◇ フラット ◇

 

 暗い大部屋。

天井と床は灰色の鋼鉄で覆われ、壁は不思議な格子模様。

壁と中央に設置された机から辛うじて辺りが見渡せるほどの光。

机はやはり灰色の鋼鉄製で、椅子も同じ。

俺から見て真正面の席に緑色の髪を持つ妙齢の女性。

その手前、向かって右側に黒色の髪の少年。

少年の対面には茶色の髪の若い女性。

さらに手前には、茶色の髪の少女、茶髪の少年、対面に金色の髪の少女、橙色の髪の女性と続く。

彼女等は雑談一つせず、俺の言葉をじっと待っている。

「それじゃ、俺の専用デバイス。
その概案が出来たんで、見てもらおうか。」

俺の言葉に合わせて、机の上に大きな球体のホログラムが展開。

そのホログラム内に、各種データと共にデバイスの概念図が表示された。

俺が望む相棒の形。

それを見た一同が息を飲んだ。

ふふん、
声も出ないか。

それもそうだろう。
この間、襲撃してきたヴォルケンリッター達の持つデバイスを元に、
俺が考えに考えた末に出来上がった傑作なのだからなっ!

コイツを超えるモノは、そんなに無いと断言できる。

と、黒髪の少年が口を開いた。

「……フラット。」

「ん?
どうした、クロノ。
俺のアイディアに脱帽したか?
それとも感動したのか?
賞賛したいのなら、いくらでも聞いてやるぞ?」

俺の言葉を受け、ポカンとした表情になったクロノがいきなり立ち上がって吼えだした。

「そんな訳無いだろっ!!
君はデバイスをどんな風に認識しているんだっ!!」

「武器。」

即答した俺、再び言葉に詰まるクロノ。

「あ〜、ま〜、
確かに武器っちゃ武器だよね〜。」

「…うん。」

茶髪の少女の言葉に、金髪の少女が頷く。

「あははは…。」

茶髪の少年はただ笑うばかりだ。

「そんじゃ、
簡単だが説明を始めるぜ?」

俺の言葉に、全員が俺へと目を向ける。

ちょっとした優越感と共に、俺は説明を始めた。

「インテリジェント・デバイス<アルギュロス>。
全長38.1cm。
重量、約2kg。
射撃戦に特化したデバイスだが、アークセイバーの派生術式によって格闘戦も視野に入れている。
ベルカのカートリッジ・システムを取り入れ、特製12.7mmカートリッジを五発装填。

コイツのコンセプトは唯一つ、
圧倒的な火力で状況を制圧する事だ。」

「…アルギュロス…ギリシャ語の銀。
なるほど、
フラットさんらしい、シンプルな名前ね。」

僅かに微笑んだ、緑髪の女性が呟いた。

「名前の通り、銀色のボディですしね〜。」

うんうんと頷く茶髪の女性。

即座にクロノが反論。

「リンディ艦長!
エイミィ!
こんなデバイスを受け入れるのなんて、僕は反対だ!」

「?
そうかな〜、カッコ良いと思うけど。」

「フラットが望むのなら、それで良いと思う。」

「なのはにフェイトまでっ!?」

二人の言葉に衝撃を受けたクロノが、まだ意見を述べていない残った二人、
アルフとユーノに希望のまなざしを向けた。

「デバイスはワタシの管轄外さ。
戦力アップは歓迎しこそすれ、否定するもんじゃないと思うけどね。」

「僕もデバイスで戦うタイプの魔導士じゃないしね。
インテリジェント・デバイスともなれば個人向けの一点ものが多いから、持ち主の趣向に合わせた方が良いとは思うよ?」

「くっ、君達まで。」

クロノが頭を垂れる。
そこになのはの質問。

「ねぇ、どうしてクロノ君は、アルギュロスに反対なの?」

「そんなの決まってる!
あまりにも露骨なデザインだし、そもそもカートリッジ・システムは危険だからだっ!
繊細なインテリジェンス・デバイスには不向きな装備なんだよ!!
だというのに、特製の大型弾を使うなんて正気じゃない!
下手をすれば命に関わるんだぞ!!
…っていうか、
そもそも、なんでフラットがカートリッジ・システムの事を知ってるんだ?」

「あ、
私が教えたの。」

「エイミィ!」

「…だって、
フラットちゃんが珍しくおねだりするんだもの…。」

クロノに怒鳴られたエイミィがしょんぼりと言い訳をする。
エイミィの言葉に「それは仕方ない」とリンディが頷く辺り、俺としても納得がいかない。

「フラット!」

クロノの矛先が俺に向く。

「なんだよ?
おねだりっつったって、ただ『アイツ等の装備について教えてくれ』って聞いただけだぜ?」

「そんな事は聞いて無い!
…こんな過激なセッティングのデバイスを使いこなす自信はあるのか?」

「なかったら、そもそも提案しねぇよ。」

「…その言葉、本気ね?」

俺の言葉を聞いたリンディが、静かに問う。

「ああ。」

俺もリンディの目を見つめながら、ゆっくりと頷いた。

「…後悔するぞ。」

クロノが憎まれ口を叩く。

「しねぇよ。
どんなに使い勝手が悪くなっても俺が望んだデバイスだ。
道具は使いこなしてこそ、漢だろうが。
それに、
『戦闘は火力』だからな。」

「そうね、戦闘は火力よ♪」

俺の言葉に追従するようにリンディ。

なんだか妙に活き活きしている。

「?
リンディ、アンタ若い頃、
白いスーツに身を固めたり、古い自動拳銃の二丁持ちとかしなかったか?」

リンディの反応に違和感を抱いた俺が訝しげに質問すると、
何故かエイミィが恐れる様な声色でボソリと呟いた。

「く、紅の流れ星…。」

「なっ!?
その通り名は、まさか!!
まさか母さんが、あの伝説の『管理局のクラッシャー…」

エイミィの言葉にクロノが反応するが、全てを言いきる前にリンディの声がソレを断ち切った。

「クロノ。」

何故か凄くいい笑顔のリンディ。
だというのに何故だろう、
この背筋が寒くなる感覚は?
起こしてはいけない者を起こしてしまったような…。

私は悪く無いのよ?…ただ、私が頑張る度に何故か周囲が廃墟になるだけなんだから…。
…、
って、こほん。
とりあえず、フラットさんが覚悟している以上、
アルギュロスはこの概念図通りに作ってもらうわ。
ただ、特注の設計だし、
なのはさんのレイジング・ハート、
フェイトさんのバルディッシュの修復もあるから作るのに時間が掛かるのは受け入れて貰えるかしら?」

と、先ほどまでの威圧感をどこかへやったリンディが俺に問いかけて来た。

「ああ、
構わない。」

「そう。
では、この会議はコレにて閉会ね。」

「あ、待ってください!」

リンディが閉会の合図をしようとしたところでエイミィが手を上げた。

「どうしたの、エイミィ?」

「ええ、この概案にはバリアジャケットに関する内容が含まれてません。
…フラットちゃん、どうするの?」

リンディの疑問に答え、更に俺へと質問するエイミィ。

「ん〜〜、
とりあえず頑丈だったら文句無ぇよ。
あ、金属パーツの類はいらねぇ。
パンクは俺の好みじゃない。
まぁ、強いて言うならコートが欲しいな、軍用なゴツイコートが。
あと…そうだ!
スカートは要らないからな!
絶対、駄目だからなっ!!」

「パンク…、
あ、うん。
それじゃ、技術部にはその様に伝えとくね。」

頷くエイミィを見て、改めてリンディが口を開く。

「それでは、これにて閉会。
フラットさんと、フェイトさん、なのはさんは、
この後、グレアム提督との会談があるので本局に行くように。
クロノ、案内してあげて。
あ、
会談の結果次第では嘱託魔道士の採用が見送られる事もあるのだから、十分注意しなさいね、
フラットさん?」

「俺だけかよ。
はんっ、
判ってるよ、精々ご機嫌を伺うさ。」

「違うわ。
貴女のありのままを見せなさい。
提督は、猫かぶりが通用するほど甘い相手じゃないわよ?」

「ふ〜ん、左様で?
ま、精々気を付けるさ、
せっかく俺のデバイスが作ってもらえるってのに、お預けくらっちゃたまんねぇからな。」

そう言って俺は、机の上のホログラムに展開された概念図へ目を向けた。

そこには、

銀色の特大リボルバーの姿があった。


 

 

魔法少女リリカル☆なのは 二次創作

魔法少女!Σ(゚Д゚) アブサード◇フラット A’s

第2話 「小学生を や ら な い か ?」

 

 

 ◇ フェイト ◇

 

「…でもユーノ、
大事が無くて良かった。」

「うん、そーだね♪
私の所為で大怪我をしてしまったら、申し訳なくて私、死んじゃうよぉ。」

「…ユーノが望んでやった事だろ?
身を挺して守ったなのはが自殺しちまったら、ユーノも後を追いかねないぜ?」

「だろうな。
ま、あのフェレットもどきにしては良くやったんじゃないか?」

上から私、なのは、フラット、クロノ。

今、私達はグレアム提督という人に会う為、
管理局の通路を移動中。

と、何も無いところで私の足がもつれた。

「あ。」

受身も取れずに倒れようとする私だったけど、咄嗟に引き止め、抱き寄せられる。

「人の怪我の心配よりも、自分の心配をする事だな。
君の怪我も軽くは無いんだから。」

私を胸元に抱き寄せて、忠告するクロノ。

そう、ヴォルケンリッターと名乗る人達の一人、シグナムのデバイスによって焼かれた足は、
思ったより深く斬られていた。

とはいえ、無理に走らなければ数日で治るという太鼓判はもらってるけど。

「で、クロノ君はいつまでフェイトちゃんを抱きしめてるのかな〜。」

ニコニコと問いかけるなのはの言葉に、慌ててクロノが私を解放する。

「むっ、
こ、これは不可抗力だ!
僕は別に下心があった訳じゃ…!?」

「ああ、良い訳はいい。
それよりさっさと、グレアム提督のトコに行こうじゃねぇか。」

クロノの慌てた有様に、フラットが落ち着けと声をかける。

「…それなんだが、もう、着いている。」

と、呼吸を落ち着けたクロノが、
通路にポツポツと並ぶドアの一つに向かい合って、ドアの側のボタンを押した。

「グレアム提督。
クロノ・ハラオウンです。
嘱託魔道士志望の二人と付き添いを連れてきました。」

『ああ、君か。
鍵は開いているよ、入ってきてくれたまえ。』

クロノの言葉にスピーカーから帰ってくるのは、年月を経たと感じさせる渋い男性の声。

「失礼します。」

空気の抜ける音と共に開いたドア。

ドアの先で待っていた人は、銀色の髪と髭を蓄えたおじさん。


銀髪だから…おじいさん?
でも、おじいさんと言うには、まだ若いような。

銀髪だけどフラットの髪とは違って、使いこんだ末の威厳を感じさせる髪色。
フラットのは磨きたての銀細工みたいな気品があるから、どちらが良いとは言えない。
でも、好みはフラットの髪かな?

「久しいな、クロノ。」

「はい、ご無沙汰していました。」

「で、
そちらのお嬢さん方が、面接の相手かね?」

「はい。
こちらから、フラット・テスタロッサ、
フェイト・テスタロッサ、
そして、付き添いの高町なのはです。」

クロノの紹介に合わせて、ぺこりとお辞儀。

「ふむ、
私は時空管理局顧問官、ギル・グレアムだ。
まぁ所謂、閑職という奴で時間だけはあり余っているのだよ。
ハラオウン一家とは古くからの付き合いがあってね、そこで今回の保護観察官を引き受けたと言う訳だ。
ああ、
そちらにかけたまえ、今、飲み物でも持ってこよう。」

部屋の奥へと姿を消すグレアム提督。

「…あ、フカフカ〜♪」

声のした方へ顔を向けると、なのはが早速、ソファーに座って座り心地を楽しんでた。

「なのは!」

「まぁまぁ、クロノ君。
あ、ほら!
フェイトちゃんもフラットちゃんもおいでよ!
フカフカだよぉ〜♪」



…あ、ホントだ。
柔らかい。

「ふん。
随分と金が掛かってるな。
流石は、提督の部屋ってトコか。」

なのはの隣に座った私、更にその隣にフラットが座って、憎まれ口。

「ふふふ、気に入ってもらえたなら幸いだ。」

と、
トレイに茶器を乗せたグレアム提督が戻ってきた。

「すいません提督。
無礼者が多くて…。」

「なに、気にする事は無い。
楽しんでもらえるのなら、高い金を出した甲斐があると言うものだ。」

フラットの言葉を気にもせず、ニコニコと微笑みながらお茶を配るグレアム提督。
引き締まった厳つい顔なのに微笑む姿がとても似合ってる。

「さて、
フェイト君とフラット君だね。
君達の話はリンディ提督から聞いているよ。
先の事件の事も、君達の人柄についても。
そうそう、
保護観察についてだが、形だけだよ。
実際、私が関与するのは形式に関わる部分だけになるだろう。」

「…それは、俺達の過去を黙認すると言う事か?
それとも、何らかの代償を求めているのか?」

フラットが足を組んで、出された紅茶に手を出しつつ問いかける。

「あ、フラット…。」

あまりにもふてぶてしいフラットを抑えようと私が口を開くけど、
グレアム提督が「待った」とばかりに私に手の平を向けた。

「ふむ、そう来るか。
なるほど、鋭い子だとは聞いていたが。
…、
フラット君、君の質問でだいたい間違っていない。
我々は君達の生まれをとやかく言うつもりは無いし、先の事件についても落とし所はついたと考えている。
そして、代償は嘱託魔道士…管理局の一員として働く事で十分に支払われる。
保護観察云々は、事情を詳しく知らない者達への体裁だよ。」

「はっ!
随分と明け透けに物をいうんだな。
なるほど、気に入ったよ、Mr.グレアム。」

「うむ、私も君が気に言ったよ、フラット君。」

ニヤリと笑うフラットに、微笑むグレアム提督。

と、グレアム提督が私へと顔を向けた。

「当然、君の事も良く聞いて居るよ。
とても優しい子だとね。」

「あ、ありがとうございます。」

思わず、顔が赤くなって俯く私。

「ところで、この紅茶は我ながら会心の出来だと思うのだが、
…堪能してはくれんかね?」

グレアム提督の言葉に、慌てつつも紅茶に手を出す私。

「…熱っ!」

口を付けようとした所で、隣から可愛い悲鳴が聞こえた。
振り向くと、舌を出したなのはの姿。

「はっはっはっ、
いや、すまない。
急かしてしまったようだ。
ああ、ミルクと砂糖の追加はこちらにある。
好みに合わせて、堪能してくれると嬉しい。」

すっとトレイを私達に押し出すグレアム提督。

「ふん、
情け無いな、なのは。」

苦笑しながら、紅茶のカップを傾けるフラット。
フラットの紅茶は何も加えていないストレートみたい。

…、美味しいのかな?

「あはは」と笑うなのはを横目に私もストレートのままで飲んで見る。

「…う…。」

なんというか…甘く無い。
しかも、ほんのり渋い。

「はっはっはっ!」

私達の姿を見て、豪快に笑うグレアム提督。

「ふふん、お子ちゃまには早い楽しみ方だったか?」

「む、
その言い方は酷いよ、フラット。
フラットだって、我慢して飲んでるんじゃないの?」

思わず、ムッとした私がフラットに言い返すと、フラットが一瞬呆気に取られた表情になって、
その直ぐ後に慌てて言い返した。

「そ、そ、そ、そんな事無いぞ!
体が女子供になったからって、嗜好は変わらないんだからなっ!
大人は、紅茶の香りと渋みを楽しむモンだ!!」

「えへへぇ、
フラットちゃん、慌ててるぅ。」

紅茶にミルクと砂糖をたっぷりいれたカップを両手で持ったなのはが、フラットをからかう。

私もなのはに倣って、紅茶にミルクと砂糖を入れる。

改めて飲むと、とても美味しかった。

クロノはヤレヤレ、コイツ等は…、と肩をすくめながら紅茶を飲んでた。

「くっくっくっくっ。
おっと、失礼。
いや、こんなに愉快なのは久し振りだ。
感謝するよ。
…お、
そう言えば、なのは君は日本人なのだったね。
なつかしいな、日本の風景は。
私が若い頃、日本へは何度か行った事があるんだよ。」

「へ?」

情報端末を片手に、遠くを見る目をしたグレアム提督が語り始める。

「私も、なのは君と同じ世界の出身なのだよ。
イギリス人だ。」

「ほぇ〜!
そうなんですか〜!?」

きょとんとした表情のまま驚くなのは。

「あの世界の人間の殆んどは魔力を持たない。
だが、
偶に居るのだ。
私や君の様に、高い魔力資質を持つ者が。
ははっ、
魔法との出会い方まで私とソックリだ。」

まるでおじいさんが孫に昔話をするように、
ニコニコとグレアム提督の話が続く。

「私の場合は、管理局の武装局員でね。
森を散策していた幼い私は、傷つき倒れた彼を発見して、介抱したんだよ。
そして、治療もそこそこのまま行動しようとする彼を助けて、追っていた犯罪者を捕まえた。
それからだな、管理局との付き合いは。
かれこれ、50年以上前の話だ。」

「はぁ〜〜。」

感嘆するなのはに微笑んだグレアム提督が、顔を引き締め、私に向いた。

「フェイト君、
君はなのは君とは友達なのだろう?」

「はい。」

背筋を伸ばして答える私。

「私から君に約束して欲しい事は、一つだけだ。
友達や、自分を信頼してくれる人の事は、けして裏切ってはいけない。
ソレが出来るなら、
私は君の行動について何の制限もしない事を約束する。
…、
出来るかね?」

なのは、フラット、クロノの視線が私に向けられるのが判った。

緊張する。

だけど、私は私の決意を言葉にしないと。

「…はい。
私は、私を裏切らない。
だから、
友達も、私に信頼を向けてくれる人も裏切る事なんてありません。」

じっと私の瞳を見つめるグレアム提督。

う、何か間違った答えを言っちゃった?

と、焦った私を他所に、微笑むグレアム提督。

「うむ、いい返事だ。
とても良い。
その言葉で、君がとても真っ直ぐな人なのだと分かったよ。
ギル・グレアムの名において、君の行動の一切を保障する。
頑張りたまえ。」

「…あ、
ありがとうございます!!」

ぺっこり頭を下げる私に、ウムウムと頷くグレアム提督。

「良かったね、フェイトちゃん!」

私の手を取って喜んでくれるなのは。

「うん、ありがとう、なのは!」

喜び合う私達に微笑んだグレアム提督が、今度はフラットへと鋭い視線を向ける。

一瞬で、さっきまでのホンワカとした空気が消えてしまった。

「さて、君には一つ質問をするとしよう。
『力』とは、何かね?」

膝を組んだまま、カップを机に戻したフラットがふてぶてしい笑みを浮かべながら答えた。

「力とはすなわち、自分の意思を押し通す事。
相手の意思を退けて、自分の意思を叩き付ける事だ。
力の発露が金だろうが、権力だろうが、暴力だろうが、言論だろうが関係無い。
本質は唯一つ。
テメェの拠り所であるソレを、燦然と世界に煌かせる事にある。
そこに物の優劣など関係無い。
やるか、やらないか。
それだけだ。」

私には良く分からない答えを口にしたフラット。

鋭い目付きになってたグレアム提督だったけど、フラットの言葉を聞いて驚いた表情を浮かべた。

「は、
その歳でそこまで言えるとは大したものだ。
いや、驚いたよ。
実に驚いた。
しかし、フラット君。
もし、君の意思と管理局の意思が衝突してしまったら。
その時、君は如何するね?」

「あん?
そんなの決まってるじゃねーか。」

下らない事を。という表情をするフラット。
でも、私となのはは手を握り合ったまま、緊張の表情を浮かべる。

だって、下手をすればフラットと戦わないといけなくなるかもしれないのだから。
でもその不安は直ぐに解消された。

「辞表を書いてサヨナラだ。
管理局とドンパチなんて願い下げだぜ。
コレでも俺は分をわきまえてるつもりなんだ。
世の中をどうこうしたいって欲望も無ぇしな。」

やれやれ、と肩をすくめるフラット。

「なるほど、安心したよフラット君。
よろしい、君の事も、このギル・グレアムが保障しよう。
おめでとう。
君達は、これより管理局嘱託魔道士だ。
この先、幾つもの困難が待ち受けているだろうが、君達ならば切り抜けられるだろう。
健闘を祈る。」

「やった〜〜!!」

フラットに抱きついたなのはが、我が事の様に喜んでくれる。

「次は、なのはの番だね。」

「う〜、実技だけなら自信あるんだけどなぁ。
筆記試験は気が重いよぉ〜。」

私の言葉にしょんぼりと返事をするなのは。

「ふふ、フラットと同じ事を言ってる。」

「なっ!?
フェイト!
俺となのはを一緒にするなよっ!?」

フラットの言葉と共に、この部屋に笑い声が溢れた。

そして、終始にこやかなまま、面接は終了した。

「こんな紅茶でよければ、いつでも飲みに来てくれ。」

と言うグレアム提督にぺこりと頭を下げて部屋を後にする私達。

ただ、最後にクロノが、
私達が「闇の書」捜索捜査担当に決まった事を告げた時、
グレアム提督の表情が、妙に険しくなった事だけが…。

 

 

 ◇ シグナム ◇

 

 「皆さ〜ん!
お風呂、湧きましたよ〜♪」

ヴォルケンリッターが一人、シャマルがリビングに戻ってきて報告する。
ここは我等ヴォルケンリッターが主、八神はやての自宅。
先の戦闘から帰還し、夕食を済ませて寛いでいるところだ。

テレビを見ていた、主はやてとヴィータが顔を見合わせる。

「ほな、入ろっか、
ヴィータ。」

「うん、はやて。」

「明日は朝から病院でしたね。
あまり、夜更かしされませんよう…。」

「はーい。」

私の言葉に素直に頷く、主はやて。

足が動かせぬ主はやての為に、シャマルが主を抱き上げる。

「シグナムはお風呂、どうします?」

「私は今夜はいい、
明日の朝に入る。」

「へ〜、
お風呂好きがめずらしいじゃん。」

「ふ、
そんな日もある。
それにな、朝風呂というのも中々良いものだ。」

ヴィータの疑問に答える私。

うむ、
朝から爽快な気分になるというのも格別だ。

ウムウムと頷く私を横目に、シャマル、主はやて、ヴィータが風呂場へと移動する。

「ほな、おさきに。」

「はい。」

主はやての弾むような声を残して、リビングのドアが閉まった。

それを見届けて、先ほどまで主はやてのクッションとしての役割を果たしていたザフィーラがノッソリと起き上がった。

狼形態のザフィーラが鼻先を私に向ける。

「…、
今日の戦闘か…。」

「聡いな、
その通りだ。」

論より証拠と、服をめくり上げる。

私の右わき腹に、ジワリと広がる打撲と斬撃の痣。
肋骨にもダメージが入っている。

「よもや、お前の鎧を抜く者が居るとはな。」

「ああ、澄んだ太刀筋だった。
しかも勝てないと見るや、次々に策を変えて来る。
大したものだ。
よほど良い師匠に学んだのだろうな。」

服を戻しつつ、話を続ける。

「武器の差がなければ、
少々、危うかっただろう。」

「…金髪の少女か。」

「ああ、フェイト・テスタロッサ。
あの若さで大したツワモノだ。」

「そういえば、我々が目的を遂げられなかったのは、
今の主に呼ばれて以来、初めてだな。」

「ああ…。
リンカーコアこそ手に入れられたが、
目標のリンカーコアではなかった。」

「そこそこ鍛え上げられた上質のコアではあったが…。」

ザフィーラの言葉に、私の傍らに置かれた闇の書を手に取る。

「現在で…、231ページ。」

「半分に満たない…か。」

「…大物を狩らなければならんな。」

「例えば、お前が認めたフェイトという少女。」

「例えば、結界を一撃で貫いた桜色の魔力光の少女。
…そして、フラット・テスタロッサ。」

「うん?
その名は?」

「フェイトと同じく、剣を交えた銀髪の少女だ。」

「ああ、ヴィータとの二人がかりでも落とせなかった相手か。」

「そうだ。
手ごわい相手だった。」

「強いのか?」

「…、強いと言うよりも上手い相手だったな。」

「ほう、烈火の将にソコまで言わせるとは。」

「彼女に至っては、認めるしかあるまい。
管理局の量産デバイスで私のレヴァンティンとやりあったのだから。」

「ふむ、
戦い方を心得ている敵か。
注意しておこう。」

「ああ、注意しろ。
あの場に居た中で一番危険だ。」

闇の書を手にしたまま、リビングの窓際に立つ。

「我等、ヴォルケンリッター。
騎士の誇りに賭けて、必ず、主を…。」

 

 

 ◇ なのは ◇

 

「うわ〜〜!」

「わ〜〜!」

私の歓声に合わせて、フェイトちゃんも声を上げます。

私達が居るのは、海鳴市のマンションの中腹。

住宅やビルやマンションばかりの景色だけれど、それはそれで新鮮で面白い景色。

「ほらほら、フェイトちゃん!
あそこが私の家〜!」

「え?
ホント!?」

私が指差す先をフェイトちゃんが興味深そうに見つめます。
あは、すぐ近くだから細部まで良く分かるよ。

「ねぇねぇ、フラットちゃんも!」

って、あれ?

「フェイトちゃん、フラットちゃん知らない?」

「あれ?
あ、ひょっとしたら、部屋に戻って荷物を広げているのかもしれない。」

「ああ、なるほど。
もぉ〜、フラットちゃんってば、あわてんぼだなぁ。
そんなに急がなくても、荷物は逃げないのに。」

とりあえず、部屋に戻ろっか?
という事になって、リンディさん達の住む事になった一室へ足を向けます。

「わっはっはっはっはっはっ!!」

玄関をくぐって、廊下を抜けて、リビングに入ろうという所で大きな笑い声が聞こえて来ました。

「あれ、
この声って?」

「うん、
フラットの声。」

何事?
と、飛び込んだリビングでは、

お腹を抱えて笑い転げているフラットちゃんと、苦笑してるエイミィさん、
そして、困った顔のフェレットと、不愉快な表情の後ろ足で立ち上がってるオレンジの毛色の子犬が居ました。

「だっはっはっはっ!
勘弁してくれぇ、アルフ!!
テメェ、その姿は無いだろう!!
一体ドコのヌイグルミだっ、目をキラキラさせてっ!?
俺を笑い殺す気かっ!?!?」

「息が出来ねぇ」と笑い続けるフラットちゃん。

「え?
まさか、アルフなの?」

「ああ、フェイト!
聞いとくれよ、この無礼者と来たらさ、
せっかく編み出した子犬フォームを見せた瞬間から、爆笑しっぱなしなんだよ?」

「え〜!?
アルフさん、こんなに可愛いのに〜。
フラットちゃん、それは変だよー!」

フェレットになったユーノ君を抱いた私が、フラットちゃんに抗議。

フェイトちゃんの腕に抱かれているアルフさんはフクフクしていてとても可愛い。
うん、馬鹿笑いするような事は何処にも無いよね?

「はひぃ、はひぃ」と笑いすぎて呼吸困難だったフラットちゃんがようやく立ち上がり、こちらを向いて言いました。

「それは、お前達の方が変だ。
アルフが可愛いなんて、変だ。
大体、アルフは可愛いなんてのじゃなくて、カッコイイって形容詞の方が似合うぞ。
なぁアル……プッ。」

キリリと真面目な顔になったフラットちゃんだったけど、アルフさんに顔を向けた瞬間、
目をそらして、再び笑い出してしまいました。

「なっ!?
こ、この馬鹿フラット!
ワタシだって女の子なんだよっ!?
可愛くて何が悪いのさっ!!」

再び笑うフラットちゃんへ、アルフさんが噛み付きます。

と、そこでドアをノックする音。

「盛り上がってるところで悪いが、
なのは、フェイト、あとフラット。
お客だ。」

開かれたリビングのドアにより掛かる様にしたクロノ君は呆れた顔。

私とフェイトちゃんはユーノ君とアルフさんを抱いたまま、玄関に向かう事にしました。
フラットちゃんは、その後ろをのんびりついてきます。

と、

「やっほ〜!」

「遊びに来たよ。」

既に開かれていた玄関には、アリサちゃんとすずかちゃんの姿。

アリサ・バニングスちゃん。
綺麗な金髪を腰の下あたりまで伸ばしてて、緑色の綺麗な目をした子。
私のクラスメイトで親友の一人。
成績優秀で溌剌とした性格で、何かする時いつも率先して行動してくれるの。

月村・すずかちゃん。
ウェーブした紫の髪を腰の上くらいまで伸ばしてて、青色の綺麗な目をした子。
アリサちゃんと違って日本風の名前だけど、西洋の血が混じってるみたい。
やっぱり、私のクラスメイトで親友の一人。
大人しい性格で勉強は平均的だけど、体育とか身体を動かす時は圧倒的になるの。
はぅ、すずかちゃんの十分の一でいいから、運動神経が欲しいよ〜。

「アリサちゃん、すずかちゃん!」

そう言った私の隣にフェイトちゃんが立つと、アリサちゃんが早速フェイトちゃんに声をかけます。

「はじめまして!
って言うのもなんか変かな?」

「ビデオメールでは何度も会ってるよね。」

アリサちゃんの後にすずかちゃんも口を開きました。

「うん。
でも、直接会えて嬉しいよ。
アリサ、すずか。」

「うん!」

「私も!」

私も含めて、4人でニコニコと微笑み合います。

と、アリサちゃんが急にブスリとした顔になって、私の後ろに向かって喋りだしました。

「…、
で、そこにいるヤな感じのがフラットね。」

「ああ。
はじめまして、フラット・テスタロッサだ。
『ヤな感じ』のアリサ・バニングス。」

「なっ!?」

嫌味をそのまま返され腹を立てたアリサちゃんへ水をさす様に、すずかちゃんが声をかけます。

「あ、
私、すずかです!
月村すずか。
よろしく、フラットちゃん。」

すずかちゃんの「ちゃん」付け発言にムッとするものの、素直に頷くフラットちゃん。

話の腰を折られたアリサちゃんは、不愉快な表情のままフラットちゃんを睨み付けます。

と、重くなった雰囲気を振り払う様に、廊下の方から声がしました。

「…フェイトさん、フラットさん。
お友達?」

皆で振り返ると、そこにいたのはリンディさん。

「「こんにちは!」」

声を合わせて挨拶するアリサちゃんとすずかちゃん。

「こんにちは。
アリサさんとすずかさん、よね?」

「はい。」

「私達の事…。」

初対面のはずのリンディさんの言葉に驚く二人。

「ビデオメール見せてもらってるから。
…よかったら、皆でお茶でもしてらっしゃい。」

知られていた理由に納得する二人。

「それじゃ、家の店で…。」

せっかくだから私の家の喫茶店、翠屋を薦めて見る。

「あ、それは良いわね。
せっかくだから、私もなのはさんのご両親に御挨拶を…。
ちょっと、待っててね!」

現れた時と同じ様に、すっと立ち去るリンディさん。

「綺麗な人だね〜。」

「フェイトのお母さん?」

リンディさんの立ち去った方を見たまま口を開くすずかちゃんと、
フェイトちゃんに顔を向けるアリサちゃん。

「あ、
えと…その…。」

戸惑いつつ答えようとするフェイトちゃん。

「養子縁組しないか?
と、誘われているが、まだ決めていない。
俺はどうでも良いんだがな。」

「あ、フラット。」

「ちょっと!
どうでも良いって何よ!
真剣に考えてくれてるのに、失礼じゃない!」

フラットちゃんの言葉に噛みつくアリサちゃん。

「俺の実の両親は既に他界し、
その俺を拾ってくれたプレシア・テスタロッサとは音信不通。
今、世話になってるリンディ・ハラオウンとの付き合いはまだ浅いからだ。」

いきなり重い話を語り出すフラットちゃん。
そのお蔭でアリサちゃんの糾弾も途切れてしまいました。

プレシアさんの事でまだ悩んでいるだろうフェイトちゃんを見てみると、
何故か、フェイトちゃんは微笑んでフラットちゃんを見ていました。

「?
フェイトちゃん、大丈夫?」

「ん?
大丈夫だよ?
…そうだよね、母さんは『音信不通』なだけで、まだ死んで無いんだ。」

私の疑問に答えた後、うんうんと自分に信じ込ませるように頷き、呟くフェイトちゃん。

「…おまたせしたわね。
って、どうかしたの?」

不思議な空気になった玄関にリンディさんがやってきました。


そして、場所を移して翠屋のオープンテラス。


「ユーノ君、久し振りだね〜。」

ユーノ君を抱き抱えて、ニコニコ頭を撫でるすずかちゃん。

「きゅ、きゅー。」

困った感じに鳴くユーノ君。

「ん〜〜?
なんか、どこかでアンタ見た気がするんだけど、
気のせいかな?」

アリサちゃんは、膝の上にアルフさんを乗せて疑問顔。

「くぅ〜〜ん。」

アルフさんは何時バレるかと冷や汗。

「「クスクス。」」

そんな4人の様子を見て、楽しく微笑む私とフェイトちゃん。

「…はぁ〜。
なんで俺もココに…。」

机にベッタリ伏せて溜息のフラットちゃん。
「キャラじゃねぇだろ、浮いてるぜ俺」と呟いてます。

ふと、歩道に目を向けると、大きなラッピングされた箱を二つ持った顔見知りの人を発見です。

「やぁ。
なのはちゃん、フェイトちゃん、フラット君。
ちょうど良い所で出会った。」

アースラのオペレータの一人、アレックスさん。

私達に声をかけると、持ってた箱をフェイトちゃんとフラットちゃんへ差し出しました。

「ねぇねぇ、なのは。
この人は?」

疑問顔のまま受け取る二人を他所に、アリサちゃんが私に尋ねてきます。

「うん、
ここに一緒に来たリンディさんの部下でアレックスさん。
色々、私達にも良くしてくれる良い人だよ!」

「あはは、それは光栄だね。」

頭を掻きつつアレックスさんが照れます。

「ねぇ、フェイトちゃん、フラットちゃん。
そのプレゼント、何なのかな?」

二人が持つ箱に興味津々のすずかちゃん。

「…えっと、開けても?」

オズオズとアレックスさんに問いかけるフェイトちゃん。

「もちろん!
それはもう、君達のモノだからね。」

頷くアレックスさんの言葉を受けて、二人が箱のラッピングを剥がし始めました。

フェイトちゃんは、隅のテープから丁寧に剥がし、
フラットちゃんは、適当にビリビリと破ります。

当然、一足先にラッピングを剥がしたフラットちゃんの手元に皆の視線が集まりました。

「ゴクッ。」

誰かの唾を飲む音をきっかけに、フラットちゃんは箱を開きます。

その中に入っていたのは…。

「あ、聖祥の制服…。」

アリサちゃんの言葉通り、箱の中に納まっているのは聖祥大付属小学校の制服一式でした。

ようやく開いたフェイトちゃんの方も同じ中身。

「やった!
フェイトも一緒に学校に通えるのねっ!!」

自分の事の様に喜ぶアリサちゃん。

「フラットちゃんも一緒なんだね。」

「皆、一緒だね。」と微笑むすずかちゃん。

フェイトちゃんがアレックスさんへ戸惑った表情を浮かべると、
アレックスさんはそれだけで言いたい事を理解したらしく、こう言いました。

「君達が小学校へ通える事になったのは、リンディか…課長の采配だからね。
なにか言いたい事があるなら、
直接、リンディ課長に話したらどうかな?」

アレックスさんの言葉に、今、お父さん達の所に居るだろうリンディさんと話をするべく、皆立ち上がりました。

ニコニコ顔のアリサちゃんとすずかちゃんと私。

戸惑った表情のままのフェイトちゃんと、気難しい表情になったフラットちゃん。

その後ろにアレックスさん。

「…学校はどちらに?」

「はい。
実は…。」

店内に入ると直ぐに、お父さんと話をしているリンディさんを見つけます。

「あ、あの、
リンディ提…リンディさん。」

「はい。
何かしら?」

制服が入った箱を抱えたまま一歩前に出るフェイトちゃん、
フェイトちゃんの呼び声に答え、振り向くリンディさん。

「あの……、
これ…これって。」

オズオズと抱えていた箱を差し出すフェイトちゃん。

「転校手続き取っといたから。
週明けから、なのはさんとクラスメイトね♪」

ニッコリ微笑むリンディさん。

「あらぁ、素敵〜。」

「聖祥小学校ですか。
あそこは良い学校ですよ。
な、なのは。」

こちらにやってきたお母さんとお父さん。

「うん!」

そしてお父さんの言葉に全力で頷く私。

と、困った表情のままのフェイトちゃんにお母さんが近づきました。

「良かったわね、フェイトちゃん。」

「あ…、
え……、えと、
ありがとうございます。」

顔を赤くし、抱き抱えた制服の入った箱に顔を埋めて照れるフェイトちゃん。

「そして、フラットちゃんも。」

お母さんはフラットちゃんにも声をかけます。

「う…。」

「良かったわね。」

そっぽを向いたフラットちゃんに、
再度、ニッコリと満面の笑みを向けるお母さん。

ふふふ、
お母さんの微笑みの前には、閻魔様だって反応せざるを得ない魔力があるんだよフラットちゃん。

「ちっ、
Mrs.ハラオウン。
なんで俺まで小学校に行かなきゃならんのだ!」

「あら?
ご不満かしら、フラットさん?」

お母さんの微笑みから逃れる様に、リンディさんに噛みつくフラットちゃん。

「ああ、大いに不満だね。
言わなかったか?
俺には18歳相当の知識が既に在る。
女物の服は兎も角、
今更、小学校になど行けるものか!」

怒鳴るフラットちゃんに反応したのはフェイトちゃん。

「え、
フラット、私と一緒は…嫌なの?」

箱を抱きしめたまま、大粒の涙を瞳に潤ませるフェイトちゃん。

「え…、
あ、いや!
違う!違うぞ、フェイト!!
俺にとって小学校は必要無いって話をだな?」

「フラットは私と一緒なの嫌なんだ…。」

「いや、そうじゃない。
そう言う意味じゃない、フェイト。」

「嫌なんだ。」

涙を零しながら、フラットちゃんを見続けるフェイトちゃん。
先ほどまでの剣幕は何処かに消えたフラットちゃん。

「嫌じゃない。」

「嘘。
だって、学校に行きたく無いって。」

「いや、俺は学校に行く意味がないって話をな?」

「一緒は嫌なんだね。」

「そうじゃない、フェイト。」

「じゃあ、一緒に行く?」

「うぇ?
いや…あ〜、
くっ………、
ええい、ド畜生!!
行くよ!
行ってやるよ!
何処にでも!!
だから泣くな、フェイト。」

頭を掻き毟り、地団駄を踏んだ後、
ワナワナ震えながら開き直ったように吼えるフラットちゃん。

「…よかった。
どこに行くのも一緒だよ、フラット。」

フラットの袖を握り締めて、ようやく微笑んだフェイトちゃん。

フェイトちゃんとは対照的に背中が煤けたフラットちゃんを見てのアリサちゃんの感想。

「ふ〜〜ん、
フラットってこういう奴なのね。
ちょっと予想外。
ま、
少しだけなら、認めてあげても…いいかな。」

 

 

 ◇ フラット ◇

 

週も明けて、今日は月曜日。

俺は聖祥小学校の白い女子生徒用制服を身に纏い、フェイトと共に職員室の一角に居た。

「フェイト・テスタロッサさん、
フラット・テスタロッサさんですね。
私は貴女達のクラスの担任です。
基本的に授業は私が行ないます。
何か困った事があったりしたら、遠慮なく頼ってくださいね?」

にこやかに微笑む女性教師。

母性すら感じさせる微笑みは、幼い小学生達にとっては母か歳の離れた姉のソレにも等しいのだろう。

…俺の知った事っちゃねぇけどな。

適当に聞き流していると、時間が来たのか教室へ移動すると告げられた。

教師の後について行く。

と、途中でフェイトに袖を引っ張られた。

「ね、ねぇフラット。
自己紹介ってどうしたらいいのかな?」

「は?
ん〜〜、
名前言って、出身地言って、趣味でも言えば良いんじゃね?」

「そ、そうなんだ。
うう、どういう風に言えばいいんだろ…。」

俺の袖を掴んだままのフェイトは、今から緊張でガチガチになっている。

「ま、気に病むな。
失敗したからって、どうなるものでもねぇしな。」

フェイトに近い方の手は袖をフェイトに掴まれて使えないので、
反対の手で無理矢理フェイトの頭を撫でてやる。

「う、うん。」

緊張しながらも口元を緩ませるフェイトに形容し難い感情を覚え、
フェイトの頭から手が離せなくなった時、教師が足を止めた。

「はい、この教室ですよ。
私が名前を呼んだら入ってきてくださいね?」

俺達が頷くのを見届け、教師は教室の中へ。

「…はい、 皆さん、おはようございます!」

「「「「「おはようございま〜〜す!!」」」」」

教師の声に続いて、元気のいいガキ達の声が扉越しに届く。

「…あう。
ど、どうしよう!?」

目の前に迫った未体験ゾーンに緊張し過ぎて混乱し始めたフェイト。
話を聞くに、フェイトは学校の類に行った事は無いとの事。

大多数の視線に晒されるなんて事もこの間の裁判が初めてだった辺り、
フェイトの箱入り具合が窺える。

「はぁ…、
落ち着けフェイト。
俺が先に自己紹介するから、俺の真似して挨拶すればいい。」

「…え?
あ、ありがとう、フラット。」

頬を染めて感謝の言葉を口にするフェイトに形容し難い感情が更に大きくなったのを感じながら、
フェイトの頭をもう一度グリグリ撫でる。

と、教室から教師の声が再び聞こえてきた。

「さて皆さん。
実は先週、急に決まったんですが、
今日から新しいお友達がこのクラスにやって来ます!
海外からの留学生さんです。
フラットさん、フェイトさん。
どうぞ!」

教師からの掛け声に、俺の袖を掴むフェイトの手に更に力が加わった事が感じられた。

俺は最後に「落ち着け」とフェイトの頭を撫でると、その手で教室の扉を開く。

静まりかえった雰囲気の中、俺とフェイトは教師が立つ教卓の側までゆっくり歩く。

ガキ共の興味津々な視線が俺達に突き刺さるのが判る。

にこやかに微笑む教師の側まで移動すると、俺はガキ共へと向く。
フェイトも俺に釣られて同じ方向に身体を向けた。

「…フラット・テスタロッサだ。
イタリア系アメリカ人。
趣味は………読書とか身体を動かす事とか?
ま、よろしく。」

空いてる方の手を上げて挨拶するとフェイトが息を飲みこむ様が視界の隅に見えた。

あ、一応言っとくけど、俺の雰囲気がチンピラっぽいからって活字が苦手な訳じゃねぇんだぜ。
かつては、戦略の幅を広げる為に孔子とかのヤヤコシイ本を足りない頭ひねりながら読んでたし、
最近だって、自分用の魔法を構築する為に管理局の魔導書を紐解いたりしてるんだからな?

完全に自分の物に出来てるのかって問われたら、断言出来ねぇんだけどよ。

ともかく、俺がとっとと行動しちまったんでフェイトも慌てて挨拶を始めた。

「あ…、えっと、その。
フェイト・テスタロッサ…です!
よろしくお願いします!!
しゅ、趣味は…フラットと同じ!
それで…フラットは…、私の妹です!!」

「何っ!?」

フェイトの発言に、クラスの拍手よりも先に俺が反応した。

「なっ!?
フェイト、それは違うだろうが!色々とっ!!
俺が姉でフェイトが妹だろうがっ!!」

「違うよ、フラットは私の妹だよ。」

「なんで断言なんだっ!?
どう考えても、俺の方が成熟してるだろーーがっ!!」

「だって、フラットは私よりも年下だよ?」

「歳は変わらんだろうがよっ!!」

「ううん。
私は9年、フラットは5ヶ月。」

「ちょっ!?
こんな場で危険な発言をするんじゃねぇっ!!」

「大丈夫。
ブツ切りの情報じゃ、なにも判らないから。」

「何、冷静に答えてんだよっ!
ってぇか、さっきまで俺の袖を掴んで震えてた癖に姉と言うのか〜〜っ!!」

「それとこれは別だもの。」

「なっ……」

「まぁまぁ、落ち着いてくださいフラットさん。
皆、ビックリしちゃってますから。」

教師の言葉に振り向くと、拍手の形を取ったまま目を見開いて硬直するガキ達。

「はい、元気なクラスメイトに拍手しましょう!」

教師の言葉にガキ達の割れんばかりの拍手が響いた。


 そして、休み時間。


「ねぇねぇ、向こうの学校ってどんなトコ?」

「すっげぇ急な転校だよなっ?
なんで?」

「日本語上手だねっ。
何処で覚えたの?」

「前に住んでたのってどんなトコ?」

クラスの連中の殆んどが俺とフェイトを取り囲み、質問攻めにする。

「あ、フラット…。」

困った顔で俺にすがり付くフェイト。

ああ、もう。
しょうがねぇなぁ…もうっ!

「…最初の質問だが、俺達は学校にゃ行って無い。
次の質問は、育ててくれてる人の都合でだ。
そん次は、その人が日本語堪能でな、
その人に教えてもらったんだよ。
で、ココに来る前に居た所は、アメリカのド田舎だ。
な〜〜んも無い山ん中だったよ。」

「「「「へ〜〜〜!!」」」」

俺の適当なカバーストーリーに興奮するガキ達。

「じゃあ、じゃあ!」

「ほかには!?」

「それって、」

興奮したガキ達が、勢いを増して質問を浴びせてくる。

「フェイトちゃんの方は?」

「あ、えっと…。」

俺が片端から質問に答えていると、フェイトの方はフェイトの方で質問攻めにあっていた。

ああ、クソ、
面倒臭ぇなぁ。

ガキ達の攻勢にうんざりしてると、教室にパンパンと手を叩く音が響いた。

「はいはい、転校初日の留学生達をヤワクチャにしないのっ!
フラットはともかく、
フェイト、困っちゃってるでしょ!」

「あ、アリサ。」

フェイトの言葉を肯定するように、
包囲網が解けた一角からゆっくりと腕を組みながら現れたのはアリサ・バニングス。

「それに質問は順番に!」

「それじゃ、俺から!」

「はい、いいわよ。」

手を上げるガキ達をアリサが仕切る。

「えっと、
向こうの学校ってどんな感じ?」

手を上げた小僧がフェイトに質問を浴びせる。

「…その、フラットも言ったけど、
私達、普通の学校には行って無かったんだ。
家庭教師をしてくれる人がいて、その人に色々教えてもらってた。」

フェイトがゆっくりと答える。

すると周囲のガキ達から一斉に、次は自分の番だと声が上がる。

「ああ〜っ、もう!
ガッつかないのっ!!」

崩れかける秩序を正すべく、アリサが声を張り上げた。

だが結局、授業のチャイムが鳴るまでガキ達の勢いは止まる事はなく、
俺とフェイトは休み時間ごとの猛攻を受け続ける事になるのだった。

くそぅ、だからガキは嫌なんだ。


……そうこうしている内に昼休み。


「フェイトー♪
お昼、一緒に食べましょ?
………、フラットも。」

小さな包みを携えてアリサがやって来る。
アリサと一緒に、すずかとなのはも居る。

「うん。」

フェイトが快く答え「やれやれ」と俺も腰を上げる事にした。

昔から飯は一人で食べていたから遠慮したい所ではあるが、仕方無い。
ここで反論した所で不毛な言い争いが起きるだけだろうしな。

なんだかんだで食事時は何時もフェイト達がくっ付いてくるから、群れて食べる事には慣れてきた。
かつての俺が見たら目を剥く光景だろうが…。

教室を出て廊下へ踏み出した辺りで、すずかがクルリと反転し後ろ向きに歩きながらフェイトへ問いかける。

「フェイトちゃん、
初めての学校の感想はどう?」

「歳の近い子がこんなに沢山居るのは初めてだから…、
なんだか…もう、グルグルで……。」

「あはははっ♪」

「ま、直ぐに慣れるわよ。」

笑うなのはと、フェイトへと向きながら諭すアリサ。

「…で、アンタは?」

アリサがそのまま俺に問う。

「…もう、腹一杯だ。」

俺は頭に手をやりながら答えた。

…本当に腹一杯だ。
授業は頭を使うまでも無い内容、休み時間は無数のガキ達の来襲。

登校拒否と行きたいが、
そうしたらフェイトが涙を零しながら縋り付いてくるのは目に見えている。

ああ、頭痛が痛いぜ。

「ふ〜〜ん、
さすが、転校初日で授業中居眠りする転校生。」

アリサが皮肉を飛ばすが、こんなの可愛いものだ。
無視する。

「あ、
でも、居眠りしてるのに先生の質問は全問正解だったよね?
凄いよ、フラットちゃん。」

雰囲気が悪くなるのを嫌ったのか、すずかがフォローに入る。

「いや、
あのくらい、直ぐに分からなかったら俺の沽券に関わる。」

そう、精神年齢18歳って矜持がな。

「ふ〜〜〜ん。」

ヤなものを見た目付きで俺を睨むアリサ。

「ふふ、ライバル出現だねアリサちゃん♪」

なのはがニコニコ、アリサに微笑む。

「ふんっ!
ちゃんと勉強しない奴になんか負けないわよ。
っていうか、なのは!
勉強に関しては、アンタの方がライバルなんだからねっ!」

ぷいっと顔を逸らしながら、アリサが不貞腐れる。

「あはは、
でも、そういえば、
フェイトちゃんが言ってた五ヶ月ってどういう意味なのかな?」

すずかの言葉に、ギクリと俺の顔が強張るのが自分自身で判ってしまった。

その様を見たらしい、アリサがニヤリとする。

「そういや、アンタ色々興味深い事言ってたわね〜。
フェイトの言葉に『危険な発言』って言ってたし、
この間の翠屋じゃ、18歳相当の知識が既にあるって。
…、
どういう意味かしら?」

鬼の首を取ったが如く攻め込むアリサ。

となりのフェイトに目を向けると『ゴメン』という表情のフェイト。

更に、隣のなのはが『がんばれ』という表情をする。

クソッ、器用な。

しかし、このまま放置出来る問題でも無い。
正直に魔法に纏わる話をしても、信じるどころか可愛そうな目で見られるのがオチだ。

だからと言って、適当に答えたら話の齟齬から新しいツッコミが入りかねない。

考えろ、
考えろっ、俺!

「ん〜〜、
まず、すずかの質問だが、
ありゃ、Mrs.テスタロッサに『拾われ』てからの年月の事だ。
そーいう意味じゃ、フェイトの方が先輩じゃあるんだがな。
で、
そういう重い話を自己紹介でいきなり披露するのは『危険』じゃねぇか?
って話だった訳だ、アリサ。
そんで最後の質問だが、拾われる前に色々あったんだよ、
……俺にはな。」

ふふふ、嘘は言ってねぇ。
Mrs.テスタロッサに『拾われ』てから、かれこれ五ヶ月。
拾われる前の事は確かに『色々』だ。
前世持ちだなんて事、説明するのも面倒臭い。

しかし、我ながら大した誤魔化しっぷりだぜ。

どっかの本で読んだんだ、
『嘘をつきたい時は、事実を加工しろ』ってな。
先にフェイトが口にしたが、
情報の核となる部分を抜くだけで、人は簡単に内容を誤解しちまうらしい。

…だからこそ『報告は適切に正確に』って訳だな。

そして、わざと誤解させる回答を聞いたすずかは「言いにくい事を聞いてごめんなさい」と謝り、
アリサは「悪かったわ…でも、な〜んか気になるのよね」と謝りつつも首を傾げた。

「気にすんな。」

あっさりとそれで話を終わらせた俺達は、屋上で楽しく美味しいランチタイムと相成った。

リンディお手製の弁当。

量こそ少ないが、ガキの身体である俺に取っては十分な量だったらしい。

…………、

……、

…、

楽しく美味しいランチ?

なんか、俺…知らないうちに女の子である事を受け入れちまってる?

や、やばい。
俺は泣く子も黙る『狂犬』と恐れられた不良様なのだ。
孤高の『ろんりーうるふ』なのだ。

今の体が、可愛い少女のモノでしかなくとも!

「おっ、 俺は男だっーーー!」

「…ねぇフェイト、
フラットの奴、どうしちゃったの?」

「あ、うん……、
えっと…。」

「あはは、
それには深い訳があるんだよ、アリサちゃん。」

天に向かって吼える俺。

周りでなんか言ってるけど、全力で無視。

…、
ええい、すずか。
かわいそうな人を見る目で俺を見るんじゃねぇ。


あお〜〜〜ん!

 

 

 ◇ エイミィ ◇

 

 カタカタカタ。

海鳴市の一角にあるマンション。

さらにその一室。

賃貸者名リンディ・ハラオウン。

そう、
ココこそが、時空管理局本局・次元航行部隊・L型巡航艦アースラクルーの臨時観測拠点なのです。

そして、どっか行っちゃったリンディ提督と自分の部屋に引っ込んじゃったクロノ執務官の代わりに、
観測拠点の多目的情報システムの立ち上げと初期情報入力をしているのが、
私、エイミィ・リミエッタ執務補佐!

ほんとーならアースラをこの時空の側まで持って来るところなんだけど、
アースラは残念ながら定期メンテナンスの為、本局のドック入り。

でも、フェイトちゃんとフラットちゃんがちゃんと学校に通えるんだから、ある意味ラッキーなのかも。
お仕事だからって役得はしっかり味わっとかないとね〜。

あの二人の制服姿、可愛かったな〜〜〜♪

えへへ、とあの光景を思い出しながらも手元の情報端末に入力する手は止めない私。
ちなみに今居るのはリビング。

喉が渇いたので、冷蔵庫から取ってきた1Lパック入りオレンジジュースを直接飲む。

「ぷは〜〜っ!」

そして、私が座ってる横長ソファーに合わせて背の低いテーブルにドカリと置く。
ちょっと意地汚いけど、この心地よさにはかえられないのデス。

気分も良くなって、再び闇の書関連のデータを入力していると部屋の奥からクロノ君がやって来た。

「エイミィ、
武装局員の中隊を借りる事が出来た。
捜査を手伝って貰えるはずだ。
…そっちは?」

「良く無いね〜、昨夜もまたやられてる。」

私の隣に座ったクロノ君に、先ほど届いたばかりの情報を表示するように端末へ入力。

ソファーの前に大きく展開したホログラム・ウィンドウに被害リストがずらずらっと並ぶ。

「今までより少し遠めの世界でだよ、
魔導士は、十数名。
野生動物は約四体…。」

「野生動物だって?」

ホログラムから私へ視線を向けるクロノ君。

「うん。
魔力の高い大型生物。」

クロノ君に答えながら端末を操作して、襲われた野生動物のデータを表示。

ホログラムに映ったのはとても大きな、四足甲殻動物。
灰色でトゲトゲの鎧のような甲羅を持っている。
形態から、肉食よりも草食を主とする動物みたい。

「リンカーコアさえあれば、人間でなくても良いみたいだね。」

「正に、なりふり構わずだな。」

クロノ君の言葉に頷き、開いたデータを閉じて入力中だった闇の書のデータを開く。

「でも闇の書のデータを見たんだけど…、
なんなんだろうね、コレ?
魔力蓄積型のロストロギア。
魔導士の魔力の根源とも言えるリンカーコアを食ってそのページを増やしていくって…。」

「各ページにはリンカーコアの持ち主の魔法が余す事無く記載され、
総ページ数、666ページに及ぶ。
そして、食らった大量の魔力を媒介に真の力を発揮する。
…次元干渉レベルの、巨大な力をね。」

気だるく言ったクロノ君。

気が付いたら、クロノ君の手には私の飲んだオレンジジュースのパックが。

そのままパックの口を開いて、
…直接飲んじゃった。

「あっ、
あ〜〜〜〜っ!?」

「!?
どうしたエイミィ!!」

は、
はわわわっ!?

かっ、かかかかっ!?

間接キッス!?

紙パックを通じて、私とクロノ君で…間接キッス!!

「…はうぁ〜〜っ。」

「エイミィ?
…、
どうしたエイミィ!
顔が赤いぞ!?」

あまりもの事態に何も考えられなくなるワタシ。

…クロノ君が何か言ってる。

…顔が赤い?

…そりゃそうだよ。
…間接とはいえ、クロノ君とキスしたんだもの。

…その事に気付いていない朴念仁なクロノ君が憎い。

…無理言ってるな〜ってのは判るけどさぁ〜〜。

「…大丈夫か?」

ふと気付くと、目の前にはクロノ君の顔。

そのままクロノ君は接近して、

そのまま…。

そのまま近づけば、直接キスがっ!?

ごくっ。

おーけー、クロノ君。
覚悟完了だよ。

どんとこい!
ファーストキスはクロノ君のモノだよっ!!

コツン。

「……はれ?」

私とクロノ君の唇…ではなく、額が接触してる。

あ、これはこれでなんだかエッチィ感じ…。

「む、
本当に熱があるな。
もう休め、エイミィ。
後の雑用は僕がやっておくから。」

言うべき事を言うと、すっと離れてしまったクロノ君。

あぁ、勿体無いなぁ。

「……。」

「…聞いているのか?
エイミィ。」

「……、
ほへっ?
あ、ウン、大丈夫!?」

「僕が聞いているんだが?」

「え?
うん、大丈夫だよ!!
ほらほら元気〜〜っ!」

「はぁ、とりあえず無理はしないようにな…。」

両腕で力瘤のポーズを取ると呆れるクロノ君。

「うん。
…でも、闇の書か〜。
本体が破壊されるか、所有者が死ぬと、
白紙に戻って別の世界で再生するって言う…。」

「さまざまな世界を渡り歩き、
自ら作りだした守護者達を伴い、魔力を使って永遠を生きる。
破壊しても…何度でも再生する。
停止させる事の出来ない危険な魔導書だ。」

「…私達に出来るのは、闇の書の完成前に…。」

「あの守護騎士達を倒して、さらに主を引きずり出さないといけない。
完成してしまえば、
所有者すらコントロールが出来ず暴走し、周囲の物を無作為に取り込み自己崩壊する。」

「手に入る記録によれば、自己崩壊時に次元断層が発生した事もあるって。」

「そうさ、
術式と僅かな記録から古代ベルカの手になる魔導書だとは推測されているが、
由来も原因も判らない。
管理局がその存在を知った時には既に、
勝手に成長し、勝手に周囲の次元ごと崩壊する傍迷惑な爆弾になってしまっていたからね。」

そう言うと、クロノ君は再びオレンジジュースのパックを手にして一気飲み。

あ、全部飲んじゃった。

「…あるいは無限書庫になら、なんらかの情報が眠ってるのかもしれないが…。」

「…はうはうぁ〜、
……、
あ、本局にある『そこに集められていない情報は無い』とまで言われるデータバンクだね。」

「そう、あまりにも集められ過ぎて整理する事すらままならず、
集積するだけになってしまった超巨大書庫。
よりにもよって紙媒体で保管されているもんだから、どこに目的の情報が集められてるのかサッパリ判らない。」

「あそこに行く時は、発掘チームを組んで年単位で目的の物を探すらしいんだってね〜。」

「ん、発掘?」

「どうしたのクロノ君?」

「いや、発掘で使える奴がいたような…。」

「それってユーノ君の事?
スクライア一族と言えば、遺跡発掘の世界じゃ知らない人は居ないって聞くよ?」

「それだ!
アイツに連絡を取ってくれ!」

「あ、でも…。」

「なんだ?」

「リンカーコアのダメージが癒えてないから、魔力行使が難しいんだって。」

「へ?
何事も無くフェレットになってたじゃないか、アイツ。」

「うん。
フェレット形態の方が回復が早いから無理して頑張ったんだって言ってたよ?」

「…、 そうまでして、なのはの側に居たかったのか…。」

「あははは、
ユーノ君の気持ちが判るなら、私の気持ちも気付いて欲しいな〜。

「?
何か言ったか?」

「ううん?何も言って無いよ?」

 

 

 ◇ フラット ◇

 

 「…と言う事が、今まで判ってる闇の書に関する情報らしいよ。」

フェイトがクッションにペタリと座って報告をする。

リンディ達と一緒に暮らす俺達はこの手の情報をすぐに知る事が出来るが、なのはは別なので、
今日は、なのはの家で説明を含めた相談会と言う訳だ。

そう、ここは高町家・なのはの自室。
概観は純和風で内装は洋風という現代日本的素敵ハウスだったりする。

そして学校帰りなので、全員聖祥の制服。
ちくしょう、すでに慣れたなんて、無いんだからなっ!

「ねぇ、
なのはとフラットはあの人達の事、どう思う?
上手く言えないけど、私は悪意みたいなのとかは感じなかったのだけれど…。」

フェイトの疑問に、ベットに腰掛けたなのはが答えた。

「それって、闇の書の守護騎士って人達の事?
ん〜〜、
えと、私は急に襲いかかられて、すぐに倒されちゃったから…。
良く分かんなかったかな…。」

そして、視線で「フラットちゃんは?」と聞くなのは。
俺は机の椅子を引っ張り出して膝を組んで座り、更に腕を組んで答える。

「ふむ、
どう思うかって質問があいまいだけどな…。
ともかく、連中にとって俺達は邪魔物でしかなかったように感じたな。」

「邪魔物?」

「ああ、目的を阻む障害物。
目標は、なのはのリンカーコアだ。」

「ええっ!?
私っ!?」

俺の言葉に驚くなのは。

「確かに、
ユーノが身代わりにならなかったら、なのはのリンカーコアが奪われてた。」

「う、確かに。」

今度はフェイトの言葉にピクリと反応する。

そのまま「私がしっかりしてれば…」と、
ユーノを身代わりにした事で自分を追い込もうとしだしたので、俺が発言してなのはの言葉を断ち切る。

「ともかく連中の最終目標は闇の書に無数のリンカーコアを食わせて、全てのページを埋める事。」

「そして本格起動した闇の書はそのままコントロール不能に陥って暴走、消滅。
さらに別の世界で再生して同じ事を繰り返す…と。」

俺の言葉を引き継いでフェイトが話を締める。

「…うん、そういう話だったね。」

頷くなのはだったが「あれ?」と唐突に首を傾げる。

「…ねぇ、その守護騎士さん達って、
闇の書が暴走する事、判って無いのかな?」

「たぶん、判って無いんだろうな。
でなければ、暴走を回避出来る方策を思いついたのか…だ。
全て判ってて行動してるって言うどうしようもない可能性もあるがな。」

「ん〜、一度キチンとお話出来たら違うんだろうけど…、
話を聞いてくれる雰囲気じゃなかったしね。」

「難しいと思う。
強い意思で自分を固めちゃうと、周りの言葉って中々入ってこないから…。
私も…そうだったから。」

「あ…。」

自分の言葉で落ち込むフェイトと、フェイトを見て悲しそうになる、なのは。

「言い換えるなら、プライドだな。」

「「プライド?」」

湿っぽい雰囲気に又なりそうだったので話題を差し出す俺。

「おう、プライドだ。
人間って奴は、自分が正しいと思ってやって来た事を安易に変えようとはしない。
今までやって来た事、してもらった事が無駄になっちまうからな。
物事の積み重ねが大きいほど、
想いが大きいほど、ソレに拘る訳だ。」

「…それが間違ってても…。」

「でも、自分のやって来た事が間違ってたのなら、すぐ改めるべきだよ!」

フェイトが胸を押さえながら呟き、なのはが反論する。

「なのはの言う通り、改めた方が被害は少なく済むんだが、
そこら辺でプライドが邪魔する訳だ。
人間誰しも、己の過ちを認めたくは無いって事さ。」

「む〜、よく判らないよ。」

「ま、いつか実感する時が来るさ。
なのはの場合、マジに取り返しがつかなくなるまで突っ走っちまいそうだけどな。」

「え?
私そこまで馬鹿じゃないよ?」

「いやいや、
お前は直ぐに無理するだろ?
自分の身体をぶっ壊して、ようやく自分の行ないに気付く…なんて様がありありと想像出来るぜ。」

「むーー!」

俺の言葉にむくれるなのは。

「でも、それってフラットにも言えるよね。」

「!
そう、そうだよフラットちゃん!!
フラットちゃんこそ、無茶苦茶やってるじゃない!」

「ふん、
俺の場合は、限界ギリギリを見極めてるから大丈夫だ。」

「何度も倒れてるから、説得力が無いんだけど…。」

心配そうな顔を向けるフェイトに、
それ見た事かと、にこやかな笑みを見せるなのは。

「…ま、ともかく、連中に声をかける事は間違いじゃ無いって所かね。」

今度は変な方向に空気が流れたので、話を元に戻す俺。

「必要なら、押し倒してでも話を聞く。
…あの人達の望みが判らなければ、私達も助けてあげられないから。」

「うん、そうだね。
全力全開でぶつかれば、きっと判り合えるよ!」

フェイトの言葉を受けて、力強くうなずくなのは。

そして、なのはの言葉に「うげっ」と顔を強張らせる俺達。

「ん、何?」

なのはの全力全開を海上で受けたフェイトと、時の庭園で喰らいかけた俺。
顔が強張って当然だ。

「…ま、まぁそれは置いといて、大体の方策は決まったな。」

「うん、まずは捕まえて話を聞く。」

「そして、一緒に問題を解決するの!」

キリリと表情を引き締めるフェイトに、両腕でガッツポーズのなのは。

「今は、デバイスの修理待ちだけどな。」

まだ、二人のデバイスは本局で修理中だ。

俺のデバイス作成の方も結構順調らしいから、
上手く行けば二人のデバイスが帰ってくる頃に俺も自分のデバイスを手にする事が出来るかもしれない。

それまで連中が大人しくしてればいいんだけどな。

 

 

 ◇ クロノ ◇

 

 リビングでデータ整理を行なっているエイミィを手伝って、必要な話が終わっても僕はまだココにいた。

なんだかさっきからエイミィの様子がおかしいからだ。

「大事を取って休め」と言っても「大丈夫」の一点張りだし。

そんな訳で、エイミィが無茶しないように監視してるのだ。

と、いきなり本局から通信が入った。

「はいは〜い、
エイミィですよ〜!」

即座にエイミィが反応すると正面のホログラム・ウィンドウに新しい映像が映る。
若草色の髪をショートに切り揃えた眼鏡の女の子がそこには映っていた。

『…あ、エイミィ先輩!
本局メンテナンス・スタッフのマリーですぅ〜。』

「うん、どうしたの?」

『先輩から預かってるインテリジェント・デバイス二機なんですけど…、
その、なんだか変なんです。』

「変?」

『部品交換と修理は完了したんですが、急にエラーコードが止まらなくなって。
必要な部品が足りないって…、
あ、エラーの詳細を送ります。』

彼女が画面の隅で動くと、更に新しい画像が展開した。

そこには、ミッドチルダで使われているプログラム言語が表記されており、
エラーの詳細が書かれていた。

「…エラー解決の為の部品、『CVK−792』を含むシステムを組み込め…。」

僕がそう口に出すと、エイミィが顔色を変えた。

「え、それってベルカ式カートリッジ・システムの事じゃない!
正気なの!?
バルディッシュ!レイジングハート!!」

『そうなんですよぉ〜。
技術部から届いたもう一機のデバイスと一緒に調整してたら、
三機で急に通信を始めちゃって、
気が付いたら、二機がエラーコードを……。
先輩ぃ〜、ど〜しましょ〜〜?』

マリーと言う子が涙目でエイミィにすがり付く。
…画面越しだが。

「ちっ、フラットの奴が関わるといつもこうだ。
エイミィ、
執務官権限で許可する。
その部品を用意してもらってくれ。」

「え?
いいの、クロノ君?」

「良いも悪いも、組み込まなきゃ二機とも使えないんだろう?
僕達には戦力が足り無いんだ。
えり好みなんて、出来ない。」

「う、うん。
と、言う訳でマリー。
お願い、用意してあげて。」

『…わ、判りました。
一応、出来るだけこちらでも調整はしますけど、扱いづらくなるはずなので注意してください。』

急いでる様なので失礼します。との言葉を残して、通信は切れた。

「…ううむ、火力増強を喜ぶべきか、暴走の危険性に怒るべきなのか…。」

降って沸いた事態に頭を抱えていると、
ぽむぽむと肩を叩かれた。

顔を上げると、そこにはエイミィの笑顔。

「大丈夫だよ、クロノ君。
あの子達は絶対に、大切な事は間違えないから。」

絶対の信頼に裏付けされたエイミィの笑顔に思わず見惚れてしまっても、
男なら仕方無いと…思う。












第二話 完















 あとがき


はい、ちょっとは早く投稿出来ましたTANKです。やったぜ俺!

ついでに、アーマードコア・フォーアンサー最高!
ようやくクリア出来るアーマードコアに出会えたぜ〜!

I’m thinker〜、トゥートゥートゥートトゥー。
ってなもんです。

さて、話の解説の方なんですが、今回のタイトルは戦闘無し故のお遊びと言う事で許してください。
旬を外したネタではありますが…。

フラット君の相棒デバイスはこんな雰囲気です。
過激に豪快に、がコンセプト。
デザインのイメージはS&Wの特大リボルバー、M500!
ガスガンで持ってますが、コイツは本当に大きい。

少女の手に握られる特大拳銃の前にゃ、どんな萌えキャラも一撃粉砕ですズラ。

デバイスが出来上がるのが速いですけど、材料や手を付けられる所は先に用意して貰ってたって事で一つ。

そしてバリアジャケットは、フラットの不用意な一言のお蔭でとんでもない事態にっ!

はじめはもっと大人しいデザインにするつもりだったんですが、
感想掲示板で皆さん御期待していらっしゃるので、かなり変なのに仕上がりました。

うん、我ながら変態チックなバリアジャケットだ。
お披露目をお待ち下さい。

ついでに言うならリンディのアレは、声優ネタです。
好きだ、ジオブリーダーズ。

クロノが言いかけていたのは「管理局のクラッシャー・L」…Lは、リマと発音するって事で。
米軍の音票文字、フォネティック・アルファベットです。
もちろんLは、リンディのL。

あと、読者様のコメントがきっかけで、レイジングハートとバルディッシュのカートリッジシステム組み込みの件、原作からちょっと弄りました。
振り返って見ると、破損に関する表現とかが足りなかったような感じ。
ま、これはコレでよし?


しかし、「カートリッジ」普通に間違えてました。
カードリッジじゃなかったんだ〜。

超恥ずかしいです。

「責め」手ってのも、ナチュラルに間違えてました。

超、恥ずかしいです。

とりあえずフラット×クロノ…考えて無いっすけど、どうしましょ?
フラットの妊娠出産…、ソコに至るまでのフラットの想いの経過を想像すると煉獄よりも辛いかと…。
子供を抱えて微笑む、フラット。
そうか、お前はそれでも幸せなんだな…。

しかし、気が付いたら三角関係になりそうな雰囲気だなぁコイツ等。

フラット・エイミィ・クロノ。

むむむ、微妙?
そこにフェイトが割り込んでカオスになりそうではありますが。

そして、ユーノとなのはの方は全然ですねぇ〜、今回ユーノ「キュ〜」としか喋って無いし。

でも、「迂闊で残念」って良いフレーズだなぁ。
どこかで使いたい。








感想代理人プロフィール

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代理人の感想
最初、ユーノ云々で何のことかわからなかったんですが、そう言えばリンカーコア取られたのはなのはじゃなくてユーノでしたね、この話では。
にしても大きいとはいえ銀色のリボルバーって妙に大人しいなー、と思ってたら、"ハンター"マグナムリボルバーかいっ!(爆笑)
てっきり銃剣つけたアサルトライフルか対物ライフルでも使うんじゃないかと思ってましたよ。
しかしM500でビーム銃剣出すと、なんつーか・・まんまレイジングブル((c)吸血殲鬼ヴェドゴニア)っぽく。w
バリアジャケットとのコーディネイトも楽しみだ(爆)。


>紅の流れ星
声優ネタかっ!
この人も最近だとONE PIECEでイボイノシシやってたりしましたが。w
分からない人は「ジオブリーダーズ 紅の流れ星」で検索どうぞ。
「紅の流れ星」だけだと多分元ネタのほうがひっかかりますので。
でも「戦闘は火力」・・・やはりいい言葉だ。

>フラットの読書
孔子をどうやって戦術の幅を広げるのに使ってたんだろう・・・・興味深いw

>ちくしょう、すでに慣れたなんて、無いんだからなっ!
ツンデレめ(爆)。

>迂闊で残念
これも「ディアッカ 迂闊で残念」で検索ヨロ。w





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