◇ ユーノ ◇

 

 「……結局、自分が人かどうかなんて疑い出したら切りがねぇ。
一度疑っちまえば、明らかな確証なんて何処にもないんだからな。
そもそも、何を持って人間だって規定出来るんだ。
だから勝手に決めちまうしかねぇのかもな……。
ただ、自分自身を『人だ』と信じる以外には……結局……」

フェレットになった僕は、なのはの肩の上でフラットの独白を聞く。

……フラットも難しい事を色々考えてるんだな。

と思って、この空気の余韻に浸っていると、唐突にフェイトとなのはに弄られだすフラット。

……、
ゴメン、フラット。
僕に彼女等を止める力は無い。

巻き込まれる事を嫌って、なのはの肩から飛び降り、
クロノ達がいる一角に移動すると、
唐突にクロノに声をかけられた。

「ああ、丁度良いユーノ・スクライア。
頼みがある」

「君が僕に?
珍しいね」

ソファーとセットになっている机に飛び乗って、クロノの顔をマジマジと見つめる僕。

「否定はしない。
……率直に言おう、君のスクライア一族としての力を借りたい」

「時空管理局・本局にある無限書庫で資料の捜索に当たってもらいたいのよ。
闇の書事件は管理局発足前の時代からずっと解決できない事件として存在し続けてるのだけれど、
そうであるが故に、闇の書の詳細データが散逸して久しいの。
無限書庫の何処かに眠って居るのは確かなのだけれど……」

クロノの後をリンディ提督が引き継ぐ。

「なるほど、その資料を検索すれば良い訳ですね。
……でも、その情報も無しに今までどうやって対応して来たんですか?」

リンディ提督の言葉に疑問を感じて質問すると、二人の表情は暗くなった。


あ、そうか、情報も無く事態に対処するなんて賢い方法じゃないから、
そんな対応をしていた身内が恥ずかしいんだな。

そして、クロノが口を開いた。

「守護騎士達との対談でも言っていたが基本的に発見次第、力技で消滅させていた。
その事を危険視して一度捕獲を試みた事もあったんだが……、
それを試みた前回の発見時も、……結局は魔導砲アルカンシェルで消滅させた」

「それでも転生機能があるから完全消滅させられないし、アクセス権限がタイト過ぎて手が出せない……と。
調べるのは闇の書の各機能、及び対処法……で良いんですか?」

クロノの言葉に頷き、リンディ提督に伺いを立てる僕。

「そうね、
調べられる限りで構わないけれど、対処法まで知る事が出来るのならば、それが最良よ。
叶うのなら私達の手で…この連鎖を断ち切ってしまいたいわ」

「君の準備が出来次第、僕とエイミィ、アルフと君の四人で本局に飛ぶ」

リンディ提督が祈りにも似た様子で口を開き、クロノが急ぐ様子で告げた。

「君とアルフも行くのか?」

「クロノ君とアルフは奪われたリンカーコアの精密検査があるからね。
ちなみに私は付き添いだよ〜」

僕の疑問に答えるように、側に来たエイミィさんが言った。

「なるほど、僕は何時でも出られるよ」

「よし、
では、行こう」

リンカーコアを奪われたばかりだからか、辛そうに立ち上がるクロノ。

……僕の時は直ぐに気絶してしまった。
彼と僕との差は一体何処にあるんだろう。

この瞬間、僕は男としてクロノに嫉妬した。

と、その時、窓際から反対の声が上がった。

「ちょっと!
ワタシは行かないよ」

アルフだ。
なるほど、フェイトから離れたくないって言って無理矢理ココに残ったんだ。
フェイトを残して本局に行く気になんかなれないよね。

「駄目だよアルフ。
ちゃんと検査しないと、いざって時にフェイトちゃんを守れなくなっちゃうんだから」

子犬形態のまま、器用に不貞腐れるアルフに人差し指を立てて、忠告するエイミィさん。

「うっ……」

痛い所を突かれたアルフがガックリうな垂れる。

「それじゃあ、フェイトちゃんとなのはちゃんに一言言っとかないとね」

アルフを抱きかかえたエイミィさんがウインクして、なのは達の居る方へ歩き出した。


「……いや、もう怪我してるとこ無いからっ!
大丈夫だって!
……だから、そこは脱がすな〜〜〜!!
待て、エイミィ!
なんだ、その珍妙な衣装は!
そんなの着させられるくらいなら、いっそのこと殺せぇぇぇっ!!」


……、

僕達もエイミィさんに付いて行こうとした途端、聞こえてくるフラットの悲鳴。

……、

……、

……、

「そう言えば、ユーノ。
君、人の体型に戻ったほうがいいんじゃないか?」

「あ、
うん。
そうだね」

「……」

「先に転移ポートでエイミィさん待ってようか?」

「……そうだな」


そういえば普段は意識しないけど、フラットはもともと男だったって話だっけ。

……僕は男としてフラットに、深く同情した。

 

 

魔法少女リリカル☆なのは 二次創作

魔法少女!Σ(゚Д゚) アブサード◇フラット A’s

第4話 「それは小さくて大きな破滅の音?」

 

 

 ◇ フラット ◇

 

 「……と、言う訳で、
この『×』という記号を使う事で、『+』を使うよりも早く簡単に計算出来るようになるのです」

聖祥小学校、三年B組の教室。

教師が掛け算の概念を丁寧に教えている。

……掛け算って三年からだっけ?
昔の事過ぎて、さっぱり覚えていねぇ。

もう少ししたら、この先生手作りの九九早見表が教室の一角に張られるのかね。
教員用に市販されてる物を使うのかもしれないが。

仕事とはいえ、その働きっぷりには脱帽だ。

ここのガキ共は、お行儀が良いから教える方は楽でいいのかもしれねーけどな。

とは言え、俺にとって頭を使うまでもない授業を真面目に聞いてはいられない。

取り合えず、いつもの様に空の観測でもしていよう。

ああ、今日も良い天気だな……あ、鳥が飛んでる。

「はい、フラットさん!
この質問を解いてください!!」

……む、

立ち上がって、黒板を見る。
教師が、黒板の一部をチョークで示している。

「……15×15、は……225」

教室が一瞬、無音になった。

教師も心なしか唖然としている様子。

う、
暗算ミスった?

ええと、15×5が75で、15×10が150で、
75と150を足して、225。

うん、間違ってない。

「……、正解です」

教師が何処と無く肩を落として正解を黒板に書いていく。

「「「「おおおっ!!すっご〜〜〜い!!!」」」」

教室が湧いた。

……でも、小学三年生の学力で褒められても嬉しくない。

魔法の術式を弄りまわす事に比べたら、どうしてもな。
ああ、そういやこの間の戦闘じゃ術式の想定が甘すぎて、せっかくの魔力がダダ漏れだったっけ。
大容量カートリッジなのに思った以上に威力が出なかったのも、反動が酷かったのも、それが原因だ。
結局、その場でアルギュロスに調整させた訳だが……。

おっと、いつまでも立ってる訳にいかないか。
とっとと着席する事にする。

パンパン。

教師が手を叩いて注目を集める。

「はい、見事な計算でしたね。
この計算のポイントは、こちらの15を二つに分解することです。
10と5に分ける事で簡単に計算をする事が…」

教師が説明を始めたので、また、空の観測に戻る。

気持ちよく晴れ上がった空。
青一色と言えばそれまでだが、雲を散りばめたコントラストを言葉で表現するのは難しい。

…あ、どうせ暇なら、この時間で戦闘用魔法とその運用法を考え直すか。

結局デバイスが無けりゃ、術式を編む事については今ひとつ自信がねぇしな。

体が覚えていたフェイトの魔法は今もデバイス無しで使えるが、構造を完璧に理解できているわけじゃないし。
大技の魔法を行使してたのって、大抵フェイトの体に間借りしてた時だし…。

ひょっとしたら、傀儡兵を大量に操った時も、使った術式に注意を払っていればもっとストレス無く操れたのかもしれない。

……まずは魔法術式の作り方から勉強し直すか。

そういや守護騎士の連中、格闘のセンスも良かったな。
俺も暴力には慣れているが道場とかに行った事は無い。
つまり高校で習った程度の柔道と、俺の経験だけが頼りのなんちゃって喧嘩殺法じゃ相手にならない。

ザフィーラの奴にいたっては、格闘以前の問題だ。
あの体格差の前には、いかなる格闘技術も通じない。
先の戦いでもずっと吹っ飛ばされるだけだったし……もうちょっとやり合えると思ってたんだけどなー。

ボクシングとかで階級別とか言って体重別に凄い細かい区別があるのはそーいう事なのか。

でもなにか格闘技でも覚えとくかな、道場に通って。
と、するなら空手か?
正拳突きをマスターすれば、あらゆる武器で突きを放つ事が出来るようになるというし。

武器を振るうのは空手の理念に反するんだけどな。

……でも、今から練習しても今の戦いには間に合わんよな……。

キ〜ンコ〜ン、カ〜ンコ〜ン。

教室のスピーカーからチャイムが鳴った。
授業の終了だ。

「はい、この時間はココまでですね。
当番の人」

「きりーつ!
きおつけ〜〜っ!
れーーーいっ!!」

「「「「「ありがとうございました〜〜〜!」」」」」

生徒の礼を受けて授業道具を仕舞い、教室から立ち去る教師。

心なしか、背中が煤けてる気がする。

「ううっ、いつかあの子にも私の授業を受けさせてやるんだからっ!」

教師が教室から出て行くと、授業中とは一転して騒がしくなる教室。

「ねぇねぇ、フェイト。
携帯の機種決めた?」

「う〜〜ん、
沢山あるから迷っちゃって」

携帯電話のカタログを数冊抱えて、俺の後ろの席に座ってるフェイトの元にアリサが来た。

机の上に置かれたカタログの一つを開いて思案しているフェイトが口を開いた。

「……、
ねぇ、アリサはどういう理由で携帯を選んだの?」

「ん?
私は断然、カメラとメールの機能よっ!
コレが出来なきゃ携帯じゃないわっ!!」

あとデザインもね。と、両手を握り拳にして力説するアリサ。

「それじゃあ、すずかは?」

「私は、記録容量の大きさかな〜。
最近の携帯は音楽を聴いたり、ゲームも出来るからね〜。
一杯ダウンロード出来るように、メモリーディスクが交換出来るのを選んだんだよ〜」

自分の携帯電話を取り出して解説を始めるすずか。

「う〜ん、なのはは?」

「あはっ、
私はお値段の安さだね。
機能は最低限だよ〜」

携帯はカスタム出来る範囲が限られてるから面白くないの〜と、なのは。

「う〜〜〜〜ん。
あ、フラットなら、どんな携帯を選ぶ?」

「あ?
……俺?」

携帯談議をボーっと聴いていたら、いきなり俺に話を振られてしまった。

あ、いかん。
かつての俺は携帯とは無縁の生活だったから、いきなり話を振られても判らねぇ。
だって、電話する相手いなかったもんな。

「ええっと、カタログ見て良いか?」

フェイトの机の上に広げられたカタログの一つを取りながら4人に聞く。
4人は当然の様に頷いた。

「……ふむ、携帯ねぇ。」

パラパラとカタログを斜め読み。

「色んな機種があるけれど、基本的にはどんぐりの背比べって感じだな。
メーカーはデザインで選べって言いたいのか?
……ん〜〜。
とりあえず、頑丈だったらいいかな。
防水、防塵で高い所から落としても壊れなければ……。
ん?
そんな感じのやったら頑丈な腕時計作ってる酔狂な会社なかったっけ。
え〜〜っと……」

思いついたままにカタログを漁っていると、

「フラットちゃんの言ってるのって、この会社の事?」

と、すずかが別のカタログを開いて示してくれた。

「おお、コレコレ。
どうせ買うなら、頑丈じゃないとな。
俺が買うならこういうのが良い」

カタログには最近の薄型携帯に真っ向からケンカを売るような、分厚い二つ折り携帯の写真があった。
手抜きかと問い詰めたくなるほどシンプルな箱型で、黒に金のワンポイント。

カメラ、メール、インターネットに計算や辞書機能や、何に使うのか電子方位磁石まで色々機能が付いている。

色のバリエーションとして、銀色やオレンジや緑色やら色々あった。

「あ、良いねコレ。
私もこういうのが良いかも」

「う、確かにシンプルでイイかも…」

「へ〜、機能も充実してるね」

「フェイトちゃんのイメージにピッタリの色だよね♪」

俺が選んだ携帯にフェイトも興味を示し、アリサが同意して、すずかが機能に納得。
そして、なのはが色を褒めた。

とりあえず、携帯の話は終わったと思って俺は席に戻った。

……、

話は終わったと思ってた。

だが、学校が終わったら4人に引っ張られてデパートの携帯ショップに連れて行かれて、
いつの間にか、ニコニコ顔のリンディが背後に立っていて、
気が付いたらフェイトと一緒に、リンディから小さな包みを渡されていた。

今度はフェイトに引っ張られて、なのは、アリサ、すずかの元へ。

フェイトがニコニコ顔でさっき買ってもらったばかりの携帯を取り出す。

「それじゃ、早速、アドレス交換しましょ!」

アリサが音頭を取って、赤外線通信で電話番号とメールアドレスを送受信。

気が付いたら、俺の携帯にも4人分のアドレスが納まっていた。

ちなみに俺の携帯は銀色に緑のワンポイント。
アルギュロスをイメージして選んだつもりだ。

4人は早速、簡単なメールを作って送信したり受信したりで遊んでる。

それって遊びなのか?
と、思わなくも無い。

ああ、しばらくは俺の携帯もピコピコやかましく鳴る事になるんだろうな。

……今の内にマナーモードにしとくか。

 

 

 ◇ ザフィーラ ◇

 

 俺は、今、悩んでいる。

先の戦闘の時に、管理局の人間達と話をする羽目になったのだが……。

その時に、我々守護騎士の記憶に欠損があるという事実に気付いたのだ。

そもそも俺は、どれだけの事を覚えているのだろう。

胸に去来するのは、俺が見知った数多の主達。

……、

気に食わない主がいた。

危険な主がいた。

無能な主がいた。

力に溺れる主がいた。

人を人と思わない、悪魔のような主がいた。

そして、
そんな主達と同じくらい、

忠誠に足る主がいた。

平和を愛する主がいた。

有能な主がいた。

力に怯える主がいた。

人の為なら進んで自らが傷つく、聖人のような主がいた。

……、

何故、我々は無数の主達の元を渡り歩いているのだろうか。

何故、我等が守ると誓った主の元に残らず、守るに値しない主の元で(ひざまず)かねばならなかったのか。

何故、俺は、主達の最後の姿を記憶していないのか。

俺は盾の守護獣、ザフィーラ。

俺は主の盾。

主にもっとも近い守護騎士。

だというのに、何故、主に関する記憶が飛び飛びになっているのだ。

何故……。

……まさか、記憶が操作されているのか?

バカな、一体誰がそんな真似をして得をするのだ?

……わからない。

………、

放置するには危険な問題だが、それよりも切羽詰った問題がある。

現在の主、はやて。

今までの主とは、まったく違った方。

魔法を知らない、無力な、一人の小さな少女。

だというのに、闇の書の魔力搾取の影響で下半身不随となっても明るく微笑む気丈な女の子。

何も知らない彼女は見返りを求めない微笑みを俺達に振り撒いた。

闇の書の一機能にすぎない俺達に、人としての尊厳を与えてくれた。

道具として愛され、尊ばれた事はあるが、一個人として望まれたのは俺の虫食いだらけの記憶の中でだが、一度も無かった。
大抵は道具として酷使されるか、嫌悪されるかだ。

さらに、彼女が歩けない原因は我々にあると言うのに、彼女は我々に「側にいて欲しい」と願った。

闇の書の魔力搾取は現在も続いており、魔法こそ知らないものの優秀なこの世界の医師は、
「下半身の麻痺が上半身へ向け進行中であり、いずれ臓器も麻痺状態に陥るだろう」と言う見解を出した。

そして、遠からず死に至る……と。

その時、我々は一つの意思を決定した。

主はやてを救う、と。

彼女の麻痺の原因は闇の書の強引な魔力搾取にある。

よって、闇の書を完成させる事で魔力搾取を停止させる。

そうすれば、主は自らの足で立ち上がる事も出来る。

更にリンカーコアの搾取で絶大な力を得た闇の書は、主の危険の尽くを守るだろう。

故に、

我々は、

主はやての「人様に迷惑かけちゃアカン」というお言葉に背いた。

……、

その事に付いて後悔してはいない。

いずれバレた時、肩身の狭い思いをするだろうが、主の命が掛かっているのだ。

それに、リンカーコアを奪えば一時的に魔力行使が不自由になるが死ぬ訳ではない。

それだけで、あの身寄りの無い少女の命が救えるのなら、俺は如何なる罪も背負おう。

その思いは守護騎士の残り3人も同じだろうと確信する。

だが、

だがしかし。

管理局の彼等はこう言った。

『闇の書は完成と同時に暴走し、次元世界すらも巻き込んで爆発する爆弾だ』

…、

暴走……。

そのような事態に陥った事など、俺は知らない。

だが、その言葉が事実なら、俺達は破滅への階段を駆け昇っているに等しい。

しかし、主はやての容態もまた、予断を許さない。

所詮、管理局のブラフだと割り切るか?

だが同時にヴィータへ渡された管理局のデータは闇の書の危険性を余す事無く伝えている。

……、

結局、守護騎士四人が夜を徹して激論した結論は現状維持。

主の身の為に闇の書を完成させる事が一番なのは明らかであり、今更止められないからだ。

ただでさえ現在のリンカーコアの収集状況は良くない。

更に、気を抜けば我々や闇の書が管理局の手に落ちる事も考えられる。

我々は管理局に良い印象は持っていない。

なぜならば、俺の飛び飛びの記憶の中でも、彼等は敵として現れているからだ。

彼等は闇の書を「危険なロストロギア」だと断定し、発見次第、問答無用で主ごと消滅させようとして来た。

討たれて当然の主も、好ましく思った主も、平等に。

ヴィータが激しい嫌悪感を露わにしたのも当然だ。

だが、
それ以上に、唐突に消えている記憶の何と多い事か。

もし、この失われた記憶の先に、闇の書の暴走という事実があったとしたら…。

暴走時には我々の機能も停止するのだと仮定すると、不可解な部分がおおよそ繋がってしまう。

馬鹿な!

では、我々は何の為に存在するのだ!

我々に守護騎士という機能ではなく、一個の存在としての意義を与えてくれた主はやてが、
この世界を巻き込む爆弾の所有者だと?

……認めない。

それは認められない。

だが、もし、それが事実だった時は……。

この手で闇の書を破壊してでも……主はやてを守る。


「……ザフィーラッ!!」

「む?」

「なにを呆けている。
今の我々にもっとも必要な物が時間だと言う事は、お前も判っているだろう」

目の前に立つシグナムが警告を発する。

「ああ、
判っている。
だが、焦っても自滅するだけだ」

俺はシグナムから目を逸らし、辺りの情景を見つめた。

ココは、主の居る時空に隣接した時空に浮かぶ、砂漠の惑星。

文明を築き上げるほどの生き物はまだいないが、
それなりのリンカーコアを備える生き物達がいるので、我々の格好の狩り場となっている。

岩と砂漠が主体とはいえ、海に面した地域には森も広がっており、全てがこれから発達していく若い星なのだろう。
そういう土地を荒らす俺達は、害悪以外の何者でもないのだろうな……。

「ここも、あらかた狩りつくしたか」

俺に釣られて、辺りを見渡したシグナムが言う。

「リンカーコアを持つ生物は大体な……。
ヴィータは?」

「この星の反対側へ向かっている。
まだ、狩り残した奴がいるかもしれんとの事だ」

「そうか。
そろそろ、新しい狩り場を探す必要があるかもしれんな」

「そうだな。
ザフィーラ、お前はその新しい狩り場を探してきてくれるか?
私はヴィータと手分けして、この星で狩れるだけのリンカーコアを刈り取ってしまおう」

「……判った。
言うまでも無いが、気を付けろ」

俺はシグナムへ向き直って言った。

「お前こそな」

シグナムも真顔で返答する。

そして飛び立つシグナム。

彼女を見送った俺は転移魔法陣を展開し、近隣の次元へ転移した。

この次元で次の狩り場を探したほうが良い様に思えるかもしれんが、
一つの次元の持つ空間の広さは無限に等しい。

複数の次元にまたがって行動した方が、時間を消費しなくて済むのだ。

……しかし、思うように事が進まなくて、皆焦っている。

謎の支援者、仮面の男の正体も気になる所だ。

シャマルが言うには、敵対する気配は無いとのことだが……。

ともあれ、一層の注意を払って闇の書の完成に努力しなければならない。
完成間際になれば、管理局の言葉の真偽もハッキリするだろう。

その為には良好な狩り場が必要だ。

管理局の少女達からリンカーコアを奪えば膨大なページが確保出来るだろうが、
組織を相手に下手な戦闘を行なえば前回のような窮地に立たされるのは確実。

一人づつ誘い出す事が出来れば話は別なのだが…、そう上手い状況に遭遇する事はあるまい。

こうやって地道にリンカーコアを集める方が確実だ。

気合を入れて行こう。

 

 

 ◇ クロノ ◇

 

 時空管理局・本局。

その転移ポートに降り立った僕とエイミィとユーノ、
そして、エイミィに抱かれたアルフ。

……身体が重い。

いつも使っているバリアジャケットすら展開出来ない魔力量。

そもそも、魔法が行使出来ない。

ユーノの時に聞いた話では、数日で回復するという事だが……。

まるで風邪を引いてしまったような虚脱感が僕を襲う。

「ねぇ、クロノ君。
やっぱり、一休みしてからの方が良かったんじゃ……」

エイミィが心配そうに僕の顔を覗き込む。

「大丈夫だ。
……僕の検査の前に、ユーノに紹介しておきたい人達も居る」

「?
僕に紹介したい人って?」

ユーノの疑問。

「ん、
一言で言ってしまえば、僕の師匠達だ。
二人揃って癖のある人格だが、有能なのは確かだ」

今の体調で会えば、ろくでもない事になりそうだが……致し方あるまい。

覚悟を決めろ、クロノ・ハラオウン!

今は時間が惜しいんだ!!

僕の発言に、嫌そうな顔をしたユーノと、苦笑してるエイミィ。

二人を引き連れて、本局の廊下を踏み締めた。

「……、
それで、どうして無限書庫に行く前にその人達に会わないといけないのさ?」

「彼女達がその辺の事柄に顔が利くからさ。
いくら、母さん……リンディ提督の許可証があっても、
いきなり子供が『無限書庫を使わせろ』って飛び込んできても門前払いを食らいかねない。
あまり頻繁に利用されている訳ではないが、無限書庫は管理局の重要施設なんだからな」

「そもそも無限書庫に入る為の許可が降り難いし、情報検索の為には人手と時間が掛かるしね〜。
皆、もっと使いたいけど、管理局は慢性的な人手不足だから二の足を踏んじゃうんだよ〜」

ユーノの疑問に僕とエイミィが答える。

「そう。
だから、無限書庫で入手した情報は必要不要に関わらず、全て管理局のデータベースにアップロードするのが原則だ。
検索時には用の無いデータでも、どこかで必要としている者がいるかもしれないからな」

「ん?
それっておかしく無いか?
どうして最初からデータベースに記録して置かないんだい?」

引き続き説明した僕の台詞にユーノが疑問を発する。

「それは良い質問だね〜。
答えは管理局の歴史にありま〜す!」

「……最初期の管理局は本当に治安維持に特化していた。
この本局も当時はこんなに大きくなくて、時空航行艇の中継拠点として使われていたという。
無限書庫も本来は記録保管庫だったという話だ。
その当時はデータベースなんて良い物は無くて、魔法の運用も今よりずっと未熟だった」

「でも、管理局の肥大化と魔法技術の発展は多次元世界に繋がるほどの巨大データベースの構築を可能としたんだよ。
それ以来、基本的に任務中に知り得た情報、勤務記録などはデータベースへ。
同時に保管用の各種記録や、紙媒体で入手された資料は無限書庫へ……という形が取られるようになったんだよ〜」

「偶に、失われた世界の資料が紙媒体などのアナログ形式で発見される。
そこら辺は、スクライアたる君の方が詳しいだろうが……。
まぁ、出来るだけそういう資料もデジタル化してデータベースに流しておくんだが、どうしても手間隙が掛かる。
忙しいから、目次だけデータベースに流して資料は無限書庫に押し込むという奴が多くてな……」

「情報整理の専門機関を立ち上げようって話は管理局でもずっとあるんだけど、
なかなか人手がね〜。
民間からの好意で送られる資料とかも結構な数になるし、日々増える資料の対応で精一杯なんだよ〜」

「なるほど。
情報の検索というよりも、情報の発掘と捉えた方がいいんだね」

「そ〜いう事っ♪」

楽しそうに頷くエイミィの腕の中でアルフが眠りについていた。
なるほど静かな訳だ。

ん、話している内に部屋についたな。

「一応、今日来る事は二人に話してある。
しばらくは協力してくれるそうだ」

そう言って僕はドアのインターホンを押した。

「クロノだ」

『はいよ〜〜』

……独特なイントネーションの返事が帰ってきて、ドアが開かれる。

「紹介しよう、僕の格闘と魔法の師匠であり、グレアム提督の……」

「くろすけ〜〜〜っ\(>∀<)/」

「うわっ!?」

ユーノに部屋の中にいる師匠達を紹介しようとすると、その師匠の片割れが僕に飛び付き、そのまま僕をソファーの陰に押し込んだ。

「会いたかったよ、クロ助〜〜っ!!
お久し、ぶりぶり〜〜♪」

仰向けになったまま、豊満な体に抱きしめられる。

「ちょっ!?
何をするっ!!放せっ!!」

「いいじゃんかクロ助ぇ〜。
久し振りに会った師匠に冷た〜いぞ〜〜♪」

ふにふにと大きく柔らかい胸に顔を押し付けられ、そのまま揉みくちゃにされる僕。

「ア、アリアっ!
ロッテを止めてくれぇっ!!」

このままでは、なんかヤバい!
僕はソファーの向こうにいるだろう、もう一人の師匠リーゼアリアに助けを求めた。

「久し振りなんだし、好きにさせてやればいいじゃない。
それに……、なんだ?
満更でもなかろ?」

「……そんな訳ない……」

ニシシと笑うリーゼアリアの言葉に脱力する僕。

ソレを見た僕の上に跨る師匠、リーゼロッテの尻尾がピンと立って、猫耳がピクピクと反応し、瞳がキュピーンと輝く。

「いっただきま〜〜〜すっ!!」

「うわぁぁあぁっっ!!」

リーゼロッテの顔が僕の視界を埋め尽くし、次の瞬間柔らかい感触が、僕の顔を……蹂躙した。

 

 

 ◇ ユーノ ◇

 

 クロノに連れられて来た、管理局・本局の一室。

クロノは部屋に居た使い魔らしき女性に抱き着かれ、ソファーの向こう側に倒れた。

そして余り想像したくない音と悲鳴が聞こえてくる。
男の悲鳴は、どうして肝が冷えるんだろうね。

エイミィはそんなクロノを放って、部屋に居たもう一人の使い魔らしき女性と歓談中。

いきなり置いてきぼりな空気になっちゃった。

「……えっと、自己紹介させて貰ってもいいかな?」

とりあえず、エイミィと話してる人に声をかけてみる。

「ん?
……ああ、ゴメンね!
クロノとエイミィとは久し振りだから、つい……ね」

ゴメンゴメンと謝るネコ耳、ネコ尻尾の女性。

「ほらっ、ロッテ!
いつまでもクロノで遊んでんじゃないのっ!!
お客さんが来てるんだからっ!」

彼女がそう声を上げると、ソファーの向こうからのっそりと同じ顔の使い魔らしき女性が起き上がる。

「ん〜〜、もうちょっと堪能したいんだけどな〜。
まぁ、いっか」

よいしょ、とソファーを乗り越えて、こちら側に飛び移るロッテと呼ばれた女性。

二人の違いは髪の長さだけみたいだ。
ロッテと呼ばれた方は短めに切り揃えられ、もう一人は背にかかるほどに伸ばしている。
でも、どちらも活発な印象を与える。

多分二人は似た者同士なのだろうと思う。

その後を追うように、クロノがフラフラと立ち上がった。

彼の顔には沢山のキスマーク。

そして……それを見たエイミィの機嫌が悪くなった。

ちなみに、アルフはエイミィの腕の中で熟睡中。

と思ったら、目を覚ました。

ん?
スンスンと鼻を鳴らしてなんだか疑問顔だ。
どうしたんだろう……。

おっと、
気が付いたら、この部屋に居るほとんど全員の視線が僕に集まっていた。

「こほん。
……僕はユーノ。
ユーノ・スクライア。
リンディ提督とクロノ執務官から無限書庫にて情報の捜索を依頼されたんだ。
そこで顔の利く貴女達二人に協力をお願いする事になったんだけど……」

「ああ、その話は聞いてるよ」

「そこのクロ助からね〜♪」

エイミィさんと話していた方が先に口を開き、クロノで遊んでた方が続いて答えてくれた。

「それじゃあ、コッチも自己紹介。
私はリーゼアリア。
クロノの魔法の師匠」

「私はリーゼロッテ。
クロ助の格闘の師匠」

「通称、リーゼ姉妹。
判ってるだろうけど彼女達は使い魔だよ。
グレアム提督の……ね。
長きに渡ってグレアム提督の両腕として活躍して来た二人だから、管理局の色んな所に顔が効くんだよ」

さっきと同じ順番で自己紹介してくれたリーゼ姉妹。
そして彼女たちの説明を引き継ぐようにエイミィさんの説明。

「グレアム提督とハラオウン家は僕が生まれる前からの付き合いらしい。
そんな訳で、二人は僕が子供の時から特訓に付き合ってくれてた……訳だ」

「ま〜、クロ助で遊んでたとも言うけどね♪」

「それに過去形で言っちゃ駄目だぞ〜、
アンタまだ伸びるんだから、これからもちゃ〜んと鍛えたげる♪」

ロッテがニシシとネコのように笑い、
アリアがキュピーンとネコのように目を光らせて笑った。

ご愁傷様、クロノ。
君は気に食わない奴だったけど、冥福は祈ってあげるよ。

僕は、引きつった表情で固まったクロノに心の中で祈りを捧げた。

「……まぁ、私達も管理局の仕事があるんで、何から何まで手伝える訳じゃないけど、
手伝える範囲は手伝うよ。
可愛い弟子の頼みだからね」

クロノにウインクして笑うアリア。

「とりあえずは、君の手伝いかにゃ〜。
む、君も美味しそうだね〜♪」

僕に怪しい笑みを向けるロッテ。

……彼女等ってネコの使い魔だよね。
で、僕は結構頻繁にフェレットに変身してる……。
なんだろう、貞操の危機というよりも、生命の危機って感じがしてきた……。

 

 

 ◇ フラット ◇

 

 海鳴市の繁華街。

聖祥の制服のままで歩道を闊歩する俺。

目的地はCD屋。
なぜか俺に割り当てられた部屋にはミニコンポが置いてあったので、有難く使わせてもらおうと思ったのだ。

ちなみに今は一人。

放っておけば何時までも携帯で遊んでいそうな4人に「せっかく繁華街に出たんだから買いたい物がある」と言ったら、
4人は目を輝かせて、俺に付いてきた。

「CDを買う」と言ったら、
すずかとアリサが、いきなりクラッシックの曲らしきヤヤコシイ名前を連呼し出した。

どうやらこの二人ヴァイオリンを習っているらしく、クラッシックにはコダワリがあるようだ。

フェイトはCDの存在自体を知らず、
なのははメジャーとされている歌手の名前を挙げるのが精一杯の様子。

「で、アンタどんなジャンルのアルバム買うの?」

すずか、アリサ間での情報交換が落ち着いたらしく、ふいにアリサがそう聞いた。

アリサの言葉に、すずか、なのは、フェイトが首を縦に振る。

「メタル」

とだけ俺は答えた。

4人の表情が唖然となった。

「え、えっと、
メタルって金属?」

一人、言葉の意味が判らないフェイトが問う。

「違う。
ヘビーメタル。
音楽の一ジャンルだ。
重低音とメロディーが売りのロックだな。
まぁ、何気にニュースやバラエティーとかで使われてたりするから馴染みはあるかもな」

「石?」

またもやトンチンカンな反応をするフェイト。

「あ〜、買ったら聞かせるよ」

説明が面倒臭いので適当に切り上げる俺。

と、まぁそう言う会話をしていると、俺たちの前に初老の男性が現れた。

スーツをビシリと着こなしたカッコイイ爺さんだ。

「いきなりどうしたの、鮫島?」

アリサがその爺さんに声をかけると爺さんはペコリと頭を下げてこう言った。

「お嬢様方、そろそろヴァイオリンのお稽古の時間でございます」と。

残念そうにしながらも、彼に連れられてアリサとすずかのお嬢様二人組は俺達と分かれた。

そして俺とフェイトとなのはの3人でCD屋を目指していると、今度はエイミィに出会った訳だ。

エイミィはスーパーの買い物帰りで大量の荷物を両手に下げていた。

何気にリンディが借りているアパートは6人という大人数で暮らしている。

当然、食事量も増える訳で、買出しは結構な重労働だ。

まぁ、CD買うのはまた今度でもいいか。
と、エイミィの荷物を取ろうとしたら、なのはが良い笑顔でこう言った。

「フラットちゃんは買い物して来れば良いよ。
エイミィさんの荷物は私とフェイトちゃんで運ぶから」と。

フェイトもニコニコと、なのはの発言に追従。

そして俺は二人の好意を受けて、一人で買い物という久々の自由を満喫している訳だ。
ここの所、ずっと側に誰かがいたからなぁ……。


「ありがとうございました〜」


って訳で目的のCDも購入。

買ったのは「ハロウィン」「ガンマ・レイ」「ジューダス・プリースト」「アイアン・メイデン」というバンドからそれぞれ一つずつアルバムを選んだ。

店員が「こやつ、若いのに出来る!」という目付きだったのがアレだが、まぁいい。

俺はカバンを背に、買ったCDを入れた袋を胸に抱いて帰宅の途についた。

バスを使っても良かったが、また来るだろうCD屋から自宅までの道のりを覚えておきたかったから徒歩。
まぁCD四枚で諭吉氏と英世氏が数人、懐からオサラバしたので節約と言う意味もある。

その選択は良かったのか、悪かったのか。

繁華街を抜け、住宅地に近づいた時、
俺は淡い金髪を肩口で切り揃え、車椅子を押す一人の女性の後姿を見かけた。

ここは日本。
海鳴市だって多数の外国人も暮らす国際都市だが、9割は黒髪黒目の黄色人種。
その割に色彩豊かな髪色の奴等が多いが……。

俺自身、派手な銀髪だから人の事は言えないが、ともかく背丈と髪質でピンと来た。
十中八九、未だ直接対面してない四人目の守護騎士だろうと。

映像だけはエイミィ達に見せてもらっているのだ。

ふふん、まずは確認かな?

面白くなってきた。
胸に抱いたままだったCDの袋を背中のカバンに押し込んで、俺はわき道に逸れて回り込む事にした。

あまり音を立てないよう気を配りつつ走る。

追い抜いただろうという辺りで、元の道に合流。

道の角から通りを覗いて見ると、
予想通り少女が乗った車椅子を押す金髪の女性がなにやら話に花を咲かせながら、ちんたら歩いていた。

……あの顔は、クロノ達が遭遇した四人目の守護騎士で間違ってない……はず。

「アルギュロス。
念の為に、守護騎士の四人の顔写真を表示してくれ」

【はいッス】

俺の視界の隅に小さめの魔法陣が展開し、四つの顔写真が映った。

そのうち一つの写真と見比べると、やはりソックリ。

「よし、潜伏中の守護騎士と断定してもかまわんな。
連れている車椅子のガキが気になるが……まぁ、いいだろ。
アルギュロス、結界を張れ。
そしたらエイミィに連絡だ」

【押忍。
封時結界、展開ッス。
同時にエイミィ女史への通信、繋がったッス】

「エイミィ、守護騎士を発見したぜ」

『……?
それってどういう事!?』

「アルギュロス、映像を送れ」

【はいッス】

即座に送られる映像に、唖然となるエイミィ。
エイミィの背後にフェイトとなのはも居るみたいだ。

「あいつ等が闇の書を持ってたら、この事件はこれで片が付くかもな」

『え?……ちょっ!?
関係ない子まで巻き込んじゃってるじゃない!!』

「不可抗力だ」

『そんな訳無いでしょっ!!』

「……まぁ、待て。
向こうもヤル気みたいだぜ?」

『えっ?』

「管理局の者ですね!
姿を現しなさい!!」

バリアジャケットに身を包んだ守護騎士の女が車椅子のガキを守るように立っていた。

 

 

 ◇ はやて ◇

 

 今日は、病院の定期健診。

私の足は物心付いた時から原因不明の麻痺で動かへん。

私の担当の石田先生は「絶対治すから諦めないで!」と私を優しく励ましてくれる。

でも、私にとっては歩けへんのが普通やから、そんなに気にならへん。

動かん足なんかよりも、人との繋がりの方が私は大事やと思う。

この間も、いつも行く図書館で、すずかちゃんという優しい子と知り合った。
今じゃ、お互いの家にお呼ばれするほどの仲。

そして、半年くらい前から家に現れた四人の新しい家族。

なんでも、家に置いてあった本の精霊さんなんやとか。

当人達は「闇の書の守護騎士でありプログラムに過ぎない」と言ってるけど、つまりは精霊さんや。

むしろ、見て触って話せて、人の形をしていて、人と変わらないんやったら人間やと私は思う。
魔法の事なんか、よう判らんしなー。

そんで、ココが重要なんやけど、なんでも私がその「闇の書」のご主人様らしい。

映画の騎士みたいに片膝をついて傅く四人は「ご命令を」と私に言った。

でも、私は普通に暮らせたら満足やから「私の家族になって下さい」とお願いした。

うふふ、あん時の四人の顔は面白かったな〜。
「そんな事を言われたのは初めてだ」って言うてたっけ。

なんか今の闇の書は未完成で、人様の「リンカーコア」とか言うモノを沢山奪って完成するらしい。

でも、完成せんでも今のままで問題無いって言うてたから「リンカーコア」の搾取も禁じた。

この日本で不必要な力なんか要らへん。

お金も、親切なおじさんが援助してくれてる。

その足長おじさんの名前はグレアムさん。

なんでも私の遠縁の親戚さんで、
昔、私の両親に迷惑をかけたから最低限の償いをさせて欲しいとかなんとか言ってたっけ。

だから、私に必要なんは家族だけやった。
そう、私の家族は、私が小さい時に、一度行ったら帰られへん所へ行ってしまった。

広い家で、私はずっと一人で暮らしてきた。

だからきっと、これは神様が私の9歳の誕生日にくれたプレゼントなんやと思う。

四人の騎士な精霊さんは私のお願いを受け入れてくれて、私に接してくれるようになった。

ヴィータは私の妹の様に、

シグナムは私の姉の様に、

シャマルも私の姉の様に、

そして、ザフィーラは私が犬が飼いたかったと言うと、大きな狼になってくれた。

……ザフィーラにもたれ掛かってウトウトするのは至福の時やと思う。

それはともかく、

今の私は満たされてる。

一生、足が動かんでも、かまへん。

でも、私の周りの皆が心配してるから、頑張って歩けるようになろうとは思う。

どう頑張ったらええんかも判らんけどなっ。

結局、今日の診断も麻痺の具合を調べるだけやったし。

最近は胸の辺りが妙に疼くんやけど、これは足の麻痺と関係無いやろうしな〜。
ちょっと我慢したら済むし、大騒ぎするようなモンや無いやろ。


「……はやてちゃん?」

「ん?
何、シャマル」

病院からの帰り道、車椅子を押してくれてるシャマルが私に声をかけてきた。

「……いえ。
最近、皆、私事で離れる事も多いですから、寂しくないかな〜と」

ああ、確かに寂しい。
皆、最近は疲れて帰って来るし、何やってるんか詳しい話は教えてくれへんし。

「まぁ、寂しくないって言ったら嘘になるけど、
皆やりたい事があんのに、私が我が侭言うんも違う気がするし。
それに、ちゃんと皆、家に帰ってくるやん。
私は、それだけでエエよ」

特にヴィータは私のベットで一緒に寝てる。
何処かに遊びに行ってても、必ず、晩御飯までには帰ってきて一緒に寝る。
朝目覚めると、ヴィータの寝顔を鑑賞するのが私の日課。

「ええっと、確かにヴィータちゃんは最近、ゲートボールっていう競技に打ち込んでるみたいですね。
シグナムは近所の剣道の道場で臨時の指南役になってるとか聞きますし、
ザフィーラは狼ライフを満喫してるし……」

「シャマルは何してるのん?」

「え?
私ですか?
……ええっと、その、この世界ってホントに色んな物がありますよね?
ロボット掃除機とか、食器洗い機とか、乾燥機とか……。
はやてちゃんのお家にあったらいいな〜って思う物を見て回ってると時間を忘れちゃって……」

「あははっ、
シャマルはしっかり者さんなんやなぁ〜」

私がシャマルの言葉に笑うと、不意に空の色が変わった。

同時に、人の気配と音も消えてしもうた。

「……何?
何が起こったん??」

「……封時結界……」

「ふうじ……何?」

シャマルがポツリと零した言葉に首を傾げる私。

私が疑問で一杯になっとると、シャマルが私のデザインした騎士甲冑を身に纏った。

そして、シャマルはその身で私を庇うように前に出た。

「管理局の者ですね!
姿を現しなさい!!」

そして、シャマルが普段出さんような大きな声を上げる。

「……かんりきょく?」

誰か、何が起こってるんか私に説明して欲しい。

と、シャマルの言葉に答えるように、路地から一人の女の子が姿を現した。
側には銀色に輝く魔法陣みたいなのも浮かんでる。

……ひょっとして、まほ〜つかい?

息を詰めて身構えるシャマル。

でも、守られとる私は、彼女の姿に見惚れた。

一本一本、銀を加工して作られたような綺麗な銀髪。

小さく整った人形みたいな顔に、燃えるような赤い目。

無駄の無い細い身体に纏っているのは……聖祥小学校の制服?

と、
彼女が口を顔が変わるくらいにニヤリと捻じ曲げて喋り出した。

「見つけたぞ、闇の書の守護騎士。
まさか、普通に町中に紛れているとは思いもしなかったぜ。
だが、
これで年貢の納め時だ。
大人しく闇の書を献上するか、投降するか。
好きに選びな」

びっくりした。
人形みたいに綺麗で可愛い子が、凄い顔で物騒な事を言ってるのにもビックリやけど、
少女の追い剥ぎってのにビックリや。
これが犯罪の低年齢化って事なんやろか?

……ってぇか、献上か投降かって、どっちも似たようなモンやないのん?

「……なぁ、シャマル?
この子、何なん?
追い剥ぎっぽい事言うとるんやけど……」

「え?
あ、はいっ!
そうです!追い剥ぎなんです!
最近の日本は物騒ですね〜〜」

「違わいっ!タコッ!!!」

私達の言葉に怒鳴り返す銀髪の女の子。

あ、なんやろ?
全然違うのに、ヴィータを相手にしてる気分になって来た。

「君もあかんよ〜。
可愛い顔して、そんな事言うたら。
マトモな大人になられへんで〜?」

「巨大なお世話だっ!!」

私の言葉に、顔を真っ赤にして怒る銀髪の子。

「……あ、
私、はやて!
八神 はやて言うんや。
貴女のお名前は?」

彼女は唐突な私の言葉に目を白黒させて、振り上げた拳の下ろし場所に困ってる様子。

「ちっ、
フラット。
フラット・テスタロッサだ」

そのままブスリと不貞腐れて答えるフラットちゃん。

「そっか〜。
じゃあ、フラットちゃんって呼ぶな〜♪
私の事もはやてちゃんって呼んでな〜♪」

「……お前も俺をそう呼ぶのか……」

なんだか疲れた雰囲気のフラットちゃん。

『……他の次元でも守護騎士を二人も発見!
ゴメン、フラットちゃん。
そっちに人手が回せない!
通信もいったん切るよ!
進展があったら、また連絡してっ!』

唐突にフラットちゃんの側に浮いていた魔法陣みたいなのから女の人の声が聞こえたと思うと魔法陣みたいなのは消えてしもうた。

「……ふん、一人で十分さ。
しかし、ゴチャゴチャ話をするのも面倒くせぇ。
潰して奪うぞ、アルギュロス!!」

【待ってたッス】

フラットちゃんが叫ぶと同時に胸元の宝石が光って喋ると、フラットちゃんが光に包まれた。

そして、その光はあっと言う間に消えて、
そこには、信じられんくらい大きな拳銃を持った、コートを羽織って……活発的な格好をしたフラットちゃんになっとった。

「おお、凄い!
手品やっ!!」

「違うっつーのっ、このドアホっ!!」

「お、エエつっこみが返ってくるやん。
フラットちゃん、手練やなっ!」

「……なんで、そういう反応になるんだよ。
ここはもっと怯える場面じゃねぇのかよ……」

ガックリ膝をつくフラットちゃん。

「いやいや、これでも怖いもんは怖いで?」

「だったらなんでネタに走るんだ、お前……」

「いや、ほら。
私も関西の血筋、受け継いどるからな?
ネタ振られたら反応しとかんと、申し訳立たんやん」

「……聞いた俺が馬鹿だったよ……」

【頑張るッス、ご主人!】

物凄く疲れた様子のフラットちゃん。
右手に持った、大きな銃に励まされてる。

「……あ、あの、はやてちゃん?
あの子は危険だから、はやてちゃんはちょっと離れててね?」

なんだかとっても焦った様子のシャマルが言う。

でも、私を除け者にしようとするシャマルの雰囲気に、私はカチンと来た。

「む、何言うてんのっ!
私の身内にケンカ売られたんやから、家長である私が対応するんは当然やん!
……闇の書や魔法に関係しとるみたいやしな」

「ケンカって……。
ともかく、はやてちゃんは離れて!
皆が来るまで、はやてちゃんを守れないかもしれないんだから……」

「シャマル!
私はシャマル達、守護騎士の主やっ!!
主が皆を守らんで、誰が守るんやっ!!」

腹立ったからとは言え、良い事言った私!

でも何故か、シャマルは顔を強張らせて冷や汗を流してる。

そして、少し離れた所で膝を付いていたフラットちゃんが、ピクリと顔を上げた。

「……守る?
守護騎士の主……?」

「そやっ!
私はこの子達と闇の書の主や!!
闇の書に用があるなら、話は私が聞くっ!!」

疑問顔のフラットちゃんに、堂々と胸を張って答える私。
なのに、隣のシャマルは絶望の表情になってもた。


なんで??

シャマルの反応に頭を傾げてると、不意にフラットちゃんが笑い出した。

「……ふ、ふははははっ!!
そうかっ!
お前が闇の書の主かっ!!
なるほど、この次元世界を基点に行動してるんだから主もこの世界の住人だよなっ!
はっはっはっ!!
なんで、誰もその観点から捜索してなかったんだっ!
ばっかみてぇ〜〜っ!!」

ゲラゲラと、男の子みたいに大きな口を開けて大笑いするフラットちゃん。

「なっ!?
私の言う事信じてないんかっ!?」

フラットちゃんの馬鹿笑いップリに私の言葉が笑われたんやと反感が湧いた。

すると、フラットちゃんはキョトンとした顔になって、更にニヤリと凄みのある表情に変わった。

「いいや、
俺を含めた管理局の連中のズサンさに呆れたのさ。
そこの守護騎士の女の表情を見れば、話の真偽なんて一目瞭然だろ?」

私とフラットちゃんがシャマルに同時に顔を向けた。

シャマルは……いつの間にか、血の気の無くなった蒼白な顔になってた。

 

 

 ◇ なのは ◇

 

 フラットちゃんと別れて、フェイトちゃんと一緒にリンディさん達の家に行くと、
買ってきた食べ物を冷蔵庫に入れてる最中にフラットちゃんからエイミィさんへ通信が入りました。

二人の話を耳に入る範囲で聞いてみると、どうやらフラットちゃんは守護騎士の一人と遭遇したらしいの。

急いで食べ物を冷蔵庫に仕舞って、フェイトちゃんと一緒にフラットちゃんの元へと飛び出そうとしたら、
私達の居るリビングにワーニングコールが鳴り響きました。

「ええっ!?
今度は何なのっ!?」

エイミィさんの叫び声に反応するように沢山のウィンドウが展開しました。

ウィンドウの半分くらいには、どこかの惑星で行動中の守護騎士シグナムさんの姿が映ってました。

他のウィンドウにはヴィータちゃんの姿も。

「ああん、もうっ!
リンディ提督もクロノ君も居ない時に限ってぇっ!!」

頭を抱えて吼えるエイミィさん。
クロノ君は、検査に手間取って本局で足止め。
リンディさんは、整備が終わって追加装備を取り付けたアースラの受け取りと経過報告をする為に本局へ。

でも、今の指揮官代行であるエイミィさんは直ぐに落ち着いて、通信が繋がってるままのフラットちゃんへ声を上げました。

「……他の次元でも守護騎士を二人も発見!
ゴメン、フラットちゃん。
そっちに人手が回せない!
通信もいったん切るよ!
進展があったら、また連絡してっ!」

そして通信を切ると同時にエイミィさんが、私とフェイトちゃんへと顔を向けます。

「悪いけど、二人にはコッチの守護騎士二人の相手をお願いするよ」

「うん!
わかったのっ!!」

「……了解」

エイミィさんの言葉に元気一杯で答える私。

でもフェイトちゃんは渋々といった表情。

そっか、フラットちゃんの事が心配なんだね、フェイトちゃん。

でも、

「大丈夫だよ、フェイトちゃん。
フラットちゃんは、絶対に負けない。
それは一番身近だったフェイトちゃんが知ってるはずだよ?」

フラットちゃんは絶対に負けない。
何故ならフラットちゃんは、危なくなったら逃げてでも倒れる事を拒絶するだろうから。

……まぁ、逃げずにボロボロになっても敵を倒してそうけど。

「……うん……。
そう、だね……フラットはきっと、ボロボロになっても負けない。
だったら、早くコッチの用事を済まして助けにいかないといけないね」

どこか吹っ切れた笑みで答えるフェイトちゃん。

「うん♪
その意気だよフェイトちゃん!!」

よ〜し、私のヤル気も満タンなのっ!

【前回は逃しましたから、
今回はキッチリ撃ち落としましょう】

私の胸元でレイジングハートが言う。

「そうだね、レイジングハート。
……、
私がヴィータちゃんで、フェイトちゃんはシグナムさんでいいね?」

「うん。
私達もシグナム達と白黒、決着を付けなくちゃいけないから」

【Yes sir】

決意を込めて頷くフェイトちゃんとバルディッシュ。

……ちなみに、私達はデバイスを日常的に持ち歩いてる。

その事について「ナイフを持ち歩く人みたいで物騒だから、普段は部屋に仕舞っておきたい」と言ったら、
フラットちゃんが「馬鹿野郎、無差別に人を傷つける事をコイツ等が許すと思うか?」って答えました。

そして「コイツ等は主と共にある事が存在意義だ。気楽に手放すんじゃない」と、胸元のアルギュロスに触れて言いました。

私はその言葉に衝撃を受けました。

私は、私の「当たり前」の所為でレイジングハートを心配にさせていたのだから。

何が正しくて、何が間違っているのか……。

ひょっとして私の「正しい」と思ってる事も、他の人からすれば「悪い」事なのかもしれない。

……でも、闇の書の暴走を止める事は間違ってないと思う。

私達の街が消えてしまうなんて、許せない。

何故、あの人達が闇の書の完成を急ぐのかは判らない。

もしかしたら、私達も完成に協力したくなるほどの理由があるのかもしれない。

でも「お話」してくれなきゃ判らない。

……。

だから今は、あの子を……ヴィータちゃんを、ふっ飛ばすのっ!

「なのはちゃん!
フェイトちゃん!
転送の準備が整ったよっ!
お願い! 彼女達を止めてきて!!」

足元には輝く魔法陣。

私達は、それぞれの戦いの場へと飛び立ちました。

 

 

 ◇ シャマル ◇

 

 ううっ……、
まさか、はやてちゃん自らが主である事を宣言しちゃうとは誰も予想してなかったわ。

私達が今の状況をはやてちゃんに説明しなかったツケを、こんな形で支払わなくちゃいけないなんて……。

ど、ど、ど……どうしよう。

目の前に居る管理局の女の子はシグナム、ザフィーラ、更にヴィータちゃんすらその実力を認めてる子。

後方支援に特化してる私とクラールヴィントじゃ、相手にならない。

でも、はやてちゃんを管理局の手に預ける事は出来る訳が無いわ。

一応彼等にも話をするつもりがあるみたいだけれど、いつ心変わりするか判らない。

闇の書が……彼等の言う様に壊れているのだとしても、そうだからこそ管理局がどういう反応を起こすのか。

最悪、私達が処分されてしまう事はしょうがないわ。

今、私達が行なっているリンカーコア集めだけで重罪だし、
ヴィータちゃんが受け取った管理局のデータに記されていた闇の書の遍歴は私達ですら戦慄したもの……。

でも、はやてちゃんは関係ない。

それに主を守るのが騎士の使命。
私も守護騎士を名乗っている以上、その覚悟は……出来てるわ!

でも覚悟を実行に移す前にやらないといけない事がある。

『こちらシャマル。
……皆、聞いて。
はやてちゃんの事が、管理局にバレたわ。
その上、はやてちゃんと一緒に結界内に閉じ込められてしまったの。
直ぐに……来れる?』

クラールヴィントの多次元接続能力を生かした次元間念話を仲間の3人に繋げる。
補助魔法に特化したクーラルヴィントにとって結界の一つや二つ、無いに等しい。

返答は直ぐに帰ってきた。

『こちらシグナム。
スマンが無理だ。
こちらでも管理局に捕捉されてしまった。
フェイト・テスタロッサだ。
彼女は私より速い。
打ち倒さねば、そちらに転移する事も出来ん』

『……ヴィータだ。
アタシも無理。
こっちは高町ナントカって奴だ。
コイツの砲撃ウゼェから、やっぱりブッ潰してからじゃないと転移の時間が稼げねぇ』

『ザフィーラだ。
俺の方はフリーだ。
直ぐに向かう。
……だが、シャマル達の居る次元に到達するまで時間がかかる。
スマンが時間を稼いでくれ』

……、
なんて最悪。

初めから各個撃破を狙ってたの?

……こうなったら、はやてちゃんだけでも家に転移させて逃がすべき?

いいえ、ひょっとしたらワザと逃がす事で本拠地を突き止めようとしているのかもしれないわ。

そうか、だから、一人で待ち伏せていたのね。

むざむざと罠にはまってしまうなんて……。

この状態で安易に転移してしてしまえば、転移座標を解析されてしまう。

なんとしても、このフラットという子を倒してしまわないと逃げられない。

……。

私では守りに入ったら直ぐに力押しで潰されてしまう。

攻撃も防御も大した事が出来ない私だ。

そうなってしまえば、はやてちゃんを守れない。

つまり……攻めるしか……ない。

「……、
フラットちゃんと言いましたね。
申し訳ないけど、貴女はココで再起不能になって貰います」

はやてちゃんを庇う様に、一歩前へ。

【Pendel fome】

両手の人差し指と薬指に付けたリング、四つで一つの私のデバイス・クラールヴィントが声を上げる。

各リングの宝石が外れ、巨大化。

宝石とリングが細い鎖で繋がり、振り子のようになる。

私の行動を見たフラットちゃんは、あたかも野生の獣の様に歯を剥き出しにして笑った。

「ははっ、そうこなくっちゃな!
行くぜアルギュロス!!」

【Open Combatッス!】

低空を飛ぶように距離を詰めるフラットちゃん。

速い。
けれど、真っ直ぐな軌道だから動きを読みやすい。

「開いて。
……旅の扉」

左手を肩の位置まで挙げて宣言する。

左手のクラールヴィントが輪を作って、その輪に銀色の鏡のような膜が展開。

躊躇うこと無く、左手をその中へと突っ込む。

旅の扉は空間を歪めて、私の望む場所に出口を作る。

例えば、フラットちゃんの直ぐ側に。

「捕まえたっ!!」

私の左手は、巨大な拳銃型アームドデバイスを持つフラットちゃんの右手首をしっかりと握り締めた。

 

 

 ◇ フェイト ◇

 

 なのはと一緒に別々の地点へ転移したその先に待っていたのは、一人の騎士。

「……む、
管理局にこの土地も知られてしまったか」

一面の砂漠の上、打ち倒された原住生物らしき生き物を背に、シグナムが口を開いた。

「逃げても、どこまでも追い詰めます。
だから……投降してください」

私の言葉にシグナムは皮肉げな表情を浮かべた。

「ふ……、
それは聞けぬ話だ。
主に忠誠を捧げた従者として、
剣に誇りを誓った騎士として。
……、
現に我々は、お互いの技量の優劣すら決着をつけていないではないか。
さあ、
デバイスを取れ!
決闘こそが、騎士の華。
我等に(ほっ)する事があるのなら、その刃で掴み取れっ!!」

シグナムが自身のデバイス、レヴァンティンを掲げる。

「……、バルディッシュ」

仕方が無い。
やるしかないのなら、遠慮はしない。

【Yes sir】

右手にバルディッシュが収まる。

私に扱いやすくする為、その大きさの割に軽いデバイス。

でも、右手に掛かる重みが私の心を急かせる。

なぜならば、
今、フラットのいる状況が判らないから。

もしかしたら、劣勢を強いられているのかも。
もしかしたら、倒されてしまっているのかも。
でもたぶん、怪我をしているのは絶対。

考え出したらキリが無い。

だから、シグナムを早く倒してフラットを助けないと……。

【Sir!】

バルディッシュの言葉にハッとする。

シグナムは、別の事を考えながら戦えるほど容易い相手じゃない。

やるのなら持てる全力でぶつからないと、倒されるのは私。

「……、
全力で行くよ、バルディッシュ」

【Sonic Form.
Get set】

バルディッシュの言葉と共に、私のバリアジャケットからマントが消える。

上からレオタード、スパッツのみの軽装。
替わりに右手にも手甲が付いて、両手両足の手甲、足甲に小さめの光の羽が生えた。

ソニック・フォーム、防御よりも速さが全ての高機動戦装備。

先の戦いで決着がつかなかった私達の答えがコレ。

バルディッシュもカートリッジを一発消費してハーケン、鎌の形態になっている。

「……それでは、管理局嘱託魔導士フェイト・テスタロッサ……」

「……闇の書が守護騎士、烈火の将シグナム……」

「「参るっ!!」」

お互いがデバイスを振り上げ、名乗りを上げ、
そして、一瞬で激突した。

デバイスの凌ぎ合いから始まるかと思われた戦いは、シグナムの巧みな剣捌きによって簡単に崩されてしまった。

バランスを崩した私と、デバイスを振り上げたシグナム。

でも、このソニック・フォームは伊達じゃない!

即座に手足の小翼で体勢を整え、バルディッシュで迎え撃つ。

地にしっかりと足を踏ん張ってレヴァンティンを振り落とすシグナム。
僅かに宙に浮いて、バルディッシュを振り上げる私。
それでも身長差から、私がシグナムを見上げる形。

激突音。

込められた力に弾かれる二人のデバイス。

今度はシグナムが体勢を崩す。

私の方は元から宙に浮いているので、多少体勢が崩れても戦闘可能。
むしろ、ワザと体勢を崩してバルディッシュを振るう速度を少しでも上げる。

シグナムのレヴァンティンは跳ね上げられた右手に収まっている。
胴はがら空き。

貰った!!

宙で寝そべるような格好になりつつ振り回したバルディッシュがシグナムの胴を薙ぐ。

激突音。


胴はがら空きだったのに、デバイス同士がぶつかる手応えがした。

バルディッシュがぶつかった物に目を向ける。

腰に構えられた左腕と……鞘!?

「なにを呆けている。
勝負はこれからだぞ、フェイト!」

右手のレヴァンティンを振り下ろすシグナム。

私は全力で後退して、その刃を避けた。

左手を地面に触れて無茶苦茶になった体勢を建て直す。

「それはこちらの台詞です!」

手足の小翼に魔力を込める。

金の燐光を発して小翼が私の意思に答えた。

それはすなわち、速度と機動性の両立。

一瞬でシグナムの背後に回りこんだ私がバルディッシュを振るう。

無防備な背中を晒していたシグナムは僅かなステップで私に向き直った。

左手の鞘でバルディッシュを払いのけ、右手のレヴァンティンで切り込んでくる。

私は咄嗟に左足でレヴァンティンの側面を蹴り飛ばし、空中で横転しながら距離を取った。

速度を殺さないように旋回し、加速しながらシグナムへ突撃。

「はああああっ!!」

左から右への薙ぎ払い。

シグナムはレヴァンティンで受け止めて左手の鞘で反撃してくる。

その場に留まらずに飛び去ったお蔭で、その反撃は空を切った。

「くっ、
二刀流がこんなに戦い辛いなんてっ!」

「ふっ、
この程度が私の実力だと思わない事だっ!」

旋回中の私に飛び込んでくるシグナム。

しまった!
今の体勢じゃ、バルディッシュが振るえない。

咄嗟に振り下ろされるレヴァンティンへと左手の手甲を叩き付ける。

周囲に響く金属音と共に、レヴァンティンは辛うじて私の至近距離を切り裂いた。

でもその所為で体勢が崩れた私は、直後に突き出された鞘に対応出来なくなった。

肉を打つ鈍い音と、おなかに響く重い衝撃。

「うっ!?」

シグナムの一撃でふっ飛ばされた私が地面に叩きつけられる。

「……くっ!」

シグナムとの距離が近い。
苦痛に呻く暇も無い。

即座に地面を蹴って宙へと飛び退く。

「……やっぱり、シグナムは強い。
バルディッシュ。
こうなったら、もう、アレしかないね」

【……Yes sir.
Full Drive ready】

右手のバルディッシュが変形を始める。

柄が短くなって、両手で握れるくらいになった。
斧刃状のパーツが長く伸びて、西洋剣の鍔の様になる。

鍔の中心にはバルディッシュのデバイスコアが据え付けられた。
その下、柄の上部にはカートリッジの収まったシリンダーとカバー。

刀身があるべき部分には、短くて細身の角柱が生えている。

【Zamber Form.
Get set】

バルディッシュが変形完了を宣言する。

シグナムは私達の動きをじっと見つめている。
期待半分、警戒半分といった感じ。

バルディッシュがカートリッジを一発消費すると、私の身長を超える光の刃が展開した。

重厚な両刃のグレートソード。

それがバルディッシュ・アサルトのフルドライブ、ザンバー・フォームの形。

バルディッシュを両手に構え、手足の小翼に力を溜める。

バルディッシュが再びカートリッジを消費すると光刃に稲妻が纏った。

後は突撃するだけ、と言う状況でシグナムが左手をコメカミに当てた。
どうやら仲間内で念話をしているらしい。

「……、
……、
……、
……、
もう少しこの戦いを楽しみたい所ではあったが、急用が出来た。
悪いが、レヴァンティン最大の攻撃で叩き伏せさせて貰う!!」

レヴァンティンがカートリッジを一発消費し、シグナムがレヴァンティンと鞘を連結。

【Bogen Form】

レヴァンティンが光を発して、大きな弓に姿を変えた。

上下二つに増えたカートリッジ排出口から撃発音と共にカートリッジが二発、転がり落ちる。

左手に持った大弓の弦を右手で引くと、光を放って展開した鋭い切っ先の大きな矢が弓に番えられた。

グルグルと渦を巻く様に紫色の魔力が矢に込められていく。

対抗する様にバルディッシュの光刃にも金色の魔力が注ぎ込まれる。

お互いのデバイスから溢れ出す魔力に、周囲の空間がビリビリと震えた。

「決着を付けるぞ!
フェイト!!」

「望むところです!
シグナム!!」

「「はぁぁぁああああああっっっ!!!」」

向き合った瞬間、私は空を蹴って一気に突撃。

シグナムは限界まで引き絞られた弦を手放し、剣に似た矢を射た。

自らを弾丸と化した私と、一矢に全てを込めたシグナム。

一直線に飛んで来る矢に貫かれる瞬間、私はその矢へバルディッシュを振り下ろした。

爆発!

魔力の篭もった一撃同士をぶつけあった結果、私と矢を中心に竜巻のような風が吹き抜けた。

全力で飛び出したはずの私が、大きいとはいえ矢一本でその突進を止められてしまった。

いや、正確にはまだ止まっていない。
矢の推進力と私の推進力が拮抗して外見上、止まっているように見えるだけ。

光刃が纏った稲妻がシグナムの矢が纏う魔力の渦を打ち消す。
でも、シグナムの矢はギシギシと音を立ててバルディッシュの光刃を砕いていく。

くっ、
魔力の圧縮率はシグナムの方が上だったの?
ザンバーフォームの魔力圧縮率を超えるとは、なんて一撃!

でも、矢による攻撃を選択したのは間違いだっ!

矢を放ってしまったシグナムは、もうこの状況に介入出来ない。

しかし、私は私の思うように戦いを進める事が出来る。

「バルディッシュ!」

【Cartridge Load】

私の手元でカートリッジが二発消費され、砕かれかけた光刃がより強靭に作り直された。

「やあああああああっ!!」

強引に押し切る。

矢から噴出す魔力を切り裂き、矢を断つ。

そして、再び加速した私はシグナムへと飛び掛った。

カートリッジを一発消費する事で、再び光刃に稲妻を纏わせる。
これで六発使い切った。
再装填しない限り、カートリッジシステムを頼る事は出来ない。

だから、私は残ったありったけの魔力をバルディッシュに注ぎ込んだ。

シグナムへ目を向けると、
彼女はレヴァンティンを大弓から剣の形に戻していた。

盛大な炎を吹き上げているレヴァンティンを手に、シグナムが私目掛けて駆ける。

「切り裂けッ、バルディッシュ・ザンバーーーッ!!」

「切り伏せろレヴァンティン!紫電ッ、一閃ーーッ!!」

私達は、真正面から剣を切り結んだ。

そして……そのまま走り抜け、背を向けあったまま立ち止まる。

「……くっ」

先に膝をついたのは私だった。

一時的な魔力枯渇。

バルディッシュを杖代わりにして倒れるのを避け、何とか後ろを振り向く。

シグナムはしっかりと自身の足で立って、私を振り返った。

 

 

 ◇ なのは ◇

 

 森林地帯の上空で私は、ヴィータちゃんと対峙した。

「けっ、またテメーかよ」

「そうだよ、ヴィータちゃん。
今度こそちゃんとお話しようよ。
この間のデータを見て貰えたのなら、
私達の主張が簡単に否定出来るものじゃないって判ってもらえるはずだよっ!」

「はん。
テメーは馬鹿か?
闇の書の暴走が確実でも、テメー等に投降するのはまた違う話なんだよっ!」

「違うよ!
投降してなんて言ってない!
私はただ、貴女達の目的を知りたいだけ!!」

「違わないね!
アタシ達の目的を管理局に話すって事は、アタシ達の目的を諦めるに等しいんだっ!!
リンカーコアの搾取と闇の書の完成は、本当の目的の為の準備にしか過ぎないんだからなっ!!」

「えっ?
それって……??」

私がヴィータちゃんの言葉を確認しようとすると、ヴィータちゃんは左手をコメカミに当てて、誰かと念話をしました。

「……、
……、
……、
……ちっ、
おい、高町!
テメーと遊んでる暇が無くなった!
とっとと、アタシの前から失せろっ!!」

そう怒鳴ると同時にハンマー状のデバイスを振り上げて、私目掛け突進するヴィータちゃん。

「……結局、こうするしかないんだね。
今日こそ、ぶっ飛ばして!
絶対お話聞かせてもらうんだから〜っ!!」

【Accel Mode.
Set up】

私の左手にレイジングハートが収まります。

「いっけ〜〜っ!
アクセルシューター、連射ぁぁっ!!」

両手でレイジングハートを構えて、盛大に魔力弾を放ちます。

アクセルシューターの真骨頂は精密な誘導性能にあるけど、今回は弾数で押すので大雑把な方向修正のみ。

あっと言う間に30発ちかくの魔力弾がヴィータちゃん目掛けて殺到します。

ヴィータちゃんは私へと突撃しているから、これを捌き切るのは骨なはず。

「はっ!
こんなヘナチョコ弾っ!
気にしなきゃ、それでオシマイなんだよ〜〜っ!!」

更に加速して、そのまま私に突っ込んでくるヴィータちゃん。

「えっ!?
あ、当てちゃうよっ!?」

「好きにしやがれっ!
その代わり、テメーはアタシがぶっ飛ばす!!」

「……そう、
どうなっても知らないんだからっ!」

デバイスを振り上げるヴィータちゃんに私はアクセルシューターの全弾を叩き付けました。

盛大に巻き起こる爆発。
爆風の向こうにヴィータちゃんは消えました。

当然です。
一発一発は弱くても、30発ものアクセルシューターを撃ち込まれて無事に済むはずが……。

【マスター、まだ終わってません!】

レイジングハートの言葉に俯きかけた視線を元に戻すと、
目の前に、煤けただけのヴィータちゃんが。

「ベルカの騎士は防御力も高けぇんだよっ!!」

そして目一杯振り上げられたハンマー、グラーフアイゼンが振り下ろされ、
ギリギリのタイミングで構えたレイジングハートで受け止める事に成功します。

でも、ヴィータちゃんの勢いだけは止める事が出来なくて、私は地面へ向けて叩き落とされました。

「くぅっ!
フライヤーフィンでっ!!」

【駄目です。
勢いを殺せません】

「そんなっ!?
……それなら、レイジングハート! バスターモードにっ!!」

【?
Buster Mode Ready】

靴に展開する飛行用の小翼でも勢いが止まらない以上、やれる事は一つだけ。
バスターモードになったレイジングハートを左脇に抱え、右手で丁度良い位置にあるカートリッジ・マガジンを握る。

そして、レイジングハートの杖先を真下の地面へ向けて……。

「ディバィィィンッ!
バスターーーーーッ!!」

照準や出力調整や収束率の事なんか無視して、衝撃を吸収させる足場の魔法陣も展開せずに唯の推進力としてディバインバスターを発射しました。

その結果、ギリギリの低空で落下を食い止める事に成功。

さらにデバインバスターの威力は私を空へと持ち上げ、一気にヴィータちゃんと目線を合わせられる高さに舞い戻ります。

「それじゃあ、今度はコッチの番だよヴィータちゃん!!」

【Standby ready】

レイジングハートの言葉と共に、杖に三つの環状魔法陣と大きな足場の魔法陣が展開。

同時にカートリッジを二発消費して、魔力の急速チャージが行なわれます。

更に私の目の前に照準用の魔法陣も展開。
魔法陣に拡大されて映るヴィータちゃんが、十字線の中心にロックオンされました。

「……あの砲撃か。
ふん!
グラーフアイゼン!
お前の真髄をアイツに見せてやれ!!」

【Ja.
Gigant Form】

ヴィータちゃんがグラーフアイゼンを掲げると、
二発のカートリッジの炸裂音が響いて、グラーフアイゼンが大きく変形を始めました。

鋼鉄で出来た角柱のようなハンマーはとても大きく、ヴィータちゃんの身長くらいもあります。

角柱にはジャバラのようなデザインがあって、まるでとても大きなピコピコハンマーみたいな印象を抱きました。

「行くぜ、高町ぃっ!
テメーの砲撃ごと、ぶっ飛ばーーーすっ!!」

ヴィータちゃんは大きく飛び上がって、更に信じられない大きさへと巨大化したグラーフアイゼンを振り上げました。

私は直感しました。

ディバインバスターでは、ヴィータちゃんの一撃に潰されてしまうだけだと。

ならば、取るべき手段は一つだけ。

私達の最大の攻撃に切り変えるの。

「レイジングハート!
フルドライブ!!」

【……All right.
Full Drive ready.
Exelion Mode ignition!】

更にレイジングハートがカートリッジを一発使って、砲撃魔法の展開中に強引に変形を開始しました。

音叉の様だった杖先が、肉厚になって鋭く尖り、槍の穂先のようになりました。

穂先の根元にも色々と追加パーツが付いて、頑丈になったレイジングハート。

環状魔法陣が追加され、今まで以上の魔力が凄い勢いで凝縮されて行きます。

さっきまで用意していたデバインバスター用の魔力を超えて、信じられない勢いで私の魔力が術式に吸い取られます。

「……うっ……」

【大丈夫ですか?】

急激な魔力消費に一瞬立ちくらみ。

「うん、大丈夫」

レイジングハートに答えながら頭を振って意識を取り戻し、
上空を見上げると、グングン近づいて来るヴィータちゃんの姿。

レイジングハートをヴィータちゃんへと構え、待ち受けます。

【……急速チャージ、完了。
撃てます】

強引な変形、急激な魔力チャージにレイジングハートがビリビリと震えています。

スタートダッシュ寸前のレースーカーみたいな振動。
もしかして壊れてしまうんじゃ、と不安になります。

それでも、ヴィータちゃんの鉄槌はもう、目の前。

だから、迷ってる暇は……無いのっ。

「エクセリオン・バスターーッ、ブレイクシューーーートッ!!」

「轟天爆砕ッ!ギガントシュラーーーークッ!!!」

叩き付けられる巨大な鉄槌に、至近距離から桜色の巨光がぶつかります。

全てを撃ち砕く大鉄槌と、全てを吹き飛ばす巨光。

両者は危ういバランスで拮抗し、それでも尚、高まり続ける魔力は留まる事を知りません。

私は今、この場を凌ぐ事だけに集中して魔力を搾り出します。

目の前のヴィータちゃんも、この一撃で終わらせようと全力です。

そして、

私達の中間で圧縮され続けた魔力が暴発し、私達はそれぞれ別の方向へと吹き飛ばされました。

声も上げる事が出来ずに吹き飛ばされた私は、
何とか体勢を整える事に成功して、ヴィータちゃんの飛ばされた方向へと向き直ります。

同時にレイジングハートのパーツが動いて盛大に煙を吹き上げ、普段のアクセルモードに形態が戻りました。

「……レイジングハート、大丈夫?」

【問題有りません。
むしろ、貴女が心配です】

「私も大丈夫。
……ちょっと疲れちゃったけど」

と、爆煙が晴れて、反対側に飛ばされたヴィータちゃんの姿が私の視界に入ります。

ヴィータちゃんのグラーフアイゼンも煙を吐き出して元のハンマーに戻りましたが、グラーフアイゼンを持ち直して徹底抗戦の構えです。

「ヴィータちゃん、まだヤル気みたいだね。
じゃあ、トコトンまでやろうか、レイジングハート!」

【All right】


「……いや、これで終わりだ」


飛び出そうとした私達の背後で男の人の声が聞こえました。

え?
こんな至近距離に、どうやって、一瞬で!?

振り返ろうとした私でしたが、次の瞬間、全ての動きが止まりました。

激痛と強烈な違和感。

身体を動かす事も出来ない。

でも私は、この痛みを覚えている。

そう、

これは……、

リンカーコアを直接、抜き取られた時の痛み。

下に目を向けると、胸から飛び出した腕とその手に掴まれたリンカーコアが見えました。

「……う……、
貴方は……誰……?」

強引に後ろへ振り向くと、私に寄り添うように仮面を付けた男の人が立っていました。

「それを知る事に、意味は無い」

私の問い掛けをバッサリ切り捨てた仮面の人が、私を貫いている腕を引き抜きます。

「うっ……ぐっ!?」

力が抜け意識が遠くなった私は、重力に引かれるまま落下しそうになりました。

でも、仮面の人が手を私の腰に回して、私が落ちるのを防いでくれました。

……え?

なんで、敵である私を助けようとするの?

「さあ、闇の書の守護騎士よ。
受け取れ!」

問い掛けたくとも、声を出す事も出来ない私をそのままに、仮面の人はヴィータちゃんへと叫びます。

「……、
テメー、何者だ。
何故アタシ達を助けようとする。
何が目的だ。
……答え様によっちゃ、容赦しねぇ」

ヴィータちゃんは警戒心をムキ出しにしてグラーフアイゼンを構えます。

「落ち着け。
私は闇の書の完成を願う者だ。
このリンカーコアこそが、その証拠。
早く受け取れ、守護騎士よ。
躊躇っても益が無い事は、お前も認識出来ているはずだ」

「管理局の奴等は、闇の書が危険だから完成させちゃいけないって言ってるぜ?」

「見解の相違だな。
それに、お前達は闇の書が管理局によって消されるのを待って居るつもりは無いのだろう?」

「……、
礼は言わねぇからな」

そう言いながら左手を腰に回したヴィータちゃん。

腰の後ろから抜き取られたのは、闇の書。

宙に浮いた闇の書が自らページを開き、私のリンカーコアが吸い込まれて行きました。

「そうだ。
それでいい」

リンカーコアの蒐集を見届け、
そう言った仮面の人が私ごと何処かへと転移しようとしているのを感じた時、

ついに私は、

意識を保つ事が出来なくなって、

真っ暗な世界に、

落ちていきました。

 

 

 ◇ フェイト ◇

 

 地面に突き刺したバルディッシュを支点に体ごと振り返ると、シグナムの全身が視界に入った。

シグナムは、

右手から胸周辺にかけて、黒く煤けていた。

おそらく、バルディッシュの刀身に這わせた稲妻がレヴァンティンを越えて、シグナムに襲いかかったんだろう。

たぶん、バリアジャケットの下は火傷してる。

それでもレヴァンティンを手放さないのは、騎士の誇りなのか。

「……、
見事だ、フェイト。
我が最大の一撃を撃ち落とし、なおかつこれだけのダメージを私に与えるとは。
しかし、
残念でもある。
魔力の尽きたお前では、もはや私を止める事も出来まい」

シグナムはそう言うと、ゆっくりと私へ向かって歩き出した。

……確かに。

頑張れば、身体は動く。

でも、さっきみたいな高速機動は出来ない。

幸い、込めていた魔力が残っているのかバルディッシュはザンバーフォームのままだけど、
このままじゃ直ぐに通常のアサルトフォームに戻ってしまうだろう。

「……ここまでなの……?」

【No sir】

私の呟きにバルディッシュが答える。

同時に、バルディッシュの円筒形のカバーが後退して、カートリッジが収められている六連発シリンダーが飛び出した。

排夾機構が働いて、六発の使用済みカートリッジがはじき出される。



……あ、そうか。

「カートリッジを使えば、まだ、戦闘は出来る!」

【Exactly】

左手で懐からスピードローダーを取り出してシリンダーへと、一度に六発のカートリッジを装填。

用の済んだローダーを投げ捨てると同時に、
バルディッシュがシリンダーをフレームに収め、カバーを閉じる。

タン!

早速、カートリッジを一発消費したバルディッシュを振り上げる。

私はもうマトモには戦えないけど、シグナムだってそれは同じ。

視線をシグナムへ固定すると、シグナムは驚き半分、喜び半分の笑みを浮かべていた。

「見事!
それでこそ、私の認めた好敵手!!」

震える手でレヴァンティンにカートリッジを再装填しつつ、シグナムが言う。

「貴女は、ここで止めます!
シグナム!!」

私達は、お互いフラフラの身体で、一歩、また一歩と踏み出し、

剣を振り上げ、

渾身の力を込めて叩き付ける。

もはや、技巧も戦術も無い、ただの意地のぶつけ合い。

怒りや焦りが何処かへと消えて行く。

残るのは純粋な欲求が一つだけ。

強くなる。

強敵であるシグナムを倒す事が出来たなら、私は……胸を張って、フラットを守るって言う事が出来るんじゃないだろうか。
そうしたら、本当に私はフラットのお姉さんになれる。

でも、

結局、

その思いが遂げられる事は無かった。

何故なら、

私の背後に、

正体不明の男が、音も無く現れたから。


「……遊んでいる暇はなかろう、守護騎士よ?」


彼がそう言うと同時に、私の身体を不快感と苦痛が駆け抜けた。

なんとか視線を下へと向けると、私の胸から腕が生えていた。

その手には輝く光、おそらくリンカーコア。

くっ。

私は……、こんな所で終われない!!

私は震える手でバルディッシュを逆手に持ち、背後の男へ強引に突き刺そうと振り被った。

「おっと、威勢がいいな」

でも、背後の男は私に突き刺した腕を抜くだけで、私の反撃を封じてしまった。

そのまま崩れ落ちる私。

辛うじて倒れ切る前に、その男に抱きとめられた。

ぼんやりとした視界に映るのは、目元だけが切り抜かれた平坦な仮面を付けた男の姿。

「逡巡している暇が無い事は知っているぞ、守護騎士よ。
リンカーコアを受け取れ。
闇の書を携えている同胞に渡せ」

その男の発言を最後に、私の意識は閉じてしまった。

最後に瞳に映ったのは……、悔しそうなシグナムの顔……。

 

 

 ◇ フラット ◇

 

 「捕まえた!」

シャマルとかいう守護騎士が唐突に俺の右手を掴んだ。

シャマルの左手は、俺の側に浮かんだ鏡のような膜から飛び出している。
本人の方にも同じ膜が浮かんでいる辺りから察するに、空間歪曲系の魔法のようだ。

「えいっ!!」

離れた場所からシャマルが掛け声をかけると、
彼女の右手からぶら下げていた二つの大きな宝石が振り回され、俺目掛けて飛んできた。

宝石に繋がれていた鎖は自由に延長されるらしく減速する気配は無い。

だが、足を止めた俺は呆れてしまった。

こんな攻撃を黙って喰らうほど魔導士という奴は甘くない。

自由な左手を前に突き出して障壁を展開する。

跳ね返したら、反撃開始だ。

……と、思っていたら、

飛んできた二つの宝石が、障壁をすり抜けた。

「なにっ、ぶぅっ!?」

青色の宝石が俺の頬を直撃し、緑の宝石が脇腹にぶち当たった。

体勢を崩しつつも何とか倒れずに踏みとどまる。

「ふふふ、
私は補助魔法に特化しています。
だから、そんな障壁の一つや二つ、私達にとっては無いも同然です」

二つの宝石を引き戻しながらシャマルが胸を張る。

「ほぉ…。
随分と舐めた攻撃をしてくれるじゃねぇか」

左頬と左の脇腹がヒリヒリと痛むが、それだけだ。
戦闘に何の支障も無い。

「それじゃあ…」

俺の右手を掴んでいるシャマルの左手を、自分の左手でしっかりと掴む。

「お返ししねぇとなっ!!」

その状態で、一気に後方へと身体を倒した。

当然、シャマルの左手も俺の動きに引っ張られて、

「……え?
きゃっ!!」

鏡のような転移魔法陣が通るギリギリまで、シャマルの体が引きずり出される。

シャマル本人は完全にバランスを崩した態勢で、転移魔法陣に左肩まで突っ込んでいる状態だ。

対するこちらは、未だシャマルに右腕が掴まれているとはいえ、そこそこの自由度を得た。

だからアルギュロスを左手に持ち変え、躊躇無く引鉄を引いた。

「ライトニング・バスター!」

ロスタイム無しの最速で銀の砲弾がシャマル目掛けて発射される。

反動でアルギュロスが跳ね上がるが耐えられない事も無い。

銀の砲弾がシャマルに到達する瞬間、
例の振り子のようなデバイスが動いて、シャマルの前に鏡のような魔法陣が展開し、
ライトニング・バスターが何処かへと消えた。

その瞬間、嫌な予感がして、
俺は右手が固定されたまま無理矢理、一歩後退した。

先ほどまで立っていた場所に銀の砲弾が突き刺さる。

上を見上げると例の鏡が有った。

「なるほどな。
そーいう事をするなら、コッチにも手があるぜ」

「どんな手かしら?
少なくとも貴女の魔法が私には通用しない事が理解出来たと思うのだけれど」

「アルギュロス。
フォトン・ブレイド展開!」

【了解ッス!】

アルギュロスの銃身下部から光が噴き出した。

簡単に言えば銃剣。

銃身の付け根から先端を越えて、全長約30cmのナイフ状の銀色の刃が展開する。

「射撃が駄目なら斬ってみろってなぁっ!!
おらぁあっ!
腕チョンパだっっ!!」

未だに俺の右腕を握っているシャマルの左腕目掛けてアルギュロスを振るう。

「きゃあああああっ!!」

マジで怯えた声を出すシャマルは必死に自分の左腕を引き戻そうとするが、それはあまりにも遅すぎた。

さしたる抵抗も無く、アルギュロスの光刃が振り抜かれる。

「そんな!
シャマルっ!!」

シャマルの背後で今まで大人しくしていた車椅子少女はやてが叫び声を上げた。

「あ、
あああ……っ」

フラリ、フラリと後ずさりし、シリモチをついたシャマルの左腕が鏡のような奴から引き抜かれる。

シャマルの肘から先は、

バリアジャケットが断ち斬られ火傷になっているだけで、しっかり繋がっていた。

「……あれ?
斬られた感触はあったのに」

キョトンとした表情のシャマル。

「お前、アホか?
管理局のデバイスは非殺傷モードが基本だ。
高出力攻撃になったら軽傷は負うがそれ以上は無い」

左手のアルギュロスの銃身で自分の肩を叩く。
あ〜〜、なんか真面目に戦うのがアホらしくなって来た。

のんびり歩いて近づきつつ、はやてに目を向ける。

「さて、
お前の護衛は役立たずって事が判ったか?
それなら、とっとと闇の書を寄越してくれ。
……別にお前さんを気絶させてから奪ってもいいんだからな」

なるべく威圧感を感じるように、はやてを見下ろして話かける。

「……シャマルは役立たずやないで。
そりゃ料理も微妙やし、トホホでうっかりなトコも一杯あるけど。
それでも私の家族なんやからな」

俺の言葉にムッとした表情で言い返すはやて。

「あぅ、はやてちゃん……」

はやての言葉に今までで一番のダメージを受けたらしいシャマルの泣き声が聞こえた。

「そうか。
……渡す気はねぇんだな?」

左手のアルギュロスを振り上げる。

そのまま、一直線に打ち下ろそうとした時、背後からシャマルの声が響いた。

「はやてちゃんに手は出させないわっ!!」

振り返ると俺に向かって飛んで来る大きな宝石が四つ。
シャマルの振り子の先端だ。

「ふん、
タネの判った手品ほど味気無い物はねぇぜ!」

アルギュロスの光刃で片端から弾き飛ばす。
障壁をすり抜ける振り子も高密度な魔力の塊の前には無力だった。

「チェックメイトだ!」

左手に持ったままでライトニング・バスターをぶっ放す。

「きゃぁあああっ!!」

銀の砲弾が直撃したシャマルが吹っ飛んで、ガードレールに直撃。
そのままガックリと頭を垂れた。

「……ふぅ、
っつー訳で良い加減、闇の書を差し出せや」

右手に持ち変えたアルギュロスをはやてに向ける。

はやてはアルギュロスの銃口と光刃に怯えの視線を向けるが、唐突に怒鳴り始めた。

「ちょっと!
自分、何でこんな事するのん!!
私等がなにしたんや!
なんでシャマルが傷つけられなあかんねん!!
答えようによっちゃ、容赦せえへんでっ!!」

正直、ちょっと驚いた。

ビビるのまでは判るが、いきなり逆切れするとは思いもしなかった。

ちょっと気分が変わった。
話ぐらいはしてやろう。

アルギュロスの光刃を解除して右腰のホルスターにアルギュロスを収め、
右手をグリップに乗せたまま、はやての言葉に答える事にした。

「そりゃ、このシャマル達、闇の書の守護騎士がリンカーコアの無差別搾取に及んでるからさ。
ついでに闇の書自体が、管理局の即時殲滅指定になってるからな」

俺の話にきょとんとするはやて。

「……そんな!
私はちゃんと、リンカーコア奪ったらあかんって言うたでっ!!」

そして、怒りも露わに再度吼える。

「そこら辺は俺達の知ったこっちゃねぇ。
現実に、お前の守護騎士達はリンカーコアを蒐集してる。
管理局の調査によると、他の次元世界にも手を出してるらしいな」

「……そんな……。
ん、
ところで、その管理局ってのは何なん?」

「あ〜〜、
大雑把に言うと、無限の広がりを持つ多次元世界に秩序をもたらそうっていう自警組織だな。
まぁ、
ぶっちゃけ、この世界のアメリカみたいな感じの組織って考えたらピッタリだろ」

ミッドチルダを全ての中心にした組織らしいからな。
グローバル・スタンダードなんていう自分主体の考え方をする連中にソックリだと思う。
良い奴も多いが、どうしようもなく迷惑な奴等も多い辺りもまた然り。

「なんか有難迷惑な雰囲気の組織なんやなぁ。
そんなら、次元世界ってのは?」

どことなく呆れ返ったはやてから次の質問が来る。

「パラレルワールドや平行世界って言葉に聞き覚えはあるか?」

「おお、SFやな!
限り無く似た、違う世界がいっぱいあるって考え方やろ?」

「そーいう事だ。
で、管理局を初めとする魔導士達は、この次元の間を飛び越える技術を持ってるって訳だ」

「ふ〜〜ん、なるほどな。
で、なんで闇の書が殲滅指定とかいう物騒な事になってるのん?
私の闇の書は大人しいモンやで」

「今はまだ未完成らしいからな。
リンカーコアを集めて完成させると途端に、ぼ……」

【ご主人!
後方に魔力反応。
何者かが転移して来るッス!!】

「……あん?」

ちっ、珍しく親切心出してやったらコレだ。

話の途中で腰を折られるほど不愉快な事は無い。

振り返ると、青色の魔法陣が展開しようとしていた。
まだ、転移し切るまで時間があるらしい。

その間にアルギュロスを抜いて、シリンダーを開いた。
さっき、カートリッジを二発消費したからな。

シリンダーに装填されている五発のカートリッジの内、二発には使用済みの撃針痕がある。
その二発をちゃっちゃと引き抜いて、新しいカートリッジを装填。

アルギュロスを握った右手を左から右へ転がすように倒すと、重いシリンダーが自重でフレームに収まる。
ハンマーを引き起こすとシリンダーが五分の一回転して発射態勢が整う。

俺の準備が整うと同時に、魔法陣から一人の男が飛び出した。

「主はやてっ!
ご無事ですかっ!!」

前傾姿勢で地面に足をつけた男、ザフィーラ。
俺とはやてを視認するが速いか俺に向かって飛び出した。

「貴様っ!
主から離れろっ!!」

コイツと格闘戦になったら俺に勝ち目は無い。

近づかれない様に一発、砲撃。

【Lightning Buster】

銀の砲弾が駆け抜ける。

だが、

「効かん!!」

踏み止まり障壁で受けたザフィーラが再度、飛び込んでくる。

「ちっ、アルギュロス!!」

【Photon Blade】

振り被られる右腕を下から上へ切り上げるように迎撃。

ザフィーラの手甲と光刃が火花を散らし、耳障りな金属音を立てる。

クソッタレ。
相変わらず重い攻撃だ。

両手で握って振り回すように叩き付けて、ようやく、弾き飛ばされずに済んだ。

だが、

「こっからは俺のターンだっ!!」

振り上げたアルギュロスをぶん回す様にして、左から右へと斬り付ける。

「ぬっ!」

左手の手甲で俺の攻撃を受け止めるザフィーラ。

斬撃が止められるのならば、突きだっ!

アルギュロスを引き戻して、右手でフェンシングの様に突きまくる。

ザフィーラは即座に障壁を展開して、俺の突きを凌ぐ。

ガリッ、と嫌な音がして、アルギュロスの光刃がザフィーラの障壁に食い込んだ。

ザフィーラに驚きの表情が浮かぶ。

「へっ、
アルギュロスは出力特化型デバイス!
魔力さえあれば、コイツに穿てない物は無いっ!!」

【Lightning Buster OverDose!】

光刃を解除して射撃体勢を整えると、即座にアルギュロスが術式を展開した。

ライトニングバスター・オーバードース。

オーバードースを日本語に訳せば、過剰摂取。
つまり、ライトニングバスターを意図的に過剰魔力ぶち込んだ状態にしちまうって寸法だ。

発射までのタイムラグが出るが、この威力は侮れねぇぜ!

アルギュロスのトリガーを引くと、ザフィーラは銀の閃光の向こうに消えた。

 

 

 ◇ はやて ◇

 

 「ザフィーラ!!」

フラットちゃんの攻撃に飲まれたザフィーラ。

ザフィーラの立ってた場所から、もうもうと煙が立ち昇った。

あかん。
あんなの無事に済む訳無いやんか!

「なんて事を、
フラットちゃん!」

「そう怒んな。
非殺傷設定だって言っただろ?
死なねぇよ、精々気絶するぐらいさ」

私に振り返って肩をすくめるフラットちゃん。

「でも、
先に殴りかかったのはザフィーラやけど……」

私がそう言った時、煙の向こうから声が聞こえた。

「心配無用です、主はやて。
俺は、盾の守護獣。
……主を前にした俺に、敗北の二文字は無い!」

煙から姿を現したザフィーラの両腕から、プスプスと煙が上がってる。

それでもザフィーラは痛そうな素振りも見せずに構えを取った。

「けっ、
オーバードースでも倒しきれんか。
んじゃ、
もう一段レベルを上げなきゃな、アルギュロス?」

【了解ッス。
Lethal Dose,Reday】

フラットちゃんの拳銃が答えると、良く分からん私にも危険やと判るくらいの魔力が凝縮されるのを感じた。

フラットちゃんの足元に大きな魔法陣が広がり、拳銃には幾つもの魔法陣が絡み合って大きな大砲の様になった。

「ザ、ザフィーラ!!
アカンって!
早よう、逃げっ!!
私は大丈夫やからっ!!」

「大丈夫です、主はやて。
貴女は、
俺が、
守りきるっ!!」

ザフィーラが吼えるように言うと同時に、ザフィーラの足元に大きな魔法陣が広がって、
正面に沢山の青い透明な盾が作られた。

その内の三つほどが私の前に飛んで来て、私を守る様に陣形を取る。

「はっ!
俺の砲撃が勝つか、テメーの盾が勝つか!
……勝負だっ!!
ライトニング・バスターッッ!リーサル……」

アカン、私じゃこのケンカを止められへん!
誰か……、
誰でもエエから、止めて!!
私、こんなん嫌や!!

『ちょっと待ったーー!!』

と、私の祈りがどこかに通じたのか、
フラットちゃんの側に浮かび上がった魔法陣から女の人の声が響いて、一触即発な雰囲気が止まった。

『フラットちゃん!
緊急事態だよ!
なのはちゃんとフェイトちゃんが音信不通になっちゃったの!!
直ぐに二人が向かった土地に転移させるから、そこの戦闘は切り上げて!!』

「……なにぃっ!?
だが、アイツから闇の書を取り上げたらこの事件は解決しちまうだろうがっ!!
武装隊の連中はどうした!
遊んでる訳じゃないんだろっ!!」

『もちろん、武装隊の全力で捜索させてるよ!
でも人手が足りないのっ!!
フラットちゃんクラスの魔導士1人で武装隊20人分の働きが出来るんだよ!
闇の書は確かに惜しいけど、
あの二人が通信も出来なくなるほど消耗するなんて異常なの!
急いで!
早くしないと、二人の命にも関わるんだよっ!!』

ちっ、と苦虫を噛み潰したような表情になったフラットちゃんが、銃ごと私に振り向いて言った。

「おい、はやて!
今、闇の書を持ってるのなら直ぐに渡せ!!
そしたら、誰もこれ以上傷付けない!」

「えっ!?
あ、
……う、……」

「早くしやがれ!
持ってるのか、持ってねぇのか!!」

唐突なフラットちゃんの言葉に反応できなくなった私にフラットちゃんが怒鳴る。

慌てて私は、首を左右に振った。

私は普段、闇の書を持ち歩かない。
家の机の上にいつも置いてある。

「ちっ、
元々空振りだったのかよ。
……、
忠告だ、八神はやて!
闇の書の暴走に気を付けろ!!
詳しくは知らないが、所有者にしか制御出来ないとかいう話だ!」

鬼気迫る表情で言ったフラットちゃんが魔法陣に「早く転送しろ!」と叫ぶと、あっと言う間にフラットちゃんの姿は消えてしまった。

……、

……、

……。

目にも止まらん急展開に目を点にしてると、ザフィーラが私に近寄ってきて尋ねてきた。

「お怪我はありませんか、主はやて?」

「え?
ああ、うん。
私は掠り傷一つないで?
っていうか、ザフィーラの方が大変やん!」

ん?
って表情で自分の両腕を見たザフィーラが笑った。

「ああ、この程度。
唾を付けていれば直ります」

唾って、子供やないんやから……。

って、あれ?
なんか大事な事忘れてるような……。

「あ、
っていうか、シャマル!」

「?」

「後ろのガードレールの影にシャマルが倒れとる!
頭ぶつけたんや!
早く様子、見たって!!」

即座に反応したザフィーラがシャマルを見つけて、具合を調べた。

「……ふむ。
異常は……無いな。
気絶しているだけです」

「……よかった〜。
シャマル、フラットちゃんに吹き飛ばされてな。
そん時にガードレールに頭ぶつけたんや」

「なるほど。
あの強敵を相手に、自分が来るまで時間を稼いだのか……。
それでこそ守護騎士というものだ」

シャマルを抱き上げて、ウムウムと頷くザフィーラ。

「あの強敵」?

やっぱり、ザフィーラ達は私を無視して、要らん事してるみたいやな。

私は車椅子のコントロールレバーを操作して、ザフィーラの側まで近づいた。

「なぁ、
ザフィーラ?
私、
ちょ〜〜っと、知りたい事があるねんけどな?」

ニッコリ笑ってザフィーラを見上げたら、
ザフィーラが「ヒィッ!?」と、顔を青ざめて震えだした。

む、失敬な。
私の笑顔を見て怖がるなんて、あんまりやで。

「とりあえず、
家に帰ってから、
ゆ〜〜〜〜っくり、
お話しような?」

コクコクと黙って頷いたザフィーラをお供に、私は家に帰った。

そんで、ザフィーラから詳しく話を聞いていると、
シグナムとヴィータがボロボロになって帰って来た。

「……ひょっとして、
シグナムとヴィータも私の約束を破ってたんやな?」

「「ひっ!?」」

二人の表情が青ざめる。

「ザフィーラ……。
アカンやんか。
私に、また、嘘を教えたんか?」

「い、いいえ!
主はやて!
貴女は俺と御自身に関する事のみを聞いていらっしゃって……」

「だまりぃっ!!
私が至らん時は、周りの者がちゃんと支えるのが家族やろがっ!!
私をコケにした罪は重いでっ!!
とりあえず、知ってる事全部、話すんや!!
……
シグナム!
ヴィータ!」

「「はいっ!!」」

「二人とも、何を呆けとんや。
早よぉ、席につかんかい。
洗いざらい、全部話すまで放さへんからな?」

私が微笑んでそう言うと、
シグナムとヴィータが凄い勢いで、いつも使っている席に背筋を伸ばして着席する。

と、その状態でヴィータが恐る恐る右手を上げた。

「ん、
どうしたんや、ヴィータ?」

「あ、あの〜、
晩御飯は?
アタシ、お腹空いちゃったんだけど……」

遠慮半分、期待半分といった雰囲気のヴィータ。

私はヴィータにニッコリ笑って答えた。

「無しや」

「「「えっ!?」」」

私の言葉に愕然とする三人。

「有る訳無いやろがっ!
皆からちゃんと話を全部聞くまで、ご飯は無しやっ!!
……、
安心せぇ。
お話が終わったら、ちゃんと用意したげるからな?」

判ったら早く話すように、と威圧する私。
家族の中では、食事を管理するものが権力者。

八神家のヒエラルキーは私が握っている。

つまり、お母さんは強いのだ。

……、

そうこうしている内に気絶していたシャマルも目が醒めて、
ヴォルケンリッターの四人から詳しい話を聞く事が出来た。

あまりに話が長引いたので、途中でオニギリを作って、
大皿に積んだオニギリを皆で分け合って食べた。

最初の内は怒ってた私やけど、途中からは普段しない夜更かしとかしてて楽しかったのは秘密。

結局、その日は徹夜になった。
























 第4話 完













  あとがき


 断食でゴザル(挨拶)。
はい、毎度お待たせしました。TANKです。

今回、よ〜〜やく、はやてを話に出せました。

A’sのメインヒロインは間違いなく彼女だと思います。
自分は神戸者なので、本編のはやて嬢の京都弁風や本場の河内弁のような雰囲気は出ませんが、それっぽい感じで勘弁です。

え?……この作品じゃフェイトの活躍が多いって?
そういや、ナチュラルにフェイトのカッコイイシーンが増えてますね。

なのははその影響で今ひとつ活躍し切れないし、フラットはなんか三枚目って感じだし。

まぁ、フラットはそれでいいでしょう。フラットだもの。
ちなみに、コヤツめはいつもコートの前を全開にしています。
なんでも、前を全部止めると動きが鈍るし、ベルトの道具が取り出しにくくなるからとか……。

なのはの場合は今ひとつ、彼女らしさを演出出来ないのが頭痛いです。
全力全壊はもうちょっと先でって事で。

上手にキャラクターを動かしたいですね。

ヴォルケンリッターの四人も後手後手に回る対応ばかりですし、今回もあんまり良いトコ無し。

でも、次回はヴォルケンズによる反撃が始まります。

彼女等の不遇っぷりに不満を抱いていた方は喜んでいただけるかも。


次回!

「強襲、叢雲の騎士団!」

なのはとフェイトが倒れ、クロノとアルフは未だ全快には程遠い状況で、フラットはヴォルケンリッターと遭遇。

一対四の絶望的状況の中、フラットは思いつきで作った道具を駆使して健闘するがどうしても勝つ事が出来ない。

そんな中、この事件において一番最初に倒れた少年が立ち上がった。

加速する戦闘。

ついにはアルギュロスのフルドライブフォームがその姿を現すが……。


どういう結末になるかは、作者にもわかりません(爆








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代理人の感想
今回ふと頭に浮かんだフレーズ。

とっとこグレハム太郎。

・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。

あー、まぁ、それはさておき。「グレハム」ではなく「グレアム」ですな、あの紳士は。
修正しておきましたがお気をつけて。

それはさておき非常に派手になった今回の戦闘。
奥の手を全開陳しちゃって、クライマックスは一体どーすんだろ。w
M500最終形態をそこで出すかと思ったらそっちは次回出すっぽいし。
どーなるんだか。w



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