っただけである。
レイナちゃんはこんな風なアプローチに弱いらしいし。
「うん、分かった。
私もアキトの為に全力で整備するね。」
予定通りレイナちゃんは俺の台詞に感動しているらしい。
予想以上に簡単に落ちたな。
それにしてもキンジョウ・ウォン家では、一体どんな教育しているんだろう？
結婚詐欺とか、変な男に簡単に引っかかりそうだぞ。
幸いな事に、俺みたいにいい男と出逢えたから良かった様なものの…
そうだっ！
俺がきちんと教育しておいてあげよう！
感謝してもらわなくてわな。
後書き
読んで頂いた方にはお分かりかと思いますが、今回の作品では、神威様の『レイナの気持ち』を元（？）にしています。
元というよりも、そのままかも知れません…（汗）
この様に書いてしまったものを投稿する事をお許し頂きました事、改めて神威様、御礼申し上げます。
また、メティの登場を予想されていた方、申し訳ありません。
レイナが陽の目を見てないように思えたので、是非ともスポットライトを当てたくなったのです。
その結果がこの有様ですが……（汗）
メティは次回以降（多分（笑））に出てくると思います。
代理人の「待てやコラアキト」のコーナー（爆）
感謝してもらわなくてわな。
誰がするか（爆笑）！
それはそれとして・・・・メティもその毒牙にかけるのか！？
・・・・・もしそうだったらこのコーナーも特集を組まないといけないかもしれないな（超爆死）。