真機動戦艦ナデシコ



2135年、火星、ユートピアコロニー周辺区域。




 火星の大地を、一機のロボットが駆けていた。全長は6メートル前後、人型のシルエットをしたそれは、右腕に携えた全長2m近い大型ライフルを構えた。マズルフラッシュが瞬き、42mm徹甲弾が秒速三発の割合で吐き出される。吐き出されたそれらは、空中から人型兵器に襲いかかろうとしていた3mほどの虫のような姿をした飛行体を一瞬でスクラップへと変えた。直後、爆発。だが、その爆煙の向こうから、同じ形をした黄色の飛行体が、無数に向かっているのが見えた。人型兵器は右腕のライフルを乱射しながら、左腕にも武器を構えた。左腕に構えられたソレ、28mmサブマシンガンは、秒速三十発の速度で強装弾をばら撒いた。さらに、人型兵器本体に装備された対空機関砲と本来対地用の重機関砲もうなりを上げた。一発一発は微々たる物でも、凄まじい勢いで吐き出されるそれは、瞬く間に飛行隊の軍勢を撃ち落していく。が、いかんせん数が多すぎる。弾幕の隙間をぬって、一機の飛行体が、人型兵器の死角に潜り込んだ。人型兵器もすばやく反応するが、飛行体はソレよりも早く背中を開き、装備されたミサイルを発射しようとした。そして……。

ドガアアアアンッ!

 飛行体がミサイルを放つよりも早く、高速で飛来した徹甲弾が飛行体を打ち砕いた。その向こうからは、別の人型兵器何機か、長大な大砲……45mmレールガン……を携えて走ってくるのが見える。
「テンカワ隊長!ご無事ですか?」
「ああ、何とか。有難う」
 弾が尽き、その場を下がるようにしてテンカワと呼ばれた人型兵器のパイロットが自分の機体を引かせるのと入れ替わるように、新たに現れた人型兵器達が進み出て、各々の武器を乱射する。
「周囲の状態はどうだ?」
「はっ、隊長。住民の地下シェルターへの避難はほぼ完了しております。自走式対空車両も八割が健在です。ただ、報告によれば火星付近の宙域で、連邦の艦隊とチューリップが交戦中との報告もあります」
「ちっ、何を考えてるんだ連邦は。そんなことをすれば火星表面のチューリップが刺激され、戦闘行為が勃発するのは目に見えているじゃないか。………よし、お前達はこのままバッテリーの残量が20%を切るまで応戦、切ったら即座にシェルターに退避、防戦に勤めろ。俺はバッテリーと弾薬を補給してくる。終わったら中華料理をごちそうしてやる、それまで死ぬなよ!ブレイブUやイーゲルはディストーションフィールドを装備してないんだからな!!」
「了解しましたっ!」
 尊敬する隊長に励まされ、人型兵器のパイロット達に士気が漲る。いっそう派手に撃ちまくる仲間を尻目に、テンカワは愛機を真っ直ぐにシェルターに向けた。途中で地表を移動する赤い小型機動兵器に遭遇するが、かろうじて残っていた胸部の対地重機関砲で掃討した。




「弾薬補充急げー!」
「予備バッテリーを持って来い、十秒で換装するぞ!」
「被弾箇所を換装するぞ、お前ら備品持って来い!」
 などの怒号が飛び交う格納庫で、テンカワはコクピットハッチを開け、狭苦しいコクピットから一時間ぶりに出ると、凝り固まっていた筋肉をほぐすように背伸びをした。そして、外部の様子を直接ディスプレイするバイザーを頭から外す。
 彼の名はテンカワアキト。年の頃は18、19。まだ少年の面影が残る、やや童顔の顔つき。一見、パイロットスーツさえ着ていなければ、どこにでもいる普通の青年のように見える。だが、ここにいる者は皆知っている。彼こそが火星防衛隊の隊長であり、他に類を見ないほどのエステバリスライダーであることを。もっとも、彼自身にその気はなく、今でも自分をちょっと戦闘のできるコックだと評している。そう、彼の趣味にして人生の天職といってはばからない職業はコックなのだ。
 地下シェルターの一角を改築した地下格納庫は、それゆえに避難所と繋がっている。備品がなく、少しかかると整備員に告げられたアキトは、仮眠を取る為に避難所に向かった。
「お兄ちゃーんっ!」
 避難所に足を踏み入れたアキトに、突然一人の少女が飛びついてきた。年は八歳ほど、くるくるとかわる表情が愛らしい。アキトは少女を抱き上げると、満面の笑顔を浮かべた。
「こんにちは、アイちゃん。ちゃんとお母さんの言うことを聞いてるかい?」
「うん!アイ、おりこうさんだもん」
「すいません、戦闘で疲れていらっしゃるのに」
「いいえ、構いませんよ」
 もうしわけなさそうに言葉をかけてきた金髪の女性に、アキトは抱きかかえたアイを手渡しながら破顔する。女性の名はアイリス。アイの母親で未亡人だが、実は二十代前半の美女であり、近所の男性から猛烈なラブコールを受け続けている。そんな彼女は、愛娘を胸に抱きかかえながらアキトに微笑み返した。
「すいませんね、アイったら「お兄ちゃんに会うんだっ!」て聞かなくて」
「こらこら、アイちゃん、お母さんの言うことを聞かないと駄目じゃないか」
「だって、アイはお兄ちゃんのお嫁さんになるんだもん」
 むすっ、とほほを膨らませてアイ。一瞬あっけに取られていたアイリスとアキトだが、次の瞬間、二人そろって苦笑を浮かべた。
「ははは、まあ楽しみにしてるよ」
「あらあら、もう娘を取られちゃったわね。もう、アキトさんったらプレイボーイ」
 アキトはそれにあいまいな笑顔を浮かべ、格納庫に戻ろうとした。
 その時。
「うわっ!?」
「きゃあっ!?」
 避難所を、突然猛烈な振動が襲った。足腰を鍛えているアキトでさえよろめくほどの衝撃だった。
「何だ、今のは……?……はっ、地上部隊は?!」
 アキトはいち早く我に帰り、手首につけたインタフォンに怒鳴った。
『駄目だ、連絡が取れねえ!今、手近な奴をファランクスに乗っけて偵察に出す所だ』
「駄目だ!これがもし木星蜥蜴の連中の攻撃だとしたら、むざむざハッチを空けて敵に突入口を作る必要はない!俺がブレイブVで出る、ありったけの白兵武器をハッチに集めておいてくれ!出ると同時に掃射する!」
『分かった!……、な、あれは………ザーーーーーーーーーーーーー』
「?!どうした!何があった!?格納庫、応答せよ、格納庫っ!?」
「きゃああっ?!」
 悲鳴にアキトが振り返ると、外壁を突き破って避難所に現れた黄色い小型機動兵器が目に入った。アキトはとっさに近くのフォークリフトに飛び乗ると、右手をコンソールに当てた。と、右腕にある紋章のような物が一瞬輝く。フォークリフトにエンジンが灯る。
「いっけえええっ!!」
 そのまま突進を駆ける。周囲をサーチしていたのか動きが止まっていた小型機動兵器は、それをかわすことが出来ずに串刺しにされる。
「よっしゃああ、さすがアキトさんっ!!」
「よし、今のうちに逃げるんだ!」
「!待て!!」
 格納庫へのハッチを開こうとしている人々を見て、アキトは声を上げた。だが、一瞬遅く、ハッチが開いてしまう。
 そこには、まるで扉が開くのを待ちかねたかのように、無数の小型機動兵器が佇んでいた。そう。一機を物資搬入用のエレベーターを経由して避難所を襲わせ、パニックになった人々が、入りやすい格納庫へのハッチを開くのを待っていたのだ。
 一瞬の後、逃げようとハッチに集まっていた人達は悲鳴を上げる間もなく、吹き飛ばされた。
 アキトは覚悟を決め、腰にしまっていた自動拳銃を引き抜いた。最後まで戦う覚悟のようだ。だが、アキトはふと見やった先で、倒れふす少女と女性を見つけた。アイとアイリスだ。そして、そんな二人に、黄色い小型機動兵器が足を振り上げていた。
「っ!このやろっ!」
 とっさに照準を合わせ、引き金を絞る。撃ち出された六発の弾丸は、狙いたがわず機動兵器のメインセンサーを破壊。ひるんだ隙に、アキトは二人のもとへと駆け寄る。
 だが、それまでだった。気が付いたときには、周囲を無数の機動兵器に囲まれていた。それらの頭部に装備されたバルカンが、いっせいに狙いを定める。アキトはおもわず服の上から、胸に下げたお守り代わりのベンダントを握り締めた。


「くっそ……」


 そして、バルカンが放たれる直前。




 世界が光に包まれた。




あとがき
真機動戦艦ナデシコ、序章をここにお送りします。いやあ、何だかなあ。
 とりあえず読んだ方々は、実際のナデシコと比べて違和感を感じたものと存じます。それについて、ここで補足説明を。
 これは序章という奴で、搭乗する兵器や人物への詳しい説明はあえて避けてます。よって、まず搭乗した機動兵器のうち、バッタやジョロを除く物の紹介をします。
 まず、この世界の設定ではエステバリスは機体自体のコードネームではなく、シリーズ名ということになっています。よって、その種類は多岐にわたって分散されており、エステバリスシリーズ自体の構造も変わっています。この世界ではエステバリスとは、アニメのようなフレームを丸ごと換装するのではなく、上半身と下半身、そしてバックパックに機体が分割されており、状況によってそれらを入れ替えることによって汎用性を手に入れています。これの特徴は、フレームを丸ごと入れ替える訳ではないので、より汎用性が高く、また修理にもフレームを丸ごと直すわけではないので臨機応変に対応できます。(例えばフレーム制の場合、腕が壊れていたりすると出撃できませんが、ブロック式の場合、腕の壊れている上半身だけ代えればいいのです)
また、ブレイブV、ブレイブU、イーゲルといった固有名詞ですが、ブレイブUやイーゲルはいわば旧式の機動兵器で、装甲は厚いのですがディストーションフィールドを張る事が出来ません。ブレイブVは最新型なので、バッテリーの容量や、ディストーションフィールドを張る事が可能になっています。当然、それぞれに砲戦仕様、空戦仕様、陸戦仕様があります。ていうか、これはもともと作者の作っているオリジナル作品の中から持ってきた設定で、折角だから利用しようということで持ってきました。
 まあ、「こんなのナデシコじゃない」という意見もあるかもしれませんが、そこらへんは勘弁してください。
 それでは。

 

代理人の感想

ん〜。

逆に違和感は感じませんでしたねぇ・・・・どこがと言われればまぁイロイロと(爆)。