それは、遥かな未来であり、遥かな過去でもあるかもしれない時代の物語
OPナレーション
火星での惨敗に次ぐ惨敗から一年……………。
結局、人類は手に入れた領土の大半を木星蜥蜴に奪われたってことになるらしい。
これも時代の流れなんだ……って、兄様達も言ってたからある意味しょうがないのかも……。
……なぁ〜んて、納得できないのがお偉いさん達みたい。
やっぱり時代は繰り返す……でも、この時代には私達がいる。
あんな未来、なんてもうたくさん!
これ以上好き勝手やらせるのは御免だし、今度は私達が好き勝手してやる事に決めたんだから!
どうですか?これが完成した我が社の最新鋭戦艦『ナデシコ』です」
眼鏡にちょび髭のおじさん――プロスペクターさんが自慢げにそう言っている。
「えっと……なんでこんな形になったんです?
確か、火星で設計図を見たときはもっと違った形だったような…………」
思わず頭を抱えたくなる衝動をこらえつつ、苦笑しながら聞き返す。
そう、なんて言うか、ホントに妙な形になっている…………。
だいたい、現在この時代の宇宙戦艦っていうのは大気圏突破を前提に設計されるから、普通ならもっと流線型に近くなる。
それなのに、この『ナデシコ』ときたら、今までの戦艦の常識を遥かに逸脱した形をしている。ま、記録で見たときもこうだったから、どちらかというと『やっぱり』って言う感の方が大きかったけど……。
1番目立つのは両舷側から前方に突き出しているブレードだ。
まぁ、ディストーション・フィールドの発生装置だって話だけど……なんでこんな形にしたんだろう?発案者の趣味なのか?……まぁ、あの人ならやりかねないけど。
しかし、何もこんなふうにしなくても…………。思わず大昔の某『白い木馬』とか、どこぞの『失われた文明の船』とか思い浮かべてしまった(謎)
「はっはっは、そういえば貴方はこの艦の開発に携わっていたのですよね。
まぁ、貴方がチームから抜けてから色々ありまして…………」
にこやかにそう告げてくるプロスさん。
「たしかに開発には参加してましたけど…………、自分が担当したのは主に相転移炉やディストーション・フィールドなどの理論だけでしたからね。
実際の形状やなんかについてはあんまり関わっていなかったから…………。
ま、どっちにしたところで、ディストーション・フィールドさえあれば多少妙な形でも全然問題は無い筈ですけどね」
『ナデシコ』……そう名づけられた真っ白な戦艦を見上げながら、言葉をつむぐ。
「そういえば、機動兵器……エステの方はどうなっているんです?」
ふと、気になった事を聞いてみる。
「ああ、そちらの方も万全ですよ。
先行量産型とはいえ、最新鋭の機体を用意させていただきましたから……。
やはり、元パイロットとしては気になりますか?」
俺の問いに、笑顔で返すプロスさん。
「う〜ん、どちらかといえば開発者として…………ですね」
機動兵器――エステバリスには実際に開発者として携わっていたし、テストパイロットもこなしていた。だから気になるんだろうな…………きっと。
「なるほど……、では、実際に見に行ってみるとしましょうか」
言ってプロスさんはナデシコの方へと歩き出す。
ふぅ……、アレは無事に積みこまれてるのかな?
「アレが、最新鋭のエステバリスか」
呟き、じっとエステを見上げる。
「ええ、あれこそが、我がネルガルの誇る最新鋭機動兵器、完成版のエステバリスです。
試作品よりもバージョンアップしたフレームにより、陸海空はもちろんの事、宇宙空間でも運用可能。
さらに、超々強化樹脂と複合ルナリウム合金を使用する事で、1.85トンという大幅な軽量化を実現。
そして、重力はビームを受ける事でエネルギー供給を行うシステムを採用したためビームの発信元であるナデシコと共に運用すれば活動時間はほぼ無限。
どうです?出来の方は?」
プロスさんから説明をうける。
確かに、昔使っていた奴より格段に性能が上がってるみたいだ。
と言っても、アレと比べると…………やっぱり貧弱だな。ま、アレが別格過ぎるだけなんだけど…………。ってか、なんで商談口調なんだろう?
そんな事を考えていると、眼鏡につなぎのおじさんが近づいてくる。
「よう、プロスの旦那じゃねぇか。
ちょっと聞きてぇことがあるんだが……ん?」
俺の存在に気付いたのか、やや怪訝な顔をしている。
この人がたぶん……、
「プロスさんよぉ、こっちの坊主は?」
坊主……、仕方ないか……年齢的にはそうとられても…………。
「ああ、こちらの方はこのナデシコに整備員として乗艦なさるフクベ・ユウヤさんです。
ユウヤさん、こちらの方はこのナデシコの整備班の班長をやっていらっしゃるウリバタケ・セイヤさんです」
丁寧にプロスペクターさんが紹介してくれる。
だが、当のウリバタケさんは俺の役職が気にかかったようだ。
「整備員ったって、こんな坊主が? 大丈夫なのかよ?」
まぁ、まともな感想かな。
「はっはっは、安心して下さい。この方は凄まじく優秀ですよ。
なにせ、御歳16歳で、連合大学に入学しているほどですからね。
あと、整備員としての腕もかなりのものだと思っていただければいいですよ。この年齢ですでにロボット工学等の博士号を取っておられるのですから。
それに、このナデシコやエステバリスの開発にも実際に携わっていたお方ですからね」
プロスペクターさんの答えに鳩が豆鉄砲食らったような顔をしてる。
ちょっと面白いかもしれない。
「僕は元々火星にいましたからね。当時の火星では飛び級とかは当たり前だったんですよ。
なにせ、少しでも優秀な人間が欲しかったみたいですから、軍に入るにしても素質さえあれば14くらいで階級を貰えますからね」
少々補足説明をしてみる。
俺の場合はもっと複雑な事情があったんだけど、ま、今言うほどの事でもないし。それは省くことにしよう。
俺の説明で一応納得したのか、ウリバタケさんは話題を変える気のようだ。
「ま、いいか、それよりプロスの旦那に聞きたい事があったんだよ。
あそこに鎮座してるどでかいコンテナ、アレの中身ってなんなんだ?」
どうやらこっちが本題だったようだけど。
確かに、ウリバタケさんが指差した先には一つのコンテナがあった。
あっ、無事に届いてるみたいだ。
「あいつを開けるにはパスワードがいるみたいだし、いったい何が入ってやがるんだ?」
「うぅ〜む……、あんな物を積みこむ予定はありましたかなぁ?」
プロスさんも首をかしげている。
聞いてないのかな?アレの事…………。
「あ、アレはたぶん僕の荷物ですよ」
2人がびっくりしたようにこちらを見つめてくる。
「はぁ……、しかし、いくら個人で何を持ち込んでもいいとは言っても、あんな巨大な物を持ち込まれると……。
それに、アレには何が入っているんですか?せめてそれくらいは教えていただかないと……」
困惑した様にそう聞いてくるプロスさん。隣りではウリバタケさんがうんうんと頷いてるし。
「ああ、あの中には僕と友人で開発した新しい機動兵器が入ってるんです。
なにせ、こんな事でもないと起動実験すらできませんからね。と、いうわけで多少勝手だとは思いましたけど、このナデシコに乗っている間にデータを取りたいと思って、わざわざ送ってもらったんですよ。
あ、安心して下さい。許可は取ってありますから」
嘘はついてない………はず、ま、全部本当じゃないけど。
「はぁ……、しかし、それならそうともっと早めに言って貰わなくては…………。
それに、実験中の事故などによる被害の総額等を考えますといろいろと厄介ですし」
「なにぃっ! 新しい機動兵器だと!!どんな奴なんだ、おい、俺にもいじらせてくれるのか?!」
どっちがどっちの台詞か解説は必要無いよね。
ま、一応説明しとくと、上がプロスさんで、下がウリバタケさん。
プロスさんは御得意の電卓(そろばん?)を叩きながら渋い顔で、対照的にウリバタケさんは瞳を輝かせて聞いてくる。
「ええと……まだお見せする気は無いんですけど……。なにせまだ調整段階ですから。
あっ、そういえばウリバタケさんにはあとで頼みたい事があるんです。
あの中には僕用の機動兵器と、エステ用の追加パーツが入ってるんですけど、それの取り付けを頼みたいんです。お願いされてくれますか?」
「エステ用の追加パーツ?
ああ、別にかまわねぇぜ。だがよ、まだそのエステ自体も調整中だからもう少し待ってくれねぇか?それに、パイロットも来てないしな。
ところで、おまえ用の機動兵器っつーことは、そいつのテストパイロットはおまえがやるのか?」
「えっと、追加パーツの方はこのナデシコに乗ってるパイロットさんに任せようかと思ってます。
機動兵器……あっ、僕達の間では“守護者(ガードナー)タイプ”って呼んでますけど、アレは僕専用なので、僕しか動かせませんから」
「おおっ!!!!
アレが俺様の乗るゲキガンガーか〜〜〜っ!!!」
何やら急に騒がしくなったけど。
誰なんだろ、あの濃い人は?服装からするとパイロットみたいだけど……。
それに、ゲキガンガーって、あのゲキガンガーのことかな?
俺がそんな事を考えてるうちにも例の“濃い人(笑)”は調整中のエステに乗り込もうとしてる。
「おい! おまえ、まだそいつは調整中だぞ!
それにてめぇはいったい何もんだ?ついでに、そいつはゲキなんとかじゃなくてエステバリスだ!わかってんのか?!」
「あなたは……もしかしてパイロットのヤマダ・ジロウさんですか?
困りますねぇ、確かあなたの乗船は一週間後だった筈なのに、なぜこんなところにいるんです?」
「あの、ゲキガンガーって、あの100年くらい前にやってたアニメの事ですか?」
ちなみに、上からウリバタケさん、プロスさん、俺の順番だけど・・・なんか俺だけ質問がずれてるな(苦笑)
ああ、あの人がヤマダさんなんだ。
「俺の名前はダイゴウジ・ガイだぁ!!!!
そのヤマダ・ジロウというのは仮の名前、俺の本当の名前、魂の名前はダイゴウジ・ガイ!!!よッく覚えておけぇ!!!!」
暑苦しい人だなぁ……あ、ウリバタケさん呆れてる。
「あの?素朴な疑問なんですけど、魂の名前ってなんです?それに、仮にも親が付けてくれた名前を……」
「おおっ!むっちゃかっこいいぜぇ!
よぉ〜〜〜し、早く来いキョアック星人め!!
このダイゴウジ・ガイ様がけちょんけちょんに叩きのめしてやるぜぇ〜〜!!!」
聞いてくれないし……、こんな人ならあらかじめ教えてくれてもいいのに、はぁ、恨みますよ。
思わず頭を抱えたくなる衝動に耐えつつ(どうやらこの場にいる人がほとんど耐えてるみたいだけど)、苦笑するしかない……よな。
「あのなぁ! さっきから言ってるが、そいつはゲキなんたらじゃないし、キョアック星人なんて敵はいねぇんだぞ!!おい!わかってるのか!?」
何を言っても無駄だと思う……はぁ。
ちょうどその時プロスさんのコミュニケに通信が入る。
あっ、コミュニケって言うのはナデシコで使われてる通信機みたいな物のことで、腕時計サイズだけどかなり多機能になってる優れものだ。
「・・・はい、なるほどわかりました。ではすぐそちらに向かいますね」
時間的にはそろそろか……間に合ったみたいだな。
通信が終わるとプロスさんはこちらに振り返り、
「スミマセン、急用が入ってしまいました。
というわけで案内はここまでですけど、ブリッジへの行き方はわかりますよね?
まぁ、まだ時間はありますけど、後1時間もしたらブリッジの方に顔も出してください。
では、失礼させていただきます」
そう言い残して格納庫から出て行く。
さって、俺も移動するか。
後ろでなおも騒いでるヤマダさ
「俺の名前はダイゴウジ・ガイだって言ってるだろぉ〜〜!!」
ぎくぅ!
恐る恐る後ろを降り返って見ると、向こうの方で整備班の人達を振り切ってエステに乗り込もうとしてるヤマ……ガイさんの姿が目に入る。
なんだ、偶然か……一瞬心を読まれたかと思った。あう、冷や汗かいてるし。
ま、いいやさっさと次に行こう。
それ以上のことは気にしないことにして格納庫から出る。次はどこに向かおうかな?
けっきょく次に向かうのは食堂にした。
別にお腹が空いてる訳じゃないけど、一応見ておきたいから。
しかし、ホントに“例の方針”通りのメンツだな。さっきからの出来事を思い出し、思わず苦笑が出てしまう。
“例の方針”・・・「性格に多少問題はあっても、一流の人材」
まさにそんな感じの人のみを意識して集めたような艦だよな。
ま、自分もあまり人のことは言えないけど・・・ここまで揃うと、なんていうのか狙ってるようにしかみえないんだよな。
プロスさんの言い分だと、
「腕も一流で性格も問題の無い人材っていうのはもう何かしらの職業で活躍なさっているはずですし、何よりも人件費が高い。民間企業としては致し方ない決断」
らしいけど……もうちょっとなんとかならなかったのかな。
そんな事をぼぉ〜〜っと考えながら歩いている、ある意味至福の時だよな、うん。
ナデシコか……ここがあの人にとっての思い出の場所なんだ。
機動戦艦ナデシコ――ネルガル重厚が独自に開発した最新鋭機動戦艦。
形式名称「ND00‐1」
全長298メートル
全高106.8メートル
全幅148メートル
総重量37530トン
収容人数214名
格パルスエンジン4機に、実用化されたばかりの相転移エンジン2機を積んだまさに最新型。
中枢コンピューターにSVC2027、通称「オモイカネ」を登載している。
内部には娯楽施設まであるという、まさに民間企業による民間人のための戦艦ってところかな。
どう考えても戦うための船とは思えない。
そして、ここに集められているメンバーもほとんど軍人向きの人達じゃない。
でも、なぜか不思議と落ちつける。
前にいた部隊もそうだったけど、こういうバカばっかりのところの方が落ちつくのかもしれないな。
そんな事を考えてるうちに食堂に到着する。
「ナデシコ食堂」
料理か……最近あんまりしてないな。
最近はアレの開発とかいろいろ悪巧みしてたからなぁ…………。
ここにはあの人のお師匠様的な人もいるわけだし、俺も少しは教わってみようかな。
そんな事を考えていると、
ビィー、ビィー、ビィー!!
艦内に警報が鳴り響く、俺みたいな軍人には聞き慣れた、聞き慣れたくもない音が。
ちっ、もうそんな時間なのか?!
ほとんど時間を気にしてなかったからな……急いでブリッジに向かわないと。
「オモイカネ! ここからブリッジへの最短ルートを出してくれないか?」
俺の呼びかけに応えるように、目の前に矢印が表示されたウィンドウが開く。
「サンキュ」
一言礼を言ってその表示にそって走りだす。
さぁて、お祭りの始まりだ。
――ナデシコ・ブリッジ――
「ねぇ、ちょっと!いったいどうなってるのよ、この艦は!」
ブリッジ内で、宇宙軍の制服を着たキノコのような頭をしたおじさんが喚き散らしている。いい加減うるさいな。
「敵襲よ、敵襲!なんでさっさと動かないのよ!
対空放火とか、迎撃機を出すとか、やることは色々あるでしょ!!なんでさっさとやらないわけ?
これだからアタシは民間人に戦艦を任せるのは嫌だったのよ!」
息の続く限り捲くし立てる。
それが出来れば苦労はしないのに……それくらいわかって欲しいな。
キノコさん――宇宙軍所属ムネタケ・サダアキ少将――は、その場にいるむっつりとした大きな男の人に詰め寄りながらキャンキャンと喚いている。
それに対して大男――軍事部顧問ゴート・ホーリーさん――は、むっつりとした表情を変えることなく、
「彼女達は各分野のエキスパートです。たとえ民間人とは言え、その資質は正規の軍人に勝るとも劣らないものがあります」
そのブリッジに現在いるのは私を含めてたったの6人。
うち3人は女性(私も含むけど)なんだよね。
ブリッジの中段、向かって右側に座っているのは歳の頃17、8ぐらいの女性で髪をみつあみにしている。
ややそばかすの残った顔立ちは美人というよりは可愛い系のタイプ……かな。
この人が通信士のメグミ・レイナードさん。
左側に座っているのは、お水関係じゃないかと疑うほどの美女……っていうのかな。
髪は腰まで届きそうなロングで、色は栗色。真っ赤な口紅に大きなイヤリング、そしてピンクに染めた爪。さらに、制服の胸元を大胆に開いているため、ほとんどどこぞの深夜番組のタレントみたい。私は少女だからよくわかんないけど、ね。
ブリッジの上段にいるのは、ゴートさんと、キノコさん、そして連合宇宙軍の制服を着た一人のご老人。この人こそが、このナデシコの提督であり、火星開戦での英雄とも言われるフクベ・ジン中将らしいんだけど……、何で喋らないんだろう?
少なくともブリッジの主要要員である私達を見て、ゴートさんの言った事をそのまま鵜呑みにする事が出来る人はそういないだろうなぁ……。
えっ、私?私は…………、オモイカネ、お願い。
<瑠璃色の髪をツインテールにした、金色の瞳をした超がつくほどの美少女。
年齢は11歳。職業はオペレーター。>
<こんなところで良い?ルリ>
ん、ありがとう。
ちょっと気になるところが無い事も無いけど、概ねあってるから、まぁいっか。
んで、私の説明をしてくれたのが、この艦のメインコンピューターでもあり、私のお友達でもある『オモイカネ』。
「だったら、さっさと反撃くらいしなさいよ!
エキスパートって言うくらいなんだからあの程度の敵パパパッとやっつけるくらい簡単でしょ!
さっさと主砲なり何なりを使って、上にいる敵を殲滅しちゃいなさいよ!」
キャンキャンと飽きることなく喚きつづけるキノコさん。
はぁ、それができれば苦労してないってば……。
「でも、上には連合軍、……味方がいますよ」
一応ツッコミをいれておく。その辺のところわかってるのかな?
「ど、どうせもうみんな死んじゃってるわよ」
「えぇ〜、それって、非ぃ人道的ぃ〜」
キノコさんの一言に、メグミさんが反論する。
「キィーーー!何でもいいからさっさとやりなさいよ!」
あ、男の人のヒステリーって、カッコ悪いな。
「無理だ」
でも、それに対するゴートの応えは簡潔です。ま、当然よね。
「ちょっと、無理ってどう言う事?!
な、なんで無理なのよ!あんたさっき言ったわよね?この艦に乗ってるのはエキスパートばっかりだって。
アタシは嫌よ、こんな所であんた達なんかと心中するのは!」
それは誰だってそうだと思うんだけど……、それにしても、この人ホントに軍人さんなのかな?
「マスターキーが無いんだ」
「はぁ?・・・何よ、マスタキーって?」
ゴートさんの言ってる事がわかってないみたい。キノコさんは首を傾げてる。
「ルリ君、頼む」
これは私に説明しろって事なんだろうな……、きっと。
「マスターキー。クーデター等による艦の不法占拠を防ぐためのセキュリティシステムです。
このマスターキーはネルガルの会長とナデシコ艦長のみが使用可能で、マスターキーが無い状態ではナデシコは生活環境等の最低限のシステムを除いてシステムダウンとなります。
つまり、要約すると今現在この船はまったく動けない……ということです」
本当の事だし、隠してたってしょうがない。
「な、なんだって、そんな面倒なシステムを作るのよ!」
さっきの説明でわかって欲しいなぁ。
「ですから、クーデター等による艦の占拠を防ぐために……」
再度、私が説明しようとすると、
「キィ―――――!!!!
建て前はいいのよ!建て前は!!だったら早く艦長を呼びなさいよ!
このまんまじゃ、本当にこんな所で死んじゃうでしょ!アタシはこのまま死ぬなんて真っ平ゴメンなんだから!」
勝手なことばっかり言うキノコさん。
こんな人が少将なんて……宇宙軍ってそんなに人材がいないのかな?
誰だって、死にたくはないと思うんだけど……、喚かないでほしい。
しかし、ブリッジ全体に無気力な静寂が訪れたところに、まさに最高(最悪?)のタイミングで一人の女性が飛び込んで来ました。
「あっ、ジュン君やっぱりこっちであってたみたいだよぉ。
皆さんはじめまして、私が艦長のミスマル・ユリカでぇ〜〜〜す!!
ブイッ!!!」
胸を張りつつ、満面の笑顔でブイサインをかましてくれました。
あ、ブリッジの皆さん、呆れてますね。まぁ、私もかなり呆れてるけど。
歳の頃は二十歳前後、長い黒髪をなびかせた姿はまさに美女って感じ。
ただ、底抜けに明るいそのしぐさからは、少なくとも艦長としての威厳など感じ取れません。
そう、この人がこのナデシコの艦長……らしいんだけど、人選ミス……かな?
「もしかして、バカ?」
思わず呟いてしまった……。一種の口癖なのかな?
そういえば、艦長と同じ制服を着た青年もいるんですけど、艦長のインパクトが強烈過ぎるせいでいまいち存在感が無いような……。あの人が副長のアオイ・ジュンさんかな?
と、また一人ブリッジに人が入ってくる。
今度の人はまともなのかな?それとも、こんな期待抱く方が間違いなのかな?
――ユウヤ・サイド――
ふぅ……、やっと着いた。
「なんとか間に合ったかな……?
あっ、今日からこのナデシコに配属されたフクベ・ユウヤです。
皆さんよろしくお願いします……って、皆さんどうしたんです?」
なんだろう、ブリッジの中が静寂に包まれてる。
「良かったぁ・・・今度の人はまともそうで」
「またバカだったらどうしようかと思いました」
「なぁ〜んだ、結構まともな人もいるじゃない」
「遅かったな、ユウヤ」
「久しいな、ユウヤ。元気にしていたか?」
「フクベ……?フクベってあのユウヤ君?
うっそぉ、なんでナデシコに乗る事、ユリカに教えてくれなかったのぉ?」
「久しぶりじゃないか、大学の方はいいのかい?」
ブリッジにいたメンバーが一気に捲くし立ててくる。
頼むから同時に喋るのはやめてほしい……。
ん?アレは……、
「なッ、何であんたがここにいるのよ!!」
最も大きな声でキノコが叫ぶ。
ま、むこうがそう思うのも無理はないか……。こっちも会いたくなんかなかったけどな。