出会いと別れ、それは誰にでもある。
そして、彼等にも……
火星でも最大の都市であるユートピアコロニー。
その空港に、二組の家族がいた。
「アキト、ショウ君、また会えるよね?」
ユリカが名残惜しそうに、双子の幼馴染み――テンカワアキトとテンカワショウ――に話しかけた。
その口調と声色から、今の心境……別れたくないという思いが伝わってくる。
「大丈夫、きっと会えるよ」
「ま、俺等が地球に行くよりはユリカがこっちに来る方が確実だろうけど」
アキトは元気づけるように、ショウはちょっとおどけながらそう言った。
「ううっ、アキト〜〜!!」
ユリカはアキトに抱きついて、泣き出した。
別れを惜しんで……
そしてショウは、その光景を微笑みながら眺めていた。
一方、大人達も別れの挨拶をしていた。
「ショウとアキトがお世話になりました」
「いえいえ奥さん、こちらこそ娘がご迷惑をお掛けしました」
「しばしの別れだな、コウイチロウ」
「お前も元気でな、アキラ」
彼等はしっかりと握手を交わした。
「ユリカ、お別れの挨拶は済んだかい?」
「うん…………」
「では、そろそろ行くよ、ユリカ。アキト君とショウ君も元気でな」
「ユリカとおじさんも元気でね」
「おじさんも、またいつか会いましょう」
「アキト! ショウ君! それにおじさまとおばさまも元気でね!!」
ユリカ達を見送った後、アキトは空港の外へ向けて歩き出していた。
「アキト、何処へ行くの?」
「外から船を見送りに……」
「じゃあ30分後にはここへ戻って来なさい。ショウはどうするの?」
「それじゃ、俺も一緒に行ってきます」
「二人とも気を付けてね」
「は〜い、行ってきま〜す」
そして、ユリカの乗った戦艦を外から見送って、空港へ戻ろうとした時。
事件は起こった。
ドオォォォォン!!
ドカァァァン!!
突如、空港が激しい爆音と共に爆発した。
「「父さん、母さん!!」」
アキトとショウは駆けだして、空港内へと入っていったが、そこにあったのは死体ばかりであった。
アキト達はしばらく両親を捜したが、見つからなかった。
「父さん達は無事なのかな……」
「分からない、とにかくもっと探してみよう」
そう言って再び捜し始めようとしたが、次の瞬間、二人の視界は暗闇に包まれた。
「アキト……」
火星を去りゆく戦艦の中、ユリカはアキトの事を考えていた。
「ユリカ……」
コウイチロウも、掛ける言葉が見つからないようである。
そして時間が過ぎていった。
しかし……
キュゥゥィィィィィィンン!!
突然、虹色の光が辺りを包んだ。
「な、何事だ!!」
流石のコウイチロウも焦った。
何せ、急に部屋の中心が光り出すという怪奇現象を目の当たりにしたのだから。
コウイチロウが警戒してユリカを自分のほうに引き寄せる中、光は次第に人の形を作っていった。
そして現れたのは……
「―――! アキト!! ショウ君!!」
最初に声を上げたのはユリカであった。
光が消えた時、そこには倒れているアキトとショウ、そしてもう一つの人影があった。
その人影はかなり小柄であり、アキト達と同じくらいの歳にしか見えなかった。
灰色のマントとフードによって隠されていたため顔などはよく分からなかったが、フードから僅かに覗かせる白髪が印象に残っていた。
アキト達はただ気絶している、と言うか眠っているだけのようであり、表情も穏やかであるとは言えないものの、何もされてない感じだった。
「君は何者だ?」
コウイチロウがユリカを庇いながら、謎の人物に向かって言った。
僅かに時間をおいて、その人物は話し始めた。
「テンカワ夫妻が殺されました。次は彼らが狙われるかも知れない。故にあなたに託します」
その人物――声からすると少女と言うよりは少年だろう――はそう言うと、彼を中心として再び先程の光が生まれた。
「ま、待ってくれ! 君は一体!?」
コウイチロウは引き止めようと叫んだが、彼は直ぐに光の中へと消えてしまった。
そして数分後、あの少年が言っていた事を確かめるべく、コウイチロウは艦隊をユートピアコロニーへと転進させた。
―ユートピアコロニー空港―
テロによる騒ぎも殆ど収まり、ようやく空港周辺も静かになってきた。
勿論、テロ発生によって急遽戻ってきた軍の存在によるところが大きい。
結局テンカワ夫妻については、捜索開始から数時間後にテンカワ夫妻のものである大量の血痕が発見された。
遺体の方は運び出されてしまったのか全く発見できなかったものの、そこにあった血痕より二人とも致死量に値する量を出血していた事が確認された。
故に、テンカワ夫妻については行方不明とされたものの、死亡しているという見方が濃厚だった。
アキト達には無論行方不明だと話しておいたが、もしかしたら二人とも気が付いているのかもしれない。
アキト・ユリカ・ショウの三人はショックを隠しきれなかったようである。
その後、色々あって疲れたのか、子供達はコウイチロウの艦の個室で休んでいた。
そして翌朝……
アキト達は、コウイチロウと共に朝食を取っていた。
「所でショウ君、アキト君。君達はこれからどうしたい?」
「どうって……まだよく分かりません」
「取り敢えず、父さんと母さんを見つけないと……その後の事は決めてません」
「そうか……君達のご両親に関しては、こちらでも捜索しているところだ。もう暫く待ってくれ」
「こちらこそ、お願いします。どうにか探し出して下さい……」
(だが、あの少年の言っていた事が本当だとすると、恐らく……)
コウイチロウは口には出さなかったものの、テンカワ夫妻が既に死亡していると考えていた。
アキト達もその事を薄々感づいているようだった。
「それと、既に軍のほうにも『今回のようなテロの再発を防ぐために、先にこちらと交代する艦隊を送って欲しい』と報告しておいたから、私達もしばらくは火星にいる。だから何かあったら私の所へ来るといい」
「そう、ですか………」
ショウとアキトは俯きながらそう言った。
「それで、僕らはどうなるのですか?」
「その事で、ショウ君にアキト君、実は提案があるのだが」
「「何ですか?」」
「君達の今後だが、君達さえ良ければ私が引き取ろうと思うのだが」
「「えっ!?」」
「アキラ達には身寄りがいなかったはずだから、このままだと君達は孤児院に入る事になる。だが、私としては親友の息子である君達を引き取りたいのだ」
「急に言われても……」
アキトは唐突な提案に戸惑っていた。
一方ショウはコウイチロウの言葉をもう一度考えていた。
(おじさんの提案は良いけど、何故急に……もしかして昨日の事と関係があるのかな? だったら……。それにアキトとユリカのためにもここは……)
「ただ、私達の都合上、遅くとも2ヶ月後には火星を発って地球へ行かなくてはならない。だから今すぐにとは言わないが、それまでに考えてくれればいいよ」
コウイチロウがゆっくり考えればいいとアキトに言ったその時、
「アキト、俺はおじさんの提案に賛成だけど?」
「ショウ兄!?」
「だってそうすれば、ユリカとアキトが一緒にいられるし♪」
「「あ…………」」
アキトとユリカはお互いを見た。
「ふふっ、まぁそういう事でもあるな」
コウイチロウも苦笑しながら同意する。
「で、アキト、結局どうする?」
「アキト、ユリカ一生のお願い! 一緒に暮らそう!!」
「え、え〜と………」
アキトはみんなに見つめられて(ユリカには迫られて)、流石に困っているようである。
「アキト〜〜〜〜」
「あ〜〜分かった分かった!! 俺もおじさんの提案に賛成だから……」
「やった〜〜!!」
「うわっ、ちょ、ちょっとユリカ!!」
ユリカはアキトに思いっきり抱きついた。
ショウも二人の事を微笑みながら眺めていた。
そんな子供達を見ていて、コウイチロウは決意を固めた。
(ネルガルだろうと連合だろうと、彼等は絶対に守り抜く! アキラ達に誓ってな……)
そして、あれから2ヶ月後……
「名残惜しいか?」
「うん、やっぱり故郷だからね……」
アキトとショウは、空港の屋上から周囲を眺めていた。
彼等は今日、地球へ向けて出発する。
あの後何度か、何者かがショウを襲撃しようとしたようだが、コウイチロウが雇ったボディーガードによって全て阻止されている。
今もショウの周囲にはガードが付いている。
無論、ガードが付いているのはショウだけではない。
ユリカやアキトにも同様に付いている。
これは彼等が人質として攫われる事を、コウイチロウが懸念したためである。
「ア〜キ〜ト!」
ユリカが突然現れて、アキトに抱きついた。
「ふふっ、これでお前等もずっと一緒にいられるな」
ショウが笑いながらアキトを冷やかした。
アキトは過剰に反応して顔を赤くしている。
「ショウ兄ぃ〜(汗)」
「まぁまぁ、別に良いじゃないか。こっちとしても見ていて面白いし。……カグヤちゃんがここに居たら、一体どうなるやら」
ショウは苦笑しながら、昨年地球に引っ越した『もう一人の幼馴染み』の事を思い出していた。
(ま、結局アキトだけに関係する事だしね。それに見ていて面白いし♪ 何より俺は関係ない……俺はね)
人、それを『無責任』という。
一方その頃、コウイチロウはテンカワ夫妻の墓に来ていた。
アキト達は昨日来たのだが、コウイチロウは軍の用事があったため、来られなかったのである。
「アキラ……ショウコさんと元気出来やっているかい?」
花を供えながら、墓に語りかける。
「アキト君とショウ君の事は、私に任せてくれ。君達の代わりが務まるのか分からないが、頑張ってみせる。」
しばらく手を合わせていた後、彼は立ち上がった。
「彼等も私達と共に地球へ行ってしまうため、しばらくここへは来れなくなるが、遠く地球から皆で冥福を祈っている」
そして、彼は墓地を去った。
その数時間後、彼等の乗った艦は火星から次第に離れていった。
(アキラ、ショウコさん、あなた方の子供達は私が責任を持って育てさせて頂きます)
ブリッジから火星の大地を見ながら、コウイチロウは親友である彼等にそう誓った。
同じ頃、丘の上からアキト達の乗る戦艦を見上げている4つの人影があった。
「アキト、ショウ。元気でな……」
「コウイチロウさん、2人をどうかよろしくお願いします」
「既に歴史は変わり始めている。俺達に出来るのは、歴史が悪い流れに向かわないようにする事だけだ」
「後9年、それまでに私達は全ての準備を整えなければいけませんね。連合と木連、そして企業体に悟られないようにしながら……」
そして、彼らは虹色の光に包まれて消えていった。
後書き
どうも皆様はじめまして、タングラムと申します。
プロローグ0の方で言いましたが、プロローグ0が「時ナデ」のプロローグまんまなので、プロローグ編2話同時投稿とさせて頂きましたm(_ _)m
これらのプロローグ編は、アキト達がナデシコに乗るまでの動きを記したものなので、非常に説明的&単調な作りになってしまっているかもしれません(汗)
いっその事、プロローグ編を全部まとめた方が話数からすると多少良いのかもしれませんが、話の展開がばらけてしまうんですよね(汗)
では、またプロローグ2の後書きでお会いしましょう〜(笑)
しかし、初っぱなから連載なんかにして・・・・・・・大丈夫なのか自分?(自爆)
とか何とか言いながらちょっとキャラ紹介&原作との相違点の説明(核爆)
○原作との違い
この話はB3Yを元にしています<カイトがいる時点でお解りでしょうが(爆)
それと、この話自体が時の流れにのアナザーであるため、逆行前の世界にも北斗達は存在します。
(ただし時ナデの設定にある通り(+α)、北斗や優華部隊の殆どは既に故人ですが(汗))
カイトに関しては、あくまでルリの兄のような存在としています。
故にルリとくっつく事は無いです(笑)
そしてカイトとルリの性格が多少似ているため、双方とも恋愛感情はあまりありません。
アキト達の死後、ルリはミナトの所へ行きましたが、カイトはウリバタケと共にネルガルのバイトをしながら、コウイチロウの元で暮らしてました。
その後、ルリがナデシコBに乗艦する時に(コウイチロウやアカツキに頼まれて)軍へ入りました<三郎太と共にルリのガードも兼ねている
後は原作と同じような流れになります。
そして南雲の乱が終わったあとに、プロローグ0のような展開に……。
○カイトの設定
・ミスマル カイト(御統 カイト)
ナデシコで発見された時の年齢(推定);14歳
劇場版での年齢(推定);17歳
身長;167cm 体重;55kg
ナデシコで発見される前のデータは全て不明。
容姿は長い白髪に金色の瞳。女顔。
性格は温厚だが、時々きつい事を言う。
記憶喪失であるが、非常に高い知能と数多くの知識、そして武術を習得している。
(月臣によるとどうやら木連式柔らしい)
後天性IFS強化体質と診断されている。
体内に未知のナノマシンが多数存在しているが、何れも分析不可能であった
(ただしアキトに投与されたナノマシンの原型らしきものも含まれていた)
遺伝子検査によってA級ジャンパーである事が確認されたが、ネルガルによってその存在は秘匿された。
また、火星出身者にも該当する遺伝子データは存在しなかったそうである。
(どうやら遺伝子がナノマシンによってかなり弄られていたようである)
今度こそ次回にお会いしましょう〜
代理人の感想
ぬわ、アキトとユリカがいきなりラブラブっ!?
これはある意味意表を突かれました(笑)。
同時投稿に関してですけど全くそのとおりですねー。
時ナデのコピーをしただけの物をぽんっと出されると希望も何も抱きようがありませんから(爆)。
しかしコウイチロウ、駐留艦隊の交代って言うのはわかるにしても、
司令官だからって家族まで戦艦に乗せてたのかい(爆)。