For desired tomorrow
第1話「驚愕」
『アキト!! アキト、アキト!! アキトなんでしょう!!』
「!!」
いきなりの大音量で驚く。
「ユ、ユリカ?」
思考が追いつかない。
【確か・・・『時と次元の狭間』っていう所で、シンと名乗る少年に会って、
餞別と共にナデシコに乗る時に送ってもらったんだよな】
『あっ、やっぱりアキトだ!
あ!! 今はそんな事より大変なの!!
そのままだと戦闘に巻き込まれるよアキト!!』
「あ、ああ。分っている。
ナデシコを動かすのに時間がかかるだろう?
一応、時間稼ぎぐらいはできる」
気分を引き締める。自分の道を進む為に。
『分ったわ。
私とみんなの命。アキトに預ける!』
「なら、出来るだけはやく来てくれ!」
演技で自分が囮には役者不足だという事を一応伝える。
それと同時に手を少しさまよわせ、通信を切る。
同時にバッタの群の中に到着。
バッタのAIがテンカワ・・・いや、ヤマダ機であるが、アキトを敵と認識する。
バッタのミサイルが飛び交うが、
レベルの低いAIと超一流のエースパイロットでは話にならない。
命中率は限りなく0%に近い。
アキトは適当に命中率100%の攻撃に適当な敵に当てていく。
《・・・確かにナデシコに乗る時だよ。
俺もそう頼んだ。・・・でも・・・・
だからって、こんな時に飛ばさなくてもいいだろ!!》
《! アキト!どうしたの、アキト!》
《ラピス!?》
《どこなの、アキト!1人はいやだよ!》
《落ち着け、ラピス。今はナデシコが発進する時だ》
会話に集中・・・・バッタの攻撃命中率10%上昇、現在10%。
《ラピス、必ず北辰が襲撃する前に助けるから、あの計画を進めてくれ!》
《・・・・うん、分った。まってる》
更に集中・・・・バッタの攻撃・・・回避失敗。
「少しお喋りが過ぎたか!」
回避失敗と言っても、被害軽微。まったく戦闘に支障は無い。
掛け声と共に反撃開始。攻撃を成功できた幸運のバッタは真っ先に破壊された。
「俺のゲキガンガーが!」
「・・・意外にできるな」
「思っていたより修理費が浮きそうですね」
「流石はアキト!」
「・・・(ズズッ)」
「・・・・・」
被弾、反撃のアキトへの感想である。
被弾したエステバリスを見て喚くガイ。
アキトの操縦技術に注目するゴート。
電卓で素早く何かを計算しているプロスペクター。
自分の道を猛進しているユリカ。
戦況を見ながら、茶を啜っているフクベ。
最後の沈黙はルリである。
彼女はただ、じっと画面に映っているエステバリスを見つめている。
「か、艦長、通信です!」
メグミが首だけユリカの方に向かせる。
民間人が戦闘中に戦艦に乗って通信などした事・・・ある訳がない。
「えっ?あ、繋いで下さい!」
ユリカも一瞬こっけいな顔になるが、直に艦長の顔に戻し、命令する。
ユリカとて馬鹿ではない。
相手は軍関係ではない。そう判断し、相手が誰なのか興味もでた。
上に居る軍は全滅。軍が民間企業を助ける為に他の軍に救援を請う訳が無い。
ユリカの頭の中の図式である。
『・・・テ・・・・テス・・・テスト・・』
女性の声、いや、機会の合成音だろうか?
理解不能な事がブリッジにクルーに響き渡る。
全員、耳を澄まして、聞き入っている。
『通信テスト終了。機器オールグリーン』
「なんなのよ、もう!」
キノコ頭の男が喚き散らし始める。
『・・・・援護、する』
「通信終了しました」
「・・・戦闘空域に高速飛行物体、来ます」
ルリの報告と共に敵を示す点が8匹分消える。
「なんだ?・・・紫色のエステ?」
アキトはそろそろナデシコが海から出てくるころだな、と思い出しながら、
適当に操縦していると、横から光弾が飛んで来て、バッタを爆発させた。
ピッ!
「ブリッジ、あの機体は敵なのか?」
『現段階では分りません。敵ではないようですが、味方でもないかもしれません。
・・・・・・どうかしましたか?』
「・・・・・・・・・」
通信を開いたアキトを迎えたのはルリである。
アキトは固まっている。別に再会を喜んでいる・・・・少しは有るだろうが、問題はそれではない。
其処に居るのはホシノ ルリ 肉体年齢16歳。
「・・・・ル、ルリちゃん?」
震える声で相手があのホシノ ルリかを聞く。
『やっぱり、アキトさんなんですね』
表情が明るくなり、嬉しさが溢れ出る声を返してれくれた。
どうやら、自分の知っているルリのようである。
「本当にルリちゃんなのか?」
『はい』『アキト、その辺りで敵を引き付けておいて!』
アキトとルリの会話にユリカが割り込む。
少し嫉妬が混じっているのは気のせいでは・・ないだろう。
アキトは内心苦笑した。
【その辺りって、無茶苦茶な指示だな。・・・俺が早く海に着いたのもあるが】
機体を下げて、海に・・・ナデシコに着地する。
紫色のエステバリスもバッタへの攻撃を止め、アキトの左後ろ上空に移動する。
ちなみに現在の敵残存兵力、60%。囮にしては・・・・上出来な部類だろう。
「目標、敵まとめてぜっ〜んぶ!」
ユリカの声がブリッジに響き渡る。
そして、グラビティブラストが発射される。
敵機の爆発が前方空域を埋め尽くす。
「・・・敵全滅を確認。
被害・・軍全滅、死傷者無。エステバリス、小破」
ルリが事務的に報告する。
「・・・・・凄いわね」
キノコ頭の男が感嘆し、何か考え事をしながらブリッジから去る。
「艦長。紫色の機体からの通信・・・着艦許可を要求しています」
今度は落ち着いた声で報告するメグミ。
「・・・分りました。許可を出します」
そう言いながら、まわれ右をしようとするユリカ。
「艦長、何処に行くつもりですか?」
目の前に立ち塞がるプロスペクター。
「え?アキトを迎えに・・・」
「行き成りの遅刻、もう少し艦長としての自覚を持って下さい」
プロスペクターの説教が延々と続く。
ジュンもうな垂れながらユリカと一緒に説教を聞いている。
「う〜、アキト・・」
「・・・ボクはいったい・・」
「艦長に副長、聞いているのですか?」
ブリッジの全員がプロスペクターの説教に注目している。
ルリはアキトを迎えに行く為に自分の席を離れようかと思案している。
「ああ、そうでした。ルリさん、テンカワさん達をブリッジに呼んで来てくれませんか?」
プロスペクターは一端、説教をおいて、ルリを見る。
「・・・・はい、分りました」
少し考えれば、変である。
別にわざわざ、しかもブリッジの人間を使わなくても、
コミュ二ケで整備班の人間に伝言を頼めば良いのである。
・・・・職場放棄をしてまで、ブリッジに案内すると言うのも問題かもしれないが。
「あれ?なんでルリルリに呼びに行かせたんだろう?」
その疑問に初めに気付くミナト。
「そう言えば、そうですね。
ところで、ミナトさん。ルリルリってルリちゃんの事ですか?」
「そう、良い渾名でしょ?」
「・・・・・そうですね」
BGMはプロスペクターの説教。
後ろでは喧騒に包まれているのに此処は長閑である。
「・・・少し、やり過ぎたのか?」
アキトはコックピットの中で自問している。
ほとんどの整備員がこちらを注目している。
ピッ!
『おい、とにかくエステを・・そうだな、そこまで移動させてくれ』
「ああ、分った・・・ところで、何でそんなに注目されているんだ?」
『ああ、それか。注目されているのはお前じゃない。後ろの紫色のエステだよ』
【なるほど・・・確かにあのエステバリスは少し変った武装をしているからな】
そう考え、所定の位置にエステバリスを移動させる。
そのエステは背中の右にバズーカ砲の様な物、左には細長い筒のような物。そして、左腕には鎖が付けられている。
変わっていると言えば変わっているかもしれない。
紫色のエステはヤマダ機(現在・アキト搭乗)の横に移動し、片膝をついた。
アキトはコックピットからハシゴなど使わずにエステの腕など利用して降りる。
紫色のエステの方はまだ降りて来てない様だ。・・・コックピットが開いた。
「・・・・・・」
アキトと整備班、その場に居る大半の男は固まってしまった。
エステの左腕がコックピットに近づく。
それは別に驚きに値しない・・・ある程度性能が良いAIを使えば良い。
問題はパイロットの格好である。
綺麗な紫色の髪、アメジストをそのまま入れたような眼。
・・・・・・メイド服にネコ耳のカチューシャ。
まったくパイロットという職業に似合わない服装である。
こんな格好の女性が「自分はエステバリスのパイロットです」と言っても説得力はない。
「うおおおおおおお!!!」
何人かの整備員が狂った叫び声を上げる。
どうやら、メイドやらネコ耳などに特殊な興味が有るようだ。
「アキトさん!」
「え?あ、ルリちゃん」
ルリがアキトの所まで走ってくる。
「アキトさん、会いたかった」
潤んだ目でアキトを見上げるルリ。
「・・・真に申し訳無いのですが、場所を変える事をお勧めいたします」
女性がアキトとルリの間を邪魔する。同時に指で辺りを示す。
・・・・・何割かの整備員の敵意のこもった視線がアキトに突き刺さる。
「そうだね。説教されると思うから、ブリッジに行こうか」
「そうですね。案内を任されたんです。あなたも来て下さい」
「畏まりました」
3人は格納庫から去っていく。
殺気、妬みなど強烈な感情がこもった視線をアキトに送る整備員達。
右にホシノ ルリ、左にネコ耳メイド。両手に花である。
「いやはや、すみませんね。テンカワさん」
プロスペクターが笑顔でブリッジに到着したアキト達を迎える。
「俺にいったい何のようですか?」
用件にだいたいの予想を付けながらも一応、聞くアキト。
「エステバリスの無断使用についてだが、我々は軍人ではない。
それに先ほどの囮の功績により不問とする」
ゴートが用件をいい、プロスペクターがアキトの前に出て、
「それで、テンカワさん。
すみませんが、臨時パイロットをしてみるつもりはありませんか?」
「臨時パイロット・・ですか?」
一応、普通のコックを演じるアキト。
「はい。残念ながら今、ナデシコに乗っているパイロットは負傷していまして。
月までに行けばパイロットが補充されるので、それまでの間と言う事で。
とりあえず、給料はこれぐれいでどうですか?」
そう言って、電卓を高速で操作して、見せる。
「分りました。でも、その間だけで良いんですか?
戦力は多い方が良いんじゃないですか?」
流石に計画が潰れる可能性が有るので、少し本音を出す。
「いえ、大丈夫です。
優秀なパイロットが3人補充されますし。
テンカワさんはコックです。コックの仕事ではないでしょう」
「そうですね、コックが戦場に居ても邪魔なだけですね。
少し調子に乗り過ぎてました」
あっさり引く。
「さて、お次は貴女の番ですな」
紫色の髪の女性にブリッジクルー全員の視線が集まる。
・・・・訂正、ユリカはプロスペクターの説教で気が抜けている。
この場合は魂が抜けたとも言った方が良いかもしれない。
「ナデシコを援護してくれた事を艦長に代わって礼を言う」
ジュンが副長としての義務を果たす。
「・・・・・お気になさらずに。わたしは自分の主人に会う為に来ましたので」
ジュンを睨む。会話の仕方が最悪のようだ。
「大した物ですな。それほど思われているなんて、さぞや良い旦那さんなんでしょうね」
プロスペクターが相手の顔を観察している。
アキトはゴートが女性の全身、特に両腕を見ているのに気付くが何も言わない。
「旦那様だなんて・・・それは確かに敬愛しておりますが」
「良いな・・・戦艦に乗れば出会いでもあると思ったのに」
のろけ話を予測したのか、変な相づちをうつメグミ。
「どうです?御自分の夫を護る為に貴方も?」
そうやって、契約書を女性に見せる。
「・・・あの、どうすればいいのでしょうか?」
「・・・・・・なんで、俺に聞くの?」
「?」
女性は何故かアキトに質問をする。アキトを含め全員、疑問を浮かべる。
プロスペクターさえ怪訝な顔を浮かべている。
「・・・・そうでした。まだ自己・・・・・あの、わたしはリリィでいいでしょうか?」
「だから、何で俺に?」
アキトはまったく訳が分りませんと言った顔である。
これが無視を決め込んだり、変に狼狽したら、問題がややこしくなるのだろうが。
「アキトさん、知り合いの方ですか?」
ルリがアキトを睨む。既に問題はややこしくなっている。
「とりあえず、仮ということで、
わたしの名前はリリィ」
リリィは言葉をいったんきり、アキトの眼を見つめる。
「御主人様、ご無礼を承知でお聞きします。
わたしがテンカワの名を名乗っても構わないでしょうか?」
爆弾投下。
「ええええ〜〜〜〜〜〜!!?」
「アキトさん、どういう事ですか!?」
ユリカ覚醒。ルリ激昂。
「アキト、どういう事?嘘だよね?
アキトと結婚するのは私だよね!?」
いったい、どういう移動速度なのだろう?
喋り始める時には既にアキトの肩を掴んで詰問している。
・・・・彼女が居た所からアキトが居た所は近いとはいえ、誰にも気付かれずに。
ゴートやプロスペクターも「艦長・・・・」という感じである。
「ユリカ、落ち着け!誤解だ!
俺の話を聞け!ルリちゃんも落ち着いて」
とにかく宥める事に専念する。
ミナトとメグミもアキトに注目している。あまり良い感情は含まれていないようだが。
「アキト、嘘だよね?」
「アキトさん、説明して下さい」
2人の怒気は収まったが、矛までは収まっていない。
「だから、俺は初対面だ!
悪いけど、人違いじゃないのかな?俺は・・・・これは?」
リリィの方に振り向くと、女性が箱を差し出している。
「はい。御主人様が前に使われていた服です」
「え?これは・・・・・」
箱を開けてみると、中には漆黒の服。
リリィはアキトの目の前で王に使える騎士のように片膝をつく。
「リリィ及び搭乗AIレイリア。
テンカワ アキト様がわたしに対する期待を裏切らない限り、
永遠の忠誠を御主人様の名とわたしの命に誓います」
爆弾再度投下。
「あの、リリィさん?
もしや、その御主人様というのは?」
プロスペクターは汗をかいている。聞きたくない事でも聞かなければならない。
「先ほどから言ってますが、わたしの主はテンカワ アキト様であり、
わたしは御主人様、つまりテンカワ アキト様の所有物です」
爆弾投下・・・・・・威力は核だろうか?
「アキトさん、いったいどういう事ですか?」
ルリが激昂を通り越し、修羅を燃やしている。
「ホシノ ルリ様。
いくらホシノ様といえど勝手にわたしと御主人様との絆を割かないでください」
リリィが毅然とした態度でルリの前に立つ。
「アキト、どうして嘘と言ってくれないの?」
涙眼でアキトに迫るユリカ。
ジュンは殺気を携え、アキトを視線で貫いている。
《・・・あの時の事か》
『時と次元の狭間』で能力のリストを見ていて、『補佐役』というのに興味を持ったので質問してみれば、
自分の補佐役、基本的に動物の姿で裏切らない限り、働いてくれるそうだ。
ラピスの補佐にちょうど良いと思って希望したのだが。
《でも、なんで・・・人の姿なんだ?鳥とか犬なんじゃないのか?》
《・・・この姿はカルマ様がお決めになられました。気に入りませんでしたか?》
《・・・・ラピスと同じようにリンクしているのか!?》
《はい。リンクとは厳密には違いますが能力の一つとして備わっております。
それとラピス様とは話せないので御主人様に中継してもらう必要がありますが》
改めて、リリィを見る。
毅然とした態度でルリやユリカの相手をしている。
「ごめん。ルリちゃん。彼女とはちょっとした訳有りなんだ」
「話は済んだかしら?」
アキトが動き出すと同時にブリッジのゲートが開かれる。
「「何ですか!?」」「何か?」
3人の女性の睨みを受けて、男は怯んだ。
第1話 終
作者シュウ:とりあえず・・・何か言いたいことある?
リリィ:まず、採点を・・・・0点です。
シュウ:未だかつて、此処で終わるSSは無いと思うね。
とにかくオリジナルキャラ2、リリィさんです。
リリィ:こんにちは・・・テンカワ リリィ(仮)です。
シュウ:Lily・・リリー・・リリィね。ユリです。
リリィ:安直過ぎると思いますが?
シュウ:サレナの方が良かった?それにしてもサレナの意味って何だろうね?
リリィ:学名でもなかったみたいですね。
シュウ:さて、今回と次の話、リリィの紹介に費やされます。
もしかしたら、つまらないかもしれません。
リリィ:・・・読んでくださった事、感謝いたします。
代理人の感想
所有物って・・・・・おいおい。
それにしてもあの服は誰の趣味だ一体(笑)?
・・・やっぱりアキト(爆)?