For desired tomorrow
第5話「航海日誌異常なし」
デビルエステバリスに向かって走るリリィを見て、ルリが動く。
手を動かし、何かを呟き始める。
デビルエステバリスは腕を鞭のように振り回し、破壊活動に勤しんでいる。
「早く避難するんだ!」
アキトは止まった状態のユリカ達に怒鳴る。
アキトの「敵だ!」の発言で再起動したが、リリィが自殺覚悟のような突撃した為また止まってしまっている。
リョーコ達は・・・上出来である。
既に自分達のエステに乗り込み始めている。
ルリは忙しなく動いていた手と口が動きが止まった。
ドッシシシィィン!!
デビルエステバリス、何も無い所で足をもつれさせて転ぶ。
それを見て全員の行動がもう一度止まる。
・・・訂正。止まらなかった者もいた。
「・・お見事です、ルリ様。ハッ!」
リリィが倒れたデビルエステバリスの頭部めがけて跳躍し、左腕を振り下ろす。
左腕には彼女の愛機と同じような黒い鎖が。
僅かに黒い光を纏った鎖がアイカメラを粉砕する。
『こっちは準備、終わったぜ』
「あまり壊さないでくださいね!」
リョーコのエステ参戦にプロスが釘を刺す。
「こんな時に言う台詞じゃないだろ!」
怒りを感じながら、プロスに突っ込むアキト。
何故、アキトが未だにエステに乗らずにいるかと言うと、サツキミドリの職員の所為である。
火事などと同じ状況である。
1人が何故かナデシコに乗り込もうとして、その他大勢の者が何故かナデシコに乗り込みたがる。
その所為で、本来ナデシコに避難する筈のメンバーが避難できないのである。
今もナデシコに戻ろうとしているのだが、我先にと争うサツキミドリの職員の所為で進むのが遅い、さらに危険。
しかも、数が多いのでゴート1人では捌ききれない。
だからアキトも護衛の方にまわっている。
転んだデビルエステバリスも体勢を立て直し、飛び立とうとする。
「わたしの鎖では破壊まではできない・・」
そう言いながら、足の付け根辺りに鎖を振るう。
伸縮自在な腕を多用して、跳ねるボールのように行動する。
リョーコ達はその動きに翻弄される以前に足元のユリカやプロス、その他大勢の職員が気になってまともに動けていない。
「クッ、俺もエステに乗っておけばよかっ・・・・ルリちゃん?」
アキトの嘆きはルリを見て、終わる。
アキトには理解不能だが、ルリは両手と口は忙しなく動いている。
それだけなら、ルリを抱えて避難するのだが、影に違和感を感じた。
影がルリの口と手の動きが違うのである。
【・・ヒスイちゃんか?】
「テンカワさん、もう十分ですから貴方もエステバリスの方へ!」
プロスの声が飛ぶ。
それを聞いて、近くにあるエステバリスに走る。
同時にデビルエステバリスがアキトに気づく。ルリの口と手の動きも終わる。
アキト、走る。デビルエステバリス、跳躍しようとする。
ドッシシシィィン!!
再度、転ぶデビルエステバリス。
今度は足がもつれて転んだのではなく、足が見えない何かに引っ張られて転んだ感じだった。
しかも、何故か半回転のオマケ付である。
敵が派手に転び、避難も9割がた終了した今、エステバリスを邪魔する者はいない。
『手間取らせやがって。これで、終わりだっ!』
鉄拳制裁。リョーコのエステバリスの拳がバッタに振り下ろされる。
こうして、サツキミドリでの予想外の戦闘は終わった。
サツキミドリも修理すればまだ使えるという所だったようで、死人はあまり出なかった。
出た死人もサツキミドリの方で葬式をするので、ナデシコは補給を終えて出航。
・・・ナデシコ艦内
「フリチラリアさん、大丈夫ですか?」
「・・・少し疲れました」
プロスの問いにリリィは少し小さめの声で返事をする。
「君は自殺希望者か?
あんな危険な事を、運良く敵が2度も転んだから良いものの」
ゴートがどれほど危険な事か咎める。
「そうだね。今度からは止めた方が良いよ」
注意するユリカ。
「・・・以後、注意します」
危険性などは理解しているが、反省しているのか分からない返事を返して頭を下げる。
「おい、お前、テンカワ・・・って言う名前だったよな?」
こちらはパイロット同士の会話。
《御主人様。そのスバル様とは初対面だと言う事をお忘れなく》
「そうだけど。ええと・・・スバルさんだったよね?」
突然、出てきた忠告を理解して言葉を選ぶ。
「・・・リョーコでいい。
パイロット同士で仲間だからな、他人行儀は苦手だしな」
「じゃあ私もヒカル、でいいからねアキト君!!」
「・・・・・リョーコ、テンカワ君に何を言いたかったの?」
ヒカルは前から話してきたのだが、
イズミは人を驚かせる趣味でもあるのだろうか?アキトの背後からである。
「そうそう!!テンカワ、お前本当に凄腕のパイロットだな!!
地球圏脱出の戦闘記録見せてもらったぜ!!
フリチラリアだったか?もう1人のパイロットも凄腕だけど、お前はそれ以上だぜ」
「そうだよね〜、とても人間業とは思えない腕前よね」
「・・・同感」
「褒めても・・何も出てこないよ」
「・・もう少し素直に喜んだほうが良いわ。
リョーコが手放しに他人を褒める事は少ないから」
手放しに褒められる。今度のイズミの位置は左側面。
最初の背後からの発言に比べると驚くには値しないが、何時動いたかは分からない。
「何をお話でおられるのですか?」
説教が終わったリリィが話しに加わる。
「あ、それじゃ。俺は少し用事があるから、ここで失礼させてもらうよ」
頃合を見て、話を抜け出す。
元々、アキトはルリを探していたのだが、先ほどの会話で話せなかったのである。
【・・・ブリッジに居ないとなると・・・食堂か?】
「あ、アキトさん」
予想的中。メニューを見て悩んでいるルリを発見。
「ルリちゃん、ここだったか」
「どうかしたんですか?」
眼で隣に座る許可を求めて、了承される。
「あの時のお礼を言おうと思って。
サツキミドリでバッタに操れていたエステバリスが転んだのルリちゃんとヒスイちゃんのお陰だろ?」
「・・・流石ですね。アキトさんなら私の事に気づくと思いましたが、ヒスイの事まで分かるなんて」
「うん。影が違う動きをしていただろ。それで気づいたんだ。
だから、ヒスイちゃんにもお礼を言わないとね」
「そうですか。ヒスイも喜んでいます」
「ところで、ルリちゃん、何をしているの?」
メニューに視線を移す。
「たまにはチキンライス以外の物も食べようかと思いまして・・・」
「何を食べようか迷っているわけだね」
「テンカワッ!ここにいたのかい、だったら手伝ってくれ!」
「えっ?あっ、はい。今行きます!ルリちゃん、それじゃ」
ホウメイからの手伝いの要請に大急ぎで厨房に駆け込むアキト。
「・・・アキトさん、嬉しそうですね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
呟きからヒスイへの精神感応を用いた会話に移る。
返ってきた答えが良い返事だったのか、微笑む。
・・・・結局、ルリはヒスイとも相談して、アキトにオムライスを注文した。
「ねえ、ルリちゃん。アキトとはどういう関係なの?」
時間が経過し、場所が変わってブリッジ。
自分の席に座って仕事をしているルリに話しかけるユリカ。
先ほど、アキトの練習を見て、リリィに追い払われた所である。
ユリカ本人は気づいていないが、結果的に邪魔をして、リリィの機嫌を損ねたりしている。
「昔、一緒に住んでいました」
ルリの返事に沈黙。
その後、勢いよく席から立ち上がる音。
「アキト君とは少し話をしないといけないようね・・・」
・・・眼に剣呑な光を宿している。
「あ、別にやましい関係は少しもなく、単にアキトさんの家に居候していただけですから。
それに・・・・あの時は・・本当に平和で幸せな時間でした・・」
「え、あ・・・ルリルリ、ごめんなさい。
ルリルリにとっては大切な思い出なのね」
遠くを見るような眼でその時を回顧するルリを見て、ミナトが焦る。
回顧している顔を見て、他人が軽い気持ちで入ってはいけないと判断したのだろう。
「はい。あの時のアキトさんは幸せそうに・・・・あれ、艦長は?・・・居ませんね」
「艦長ならまたトレーニング室に走っていきましたよ」
プロスが入り口を示して、答える。
「・・艦長、アキト君の事となるとこれだもんね」
呆れて、両手を水平に挙げた。
・・・トレーニングルーム。
「ハッ!」
短い気合と共にリリィが後ろ回し蹴りを放つ。
それを受けずに上体を低くして避けながら、懐に飛び込む。
アキトが双掌打ちをリリィの腹部に打ち込もうとする。
「流石です」
軸足で後ろに飛び、両手をアキトの掌にぶつけ、反作用を使って僅かでも距離を取る。
だが、距離は取ったのは良いが、不安定な体勢だったからか床に転がる。
「・・・強いな。1人で訓練するより良い」
「御主人様の補佐役を名乗らせてもらう以上は」
そう言うが、なかなか立ち上がらない。眼もアキトではなく壁を見ている。
「・・どうした?」
流石に変に思ったのか、警戒しながら近付く。
「あの、御主人様。
レイナード様と副艦長が話をなされているようで・・・。もしや、これは・・」
「あっ・・・・・そう言えば、メグミちゃんを励ますのを忘れていた・・」
「・・・・どうやら、副艦長がレイナード様を励ましているようです」
ここで気づく。リリィの『副艦長』と言う言葉が僅かだが柔らかくなっている。
「少しはジュンの事を見直したのか?」
「そうですね。クルーの精神状態の維持は副艦長の仕事ですので」
アキトが手を差し伸べる。
リリィが差し伸べられた手を掴み、一気に引き寄せる。
「本当にお優しい御主人様。わたしはそういう御主人様を心から敬愛してお「アキトッ!」
喋っている途中にトレーニングルームに入ってくるユリカ。
ちなみにアキトとリリィの状態はアキトがリリィに覆い被さっている。
こういう場合のお約束とでも言うべきか、アキトの片方の手はリリィの胸の上にあったりする。
「アキト・・・リリィちゃんだけでなく、ルリちゃんと・・・
それに、そんな関係だなんて・・・」
「・・・御主人様・・・・・行き成り、こういう時には・・」
当然、勘違いをするユリカ。
何故かそれに拍車をかけようとするリリィ。
「誤解だ!!」
声を精一杯張り上げて、否定する。
「御主人様が望むならわたしはお応えしたいです。
でも、場所と時をお選びください」
「そうじゃなくて、
とにかくアキトはユリカの王子様なんだから離れてください!艦長命令です!」
リリィの気がユリカの言葉で一転する。
先ほどまでのリリィの言葉は状況を楽しんでいる感じがあった。
「艦長、公私混合とは・・・貴女は御自分の仕事を理解なされていますか?」
立ち上がって冷たい眼でユリカを睨む。
「知っているよ。ユリカはナデシコの艦長さんだよ」
「艦長、わたしは理解と言ったのですが?」
睨み合うリリィとユリカ。
心の中では崖に打ち寄せる波や雷鳴が鳴り響いているのかもしれない。
ピッ!
『艦長・・アキトさんとリリィさんも一緒でしたか。
すみませんが、至急に来て下さい。ウリバタケさん達が話があるようです』
ルリがコミニュケでユリカを呼ぶ。
「え〜、そんな事よりルリちゃん聞いて。
アキトがね、またリリィちゃんと浮気していたの!」
『・・・艦長、アキトさん達、ブリッジに向かいましたよ。
艦長も早く来て下さい』
用件を済ませると、ルリは通信を切った。
ナデシコ・ブリッジ
「ウリバタケさん、どうかしたんですか?」
ブリッジに入って、直ぐに銃やらスパナを携えている整備員やウリバタケが視界に入る。
暇だったのだろうか、何故かヒカル、リョーコ、イズミ等も入っている。
「我々は〜、断固ネルガルに抗議する!」
「抗議だ!抗議だ!」
「アキト、置いていくなんて酷いよ・・って、どうしたの?」
ユリカは狐に抓まれたような顔でウリバタケ以下大勢の整備員を見ている。
「どうしたもこうしたも無い!これを見てみろ、艦長!!」
ウリバタケは自分の懐からネルガルの契約書を突きつける。
「・・・え〜!男女交際は手をつなぐまで〜!?」
「最初に言っておきますが、よく契約書を見なかった方が悪いんです」
ユリカの叫びを聞きながら、冷静にプロスが返す。
「こんな細かい項目まで見る奴がいるか!!」
「私は全部読みました」
ウリバタケの怒声もルリの一言で力を失う。
「これでウリバタケさんの論拠は崩れましたね」
勝ち誇った顔になるプロス。
「それじゃ、アキトとリリィちゃんは?」
ユリカの問いに全員が一斉にアキトとリリィを見る。
「わたしも全ての項目に目を通しましたが?」
「プロスさん、なんでリリィちゃんだけ特別扱いなんですか!?」
リリィの答えを聞いて、プロスに詰め寄るユリカ。眼が本気である。
「か、彼女は契約時に御自分のお給料の一部と引き換えにその項目の削除を要請しましたから」
納得がいかないのか、更にユリカはプロスに詰め寄る。
「それじゃ、テンカワはどうなんだ?」
「それはわたしが契約内容の訂正を依頼しました。
お仕えするのに障害になると思いましたので」
ウリバタケの問いに答えたのはリリィ。
「そのお蔭というのもなんですが、
フリチラリアさんのお給料は他のパイロットの方々に比べて安く済んでいます」
「なに〜!テンカワだけずるいぞ!」
「これでもフリチラリアさんには妥協してもらっている方です!
給料を更に下げても良いからテンカワさんと同室にして欲しいと言っていたぐらいなんですから!」
プロス、逃げる。
話の矛先をリリィに向ける。
「え〜!!」「な・ん・だ・とー!」「アキトさん!」
叫びが飛び交う。
≪・・・・そんな話をしていたのか?≫
≪はい。そんなに騒ぐ事でしょうか?≫
≪男と女が同じ部屋で生活すると言う意味が理解できたら騒ぐぞ≫
ドゴォォォォォォンンンン!!
激震がナデシコを襲う。
「これは・・・木星蜥蜴からの攻撃です。
これは迎撃が必要です!艦長!」
「そうなの、ルリちゃん?
皆さん、この問題はひとまず後に!
各部署に戻ってください!パイロットは直に出撃を!」
ルリの報告でユリカの頭は切り替わる。
ナデシコの艦長にスカウトされるだけ事はある。
「艦長、大変です!!
救助信号を受信しました!」
「前方のバッタの群れに所属不明の飛行物体あります。
救助信号はそこから発信されています」
「あらあら、災難ね」
ピッ!
「ルリちゃん、出して!」
『アキト、大変なの!救難信号が!』
「ユリカ、どうしたんだ?」
『アキトさん、大変です。
バッタの群れの中に救助信号を発している輸送船らしき物が』
『なんだって!』
『アキト、リリィちゃんと一緒に輸送船の救助を。
他のパイロットの方はナデシコの防衛を』
「分かった」
『了解しました』
テンカワ機、フリチラリア機が先に出撃する。
続いて、スバル機、アマノ機、マキ機と出撃していく。
「クッ、前はこんな事なかったのに」
アキトは全力で輸送船らしき物に近付く。
当然、アキトのエステバリスに気づいたバッタが攻撃を開始する。
「邪魔だ!退け!!」
ディストーション・フィールドを纏って体当たり。
ピンポイント射撃のライフルの連射で道を作っていく。
リリィも刀と左腕の鎖でバッタを切り裂いていく。
破壊していくが、バッタは輸送船に纏わりつこうとする。
もう、輸送船が長くは持たないのが直ぐに分かる。
『ワハハハハ、苦戦しているようだな。アキト!』
突然、通信であらゆる意味でアツイ男の顔が。
「ガ、ガイか!?」
『ダイゴウジ様、もう怪我は治ったのですか?』
『おう、任せとけ。
くらえっ!ガイ・スゥゥパァァー・ナッパァァーーッ!!』
ガイのディストーション・フィールドを纏った拳がバッタを捉える。
攻撃が命中し、爆発予告前の火花を散らしながら吹き飛ばされるバッタ。
『おい、馬鹿!そっちは・・』
火花を散らしながら吹き飛ぶバッタ。
障害物にぶつかる。そして、障害物を巻き込んで爆発する。
障害物である輸送船らしき物を巻き込んで爆発する・・・。
『あ・・・・・』
『誰だ、その馬鹿は!』
『あ〜あ。やっちゃった』
『嫌な花火ね・・・』
誰も予想しなかった出来事。
まさか、助けようとしたのに味方がミスをして爆発させてしまうとは・・。
第5話 終
作者シュウ:疲れた・・・でも、やっとだな。
アキト:それで、なんで俺を呼ぶ訳?
シュウ:それは君が一番・・・役得と言うのかな?
アキト:作為的なものを感じるな。
シュウ:そうだよ。今回は何故か君をからかい、苛めたくなってね。
ああいう風にやってみた。リリィの性格はこれだから。
アキト:・・・・・そう言えば、本当にメグミちゃんを慰めるの忘れていたんだよな?
シュウ:うん。ファンの人は怒るかもしれないけど綺麗さっぱりと。
このまま忘れていたら大変な事になっていたよ。
下がサイコロの結果ね。
アキト1 リリィ2 ジュン3 ガイ4 振り直し5、6
アキト1回、リリィ2回、ジュン3回。
ところで、今回の題名、ある映画の題名をいじったんだけど分かる?
アキト:ヒントは戦争?・・・・分からん。
代理人の感想
題名に偽りあり(笑)。
異常事態のてんこもりですね・・・・・・まぁ、現実と言うのはそんなものかも(トオイメ)。
業務連絡
HTML化、キチンと出来てました。感謝です。
これをメモ帳に写して半角英数字で「〜〜.htm」とファイル名をつければ
HTMLファイルになるはずですので挑戦して見てください。