機動戦艦ナデシコ

「瞳に映る闘いの果て」

第一話 「妖精への殺意」

  

 「聴力・・・・良好。 視覚・・・・・良好。 感触・・・・・良好。」 

 ネルガル月面秘密研究所。

 イネス・フレサンジュのラボ。

 「嗅覚・・・・問題なし。味覚・・・・・・」

 それ以上、彼女は診察を続けられなかった。

 辛いのだ。事実を語ることが。

 「味覚は・・・・・ダメだな」

 テンカワアキトは素っ気無い態度で代わりに事実を述べる。

 まるで、他人事のように。

 「御免なさい」

 「気にすることは無いさ。ここまで治ったのですら奇跡だ」

 「御免なさい、お兄ちゃん」

 ボロボロと涙を流す彼女に、男は柔らかく微笑み返した。

 「気にすることはない。俺はアイちゃんのおかげで生きることができている」

 「でも!」

 「大丈夫。どうせもう俺はコックにはなれないから」

 アキトは一瞬悲しそうな笑みを浮かべたが、

 すぐにバイザーをかけた為、表情をうかがい知ることはもうできない。

 「だから、気にしなくてもいい」

 “ありがとう”と言い残して、アキトはイネスのラボから出て行った。

 「御免なさい。お兄ちゃん」

アキトの去った方向を向いてイネスは泣き続けた。




 今から、一週間前。

 ある非公式な手術が行われた。

 患者は“テンカワ・アキト”。

 彼に投与された大量のナノマシン除去を目的とした手術だった。

 手術は成功し、アキトの五感は治ったものだとばかり思われていた。

 だが、彼の味覚は治りきらなかった。

 イネスは嘆いた。

 手術は成功さえすればアキトはコックとして復帰できると、そう信じていたから。

 彼女は自分の力の無さに、ただ涙を流した。




 味覚が戻らなかったことは、やはりショックだった。

 イネスには、ああ言ったが・・・・本当は絶望の淵に立たされた気分だった。 

 ショックを表に出さなかったのは、昔と変わらない優しさというものだろう。

 イネスは自分の為に懸命に治療を続けてくれた。

 その事はよく分かっている。

 だから、彼女に感謝こそすれ、恨みはしない。

 コツコツと歩いていると、一人の男の影が見えた。


 「今、政府が最も危険視している人物は誰だと思う?テンカワ君」

 開口一番がそれだった。

 「火星の後継者・・・・・・・いや、俺だな」

 アキトが知らず知らずのうちに歩いてきた場所は、ユーチャリス専用0番ドック。

 そこに居たのはアキトの戦友、アカツキ・ナガレ。仕事はどうした!? 

 「はずれ」

 「?」

 「ホシノルリさ」

 「何?」

 バイザー越しでもはっきり分かるほど顔をしかめるアキト。

 「彼女は一年前、火星の後継者を事実上たった一人で制圧した人間だ。

 彼らにとって、彼女は脅威以外の何者でもない」

 いつもの余裕の態度で話すアカツキ。

 彼を良く知らない人間には分からないだろう。

 ネルガル会長アカツキ・ナガレが真剣に怒っていることに。

 「彼女は明日、殺される」

 「なっ!」

 「そういう情報が入ってきたんだ。確かな筋の情報さ

 現在、プロス君を始めとするシークレットサービスに彼女の護衛を頼んでいる。

 だが、どうにも人手不足でね」

 一丁のブラスターをアキトの前に差し出す。

 「彼女達の元に帰ってやれとは言わない。復讐を止めろとは言わないさ。 

 でも、理不尽な暴力で戦友が死ぬのは面白くないね」

 自分の台詞に思わず苦笑するアカツキ。

 (いつからだろうね、僕がこんな考え方をするようになったのは・・・・

 和平派だった白鳥九十九すら殺そうと思ったほど冷酷だったはずなのにね・・・・

 ・・・・・まあ、悪くは無いさ。僕らしく生きる。これがあの愚かな戦争で学んだことだ)

 無言でブラスターを受け取るアキト。

 無言の了解。

 「今回は白兵戦になりそうだ。ラピスを頼む」

 「分かってる・・・・・・・・・死ぬなよ、テンカワ君」

 「当たり前だ」

 アキトはブラスターを収めて、0番ドッグを出て行った。

 彼の向かう先は、彼の家族。 












 あとがき   

 第一話 「妖精への殺意」を書かせていただきましたT氏です。

 第一話。頑張って予定よりも早く書き上げました。短いですけどね(苦笑)

 なんだかアカツキの言葉づかいと性格が違うような気がしますが、

 T氏の中ではこんな感じのアカツキです。

 第一話・・・・どうだったでしょうか?

 構成力が未熟なT氏はこれから大量の小説を読んで勉強します。 

 最後になりましたが、ケインさん。御感想ありがとうございました。

 それでは、皆さん。またお会いしましょう。

えっと、今回は名前すら出てきていませんが、ユリカは生きています。 

 

 

 

代理人の感想

劇場版アフターかつ、ルリの命が危ない・・・・Actionでは割と珍しい展開かな?

やはり、これだけ沢山の投稿があると展開にもオリジナリティがあるに越した事はないですね。

 

ユリカも生きてはいるようですが状態はまだわかりませんし。

では次回に、もう一発ぐゎんっ!とかましてくれる事を期待しましょう。

 

ちなみにCtrl+Aを押すと何かが出てくる場所が二つほどあります(笑)。