目が覚めると俺は、時の庭園の中心部、玉座の間に立っていた。
正面には凝った装飾の巨大な椅子に腰掛けるMrs.テスタロッサ。
「…どうして、たった五つしか回収できていないのかしら?
私の買いかぶりだったのかしらね、
…この有様は。」
彼女は肘掛に頬杖をつきながら、不快な表情を露わに此方を睨みつけている。
なんだか長居したくない雰囲気なので、とっとと弁明して海鳴市に帰る事にする。
つまり、ジュエルシードの特性により探査が難しかった…と。
なにより、叱責される時間が勿体無い。
そう、口に出そうとしたら、
俺の口が勝手に動いた。
「ごめんなさい、母さん。」
…え?
「謝罪は要らないわ。
結果を寄越して頂戴。」
「…、
ごめんなさい。」
…あれ?
これって、一体?
ふと気付いたら、視線も動かせない。
身体も動かない。
…いや、正確には違う。
身体は動く。
視線も動く。
だが、肝心な一点が俺に違和感を叩き付ける。
すなわち、俺の意思を離れて勝手に動くのだ。
「そう、
謝りたいのね、私のフェイト。
…、
それならば、母さんは心を鬼にしてフェイトに罰を与えなければならないわ。」
え?
フェイト?
その言葉に驚く俺を無視して、Mrs.テスタロッサが指を鳴らした。
と、上から二本の光の紐が伸びてきて、俺の両手にそれぞれ撒き付く。
何をするんだ?
といぶかしんだ瞬間、光の紐が引き上げられ、俺は天井から吊り下げられた。
足は床を捉える事も出来ず、ちょうどY字の形に空中で固定されている。
俯いた視線はこれから起こる事を熟知しているからか。
視線に入ってきたMrs.テスタロッサの下半身と右手。
そして、右手に携えた杖が光を放って変形し、鞭となる。
その瞬間、身体が震えた。
…これは…、恐怖?
待て待て待て、
今、Mrs.テスタロッサはフェイトと言ったぞ。
ならば、今、この身体を操っているのはフェイト嬢のはず。
フェイト嬢がMrs.テスタロッサの娘である以上、鞭打ちなんてする訳ないじゃないか?
あはは、やだなぁ。
こんなドッキリは受けないですぜ、ミセス。
と、現実逃避しようとした俺に、鞭の痛烈な一撃が浴びせられた。
「…うっ!」
フェイト嬢も苦悶の声を上げる。
それも当然だ、大の男でもコレは痛い。
…、そういえば、
欧米では子供とは愚かな存在であるから、鞭打ち等の体罰により躾を身体に叩き込む事は正しい事である。
という考え方があるというが…。
古い児童文学でも体罰が描かれている事があるのは、そういう事なのだとか。
でも、コレは躾の範疇超えてるよう…
「ぅぐっ!」
くっ、鋭い鞭の痛みに一瞬、思考が飛んだ。
「っ!!…ぎぅっ!…ぐっ!…あがっ!…ああっ!!」
立て続けに振るわれる鞭の痛みで考える事も出来ない。
頭を垂れた視界の中、バリアジャケットがズタズタに裂けてゆく。
げ、並大抵の攻撃では破れもしないバリアジャケットが…。
ありえねぇ。
鞭って、懲罰用に造られた道具で実質的破壊力は皆無なんだが。
これも魔法の力なのか?
っていうか、なんでこんな事知ってるんだ俺は。
次々に襲い来る苦痛の中、思考に潜って逃避しようと試みるが、
Mrs.テスタロッサの鞭の衝撃は重く、振るわれる度、意識が飛びそうになる。
死にそうなほどの苦痛だ。
どんなに力強く振るっても絶対に後に残るような重大な傷は受けないと知っていても、振るわれる度に心が竦む。
どれだけ時間が経ったのか判らなくなる。
気が付けば、俺の…いや、フェイト嬢の身体は鞭の痕だらけになっていた。
体中が痛いが、それよりも胸の奥が痛い。
なんだ?
なぜ、こんな所に痛みを感じる。
「いい?
私のフェイト。
私の娘。
…
貴女は大魔道士プレシア・テスタロッサの一人娘。
だから、
どんな事でも、そう、ソレがどんな事でも、
完璧に成し遂げなければならない。
これだけ待たせておいて、上がった成果がコレだけでは…、
母さん、笑顔で迎える訳にはいかない。
判って?フェイト。」
Mrs.テスタロッサがフェイト嬢の顎をそっと持ち上げ、顔を覗き込んでくる。
…、Mrs.の顔が視界に入った途端、胸の奥の痛みが強くなった。
「…はい、判ります…、
…母さん…。」
なぜだろう、フェイト嬢が言葉を発するたびに胸の苦しみは強くなる。
この苦しみが何なのか、思考を巡らせていると急にフェイト嬢が顔を背け、目を瞑った。
えっ!?
疑問に思った瞬間、再び襲い来る激痛。
くそっ!
まだ鞭を振るうのかっ!
本気でマジなのかこの人!?
貴重な人材をこんな風に痛めつけても得られる効果なんて無いだろうに。
…それとも、まさか。
俺達なんて取るに足らない雑兵に過ぎないのか?
もし、俺達が倒れても、代わりの者がいるのだろうか?
それこそ、まさかだ。
もし予備人員が居るのなら最初から投入するはずだ。
人手を余らせて置いて、フェイト嬢に辛く当たるなんて道理が通らない。
苦痛の合間に思考を巡らせるが、現状の打破なんかはとても考え付かなかった。
と、始まりと同じく唐突に鞭を振るうのをやめたMrs.テスタロッサが語りだす。
「ロストロギアは母さんの夢を叶える為にどうしても必要なものなの。
それに…、お前の身体に宿るあのモノ…、
フラットを救う為にも。
で、
聞こえているのでしょう、フラット?
早くしないと『色々』手遅れになるわよ。
…
フェイトは優しい子だからフラットと違って、躊躇ってしまうかもしれないけれど、
邪魔する者があるのなら、潰しなさい。
どんな事をしても!
お前達にはその力があるのだから。」
唐突に両腕の拘束が外され、床に叩き付けられる俺達。
「…行って来てくれるわね?
私の娘。
…可愛いフェイト。」
「……、はい。
…行きます、母さん。」
うつ伏せになりながらも、片肘を突いて懸命に起き上がろうとするフェイト。
Mrs.テスタロッサは「少し眠る。」と言って去ってしまった。
何故だろう、Mrs.テスタロッサが優しそうな言葉を吐いた瞬間、胸の痛みが薄れてしまったが…。
得体のしれない感覚に困惑していると、フェイト嬢は何とか立ち上がって外に向かってフラフラと歩き始めてた。
危なっかしい歩みだったが、玉座の間を出ると待っていたアルフに抱きとめられ、ホッと一息。
しかし、フェイト嬢は直ぐに海鳴市に戻る気らしくアルフと口論してる。
今、ふと気が付いたんだが、俺たちは色々努力しても一週間で5つしかジュエルシードを手に入れられなかった。
勿論、それは効率の悪い方法を取っていたからかもしれない。
が、だとするなら、今のままで再探索しても大した成果は得られない。
路線変更が必要だ。
具体的には、捜索用の道具などを活用する…とかだが。
なんとかして、この事をフェイト嬢とアルフに伝えなければ…。
時の庭園にならば、何らかの道具が転がっていてもおかしく無い。
…どうやって伝える。
今の俺は、五感こそフェイト嬢と共有しているが、実際に物事に干渉する事は出来ない。
出来るのは思考をめぐらす事くらいだ。
なにせ、声も出せないんだからな。
…ん?
声…?
あ、そうだ!念話!!
もし、念話が使えたら、身体は動かせなくとも意思の疎通は可能だ。
では早速。
『あ〜、テステス。
本日は晴天なりー。
聞こえるなら反応してくれ、フェイト嬢、アルフ。』
「「えっ!?」」
「こんな身体で無茶だよ!」とフェイト嬢を思い留めようとしていたアルフと、
「大丈夫。お母さんとフラットの為にも頑張らないと。」と無茶をしようとするフェイト嬢が、口論を止めて一緒に驚いた。
『お、聞こえたか。
良かった。この状態で念話が出来るか心配だったんだ。』
「フ、フラットなのかい?」
『その通りだ、アルフ。』
「起きたんだね、フラット。」
『またしてもその通りだよ、フェイト嬢。
たった今、起きた。』
さすがに鞭打ちを一緒に体験してましたと言うのは…どうもな。
「…うそつき。
知ってたよ、母さんに鞭打ちされる前に起きたのは。」
『そうか、君には判るのか…。
すまない。もっと早く、念話を使う事を思いついていれば…こんな事にならなかったかもしれないのに。』
「ううん、フラットの所為じゃないから気にしないで。
でも、フラット?
私言ったはずなんだけど、
フェイト嬢って言わないでって。」
『…そうだったか?』
「うん。」
『はて?
…いや、まぁいいか。
判った、了解だ。フェイト。』
「はぁ…、で?
アンタがなんの理由も無く行動をする奴じゃないってぐらい判ってるよ。
今度は何なんだい?」
『流石はアルフ。
実は、先の一週間以上の成果を上げる為には、現状のままではいけないと思ってな。
何らかの捜索用の道具や戦闘補助の道具があるのならば、
この時の庭園から持ち出して活用してはどうだろうか?』
「ん〜〜?
道具ぅ〜〜??
ワタシは知らないけど。
フェイトはどう?」
「…えっと、母さんの倉庫に何かあったかもしれない。」
『決まりだな。
使えそうな物は全部持っていこう。』
「…でも、母さん、疲れたから眠るって。
だから、黙って持ち出しちゃう事になる。
それは…、嫌なんだけど…。」
「ハン、いいじゃないいか。
あの女も偶には困ったほうが良いよ。」
『では、書置きを残しておけば良い。
なに、ジュエルシード探索の為なら大目に見てくれるだろう。』
「…う、うん。
じゃあ、…こっち。」
フェイト嬢…もとい、フェイトが先導して倉庫への道を歩き出した。
先ほどまでアルフに支えられて一瞬ながらも身体を休められたお蔭か、足取りは比較的しっかりしている。
…
結局、倉庫を引っ掻き回してもあまり使える道具は見つからなかった。
何らかの分析器具や、測定装置の類はやたらとあったのだが。
測定装置も使い方次第では強力な味方になりそうだったが、如何せん大きすぎて持ち運び出来ないので断念した。
また、戦闘用に使えるような物は皆無だった。
予備のデバイスぐらい有ってもいいんだがなぁ…。
もっとも、広域捜索用の小型ゴーレムを複数入手出来た事は幸運だったと言える。
小鳥を模したこのゴーレムのお蔭で俺達は一回だけとはいえ、あの連中を出し抜くことが出来たのだから。
魔法少女リリカル☆なのは 二次創作
魔法少女? アブサード◇フラット
第四話 「苛烈! 第一次海鳴市沖海戦!?」
◇
海鳴市に舞い戻った俺達。
この街の拠点として購入した高層マンションの屋上に転移した時には、うっすらと夕焼け空が広がっていた。
ん、この一週間で慣れ親しんだ波動がそこそこ近くから流れてくる。
ジュエルシードが活動を開始しそうになっているようだ。
「バルデッシュ。
調子はどう?」
〔Recovery complete.〕
「そう。
偉いよ、バルディッシュ。
頑張ったね。」
自慢げに答えるバルディッシュに微笑んで頷くフェイト。
フェイトの顔は見えないはずなのに、なんで微笑んだのが判ったのか?
先にも言ったように、俺はフェイトの五感を共有しているので、顔の筋肉が微笑みの形に動くのもよく判るって寸法だ。
…、ここまで細かい仕草を実感できるという事は、今までフェイトは俺の行動を文字通り一緒に体感していたわけで…。
あ゛あ゛あ゛…。
なんか、女の子の教育上、取り返しの付かないような事を、
凄い大量にイタシテイタような…。
「…感じるね。
ワタシにも判るよ。」
と、アルフの台詞で思考がクリアーになる。
そうだ、今はジュエルシード回収が最優先だ。
「もう直ぐ発動する子が…近くに居る。」
フェイトが見据えた先には、贅沢に土地を使った臨海公園があった。
『フェイト。
キツかったら、交替するぞ?
あれだけのダメージを受けてるんだ。俺に任せておけ。』
俺が念話で入れ替わりを提案するが、
「ううん。
偶には私がやるよ、フラット。
それにフラットも同じだけの痛みを味わってるはずだよ。」
と、断られてしまった。
『…そうか。
俺は大丈夫なんだがな。』
「うん。
私も大丈夫。」
…やれやれ、強情な子だ。
「さあ、行こう。アルフ、フラット。
急がないと発動しちゃうよ。」
言うが早いかフェイトは魔力を纏いつつ、目的地目掛けて一直線にビルの縁から飛び出した。
◇
現場に駆けつけた時には、既にジュエルシードが発動していた。
唸りを上げる大木。
ジュエルシードの野郎、今度は木に取り付いたのか。
即座にフェイトがフォトンランサーの連撃を放つが、光弾は蒼い光の幕で遮られてしまった。
「うっはぁ〜!
生っ意気ぃ〜。
バリアーまで張るのかい。」
「うん。
今までのより強いよ。
…
それに、あの子も居る。」
アルフの言葉に頷くフェイト。
『高町 なのは、か。
ジュエルシードを封印するまでは此方に手を出さないだろうが…。』
「そうだね。
今は、ジュエルシードの封印に集中しよう。
行くよ、バルディッシュ。」
〔Arc savior.〕
無数の根を触手のように振り回す木のモンスターへ光刃を飛ばすフェイト。
光刃は根を幾つも切り裂いて、胴体間近で展開されたバリアーに止められる。
と、その時。
「撃ち抜いてっ!
ディバインッ!!」
〔Buster.〕
上空から、桜色の閃光が放たれた。
なのは嬢の砲撃だ。
だが、ジュエルシードが展開したであろうバリアーは貫く事を許さない。
もっとも、モンスター本体はディバインバスターが叩き付ける荷重で、もがき苦しんでいるが。
『…あの木のモンスター。
口のデザインが卑猥だなぁ…。』
思わず思い浮かんだ事を口走る俺。
「「…フラット、最低。ド変態。」」
そんな俺にフェイトとアルフは声を合わせて、痛烈な一言を浴びせるのだった。
「…ふぅ。」
溜息をついて、意識を切り替えるフェイト。
うう、すまんかった。
キリリと眉を引き絞り、左手で印を切る。
そして展開する魔法陣。
「貫け!轟雷っ!!」
〔Thunder smasher.〕
正面に展開した魔法陣にバルディッシュを叩き込むと、前回俺が使った以上の閃光が放たれた。
金の閃光もジュエルシードが展開するバリアーに阻まれる。
が、
なのは嬢のディバインバスターもフェイトのサンダースマッシャーも今だ全力展開中。
いささかも出力に衰えが、無い。
結果、
二方向から叩き付けられる強力な砲撃魔法に、流石のジュエルシードも根を上げた。
バリアーが砕け、木のモンスターが押し潰される。
そして、そこから浮かび上がるジュエルシード。
「ジュエルシード!」
「シリアルZ!」
「「封印っ!!」」
それぞれデバイスを、封印形態に移行させたフェイトとなのは嬢が封印を開始すると、
ジュエルシードを中心に光が周囲を覆い尽くした。
咄嗟に視界を左腕で庇ったフェイトだったが、
光が落ちつくと、既になのは嬢が此方を見据えていた。
「…。」
バルディッシュがシーリングフォームのまま、なのは嬢と同じ高さまで浮上するフェイト。
十分な高さを得ると、なのは嬢に語りかけた。
「…、ジュエルシードの側で戦うのは止めた方が良いみたい。」
「うん。昨夜みたいな事になったら、
私のレイジングハートも、フラットちゃんのバルディッシュも…かわいそうだもんね。」
なのは嬢の台詞に頭を上げるフェイト。
と、そこでなのは嬢がある事に気付く。
「って、あれ?
昨夜は『ちゃん付けするなっ』って何度も怒ってたのに。
…、
あれ?…目付きが違う?
貴女は…フラットちゃんじゃ…ない?」
「そう。その直感は正しい。
私はフェイト。
フェイト テスタロッサ。
始めまして、高町 なのは。」
「あっ!
始めまして!!
…って、
どうして私の名前を知っているの?
どうしてフェイトちゃんはフラットちゃんと同じ姿なの?
…双子?」
「それは、私とフラットが一人で二人だから。」
「え?」
「つまり、私とフラットはこの一つの身体を共有しているの。
だから、フラットの見た事、聞いた事は私も知ってる。
…
だから、貴女の事は知っている。」
「ほぇぇっ。
多重人格…なの?」
「そう、
でも、それは不自然な事。
だから、いずれ私とフラットは融合してしまう。
フラットは事故で私の中に入ってしまったから、多分、フラットは私に吸収されてしまうはず。
そんな事はさせたくない、したくない。
その為には、ジュエルシードが必要なの。
フラットが元の身体に戻る為にも、
…だからジュエルシードは、渡せない。」
「…
そう…なんだ。
…ようやく判ったよ。
ありがとう、フェイトちゃん。
…でも、
何か別の方法だってあるはずだよ!
強引にジュエルシードを奪うフェイトちゃん達を、
私、許せない!!」
「そう、
じゃあ、ジュエルシードに余計な衝撃を与えない為にも、
一撃で全てを…決めよう。」
「うん…。
私が勝ったら、もっと、お話、聞いてくれるねっ?」
〔Device form.〕
〔Device mode.〕
二人が覚悟を決め、各々が持つデバイスを通常形態に変形させる。
このまま二人が全力でぶつかりあうと思われた時、
忘れてはいけない事を思い出した俺は、念話でなのは嬢に追加の条件を提示する事にした。
『ちょっと待った、高町 なのは!
その条件を受け入れる代わりに、此方が勝ったらジュエルシード全部、寄越せ。』
「え?
フラットちゃん、喋れるの!?
…う〜〜ん、じゃあ、その条件で良いよ。
でも!
フラットちゃんも『お話』に参加だよ!」
なのは嬢の能天気と評してもおかしく無い言葉。
ついでに言うなら、ちゃん付けするな。
その直後、
様々な事態が立て続けに起こった。
まず、俺となのは嬢の付き添いのフェレットが「そんな単純な事で手持ちのジュエルシードを賭けるのか!?」
と驚きの声を上げようとした瞬間、
フェイトとなのは嬢を挟んだ空間に回転する魔法陣が展開した。
魔法陣に記された術式が視界に入り、ハッとする。
転移魔法だ。
魔法陣から一人の少年が飛び出す。
「ストップだっ!
ココでの戦闘行動は危険すぎるっ!!」
勇ましく飛び出した少年は右手に持った杖を此方に向け、
装甲で覆われたグローブをつけた左手をなのは嬢に向ける。
と、その姿勢のまま、つんのめった。
『「「「「……。』」」」」
その場に居た全員、すなわち、フェイトと俺とアルフ、なのは嬢とフェレットが、
白い目で彼を見る。
「何してんだ?コイツ。」…と。
多分、彼は出現するタイミングを間違えたのだ。
本当なら、フェイトとなのは嬢が激突する瞬間に介入して、膠着状態を演出しようとしていたのだろう。
だが、俺が肝心なタイミングで戦いの腰を折ってしまった為、予測していた行動と現実の差に食い違いが出てしまったのだ。
セコイというか、打算的というか…だが、効率的なのは否定できない。
特に、この二人を傷つける事無く確保するには一番だろう。
「…、ゴホンッ!
え〜っと、
時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。
詳しい事情を…聞かせてもらおうか。」
ギロリ、ギロリとフェイトとなのは嬢を見据えるハラオウン執務官。
明らかに少年なのに、既に官職持ちとはコレ如何に?
まぁ、時空管理局とやらでは労働基準法の類はお呼びでないのだろう。
結構ヤバそうな状況なのに、どうでも良い事に気が付く自分の感性に驚く俺。
まぁ、それはソレとして…
「付いて来い。」と言わんばかりにゆっくりと降下するハラオウン執務官に合わせる様にフェイトとなのは嬢も降下を開始した。
3人が地面に向けて降下すると、ハラオウン執務官が改めて口を開いた。
「まずは二人とも武器を引くんだ。
このまま戦闘行為を続けるのなら…」
3人とも地面に足を付けた時、ハラオウン執務官が話の途中で急に上空を見上げた。
上空から飛来する魔力弾。
咄嗟に展開した魔法障壁でオレンジ色の魔力弾を弾き飛ばすハラオウン執務官。
と、上空から声がした。
「フェイト、撤退するよ!
離れてっ!!」
アルフが上空から援護射撃をしているのだ。
アルフの周囲に第二射目の魔力弾が大量に浮かび上がる。
状況に困惑しつつも、上空に飛び上がるフェイト。
そのままジュエルシードに向かう。
そうか、確かにジュエルシードを回収しないと出てきた意味が無い。
…しかし、なんだかフェイトの動きのキレが悪い。
身体に意識を向けると体温が妙に上昇しているような…。
…まさか!
体中の鞭打ちの跡が熱を持ってしまったのか!?
っていうか、気が遠くなるくらい鞭で打たれ続けた後に戦闘をしようというのが既に問題だ。
更に、魔法には精神力が多大な影響を及ぼすと聞いている。
「母」に鞭打たれるなんて体験がフェイトの精神を痛めつけない訳が無い。
…そうか、あの胸の痛みは…心の痛みか。
糞っ、ソレぐらい気付けよ俺!
と、足元でアルフの魔力弾が盛大な土埃を上げる。
ナイスだ、アルフ!
煙幕として丁度良い。
『良し、頑張れフェイト!
もう少しでジュエルシードだ!』
「…うんっ。」
必死に左手を伸ばすとジュエルシードが直ぐそこに…。
その時、土埃を貫いて下方から青いレーザーが多数、此方へ襲い掛かって来た。
ジュエルシードのすぐ側を通過して空の彼方へ飛び去るレーザーの束。
鋭い痛みが左腕を襲った。
「あぅっ!」
痛みに耐え切れず、魔力操作に失敗し浮力を失うフェイト。
くっ、左腕をレーザーで貫通されたのか。
確かにコレは痛い。
鞭打ちのダメージを引きずっている今のフェイトだと失神してもおかしく無い。
が、ココまで来てっ、
諦めきれるかっ!!
唐突に何かが反転する感覚に襲われる。
ふと気付くと、身体が自分の思い通りに動くようになっていた。
『えっ!?』
脳裏に響くフェイトの驚きの声。
だが、今は構っている暇が無い。
「バルディッシュ!
シーリングフォームだ!!」
〔Sealing fome.
Set up.〕
槍状に変形し、翼を生やしたバルディッシュに命令を下す。
「あのジュエルシードを回収しろっ、バルディッシュ!!
…、
っ行けぇぇぇっ!!」
落下しつつも槍投げの要領でバルディッシュを投擲する俺。
良し、軌道は真っ直ぐジュエルシードに向かってる。
次の問題は、自由落下中の俺達か。
身体を捻って下を見ると思ったよりも地面が近い。
魔力でもう一度空に飛び上がるには、高度が足りない。
…、ならば着陸するしかないな。
右手を地面へ向かって突き出し、魔法障壁を多重展開する。
何時か、なのは嬢のフェレットが落下するなのは嬢を受け止めた時の様に、コレをクッション代わりにするって寸法だ。
「フェイト〜〜っ!!」
上空からアルフが血相を変えて突っ込んでくる。
よし、これで万一失敗しても回収してもらえそうだ。
右手の魔法障壁群に力を注ぐ。
と、一枚目が地面に接触した。
一枚目と二枚目の空隙が圧縮され一枚目の魔法障壁に負荷が掛かる。
続いて二枚目と三枚目、三枚目と四枚目の魔法障壁もゆっくりとたわんでゆく。
右手一本で倒立するのは辛いが、魔法障壁群のお蔭でかなりの落下速度を殺す事が出来た。
と、右手に限界が来て、ゴロリと地面に受身を取る様に転がり降りる。
「ふぅ、なんとか着地出来たか。」
上を見上げると目的を果たした相棒、バルディッシュがクルクルと回転しながら落下してくる。
目の前まで舞い降りたところを右手で掴み取った。
〔Capture.〕
金色の宝石であるコアを瞬かせて、誇らしげに「仕事を果たしたぞ。」と宣言するバルディッシュ。
「フェイトっ!
…って、またアンタに入れ替わったのかい?」
すぐ側に降り立ったアルフが俺達の入れ替わりに気が付いた。
「おう。
多分、さっきの一撃でな。
が、なんとか目的は果たせた。
…撤収するぞ。」
「はん、アンタに言われるまでも無いさね。」
アルフの言葉にニヤリと笑いながら、逃げる準備に入った。
「バルディッシュ、スモークだ。
煙幕で連中を文字通り、煙に巻くぞ。」
〔Get set.〕
ガシャンとバルディッシュから飛び出している二本のシリンダーが伸びる。
伸びたシリンダーには無数の穴が開いた排気口。
そこから、黒い煙が大量に噴き出した。
煙は即座に俺達を覆い隠し、更にその範囲を広げて行く。
「くっ!?
…むざむざと、逃がすかぁっ!!」
ハラオウン執務官が吼えると見当違いの場所を青いレーザーが駆け抜ける。
だが、彼の攻撃はそれだけで終わらなかった。
レーザーを連射しつつデバイスを縦横に振り回す事で、俺達が居そうな地点に片端から掃射攻撃を開始したのだ。
ランダムに走るレーザーは俺達が逃げる事を許さない。
黒い煙を貫いて至近距離にやってくる奴を避けるのが精一杯だった。
「ちっ、自分で自分の首を絞めちまったか!?」
「愚痴言ってる暇無いよっ!」
俺とアルフが声を上げると、ソレを頼りにハラオウン執務官が至近弾を浴びせてくる。
やばい、もう少しで森の中に逃げ込めたのに、
もたついていたから折角の煙幕が晴れてしまった。
煙幕が晴れた先には、デバイスを躊躇い無く構えたハラオウン執務官。
左腕を庇いつつも逃げるのを諦め、彼を倒す事を考え始めたその時。
「駄目ぇっ!!」
なのは嬢がいきなり俺達の前に飛び出した。
「やめて!撃たないでっ!!」
どうやら身を挺して盾になってくれるらしい。
…なぜだ?
なぜ、なのは嬢が敵に塩を送るような真似を?
「フラット!
今だよっ!!」
アルフの言葉に考える事を一時的に止めて、撤退することにする。
が、先のフェイトと同じく動きの鈍い俺を見かねて、アルフが俺を自分の背に乗せ全力で駆け抜けた。
身体が熱っぽい。
その所為か、やたらと身体が重く感じる。
アルフの背に揺られながら血を流す左腕にマントを巻きつけ、申し訳程度の応急処置を施すと、
俺は睡魔に襲われ、即座に眠ってしまった。
☆
「くそっ、逃げられたっ!!」
突然現れた男の子が悔しそうに地面を蹴っている。
確か、名前はクロノ君。
フェイトちゃん達の逃亡を手助けする形になってしまった私を睨んでます。
「なのはっ!
大丈夫だった?」
と、私の側に駆けつけるユーノ君。
「うん。
何にも無かったからね。」
ユーノ君にニッコリ微笑むと、クロノ君が憮然とした表情になりました。
と、クロノ君の目の前に魔法陣が浮かび上がって、そこに女の人の映像が映りました。
『クロノ、お疲れ様♪』
「済みません、片方をロストロギアごと逃がしてしまいました。」
『う〜ん、まぁ、仕方ないわよ。
彼女達がそれだけの実力者って判っただけでも収穫よね。
…、それでね、
ちょっと話があるから、そちらの子達をアースラまで案内してくれるかしら?』
「了解です。
すぐに戻ります。」
クロノ君の言葉に頷くと魔法陣はスッと消え去って、クロノ君が私達に向き直りました。
…う、なんだか鋭い目線。
お、怒られるのかな〜〜?
…
結論として、アースラと言う名前のとても大きな船で私達はアースラの艦長リンディさんとクロノ君に、
怒られこそしなかったものの「無謀だ」と窘められ、
私達のやってきた事(ジュエルシード探索)を「後はこちらで引き継ぐ」と、取り上げられ、
フラットちゃんとフェイトちゃんの事で私が知りえた事を洗いざらい説明させられ、
…、
ついでに、コレはリンディさんやクロノ君には関係無いけれど、ユーノ君の真実を叩きつけられちゃったりしたのでした。
ユーノ君が人間の、それも男の子だったなんて、私、聞いて無いよ!?
…一緒に温泉にも入っちゃったのに…。
ううっ、裸見られちゃった。
ううん、そうじゃない。
裸を自ら見せ付けちゃったんだ。
はう…、余計に凹むよぉ。
今にして思えば、温泉で…いいえ、今までユーノ君が見せてきた「恥ずかしそうな行動」の事実がようやく判りました。
判りたくなかったけど。
はぁ…。
一緒に温泉に入ったアリサちゃんがこの事を知ったら、ユーノ君殺されちゃうよ。
同じく一緒だった、すずかちゃんはどうだろう?
…、
笑って許してくれるような気がする。
でも、アリサちゃんがこの事で傷ついてしまったら、きっと「どんな事をしてでも」許さないと思う。
「力」の有る無しに関係無く私達の中で一番怖いのは、たぶん…すずかちゃんだから。
「これからの事を、一日ゆっくり考える様に。」
とリンディさんから告げられて、クロノ君に送り届けてもらった臨海公園。
そこで海を見ながら物思いに耽っていると、ユーノ君が話しかけてきた。
「ごめんね、なのは。
今まで騙していて。」
「ほぇ?
…、ううん。
その事については良いの。
ビックリはしたけど、それだけだよ。」
「…そう。
ありがとう。」
申し訳なさそうに微笑む、ユーノ君。
う〜〜ん、ユーノ君って凄い生真面目な人だよね。
そこまで凹まれると、逆にこっちが申し訳無く感じちゃうよ。
再び物思いに耽ると「あ、そうだ。」と、人の身体から、フェレットの身体に変身するユーノ君。
そのまま、私の肩まで駆け上がって、
「こっちの方が、暮らしやすそうだから…。」
と、再び申し訳なさそうに言うユーノ君に私は「この話題は終了」という意味も込めて口を開きました。
「そろそろ、お家に帰ろう。
後の事は、晩御飯を食べてからゆっくり考えよっ。
これから…どうするのか。」
こうして、私の肩で頷くユーノ君と共に家に帰る事にするのでした。
◇
拠点に帰りつけた事で安心したのか、身体を苛む熱はいっそう高くなったような気がする。
俺はリビングのソファーに寝転がって、アルフの治療に身を任せていた。
「もう終わりだよ。
管理局まで出てきたら私達の出る幕、無いよ。
フェイトが今もちゃんとして存在してるなら、ワタシ文句無いからさ、
どっか逃げようよ。
あの鬼ババ、いっつも訳わかんない事言うしさ、フェイトを苛めるしさ、
…
もう駄目だよ。
フェイトが戦う理由なんて無いよ。
そりゃ、ワタシもフラットの事はどうにかしてやりたいけどさ…。
命あっての事だろ?
管理局のアイツ強いよ、あの白いガキよりよっぽど強いよ。
ワタシはもう、フェイトが傷つく姿を見たく無いんだ。」
『…アルフはやさしいね。』
左腕の傷に薬を塗りつけて、包帯を巻きつつ、逃げる事を提案するアルフにフェイトが念話で語りかける。
『でも、駄目だよ。
フラットがこのまま消えるなんて、駄目。
それに、ジュエルシードを集めるのは母さんのお願いだから。
…だから、私は逃げない。』
「…、俺は…消えたくない。
このまま、本当の自分も判らず消えてしまうなんて耐えられない。
だが、その為にこれからもフェイトが苦しむのならば、
俺は、俺自身が許せない。
…それくらいだったら、
…
…
………、諦める…ぜ?」
…諦められるはずが無い。
俺にとって諦めるって事は自殺するのと同じ事だ。
出来る事があるのなら何だってしてやる。
だからこそ、ジュエルシード集めに精を出しているのだ。
だが、その為にフェイトを犠牲にするのは、話が違う。
フェイトは巻き込まれただけの少女に過ぎない。
それに、身体を俺に奪われても文句一つ言わないこの子に、俺は何かしてやりたくなったのだ。
『私、苦しくなんかないよ?』
「フェイト。
本気で言っているのなら…、
いや、そういう事か。」
フェイトの発言に反発しそうになった所で、フェイトとMrs.テスタロッサの関係を思い出してそれ以上言う事を止めた。
俺には彼女のささやかな逃避を暴くような残酷な真似が出来そうにない。
「?
フラット?何を言ってるのさ?」
「いや、何でも無い。
俺の思い過ごしだ。」
アルフの問い掛けを適当に誤魔化す。
当人が聞いているのに言える訳が無い。
『苦しくない』と思わなければ、今までやっていけなかったんだな…なんて。
服を着替える時に気が付いた、体中を走るミミズ腫れの痕。
治りかけたモノもあれば、新しいモノもあった。
それはつまり、今日あったような鞭打ちを頻繁に受けているという事。
普通なら、とっくに逃げ出していてもおかしく無い。
だが、幼い子供が親の元から何処へ逃げるというのだ。
そう、自立した精神が有ったればこそ、身の安全を守る為に逃げるという選択肢が浮かぶのだ。
なんらかの理由で暴力に訴えるしかなくなった親、逃げる事を知らない子供。
だからこそ、児童虐待は過酷な結果を生み出す。
ソレを思えば、フェイトの『苦しくない』はかなり健全だ。
アルフの存在が支えになっているからだろうか、いや、過信は禁物だ。
健全な素振りでもしなければ生きてこれなかったのだろう。
フェイトは芯の強い娘だ。だが、同時に酷く脆い面もあるはずだ。
既に取り返しの付かない亀裂が入っていてもおかしく無いのだから。
……まてよ。
と言う事は、Mrs.テスタロッサも暴力に逃避するほどの重圧を受けているのか?
うむむ、少なくともMrs.テスタロッサを責める気は俺には無いが。
何故なら、この手の問題は「どちらも悪くない」事も往々にしてあるからだ。
ストレスで壊れてしまった人に何が言える?
元々、物事を白黒付ける行為に、俺は価値観を見出せないしな。
それはともかく、俺としてはフェイトの身の安全を最優先するべきなのかもしれない。
Mrs.テスタロッサを責めない事と、身を守る事は別の事柄だからだ。
なにより、児童虐待は親と子を離れた場所に置く事で事態を緩和させられる事もあると聞く。
「…フェイト。
フェイト?
……、フェイト!!」
「うぉっ!?」
「あーっ、まったく。
勝手に物思いにふけってんじゃないよ。
ワタシら、これからの相談をしてたんじゃないか。」
「ああ、スマン。」
『でも、相談する事なんてないよ。
私達はジュエルシードを集める。
それは変わらない。』
「……、はぁ…。
判ったよ、フェイト。
でも、無理はしないでおくれよ?」
心配顔のアルフを落ち着けさせようと思い、俺は口を開いた。
「ふん、俺が居るんだ。
無理はさせないさ。」
「アンタが一番信用ならないんだよっ!」
『確かに。
フラットは、直ぐに無理をするね。』
「…、否定できないのが辛いな。」
それ見たことか。と俺を見やるアルフ。
…心配そうな雰囲気が消し飛んでいる辺り、一応、俺の目的は達せられた…のか?
そんな彼女に俺は今後の展開を提案した。
「さて、流石に俺も今は休むしか無いんだが、
その間にアルフ、
あのゴーレムを使って一仕事してくれないか?」
「?
…ああ、あの小鳥ね。
五つあるんだけど、どういう風に使うんだい?」
「基本は、まだ行っていない地点へそれぞれ飛ばす…だな。
あと、以前探したが空振りだった地点に隠れている可能性も否定できない。
が、これは手が空いたらで、かまわないだろう。
…、
そうだ。
一つは、なのは嬢の追跡調査に使おう。
上手く行けば彼女の動きを先読みしたり、時空管理局の出鼻をくじく事が出来るかもしれない。」
「ハン。
相変わらず卑怯な事ばっかり思いつくんだねぇ。
ま、いいよ。
やってくるさ。」
と、小鳥型のゴーレムを五体胸に抱えたアルフが席を立つ。
屋上で放すつもりらしく、そのまま玄関を出て行った。
ちなみに、件の小鳥型ゴーレム、
戦闘能力は無い。
簡単に言えば、魔力操作で操るラジコンみたいなモノ。
ゴーレムの視覚を複数の人間で共有出来るのが唯一にして最大の特徴だ。
つまりは小型無人偵察機って奴。
他の利点を挙げるとするなら、精巧に作られているので簡単には見分けがつかない事。
そして、きわめて微弱な魔力で稼動するので、魔力探知に優れた存在でも識別が困難だと言う事。
正確にはゴーレムではなく、傀儡兵の一種らしいが。
…さて、偶にはベットで身体を休めるか。
「フェイト、俺達はゆっくり休む事にしよう。」
『……。』
「?
寝た……のか。」
まあ、色んな意味で過密な一日だったからな。
当然だろう。
「…ちょうど良いタイミング…かな。
バルディッシュ、
頼みがあるんだが…。」
自分達にあてがわれた部屋に向かいつつ、右手に持ったペンダント、待機状態のバルディッシュに頼みごとをする。
フェイトに聞かれて困るような内容では無いが、きっと彼女は良い顔をしないだろうしな。
快く俺の提案を受け入れてくれたバルディッシュをベット脇の小物置きに置いて、
俺はベットに倒れるように飛び込む。
そして俺もフェイトの後を追うように眠りに落ちた。
☆
「クケェーーーッ!!」
光り輝く火の鳥…の様なジュエルシード・モンスターを、人の姿に戻ったユーノ君が展開した光の鎖で拘束しています。
モンスターは光の鎖を引っ張って逃れようとしているけど、
ユーノ君がそれを許さない。
「捕まえたっ!
なのはっ!!」
「うんっ!」
ユーノ君の言葉に私はレイジングハートを構えて、これから成す事を宣言します。
〔Stand−by reday.〕
「リリカル・マジカル…
ジュエルシード、シリアル[!
封印っ!!」
〔Sealing.〕
シーリングモードのレイジングハートから桜色のリボンが何本も飛び出して火の鳥を貫きます。
そして消滅。
後に残るのは、とんでもない魔力を溜め込んでいるというジュエルシードという名の宝石のみ。
封印は完了したけれど、このまま放っておくと酷い事になるのは以前に経験済みだから警戒は怠らないの。
ちゃんと、レイジングハートの中に取り込まれるまで何が起きても良いように構えておきます。
今回は、私達の行動を見てる人達がいるんだし。
と、ゆっくりとレイジングハートに引き寄せられつつあったジュエルシードが、いきなり空中に静止しました。
「?」
そのまま様子を見ていると、どこか別の方向へユラユラと漂い始めました。
「え?
なに、これ!?」
そのまま何処かへ行こうとするジュエルシードを捕まえようと、一歩足を踏み出した瞬間、
ジュエルシードの行く先に金色の魔法陣が展開し始めました。
「な、なんだこれ?
…はっ!?
これは転移魔法っ!!」
少し離れた場所で立っていたユーノ君が驚きの声を上げます。
「こんな目印も何も無い所にピンポイントで転移してくるなんてっ!
一体何者なんだっ!?」
と、ユーノ君は言うけれど、私には大体の予測がつきました。
金色の魔力光を放つ魔道士でジュエルシードを追い求める人は、私が知る限り一人だけ。
瞳に不思議な感情を見せるあの子…、
ううん、あの子達だけ。
私がそう思うのと、あの子達が魔法陣の中に姿を現すのは同時でした。
そう、フラットちゃんとフェイトちゃん。
そして付き人のアルフさん。
あ、なんだか悪党っぽい笑顔をしてるから、今はフラットちゃんが表に出てるみたいなの…。
◇
無事、目標地点に転移すると、転移術式に引き寄せられたのかジュエルシードが目の前に浮かんでいた。
「ふ、ツキにツキまくってるな。
至れり尽くせりじゃないか。」
ニヤリと笑いながら、左手でジュエルシードを掴み取る。
と、少し離れた場所に立っていたなのは嬢が声をかけて来た。
「フラット…ちゃん?
その、左腕…、大丈夫?」
…!?
コイツ、
いきなり現れた事や、ジュエルシードを奪った事よりも俺の怪我の事を心配するのか?
「ああ、見た目よりは酷くない。
この通りだ。」
肩から手首まで包帯でグルグル巻きの左腕を誇示する様に動かす。
…ジュエルシードを持ったままで。
『貴女は不思議な人だね。
色々言うべき事があるはずなのに、まず、敵の心配をしている。』
俺の疑問を先読みする様にフェイトが念話を使った。
だが、そのお蔭で「ちゃん付けするな」と言いそびれてしまった。
「えへへ、
褒めても何も出ないの。」
嬉しそうにモジモジするなのは嬢。
でも、フェイトは褒めていないと思うぞ。
「そんな事よりもっ!
そのジュエルシードは、なのはが封印したんだ!
返してくれっ!!」
なのは嬢から少し離れた地点に立つ、薄めの茶髪の少年が叫んだ。
「?
誰だ、お前。」
…本当に見た事無いぞ。誰なんだ、コイツ。
ああ、なるほど、時空管理局の職員か?
「なっ!?
何度も会っているだろっ!
僕だよ!ユーノだよ!!」
「?」
自称・ユーノがそう言うが、知らないものは知らない。
「…フェイト?
コイツ、見た事あったっけ?」
『ううん、多分無い。』
「ああ、そうだよな。」
アルフも「知らない」と首を振っている。
ハテ?
首を傾げる俺達に、なのは嬢がクスクス笑いながら教えてくれた。
「ユーノ君はね、普段、フェレットの姿になってたんだよ。」
「!
なるほど、あの凄腕の結界魔道士か。
…、唯のフェレットにしては過剰な能力を持っていると思ってたが、
そうか、人間だったのか。」
ナルホド、ナルホドと頷くと、
件のユーノは自分の実力を認められた事が嬉しく、
同時にその認められた相手が敵だったので素直に喜べないという複雑な表情を浮かべた。
「しかし、なんでまたフェレットなんかに…」と言いかけたその時、俺達の周囲に幾つかの転移魔法陣が展開した。
「…管理局か。
じゃあな、高町 なのは、ユーノ。
また会おう。」
管理局の連中がこの地に出てくる前に、展開しっぱなしの転移魔法陣で逃走に移る。
アルフにもサポートして貰って、前もって用意しておいた擬装用の転移座標へ次々に転移する。
戦闘も無くジュエルシードを手に入れられたのでアルフはご機嫌だ。
気がつけば「ワタシに全部任せろ」と言わんばかりに転移術式のコントロールを握っている。
「ふふん、やるじゃないかフラット。
ワタシ、アンタを見直したよ。」
「まぁ、卑劣な手段って奴は自分が傷つきたくないからするもんだ。
とは言っても、このやり方も直ぐに破られるだろうがな。」
「ヘヘン、
そん時にゃ、アンタ、また新しい事考え付いてるんだろ?」
「…そうありたいモンだがな。」
『大丈夫、私達3人が居れば…なんだって出来るよ。』
俺の溜息交じりの台詞にフェイトが答えた。
「そうだな、これで手持ちのジュエルシードは六つ。
…いずれは高町 なのはの所有するジュエルシードを奪わなければならんだろうが…。」
『?
七つの間違いじゃないの、フラット。』
「ん?
ああ、言い間違えた。七つ…だった。」
「はぁ、褒めたらコレだ。
頼むよフラット〜。」
肩を落としながら言うアルフに苦笑するのと、転移術式が俺達をいつもの高層マンションの屋上に送り届けたのは同時だった。
☆
「何をしてるんだっ!!」
アースラの艦橋で私達に怒るクロノ君の声に私の身体がビクッと縮こまります。
「敵であろうと相手の安否を気にするなのはの想いは立派さ!
だけどなっ!
世間話をして、そのまま取り逃がすってのはどういう了見だっ!!
判っているのか、ロストロギアの危険性がっ!
僕達は何よりもまず、ジュエルシードを回収しなくてはいけないんだぞっ!!」
クロノ君の台詞に反論も出来ません。
だって、正論だもの。
そのまま縮こまる私達に、頭上から声が掛かりました。
「まぁまぁ、そのくらいにしておきなさい、クロノ。
今回も彼女達が一枚上手だったわ。
…転移魔法陣から一歩も出なかったし。
あの逃走の手際の見事さを思えば、
なのはさん達が彼女たちを捕らえようとしても、そのまま逃げられちゃったでしょうね。」
「ウチに欲しいくらい有能よね。」と溜息をつくリンディさん。
「でも艦長!」
「でも、も、かかしもないわよ、クロノ執務官。
お疲れ様、なのはさん、ユーノ君。
次のジュエルシードが見つかるまで、ゆっくり休憩しておいて下さいね♪」
私達はリンディさんに頭を下げて、艦橋を後にしました。
「…、またやられちゃったね。」
そう私が口を開くと、ユーノ君が慌てて答えました。
「だ、大丈夫だよ!
なのははしっかりやってるさ!
今回は彼女と戦う事もなかったし。」
「う〜〜ん、フェイトちゃんはともかく、
フラットちゃんだったら『いい機会だから、お前の持ってるジュエルシードも貰っていく』とか言って手を出して来そうだよね〜。」
「あはははっ!
モノマネ上手いよ、なのは♪
…まぁ、たぶん、
今回、すぐ逃げたのは僕達が時空管理局と行動を共にしてるからだろうね。」
「うぅ、益々お話出来る状況じゃなくなっていくよぉ。」
「今回は少し、話が出来たけど。
ね、ちょっと食堂によっていかない?」
「そだね。
ちょっと、おなか空いちゃったね。」
食堂のセルフサービスで間食用のビスケットやクッキーと飲み物を取って、テーブルに向かい合わせに座ります。
ゆっくり食べていると、おもむろにユーノ君が謝り始めました。
「ゴメンね、なのは。
学校も休ませてしまって。
家からも離れて…寂しくないかい?」
そう、今の私はアースラで生活しているのでした。
いつ見つかるか判らないジュエルシード探しに対応する為、そして、フラットちゃん達に対応する為。
「もう、ユーノ君謝りすぎ。
駄目だよ、簡単に頭を下げたら。
それにね、
私、ちっとも寂しくないよ。
今はユーノ君と一緒だし、一人ぼっちでも結構平気。
ちっちゃい頃から…一人には馴れてるから。」
そうして、私は幼い頃の記憶をユーノ君に語るのでした。
私は…些細な事で一緒に笑いあえる、何でも分かち合える、競いあえる。
そんな対等な友達を…。
「そういえば私、ユーノ君の家族の事とか何も知らないね。」
「ん?
ああ、僕は元々一人なんだ。
両親は居ないけど、部族の皆に育ててもらって…、
スクライア一族が遺跡の発掘調査を生業にしてるって事は以前話したよね。
そこで色々な事を教えてもらってね。
だから、スクライアの一族みんなが僕の家族なんだ。」
「そっか、大家族だね♪」
「うん。」
少し寂しそうな笑みのユーノ君。
私はにっこり笑いつつ「この一件が終わったら、もっと色々お話しようね。」と話しかけるのでした。
と、ユーノ君が頷くのと合わせる様にアースラに警報が鳴り響きました。
『エマージェンシー!!
走査区域の海上にて、大型の魔力反応を探知!!』
『な、なんて事してるの!?
あの子達っ!!』
警報をアナウンスしている職員さんの声に、誰かの叫び声が紛れました。
「あの子達?」
首を傾げるユーノ君に私はピンときました。
「艦橋に行こう、ユーノ君!」
「あ、待ってよ!」
私はユーノ君を待つ事無く駆け出しました。
何故なら『あの子達』がまた、無茶をしてるのが想像出来てしまったから。
◇
前々から怪しいと睨んでいた海上に佇む俺。
足元には、金色の魔法陣が展開している。
傷が治って包帯が取れた左腕で、バルディッシュから蒼色の宝石を一つ取り出す。
ウォッチャーを使って今まで以上の広域を探索した結果、得られた結論は一つ。
もう、目に付くジュエルシードは回収されてしまった。
と、言う事。
後は海で観測された異常地域を調べるだけなのだが、時空管理局が居る手前、ちまちま探す事も出来ない。
ウォッチャーを海に突っ込む訳にも行かないし。
故に、探知される事も覚悟して最速で回収しなければならない。
一番早いのが、広域に大魔力を打ち込んで一気に海中に潜むジュエルシードを強制的に活動状態に持っていく事…だが、
流石にそんな広域攻撃魔法をカマした後に複数のジュエルシードの封印作業ってのは荷が重い。
所在が確認できないから、大量に魔力を無駄にしなくてはならないのも頭が痛い問題だ。
そこで俺は一計を講じた。
既に周知の事実だが、ジュエルシードが活動状態に入ると大量の魔力を周囲に発散する。
そして、俺達はそんなジュエルシードを複数所持しているのだ。
左手に取ったジュエルシードを、そっと宙に浮かせる。
そして、ゆっくり宣言する。
「ジュエルシード、シリアル[。
…封印、解放。」
俺の言葉にジュエルシードが震える。
そして、孵る卵がひび割れるように、始めは少しずつ、そして次第に大量の魔力を周囲に発散しだす。
それは目覚めを喜ぶ、歓喜の歌にも似て、
周囲を蒼色の魔力で染め上げた。
その暴風にも似た魔力放射に、魔法障壁を展開して凌ぐ。
が、かなり辛い。
凄まじいジュエルシードの圧力に魔法障壁が悲鳴を上げる。
歯を食いしばって耐えていると、フェイトが海に潜んでいたジュエルシードに気付いた。
『見つけた。
ジュエルシード、残り六つ。』
海面に光が見えたかと思うと、真っ直ぐに光の柱が天に伸びる。
同時に、魔力の嵐が落ち着いてきた。
「良し、始めようか。
アルフ!
結界の維持は預けた!
どうせ、嫌がらせ程度にしかならんだろうがなっ!!」
「あいよっ!
安心しなっ、精々手こずらせてやるからねっ!!」
俺の周囲には立ち上がる蒼い光が七つ。
一つはさっき、封印を解放した奴だ。
それぞれが、海水を巻き込んだ竜巻に成長する。
「とりあえず、シリアル[から封印するぞ、バルディッシュ!!」
〔Sealing form.
Set up.〕
「っ、そこだぁっ!!」
ド派手に魔力を撃ちまくっていたら直ぐに魔力切れになってしまう。
ので、竜巻につっこんで、直接バルディッシュをジュエルシードに接触させる事にした。
〔Sealing.
and Capture.〕
俺が飛び込んだ竜巻がその駆動要素を失って、消え去る。
「ふぅ、…次だっ!」
手近な竜巻に突っ込もうとする…が、竜巻から無数の青い稲妻が走って俺の邪魔をする。
くそ、とっとと封印しないと時空管理局の連中が乱入してくるってのに、封印に必要な間合いへ踏み込めない。
『フラット、サンダースマッシャーを使って。』
「何?そりゃ一体…、
はっ、そうか!
魔法によって作り出された現象も物理法則に支配される。
故に、雷とは電気!
電気は電気に引き寄せられる。
より強大な雷があれば、周囲の雷をコントロール出来るって事かっ!
…っ、
貫け轟雷!」
〔Thunder smasher.〕
左手を天に掲げ、魔法陣を展開。
その魔法陣へシーリングフォームのままのバルディッシュを叩き込む。
天へ向かって一直線へ走る金色の雷光。
それに釣られる様に、俺達の周囲に走っていた無数の蒼い稲妻がサンダースマッシャーに引き寄せられた。
ジュエルシードへの道が開く。
「行くぞっ!」
一気に突撃。
目星をつけておいた竜巻に突っ込む。
が、
知性もクソも無いはずのジュエルシードの奴は、そんな俺達を嘲笑うかの様に次の手を用意していた。
竜巻の中に突っ込もうと、竜巻の渦に接触した瞬間、
大量の稲妻が俺を襲ったのだ。
「ぅがぁぁぁあっ!?」
予期せぬ衝撃に思わず悲鳴を上げてしまう。
「…ああああっ!
っクソっ!!」
竜巻の表面で拘束されたように電撃を食らい続けるのは癪なので、
膨大な魔素によって硬質化した竜巻を蹴り飛ばして距離を取る。
『だ、大丈夫!?』
「それは俺の台詞だ、フェイト。
…糞、ジュエルシードの奴。
竜巻を帯電させてやがる。」
『私は大丈夫。
…でも、そうだね。
これじゃ、飛び込めない。』
「ちっ、同じ手は使わせてもらえんか。
ただの石ころの分際で。」
舌打ち交じりにフェイトの言葉に頷く。
そのまま、周囲を見渡して他のジュエルシードの様子を窺う。
『駄目だね。残り六つ、全ての竜巻が帯電している。』
またもやフェイトの言葉に頷く俺。
「Fuckッ!
魔力を安易に浪費出来る状況じゃねぇっつぅのに。
…、やるしかないのか?」
『?
何か策があるの?』
「ああ、とんでもなく馬鹿げた、
さっき思いついたばかり…の、策とも呼べない手だがな。」
『私は構わないよ。
多分、管理局はもう私達を監視しているはず。
それがどんな手段でも、早くジュエルシードを手に入れて逃げないと。』
「OK。
それじゃ、一発ブチかますぜ!
アルフっ!流れ弾に気をつけろよっ!!」
「え!?
何をする気なんだい!?」
遠くから響くアルフの声を無視して、バルディッシュに語りかける。
「バルディッシュ。
サンダースマッシャーを使う…が、制御を全部俺に預けろ。」
〔Yes Ser.〕
何故?とも、どうして?とも聞かず、俺の言葉にただ従うバルディッシュ。
「彼」から寄せられる信頼が心地良い。
よっしゃ、一発、盛大にぶっ放そう!
幸か不幸か、ジュエルシード共は皆、放てる稲妻を全て己の防御に回している。
ふん、一丁前に状況に対応した気になりやがって。
姑息な対応は命取りにしかならないって事を教えてやるぜ!
「術式展開。
…出力、マキシマム。
…連続照射設定。」
足元に金色の大きな魔法陣が展開する。
大出力魔法を使用する際に展開される補助術式などが詰まっている奴だ。
コイツが術者をサポートする事で俺達は心置きなく大技をぶっ放せる訳だ。
ドクン。
胸のあたりで鼓動が響くと、足元の魔法陣が金色から銀色に変わっていく。
…心臓の鼓動では無い?
以前、ジュエルシードを強引に封印した時と似た感じがする。
なんだコレ?
…でも、作動に問題はなさそうだからいいか。
左手を前に出してサンダースマッシャー用の制御魔法陣を展開。
普段より大きめ、それを三つ直列に並べる。
こっちの魔法陣も銀色になっている。
『?
何をするの??』
「ふふん、まぁ見てろ。
…サンダースマッシャー制御陣、直列展開。
…連結完了。
…砲口径、最大。
…
設定完了っ、
貫け、轟雷!」
足元の魔法陣を踏み締め、シーリングモードのままのバルディッシュを両腕で風車の様に振り回し、
目の前の三つ直列に連結された魔法陣にブッ刺すっ!
「サンダースマッシャー・いで○んそーど・シフトォォーーッ!!」
☆
艦橋正面の大きな画面に映る海鳴市の海。
ソコは文字通りに荒れていました。
七つの竜巻が海をかき混ぜ、空を濁らせる。
と、黒と金色の少女が一つの竜巻に飛び込んでしまいました。
「あ、フラットちゃん!?」
思わず声を上げる私。
「忌々しい事だが大丈夫だ、なのは。
よく見ていると良い。」
クロノ君の言葉に従って黙ってみていると、
竜巻が消え、その中からフラットちゃんが姿を現しました。
「ちっ、なんて危険な綱渡りを続ける奴だ。
アイツが弄んでいるのはロストロギアなんだぞっ!?
一歩間違えれば時空世界を幾つか崩壊させかねないというのに、
封印を意図的に解放した挙句、周辺のジュエルシードを強制発動させた後で再封印だと!?
あのバカっ!
一体何様のつもりなんだっ!!」
クロノ君がそう怒ると、リンディさんが嗜めるように口を開きました。
「でも、効率的な手である事は否めないわ。
支援も無しに、出来る限り急いでジュエルシードを入手しなければならないのであれば、
彼女のとった行動は有効ではある。」
「ですが、艦長!」
「ええ、危険に過ぎるわ。
ロストロギアは安易に手を出してはいけない。
これは原則よ。
彼女の行動は幼稚園児が見よう見まねで車を動かしているのに等しいのだから。」
リンディさんが私を見ながら語りかけます。
まるで「だから貴女も気をつけるように」という雰囲気です。
元々ジュエルシードを必要としていない私にとってはどうでもいい話ですが、一応頷いておく事にします。
『ぅがぁぁぁあっ!?』
と、いきなり艦橋の大画面では状況が変化していました。
二つ目の竜巻に飛び込もうとしたフラットちゃんは竜巻の纏った雷をその身に受け、身動きが取れなくなってました。
「いけないっ!
私も行かなきゃっ!」
艦長席の後方にある個人転移用のブースへ駆け出そうとした私ですが、直ぐにクロノ君に呼び止められました。
「行くなっ!
行っちゃ駄目だ。
アイツは敵だぞ!?
このまま自滅するのを待つのが最良の選択だ。
たとえ自滅しなくとも、封印を完了して消耗したところを叩く。」
クロノ君の言葉を補完するようにリンディさんが私を見て言いました。
「冷酷で非道に見えるでしょうけどね。
私達は常に最良の行動を選ばなくてはいけないわ。
一時の感情に流されて情勢を悪化させるような事は、けっして許されない。」
「でも!
…判りました…。」
反論しようとしましたが、クロノ君とリンディさんに睨まれては引き下がるしかありませんでした。
でも幸か不幸か、状況はまだ最悪と言う訳では無いようです。
『…ああああっ!
っクソっ!!』
竜巻を蹴り飛ばしたフラットちゃんはブツブツと言葉を呟いた後、唐突に行動に移りました。
フラットちゃんの足元に大きな魔法陣が描かれます。
と、いきなり魔法陣の色が金色から銀色に変わります。
「っ!?
なんだ、これっ!!
魔力光が変わるだとっ!!
そんな…ありえない…。」
「?
どういうことなの?」
酷く驚いているクロノ君に問いかけると、動転した表情のまま私に解説してくれました。
「魔力光というのは、個々人に固有の色が付いている。
たとえば、僕は蒼色。
なのはは桜色。
ユーノは緑色だったな。
これは魂やリンカーコアと密接な関係があって不変なモノなんだ。
使っている最中に色が変わるなんて、普通ありえない。
と、するならば、
魂かリンカーコアに異変があったとしか思えない。
なのはの話によれば、フェイトとフラットは普通の多重人格ではないという話だったから…。」
クロノ君がそこまで言った所で事態が急変しました。
いえ、正確には…
フラットちゃんがスゴイ事をしちゃったんですが…。
『サンダースマッシャー・いで○んそーど・シフトォォーーッ!!』
ブンブンとバルディッシュをバトンの様に振り回したフラットちゃんが、目の前の魔法陣にバルディッシュを突き刺します。
そして、放たれる銀色の閃光。
色違いだけど普段のサンダースマッシャーに見えます。
…狙いも微妙に外れてる…。
一体、何をする気なんだろう?
『ぶった切れろーーーっ!!』
艦橋の大画面に映るフラットちゃんは、そう叫ぶと同時にバルディッシュを振り回しました。
バルディッシュが突き刺さった魔法陣も一緒に振り回されます。
…銀色の閃光を引き連れて。
継続して照射されるサンダースマッシャーが、
見渡す限りの空を走り、
見える範囲の海を割り、
竜巻を斬ります。
それは、まるで巨大な光の剣の様でした。
「………、
バカだ。
バカが居る。」
クロノ君が呆れた表情で言います。
でも視線は大画面に釘付けのまま。
「こ…、これはまた…、
…内容は兎も角、凄いわ。」
リンディさんも驚きつつ大画面に映るフラットちゃんを見つめています。
再び私も大画面に視線を戻すと、
『オラァッ!!』
フラットちゃんはサンダースマッシャーの振り回し方に慣れたのか、的確に竜巻を切り刻み始めていました。
何度か戦ってみて判った事だけどフラットちゃん、派手好きだよねー。
っていうか「い○おんそーど」って…、何?
◇
有り余る魔力が胸の中心からあふれ出す。
感覚としては普段の放出量の二倍。
ソレがバルディッシュや展開中の魔法陣に流れ込み、通常以上の破壊力を撒き散らす。
どうやら魔法の色が金から銀に変わったのに影響しているようだが、良く分からん。
まぁ、少なくとも今は問題も出ていないのでOKだ。
「っ!
出てきたっ!ジュエルシードっ!!」
群がる竜巻をザクザクと切り刻むと、遂に目的の品、ジュエルシード達を竜巻の残骸の中から見つけることが出来た。
封印作業の実際は、此方の魔力によってジュエルシードが纏う魔力を除去する事が肝だ。
始めは丁寧に結界に封じ込めて処理していたが、最近は大雑把に砲撃魔法で消し飛ばしている。
やはり作業の効率化は必要だろう。
なにより戦闘中にのんびり封印する暇がないってのも大きいが。
ともかく俺は今も全力放出中のサンダースマッシャーで、そのジュエルシードの表層魔力を吹き飛ばす事にした。
「おりゃぁぁぁっ!!」
横薙ぎに次々とジュエルシードへ光線を当てていく。
六つに順次照射。
一段落ついたところで、ようやく魔力供給を打ち切ってサンダースマッシャーを終了させる。
「…ふぅっ、結局、大技を使っちまったな。」
『仕方ないよ。
まだ魔力に余裕があるだけマシだと思う。』
「最初にやったジュエルシードの封印解放が効いたな。
アルフ、退却だ!こっちに来てくれっ!!」
『…ところで、質問しても良い?』
「あん?
なんだ?」
『あのね、いでお○そーどって…何?』
「ああ…、
俺にも判らん。なんとなくだ。」
『な…、なんとなく!?』
「おう、なんとなくだ。
何故か…、そうしなければいけない気がしてな。
多分、ああいう攻撃をする時の作法なんじゃないか?
…判らんけど。」
手元に漂ってくるジュエルシードを眺めながらフェイトと談笑する。
上空で結界の制御に集中していたアルフが降下してくるのを眺めていると、視界の端で此方へ漂ってくるジュエルシードの挙動が変化したのが映った。
同時に俺の周囲に三つの転移魔法陣が展開される。
正三角形に展開した魔法陣は、俺を取り囲んでいた。
そして、ジュエルシードはその魔法陣の一つに引き寄せられていた。
「っ!?
クソっ、前回の仕返しかっ!?」
慌ててジュエルシードを掴み取るが、
六つの内、三つが手元を離れて魔法陣まで流されてしまった。
舌打ちしつつ、その三つを取ろうと駆け出した瞬間、転移魔法陣がその機能を果たし終えた。
目の前には以前、臨海公園でやりあった男魔道士、ハラオウン執務官。
右手後方には、なのは嬢。
左手後方にはフェレット野郎。今回も人の姿のようだ。
ハラオウンはジュエルシードを誇示する様に、左手の指と指の間に一つずつ、合計三つを挟んでいる。
「そこまでだ。
時空管理法、特殊遺棄物取り扱い法、暴行傷害その他もろもろの疑いで君を捕縛する。
そこを動くなっ!」
「ハッ!
今更、大人しくするとでも思ってるのか?
だとしたらオメデタイ奴だ!」
辛うじて入手出来たジュエルシード三つをバルディッシュに格納する。
「テメェの取った三つと高町 なのはの所有するジュエルシード、ここで戴いて行くぜ!!」
〔Arc savior.〕
いきなりバルディッシュを振り抜いて、アークセイバーをハラオウンに飛ばす。
そうしておいて、なのは嬢へ向けて突撃、
…
すると見せかけて、フェレット野郎に飛び掛る。
「え…!?
ええっ!!ぼっ、僕ぅっ!?」
「お前の結界が何気に一番、面倒くさいからなっ!」
「私を無視しちゃ駄目だよっ、フラットちゃんっ!」
フェレット野郎に向かった瞬間、背後から声がかけられる。
なのは嬢の声だ。
同時に彼女のデバイス、レイジングハートの声が聞こえる。
〔Divine shooter.〕
見えないが故に、飛んで来る魔力弾の脅威を身体全体で感じる。
…、もう少し引き付けて、
…、
今だっ!!
背後に迫ったディバインシューターをギリギリで避ける。
目標を見失った魔弾は、そのままの進路を維持して直進する。
その先にはフェレット野郎が居た。
「うわわっ!?」
結界に特化した魔道士だけに、瞬く間に展開した魔法障壁でディバインシューターを弾くフェレット野郎。
だが、ディバインシューターの対処の為に俺達を足止めする為だろう結界魔法は霧散した。
「アルフ!
フェレット野郎の相手を頼むっ!!」
俺達に合流出来ず、上空で手を出す隙を窺っていたアルフに指示を出す。
俺はこちら目掛けて飛んでくる青色と桜色の魔力弾の対応に忙しい。
「!
アイツの邪魔はさせないっ!!」
俺の言葉を聞いたハラオウンがアルフへ矛先を変える。
「テメェこそ邪魔すんなっ!」
咄嗟にフォトンランサーを釣瓶撃ちしてハラオウンの邪魔をする。
イライラが溜まってきたからか、俺の言葉は荒れる一方だ。
『フラット。
まず、この包囲を抜け出さないと。』
「ああ、そうしたい所だがな。
そしたら連中、一致団結して向かってくるだろ?
だが、こうやって俺達を囲んでいると同士討ちの危険があるから連中は全力で戦えない。
今は連中がミスるのを待つのが手だ。」
『この状況でジュエルシード、奪えると思ってるの?』
「…やり方次第だな。」
フェイトの疑問に答えながら立て続けに飛来する魔力弾を回避する。
状況は悪くなる一方。
だが、危険になればなるほど口元がニヤけてくるのが止められない。
「…ええいっ、チョコマカとっ!
なのはっ!
接近戦で仕留めるっ!!」
業を煮やしたハラオウンが俺目掛けて飛び込んでくる。
なのは嬢は彼に射線が被らない様にディバインシューターを撃っている。
…結局、俺を取り囲んでいた包囲陣は崩れたか。
まぁいい。
ハラオウンの奴と接近戦を演じれば、なのは嬢も俺を狙いにくくなる。
ユーノの奴はアルフに預けるしかないな。
「バルディッシュ!」
〔Scythe slash.〕
手にした杖を振りかぶるハラオウンへ、俺はバルディッシュを横薙ぎに振るった。
「ちぃっ!」
咄嗟に杖を盾代わりにして、バルディッシュを止められる。
ならば、と、身体ごと独楽の様に回転して今度は逆方向から横薙ぎにする。
先の一撃よりも加速した一閃がハラオウンを襲う。
が、
あと一歩の所で全力でバックステップ。
目の前を桜色の光弾が上から下へ駆け抜ける。
「なるほど、上からなら狙いやすいって事か。」
見上げると、なのは嬢が上空から俺を見下ろしていた。
「…、
でもその位置だと、スカートの中身が丸見えだぜ?」
「にゃ!?」
俺がそう言うと不思議な声を上げつつ、咄嗟にスカートを抑えて腰を引くなのは嬢。
よく見なくとも顔が赤い。
「ばっ!?
バカか君はっ!?
こんな時に何を言ってるんだっ!?」
「へっ、
こんな時だからだよ。」
同じく顔を赤くするハラオウンに捨て台詞を吐いて、魔力放出による高速移動をする。
「…良い感じにお前等、緊張が抜けちまっただろうが。」
ハラオウンの背後に回りこんで、バルディッシュで一閃。
ザンッ!
と、心地良い音がして、ハラオウンの背中が裂ける。
「っ!
クロノ君っ!!」
思ったより浅かったからもう一撃って所で、なのは嬢の射撃が俺に襲い掛かってきた。
「ちっ。」
再びバックステップで光弾を避ける俺。
「ったく、高町 なのはぁっ!
テメェ、何時も良い所で邪魔してくれるよなぁっ!!」
「駄目だよ、フラットちゃん!
殺しちゃ駄目だよっ!!」
「テメェ等が邪魔しなければ、殺す必要もネェんだっ!!
っつうか、テメッ!
ちゃん付けすんなっつーのっ!!」
上を見上げてなのは嬢に吼える俺。
と、
なのは嬢が不思議な表情を浮かべる。
「……だよ、フラットちゃん。」
「あぁん?」
なのは嬢の呟きに、唸り声で問い返した瞬間。
〔Break impulse.〕
背中からデバイスの声と共に猛烈な衝撃が襲い掛かって、俺の意識が一瞬ブレた。
「ぐっ…きゃあっ!!」
そのまま吹き飛ばされる俺。
なんとか空中で体勢を整えて踏ん張り、後方を振り返ると、
そこには、背中から血を流したまま杖を突き出したハラオウンが居た。
更になのは嬢の声が届く。
「油断大敵…だよ。フラットちゃん。
クロノ君、大丈夫?」
「…ああ、辛うじて傷は浅い。
十分に戦える。」
なのは嬢に顔を向け、その後に俺に殺気を叩き付けるハラオウン。
「…ペッ。
くっそ〜、女みたいな悲鳴上げちまった。」
ハラオウンとなのは嬢から視線を逸らさない様にしつつ、口の中に溜まった血を吐き出す。
背中が凄く痛い、泣くほど痛い。
喉か食道も痛めたかもしれない。
バリアジャケットが無かったらどうなったかは想像したくも無ぇ。
背中が妙にヌルヌルするから、ひょっとしたら出血してるかもしれん。
「ちっ、緊張が足りなかったのは俺の方だったか。」
『…ココまでだよ、フラット。
このままズルズル戦ってると掴まっちゃう。』
だから、逃げよう。と言うフェイト。
「かと言って連中、簡単に逃がしてはくれないだろうがな。」
俺はバルディッシュを握り締め、もう一戦する為に気合を入れ直す。
とはいえ、現状は控えめに見て最悪。
俺の行動の所為か、二人の息はピッタリ合っている。
このまま突撃してもタコ殴りになるのが関の山。
それになのは嬢の奴、虫も殺せないってツラで躊躇無く撃ってきやがる。
よほど精密射撃に自信があるのか。
それとも、ハラオウンは避けてくれると信頼しているのか。
ちっ、かくなる上は縦横に飛び回っての機動戦に活路を見出すしかないな。
「よし、行くぞっ!」
気合を入れて空を蹴り、猛ダッシュ。
なのは嬢とハラオウンの間を駆け抜けつつ、右手のバルディッシュと左手に展開した魔法陣でフォトンランサーを撃ちまくる。
どうも、二人とも単純なところがあるようだから、こちらから射撃戦を展開すれば乗ってくるだろう。
戦闘の基本は、先出し。
相手より先に殴り、一撃で倒してしまうのが一番だ。
一撃で倒せなくともコッチから動けば、流れはコッチのモノ。
相手は俺の動きに対応するしかなくなる。
頭の切れる相手や場慣れした相手だと、俺の動きを先読みしたり、利用したりで逆に俺が翻弄されてしまう事もあるのだが。
ま、そーいう時はいったん逃げて、勝てる武器ぶら下げて再度襲い掛かったり、
後日、気を抜いた瞬間に不意打ちしてぶち殺したりして来たから問題は無いっちゃ、無い。
卑怯?
それは負けた奴の台詞だ。
…ん?
なんでそんな事が頭に浮かぶんだ?
なんか、妙に実感があるんだが。
ひょっとして、俺の記憶?
…だとすると俺って…かなり危険人物!?
『フラット!!』
ビクッ!
フェイトの声に身体が一瞬硬直するのと、首の側を魔力弾が駆け抜けていくのは同時だった。
「あぶなっ!
スマン、フェイト。
助かった。」
『考え事してる暇なんかないよ?』
「ああ、まったくもってその通り…なんだがなっ!」
再び至近距離を駆け抜ける光弾を避けながらフェイトに答える。
全力で空を駆けつつ、隙を見ては光弾を撃ちまくる。
が、
なのは嬢とハラオウンの二人はお互いに魔法障壁を展開して守りつつ、的確に反撃を加えてくる。
参った。
このままでは俺が先に魔力切れでギブアップだ。
魔法は精神に左右される。
今、バリバリに精神が高揚している俺は普段じゃ信じられないくらいの高効率で魔力を消費できているのだが、
それでもスタミナは無限と言う訳にはいかない。
「ふー、はーっ。」
既に息があがりかけている。
だが、今回を逃せば連中が所有しているジュエルシードを入手するのが困難になる。
今回は俺の出方待ちを選んだようだが、もう放置されているジュエルシードが見当たらない以上、次は俺達に照準を絞るだろう。
最悪の場合、万全の準備を整えた敵の拠点に突撃しなくてはならない。
…、クソ。
手が足りない。
あの二人のどっちか足止め出来たら、もう少し有利に戦えるんだが…。
ん?
そうか、手があればいいんだな。
フォトンランサーを撃ち続けながら、周囲を確認する。
お、いい位置で近接戦を続けてやがる。
これなら最高の不意打ちが出来そうだ。
俺はなのは嬢とハラオウンの魔力弾を大きく迂回しつつ、降下した。
頭上には、無数の魔法障壁を打ち砕き、コブシを叩き込もうとするアルフ。
そのアルフの動きをなんとしても止めようと四苦八苦するフェレット野郎。
なのは嬢とハラオウンは俺の新しい動きに警戒しつつも遠距離射撃に終始している。
避け損ねた魔力弾が一発身体に当たるが、バリアジャケットで防げた。
もちろん痛いが。
ま、このくらいなら警戒するほどでもない。
俺は十分な速度を維持したまま急上昇した。
目指す先はフェレット野郎。
俺の意図を理解したなのは嬢とハラオウンの射撃が激化するが、フェレット野郎に直撃する事を恐れてか、狙いが甘くなった。
何発かは俺に命中したが、念の為にバリアジャケットたるマントを身体に密着させているので傷は受けていない。
…やっぱり痛いのは変わらんが。
で、フェレットやろ…、
あ〜っ!いちいち面倒くさいっ!!
ユーノでいいや、もう。
確か、なのは嬢がそう呼んでたはずだ。
ともかく、そのフェレット野郎ことユーノは比較的大きな魔法陣を足場にアルフと凌ぎを削っている。
俺の視界の中でその魔法陣がドンドン大きくなる。
「だめっ!
ユーノ君っ!逃げてっ!!」
なのは嬢が警告を発するが、もう遅ぇ!!
間合いに入った瞬間、バルディッシュでユーノが足場にしている魔法陣を真っ二つに切り裂いた。
「っ!
なっ、なにがっ!?」
いきなり足場を崩されて慌てふためくユーノ。
「もらったよっ!」
体勢から集中力まで全て崩されたユーノを遠慮無く全力で殴り飛ばすアルフ。
そのまま吹っ飛んだユーノは、盛大な水柱を立てて海に落ちた。
…、トドメにバルディッシュで真っ二つにしてやろうと振りかぶっていたのが無駄になったな。
「まぁいいか。
次はコッチを手伝ってくれ、アルフ。」
「やれやれ、狼使いが荒いねぇ。」
ぶつくさ言いながらも俺の隣まで降下するアルフ。
「次は高町 なのはの足止めを頼む。
もちろん倒してもらって構わんが。
俺はアッチの管理局の犬をヤる。」
アルフにザッと簡単な作戦を説明しながら、ハンドサインを見せる。
ハンドサインも簡単で明快な物にしたからか、アルフは快く頷いてくれた。
「はん。
アンタこそしくじるんじゃないよ。」
皮肉を口にしながら了解のハンドサインを俺に見せるアルフ。
ちなみにアルフは、人型になっている。
攻撃を一時中断して俺達の作戦会議を遠くから見守ってくれたなのは嬢とハラオウンの二人に感謝の一撃をくれてやろうと、彼女等の方へ向く。
いや、実際はユーノに流れ弾が当たるのを恐れて射撃を中断したのだろうが。
『じゃ、行こう。』
フェイトの声に俺達は一斉に飛び出した。
俺達は大きく分かれて、それぞれ別方向からそれぞれの標的に突っ込む。
対空射撃が如く立て続けに放たれる魔力弾を避けつつ、こちらもフォトンランサーを乱射する。
アルフの方も俺と似た感じだ。
魔力弾を避けながら、自身の周囲に展開した魔力弾を順次射出している。
命中弾は無い。
狙って撃ってるが、お互い的が小さい上に動き回るので牽制にしかならない。
ま、牽制が目的なんだが。
とはいえ、距離が詰まれば必然的に命中率は上がる。
ハラオウンは足を止め魔法障壁で弾を跳ね返す。
俺はマントを左手に巻きつけ、弾を逸らす。
俺が魔法障壁を使わないのは障壁を展開すれば、周囲の魔素の流れを阻害して機動力が落ちてしまうからだ。
よって、マントを盾代わりにバルディッシュを構え、突撃する。
まるで闘牛士だ。
このままでは埒が明かないと、射撃を止めてハラオウンが杖を構える。
接近戦を覚悟したらしい。
俺も射撃を止めて、バルディッシュを鎌形態にする。
双方駆け出して激突する刹那、
俺は急激に減速して、別方向に全力疾走した。
背後でハラオウンの杖が空振りする音が聞こえる。
「くそっ、何をっ!?」
更に聞こえるハラオウンの罵り声と驚きの声。
俺は口元が歪むのを抑えきれずに、そのままバルディッシュを振るう。
目の前には、なのは嬢。
デバイスを構え直す暇も無く、バルディッシュの光刃がなのは嬢のバリアジャケットを切り裂く。
背後では、アルフがハラオウンの魔法障壁を得意の結界破りで破砕する音が聞こえた。
「「トドメだっ!!」」
俺は更に踏み込んで、なのは嬢へバルディッシュを一閃。
アルフはおそらく、ハラオウンの顔面に痛烈なパンチをお見舞いしてるはずだ。
コレがアルフにハンドサインで指示した作戦。
激突の一瞬で、お互いの目標を切り替える。
攻撃を空振りして、相手が変わった為に取るべき対応策に戸惑ってる隙に一撃をくらわそうって策だ。
コレで終わる。
俺は元の世界に、元の男に戻れるんだ!
喜びと共に繰り出した一撃は、手ごたえ無く空を切った。
「…なに?」
『フラット!
下っ!!』
振り抜いたバルディッシュ越しに下を見ると、そこにはなのは嬢の姿。
両足から桜色の翼が広がり、羽ばたく。
…どうやら、一時的に飛行魔術を切る事で俺の攻撃から逃れたらしい。
視界の隅では、アルフとハラオウンが四つに組み合っていた。
糞、忌々しい。
自分の顔が怒りと苛立ちに歪むのが実感できるが、それを抑えるつもりも無い。
なのは嬢は上昇する勢いですくい上げる様にデバイスを叩き付けて来る。
俺は迎え撃つ様に、バルディッシュを振り下ろした。
硬質な金属音を響かせて、またもや俺となのは嬢は鍔迫り合う。
「フラットちゃん!!」
「高町 なのはぁぁっ!!」
俺達はお互いを押さえ込むべく、力づくで押しあう。
と、
その時、異変が起きた。
いきなり虚空から海に落ちる紫の雷。
「なっ!?」
「何なの!?」
『…母さん!?』
上から俺、なのは嬢、そしてフェイトの声。
「む、ミセスなのか!?」
確認するように空を見上げると、直撃コースに収まった雷が今にも俺たちに向け、落ちてきそうになっていた。
「っ!
やべぇっ!!」
咄嗟になのは嬢を踏み台にして、この場から逃げ出そうとする。
…
出来なかった。
勢い良く蹴り飛ばしたは良いが、その勢いは俺の加速力に変わる事無くなのは嬢に注がれてしまった。
吹き飛ぶなのは嬢を残して、ただ空を見上げる俺。
直後、俺達は特大の雷をその身に食らった。
「ぐぁぁぁあっ!!」
絶叫と共に意識が途切れ出す。
くそ…、魔法が操れない。
…海に、落ち…る。
それなりの高度からの落下だけに、それなりの衝撃を喰らうだろうと覚悟していたら、
とん、と優しく抱き抱えられた。
なんとか見上げると、必死の形相をしたアルフの顔が間近にあった。
…ああ、
また、迷惑を…かけてしまった…な。
俺の意識は、そこで途切れた。
第四話 完
あとがき
大変長らくお待たせして申し訳ありません。
でも、そのお蔭で想定していた内容が随分ボリュームアップできました。
この一月の間で思い浮かんだ新しい展開もありますし、けっして無駄にはなってない…と言えたら良いですね。
結局、一月投稿が途絶えたのは、仕事に追われていたってのが大きいです。
嗚呼、廃油のキッツイ匂いが気にならなくなる生活はもう嫌だ。
早く元の安穏な仕事に俺を戻してほしい。
ともかく。
あと二話くらいで、無印は片が付きそうです。
OUT SIDEの方もネタは纏まりつつあります。
まぁ、先にA’s編が出るかもしれませんが。
ちなみにフェイトの胸、かすかですが描写されていました。
一時停止でしっかり確認しましたから、間違いありません。
…俺、何やってるんだろう。
感想代理人プロフィール
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代理人の感想
鞭打ちは、物によっては普通に跡が残ります。
原作でママさんが使ってたのがどう言う奴だったかは覚えてませんが、
少なくともそこまでは考えてなかったろうなと思います。
・・・ううっ、改めて不憫な子じゃ。
ちなみに今回何かと貧乏くじのクロノ君ですが、彼のファミリーネームは「ハラオウン」です(修正済み)。
ひょっとしたら調子外されてたのも作者の人に名前間違えられたせいだったのかなー。
ジョセフと「グラスとコイン」勝負やったら瞬殺されるな、こいつw
>あ、なんだか悪党っぽい笑顔をしてるから、今はフラットちゃんが表に出てるみたいなの
爆笑。
容赦ないなー(笑)。
>一時停止でしっかり確認しましたから、間違いありません。
・・・・・・・・・・。