「アキトさん、逃がしませんよ!!」



 ルリちゃんが相変わらず俺を追いかけてくるが、いつもの事などで気にもとめずにいた。
 宿敵北辰を倒した後だけに、気が緩んでいたのかもしれない。

 後で振り返ってみると、その慢心が全ての元凶だったのだろう。



「ラピス、ジャンプフィールドの発生準備。」



「………うん、解ったアキト。」



 俺の命令を何の感慨もなく忠実に果たそうとするラピス。

 ラピスに慢心があったとは思わないが、俺の言う事にしか興味がなかったために、
 ルリちゃんの事なんて、別にどうでも良かったのだろう。



「アキトさん!!
 逃がしません!!」




 何時の間にか、ルリちゃん自身が単独でエステバリスで出撃していたらしい。
 つい先程までは、艦長席に座って指揮を取っていたように見えていたんだが・・・・・・
 実はセンサー系統はハッキングされていたのか?

 ルリちゃんはエステバリスでユーチャリスの相転移エンジン部分に突撃してきて、
 ミサイルを集中して発射させた後には、エステごと体当たりしてくる。


 ドゴオオオォォォォンンン!!


 そんな衝撃音の後に、艦橋に非常事態を知らせる警告音が鳴り響く。



「…アキト、ジャンプフィールドが暴走してる。」



 そんな台詞でさえ声を荒げるでもなく、淡々と俺に報告してくるラピス。
 俺は改めて、自分の罪の意識を感じていた。

 そしてそれが、一瞬の判断を必要としていたその瞬間にとって、致命的な遅れをもたらした。



「くっ!ジャンプフィールド緊急解除!!
 俺がルリちゃんを排除してくる!」



「…駄目だよアキト。
 もうフィールドを制御できない。」



「何!?
 ランダムジャンプか!!」




 俺の目の前のスクリーンには、身動きしないルリちゃんの乗ったエステバリスと、
 何が起こっているのか理解できないでいるナデシコCが映っていた。



「ラピス!!
 最大加速!!ナデシコCから距離をとれ!!」



 俺の命令にラピスが瞬時に反応する。
 ナデシコCとユーチャリスの距離は離れていくが、ルリちゃんはまだユーチャリスにしがみ付いたままだ。



「ルリちゃん!!
 手を放せ!!ランダムジャンプに巻き込まれるぞ!!」



 俺の言葉にもルリちゃんは反応を示さない。
 さっきの特攻で気を失ってしまっているのか?



「…アキト、ジャンプ開始したよ。」



「くっ!!
 済まん、ルリちゃん!!ラピス!!」



 その言葉を最後まで言う事すら出来ずに、俺は気を失いつつあった。



 ヴオオオォォォォォォォオオオオンンン


 圧倒的な光の渦がユーチャリスを包み込んで……

 その光が薄れていった後、ナデシコCの乗組員がその空間に見る事が出来たのは、
 漆黒の宇宙空間だけであった。







終わりの始まり








《アキト、アキト、
 起きて下さい》


 俺が目を覚ました場所は、気を失う前と同じユーチャリスの艦橋でであった。
 俺の事をユーチャリスのAI・ダッシュが起こしてくれたようだ。



「う〜〜ん、
 どうやら無事だったようだな。」



 俺の傍らで気を失っているラピスを見ながら己の幸運を喜ぶ。



「ハッ!!ルリちゃんは!?
 ダッシュ!!ルリちゃんは無事か?」



 俺はルリちゃんがランダムジャンプについてきてしまっていたのを思い出して、
 慌ててダッシュに確認する。



《はい、ルリは無事ですが、》



 ダッシュが変な所で逆接の接続詞を使う。



無事ですが、って何だ!!
 がって!!」



 俺は不安に駆られながらも問い掛ける。



《はい、ルリについてではなく、》



 ダッシュが説明しようとした時に、突然甲高い声が割り込んでくる。



『ちょっと、そこの不審船、
 あんたよ、あんた。
 大人しく連合に捕まるのよ、
 まったく、疲れるのよね〜〜、海賊退治って。
 何で私がこんな事をしなくちゃならないのよ!

 あっ、私は連合軍第三宇宙方面大佐、ムネタケ・サダアキよ。』



《だそうです。
 ついでに付け加えると、あの船だけでなく、他に近くに十隻程待機しているようです。
 どうします?アキト》



 何処かで聞いた事のあるような名前を、聞いた事があるような声で言ってくる。



「ダッシュ、相手からの映像だけを受信モードにしてくれ。」



《了解》



 そこに映し出されたものは…………


 若い姿のキノコ!!!


 そうか!!
 若い時からキノコヘアーだったんだな、お前………


 ハッ!!
 現実逃避してしまった、イカンイカン。
 今のがあのキノコだとしたら、過去に来てしまった事になるじゃないか。
 そんな訳ないよな。

 今のは、ただ声と顔と性格と名前が偶々一緒の、赤の他人だよな。
 そうに決まってる。



「ダッシュ、取り合えずあいつらから逃げる。
 ルリちゃんを落とさない様気をつけながら、振り切ってくれ。」



《了解》










《ラピス、起きた?》



「……ダッシュ?
 アキトは?」



《アキトなら今は部屋にいるよ》



 ダッシュの台詞が終わらない内に、既にラピスは部屋に向かっている。


 プシュュューーーーーーー


 部屋のドアを開けて、そこでラピスが見たものは……

 ルリと抱き合っているアキトであった。



「ラ、ラピス。
 気がついたんだ、よかったよかった。」



 ラピスに気付いて顔を強張らせるアキトと、
 周りの事など一切見えていない、幸せ絶頂のルリ。

 そんな状態の二人を見て、ラピスが一言。



「アキト、お風呂。」



 その一言で、やっとラピスがいる事に気付いたルリであったが、まだアキトから離れようとはしない。
 アキトも無理やりルリを離そうとはしない。

 ラピスは無表情にアキトの手を取り、脱衣所に連れて行こうとする。



「ちょっと待って下さい!
 何で貴女がお風呂に入るのにアキトさんを脱衣所に連れて行こうとするんですか!!」



 ルリが怖ろしい顔でラピスを睨みつけながら声を張り上げる。
 それに対して、ラピスは反応を示さない。
 ただもう一度、アキトの手を取って脱衣所に連れて行こうとするだけである。

 そんなラピスの様子に益々ルリがキレそうになった時に、アキトがオズオズト口を挟む。



「あのね、ルリちゃん。
 ラピスは北辰に攫われた時の後遺症で水を怖がるんだ。
 でも、俺かエリナの二人とならお風呂に入れるようになったんだ。
 だから、ね。」



「ま、まさか、ずっと一緒にお風呂に入っていたとか?」



 震える声でアキトに問いかけるルリ。



「ま、まあ、そうなるかな。
 アハハハハハハ……」



 乾いた笑い声を上げて誤魔化そうとするが、ルリは下を向いてしまっている。
 ラピスは、またアキトの手を引っ張ろうとしている。



「…ねえ、ルリちゃん?」



 何か言われる事は覚悟していたのに、何も言われない事に困惑してしまうアキト。
 恐々とルリの顔を覗き込んで見ようとする。



「決めました!!
 これからは、私がラピスと一緒にお風呂に入ります!!」



 いきなり顔を上げ、大きく宣言するルリ。
 アキトは突然顔を上げたルリに驚きながらも、小さな声で反論しようと試みる。



「嫌、でも、ラピスが嫌がって……」



 反対意見を言おうとしたアキトを一睨みで黙らせてから、
 ルリはラピスの目を見て話す。



「ラピスでしたね……私は貴女のお姉さんです。
 これからは仲良くしましょうね。」



 ラピスはキョトンとした顔でルリの話を聞いていたが、不意に顔を逸らす。



「…ダッシュ、『お姉さん』って何?」



《お姉さん
  1、血の繋がりのある年上の女性に対する呼称
  2、一般的に年上の女性に対して年下からの呼称
  3、親しい婦人を呼ぶ語

 姉さん、姉とも呼ぶ。

 対義語として妹。
 類義語としてお兄さん

 ※お姉様…上記の意味とは異なり、女性ど》



 スクリーン上に表示されていく文字。



「ダッシュ!!
 そこまで!!!」



 アキトが顔を赤く染めながら、羅列されていく文字を止める。



「え〜〜と、ラピス。
 お姉さんっていう意味解った?
 ルリちゃんは、自分はラピスにとって『ルリ姉』だっていってるんだよ。」



 噛んで含めるように教えるアキト。
 それをまるで咀嚼するように、ゆっくりゆっくり考えるラピス。

 そしてルリを見て一言。



「………ルリ姉さん?」



 聞こえないほど小さな声で呟く。
 そして下から上目遣いで、窺うようにルリを見るラピス。
 その様子に、ルリは先程までラピスに対して怒っていた事など最早何千光年の彼方……

 喜色満面の笑みで応える。



はい、お姉さんですよ。」



 ルリはラピスを抱きしめ、頬擦りしながらなおも言う。



「これからずっ〜〜と仲良くしていきましょうね。」



 まだラピスは状況が飲み込めていないようだが、ルリに抱きしめられるのは嫌がっていないらしい。
 自分と同じ匂いを感じたのだろうか。






「では、私はラピスとお風呂に入ってきます。」



 ルリはラピスを抱いたまま脱衣所に向かおうとするが、ラピスに止められる。



「……アキトは?」



 当然アキトも一緒に入ると思っていたのに、ルリも声をかけないしアキトも動かないしで、疑問に思ったらしい。
 その疑問を聞いて、改めてラピスが一般常識を知らない事を思い知る二人。



「ラピス、これからは『ルリ姉』が一緒にお風呂に入ってくれるって。
 だから俺と入るのはお仕舞い。」



「そうですよ、ラピス。
 それとも私と一緒に入るのは嫌ですか?」



 ルリがラピスの目線に合わせて話をする。
 心なしかルリの目が潤んでいるようにも見える。


 ルリの言葉に首を振る事で返事をしたラピスであったが、
 まだアキトと一緒に入ることを諦めきれないのか、ジッとアキトを見詰める。
 アキトとしてもラピスのその表情には弱い為、思わず『いいよ』と言ってしまいそうになるが、
 隣にいるルリからのプレッシャーが物凄い為何も言えないでいる。


 そんな時間が十分以上も経った頃に、ラピスはやっと諦めたのかルリの手を引いて脱衣所に向かう。

 その様子をアキトはまるで娘を手放す父親のような顔で悲しそうに見送っていた。







      「ラピス、しっかり目を閉じて!」

      「……うん。」

      「ほら、大丈夫だから。」

      「ちょ、ちょっとラピス!
       抱きつかないで!」

      「……触っちゃ駄目、ルリ姉?」

      「肩まで浸かって、ラピス。」

      「………」




 アキトはお風呂場から聞こえてくる楽しそうな笑い声に涙しながらダッシュに命令をしている。



「ダッシュ、この世界の一般的な情報を全て集めてくれ。
 何らかのプロテクトがかかっているのは後でルリちゃんに頼むからいいよ。」



《了解、時間がかかりますが》



「それじゃあ、その間に俺は何か食べるものを持ってくるか。」



 アキトは倉庫に転がっているであろう携帯食やジャンクフードを取りに向かう。
 アキトは倉庫でジャンクフードを見ながらラピスの事に思いを馳せる。



「やっぱりラピスの為にもならないか、こんな物ばかりじゃ。
 でもラピスは俺が食べるものしか口にしないしな……。
 ルリちゃんも成長期だし、こんな物だけを食べていたら体に良くないし…」



 アキトの目は食堂に向かうが、直ぐにまた元に戻される。



「俺は料理をしないと決めたじゃないか!
 味が解らなくなってから。
 それにルリちゃんもラピスもこの船から降ろせば大丈夫だ。」



 自分に言い聞かせるように言うと、アキトは倉庫から出て行った。









「いいお湯でした、アキトさん。」



 アキトが部屋に戻ると、丁度ルリとラピスがお風呂から出た所だった。
 ルリがそう言うのに続けて、ラピスがトコトコトコと歩いてきて抱きついてくる。
 そんなラピスの頭からはシャンプーの匂いがする。

 アキトがラピスの頭を拭いてやっていると、



《アキト、情報活動終わりました。》



 無粋な声が鳴り響いて、良い雰囲気をぶち壊しにする。
 折角家族の団欒って感じがしていたのに。



「ん、ご苦労様、ダッシュ。
 じゃあ基本的なところから教えて。」



《はい、承知しました。
 現在私達は2193年の、》



「ちょっとまて、ダッシュ!!
 今何て言った?」



《はい、2193年と》



 部屋の中が静まり返る。
 ラピスはいつも通りにしているだけかもしれないが…



「2193年って事は、まだ火星が陥落してないってことか?」



 アキトが恐る恐る確認する為に問いかける。



《はいそうです。
 現在、火星の住民は平穏な日常生活を過してます。》



 又もや静かになってしまう部屋。
 誰もが身動きすらしない……ラピスがトコトコとトイレに歩いていく以外は。



「此処は、本当に過去なのか?
 ……そうだ、この世界の俺達はどうしている?」



 アキトが当然気になる事を問いかける。
 ダッシュは一瞬間をおいてからスクリーンに写し出す。
 そこには…



《テンカワ・アキト
   享年6歳、火星における暴動事件の際に父母と共に死亡。
 ホシノ・ルリ
   ………。
 ラピス・ラズリ
   ………。
  以上です。》



 アキトは自分が既に死んでしまっている事に驚き、ルリは自分の事が書かれていない事に疑問を抱いた。



「…ダッシュ、でしたっけ。
 私はルリです、これから宜しく。
 早速ですが、私とラピスの情報は?」



 ルリは始めに挨拶をしてから、当然の質問をする。



《機密情報のプロテクトがかかっています。
 アキトはプロテクトのないものから探せと命令した為見つけることが出来ません。》



 アキトが最初に言った命令の一般的な情報ではないとの事なのだろう。
 アキトは先程から考え込んでいる。
 そんなアキトにルリが話しかける。



「アキトさん。
 ダッシュと協力して私達にかけられているプロテクトを解除して、情報を得てもいいですか?」



 アキトはルリに何度か質問を受けてから、やっと気付いたようだ。
 なにやら真剣な顔で色々な事を考えていたらしいが。



「あ、あああ。
 勿論だよ、ルリちゃん。
 俺から頼みたいぐらいだよ……ついでにネルガルやナデシコのみんなの情報も集めてもらえるかな、ルリちゃん?」



 何やら慌てたようにアタフタとしながら言うアキト。
 それに付け足しのようにみんなの事を聞くなんて……もっと一生懸命に聞こうよ、アキト。



「はい、解りました。
 じゃあ、ダッシュ力を貸してくださいね。」



 ルリはそう呟くと、集中する為に目を閉じた。














「アキトさん、現在までで解った事をお知らせします。」



 ルリがダッシュと協力し始めてから4時間、ラピスも加わってからでも3時間以上が経過している。



「結論から言いますと、ナデシコのメンバーでこの世界に存在していないのは私達だけです。」



 ルリの言葉が予想できていたのか、アキトはピクリともしない。
 そんなアキトに一瞬だけ目をやって、ルリは言葉を続ける。



「ダッシュが最初に報告したとおり、現在は2193年です。
 アキトさんは暴動の際に、私は研究所からネルガルに移る際に、ラピスは研究所での火災の際に、
 それぞれが既に死亡していることを確認しました。
 それ以外のみんなは、大体何も変わっていないようです。」



「ちょっといい、ルリちゃん。
 イネスさんはどうしてる?」



 イネス・フレサンジュ…アキトがあの時傍にいた為に巻き込んでしまったアイちゃんの大人の姿。

 アキトがいない以上アイちゃんは火星で死亡する筈であり、
 当然の事ながらあの時の火星からアイちゃんが飛んでいない以上、イネスがここにいる筈がないのだが。



「はい、イネスさんは現在火星ネルガルの研究所で主任研究員をされています。
 若いながらも異例のスピード出世をしている事と、幅広い分野で活躍している事から世界中の科学者の注目を集めています。」



 この世界にもイネスがいると言う。
 一体誰があの時のアイちゃんを連れ出した?それにどうやって?
 解らない事だらけである。



「う〜〜ん。
 一体どうやってアイちゃんは火星から抜け出したんだろう?」



「そうですね。
 アキトさん以外にジャンプして連れて行くことなんて出来ませんものね?」



 ラピスも加わって三人で頭を捻ってみたが、文殊の知恵は出てこなかった。
 結局『わからない』で落ち着く事となってしまった。







「以上で現状の報告を終わりますが、何かありますか、アキトさん?」



「ううん、ありがとルリちゃん、ラピス。
 大体の所は解ったよ。」



「そうですか、それは良かったです。
 ……で、アキトさん、これからどうするかなんですけど…」



 急にルリが落ちつかない様子でアキトに尋ねる。
 先程まで鬼気迫る様子でダッシュと向かい合っていたのは、
 たとえ一瞬でも過去の世界に来てしまったということから自分の目を逸らす目的もあったに違いない。
 それが一段楽した事もあり、目の前に厳然とした事実を突きつけられた様なものなのだろう。

 そんなルリの様子にラピスまでもがいつもの雰囲気と一寸違う。
 まあラピスはアキトがどっしり構えているから大して重大事であると思っていないようにも見えるが。

 そんなルリとラピスを引き寄せ、おでこ同士がくっ付く位まで近付いてからアキトが徐々に話し出す。



「まず、ルリちゃんとラピスには謝らなければならない。
 ルリちゃんは、俺を追いかけて来たばかりにこんな事に巻き込んでしまった事を。
 ラピスは、本当なら北辰を倒した時にエリナに預ける筈だったのに結局連れて来てしまったがために巻き込んだ事と、
 俺の個人的な恨みを晴らす為に無理やり付き合わせてしまっていたことを。」



 アキトがバイザー越しにでも真剣な瞳をしている事が解る。



「そんな、私は勝手に着いて来ただけですし、
 それに私が変な事しなければ、こんな所に飛ばされる事も無かったのに…」



「私はアキトの目、アキトの耳、アキトの手………アキトは私の全て。
 そんな事言わないで、アキト。
 アキトは私の事もういらなくなったの?」



 アキトの台詞に二人とも涙ぐんでしまう。



「ああ、二人とも泣かないでよ、そんなつもりで言ったんじゃなくて…
 ええっと、これからの事だから、ね?」



 アキトが慌てて二人を宥めにかかる。
 どうにか二人が泣き止んだのは五分以上経ってからだった。



「で、これからの事なんだけど、
 俺達三人はこの世界には何故か存在していない。
 だけど同じ様な歴史を辿る運命にあるのは間違いないだろう。
 それはイネスさんがいることでも解る。」



 アキトはここで一度言葉を切って、ルリとラピスを見る。



「そこで、俺としては地球にいても出来る事なんてあんまり無いから、
 いっその事木星に行ってしまおうかと思ってるんだけど、どう思う?」



 アキトの口から爆弾発言が飛び出した。
 何故か木星に向かう、と。


 ルリは呆然としてしまっている。
 ラピスは…いつも通りボーとしている。

 と、ルリが気を取り直したように、アキトに問いかける。



「何故?
 何故木星に行くんですか、アキトさん!!」




 ルリが物凄い見幕で詰め寄る。
 アキトもその勢いに押されながらもどうにか答える。



「いやだってね、今が2193年だって事は、
 さっきルリちゃんが報告してくれた通り、まだ木連と地球は接触してないって事だよ。
 少なくても大衆レベルでは。
 と言う事は、木連の政権を握ってしまえば、あの戦争を起こさせないで済むってことじゃないか。」



 アキトの単純明快な論理はルリやラピスにもよく解った。
 ただ、一点を除いては。



「アキトさん、素晴らしい案ですけど、一箇所だけ致命的な欠陥があります。
 それは、どうやって木連の政権を握るかって所なんですけど。」



 アキトはルリの質問に笑って答えた。



「ルリちゃん。
 俺達が乗っている船は何?」



「何って、ユーチャリスですけど……」



 困惑の表情のまま答えるルリと、非常に嬉しそうに答えを聞くアキト。



「そ、ネルガルが最先端の技術の粋を集めた戦艦ユーチャリス。
 そしてその乗組員は誰ですか、ラピス?」



「…アキトと私とルリ姉。」



 無表情のまま返答するラピス。
 そんなラピスに笑いかけながらアキトが話を再開する。



「はい、正解。
 ユーチャリスと俺、ルリちゃん、ラピスの三人が揃えば、
 今の木連なんかアッと言う間に降伏させる事が出来ると思うけど?
 で、降伏の条件として俺を大統領?首相?何か知らないけどトップに据える事を要求する。
 どう、結構いけると思うんだけど?」



 アキトの台詞は荒唐無稽のものではなかった。
 確かにブラックサレナを操るアキトと電子の妖精ルリ、そしてラピスがいれば夢物語ではないだろう。



「で、その為にはユーチャリスを完全な状態に修理したいんだけど、
 どこかに機材があって、乗っ取ってもルリちゃんの力で誤魔化す事の出来そうなドッグってないかな?」








 地球とも月とも離れたあるドッグが、
 一時期海賊らしき人間達に乗っ取られていたというニュースは、新聞の片隅に小さく載っただけで、
 誰の注目も浴びる事は無かった。










※始めに
 設定等についてですが、私はTV以外でナデシコを知りません。
 従って、木星の様子(政治経済全て)やラピス等は(登場人物も)、私の勝手な想像での産物です。
 他の作家さん方やオフィシャルの設定と繋がりません。



後書き
 突然まるで違うものを書いてしまいました。(汗)
 何となく、で書いてたものなので、続くかどうかも解りません。

 取り合えず、シリアスな展開をしていくものが書きたくなっただけですので…。
 もしも続きを書いたならば、その時はまた読んで頂けたらと思います。



 

代理人の感想

う〜む、ブラックサレナはともかく、ハッキング戦艦ユーチャリスがいれば

木連を支配するのも不可能ではありませんね、確かに。

大体木連ってハードに比べてソフトが弱いと言うのが定説だし。

ま、続くかどうかのんびり期待しながら待つとしましょうか。