それは、些細な願いだった。

どこにでもある、当たり前な、小さな願いだ。

だからこそ、
その条件が満たされてる奴には、当然の様に享受出来るし、
その条件が満たされてない奴には、夢のまた夢…。

そこにソイツの意思も人徳も何もかも、一切が関係ない。

唯の偶然。
生まれた時に与えられた状況に過ぎない。

だが…、

それだけで、人の人生は信じられないほどに変化してしまう。

そして、人の心も。


得る事が出来ないと諦めていた「願い」を手にしたアイツ、
いや、
アイツ等が「願い」の為に暴走してしまったのも、仕方の無い事かもしれない。

そして「願い」は、決して俺と無関係ではない。

俺も又、在り得ない奇跡を与えられた口なのだ。

もう一度、生きて人生を謳歌できる事に比べたら、性別が逆転してしまった事など…、



…やっぱり受け入れられねぇーっ!


魔法少女…、アブサード◇フラット A’s。

不本意ながら、始めるぜ。



 

 

魔法少女リリカル☆なのは 二次創作

魔法少女!Σ(゚Д゚) アブサード◇フラット A’s

第1話 「戦嵐は唐突に?」

 

 

  ◇ フラット ◇

 

 室内だなんてトンデモナイほどの広さを持つ空間。

下手な体育館も真っ青な広さ、高さ、奥行き。

その中を俺は飛び回る。

背後から金色の魔力弾が無数に飛んで来る。

速度最重視の無誘導高速弾。
それを右左と、宙でステップを踏みつつ避けていく。

目で追うのも困難な高速弾を避けられるのは、狙われた時点で避けているから。
「彼女」が魔力弾を放った時点で、もう俺はその攻撃軸線から逃げているのだ。

もともと空を飛ぶ物体に弾を当てるのは困難な技術で、別に俺の能力が優れている訳じゃない。

なのはのディバインシューターは誘導式なので命中精度は高いが、命中するまで弾をコントロールしなければならない。
やはり、命中させるのは困難だ。
だというのに、あの命中率の高さは異常だ。きっとアイツには化け物じみた才能があるのだろう。

と、後方で風切り音。

おそらく、アークセイバーだな。

振り返った俺は、右手に持ったデバイスで魔法障壁を展開。

ブーメランの様に回転しながら俺に突進するアークセイバーが、俺の展開した魔法障壁に直撃。
障壁に食い込み、爆煙を散らす。

いい加減、逃げるのには飽きた。

攻勢に出るとしよう。

右手に持つ管理局の汎用デバイスへ魔力を込め、魔力で形成された穂先を展開。

左手でデバイスを支えつつ、爆煙の先に居るだろう「彼女」に向かって一直線に宙を駆ける。

「はっ!」

気合もぶち込んだ渾身の突き。

だが、煙を貫いた先に「彼女」は居なかった。

「む?」

前、右、左、上、下。

周囲に目を向けるが、見事に見失ってしまった。

と、なれば。

「貰った、フラット!!」

俺の背後で鈴の鳴るような声が聞こえた。

彼女のデバイス、バルディッシュが鋭い弧を描く。

が、

振り返りつつ、後ろ手に振り上げた俺のデバイスがその軌跡を阻む。

石突を先に、上下逆さになったデバイスを両手で支える俺。

光刃を展開したサイズ・フォームのバルディッシュを両手で構えるフェイト。

二つのデバイスが俺達の間で鍔競り合っている。

「煙を利用するのはフラットだけの十八番じゃないんだよ?」

「だろうな。
だが、背後を取っただけで勝った気になるのは甘いんじゃないか、フェイト。」

「ううん、
私の勝ちだよ、フラット。」

俺の言葉に「してやったり」という表情で笑顔を見せるフェイト。

俺が疑問を顔に表すと、フェイトが呪文を口にした。

「ライトニング・バインド!」

フェイトの言葉と共に、俺の両手足に金色の輪が填められる。

俺はデバイスを構えた体勢のまま、宙に固定されてしまった。

「ふふふ、
これでようやく、フラットから勝ちを奪う事が出来るよ。」

そう言いながらバルディッシュを水平に構えるフェイト。

「戒めが解けないか?」と身体を揺らして見るものの、
フェイトのバインドは強固で、力ずくでも手間がかかりそうだ。

だが、

だが、しかし。

「甘いな、フェイト。」

俺の言葉にぽかんとした表情を浮かべたフェイト。

俺がデバイスを握っていた両手を離すと、その顔は驚愕に変わった。

「え?
戦闘放棄??」

「いや、違う。」

俺はフェイトに、固定されたままの左手の人差し指を向ける。

人差し指には小さな魔法陣が展開する。

「フォトン・ランサー。」

銀の光弾がフェイトを撃つ。

至近距離すぎて自動防御が出来なかったらしく、
体勢を崩し、落下するフェイトを尻目に魔力を盛大に放出する。

放出された魔力が両手足の拘束魔法の術式に侵食。

脆くなった金色の輪を力ずくで破壊。

下に目を向けると、
魔法陣を足場に体勢を整えたフェイトが、既に砲撃体勢を取っていた。

俺は即座にフェイトに向かって疾走。

フェイトの眉が引き締まるのが見えた。

「貫け、轟雷っ!
サンダーッ、スマッシャーーーッ!!」

走る金色の閃光。

対する俺は徒手空拳。

だが、なにも恐れる事は無い。

右手を手刀として、身体に引き付ける。

右手首に魔法陣を展開。

唱える言葉は「アークセイバー」。

俺の右手は魔力の刃を持った鎌と成る。

「うぉりゃあああっっ!!!」

閃光に向け、右手を一閃。

銀色の光は刃となって、金色の閃光を切り裂いた。

「そんなっ!?」

そのまま突進し、愕然とするフェイトの喉元に手刀を突きつける。

「デバイスが無くても、魔法は使える。
デバイスが使われるのは、その方が簡単で効率が良いからだ。
経済的だしな…、
そして、俺の勝ちだ。」

上がった息を抑えつつ、右手のアークセイバーを解除する俺。

「でも、どうしてサンダースマッシャーをアークセイバーで切り裂けたの?
アークセイバーがぶつかっても、爆発するだけでサンダースマッシャーが勝つのに。」

フェイトの顔は驚きから不満顔に変わっていた。
思えばフェイトも、この半年以上で大分表情が豊かになったものだ。

そう思って微笑むと、フェイトは拗ねた様な顔になった。

「爆発するのは衝突した時の魔力量の差で、打ち負けた方の術式が崩壊するからだろ?
今回はサンダースマッシャーを上回るだけの魔力をアークセイバーにブチ込んだ訳だ。
切り離して飛ばした訳でも無いしな。」

そのお蔭で、息が上がるほど魔力を消費した訳だが。

「むぅぅ、
また負けた。」

不満気なフェイトが出口に向かって歩きながら、そう零した。

「ま、これでも俺の方が年上なんだ。
そう簡単には負けてなんかやれねーぜ?」

同じく、フェイトの隣で歩きながら出口に向かう俺。

手放したデバイスは近くに落ちていたので回収済みだ。
無くしでもしたらクロノからブチブチ小言を頂いてしまう。

この空間、時空航行艦アースラの戦闘訓練室の出入り口には、
苦笑した顔のユーノ、
苦虫を噛み潰した顔のクロノ、
フェイトが戦う時は何時も心配顔のアルフが居た。

「二人とも、気が済んだか?
じゃあ、食堂で裁判の打ち合わせをするぞ。」

言うべき事を言って、ムッツリと出入り口を後にするクロノ。

「フェイトとフラットが戦ってる間は、
フェイトを褒めていたんだけどね。
『あのフラットを一時的にでも拘束するとは、腕を上げたな』って。」

「そうだよ!
姑息で卑怯なフラットを嵌めたんだから、フェイトは誇っていいんだよ!!」

ユーノとアルフがフェイトを褒める。

「うん。
でも、また勝てなかったから…ね。」

満更でもない顔で微笑むフェイト。
しかしフェイト、姑息で卑怯だってのには反論してくれないのか?

…いや、まぁ、否定できねぇけどさ。

「キミ達っ!
何をしているんだっ!!」

そこにイラついたクロノの声が掛かる。

「なにカリカリしてるんだ。
……、生理か?」

「男の僕にそんなモノある訳ないだろっ!?
君じゃあるまいしっ!」

俺の呟きに振り返って怒鳴り返すクロノ。

「……、寝不足なんだよ。」

ムッツリと顔を背けながらも、理由を呟く。

「執務官が体調管理も出来ない様ではイカンな。
エイミィにでも相談するか?」

先の言葉をあえて無視した俺がそう返すと、フェイト、アルフ、ユーノもウンウンと頷く。

「なんでソコでエイミィの名前が出るんだよ。
そもそも、僕が寝不足なのは君の所為だ、フラット。」

「俺か?
何かしたっけか…。」

クロノの言葉に首を傾げると、他の3人も首を傾げた。
判らないらしい。

そんな俺達を見たクロノは溜息を一つ。

「…裁判で提出する書類だ。
時の庭園で散々暴れてくれただろ?
お蔭で報告書の辻褄合わせがゴチャゴチャだよ。
もう裁判は決着しそうだってのに…。」

「ん?
あれからかなり経ってるのに、まだ必要なのか。
まぁ、ありのままを簡潔に書けば良いだろ?
その結果、俺とMrs.テスタロッサに如何なる罪が掛かっても、ソレは俺達の行いの所為だ。
何故、お前達が苦労するんだ?」

「だからと言って、見捨てては置けないじゃないか。
それにフェイトとアルフは完全に巻き込まれただけの被害者だ。」

「ふむ?
ああ、つまりアレか。」

「…なんだよ。」

「度を越えたお人よし。」

俺の言葉に側の3人はクスクスと笑い声を上げる。

「…、ウルサイな!
僕は先に行くからなっ!!」

対するクロノは怒りで顔を真っ赤にして歩調を上げ、先に行ってしまった。

 

 

  ◇ リンディ ◇

 

 その光景を見ていた艦橋の二人。

私ことリンディ・ハラオウンとエイミィ。

「あの子達は本当に元気ね。
で、
正直な所、どうなのかしら?」

「はい。
厳しい面は否定できませんが、あの騒動で死亡者が出ていないのは有利です。
おそらく、無罪が勝ち取れると思いますよ?」

「…違うわ。
貴女とクロノの仲よ。」

私の言葉に、急にオロオロするエイミィ。

「えっと、その、
だって私達、まだ未成年だし…。」

さらに、モジモジと言葉を濁す。

それを見ているだけで、クロノをどう思っているか自ずと判ろうというものね。

「ふふふ、
ま、いいわ。
フラットさんには気を付けなさいね?」

「へ?
フラットちゃんですか??」

私の言葉に疑問顔のエイミィ。

「ええ、嫌っている内は良いけどね。
偶に逆転しちゃうのよ。
嫌悪から好意に、
感情が、ね。」

「はぁ。」

エイミィは良く分かっていない表情のまま、頷いた。

ま、そうなったらそうなったらで面白い事になりそうだから構わないんだけれど。

あの「彼」、
フラットさんが「男」からの思慕にどういう反応を起こすのか。

まったくもって興味深いわ♪

 

 

  ◇ フラット ◇

 

 気を取り直したクロノが情報端末を手に裁判の段取りを確認する。

ここはアースラの食堂、その隅。

左からユーノ、俺、フェイト、アルフの順番で席に座り、
対面にクロノが居る。
俺達の前にも一人一つずつ、A4サイズの情報端末が置かれている。

「…じゃ、最終確認だ。
被告席のフェイトとフラットは裁判長の問いに、その端末の内容通りに答える事。」

「うん。」

隣のフェイトが頷き、俺が頷く代わりに右手を軽く上げる。

「今回はアルフも被告席に入ってもらうから。」

「判った。」

背筋を正したアルフが真剣に答える。

「で、
僕とソコのフェレットもどきは証人席へ。
質問の回答は、その端末に書いてある通りに。」

「うん、判った。」

ユーノが真面目に頷いて端末の回答例を読み返した時、
唐突にクロノへ怒鳴り返した。

「って、おいっっ!!」

「ん?
なんだ??」

「誰がフェレットもどきだよっ!
誰がっ!!」

「?
…君だが、何か?」

怒りも露わなユーノに対して、クロノは至極普通の表情。
「何を当たり前の事を」って顔をしてやがる。

「……、
うがっ!?」

クロノの回答にしばらく沈黙したユーノが愉快な表情をする。
どうやら、頭の中でクロノの言葉を反芻していたらしい。

「っ!
そりゃ、動物形態で居る事も多いけど、
僕にはユーノ・スクライアという立派な名前がっ!!」

椅子から立ち上がり、拳を振り上げ力説するユーノ。

「ユーノもまぁまぁ。」

「クロノも、あんまり意地悪を言っちゃ駄目だよ。」

苦笑したアルフとフェイトが二人を諌める。

「大丈夫。
場を和ませる軽いジョークだ。」

「に、しては毒がたっぷり含まれていたようだが?」

クロノの言葉に俺が疑問を口にすると、

「そうだよ!
フラットの言う通りだよ!」

と、声を上げる、
今だ怒りの収まらないユーノの肩へ手を置くアルフ。

しょうがなさそうな笑みを浮かべるフェイト。
彼女の金髪は淡い桜色のリボンでツインテールに結ばれている。

服装は黒いカッターシャツに白のミニスカート。
サッパリとした服装が似合っている。

ちなみに俺の格好は、
白いカッターシャツに黒のミニスカート。

髪は無造作に後頭部でポニーテールに纏めてある。
不本意ながら、赤くて細いリボンで。

畜生、そんな事より、なんで俺までスカートなんだ。
ズボンを寄越せというのだ、ズボンを。

ただし、
色違いで御揃いの格好に喜ぶフェイトを見ていると「それでもいいか」と思ってしまったのは機密事項。

と、
クロノが真面目に話し出した。

「事実上、判決無罪。
数年間の保護観察処分という結果は確実…と、言って良いんだが。
一応、受け答えの内容はしっかりと頭に入れて置くように。」

クロノの言葉にフェイトとアルフが同時に肯定し、
一息遅れでユーノが不満げな声のまま、同意した。

唯一、答えていない俺に視線を合わせるクロノ。

「安心しろ。
フェイトの害に成る様な真似はしない。」

「くれぐれも、余計な行動は慎んでくれよ?」

俺に念を押すクロノ。

…、ああ。
判ってるさ。

 

 

  ◇ なのは ◇

 

 早朝の魔法の訓練を終えて、自分の部屋に戻って制服に着替える私。

今は単発の誘導弾の百本ノックで精一杯だけど、
いずれは、複数の誘導弾で千本ノックに挑戦したいなぁ。

そんな事を私の相棒であり友達であるインテリジェント・デバイス「レイジングハート」に話すと、
『焦らずに、確実に鍛えていきましょう』と諌められたり。

どこか苦笑しているような気配がしたのは気のせいなのかな?

リボンを結んで襟を整えて、着替えの完了♪

いつもの癖で、机の上のユーノ君が使っていた籠に目を向けるけど、
籠の中は空。

ユーノ君はフェイトちゃん達と一緒に管理局に行ってしまったの。
…フェイトちゃんとフラットちゃんの裁判の証言の為なら仕方ないよね。

そして、その籠の隣には、
昨日届いたばかりのフェイトちゃんとフラットちゃんの新しいビデオメール。

ちゃんと、こちらの世界の規格のDVD−Rで送られてきた時は驚いたなぁ。
ケースの表にFate & Flat.と赤いマジックで書いてあって、
右上にフェイトちゃんとフラットちゃんのプリクラが貼られてる。

そして、すぐ側に、
以前、一緒に送られてきた写真が写真立てに収められています。

フェイトちゃんは素敵な笑顔。
ビデオメールが届くたびに、フェイトちゃんは綺麗になってる気がします。

そして、隣に渋々と立っているフラットちゃんはそっぽを向いちゃってます。

その写真を見るたびに、私はクスクス笑ってしまうのでした。

だって、フラットちゃん、
初めて出会った頃から全然変わらないんだもの。

ちなみに私のこちら側の友達、すずかちゃんとアリサちゃんにビデオメールと写真を見せたところ、
フェイトちゃんについては二人とも好評価。

でも、フラットちゃんについてはアリサちゃんが猛反発。

『なによ、コイツ。
感じ悪すぎるわよっ!!』

って、凄い剣幕です。

まぁ、「別に話す事なんかねぇー。」とか「次にやり合う時は完全に打ちのめすからな。」とか、
そんな言葉しかビデオメールに入ってなかったら、そう思うのは仕方ないかも。

フラットちゃんの良い所って判りづらいから。

不貞腐れててもフェイトちゃんの為にビデオカメラを回したり、写真を撮ったり。
そう、ビデオメールのカメラマンはフラットちゃんだったりするのです。

アリサちゃんも、そこら辺はわかってるみたいだけど。

さて、そろそろ降りて朝ごはんのお手伝いをしなきゃ。

「きっとまた、すぐに会えるよね。」

そう写真に向かって呟いて、私は一階のリビングに向かうのでした。

そうそう、
フェイトちゃんとフラットちゃんの私の家族からの評価は、

お父さん 「ほう、良い子達だな。」

お母さん 「遊びに来たら、うんとおもてなししなきゃ♪」

お兄ちゃん 「対比の凄い双子だな。」

お姉ちゃん 「元気そうな二人だね〜。」

と結構、好評価。

ただ、お父さんとお母さんが「このフェイトって子、あの子かな?」と話していたのが印象的でした。

会った事があるのかな?

そんなこんなで、ある意味、何時も通りの一日。

その日の夜にあんな事になるなんて、夢にも思わなかった。

でも、そのお蔭で、あの二人と再会できたのは…良かったと思います。

 

 

  ◇ フラット ◇

 

 時空航行艦アースラの転送室。

その巨大な空間に降り立つ俺達。

そんなアースラを飲み込んでいるのは時空間に浮かぶ超々巨大構築体、時空管理局・本局。
今も増改築が繰り返されていると言う話だ。

俺達は、そこの裁判施設にて裁判を終えてアースラに帰ってきた所だ。

「あ゛〜〜、肩こった。」

肩を揉み解しながら俺が愚痴を零すと、フェイトが苦笑交じりに答えた。

「裁判中はフラット、見違えるくらいシャッキリしてたものね。」

「そうそう、
誰コレ?って感じだった。
『私』なんて言うから鳥肌立っちゃったよ。」

フェイトの言葉にアルフが続く。
巨大なお世話だ、アルフ。

「そのお蔭で裁判官達の印象も悪くなかったんだと思うわ。
後は判決待ちだけれど、無罪は確実ね。
頑張ったわね、フェイトさん。フラットさん。アルフさん。」

と、リンディ。

「嘱託魔道士の登録申請も効いたんだろうな。」

クロノの奴がしたり顔で頷く。


フェイトと…俺は嘱託魔道士の申請を出した。
云わば、管理局の臨時契約社員。
むしろ日雇いやアルバイトと言った方がわかりやすいかもしれない。

申請した理由は裁判における罪状の軽減と管理局内での行動規制の緩和。

一応、試験も受けた。
俺は筆記に手間取ったが、実技はサックリ終わらせられた。
フェイトは逆に実技に手間取った。
…正確には、実技試験の試験官であるクロノに手間取ったんだが。

クロノと対等に戦う俺を、試験監督官である提督が驚いた表情で眺めていたのが印象に残っている。

しかし、提督は額に刺青をいれなければいけないのだろうか?
レティ・ロウランなる女提督もリンディと同じく額にターゲットマークの様な三角形を組み合わせた刺青をいれていたが…。

ともかく、俺が嘱託魔道士になる事を容易く受け入れた事に皆は驚いていた。

「ぜったい、ひと悶着あると思っていた。」
とはユーノの言。

正直な話、俺は試験の類が好きじゃない。
他人に自分を勝手に計られるのが、どうしようもなく不愉快になるからだ。
だが、
いくらクロノみたいなのが管理局で働いているとはいえ、
俺みたいな幼いガキの容姿でマトモな就職口があるとは思えない。

精神年齢18歳の俺は早く自立したいのだ。

ならば、嘱託魔道士という制度は俺に有利に働く。
あくまで部外者、協力者という立場だから、最低限の責任以外は負わなくて良い。
余計な規則に雁字搦めになる事も無い。
危険な戦闘も伴うから、報酬も良い。

と、言う事を正直に話したら皆に呆れられ、「フラットと離れ離れになりたく無い」とフェイトに泣かれた。

閑話休題(それはともかく)


「ん〜、この五ヶ月も、終わればあっと言う間だったね〜。」

大きく伸びをするユーノ。

俺も含めたこの六人が裁判に出た。
エイミィの奴はアースラで留守番だ。

何気に、あのアホっぽい女がアースラのナンバー3だという事実を知った時の驚愕といったら…。

ふいにあの時の事を思い出しながら、襟元のボタンを外してリラックスする俺。

肩がこったのは裁判の空気だけでなく、今の服装の所為でも有る。

印象操作というお題目の元、またもや俺達は着せ替え人形扱いを受けてしまったのだ。

今回はレースなどのヒラヒラこそ少ないモノの、肌の露出の少ないゴシック調のワンピース。

フェイトと俺、そろって黒。

ただし、襟などにゴテゴテと縫い付けられた刺繍は、フェイトが銀で俺が金。

どこまでも遊び心を忘れない、リンディとエイミィのコンビには脱帽するしかない。

「あの、
早速、なのはに裁判が終わった事を伝えたいのだけど。」

おずおずとフェイトが提案すると、
即座に同意したリンディが艦橋に通信を繋げる。

「エイミィ?
今戻ったわ。裁判の終了をなのはさんに伝えたいの。
長距離通信の準備をお願い出来るかしら?」

『あ、艦長!
お疲れ様です。
みんなもお疲れ様〜〜。
さっそく、なのはちゃんに通信を繋げますね〜〜♪

って、あれ?
携帯に繋がらないなぁ…。
なにか通信を妨害するモノでもあるのかな?
…、
って、何これ!?
か、艦長!!
大変です!!
第97管理外世界…、なのはちゃんの世界で強力な結界の展開を検知!!
なのはちゃんが巻き込まれた可能性が高いです!!』

「なんですって!?」

エイミィの言葉に驚くリンディ。

エイミィの声を聞いたフェイト、アルフ、クロノ、ユーノも驚きの表情を浮かべている。

「…、行かなきゃ。」

即座にバリアジャケットを身に纏ったフェイトが転移ポートの上に移動する。

アルフも「フェイトが行くなら、何処でも一緒だよ。」とフェイトの隣に立つ。

「待ちなさい!
慌てても、何も成せないわ!!」

とリンディの一喝。

「エイミィ、直ちに座標計算を。」

クロノが即座に指示を出す。

『うん。
直ぐに出すから!!』

「…気をつけてな。」

俺がリンディ達の側でフェイト達に手を振ると、アルフが切れた。

「何言ってんだよっ、この馬鹿!!」

カツカツと足音を立てて駆け寄ると、俺の手を引っ張って転移ポートへ一直線に戻ろうとする。

「ったく!
なんで、この期におよんでそんな振る舞いするんだいっ!!」

「動くのダリィぜ。
なのはの奴の事だから、今頃襲撃者を返り討ちにしてるじゃね〜の?
そもそも、まだ嘱託魔道士として管理局に登録された訳じゃねぇから働き損だぜ。」

「ああっ、もう!
リンディ艦長!
この馬鹿のデバイスを持ってきてっ!!」

ヤル気のない俺に業を煮やしたアルフがリンディに声をかける。

自分のデバイスを持たない俺は、模擬戦のたびに管理局のデバイスを借りている。
面接を受け、嘱託魔道士としての認定が完了したら専用のデバイスを造ってもらえる事になっているが、今は無い。

ちなみにデバイスの費用は給料から天引きだ。
変な借りを作りたくないから、と俺がそのようにした。
自分の命を預ける相棒が自分の物でないなんて、気分が悪い。
「じゃあ、借りてる管理局のデバイスは?」と言われそうだが、ま、借り物だからな。

アルフの言葉にリンディが頷き、アースラの武器管理者に連絡。

エイミィが座標を割り出したと同時に、職員が走って持って来てくれた。

「…ありがとう。」

こうなっては仕方あるまい。
汗だくの職員に、申し訳程度の感謝を述べてデバイスを振る。

汎用デバイスに登録されているバリアジャケットが俺の身を包む。

甲冑、コート、ズボン、ブーツ。

嗚呼、
武装隊のバリアジャケットが男女共に男物なのがとても嬉しい。

俺がバリアジャケットを展開した事でリンディが悲しそうな表情を浮かべるが、
そんなのは俺の知った事ではない。

「アルフ、フラット!
早く!!」

既にフェイトの側に立っているユーノが声を上げた。
なのはが危険だと知って、焦っている。

フェイトも焦っているので急いでアルフと共に転移ポートへ飛び乗る。

「僕はアースラで情報の解析を手伝う!
そっちはキミ達にまかせたぞ!!」

クロノがそう言い残して、駆け出した。

「現状では貴方達しか出せないわ。
出来うる限りの支援はします。
…気をつけて。」

リンディの祈るような言葉に頷くフェイトとユーノ。

任務中で無くとも管理局職員の行動は厳密に規制されている。
故に、比較的規則の緩い俺達、嘱託魔道士の出番と言う訳だ。
と言うか登録は完了して無いから、正確にはまだ一般人。

『転送準備、完了!
気をつけてね、皆!!』

エイミィの声と共に転送魔法陣が展開。

俺達は海鳴市へ向け、転移した。


視界が暗転し、直後、暗いビルのフロアに立っている事に気付く。


と、風を切る音が正面から聞こえ、デバイスらしき長柄のハンマーが接近するのが見えた。

隣に立つフェイトと共に、咄嗟にそのハンマー目掛けて自分のデバイスを叩き付ける。

フェイトのバルディッシュと俺の汎用デバイスが重なり合い、バツの字の形になった状態でハンマーの動きを止める。

「っ!?
仲間…かっ!!」

ハンマーの持ち主は驚き、そして怒りに満ちた顔で呟いた後、一気に飛び退いた。

「…友達だ。」

バルディッシュをサイズ・フォームに変形させつつフェイトが答える。

「ゴメン、なのは。
遅くなった。」

そして、ユーノがなのはに語りかける。

「ふ〜ん、
危機一髪って所か。」

尻餅を付くなのはの有様をチラリと見て、そう判断する俺。

なのはの奴はバリアジャケットの上着を失って、レイジングハートもボロボロになっている。
デバイス・コアである真紅の宝石にも巨大な亀裂が入っている辺り、重傷だ。

ちょっと予想外。
だがまぁ、ユーノがなのはを守るだろう。

視線を前に向けると、眼前には、なのはを襲撃したと思しき小さな少女。

「なんだ?
なのはの奴、こんなガキにやられたのか?」

身の丈を越える長さのハンマー型デバイスを持つ少女。
何処と無く、ゲートボールのハンマーを思わせる雰囲気のデバイスだ。

オレンジ色でボリュームのある髪を左右に太い三つ編みに分けている。

赤が主体のバリアジャケット。
半袖の上着、くるぶしまである長く大きく広がったスカート。
背中から垂らされている帯が、一対の安定翼に見える。
黒い手袋のデザインも含めて、現代アレンジのプリンセス風ドレスといったデザイン。

だが、ぼさぼさとした前髪と、意志の強そうな青眼が儚そうなイメージを真っ向から全力否定。

「あたしはガキじゃねぇっ!!
なんだ、テメェ等は!
管理局の犬かぁっ!!」

「…私は時空管理局嘱託魔道士、フェイト・テスタロッサ。
抵抗しなければ、弁護の機会が君にもある。
投降するならば、武装を解除して。」

「ハッ!
誰がするかよぉっ!!」

フェイトの言葉にそう言い残したガキが真っ直ぐ後ろに後退し、割れたガラスから空に飛び出した。

「ユーノ、なのはをお願い。」

「ああ、任せてくれ。」

フェイトの言葉にユーノが頷く。
既に治療魔法が発動し、なのはを包んでいる。

「フラット?」

「ああ。
行こうか、油断するなよ?」

「大丈夫、
私は冷静だから。」

言うが速いか、フェイトはビルの外に飛び出した。

やれやれ、フェイトの奴、
なのはをブチのめされて頭にきているな。
それでも管理局の流儀で戦う気らしいのは流石…って所か。

そんなフェイトを放っておけず、俺もすぐ後を追う。

空に飛び出すと、
俺達より上空で赤い魔法陣を展開させたガキがふんぞり返っていた。

ん?
三角形の魔法陣?
初めて見る形だ。

「バルディッシュ!」

Arc saber(アーク セイバー).〕

フェイトの掛け声と同時に、ガキの方も声を上げた。

「グラーフアイゼン!!」

Schwalbe fliegen(シュヴァルべ フリーゲン)!〕

ガキが左手に四つの鉄球を構え、
宙に放り上げ、ハンマーで打ち出す。

鉄球は赤い魔力を帯びて、フェイト目掛けて飛び出した。

シュワルべ?

たしか、ドイツ語でツバメって意味の単語だったよな?

って、ドイツ語を話すデバイスも居るのか?

とりあえず、あのハンマーはインテリジェンス・デバイスかそれに順ずる能力を持っているようだ。

フェイトのアークセイバーが先にガキに迫ったが、
ガキの障壁でかき消される。

対するフェイトは、四つの鉄球を全弾避けきったが、
鉄球は即座に軌道を変更してフェイトに再度襲い掛かる。

ち、誘導式か。

しかし、制御に意識を傾けなければいけない手動誘導式ならば、コレはチャンスだ。

『呆けてるんじゃないよ!
このスキに、あの赤いのをぶん殴るんだよっ!!』

『O.K.
先攻はアルフに譲るぜ。』

行動を開始すると同時にアルフからの念話。
転移と同時になのはを俺たちに任せて周囲の警戒探索を行なっていたらしいアルフが魔力光を煌かせて一直線に駆け上がる。

俺が攻撃開始位置に付く頃には、
アルフが既に、赤いガキ目掛けて突撃していた。

敵として意識もされていない俺は、確実なタイミングを狙いすます。

「バーリーアーーーッ!
ブレイクゥッッーー!!!」

ガキが障壁を展開してアルフの突撃に備えるが、
アルフの十八番、魔力を込めた拳で障壁を強引に粉砕。

障壁が弾けた衝撃でガキとアルフの距離が離れる。

そのタイミングを狙っていたように誘導鉄球の同士討ちを起こさせたフェイトが、
スピードに物を言わせて、一気に接近。

ガキに向かってバルディッシュを振るう。

ガキもデバイスで迎え撃ち、
二人のデバイスが凌ぎを削る。

そして、二人の空中戦(ドッグファイト)が始まった。

…、

今こそ、攻撃のチャンス。

と、デバイス構えて急速降下しようとしたが、
状況を見て思い留まる。

既にアルフが飛び出して、問題のガキをバインドで拘束してしまっていたのだ。

「終わりだよ。
出身世界と所属、目的を話して。」

フェイトの言葉に舌打ちをする赤いガキ。

…なんだ、手を出すまでも無く終わっちまったじゃねーか。

3人でガキ一匹をボコろうってのが間違ってたのかもしれない。

そんなに人手要らねーよな、そもそも。

なんか、いまいち気分が乗らねーし、ガキも捕縛しちまったし。

ま、いいよな。
今更、俺が動かなくても。

ん〜、
しかし本当にヤル気になんねーな。

なんでなんだかなー。

「ふぁぁ〜〜っ。」

思わず、あくび。

その時、視界が上を向き、
街の一角を覆う封時結界が目に入った。

『あ〜、
エイミィ、クロノ?
騒ぎを起こしていたガキは捕獲したぞ、
とっとと、アースラに転送してしまえ。』

上を見上げたまま、念話でアースラに通信を入れてみる。

が、
返事に耳を澄ませても、こだま一つ返ってこない。

チューニングの合っていないラジオの様な空電音が聞こえるだけだ。

『駄目だよ、フラット。
ここの結界が外への通信をシャットダウンしてしまってる。
アースラに連絡を入れる為には、この結界を破壊しなきゃ。』

ユーノの念話が俺に届いた。

『ふ〜ん。
やれるか?
ユーノ。』

『多分。
なんか、ミッドチルダの術式とは違うような感じだけど、
なんとかしてみる。』

…うむ。
いよいよもって俺のする事が無くなった。

俺よりも低空に位置しているフェイト達を、ボーっと眺めていると、
俺を見上げたアルフに凄い形相で睨まれた。

アンタ、何暇そうにしてんだ?

って感じの目付きだ。

肩をすくめて見せると、更に凄い目付きになった。

そのままアルフは大きく息を吸い、俺目掛けて大きな声で文句を言おうとした瞬間、
アルフが痙攣した様に動きを止めた。

そして、まったく予想外の言葉を叫んだ。

「フェイト!
避けて!!」


アルフの言葉に思わず、フェイトの方へ顔を向ける。

と、

いきなり降って湧いた様に白い人影が現れ、
フェイトを切り飛ばした。

フェイトはアルフの警告のお蔭か、
その攻撃をバルディッシュで受け止め、斬撃の勢いを利用して距離を取る。


ピンク…と言うか、明るい赤紫の髪をポニーテールにしている。
整った顔立ちで深い色合いで少し垂れ目な碧眼。
コートをベースにしているらしい半袖の白い長外套。
前を開けたコートから紫のボディースーツらしき服が見えている。
腰から下は、前垂れに素足。
手足には手甲と足甲。

大雑把に20歳手前といった見かけの女騎士。

そして、その手には片刃のバスタードソード。


新手の登場に緊張したアルフと俺。

だが、新手はその女だけではなかった。

「ぬぉぉおおおっ!!」

雄叫びも露わにアルフへ襲い掛かる人影。

振るわれる鉄拳を左腕でガードするアルフだが、
そのまま叩き込まれた回し蹴りで吹き飛ばされてしまった。


邪魔にならない程度に伸ばされた白髪。
オレンジっぽい赤眼で額に蒼い宝石。
袖の切り落とされた深青のコートにゆとりのあるズボン。
褐色の肌も露わな腕には、二の腕を覆う巨大な手甲。
足にも脛まで覆う足甲が付けられている。

太い眉で険しい表情の20代ほどの筋肉男。

武器は持っていないが、代わりに何故か、尖った犬耳と尻尾を装備している。

…、趣味か?


なんとなく疎外感を感じた俺が状況を見守っていると、事態はどうしようもない方向へ爆走してしまった。

「レヴァンティン、カートリッジ・ロード!」

Expiosion(エクスプロズィオーン)!〕

紫の女騎士が右手に持った剣を掲げて声を上げると、剣からも答えが返ってきた。

インテリジェンス・デバイス!?

あそこまで武器っぽいインテリジェンス・デバイスが存在して良いのかと俺が驚いていると、
その剣状のデバイスの一部が動いた。

柄の上にある紫のカバーが前進し、中のメカニカルな機構から赤色で小さめな円柱が飛び出す。

そしてカバーが閉じると紫の魔力が噴出し、

剣が、炎を纏った。

「紫電、一閃!」

そう叫んで、足場代わりにしていた三角形の魔法陣から飛び出す女騎士。

掛け声と共に剣をフェイトへ打ち下ろすが、フェイトはなんとかバルディッシュで受け止める。

いや、

受け止められなかった。

バルディッシュの柄の真ん中がアッサリと断ち切られ、女騎士は再び剣を振り上げる。

片手の唐竹割り。

垂直に振り下ろされる炎剣。

Defensor(ディフェンサー).〕

辛うじて、半分の長さになったバルディッシュで防ぐが、
フェイトはそのまま、真下に叩き落されてしまった。

フェイトが叩き付けられたビルからは、盛大な土煙が立ち昇る。

「フェイトッ!!!」

アルフの悲痛な叫び。

即座にフェイトの元に駆け寄ろうとするアルフを阻む、犬耳男。

そのまま、二人は高速で飛び交う肉弾戦に突入した。

…、

結局、その戦いにも乱入するタイミングを逃した俺が状況を俯瞰していると、
フェイトを切り飛ばした女騎士が拘束されっぱなしの赤いガキに近づいて拘束術式を破壊していた。

女騎士が赤いのに帽子を被せながら何か話している…が、何を言ってるのかは聞こえない。

明らかに気を抜いているようだ。

ならば、コレこそが最良のチャンスだろう。

思わず、口がニヤリと歪む。

せっかくだから、俺の好みに合わせて製作中の新魔法の運用試験をしてみよう。

管理局の汎用デバイスでは扱いきれない魔力量なので、
デバイスを背中のベルトに引っ掛けて、気合を入れて声を上げた。

サクリファイス フォー ガンズ&ローゼス(銃と薔薇を捧げる)!!」

足元に特大の魔法陣を展開させながら、人差し指と中指を立てた右手で宙に十字を描く。

「来たれ、破烈の閃光!!」

宙に描いた十字架が銀色の光を放ち、装飾と呪文と円に囲まれた魔法陣と化す。

「万物を微塵と化せ!!」

十字架の魔法陣に連なって6つの環状魔法陣が展開する。

この環状魔法陣は放たれる魔力の収束と加速の為にある。

十字架の魔法陣を基部に大砲の砲身の様に環状魔法陣が並ぶ。

そして紫と赤色の二人の女達へ、その砲口を向ける。

その頃には、その二人も俺の存在に気付いて逃げようとするが、

もぉ、遅ぇ。

「アぺタイトッ・フォー・ディストラクションッッ!!!」

全力で魔力を込めた右手を十字架の魔法陣へ叩き付ける。

魔法陣に打ち込まれた魔力が魔法陣の術式に従って圧縮される。

圧縮された魔力は直径20cmほどのサイズで魔法陣から放出。

放出された銀色の魔力球が、環状魔法陣を通るたびに凄まじい勢いで加速される。

加速時の衝撃に耐えられず、環状魔法陣は次々に砕けて行く。

極限まで加速された魔力球は紫電を発し、大気を穿って一直線に目標へとひた走る。

攻撃目標は赤いガキ。

逃げ切れないと踏んだ赤いガキが、咄嗟に障壁を展開するが、
障壁にぶつかった魔力球は盛大に紫電を発し、ガキのみならず、女騎士も巻き込む大爆発を起こした。

ぬ?

おかしいな、障壁の類なんて貫けるぐらいの加速度と硬度は持たせたはず。
っていうか、全てを貫く貫通徹甲弾として造ったんで爆発するはずが無いんだが…。

ん〜?
未完成…、と言うより失敗したってか?
構成術式も勉強不足で今ひとつ理解が足りてねぇからなぁ。

やっぱ、無茶だったかね?
爆炎漂う光景を眼下に首を傾げる俺。

と、

爆炎の中から声が響いた。

「叩き斬れっ、レヴァンティン!!」

Jawohl(ヤヴォール)!〕

煙を切り裂き、真っ直ぐ俺に向かって上昇する紫の女騎士。

彼女の剣は炎を噴き出し、溢れる炎が切っ先から尾を引いていた。

ちっ、バルディッシュを切り裂いた、先の一撃かっ!?

後退しようとしたが、女騎士の方が速い。

ベルトに引っ掛けていた汎用デバイスを引き抜き、受身に構えるが、
このデバイスはバルディッシュ以下。

ならば、絶対にあの斬撃を受けてはいけない。

少しでもタイミングをずらす為に全力で後退。

だが、女騎士はそんな小手先を嘲笑うかのように、加速。

間合いに入った女騎士が剣を振り下ろす。

それに合わせて俺は後退を停止。

押し出すように構えていたデバイスを身体に引き付け、同時に体ごと反転。

「はっ!!」

空中で一歩踏み出すと同時に、汎用デバイスを女騎士の剣へ叩き込んだ。

「何っ!?
私の剣を打ち逸らすだとっ!!」

女騎士の驚きの声を実現する様に、
俺目掛けて振り下ろされていた炎剣は、途中で叩き込まれた汎用デバイスによって軌道をずらされ、
バリアジャケットの肩アーマーの一部を斬り飛ばすに留まった。

だが、安堵はまだ出来ない。
女騎士の剣はまだ炎を吹き上げ続けているからだ。

幸い、戦いの主導権は俺が取った。

ならば、攻めまくるのみっ!

「うぉおおおおっ!!」

汎用デバイスに光刃を展開し、突き、突き、突きまくる。

俺の攻撃は女騎士に避けられ、受け止められるが、
幸いにも女騎士の剣の炎は光刃を僅かに喰らうくらいでデバイスにまではダメージが及ばない。

だが、

クソッタレ。
一発も攻撃が入らねぇ。
緩急織り交ぜ、全力で卑怯臭い戦法も取っているってのにっ!

悔しいが俺の腕だけじゃ、この女騎士を仕留める事が出来ねぇ。
かといって、距離を取ろうにも…。

「テメーッ!
よくも、やってくれたなぁっ!!
グラーフアイゼン!
ブチかませっ!!」

「ちぃぃっ!
マルチ・プロテクション!!」

距離を取ろうにも、もう一人敵が居やがるからなっ!

咄嗟に左手を後ろから襲い掛かる赤いガキに向け、魔法障壁を展開する。

手の平から紡ぎだされる魔法陣の盾が三重に展開される。
かつて海浜公園でロープレス・バンジーをした時に、クッション代わりに使った奴だ。

これで赤い奴の攻撃を受け止める。

ズムッ!

ハンマーの打ち下ろしを魔法障壁で受け止める事には成功した。
だが、予想以上の重さだ。

障壁と障壁が限界まで圧縮される。

処理しきれない衝撃がそのまま、俺の左手に叩き込まれる。

「ぐっ…。」

「あたしの一撃を唯の魔法障壁で受け止めたっ!?」

赤いのが何か驚いているが、俺の方は限界が近い。

くっそ〜、労力をケチらず四重にするんだった。

だが、後悔している暇は与えてもらえない。
俺の意識が赤いのに向いたのを悟った女騎士が一気に間合いを詰めて来たのだ。

「コレで詰みだっ!」

女騎士が片手で剣を振り下ろすのを、咄嗟に右手のデバイスで受け止める。

幸いにも光刃で受け止められたのでデバイスごと斬られる危険は無いが、
女騎士の斬撃はやたらと重く、俺の片腕では支えきれ…ないっ。

「けっ!
この程度で終わる、かよぉおっっ!!」

両手は塞がったが、まだ両足は使える。

自分のデバイスごと女騎士の剣を左足で蹴り上げる。

「なっ!?」

鍔競り合っていた所にいきなり加わった力で女騎士はバランスを崩し、距離を取る。

ソレを視界の隅で確認した俺は、蹴り上げた勢いを使って左手で片手倒立。
さらに、左手に展開していた魔法障壁を踏み台にして飛び上がった。

俺の左手は魔法障壁で赤いののハンマーを受け止めていたままだったから、
当然、赤いのも、バランスを崩してしまう。

空中で前転する中、視界の端で、無防備に身体を泳がせる赤色のガキ。

攻撃してくださいと言わんばかりの背中へ、俺は全力でデバイスを叩き付けた。

だが、赤いのは魔法陣を伴わない魔力凝縮型の障壁を展開して俺の攻撃を受け止める。

攻撃が通らないのなら仕方が無い。

俺はそのまま飛び退いて、距離を置いて二人と相対する。

「…管理局の雑兵にしては強い、そして良い目をしている。
私は、ベルカの騎士。
ヴォルケンリッターの将、シグナム。
そして我が剣、レヴァンティン。
…、貴様の名を聞こう。」

悠々と剣を構えながら女騎士、シグナムがのたまう。

コイツ、勝った気で居やがる。

そう認識した瞬間、俺の戦闘意欲に火が付いた。

 

 

 ◇ シグナム ◇

 

 「よぉ、シグナム。
敵の名前を聞くなんて珍しいじゃん。
しかもアイツの装備、管理局の雑魚達のだろ?
持ってるリンカーコアも程度が知れてるんじゃねーの?」

予想外に善戦する管理局の兵士に名乗りを上げた私に、ヴィータがチャチャを入れる。

「ふ、
我等ベルカの騎士が、2対1で今だケリを付けられんのだ。
それに、その雑魚はヴィータに見事な一撃を加えているのだぞ?」

「へ、へんっ!
あんなの不意打ちじゃんか!!
マトモにやったら当りはしね〜よっ!!」

ヴィータが顔を真っ赤にして否定していると、件の管理局兵士から返事が帰ってきた。

「お前等、勘違いしてるようだが、俺は武装隊じゃねぇぞ?」

「ぬ?」

「へ?」

紺色のコートとズボン。
銀色の鎧と肩当て。
そして、中央に大きなデバイスコアを付けた槍型ストレージデバイス。
典型的な管理局の一般兵の装備だ。

同時に気になったのは、彼女の口調だった。
明らかに女の…、いや、少女の声色。
だが、その可憐な口から吐き出される台詞は完全な男言葉。
我等ヴォルケンリッターが一人、ヴィータも乱暴な言葉遣いだが、彼女の場合は何か違う。

ふむ?
と、疑問に思っていると、ヴィータが口を開いた。

「なんだよ、テメー。
雑魚の装備付けてて、粋がんなっ!」

「なんだと、赤いのっ!!
俺は自前のデバイス持ってねぇから、管理局から借りてんだよっ!」

「借り物?ダッセ〜!
自分のデバイスも持てない雑魚がしゃしゃり出てくんなっ!!」

「はんっ!
デバイスの差が、戦力の決定的差では無い事をその身に叩きこんでやるぜ!
ガキッ!!」

ふむふむ、ナルホド。
それで妙に魔力が有る癖に、一般兵の装備を身に纏っていた訳か。
一緒に居た者達はそれぞれ自分用の装備だったようだしな。

「ガキって言うなっ!
あたしはヴィータだっ!!
この、男女っ!」

「お、男女っ!?
て、テメェ、自分の事は棚に上げやがって。
このっ………ちっ、
とりあえず、名乗ってやらぁ!
俺はフラット。
フラット・テスタロッサ!
時空管理局、嘱託魔道士…内定だ!!」

ようやく、彼女の名前が分かった。
フラット・テスタロッサか、よし、覚えた。

「?
シグナムぅ〜、内定って何だ?」

「正式に雇用された訳では無いが、雇われる事が決まっている状態を指す。」

「ん〜?
つまり、アイツはまだ、管理局の犬じゃねぇって事か?」

「うむ、それで間違って居ない。」

「ぷっ、カッコ悪っ。
さっきの金髪ですら嘱託魔道士だってのに、偉そうなアイツは見習い以下なのかよっ!」

先ほどと同じ様に、テスタロッサがヴィータの挑発に乗るだろうと思っていたが、
彼女は余裕の表情で口元を歪ませただけだった。

「なっ!?
このやろっ!
あたしを笑ったなっ!!」

下手に侮蔑の言葉を受けるよりも腹に据えかねたらしいヴィータが一気に飛び出した。

「潰れろぉおっ!!」

遠心力を加えた一撃を振り下ろそうとするヴィータ。

私もヴィータを援護すべく、飛び出そうとした瞬間、
金色の流星が私目掛けて飛び込んできた。

 

 

 ◇ フェイト ◇

 

 私が叩き付けられたビル。

二階分の大きな穴の底で、空を見上げると銀色の光に飛びかかる紫と赤の光が見えた。

銀色は、フラット。

紫は、私をココに叩き落とした女騎士。

赤は、なのはを追い詰めたハンマー少女だろう。

フラットは後退しつつも、二対一で善戦している様子。

流石はフラット。

始めの内は相手の出方を窺って、どういう戦い方をするか考えていたんだね。
手伝ってくれないって、不満に思っちゃってた。

あ、そうか、
ただ、真正面からぶつかるだけじゃいけないんだ。

相手の戦い方を見て、相手に合わせた自分の戦い方をしないと…。

自分の手元に目を向けると、そこには中央から二つに断たれたバルディッシュ。
しかも、デバイスコアにダメージを受けてしまった。

「ゴメンね、バルディシュ。
私が下手なばっかりに…。
すぐ直すから。」

Recovery.(リカバリー)
Go on combat.(戦闘を継続。)

魔力を込め、柄を修復。
できるだけコアにも修復をかけるけど、こちらの方は難しい。

とりあえず戦闘可能だと判断してもう一度、空を見上げると、
いつの間にか戦いは一段落していた。

距離を取って空に浮かぶ、銀と紫、赤の光。

「…和解、出来たのかな…?」

やはり、フラットは凄い。
私達に出来ない事をやってのける。

と、思ったら再び赤の光が銀に向かって突進。

「ああ、やっぱり思い通りにはいかないんだ…。」

戦闘が再開される。

フラットが赤の相手をするなら、私は紫の相手をしよう。

「行けるね、バルディッシュ。」

私の問いに、ガチリとサイズ・フォームに変形して答えるバルディッシュ。

よし、行こう。

私は全力で、紫の光目掛けて飛び出した。

 

 

 ◇ フラット ◇

 

 ヴィータと呼ばれていた赤いのが俺目掛け突進し、その手に持つハンマーを振り上げる。

「潰れろぉおっ!!」

振り回して、更に加速させたハンマーが俺に襲い掛かる。

速い…が、

威力が有る分、彼女のハンマーの軌道は至極読みやすい。

半歩脇に避けるだけで、ハンマーは虚しく空を切った。

「お前っ!
避けんなっ!!」

「なんでわざわざ、避けれる攻撃を貰わにゃならんのだ。」

ヴィータの怒声にやれやれと返事を返す。

同時に、光刃を展開したデバイスを斬り付ける。

ハンマーで受け止められるが、牽制の攻撃に過ぎないので問題ない。
同時に、シグナムと名乗った女騎士の事も視界の隅に入れておく。

挟撃されるのが一番怖い。
故に、攻撃に集中できない。

…と、思っていたら援軍が来た。

「フラット!
一人にさせてゴメン、大丈夫?!」

全速力でシグナムに体当りしたフェイトが俺に問い掛ける。

「ああ、フェイト。
問題無い!
フェイトこそ無事か?」

「私は大丈夫!」

「そうかっ、
ソイツは手ごわいぞ!
剣の間合いに踏み込むなっ!!」

「判ったっ!」

ビルに叩き落とされた事など微塵も感じさせないフェイトに、そっと安堵の溜息。

ヴィータの攻撃を回避しつつ、
ふと、回りの様子が気になって周囲を見渡すと、

アルフが本来の姿、狼の形態になって、蒼い狼と戦っていた。
あの蒼い狼は、ひょっとして…先の筋肉男?
なるほど、あの耳と尻尾はアルフの同属だったからか。
それとも使い魔は皆ああなのか?

ともかく、アルフはソイツの相手で手一杯。

フェイトはシグナムと格闘戦。

俺はヴィータとかいうガキの相手。

ふむ…、手が空いているのはユーノとなのは…だな。

『ユーノ、
今は撤退しよう。
なのはを連れてアースラに転移しちまえ。』

『うん、そのつもりで転移魔法を使って見たんだけど…。』

念話でユーノに話しかけるが、ユーノの奴は言葉を濁す。

『なんだ、転移すら妨害されるのか?
この結界は。』

『そう言う事。
入るのは自由でも出るのは無理なんて、まるでアリ地獄だね。
まずはこの結界をどうにかしないと身動き出来ないよ。』

『おいおい。
お前は、稀代の結界魔導士だろうが。
破れないのか?』

『それは持ち上げすぎだよ、フラット。
残念ながら、この結界は僕の知らない術式で編まれてる。
さっきから解析してるんだけど時間と道具が足りない。
今は強引に叩き壊すしかない…よ。』

「ちっ、
使えねぇなぁ。」

思わず、独り言を呟いてしまう。

「テメー!
あたしを無視するとは良い度胸だっ!!」

どうやら、ユーノと念話してるのに気付かれたらしい。
幸い会話の内容までは悟られていないようだが…。

「ふん。
トロい攻撃ばかりで退屈で…、なっ!」

再びハンマーの軌道から身体をずらし、出来た隙目掛け、遠慮なくデバイスを叩き込む。

「うぐぁっ!」

横殴りの一撃がヴィータの腹に命中。
そのまま、ふっ飛ばす事に成功する。

だが、

「…硬ぇな。
何で出来てやがる。」

両手が攻撃した時の衝撃で軽く痺れてしまった。

おそらく、ヴィータの奴は攻撃と防御に特化した装備なのだろう。
だから機動力が割りを食っている…と。
まるでなのはの奴みたいだな。

「テメェ!
よくもあたしにっ!
もぉいいっ、ブッ殺す!
グラーフ・アイゼン!!」

Explosion(エクスプロズィオーン)
Raketenform(ラケーテン・フォルム).〕

ヴィータがハンマーに怒鳴ると、ハンマーの一部が爆発音と共に伸縮。
唐突に変形を開始した。

ゴキゴキと形を変えていったその姿は、まさにロケットハンマー。
槌頭には杭のような鋭い先端、反対側にはロケットのノズル。

「おお、スゲェ。
ちょっと欲しいかも。」

いやいや、マジで。

「驚くのはっ、
これからだっーーーっ!!」

ノズルから火を吹くハンマーを手に独楽の様にグルグルと旋廻を始め、
その勢いのまま、一気に俺目掛けて飛び出す。

…速い。

避ける余裕は無い。

だが、
その分、攻撃の軌道は露骨になってしまっている。

だから、

「マルチ・プロテクション!」

俺の正面に大量の魔法障壁を展開する。

ドッシリと構え、右脇にデバイスを抱えて、更に左手で支える。

総数12枚の魔法障壁をデバイスと俺の身体で支える。

「かかってこいやぁっ!!」

「ブッ潰してやるっ!!」

ヴィータが叫ぶと同時にロケットハンマーの尖った先端が最初の魔法障壁に衝突。

グラインダーを髣髴とさせる金属音を響かせ、ハンマーが最初の障壁を破砕する。

だが、直ぐに次の障壁に受け止められる。

ヴィータのハンマーは障害を次々に叩き潰す。

だが、障壁を壊せば壊すほど、その勢いは失われていく。

ぶち当たるだけで簡単に壊せた勢いも、残り1枚でストップ。

「なっ!?
なんでだっ!
アタシのグラーフ・アイゼンで壊せないモノは無いのにっ!!」

「ふっ、
壊れる事で勢いを殺す。
そんな防御法もあるんだよ。
戦いは、頭を使わねぇとな。」

右手をデバイスから外して、自分のこめかみ辺りをトントンと叩いて知性をアピール。
ヴィータの猛攻のお蔭で両手が痺れてしまっているが、悟られる訳にはいかない。

「うぐっ、
まだだっ!
まだ終わっちゃいないっ!!
吼えろっ!
グラーフ・アイゼン!!」

ヴィータの言葉にハンマーのノズルから盛大に炎が吹き出す。

途端に魔法障壁が軋みを上げる。

ちっ、
だが遅いっ!

足場にしている魔法陣を一気に拡大。

デバイスをベルトに引っ掛け、左手を真正面のヴィータに向ける。

正面に展開される攻撃用魔法陣。

右手を振りかぶり、拳に魔力をありったけ込める。

「怒れ、雷帝!!
サンダーッ!レイジーーーッ!!!」

魔法陣に右手を叩き付ける事によって発生する快音。

殴りつけた魔法陣からありえないサイズの雷が飛び出す。

最後に残った魔法障壁ごと、驚くヴィータを閃光の中に飲み込んだ。

そして、そのまま、この場を覆う結界にぶち当たる。

「結界ごとっ、貫けぇぇっ!!」

魔法陣に打ち付けたままの拳から、ありったけの魔力を術式に注ぎ込む。

放射型の魔法は魔力を追加投入出来るのが利点だな。

頭の片隅でそんな事を思いつつ、結界よ砕けろと力を振るう。

少々纏まりに欠ける銀色の閃光が結界の壁で散らされている。

そのまま魔力の消費と共に、閃光は痩せ細り、消えていった。

だが、結界にダメージは見受けられない。

「なっ?
俺の全力をぶち込んでも破れないのかっ!?」

更に俺の視界に入った光景に俺は驚いた。

サンダーレイジの影響で遠くに流されたとは言え、赤色の水晶の様な防壁で身を守ったヴィータがソコに居たのだ。

「ちっ、
やってくれるじゃねーか。
お蔭で最後のカートリッジを使っちまったぜ。」

ヴィータの言葉と共に防壁がガラスの様に砕け、伸びたデバイスから小さく赤い円柱が3つはじき出された。
そして煙を吐き出しつつ、再び元の長さに戻る。

「カートリッジ?
ふん、それがテメェ等の強さの秘密か。」

糞、結界どころかヴィータのガキも倒せないなんて。

二兎を追う者は一兎も得ず…か?
アイツの防壁のお蔭で、結界を抜くだけの威力を散らされてしまったようだ。

いや、
大出力魔法は汎用デバイスで扱いにくいんで、自前で制御してるが為に出力や収束率に無駄が出ているのかもしれん。

現状ではコイツ等を相手にするのは分が悪い?
だが、ヴィータの奴はこう言った「最後のカートリッジを使っちまった」と。
と言う事は面白変形ロケットハンマーも打ち止め。

俺も魔力の大半を消費してしまったが、低出力魔法なら問題なく撃てる。
まだ、戦闘は可能だ。

ならば条件は対等。

目の前のガキを打倒出来る。

腰のベルトにひっかけていた汎用デバイスを手に取った。

とはいえ、どう攻めたものかね。

俺がそう逡巡していると、近くのビルで爆発音。
いや、何かがぶつかった?

そちらに目をやると、宙に立つシグナムの姿。
彼女は土煙を上げるビルへ鋭いまなざしを向けている。

…と言う事は、ビルにぶつかったのはフェイト!?

俺の動揺を見て取ったヴィータが懐から四つの鉄球を取り出した。

「お前ぇーっ!
又、あたしを無視したなーーっ!!」

吼えると同時に順次ハンマーで殴打。

鉄球は赤い魔力を纏って、それぞれが違う軌道で俺に向かって飛び出した。

「ふん、無視なんかしてないさ。」

この鉄球、先と同じ誘導式か?
ならば、対抗策は容易い。

「堕ちろっ!
フォトンランサー・フルオートファイアッ!!」

汎用デバイスを突き出すように構え、穂先に展開した魔法陣からフォトンランサーを連射した。

俺に迫る鉄球達へと、怒涛の勢いで銀の弾丸の洗礼を浴びせる。

一発目で軌道がふらつき、

二発目で勢いが殺され、

三発目で動きが止まり、

そこに、四発五発六発と一斉に被弾した鉄球は纏う魔力を剥ぎ取られ、砕け散る。

次々に鉄球を撃墜した俺は、そのままヴィータへデバイスの穂先を向ける。

鉄球のお返しと言わんばかりに放たれるフォトンランサー。

だが、ヴィータは慌てずハンマーを振り上げる。

Panzer・hindernis(パンツァー・ヒンダー二ス).〕

瞬時に魔力凝縮型の障壁を張られて、フォトンランサーは虚しく障壁の表面を弾くのみ。
流石に気合を入れた障壁を破るほどの破壊力は持たせられないか…。

俺はフォトンランサーの射撃を中断する。

同時にデバイスを左手に持って、右手を振り上げた。

「ふふん、
お前のヘッポコな攻撃なんて怖く無いぜ。」

障壁の向こうで平らな胸を張るヴィータ。

「なら、こういう趣向はどうだっ!」

振り上げた右手に魔力を注ぎ、アークセイバーを展開する。
右手から生える銀色の鎌。

その状態で、右手を大きく振り回す。

右手の動きに合わせて、アークセイバーの形が変わる。
銀色に輝く三日月から光輪へ。

「アークセイバー改め、八つ裂き光り…、
もとい、
フリーホイール・バーニング!!」

高速回転による甲高い音を撒き散らしながら、光輪を射出。

銀の輪は、一直線にヴィータの元へ。

「なんだよ、
金髪が使ったのと同じじゃねーか。」

こんなの効かないね。
と、障壁を張ったままのヴィータが言うと同時にフリーホイール・バーニングが障壁に直撃。

再び、グラインダーが金属を削るような音が周囲に響く。

いや、

実際に削っている、
ヴィータの障壁を。

「なんだこれっ!
アタシ、こんなの知らないぞっ!」

「そりゃそうだ。
今、即興で俺が作ったんだ。」

「くっ、何なんだお前っ!
お前ぇーっ、一体、何なんだっー!!」

直撃しても爆発せず、障壁がガリガリと削られていくのを見せ付けられたヴィータが青ざめた表情で叫びつつ、
グラーフ・アイゼンで障壁ごとフリーホイール・バーニングを打ち壊す。

「…それにはこう答えるしか無い。
俺はっ!
フラット・テスタロッサだーっ!!」

吼えると同時に俺は、ヴィータ目掛けて突っ込んだ。

その時、戦線離脱したはずのなのはから念話が届いた。

 

 

 ◇ フェイト ◇

 

 紫の女騎士の猛攻に耐え切れず、再びビルに叩き付けられた私。

なんとかバルディッシュは無事。

まだ戦える。

ビルから離れ、バルディッシュを構えつつ、女騎士を睨み付ける。
動きを、見逃さないようにしないと。

すると、女騎士が唐突に声をかけて来た。

「ふ、
貴様も良い目をしているな。
…私はヴォルケンリッターが一人、シグナム!
そして、我が相棒レヴァンティン!
貴様の名を聞こう!」

「私はフェイト。
フェイト・テスタロッサ!
そして、この子はバルディッシュ!」

「ほう、
似ていると思ったら、やはりフラット・テスタロッサと同じ姓、
姉妹か。」

「…フラットにも名前を聞いたんですね。」

「ああ、
お前達、姉妹は良い目をしている。
敵にするには惜しいくらいにな。
だが、
私達の目的を阻むのであれば、致し方ない。
撃破する!」

剣、レヴァンティンを構えるシグナム。

腰を落とした姿勢から、一気に飛び掛って来る。

疑う事も無く、私達を姉妹だと認識したシグナムに思わず嬉しくなるけれど、
今は戦闘中。

この気持ちは脇に置いといて、いまは彼女の動きに集中する。

フラットは「剣の間合いに踏み込むな」と言ったけど、無理だ。

シグナムの動きは速すぎる。

残像を残すほどの動き。

まるで点と点を結ぶような、鋭い機動と攻撃。

シグナムが動いたのを見て、私も全速で左に逃げるけど、気が付いたらシグナムが目の前にいる。

咄嗟に障壁で防御。

でも、一撃で打ち砕かれる。

吹き飛ばされる勢いを利用して距離を離すけど、シグナムにとっては、この距離も間合いの内なのかもしれない。

どうしよう?

私を越える機動力を持った相手となんか戦った事が無い。
そもそも、私の戦闘経験はそんなに無い。

……、点と点?

そうか、シグナムの動きの基本は静と動。

見て見れば、足を止めて私の動きを読み、その先へと一気に飛び込んでくる。

じゃあ、私の取る行動は一つ。

動き続ける事。

常にトップスピードで縦横無尽に駆け抜けたら、流石のシグナムも私を捉える事は難しいかもしれない。

やってみる価値はある。

その為には、マントが邪魔だっ!

「行くよ、バルディッシュ!」

マントを脱ぎ捨て、身軽になった私は全速で空を駆ける。

「フォトン・ランサー!」

シグナムへと4発ほど放つ。
ビルに叩き付けられる時にフォトン・ランサーが彼女に効かない事は確認済み。
でも、牽制にはなる。

「ふ、
何か思いついたか?
よかろう!
受けて立つ!!」

余裕な態度のシグナムがレヴァンティンを目の前に構えて、防御の体勢に。

目を閉じて、身じろぎもせずにフォトン・ランサーを身体に纏った防壁で弾いた。

足を止めて集中して撃ったフォトン・ランサーでも弾かれたのだから、空を飛びながら撃った弾が効く訳が無い。

でも、それでいい。

私は既に、シグナムの背後に回り込めた。

「もらった!」

防御を解除した、シグナムの無防備な背中目掛けてバルディッシュを振るう。

だけれど、シグナムはクルリと反転して、レヴァンティンでバルディッシュを受け止める。

「ふ、
これで仕舞いか?」

「まだです!
フォトン・ランサー!」

バルディッシュから左手を離してシグナムに向け、その手の平からフォトン・ランサーを放つ。

至近距離から、顔面に飛んで来る光弾に流石のシグナムも体勢を崩す。

フラットの使った戦法。
「魔法はデバイスで行使する」という思い込みを覆す一手。

力で、速さで、技で敵わないなら、勝てる状況を作り出す。

それが、フラットの強さ。

私も、そうなる!

腕力では押し切れないので、飛行術式に魔力を大量投入。

空を駆ける力で、シグナムを打倒する!

「ぐっ!?
急に強くなった!?
しかし、負けん!
レヴァンティン!!」

〔Jawohl.〕

シグナムが叫ぶと同時に、ガションと一部が動いたレヴァンティンから再び、炎が舞い上がる。

危険を感じた私は即座に鍔迫り合いを止め、シグナムから離れる。

足を止めず、そのまま上空へ上昇し、反転。

シグナム目掛けて、急降下。

降下する勢いも速さに変えて、バルディッシュを構える。

シグナムは迎え撃つように、レヴァンティンを構えた。

「勝負は、一瞬。
行きます!!」

「来い!!」

飛び込む私を刈る様に、炎を噴き出すレヴァンティンが振るわれる。

私は進行方向を維持したまま身体を投げ出す様にして反転。

上下逆さまになった状態でレヴァンティンが空を切るのを見届ける間も無く、バルディッシュを振るう。

当たった!

そう確信した次の瞬間、レヴァンティンを振る勢いを利用してシグナムが回る様にバルディッシュの軌道から避けた。

避けられた?
でも、二撃目を放つ余裕は無く、私は驚きの表情を見せるシグナムの側を駆け抜けた。

再び上昇。

こうなったら攻撃が通るまで、やり続ける!

決意した瞬間、私の両足から痛みが走った。

目を足に向けると、両脛を横に走る火傷の痕。
足を包むニーソックス状のバリアジャケットも、ソコだけ焼き切れてる。

「避け切れなかったんだ。」

でも倒す。

180度の上昇軌道を描いて、頂点で逆さになった視界を戻す為にクルリと回転。
所謂、インメルマンターン。

そして、眼下に望むシグナムに向けて再び突撃。

傷の所為か、さっきよりスピードが乗らないけど、とにかく攻撃だ。

でも、同じ手は通用しなかった。

私の突撃に合わせてシグナムも突撃して来る。

そしていきなり残像を残すほどの高速機動。

いけない、このままじゃ。

攻撃を諦め、一気に急降下。

私の売りはスピード。

速さだけは、負けたく無い!

両脛の痛みを我慢して、速度を搾り出す。

その甲斐あってか、ギリギリでレヴァンティンの斬撃を避けれた。



レヴァンティンを振り切ったシグナムの顔に、苦痛を堪えるような表情が一瞬見えた。

でも、その表情の理由を探る前に、地面が危険なくらいに近づいていた。

速度を落とさないように注意しながら、体を地面と平行に。

地面スレスレの超低空をツバメの様に駆け抜ける。

そして急上昇。

三度、シグナムへの突撃軌道に乗る。

今度は不規則にスラロームを加えて、動きを捉えにくくしてみる。

シグナムの加速力は脅威だ。
でも、私の様な高速機動戦は得意では無い様子。

なんとしても、私の得意な戦い方で相手をしてもらわないと。

ひょっとしたら、これがフラットの言う「剣の間合いで戦うな」って事なのかもしれない。

「やああああっ!」

「おおおおおっ!」

足を止めたシグナムへとバルディッシュを振るう。

バルディッシュはシグナムの振るうレヴァンティンと真正面からぶつかった。

レヴァンティンの炎とバルディッシュの光刃がギリリと嫌な音を上げる。

鍔競り合った事で私の身体は一時的に止まり、
急激な減速が私の身体を痛めつける。

くっ、身体を踏ん張らせないといけないから、両脛に負担が…。

顰めた眉で、デバイスの向こうにあるシグナムを見つめると、
彼女も又、痛みに顔を歪ませていた。

このまま、押し切れる?

駄目だ。
押し切れない。

これ以上の何かをしないと…。

後、一手。

もう少し、力があれば勝てるのにっ。

と、その時。

傷つき倒れたはずのなのはから、念話が届いた。

 

 

 ◇ なのは ◇

 

 叩き付けられたビルの屋上で、私はユーノ君と空の戦いを見上げていました。

銀と赤、金と紫。

空に輝く星たちよりも燦然と輝き、クルクル舞う様に踊る光達。

銀色は赤色の突撃をヒラリ、ヒラリと避けたかと思えば、ここぞと言う時に攻撃を仕掛けます。

金色は留まる事無く飛び回り、紫への突撃を繰り返しています。

私はここから見上げる事しか出来ないの?

私の為に回復と防御の魔法陣を展開してくれたユーノ君は、ここの結界を解く為の手立てを探しています。

「くっ、駄目だ。
この結界は閉じ込める事に特化しているみたいだ。
中からじゃ、術式にアクセス出来ない!?
くそっ、どうする…。」

ユーノ君は頭を抱えつつも諦めてないみたい。

と、その時レイジング・ハートが声をかけてきました。

Let to break.(壊しましょう。)

「え?
レイジング・ハート、どういう事?」

It break.(壊すのです。)
Shoot it,Starlight Breaker.(スターライト・ブレイカーで。)

「で、でも!
レイジング・ハート、こんなにボロボロになっちゃったのに!
駄目だよ!
壊れちゃうよ!!」

It is possible my master.(あなたならば出来ます。)
So it is, I believe master.(そう、私はあなたを信じています。)
…. Trust me,my master.(だから、あなたも私を信じてください。)

「レイジング・ハート…。
…、
うん。
判った、やるよ!
レイジング・ハート!!」

『フェイトちゃん!
フラットちゃん!
今から結界を吹き飛ばすからっ!!』

『大丈夫なの、なのは?』

『無茶した上で「やっぱり無理でした」じゃ、締まらねぇぜ?
なのは。』

『うん!
私とレイジング・ハートを信じてっ!!』

All right.(準備完了。)
Ten caunt.(テン カウント。)

ボロボロのレイジング・ハートがそう宣言すると共に、ユーノ君の張った魔法陣を消し飛ばして展開される特大の魔法陣。

「なのは!」

ユーノ君が心配そうな顔を向けるけど、私はニッコリ笑って頷いた。

「大丈夫。
私達が直ぐにこんな結界、吹き飛ばしちゃうからっ!」

Of course.(もちろんです。)

そして、レイジング・ハートのカウントダウンが始まりました。

〔Count nine.〕

レイジング・ハートの先端に環状の魔法陣が三つ展開。

〔Eight.〕

中央の一番大きい環状魔法陣に桜色の光が集まってきます。

〔Seven.〕

光がゆっくりと大きく育っていって…。

〔Six.〕

〔Five.〕

〔Four.〕

いつしか1mを超えそうなほどの光球が出来上がっていました。

〔Three.
Three,
Three…,〕

と、いきなりひび割れた声で同じ数字を繰り返し出したレイジング・ハート。

「大丈夫?
レイジング・ハート!」

No problem.(大丈夫です。)

〔Counnt three.〕

私の声を受けて、気合を入れ直した様にいつもの声に戻って、カウントダウンを再開。

〔Two.〕

レイジング・ハートのダメージが気になるけれど、ここで止めたら彼女の信頼を裏切ってしまう。
トコトン、やるっきゃないんだね。

〔One.〕

終わったら直ぐに修理してもらうから、頑張って、レイジング・ハート!

そして、カウントゼロをレイジングハートが宣言しようとした時、
異変が起こりました。

その異変は、痛みとも不快感とも形容しがたい、得体の知れ無い苦痛でした。

「え…?」

違和感の元を知ろうと、胸元に目を向けると、
そこには、誰かの手が生えていました。

「え??」

胸から、手が生えた!?

「うぐっ…!?」

唐突に生えた手が胸の奥へと引き抜かれ、そして再び飛び出すと、
その手には、小さいけれど燦然と輝く何かがありました。

「え…?
何…、これ??」

苦痛のあまり、何も考えられなくなって、
唯、呆然と胸から生えた手を眺めていると、唐突に何かに吹き飛ばされました。

「あうっ!?」

お尻から床に激突したけれど、なんとかレイジング・ハートを落とさずには済んだ私が前を見上げると…。

私の立っていた位置にユーノ君が立っていて、
私の代わりに、胸から腕を生やしていました。

「えっ!?
ユーノ君!?」

ユーノ君の胸から生えている手には、私の時と同じ様な輝く何か。

「くっ、
今回、僕は…役立たずだから…ね。
このくらいは…しないと…。」

「ユーノ君!!
直ぐ助けるからっ!!」

「駄目だ、なのは!
君は結界を壊して!
それが…、最優先…だよっ!」

私が逡巡している内に、ユーノ君の胸から生えた腕は、輝く何かを掴んで胸の奥に消えていきました。

そして倒れるユーノ君。

駆けよろうとすると、顔だけこちらに向けたユーノ君が叫びました。

「撃って!
なのは……っ!!」

その声で私は足を止め、空を見上げました。

空には、不思議な色をした結界。

手元には、桜色の光を溜め込んだレイジング・ハート。

「うん、
判ったよ、ユーノ君。
じゃ、行くよ!
レイジング・ハート!」

〔Yes master.
Count zero.〕

「行っけぇーっ!
スタァーッ!
ライトォーーーッ!!
ブレイカーーーーッ!!!」


真上に向かって放たれる、桜色の巨光。

それは、今まで梃子摺らされた結界を物ともせずに一直線に駆け抜けました。

 

 

 ◇ フラット ◇

 

 俺とヴィータの戦いは、いつしかデバイスでの凌ぎ合いに代わっていた。

攻撃力こそあるが、取りまわしの難しいはずのハンマーを振り回し、
俺と互角の戦いを繰り広げるヴィータ。

と、唐突に声を上げた。

「あ?
撤退しろだって!?
もうちょっとで、このムカつく奴を倒せるんだ!
背中を向けてなんか、逃げらんねーよっ!」

どうやら、仲間との念話らしい。

鍔競り合いを切り上げ、距離を取るヴィータ。

「…、
なんだって!?
ちっ、なんてこった。
…糞ッ。
本当に、もうちょっとだったのに。」

空を見上げて悪態を付いている。

空?

俺も見上げて見ると、ソコには普通の夜空。

なのはの奴、結界をぶっ壊したのか。

ヴィータに視線を戻すと、ヴィータも俺を見ていた。

「勝負は次に預けとくぜ、男女っ!」

「ハッ、
返り討ちにしてやんよっ、赤ガキ!!」

「アタシはヴィータだっ!」

「俺はフラットだ。」

「う…、
ふ、ふん!
次はこうはいかないんだからなっ、
覚えとけっ、フラット!」

ありきたりな捨て台詞を残して、ヴィータが空へと飛び去った。

正直、責め手に欠けていたから撤退してもらって助かった。

やれやれと、フェイトの居る方向へ視線を向けると、
俺と同じように、フェイトの元を去る紫の光。

アルフの方もやっぱり蒼い光が飛び去っていた。

と、フェイトはなのはの居る方角へと飛び出した。
アルフもフェイトを追う。

ふむ、
じゃぁ、俺もなのはの居るところに合流しますかね。

のんびりと、なのは達の居るビルの屋上に飛んでいくと、
座りこんだなのはを囲む様に、フェイトとアルフが立っていた。

「ん?
なにしてんだ?」

屋上の縁に着陸。

「あ、
フラット。」

振り返るフェイト。
フェイトが振り返る事で、フェイトの身体に隠れていたモノが見えた。

なのはがユーノを膝枕してる…。

「…。
お前等、いつの間にそんな関係に。」

「あ、いや!
コレは違うの!
違うんだよ?フラットちゃん!!」

「ん〜、
やっぱそう見えるよねぇ♪
なのはも隅に置けないやぁ〜ね。」

アルフが面白いオモチャを見つけた表情でニコニコとなのはを突っついた。

「いや、あのね?
ユーノ君、私を庇って倒れちゃったから…。」

「へぇ〜、
ユーノも男なんだぁね〜。
『愛する人は、身を挺して守るっ!』ってのかね?」

「あ、アルフさん!?」

顔を真っ赤にしたなのはがワタワタと慌ててる。

フェイトは二人の会話を興味深そうに聞いていた。

ん?

ユーノがなのはを庇って倒れた?
それで現状は、意識不明…。

おいおい、ちゃんと息してるんだろうな?

なのはの膝の上で昏睡中のユーノの口元に手をかざしてみる。

ふむ、呼吸はしてる。

脈は…。

首の大動脈に指を当てて、脈を診て見る。
自分の首に指を当てたら判るが、ちゃんと動脈を押さえれたら、指でも鼓動を感じ取れるのだ。

ちゃんとした教育は受けて無いから心拍数から体調を推し量る事は出来ないが、
脈は安定してる。

問題ないっぽいな。

と、俺の行動を見て心配になったなのはが疑問を口にした。

「ね、
ねぇ、フラットちゃん。
ユーノ君、大丈夫なの?」

「ああ、取り合えず息はしてるし、不整脈とかも無いっぽい。
後は、倒れた時に頭を打ったかどうかってトコだろうが…、
まぁ問題無いんじゃねぇの?」

腰を伸ばして俺がそういうと、なのはは安堵の溜息。

「良かった〜。」

「ま、素人のなんちゃって診察だから信頼性は皆無なんだがな?」

「え、
ええっ!?
そこは、自信をもってよぉっ!!」

なのはが困惑の声を上げた時、目の前に魔法陣が展開した。

魔法陣にはクロノの姿。

『君達、何時までそんな所で暇を潰しているんだ!
早く帰ってこないかっ!!』

「なにカリカリしてんだ。
…ひょっとして、生…」

『生理じゃないっ!!』

「お前…、なんて恥ずかしい言葉を大声で…。」

『君が先に口にしたんだろっ!?
…、
って、そんな下らない話をして居る場合じゃなかった。
この騒動で重大な事実が判った。
早く、アースラに戻ってくれ。』

クロノがそう口にした辺りで、なのはが俺の方を見上げる。

「…、
あぁ、そうだった。
ユーノがなのはを庇って倒れた。
今、意識不明だ。
担架と医療班を頼む。」

『なに?
判った、用意しておく。
…君達は早く、アースラへ。』

クロノの言葉を最後に魔法陣が閉じる。

「…だそうだ、アルフ。」

「なんでワタシに振るんだよ?」

「俺の魔力がすっからかんだからだ。」

俺の言葉に呆れたアルフに見かねて、フェイトが口を挟む。

「…じゃあ、私が…。」

「ああっ、イイってフェイト。
ご主人様を煩わせちゃ、使い魔の名折れだよ。」

言うが早いか、転移魔法陣を展開。

オレンジの光に包まれて、俺達はアースラへと転移した。


…、

その後、ユーノが一応無事である事を確認したなのはに、
バリアジャケットの下に着ていた服(裁判で使った服)を羨ましがられたり、
なのはの盛り上がりっぷりに食指を動かされたリンディ・エイミィの魔手にとっ掴まったりと大変だった。

散々弄られた所為か、
『闇の書』なるロストロギアに纏わる話に緊張感を感じられなかったりするのは、はたして良かったのだろうか?















A,s 第一話 完
















  あとがき



 すいません。

大変長らくお待たせしました。TANKです。

いやぁ、思った以上にフラットを話の中に組み込むのに四苦八苦してしまいましたです。

ガンダムSEEDのSSネタが思いついたり、ガンダムOOのSSネタに燃え上がったりで遅れた訳じゃないですよ?

放映が終わって今更なんですが、中途半端にミリタリー色なんですよねぇガンダムOO。

せっかく第一話で中東もしくはアフリカ?での民族・宗教戦争をやってたんだから、そのネタを掘り下げればもっと面白く出来そうだったのに。

…テレビ作品じゃ、まだ許されないのかな?
最近は垣根が少しずつ崩されて来てますから、ちょっと期待しすぎちゃうんですよね。
泥沼の戦争。

特にアフリカ紛争はカオスなそうですから…。


それはともかく、作品解説の方ですね。

フラットとフェイトが原作よりも有利にヴォルケンリッターと戦えたのは、フラットの戦術思考のお蔭です。
戦術思考というか、生き残る為だったらなんだってする生き汚さ…と言い変えた方がいいのかも。

言うまでも無い事かもしれませんが、冒頭の戦闘訓練とかでフラットの戦い方がフェイトに影響を及ぼしている…という事にしてやってください。

小学生相手に言うこっちゃ無いですけど「君等、馬鹿正直に突っ込みすぎ」ってなもんです。

フェイトは元々高機動が売りなんだから、その気になったらコレぐらい出来るだろうと。

フラットは、まぁ、フェイトと同じスペックの体なんで…やっぱりコレくらい出来るだろうと。

やっぱり、攻撃の決定打が無いので現状ではいかんともしがたいのですが。

あ、後、なのはの胸から飛び出した手、シャマルの空間歪曲魔法「旅の扉」は、なのはの胸に空間接続された訳ではなく、
なのはの立っていた空間に接続されたと解釈しております。
だって、そうしないとユーノ君が無意味な行動を起こした事になってしまうのですもの。

リアル思考で考えたら、手を突き出した時点で血塗れなのはサンが出来上がってしまうのですが、
多分、空間歪曲魔法に手を通した時点で、手も非殺傷設定になってたんでしょう。

さて、次回はフラット達の日常のアレコレなどを纏めてしまうつもりです。

え、ナデシコはどうしたって?

えへへへ…、筆が進まなくて。
…ゴメンなさいです。







感想代理人プロフィール

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代理人の感想
なぬ。これはもしやフラット×クロノの布石!
まぁTSものではある意味お約束の展開ではあるのですが、某古典の如く妊娠出産まで行かないことを切に祈ります(ぉ

それはともかく、今回もフラットは大暴れ。あくまで正面から、相手を力で叩き潰すのがなのはなら、目的のためには手段を選ばず、足りない力を知恵と経験で補うのがフラット。
作中で当人も似たようなことを言ってましたが、性能差が戦力の決定的な差ではない。経験は立派な、そして強力な武器なのだと言う事で。
もっとも、このセリフを吐いた当人はMSの性能差の前についに勝利出来ませんでしたけど(えー

>姑息で卑怯
いいじゃないか、「迂闊で残念」よりは(爆)。

>男に生理があるか、君じゃあるまいし
・・・・いやぁ、普通フェイトやフラットの年齢だと生理がくるのは珍しいと思うんだけど(爆)。
というか微妙にセクハラ発言なんだが、フラット相手だとしょうがないな。w

>正直、責め手に欠けていたから撤退してもらって助かった。
『責め』手? いやいや。いやいやいや。さすがフラットちゃん、ドSですな。

ちなみにカートリッジが全部「カードリッジ」になっていたので直しときました。ご注意をば。


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