ＡＮＯＴＨＥＲ ＤＡＲＫＮＥＳＳ
〜第３話 ｢出航｣〜
ナデシコ出航当日、ついにナデシコに乗りこんだ俺は今マキビ少尉にナデシコの艦内を案内してもらっている。
秘めたる目的のある俺だが、初めて乗る新型戦艦にやはりわくわくしてしまう。
そもそも戦艦自体あまり乗ったことないしな。あってエステの輸送艦ぐらいだ。
これまでに艦内の半分くらいは周っただろうか。戦艦って意外とでかいんだな・・・・・・・。
それにしても、この艦の厚生設備があまりに充実しているのには始め面食らった。とても軍艦とは思えない。
メニューの豊富な食堂にゲーセン並みの娯楽室、風呂に至ってはなんとライオンの彫刻入りだ。
と、言うより戦艦に風呂があること自体驚きである。普通は簡易シャワーだけなのだがな。
ちゃっかり置いてある卓球台についてはもうなにも言うまい･････・・・
後で大尉でも誘ってやってみようか？・・・・・・・はっ！！あぁ、いかんいかん！！
民間企業が建造したからといってココまで豪華でイイのだろうか？民用だった初代ナデシコとは違うんだぞ？
なんと言うか、少し不謹慎な気がする。
そんなことを考えながら俺達は格納庫へとやってくる。
やはりパイロットである俺としてはココが一番大事なセクションだろう。
それに、今回の任務にあたっては俺は新型の機体に乗ることになっている。
一人のパイロットとしてそれは楽しみな限りだ。
けどやっぱ卓球もイイよなぁ・・・・・・あぁぁ！だからいかんっての！！！
「タケザキさん、どうかしました？」
「ア、いや何でもないです、マキビ少尉」
表情に出てしまったのか、少尉が少し心配そうに尋ねる。
「ん〜、どうもその呼ばれ方って少しシックリこないんですよね。タケザキさんも他の皆さんのように『ハーリー』でイイですよ？僕の方が年下ですし」
「いや、それはどうかと・・・・」
ウ〜ム、真面目そうな人ではあるんだけどどこか抜けてると言うかなんというか。
まぁ、こんな環境だしな・・・・・・・・・じゃあ俺もそうなるのか？
クソ！卓球台が頭から離れん！！
「タケザキさん？」
「いや大丈夫ですホントに。さ、格納庫見ましょう？｣
「はぁ」
少尉は俺を心配しながら、俺は必至で卓球台を頭の外に追いやりながら格納庫の中へと入る。
いくら今まで娯楽の少ない環境にいたからといって、卓球台ごときに心奪われるとは我ながら情けない。
が、次の瞬間にはもは卓球台などうでも良くなっていた。
目の前に現れた俺の新たな愛機、スーパーエステバリス。タカスギ大尉が乗っているのと同型だ。
スペックは前持って渡された資料で目を通していたが、やはり実際に目にすると今まで乗っていた量産型とは貫禄からして違う。
高い機動性、大出力の火器類、フィールド。どれもこれもが最高レベルだ。
コクピットに潜り込み、少しだけだが起動してみる。もちろん整備班の許可はちゃんと取った。
スラスターノズルは・・・・・・うん、前の機体より滑らかに反応する。カメラの精度も良好、マニピュレーターの動きもソフトだ。それにイメージフィードバックのタイムラグもコンマ08秒は少ない。これなら今まで以上の反応が望めるな。
ビニールのはがされていないまだ真新しいシートの匂いを深深と嗅ぎながら、年不応相にはしゃいでしまった。
だがそんな時、不意に昔のことが思い出された・・・・・。
（あのとき、こいつがあったら･･････あいつも死なずに済んだのかな････）
今更ながら、しょうもないことを考えているとは自分でも思う。
だが、あの時のことを考える度に今でもやりきれない気持ちになるのだ。
どうして俺はあのときもう少し強くなかったのだ･･･････と。
「タケザキさ〜〜〜ん新しい機体、どうですか〜〜〜｣
おっと、少し長く感傷に浸りすぎたかな。
「最高ですよ、やっぱ新型はイイっすねぇ｣
少尉に話し掛けながら俺はアサルトピットから抜け出る。
そう、今は過去を悔やんでいる場合じゃない。
『奴』を倒し、過去にとらわれている今にけじめをつける。そのために俺は今ここにいるのだ。
己の決意を確かめながら少尉の元へともどる。
「ところで大尉は？エステのことで少し聞きたいことがあったんですけどね
「ああ、サブロウタさんなら多分・・・・・・｣
｢多分？｣
「いえ、気にしないで下さい。どうせいつもの事ですから・・・・・・」
「？」
俺もその時はまさか大尉ともあろうものが出航直前までナンパをしているとは思いもしなかった。
少尉もさすがにそれを告げるのは気がとがめたのだろう、後でそのことを知ったときはさすがにあきれてしまった。だって俺の上司だし･･････。
彼が木連出身でしかも優人部隊にいたと知ったときは思わず思考が停止してしまったが･････
格納庫の見物も終わり、そろそろここもおいとましようかという時、俺の目にある物がとまった。
「ん，あれは何すか？｣
そう行って格納庫の隅に置かれた巨大な物体を指差す。
形と大きさからして機動兵器用のライフルのようだが，あんな形状のものは見たことが無い。
「え・・・ああ、あれですか？あれはですね，エステバリス用の携行型グラビティブラスト、通称『グラビティーバスター』って言うんです。 なんでもライフル自体に小型の相転移エンジンを積んでいるので、機体うんぬんに関わらず低出力の重力波が撃てるんですよ。 もっとも、燃費が悪いので３発あたりが限度らしいですけどね。それにまだ試作品だそうです。」
「エステ用のグラビティブラスト？！スゲェ、大発明じゃないですか！！」
心なしか説明する少尉の顔色が優れないように見えるが、俺は前代未聞の発明品に興奮しているためそんなことはお構いなしだ。
なにはともあれグラビティーブラストである。兎にも角にもグラビティーブラストである。
一部では相転移エンジン搭載型の機動兵器も出まわっているようだが、一般に配備されている俺が使っていたような機体ではジェネレーターの出力が圧倒的に足りなくて光学兵器の運用もままならなかった。
確かに，砲身自体に内燃機関を組み込んだ火器は今までにも何度か見たことがあるが、それらは揃って巨大なものであり機動兵器が単独で運用するのは難しいものばかりであった。
それを，通常のライフルサイズ，しかも相転移エンジン内蔵のシロモノを目の当たりにしてはもはやスゴイとしか良いようが無い。
俺とて人殺しが好きなわけではないが、やはり一介のパイロットとしては新兵器に胸が高鳴ってしまう。
弾数がどこかで聞いた話のような気もするが・・・・・・・、まぁイイだろう。
が、そこで浮かぶ当然の疑問。
「けど，何でそんな代物がこんなところに？。技術部がそんなすごいもの作ったなんて初耳ですけど？」
そう、相転移エンジンの大幅小型化なんて偉業を成し遂げたら、いくら試作段階とはいえ軍中にその噂が広まるはずだ。
だが，そんな話は今まで１度も聞いたことはなかった。
その質問に少尉はなんとも言いにくそうに答える。
「いや、そのですね････作ったのは連合軍ではなくてですね････そのぉ、個人作品と言うかなんというか･････｣
「？」
何故か少尉の返答はしどろもどろだ。それに時折ライフルの方をちらちら見てはため息をついている。
一体なんなんだろうか？もしかしたら出所が言えないようなヤバイ物とか？
・・・・・・・というより、なんだかあまりあれに関わりたくないといった感じだ。
「ハーリー君、よろしいですか？そろそろ艦内の最終チェックを行うのでブリッジに来て下さい」
その時、艦長のウインドウが俺達の目の前に開かれる。
話からして、どうやらもうすぐ出航のようだ。
「ア、はい艦長、今すぐ行きます！それではタケザキさん、案内の途中で申し訳ありませんがそういう事ですので、では！！｣
そのまま少尉は渡りに船とばかりさっさと行ってしまった。
結局なんだったんだろうかあれは・・・・・・・まぁ、いいや。俺も部屋に戻ろう。
その時の俺は砲身に小さくペイントされた「瓜」の字に気づくことは無く、たとえ気づいたとしてもそれがどれだけ恐ろしい意味を持っているかなど決して分かりはしなかっただろう･････。
そして、それと同じマークが俺の機体にも記されていることなど知る由もなかった･･････
それから待つこと十数分、とうとうこの瞬間がやってきた。
全てのチェックは終了し、もはや出航は秒読み状態。
今ブリッジでは出航の最終段階に入っている。
大きな音と供に最終エアロックが開く。
全ての連結具は切り離され、誘導灯がその進むべき道を照らし出す。
「相転移エンジン出力上昇｣
「艦内エネルギー伝達率８０パーセント突破」
「気密、電気系統異常なし」
「誘導ビーコン確認、進路クリア｣
スピーカーから流れるブリッジでのやり取りを聞いているうちに、俺も少しばかり緊張した面持ちになる。
そして、
「エンジン点火１０秒前、９･･･８･･･７･･･６･･･５･･･４･･･３･･･２･･･１･･･｣
「ナデシコＢ発進」
エンジンが爆音を立てながら青白い火を吹き、少しずつナデシコの巨体を広大な星空へと押し出していく。
もちろん戦艦に窓なんてものはないが、目の前に開いたウインドウ越しに俺は外の光景を眺めていた。
（大佐、そしてみんな・・・・いってきます）
次第に小さくなっていくコロニーに向かって、俺は一人敬礼をする。
そしてコロニーが完全に見えなくなってしまうと、部屋の電気を消し一人ベットに倒れこんだ。
これからの旅によせる決意とプレッシャー、そして少しの不安。そんな複雑な気持ちを抱えながら俺は眠りについた・・・・･
・・・・・・・が、それはすぐに叩き起こされてしまう。
｢艦長、付近を航行中の民間船から救難信号です！『本艦ヲ所属不明艦ガ追撃中、至急救援求ム』！」
「艦内警戒体制Ａに移行。パイロットは格納庫へ！｣
幸か不幸か不審船に追われている民間輸送船を発見してしまった。
いくらなんでも出航から１時間もしないうちからこれは無いだろう。まぁだからといってほっとくわけにもいかないのだが。
民間人の救助は軍人としての最大の責務だ。
現在、ナデシコは全速力で現場に向かっている最中である。
「ったく、のっけからこれかよ！｣
愚痴をこぼしながら新たな愛機と供にカタパルトへ向かう。
出航早々戦闘とはつくづくついてないな、俺は・・・・・・。
まぁ、こいつの慣らし運転にはちょうど良いだろう。
「前途多難って奴だねぇ、こりゃ」
常変わらぬ軽い口調のタカスギ大尉だが、表情と裏腹にいつものチャラけた感じがしない。
その目からはいつのもの彼からは想像できないようなプレッシャーさえ感じる。
やはりそこはナデシコのエースという事か。
こんなこと言ったら失礼なんだろうが、少し感心してしまった・・・････。
「目標をモニターに捕捉、映像出ます｣
開かれたモニターには救助を求める輸送船とそれを執拗に追いかける不審船、そしてそこから発進する何機もの機動兵器が映し出されていた。
今は何とか互いの距離を保っているが、どうやら追いつかれるのは時間の問題のようだ。
実際、先ほどの機動兵器････十機ほどだろうか。そいつらの何機かはすでに獲物を射程内に捕らえたらしい。輸送船に向かっていくつもの閃光が放たれるのが見える。
奴らの機体は･････････ステルンクーゲルに量産型エステ、
それと・・・・あれは積尸気か？！
「火星の後継者の残党！？」
「・・・・・・・にしちゃぁやってることがセコすぎるな｣
「ええ、それに彼らならこんなコロニーの近くでの派手な行動は避けるはずです」
各々の意見を交わす三人。
確かに目の前でどんぱちやってる連中の中には火星の奴らが使っていた機体が見うけられる。
しかし、そのいずれもどこかしら古びた個所があり、中には他の機体のパーツをつけたかのように形がかみ合っていないものもある。
寄せ集めといった言葉が良く合っている。
「恐らく火星の残党をかたるただの郎党ですよ。戦場跡から使えそうな機体を拾ってはそれで略奪を繰り返すんです。
ココみたいな中小コロニーの近辺には結構いるんです」
どうやら海賊退治の経験は少なさそうな三人に俺は説明する。ああいう連中はここいらでは珍しくないが・・・・
それにしても、この間大掃除したばかりだというのに一体どこから湧いて来たんだか・・・・・・まったく。
「そういえばあの艦もなんかいびつですね｣
それに納得したマキビ少尉が言うように、郎党供の艦は通常の大型輸送船に何故か大型レールガンが装着されているヘンテコな物だった。
恐らくどこかしらに破棄されていた軍の駆逐艦から主砲を失敬してきたのだろう。
この前の紛争で乗り捨てられた兵器類がごろごろしているからな。
しかし、こいつは少々厄介だ。
大口径の実弾を高速で打ち出すレールガンは、純粋な破壊力では多少劣るものの貫通力の面では下手な荷粒子砲のそれを遥かに上回る。それにあれは対艦用の強力なヤツだ。
フィールドは『実弾に弱い』という性質もあり、いくら戦艦とは言えどもあれを立て続けに食らおうものなら、どてっ腹に風穴が開いてしまうだろう。
とはいえ、こちらはあのナデシコである。通常ならそんなものは全く問題ではないのだろうが、厄介なことに海賊と民間船との間の距離はもうほとんどなくなってしまっている。これではこちらから砲撃した場合、民間船も巻き込んでしまう恐れがある。
となると・・・・・
「まぁ、相手が何にせよ民間人が襲われてるんだ。早いとこ助けてやらないとな｣
「サブロウタさんの言う通りです。ハーリー君、相転移エンジン出力最大。敵艦と民間船の間に割り込みます。パイロットはいつでも発進できるようにしておいてください。」
「「了解！｣」
「エ？」
思索にふけっていた最中の艦長の提案に少し驚く。
別にそんなつもりではなかったのだが、それを見た艦長は俺が作戦に不安を感じていると思ったのだろう、落ち着きながらもしっかりとした声で俺に説明しようとする。
「タケザキさん、少々無茶な作戦であることは分かっています。しかし，すでに彼らの攻撃が始まっている以上もはや一刻の猶予もなりません。 本艦のフィールドを盾にして輸送船を防衛、その間に御二方に敵を掃討していただきます」
少尉と大尉の二人もそれに続く。
「大丈夫ですよ，タケザキさん。このナデシコはそんじょそこらの戦艦とはわけが違います。 対艦レールガンくらいへっちゃらですよ」
「そうだぜ，タケザキ。それに，俺達だって伊達にこれだけの戦力で生き残ってきたわけじゃないぜ？ ま，少しばかし不安だろうけど試しにウチの艦長を信じてみなって｣
なんか勝手に勘違いされているようなので少し俺は困ってしまった。
「いえ、失礼しました艦長、その作戦に異義はありません｣
そう、異論などはない。ただ少し驚いただけだ。なぜなら彼女の考えは先程俺が考えていたこととほとんど同じだったのだから。
いや、艦長だけではないな。振る舞いからしてどうやら後の二人も考えていたことは同じだったようだ。
まさかそれを本当に実行に移すとは思わなかったが･････
俺の返事を聞いた艦長は少しだけほほえみその後、少尉に指示をだす。
「これより本艦は敵と民間船の間に突入します。ハーリー君、舵は任せましたよ｣
「了解！｣
エンジンが爆音を立てながら、ナデシコは敵艦と輸送船の間めがけて直進しだした。
その途中、エンジンとはまた違う振動が何度か艦内をおそう。恐らく敵の砲撃だろうが、その割にはこちらに対した被害は無いようだ。つくづく大した船だよ、全く。
それにしても皆が皆、よくこんな無茶な作戦を考えついたものだ。
確かにナデシコクラスの戦艦は出力が並みの戦艦とは比べ物にならない。対艦レールガンくらいならば難なく弾いてしまうだろう。
しかし二隻の間に割り込んで攻撃を防ぐというのは言うほど容易なことではない。連中にとって目の前に飛びこんでくる戦艦など格好の的だ。
その上フィールドを張っている間、戦艦はろくな攻撃ができない。タコ殴りの状態で耐え続けなければならないのだ。そんな状態ではいくらナデシコのフィールドとはいえそう長くはもたないだろう。
要するに、この作戦の成否は限られた時間内に俺達パイロットがどれだけ敵の戦力を削ることができるかに掛かっているという訳だ。
よほど艦長が大尉・・・・・俺もかな、パイロットの腕を信頼しているという事だろう。
それと正確に二隻の間に割り込む操舵やフィールドをなるだけ持続させるための細かな調節も欠かせない。そしてこれにはかなり高度な技術を要するはずである。
そしてなによりも、民間人の安全を優先するという考えがなければ思いつかない作戦だ。
部下の腕を信頼し、なおかつ民間人を守るという軍人としての本分も忘れてはいない。子供だと思っていたがなかなかどうして、立派な艦長ぶりじゃないか。
・・・・・・・・信頼できる仲間か。少しうらやましいかもしれないな･･･････
昔のことを思い出しそうになる俺だが、そこに少尉からの通信が入る。
「タケザキさんにサブロウタさん、そろそろ目標地点に到達しますので発進準備お願いします｣
イカンな、今は目の前の事態に対処すべきだ。
一瞬の気の緩みは即、死につながる。それは今までの経験から十分承知している。今の俺はまだ死ぬわけには行かないからな。
そう気を引き締めながらカタパルトで出撃のときを待つ。
「タケザキ、お前はまだその機体に慣れてないだろうからな。前線は俺に任せてお前は援護に専念しろ」
「了解です、大尉｣
大尉の装備は大型レールガン一丁、そして俺はハンドガン二丁だ。
どうやら俺があまり動かなくてもいいようにとのことなのだろうが、俺とて仮にもエースと呼ばれる男だ。あまり見くびらないでもらいたい。まぁどちらかと言えば俺は銃撃戦の方が得意なのであまり文句はないが。それに下手な自惚れも身の危険を招くからな。
ああそうだ、銃撃といえば･････
「ところで大尉、あれは使わないんですか？｣
「なんだ、あれって？｣
俺の頭に浮かぶのはさっき格納庫の隅で見かけた大発明。
「ほら、あれですよ。グラビティーバスターとか言うヤツ。あれ使えば楽勝でしょう？｣
それを聞いた途端大尉の顔が今まで見たこともないほど険しくなる。
「いいか、タケザキ･････命が惜しかったらあれには絶対に近づくな、絶対だぞ！｣
「は、はぁ・・・・」
出来ればあれの威力を１度拝んでみたかったのだが、大尉の真剣な表情にそれ以上あれのことを口にするのがはばかられてしまう。
さっきの少尉といい今の大尉といい一体あれが何だと言うのだろう？そもそもそんなにヤバイものなら持って来なきゃいいのに･････
くどいようだがその時の俺はあの｢瓜｣マークのことなど全く知りはしなかった。
知っていたならば間違ってもあんなことは言わなかっただろう･･････
そうこうしているうちにもナデシコは予定のポイントに到達しようとしていた。
急速な減速を試みているため艦内に今までとは逆方向の慣性が掛かる。
そしてその衝撃が収まらないうちに艦長から入る通信。
「目標ポイントに到達します。エステバリス隊発進してください｣
「それじゃぁ行きますか！｣
「おっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！」
互いに大きな掛け声で己を奮い立たせながら、俺たちの機体はカタパルトの上を駆け抜けていく。
それにしても大尉はこういうキャラじゃないと思ったんだけどな･････どうやら木連出身というのは本当らしい。あまり信じたくはなかったが････
さて、とりあえずは新しい職場での初陣、派手にキメますか！
俺達が宇宙の星空に飛び立った時、連中は慌てふためいていた。再三の砲撃にも関わらず、戦艦が全速力で突っ込んで来ればそれも当然か。
どうやらナデシコが突っ込んできたおかげで海賊供の機動兵器と民間船を完全に分断することが出来たようだ。こちらはたった2機しかいないとはいえ、共にエース級の腕前だ。これで奴らの前に防衛線を張れたことになる。
「民間船、完全に本艦のフィールド後方に入りました｣
「フィールドの出力を最大に維持、輸送船の壁となります。その間にエステバリス隊は敵の殲滅を｣
「「了解！｣」
下される艦長の指示、戦場に叫ぶパイロット達、そしてついに戦闘が始まった。
「オラオラオラァァァァァァ！！｣
叫びながら敵陣に突っ込んでいくのはタカスギ大尉だ。
でだしからフィールドを全開にしてまずは一機目に体当たりをかます。
そして、その時の爆発を隠れ蓑にして次なる敵の側面を強襲。彼の放つレールガンは確実に相手の機体を貫いていた。
時折格闘戦も交えているが、彼の戦い方は基本的にはそれの繰り返しだった。
単調ではあるが無駄がなく、統制の取れていない郎党連中には十分効果的といえよう。
実際あれだけいた機動兵器のすでに３分の１は沈黙している。
さすが、の一言に尽きるなこれは。
だが次々と落とされていくヤツらの中にも、こちらの防衛線を突破しようとするものが何機が出てきた。
さすがに大尉といえどもあれだけの数を一人で釘付けにはできないよな。
さて、今度は俺の番ですかね。
前線を突破したのは現在エステが３機、それらは全て俺のほうに向かってくる。
先ほどからあまり動いていない俺をどうやら新米とでも思っているようだ。馬鹿正直に真正面から突っ込んでくる。
確かに俺が新兵なら結構ビビってたんだろうがな･･････残念ながらそうでもないんでね！！
どうやら連中は接近戦が主体らしく、各機ともフィールドランサーのようなものを装備している。
そのうちの一機がさらにも増した勢いで突貫してくる。ランサーを前に突き出し俺を串刺しにしようとでもいうのか。
迫力だけはイッチョ前なんだが、あまりにもバレバレだ。あんな機体でこれだけのスピードを出したら曲がることさえままならんだろうに・・・・
とりあえず軽く体をひねったら簡単によけられた。とことん素人だな、慌ててこちらに振りかえろうとしている。
もちろんそんなことをすれば動きが止まるわけで、それは相手に大きな隙を与えることになる。当然俺はその隙を見逃すはずがなく、ハンドガンを２･３発ぶち込んでやった。
俺の放った弾丸は相手の頭部、右腕部、腰部を貫く。風穴の開いたエステは火花を散らしながら必死に動こうとするが、サ―ヴォが折れているため機械音が空しく空回りするだけだ。これでヤツはもう戦闘不能だな。
さて・・・・・・・、あと２機か。
今度のヤツらはどうやらなかなかできる連中のようだ。
仲間が一機おとされたことで警戒し出したのか、変則的に飛行をしながら次々とミサイルで弾幕を張りながら俺を一箇所におびき寄せようとする。
こちらの攻撃にも簡単には当ってはくれないしコンビネーションも整っている。どうやら軍人崩れかな。
そんなことを思っている間にも連中は次のミサイルを撃ち出そうとポットをこちらに向ける。少しラチがあかんな、ここは強引に行くか。
ミサイルの第２波が発射されるや否や、俺はミサイル群に向かってハンドガンを連射した。そのうちの数発がミサイルに当ることで周りのミサイルごと誘爆を始める。敵も即座にフィールドを張ったらしく、さすがにそれだけで撃墜することはできなかったが、それでも相手の足を止めるには十分だった。
フィールドの出力を上げ、爆炎の中を突っ切りながらまず片方のやつの頭を蹴り飛ばす。続けて未だ衝撃のショックから復帰しきれないもう片方に鉛玉をぶち込む。中枢部分に弾丸を食らったエステはその後も放電しながらもだえつづけたが、少しすると完全に静止した。
「さて、こんなモンですかね｣
とりあえず一段楽して一息つく。
それにしても思っていた以上にスゴイ機体だな、これは。
さっき弾幕に突っ込んだときにはさすがにこちらへのダメージも少しは覚悟していたんだが、まったくもってピンピンしてやがる。ミサイルを撃った時にも予想以上の命中率だったしな。サポート面でもいいソフトを使っているようだ。ホントお前大したヤツだよ。
「スゴイですね、タケザキさん｣
「ええ、話に違わぬ実力です。あれならこちらとしても申し分ないですね｣
その時は戦闘中だったので良く聞こえなかったが、その戦いぶりを見て二人も俺のことを評価してくれていたようだ。
俺から見て二人とも年下であることで少し微妙な気持ちにはなるが、腕前を認めてくれるのは嬉しい限りだ。
その頃、どうやら大尉の方もあらかたカタがついていたようだ。
「敵戦力９割方沈黙、フィールドも後３分は余裕があります」
「民間船の方は？」
「５分ほど前に戦域から離脱。もう彼らでは追いつけないでしょう。｣
どうやら例の船はこの宙域から離脱したらしい
それにしても５分も前に離脱したならこっちを手伝ってくれりゃあいいのものを･････
すこしばかり彼らの対応に少し不満を感じたがとにかく戦闘は終了に向かっている。これで少しはのんびりできるかな。
そう思って大尉の方を見た時、彼はどうやらこれからブリッジを占拠しようとしているらしくゆっくりと艦首部分に近づいていた。
だがその時、敵艦の影から新たに2つの機体が現れ、大尉の背後に忍び寄ろうとしていた！
先ほど連中が出てきたカタパルトには動きがなかったはずだ。チっ！隠しカタパルトでも有ったってのかよ！！
それにどうやらそれらの機体はステルス機構を有しているらしくレーダーに反応していない。
マズイ、大尉はヤツらに気づいていない！！
そう思うや否や、俺はメインブースターのスロットルを最大まで回す。
その瞬間今まで体験したこともないようなＧが体に襲いかかる！！
「ぐぉぉぉぉ！！こ、こいつぁちとキツイかな････！」
さすがは新型、機動性が段違いだ！おっと、今はそんなことを言っている場合じゃない。
とにかく、その段違いな機動性のおかげで俺はあっという間に大尉の背後の敵を射程に収めることができた。それと同時に俺のハンドガンが立て続けに火を吹く。
さすがに連中もこんなに速く俺が到達するとは思っても見なかったのだろう、回避行動が遅い。一機はそのまま鉛玉によってスクラップとなった。だが撃ち損じてしまったもう一機はその標準を大尉に向ける！ちょうど俺の機体は反対側を向いているために即座には反応できない。
駄目だ、間に合わない！！･･････そう俺が思った瞬間
ドン
なんともあっけない音を響かせながら一筋の閃光がその一機を貫く。
俺がその道筋を立っていくと、そこには振りかえりもせず銃口のみをこちらに向けた大尉の姿があった。
そして彼から通信が入る。
「よぉ、少し遅かったな、俺でなきゃぁ落とされてたぞ？｣
「ヘ、大尉･…気づいてたんですか！？｣
そこにはいつものオチャラけた顔の大尉が映っていた。
「当然！大体、艦長達もなんにも言ってこなかっただろ？｣
「そう言えば･････｣
確かに連中がステルス搭載だったとしても、ナデシコのレーダー機能ならヤツらを十分捕捉できたはずだ。なのに彼らからは警告の一つもなかった。という事は･････
「試しましたね･…？｣
少し怒りながら大尉に詰め寄る。
本気で心配したというのにそれも大尉のオフザケの一環だったと言われれば当然だろう。おもわず俺に向かって苦笑する三人を睨みつけてしまう。
「まぁ、そう怒らない怒らない。それにおかげでそいつの機動性も実感できただろ？｣
さすがに他の二人は少しばつの悪そうな顔をしたが、きっとこの人には何を言っても無駄だろう。そう思うと少し怒りも冷めてきた、それに気になるものも見えたしな･・・・
「はぁ、もういいですよ･････・・・ところで大尉、少し頭どけてもらえますか？」
「頭？・・・・こうか？」
「ええ、それでは少し失礼｣
そう言って大尉のエステが頭を下げたところに俺はその手に持つ銃口を向け、そして一発の弾丸を放つ。
その先にはボロボロになりながらもこちらに銃を向ける一機のエステがいる。それはさっき大尉が撃ちぬいたはずのエステだった。そして俺の弾丸はライフルごとその腕を貫き、完全にその動きを止める。
「少しばかり詰めが甘いですね、大尉｣
「な・・・・・・」
さすがの大尉も驚きを隠せなかったようだ。初めて見る彼の驚いた顔。
そしてあれだけカッコつけたにもかかわらずしとめ損ねたのが気に食わなかったのか、少しむすっとした表情になる。
そんな大尉の顔を見てしてやったりと思う俺はさらにこう言い放つ。
「これで合格ですかね？｣
それを聞いた大尉はますます驚いたような顔をして、それから豪快に笑い出した。
「くくく、ははははははははははははは！大したヤツだなお前｣
「大尉ほどじゃぁありませんよ｣
かく言う俺も顔がほころんでいる。そんな俺達のやり取りを見ていたのかナデシコのブリッジにいる二人も僅かに苦笑していた。
そうだ、ナデシコといえば。
俺はある疑問を抱えて艦長に尋ねる。
「ところで艦長、とっくに民間船は行っちゃったんでしょう？なんでグラビティーブラストを使わなかったんですか？｣
そう、それは先ほど感じた不満。どうせだったら援護射撃の一つでもしてくれようものなら楽に終えることができたのに・・・・
どうやら艦長は俺の言いたいことが分かっているようだ。少し申し訳なさそうに答える。
「申し訳ありません、タケザキさん。まず、先ほど言ったようにあなたの実力が見たかったのです。それに、・・・・・・」
「それに？」
一度間を置く艦長に俺は先を続けるように促す。どうやらこちらが本題のようだ。
「グラビティーブラストを使えば問答無用で敵艦を消滅させてしまいます。私としては相手にもなるだけ死者を出したくはなかったんです。それであなたを危険な目に合わせてしまったことは謝ります」
そう言ってぺコンと頭を下げる艦長。子供とはいえ上官にこんな風に頭を下げられると少しだけ動揺してしまう。
「い、いや、別にそんなことはイイですけどね。・・・・・・それにしても敵もなるだけ殺さず、ですか･･・・・･･･すこし甘くはありませんか？」
そう反論する俺に対して艦長はまたも静かに笑う。
「でもそれを言ったらお前も同じだろ？｣
「うっ・・・・・・」
言い返したのは大尉だった。
そう言われると今度は俺が何も言えない。今度は大尉がしてやったりといった顔で俺を見据えていた。
確かに俺もそうだ。今回にせよ前にせよ俺はなるべく相手を殺さないように末端部を狙うようにしている。
まぁ、一時期荒れまくってそんなこと気にも止めなかった頃もあったがな･････
いや、俺がなるだけ相手を殺さないようになったのはそれからのことだ。
仲間を失う悲しみ。それを多いに思い知ったあのときから、俺は人の命を奪うことをできるだけ避けるようにした。
敵とはいえあんなおもいを与えると思うと、引鉄がやたら重く感じるようになっってしまった。
・・・・・・・・そんなこと言いながらまだ軍人をやっているあたり、俺は矛盾しているのかもしれない。それに『奴』は別扱いだしな。
なんにせよ、俺はまだ半端者という事なのかな。
だが、大尉の方を見てもそれは同じのようだ。あれだけ派手にかましていたにも関わらず、彼の落とした機体のほとんどは動かない手足を動かそうとして未だに小さな火花を散らしていた。つまり、パイロットは無事だという事。さすがに体当たりで木っ端微塵にしてしまった機体はそうはいかなかったが･････
端から見ただけではオフザケトリオ、だがその心中はもしかしたら大尉も艦長も俺と同じなのかもしれない。
技術的にも恐らく軍の中でもトップレベルだろうし･････もしかしたら彼らにも俺のような過去があったのかもしれないな。
人は見かけに寄らないという事か。
なんか今日の俺は感心したり驚いてばかりだな。
そんな時、海賊船から一発の信号弾が打ち出された。どうやらこちらに投降する意を伝えているのだろう。
「今、彼らから通信が入りました。どうやら武装を解除してこちらに投降するようです。今『オニユリ』から回収班が向かっていますのでそれまで彼らの見張り、よろしくお願いします｣
｢了解」
とりあえずそこらへんに散らばったパイロットを機動兵器ごと一箇所にまとめながら俺はこれからのことを思っていた。
いきなりの戦闘で先が思いやられたが、おかげで彼らという人間を知ることができた。
そして出た結論、彼らはイイ連中だ。
屈託がないというか、きさくというか。彼らといるとまるで昔の仲間と一緒だった頃のような気分にさえなる。
作業中、大尉らと他愛無い会話をしながら俺は笑っていた。
こんな風に普通に笑ったのは久しぶりかもしれない・・・・・・この航海はもしかしたら楽しい船旅になるかもしれないな。
俺はこれからの旅に淡い期待を抱きながら、新しい仲間との間に確かな信頼と呼べるものが生まれたことを感じた。
ちなみにその時、大尉に後で卓球をしようと誘ったら快く承諾してくれた。
〜第３話 終・・・・・・のはず〜
〜以下オマケ〜
・・・・・・・ところでさっきから気になっていたんだが、コンソールの横にあるこの｢瓜｣マークがついたボタンは何なんだろうか？
こんなところにあるぐらいだから多分バランス調整かなんかだろうとは思うが，
いくらなんでも自爆ボタンってなことはないだろう、と思いながら何気なくそのボタンに手を伸ばす。
「よせ！！タケザキ！！！そのボタンに触るな！！！｣
「へ？」
それを見たタカスギ大尉がなにやら叫んでいるが時すでに遅し。俺の人差し指は止まることなく、そして違うことなく問題のボタンにゆっくりと圧力をかけていた。
そして次の瞬間････
「最終セーフティー解除｣
「ジェネレーター出力１２０％突破」
「全リミッター開放」
な，なんだこのヤバそうなウインドウは！！？
セーフティーってなんだよ，おい！！！
声にならない悲鳴を上げる俺の周りで、次から次へと危ない表示をしながらウインドウが点滅している。
そして極めつけは･･･････
「バーストモード起動、カウント開始シマス」
なんだ！バーストモードってなんだ！！！？？
いきなりコンソールから赤い光が溢れ、ウインドウには意味ありげに残り３０秒とか表示されている。
まさか，本当に自爆ボタンだったのか！！！！？？
俺がワケも分からずコクピットで一人あたふたしていると
「タケザキ！いいか、絶対に動こうとするな！！｣
大尉が恐ろしく慌てた表情で俺に嘆願する・・・・・・・・が、
「大尉？なんなんすかこれはぁぁ！！！？？」
いきなりこんな状況に陥り、そんなときに声をかけられればそちらに振りかえるのが普通である。
俺も例に漏れず軽く大尉の方に振り向こうとする。
・・・・・本来ならばココで機体の各所のスラスターがほんの僅かに噴射して機体の向きを変えるだけ････のはずだった。
しかし・・・・・・！！
ドゥオバァァァァァァァァァァァァァァァァ！！
「ンガァァァァァぁぁぁぁぁぁぁ！！！！｣
振りかえるだけのはずが、なぜか機体の全個所のスラスターが従来の倍はあろうかと思えるほどの出力で火を吹いた！！
体中に気を失いそうなまでのＧが襲いかかるが，歯を食いしばって必死に意識を保とうと試みる！！
・・・・・・もしかしたらそのまま寝てしまった方が幸せだったかもしれない･･･
俺の機体は最初振り向うとした方向、すなわち大尉のエステに向かって流星がごとく突っ込む！
「来ぅぅぅぅるぅぅぅなァァァァァァァ！！！」
「どぉぉぉぉぉぉぉけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！！！｣
ゴキィィィィィィィィン！！
耳に残る金属音を響かせながら俺の機体はタカスギ機と接触。その衝撃で大尉は宇宙の闇のかなたへと消えていく･･････
・・・・・・・・・が
それでも俺の機体は止まってはくれなかった･･･････
「内臓がァァァァ！眼球がァァァァァ！！！｣
先ほどの衝撃にも関わらず、俺のエステは止まるどころかどんどんその加速を速め信じられないスピードでであたり一面を飛びまわっている。
下手にブレーキをかけようとして逆噴射をかけるとこれまた常識外れな推進力が発生し、今度は反対向きに爆走する始末。
しかも，その時の慣性によるＧがまた馬鹿にならない。・・・・・・・というよりもはや殺人級だ！！
腹はへこみ、血管は浮き立ち、眼球は今にも飛び出しそうなほどだ。
このままでは，無人戦闘機に特攻した色白マッチョな異星人ハーフの某パイロットと同じ運命になってしまうではないか！！
やめろ！別に俺は空高く飛びたいわけじゃない！！
良く見ろ！俺のエステはまだ手足がついてるぞ！ファイターモードじゃないんだぞ！！どっちかというとバトロイドだ！！！
だが，どんなに心の叫びをあげてもそれをあざ笑うかのようにこの機体は暴走を続ける。
途中，せっかくコクピットははずしておいた敵機に真正面からぶつかったり投降したはずの敵戦艦をブリッジごと粉砕したような気がするが、もはやそんなことを気にする余裕は今の俺にはない！！
「･･･敵戦力、完全に消滅しました･････」
「・・・・・・・・・」
ブリッジでは艦長と少尉がその惨劇を目にしてただ唖然とするしかなかった。
そりゃあせっかく体を張ってまで敵にも少ない被害で済ませたのに、そのオチがこれでは泣きたくもなるのはわかる。
だが今一番泣きたいのは俺なのだ！
神様！これから毎日お祈りします，日曜日には教会にも行きます，赤い羽根にも募金します、競馬は一回三千円までにします，Ｈな本も買いません，未成年の煙草も飲酒もやめます（？）！！
だからこの哀れな俺を助けて，神様！！
嗚呼しかし，それでも俺の願いは届かない！！
「止ぉぉぉぉぉぉめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・・・・・・・・・！！！！｣
大尉から遅れること僅か十数秒，
悲痛な叫びをあげながら、俺も宇宙のお星様とあいなった･･･････
こちらは流れに取り残されたハーリーとルリ。
二人とも未だその事態に唖然とするしかなかった。
「・・・・・・タケザキ機，通信可能範囲から完全に離脱･･････｣
「・・・・・・・・・サブロウタさんは･････？」
痛い頭を抱えつつも、艦長としてはまずはクルーの安全確認が第一だ。
「あ，はい･････・･タカスギ機発見しました。エネルギーウェーブ有効範囲ぎりぎりのところで停止したようです。現在こちらに帰艦中」
ああ，良かった！とりあえず信頼できる手駒は無事だ。
その知らせで少しルリは元気になる。
後は飛んでいったタケザキを回収しなければ････
面倒だけれど仕方が無い，彼も大事な駒なのだから・・・・・。そんな少しひどいことを考えながら次の指示を出す
「タカスギ機回収後、予備の機体で再出撃。タケザキさんの捜索を――――――」
「！！レーダーに反応！こちらに向かって接近中の機体を捕捉―――――タ，タケザキさんです！！！」
「本当ですか！！｣
その知らせに彼女にしては珍しく笑顔で喜ぶルリ。
良かった！！これで無駄な時間を掛けずに済む！！
今の彼女にとってアキト捜索以外の時間は全て無駄に等しいのだ。
そんな彼女の内心を知らないハーリーは
（彼が仲間になってからまだ1日しか経ってないのにあんなに心配してたなんて･････
艦長あなたはなんて優しく美しい人なんだ！）
嗚呼，知らぬが仏････････
それはさておき、遥かな宇宙の果てから一直線に近づいてくる一筋の光。
それは紛れもなくタケザキその人だった！！
そう，彼はあわや宇宙の星となるところで果たすべき使命を思い出し、死力を振り絞って生還を果たしたのだ！！！
モニターに映った、傷つきながらも颯爽と仲間のもとに駆け寄ろうとする彼の姿はまるで幼い頃ＴＶで見たヒーローのようだ。
きっと今の彼の顔は生きていることの喜びと,仲間に心配をかけてしまった申し訳なさで照れながら笑っていることだろう。
そして少しだけ眼に涙をためて言うのだ「ただいま｣と！
艦内のいたるところから安堵のため息がもれる。
初日から新入りクルーの殉死という縁起でもない事態は免れたようだ。
あるものは静かに涙を流し、あるものは歓声をあげている。
今、ナデシコクルーの誰しもが我らがヒーローの帰還を今か今かと待っている。
だが，ふとルリが口を開く
「ハーリー君，タケザキ機・・・・・接近中は良いのですけど、少し速すぎではありませんか・・・・・・・？」
「・・・ですね・・・」
そう，タケザキは刻一刻と確実にナデシコに近づいてはいるが止まる気配がまったくないのだ。
いや，それどころか加速している！
とてつもなくいやな予感がしてハーリーはタケザキに通信をいれる。
そして彼の顔がメインモニターいっぱいに映し出された時、
二人は絶句した・・・・・・。
「・・・・・・・・ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！！！！！」
彼は先ほど消え際に叫んでいた「止めてぇぇぇ！｣を未だシャウトしていた。
その表情は照れているわけでもなく、ましてや笑っているわけでもない。
ただ純粋に苦しんでいるのだ！！
そう，タケザキ帰還の朗報のおかげでみな忘れてしまっていたのだ・・・・・・・・。
バーストモード発動からまだ３０秒たっていないという事実を・・・・・・・！！
そしてその状態のまま彼はこちらに向かっている。それが意味するものは･・・・・
「！！タケザキ機急速接近！ちょ，直撃コースです！！」
「総員対ショック防御！ディスト―ションフィールド展開，急いで！！｣
「駄目です！間に合わな――――――」
ドゥオガシャァァァァァァァァァァァァン！！！
「三十秒経過、バーストモード終了シマス」
一足遅い救済の言葉を聞きながら、タケザキの意識は闇へと沈んでいった･･･････
「・・・・・・それで，再び修理を行いたいと？｣
「ええ，今回の戦闘でいささか予定外のダメージを受けてしまったものですから・・・・・ご迷惑かもしれませんがよろしいでしょうか｣
僅か１時間前に別れたはずのルリとヤジマが通信室で会話をしている。
『オニユリ』から回収班が到着した時に彼らが見たものは投降したはずの海賊船ではなく、変わりに大きな穴があいたナデシコだった・・・・・・・。
タケザキの暴走は、多少なりともフィールドを張っていたおかげで最悪の事態は免れたがそれでもナデシコになかなか深刻なダメージを与えてしまい、一時帰港を余儀なくしてしまったのだ。
それにしても二人とも、まさかこんなにも早く再び顔を合わせることになろうとは思ってもいなかっただろう。
「分かった、ドッグの手配はこちらでしておこう･････それにしても君達も災難だったね」
「ええ、まさか投降すると見せかけて海賊達が自爆テロを行うとは思っても見ませんでした」
なんとこの艦長，自分が責任をとりたくないがためにあの事件を全て罪無き（？）海賊達のせいにしてしまおうというのか！？
しかもその顔には後ろめたさなどといった可愛げのある表情は微塵も感じられない。
こう言うところが一部のものから彼女を魔女と呼ばせたらしめる所以であろうか・・・・・・・。
極めつけはこの一言。
「まったく油断も隙もあったものではありませんね（ニッコリ）｣
二人がその後の手はずに付いて話し合っているその頃，今回の事件の真犯人は医務室で目を覚まそうとしていた。
「う・・・・・ここは・・・・・・・・？」
見なれない白い天井，体にかけられた白い毛布。
そこが病室であることを認識するまで多少の時間を要したが，少なくとも自分はまだ死んではいないという事だけはすぐ理解できた。
（あの悪夢の状況から生き残るとは･････ふ、俺はまだ死ねないという事か･･････）
そう，彼はまだ死ぬわけにはいかない。倒すべき敵そして，果たすべき使命があるから･･････
（アイナ････もしかしたら君が力を貸してくれたのかい･････？わかったよ，見ててくれ･･････俺は必ず『奴』を倒して見せる！）
先のショックのせいか、少しばかりキザが過ぎるようなことを考えながら今生きていることを亡き妻に感謝した。
だが，そんな独り善がりの感動シーンを状況は許してはくれなかった･･････
「なに物思いにふけってんだ？軍曹･･････（怒）｣
「た，大尉･････あ、それに皆さんも･･･････｣
全身がボロボロになっているサブロウタに声をかけられ、やっと今自分が置かれている現状を認識した。
部屋中の皆さんが自分をジ〜〜〜〜〜〜〜ッと睨んでいる。
彼らの目に映っているのは怒り、それだけだった･･････。
医務室は彼の不始末によって傷を負ったもので溢れかえっている。
ある者は包帯でぐるぐる巻きになっており、ある者はアフロへア―だ。これぞまさしくギャグのお約束的スタイル。
ついでに言えば、あれだけの惨事なのにこちら側には死者がいないのもお約束である。
だが，周りから見てそれがどんなにギャグであっても、やってる本人達はたまったものではない。
骨が折れれば痛いし火傷をすれば苦しいのだ。
無論、それはここではないどこか遠くの世界で『幼き不死者』と呼ばれているハーリーも例外ではない。
彼にしては珍しく、顔に青筋を立てながら諸悪の根源を睨んでいる。
そのあまりの空気の重さに耐えきれずタケザキは毛布にもぐりこんでしまった。
（クソ！なんで俺がこんな目にあわなければならんのだ！！
そうか、それもこれもみんなあの『奴』のせいなんだな！見てろよ，いつか必ず貴様に復讐してやる！！）
どう考えても奴当たりにしか思えないが、『奴』への新たな憎悪を胸に秘め，決意を新たにタケザキはボロボロになった拳をたからかに掲げる。
「ア･･アイナ･････見ていてくれ，いつか必ず･･･俺はァァァァ・・・・・・！」
「やかましい！！」
グショア！
結局ナデシコの修理が終わり再び出航できたのはそれから4日も後の事だった。
『奴』への道は果てしなく遠く，そして険しい･･･････
＊この物語はシリアスです＊
後書き
やっとできたよ第３話！！にしても疲れた・・・・・。
ホントは早くアキトとタケザキでガチンコ勝負させたかったんですけどね。それまでになんも無いんじゃぁドラマにならないと思って急遽、海賊さんに出てきてもらいました。
それにしても初めての戦闘シーンはやはりムズイ。書いては消し書いては消しで１時間は軽くつぶれたな。もうルリの戦略なんか書いてて良いんだか悪いんだかで、己の技量不足が恨めしく思えました。まだまだ勉強が足りませんね。
とりあえずはタケザキ君、ナデシコの皆と仲良しです。ホントはアキト戦までずっとギクシャクさせようかと思ったんですけど。よく考えればこのときはまだルリとアキトの関係を知らないわけですからね。後で喧嘩させるにしても始めは仲が良い方が面白そうだと思って今回の話を書いたわけです。海賊さんはタダのきっかけですね。
あと、初登場のグラビティーバスターは次の次あたりで使うことになると思います。はっきり言ってまんまアレですが、そこは突っ込まんといてください。
それで勝手なディスト―ションフィールド設定第２段として『フィールド張ってる間はろくな攻撃ができない』とありますが、ホントこれは俺の勝手な設定です。だってフィールドあるのに主砲撃ったら自分に跳ね返っちゃいますよね？たしか劇場版でもそんなような感じだった気がしましたし、まぁ本作において艦隊戦ではターン制が原則という事でご了承下さい。。
後半は･････気にしないで下さい。気がついたら書いてました。どこからともなくビジョンが湧いてきてそれをひたすらキーボードで叩きこむ。本編より楽しくすらすら書けました・・・・・・・これが俗に言う｢電波｣とか｢向う側の世界｣とか言う奴なんでしょうね、おそらく。ホントは壊れキャラなんて登場させるつもりじゃなかったんだけどなぁ･・・・・グラビティーバスターを作ったのはウリバタケにしようなんて思いついたのがいけなかったのか･････
やはり中途半端はよくないな、俺はシリアスに徹しよう。まぁ、これから先ギャグなんて書けないだろうから試しにってことで堪忍してください。
あとタケザキがやたら卓球のことを気にしていますが、タダ単に俺がやりたいだけですのでこれも気にしないで下さい・・・・・最近やる暇が無いんですよ・・・・・
そんなこんなでこれからもよろしくお願い致します、ではさいなら。
代理人の感想
・・・・・・・・・・・・と〜ぶん「シリアス」からは程遠い認識をされることでしょうな（核爆）。
個人的に言わせて貰えれば、ギャグとシリアスが半々でも全く問題なし！
なので、どうかこのまま開き直って特攻してください（爆）。
だって、笑えたんですもの（笑）。
＞弾数が何処かで聞いたような気もする
ああ、これでグラビティバスターの外見イメージは固定されてしまった（笑）。
・・・要はウイン○ガンダムのバスター○イフル（単銃身）でんな。