◇ ???? ◇

 

「……予想外の事態も起きたけど、あと少しで計画は最終段階ね」

静かな部屋に、鈴の音を彷彿とさせる声がゆっくりと染み渡る。

「あのコまで生贄にする羽目になるとは思わなかったけど……」

向かい合うようにして座っているもう一人が口を開いた。

「……そうね。
でも、そのお蔭で私達の邪魔をされずにすみそうだし、悪い事ばかりじゃないわ」

「才能無い癖に頑張るからねぇ、クロ助は」

「努力も才能よ。
クロノは、クライド君とは違った才能を持ってる。
まぁ、まだこれからだけど」

「まだまだ、お子ちゃまだからね〜」

「とりあえず、第97管理外世界に派遣された管理局の魔導士の内、
AAA級でリンカーコアを蒐集されて無いのはあと一人」

「彼女のコアも蒐集されれば、闇の書は目覚める」

「足りなければ、ヴォルケンリッターの四人と……」

「私のリンカーコアを使ってでも起動させる」

「そして、
この切り札で、闇の書の全てを止める」

話をしていた片方が懐から一枚のカードを取り出した。

「……すまんな。
お前達には、苦労ばかり押し付けている」

二人の会話が一段落ついたところで、私は彼女等に声をかけた。

「苦労だなんて!
私達はそんな風に思ってません」

「そうですわ、お父様。
これは私達の意思でもあるんです」

「しかし、お前達の手を犯罪に染めさせ、
共に戦うべき同胞を傷つけ、
さらに、罪の無い少女を煉獄に突き落とす事になる。
……全ては、私の責任だ」

「仕方ないです。
管理局の人手不足が深刻すぎて、私達ですら闇の書に関するデータを収集しきれなかったんですから」

「忙しい合間を縫って、
このデュランダルを完成出来ただけマシです。
お父様でなければ、闇の書の所在を掴めていても、また転生させるだけだったでしょう」

「ふむ、
確かにな。
彼女、闇の書の現所有者を発見できたのは僥倖だったといえるだろう。
他の手段がとれるなら幸いなのだが……、
アレは古代ベルカ魔法技術の結晶とも言えるロストロギアだ。
今のミッドチルダではアレにアクセスする事すら難しい。
聖王教会の保有する技術はミッド式でベルカ式をエミュレートしているだけだしな」

「まぁ、エミュレートのソースコードが有れば、解析の強力な手助けになるのですが……」

「基本的に聖王教会は管理局と仲が悪い上に、
聖王教会の近代ベルカ式は連中の虎の子だものね……。
個人的に教会騎士と仲の良い局員もいるけれど私達はそうじゃないし、この計画を漏らす訳にもいかないからなぁ……」

「……もはや手に出来ない物を嘆いても仕方あるまい。
時は満ちようとしている。
かつての悲劇を繰り返さない為にも、
……頼むぞ、お前達」

「「はい、お父様」」

私の可愛い使い魔であるリーゼアリア、リーゼロッテが席を立ち、部屋から出て言った。

私はソファーに深く腰を下ろし、
机の上に置いてあった封筒から一枚の写真を取った。

その写真には5人の多彩な顔ぶれがあった。

中央の八神はやてを囲む、4人の騎士達。

皆、笑顔だ。

これから私がその笑顔を全て刈り取ってしまう。

「すまない……。
だが……もう、クライドの二の舞は……したくないのだ。
闇の書が、誰にも手を付けられない以上、
君ごと、闇の書は凍結封印する……」

悪をもって正義を成す。

いや……私が行なう事はそんな綺麗なモノではない。

所詮、私の私憤にすぎんのだ。

……。

「どうして、こんな事になってしまったのだろうなぁ。
何の罪もない少女を永久の牢獄に突き落とし、
希望とやる気に満ちていた少女達と、幼い時から見守ってきた後輩の息子すらも犠牲にして。
……だが、
そうであるからには必ず、闇の書の暴走を止めてくれる。
時間が稼げれば、
いつかは闇の書を完全消滅させる手立ても……。
いや、私……ギル・グレアムの全てをかけて、
かならず、
消滅させてみせる」

写真の人物達は何も変わらず、私へと微笑みかけていた。


 

 

魔法少女リリカル☆なのは 二次創作

魔法少女!Σ(゚Д゚) アブサード◇フラット A’s

第5話 「強襲!叢雲の騎士団(ヴォルケンリッター)!!」

 

 

 ◇ フラット ◇

 

 ドック入りから帰ってきた、久し振りのアースラ艦内。

その会議室は、元々の光量の少なさ以上にドンヨリとした空気が漂っていた。

「……、
まさか、なのはさん、フェイトさんの両名まで倒れる事態になるなんて想定して無かったわ。
向こうの戦力はそのままだし、闇の書の完成は秒読み段階ね」

リンディが溜息を吐きながら現状を一言で言った。

「ううっ、
……御免なさい」

全力で会議室の雰囲気を重くしているエイミィが凹みつつ謝る。

「戦力を分散したのは、明らかな失策だった。
でも、
あの時点で守護騎士達の目的が判明していなかった以上、各個撃破しようというのは間違った選択では無い。
問題は一騎打ちを望んだアイツ等にもある。
それに、あの仮面の男だな……」

静かにエイミィを慰めるクロノ。
自分がこの状況に一切関われなかったという事で、自責の念が垣間見える。

「……その仮面の男なんだけど、
調べて見たら、何だか変なんだよ。
仮面の男が現れる瞬間に、そこの空間を監視していた全システムがいきなりフリーズしたの。
その所為で、一切のデータが取れなかったんだ。
一度だけなら、こちら側の不手際かもしれないけど、
前回の戦闘でも起きてるから明らかに向こう側の意図的な妨害だよ。
なのはちゃんとフェイトちゃんの現在位置が急に判らなくなったのもその所為なんだ」

エイミィがその時のシステム稼動履歴を表示させながら説明を始めた。

「……ふぅん?
いきなり、なんの予兆も無くフリーズしてるな。
良く分からんが、コンピュータウイルスを打ち込まれた形跡とか、クラッキングの形跡は?」

俺に判る範囲では、どうやらこのフリーズは何らかの故障や攻撃による物ではないみたいだ。
話によると情報を盗み見るまではハッキング、情報やシステムを破壊するのがクラッキングらしい。

「無いよ、フラットちゃん。
正に、何の予兆も無くフリーズしたんだよ」

「……まるで、誰かがシステムを停止させたみたいに……ね」

エイミィの言葉を引き継いで、リンディがゆっくりと口を開いた。
リンディの顔は青ざめていた。

「まさか!
管理局のシステムを外部から停止させるなんて不可能だ!!」

クロノが立ち上がって吼える。

「でも、内部からなら……出来ない事は無い」

クロノを諌める様に、静かな声が響いた。
俺は初対面となったグレアム提督の使い魔リーゼアリアの言葉だ。

ここで、この会議室に居るメンバーを紹介しておこう。

まず、アースラを統括する提督、リンディ。

執務官であるクロノ。

その補佐であり情報管制官でもあるエイミィ。

嘱託魔道士の俺、フラット。

同じく嘱託魔道士のフェイト……の使い魔、アルフ。

そして、臨時のアドバイザーとしてアースラに顔を出したグレアム提督の使い魔、リーゼアリアとリーゼロッテ。

この7人だ。

フェイトとなのはの二人は本局の医務室で安静にしている。
なんせ襲撃から一日しか経ってないからな。

幸い、フェイトとなのはの容態はリンカーコアを抜かれた事による一時的な魔力の枯渇症状以外無し。
二人の第一発見者は結局、俺だった。

「まさか、管理局内部に敵が!?
でも何故だ!?
闇の書みたいな扱いに困る物に手を出す意味が判らない!」

「むしろ管理局に熟知した敵かもねぇ」

困った雰囲気のリーゼロッテが立ち上がったまま吼えるクロノに言う。

「……だとするなら、
仮面の男は、かなり大きな組織のバックアップを受けている可能性があるわ」

目線で座れとクロノに指示したリンディ。

「なるほど。
それなら、あの神出鬼没ぶりも納得出来ますね」

ふむふむと頷くエイミィ。

「と、言う事はアースラに居る武装隊はその組織のあぶり出しに使うしかないか。
フラット。
そうなれば、しばらくの間、君は独りで行動する事になる訳だが……」

着席して、俺に向いたクロノが言う。

「ハッ、
元から俺はソロ・プレイヤーだ。
下手に支援を受けても、まともに戦えねぇよ」

俺は肩をすくめて言い返す。

『……ところで、今までの捜索で判った事の報告をさせて貰ってもいいかな?』

そこで会議室のスピーカーから声が流れた。
会議室中央の机に展開した画面にユーノの姿がある。
無限書庫に居るユーノも通信でこの会議に参加していたのだ。

「ええ、お願いするわ」

『……こほん。
それでは……』

リンディの言葉を受けて、ユーノが語り始めた。

判った事は数点。

闇の書は、本来『夜天の書』と呼ばれる情報集積型ユニゾンデバイスであったと言う事。

永きに渡る運用の中、様々な改変が加えられているらしく、
もはや元のシステムは跡形も無い事。

暴走するのは無数の改変プログラム同士が競合した結果だろう事。

トドメにプロテクトが強固な上、古代ベルカ式の術式は特殊で現在では容易にアクセス出来ない事。

『……と言う所です。
おそらく、夜天の書にアクセス出来るのは管理者権限を有する所有者だけでしょう。
古代ベルカ式の術式コードが判れば、夜天の書のバグ取りを行なって暴走を食い止める可能性も出て来るんですが……』

お役に立てなくて申し訳無いといった雰囲気のユーノ。

「ありがとう。
闇の書、もとい、夜天の書の現状がわかっただけでも収穫だわ。
それに……、
ベルカ式については、少しツテがあるの。
上手くすれば術式コードが手に入るかもしれないわ」

リンディがユーノに微笑んだ。

「……ベルカ式……、
まさか、聖王教会っ!?」

「その通りよ、クロノ。
懇意にしている騎士が聖王教会にいるの。
交渉次第だけれど、上手くすれば近代ベルカ式のソースコードを教えてもらえるわ。
近代と古代じゃ別物だけれど、元は同じ。
何も判らない状態より、よほど良い筈よ」

再び驚いたクロノと落ち着いて説明するリンディ。

皆はリンディの言葉に納得したが、俺には判らない。

「聖王教会ってなんだ?」

俺の言葉に呆れた顔をするクロノだが、ふと気が付いて真面目に答えてくれた。

「そうか、君はミッドの事情を知らないんだったな。
聖王教会というのは、太古に滅んだベルカの文化、技術を保存しようという宗教組織でね。
彼等自身も保存した技術を運用しているんだ。
ミッド式をベースにベルカ式の魔法をエミュレートした近代ベルカ式はかなりの戦闘力を誇るとか……」

「ふ〜〜ん、
機会があったら、やり合ってみたくはあるな」

「まぁ、彼等は少数の組織だし、あんまり表に出てこないからその機会は無いと思う。
しかし君もなんだかんだで、なのは達の影響を受けてるんじゃないか?
前までの君なら「面倒臭い」の一言で逃げてただろうに」

俺の言葉にニヤリと口元をゆがめたクロノ。

「さぁな、案外コレが俺の本性かもよ」

俺もクロノに笑い返す。

と、そこでパンパンと手を叩く音が響いた。

「雑談はそこまでよ。
今後の行動を通達します。
クロノ執務官は武装隊を指揮して正体不明である仮面の男の動向を掴む事。
エイミィ執務官補佐は私が入手してくる近代ベルカ式のソースコードをベースに古代ベルカ式の解析準備。
ユーノ君は引き続き、無限書庫で情報の探索を。
フラット嘱託魔導士は海鳴市で待機。
アルフさんは、フェイトさん達に付いていてくれるかしら?」

リーゼ姉妹は私の管轄外だから……とリンディが指示を下す。

名を呼ばれた全員が返答し、又は頷いて答えた。

話はこれまで、と皆が立ち上がった。

と、ソコで俺はエイミィに声をかけた。

「ほぇ?
どうしたの?」

俺から話しかける事は少ないので驚き顔のエイミィ。

「幾つかデバイスの運用で相談がある」

「ふんふん、
それじゃ〜聞きましょう」

俺の言葉に面白そうな空気を掴んだエイミィが真っ直ぐ俺を見つめ返した。

「まず、な。
さっきのプログラムの話で思いついたんだが、戦闘中に相手のデバイスをクラッキングとか出来ないか?」

「ん〜?
難しいよ。
基本的にデバイスは所有者以外にはアクセスしにくい構造になってるから、
よほど気を抜いた時くらいしかクラッキングのチャンスは無いだろうね。
しかも、インテリジェント・デバイスは高度AIを保有してるから生半可なクラッキングなんかしかけたら、
逆にやり返されるよ?」

「ふ〜〜ん、
じゃあ、コンピュータウイルスのような物で動作停止コードを発信出来ないか?」

「それはワームの管轄だね。
でも、どちらにしろ知性を持ってるデバイス相手には通じないよ」

「……ふむ、ストレージ・デバイスには通じるかもしれない……と。
あ、
話は変わるが、デバイスコアの欠片とか余りとか無いか?」

「本局の技術部になら、文字通り捨てるほどあると思うけど……。
なんに使うの?」

「思いつきの新兵器にな」

「……?
あんなのに使い道なんて無いと思うけど、アースラなら直通で本局に行けるよ。
後で技術部にフラットちゃんが来る事を伝えとくね」

「おう。
ありがとう」

俺はエイミィの言葉に頷いて、会議室から出た。

さて、
せっかく本局に行くなら、技術部に行ったついでにフェイト達の様子でも見てやろうかな。

 

 

 ◇ はやて ◇

 

 徹夜して日の出を拝んだ後、スイッチが切れたように寝てしまった私。

目が覚めたら午後一時を回ってた。

「あ、
お昼作ってないやん!!」

布団をはねのけるように上半身を起こす。

「あれ?
私、車椅子に乗ったまま寝たような記憶が……」

気が付いたら自分の部屋のベットの上。
車椅子はベット脇の定位置。

きっと、シグナムかシャマルがベットまで運んでくれたんやろうな。

こういう些細な事に、家族が居る喜びを覚えてしまう。

「……って、お昼作らんと!」

身だしなみも整えないまま、車椅子に乗る。

そして、
コントロールパネルの加速スイッチを押して、車椅子の出る全速でリビングに突進する。

ちなみに、この車椅子は最高時速8キロを誇る特注品や。
動力は電動。
なんでも、どーこー法によると時速10キロ以上は車両扱いで、実質9キロ以上はアウトなんやって。
最近はパラリンピック用のスポーツモデルや、オフロードモデルや、階段すら乗り越えられる可変4WDモデルもあるらしい。

技術革新は全ての人に遊び心を与えてくれるんかもしれんな。

そんな訳であっと言う間にリビングにたどり着く私。
ん〜、ドリフトが出来れば後0,1秒は縮むかなぁ。

「主はやて、
お目覚めになりましたか」

「おはようございます。
ゆっくり寝れました?」

「おはよ〜、はやて」

「おはようございます」

上から、ソファーで新聞に目を通していたシグナム、
キッチンで食器を洗っていたシャマル、
テーブルで眠たそうにしているヴィータ、
窓際で狼形態で横になっているザフィーラが私に挨拶してくれた。

「おはよ〜皆。
お昼は済ませてしもたん?」

「はい。
先に頂きました」

「はやてちゃんの分も用意してありますよ」

私の質問に頷くシグナムと、
テーブルの上にラップに包んで置いてあった皿を電子レンジに入れて暖め直すシャマル。

「……そっかぁ」

「あ、
ゴメン、はやて!
はやてが起きるまで待つべきだったよな!!」

私が頷くとヴィータが慌てて謝りだした。

「へ?
いや、別に普通に食べてて問題ないけど?」

「……でも、
今のはやては、なんだか寂しそうだったから……」

「あ、
ううん、私がお昼作られへんかったんが残念やな……と。
そういえば、誰がお昼作ったん?」

「はい!
私です〜〜!」

私の質問に答えたのはシャマル。
同時に電子レンジがベルを鳴らして、暖め終わった事を教えてくれる。

私がテーブルの定位置に付くと、シャマルが食事の用意を済ませてくれた。

「シャマルの料理か〜。
なんだかんだでシャマルの料理は初めてやな〜。
いただきま〜す!」

自分で判る位、ニコニコとシャマルの料理に箸を付ける私。
でも、シャマル以外の皆はなんだかテンションが低い。

なんでそんな可哀そうな人を見る目つきで私を見るん?

と、思いながら野菜炒めを口に運ぶ私。

……うっ……。

「どうですか〜?
今日の野菜炒めは結構良い出来だと思うんですよ〜♪」

一人ニコニコのシャマルが味の評価を求めている。

「……、
そうやね、
………………、
……………、
…………、
あ……、調味料の使い方を工夫したら、もっと良くなるかもしれんなぁ〜」

なんとも評価し辛い味の野菜炒めだった。

強いて言うなら食べれるけど何かが足りない感じ。
なんか幼い頃、初めて料理してみた時の失敗作よりは食べられるんやけど……。

「なるほど、調味料ですか。
さすがはやてちゃんです」

うむうむ、と頷くシャマル。

他の3人は同じ物を食べた人間にしか判らない共感を浮かべていた。

そっか、
皆、コレ食べてんな。

思わずホロリと一粒の涙が零れる。

「ん、
そうやシャマル、今度一緒に料理作ろうか。
シャマルがおったら、私じゃ手が出せん料理も出来そうやからなっ」

「あ、良いですね。
その時は色々教えてください!」

両手を合わせて喜ぶシャマル。

ふと、シグナム、ヴィータ、ザフィーラを見たら、
3人揃って「グッジョブ!」という表情でサムズアップしてた。

私は「まかせぇ」と返答のサムズアップをした。

で、
サクサクっと食事を済ませて、お茶の入ったコップ片手にリビングで相談タイム。

「さて、
とりあえず、大体の概要を聞かせてもらった訳やねんけど」

私がそう切り出すと、皆がピクリと反応した。

「……なに怯えとん。
もう怒らへんって。
皆、私の為に動いてくれたんやからな」

私の言葉にホッと一息つく四人。

「でも、事が終わったら私等、皆で自首やで?
悪い事したら、ちゃんと罪を償わなあかんねんからな」

「「「は?」」」

「……な、
なに言ってんだよ!
自首するのはアタシ等だけだよ!はやては悪くない!!」

「いいや、
これは私の責任や。
ええか、ヴィータ。
主ってのは責任者や。
責任者ってのは、自分の部下のやった事の責任取らなあかんねん。
自分がやった事や無くとも、真っ先に頭下げるから責任者なんや。
それが出来へん奴が、主なんて言ったらあかんねんで?」

これでも私は一人で生きてきた。
勿論、石田先生やグレアムおじさんの助けが無ければ生きてこれなかったやろうけど。

でも、だから責任の所在って奴がなんとなく判る。

「しかし『事が終わったら』と言う事は、
主はやてはリンカーコアの蒐集を完了させるおつもりですか?」

私の答えに口を噤んだヴィータに変わってシグナムが問い掛けてきた。

「うん。
ぶっちゃけ、後少しで完成なんやろ?
流石に私も人生謳歌せずに死にたかないし」

「まぁ、リンカーコア抜かれた人がちょっとの間、不便になってまうのは勘弁や」と軽口を言う私。

私の言葉にホッと安心する四人。

どうやら「私が死ぬとしても悪い事はしたらあかん」と強行される事を恐れてたみたいやな。

「私を見くびってもらったら困るで?
それに、
私が死んだら闇の書は別の人の元に転生するんやろ?
ヤンチャな皆を他所の人に預けて困らしたらあかんしな〜」

ニコニコと言う私に皆がなんとも言えない表情を浮かべる。

「困らす言うたら、
闇の書が完成したら暴走するって話、言われたんやったっけな。
……あの物騒な女の子に」

銀色の髪と赤い目、攻撃的な笑顔が印象の女の子。
髪と同じ銀色の巨大な拳銃を軽々と構えてシャマルを倒し、ザフィーラと戦った。

たしか、フラットちゃんって名前やったな。

「……管理局の連中の話を鵜呑みには出来ねぇ」

なぜかムッツリと機嫌を損ねたヴィータが言う。

「だが、無視するにはデータが揃いすぎている」

躊躇いがちにいうザフィーラ。

「少なくとも我等ヴォルケンリッターにとって、
闇の書が暴走するなどという話は寝耳に水も良い所の話です」

つとめて冷静で居ようという雰囲気のシグナム。

「はやてちゃんの命が関わってる以上、
リンカーコアの蒐集をしないなんて選択肢は無かったんだけれどね」

困った表情のシャマル。

「ん〜〜?
そういやフラットちゃんが去り際に、闇の書を制御出来るのは所有者だけだ〜、
みたいな事を言ってたな。
ん、悪いんやけど誰か闇の書、取って来てくれへん?」

「あ、
ココにあるぜ」

私の言葉に即座にヴィータが反応。

ドサリと、机の上に鎮座する闇の書。

「……、
……、
……なぁ。
なんで自分、勝手に闇の書持ち歩いとるのん?」

ジロっとヴィータを見るとヴィータが凄い慌てた。

「ひぃっ!?
だってリンカーコアの蒐集に必要なんだって!!」

おっと、何でか知らんけど急に腹が立ってしまった。
「ゴメンゴメン」と顔面蒼白のヴィータに謝りつつ、闇の書を手に取る。

「私も大人しいこの子が暴走するとか考えたないけど、
だからって見過ごすのも間違ってるもんな〜」

闇の書の表紙をなでる私。

「……で、どうやって制御するん?」

そういや私、魔法の事な〜んにも知らないんだった。

「……え〜っとですね」

「どうやって説明したらいいかしら」って雰囲気のシャマル。
他の3人は「説明パートは自分達の出番じゃないや」とシャマルの発言を待っている。

「ええっとですね、
ブッチャケると、デバイスの方で気を利かせて対応してくれるのが一般的なんですが……。
現在の闇の書は半分寝てるようなモノなので、こちら側からシステムを立ち上げないといけないんです」

「ん〜?
それってつまり、
お風呂上りでウトウトしているヴィータの手を引っ張って寝室まで連れてったげる感じ?」

「ちょ!?
なんで例えがアタシなんだよっ!?」

「ナイス例えです、はやてちゃん!」

いきなりの私の発言に顔を赤くして抗議するヴィータと親指を立てて笑うシャマル。

「ん〜、流石の私も手の無い闇の書を引っ張ったげる事は出来へんなぁ。
とりあえず、一緒の布団で寝る所から始めよか?」

「いや、いくらなんでも……」

シャマルが苦笑して言いかけた所で、シグナムが右手を上げた。

「待てシャマル。
案外、良い方法かもしれん。
本来ならば我等が主はやての手助けをするべきだが、
我々は闇の書の使役システムであるが故に上位システムである管制ユニットにアクセス出来ない。
よって、主はやては独力にて管制ユニットとコンタクトを取らねばならない。
だが、
魔導士としての教育を受けていない主はやてに、それは不可能だ」

「しかし、
睡眠中であれば、夢を通じて管制ユニットと擬似通信が出来るかもしれない……と言う事か」

シグナムの言葉を引き継いだザフィーラが結論を告げる。

「なるほどな〜。
話が通じたら、後は管制ユニットが問題点を処理するって訳だな」

ふむふむ、と二人の話に頷くヴィータ。

「でも、
闇の書が完成に近づけば近づくほど条件が良くなるのは変わりませんね」

「結局、リンカーコアの蒐集は続けざるをえないな」

シャマルとシグナムが頷いて言う。

「理想は完成間近ではやてが管制ユニットと話つけられるって形か?」

うむむ、と顎に手をやるヴィータ。

「そうだな。
俺は闇の書が完成し、自動的に起動してしまえば暴走になると睨んでいる」

「ん?
どういう事?」

ザフィーラの言葉に私が尋ねると、ザフィーラがしばらく言葉を選んだ後に話し始めた。

「……少なくとも、自分は闇の書が本格起動する場に立ち会った記憶が無い。
あったのかもしれないが、今は思い出せない。
で、あるのなら、
我々守護騎士システムは闇の書の起動と同時に機能停止すると仮定出来る。
だが、
自慢ではないが、我等守護騎士は使えるユニットだ。
主が闇の書を統括出来ているのなら、先兵として盾として運用しようとするはず……」

「……確かに私にもその記憶は思い出せない。
ともかく、
で、あるのなら闇の書がまず行なうのは主を行動不能にしてしまう事だと?」

「なるほど、
そう考えたら幾つかの疑問がスッキリします。
そもそも、
かならず暴走し、いくつもの次元世界を崩壊に導いてきた事、
それ自体がおかしいですもの。
主が闇の書の制御に失敗するという可能性はありますけど……、
でも、
闇の書は魔力資質に優れた方を主に選びます。
だから、かならず暴走するなんて有り得ないです」

ザフィーラの言葉に頷いたシグナムとシャマル。

「ん〜〜?
闇の書が主の事無視して暴れるっていう事なんかな?」

「いいや。
もっとヤベぇ。
皆の推測通りだとすれば、闇の書が目覚めて真っ先に狙うのは、
……はやてだ」

私の疑問にヴィータが答える。
私の顔を真っ直ぐに見据えるヴィータは凛々し……いや、やっぱ可愛いな。

「え、
なんで?
私なんか攻撃しても、意味無いで?」

青ざめた表情の皆を前に、唯一人この話に脅威を感じへん私は普段通りに質問した。
だって、私は魔法も使えん唯のガキやもん。

闇の書が私を選んだ以上、私にも才能はあるんかもしれんけど。

「意味の有無では無いです。
おそらく、長年に渡る稼動によってシステムに何らかの不具合が起きているのだと……。
ああ、もうっ!
なんでこう、八方塞りなのかしらっ!!」

シャマルが頭を抱えて悩み出す。

「ん〜〜?
とりあえず話を整理すると、
一つ、
リンカーコアの蒐集を行なわなかったら、近い将来、私は死ぬ。
二つ、
闇の書はどうやら完成すると問答無用でヤンチャするらしい。
三つ、
でも闇の書を扱えるのは主である私だけで、なおかつ魔法を知らない私では闇の書にちょっかい出せへん。
四つ、
しかも暴走時、もれなく私等は身動き出来ない様になるっぽい」

指を一本ずつ立てながら話すと皆が頷いた。

「……まぁ、それで間違ってないです」

シグナムがコメカミを抑えながら頷いた。

「なんか言いたそうやな、シグナム」

「……いえ、何でも無いです」

「ふ〜〜ん?
ま、ええわ。
って事で、
今出来るんは、闇の書とコンタクト出来るように出来るだけ闇の書と一緒に居る事かな?」

「そうですね」

シャマルが頷く。

「それとリンカーコアの蒐集だ。
今の蒐集状況ならAAA級魔導士のが一人分で十分過ぎるだろ」

「忘れちゃ駄目だぜ」と、ヴィータが指を立てて言う。

「それほどの魔導士と言えば、
……フラット・テスタロッサか。
同格だった他の二人は既に蒐集済みだ」

「そうだな。
他の次元でリンカーコアを蒐集する手も無くは無いが……今は時間が惜しいか」

なぜか浅く笑みを浮かべたシグナムと、なにか不満そうなザフィーラ。

「ん〜〜。
……よっしゃ!
主として、ヴォルケンリッターの皆に命令を下します!!」

考えを纏めた私がそう言うと、皆が姿勢を正して私へと向き直った。

「まず、
最優先なのが、闇の書とのコンタクト。
やから、しばらくリンカーコアの蒐集はお休みや。
現状ではどうしようもないって結論が出るまで、皆には闇の書とコンタクトを取る為にアイディアを出してもらうで?
で、
どうしようもないって結論が出たら、フラットちゃんには悪いけど、
リンカーコアを譲ってもらおうか」

「「「「心得ました!我が主!!」」」」

四人が声を合わせて答えてくれた。

んふふ、なんか私、
騎士を従えるお姫様みたい。

「……あのぉ、それでこれからどうします?」

シャマルがオズオズと挙手。

「ん〜〜、
とりあえず、図書館行こか」

うん、ソレが良い。

と思ったら皆の意見は違ったみたいやった。

「主はやて!
それは危険すぎます!!」

「そうだぜ!
町中で敵に襲撃されたばっかじゃねーか!!」

「次が無事に済む保障は無い、主!!」

シグナム、ヴィータ、ザフィーラが一斉に立ち上がって言う。

「……その危険な戦いを勝手に繰り返してたんは誰やったかなぁ〜〜」

私がジト目で睨むと皆は渋々と着席した。

「ま、それに危険やからって一日中家に閉じこもってる訳にもいかへんしな。
傷つく事を恐れたら、何も出来へんで?
とりあえず、今日は図書館行って、帰りにスーパーよって買い物して帰ろ。
心配やったら、皆で一緒に行動したらええやん」

もちろん、闇の書も一緒にやで?

結局、皆は私の言葉に従う事にした。
八神家一同で集団行動したので、今日の買い物は大量に買い込めた。

しかし、
シャマル……不器用かと思ってたら手先は器用。
注意力も一応有るし、
レシピもしっかり覚えてる。

……じゃあ、なんであんな『何かが足りない味』になるんやろう……。

ひょっとして、味覚異常とか?
ううむ、謎や。

 

 

 ◇ フラット ◇

 

 教室のスピーカーから、俺にとって何となく気が抜ける感じの音律が流れる。
勿論、聞く人次第で違いはあるんだろうけどな……。

そういえば、イギリスのウエストミンスターとかいう名前の付いた塔の鐘の音色だとかいう話を何処かで聞いた気がする。

……ぶっちゃけどうでも良い話だが。

ともかく教師がホームルームを終わらせて、今は放課後だ。

正確には今、放課後になった。

「ねぇ、なのはとフェイトはいつ戻ってくるの?」

教室から出た瞬間、後を追ってきたアリサが俺に疑問の声を投げかけた。

「あ〜、
言わなかったっけ?」

「言って無いわよっ!」

俺の言葉を全力否定のアリサ。
アリサの隣に立つすずかも首を縦に振って肯定する。

「何もなかったら明日から来るぜ」

そう言うと、ほっと一安心する二人。

「なんだ?
また妙な心配でもしてたのか?」

俺がからかって言うとアリサがムクれて良い返す。

「なによ!
心配したって良いじゃない!!
友達だものっ!」

「フラットちゃんだって、
フェイトちゃんや、なのはちゃんの姿をいきなり見なくなっちゃったら心配するでしょう?」

アリサに続いてすずかの発言。

「ま、一応な」

この間の騒動で、エイミィに飛ばされた惑星で血相を変えて二人を探し回ったのは秘密だ。

探している内にいらない想像が膨れ上がってしまったのが原因だ。
その分、呑気に寝てる二人を発見した時は焦りが別の何かに昇華されて、
アルギュロスのフルドライブをブチかましそうになった。

ま、それは置いといて。

「ふんっ!
フェイトの代わりにアンタがアメリカに行きゃ良かったのに」

ムクれたままのアリサが言う。

ちなみに、今回のフェイトとなのはの自主休校の理由は「テスタロッサ家の用事」と言う事になっている。
法律関係の用事で、テスタロッサ家の人間が現地に行く必要があるって筋書きだ。
で、俺かフェイトのどちらかが行けばいいので、フェイトが立候補した事になっている。
なのはは見聞を広めるって名目でリンディとフェイトに付いて行ったって設定だ。

こんな無茶が出来るのもフェイトやなのはの成績が良いお蔭だな。

実際の二人は本局の医療施設からアースラの医務室へ移動。
二人とも既にAAA級の貴重な魔導士だから、
将来に禍根を残さない様、念入りに検査を受けていたりする。

コアを抜かれてから、一時的に居場所をロストしている事も念入りな検査の要因の一つ。

二人ともコアを抜かれてから一週間。

「もう、普通に魔力を扱えるようになっているから腫れ物扱いは止めて欲しい」
とは、なのはの発言。

フェイトもハッキリとは言わないが検査生活に結構、疲れているようだ。

毎日顔を見に行く度に愚痴を聞かされる日々も今日までか。
特にフェイトはシグナムと良い勝負が出来ていた場面を仮面の男に潰された形なので不満も一層だったらしい。

「ちょっと!
ちゃんと話聞きなさいよ!!」

物思いに沈んでいたら、無視されたと勘違いしたアリサが吼えた。

「んぁ?
おう、聞いてたぞ。
……ぶっちゃけ俺でもフェイトでも良かったんだけどよ。
フェイトが妙にやる気でなー」

……と、言う事にしておこう。
後で良い訳に困るかも知らんが、俺の責任じゃねーや。

「……まったく、
なのはもなのはよっ!
二人でアメリカに行くなら、私達も誘ってくれたって良いじゃない!!
なのに、なんで私達は置いてきぼりなのよ〜〜っ!!」

「まぁまぁ、
急な話だったから、いきなり旅行の話を持ちかけられても私達の都合が付かなかったよ。
冬休みか春休みに皆で旅行に行けばいいじゃないのかな?」

プリプリと怒りを発散させるアリサと、堅実に予定を考えるすずか。

「ふふふ、置いてきぼりを食らわせたなのはちゃんとフェイトちゃんは強制参加だから」
という声が聞こえた気がするが、気のせいだ。

と、二人と一緒に歩いて、気が付けば校門前。

校門前には黒塗りのリムジン。
その隣に黒スーツの爺さんこと鮫島氏が立っていた。

アリサとすずかの姿を確認した鮫島氏はリムジンの後部ドアを開く。

「ふぅ……、
そう言う訳でフラット!
なのはとフェイトには言う事が一杯あるんだから、明日はちゃんと連れてきなさいよ!!
それに、すずかの知り合った友達とクリスマスパーティするんだから準備始めてなさい!!」

ビシっと俺を指差していうアリサ。

「なんとか二人もパーティに間に合うみたいで良かったよ。
明日はクリスマス・イブだしね」

「明日は明日で遊ぶからよろしく」とすずか。

二人が対照的な挨拶をして車に乗り込む。

鮫島氏は俺に一礼して、運転席に乗り込んだ。

そして、3人の乗ったリムジンが静かに走り出す。

……相変わらず鮫島氏は燻し銀な格好良さだな。

歳を取るならああいう漢になりたいものだ。

うむうむ、と頷きながら携帯にイヤフォンの端子を接続する。

両耳にイヤフォンをセットして、携帯のMP3プレイヤーを起動。

曲を選んで再生開始。

イントロが始まって軽快な曲が流れ出す。

曲に合わせて歩調を取りながら、足は繁華街へ一直線。

今日もCD屋を覗いて、本屋で面白そうな本を探してそれからアースラに居る二人の様子を窺うとしよう。

歩いている内に気分が乗って来て、思わず聴いてる曲の歌詞を口ずさんだり。

「〜〜脳ミッソー、常に震わせて〜、
荒荒と運命にっそむ〜〜く。
も〜いちっどー、俺に生まれたっなら〜〜、
きーみーをー、ぶっ生きっ返すーーっ♪」

うむ、マキシマム・ザ・ホルモンは予想外にマイヒットだ。
CD屋で流れているのに気が付かなかったら多分、ずっとスルーだったな。

日本のロックバンドはもう絶滅危惧種かと思いきや、なかなかどうして良いバンドが居るじゃないか。

ラップなテイストやデスメタル系シャウトが入っているが、ここまで真面目に音楽してると文句の付けようが無い。
普通にカッコイイし、基本が軽めのメタルだし。

しかし、部屋で聞いてる時にフェイトが入ってきて、曲を耳にしたフェイトの顔が引きつったのが……。

「メタルはこんな色物ばかりじゃないですよ?」と説明するのにエライ苦労した。

……そういや、そろそろ『退院』出来るって話だし、なんか贈り物でも買ってやろう。

本屋の向かいにファンシーショップがあったよな。
ヌイグルミとか良いかもしれない。

フェイトは子犬、なのはは……フェレット?
ん〜〜、アイツ等の相棒達のヌイグルミを買っても仕方無いような。


……ふと気が付くと、
学校の区画と繁華街がある区画の狭間の、妙に人気の無い所に俺は居た。
まぁ、このルートを使うと近道が出来るんだけどな。

と、道路のど真ん中に見覚えある3人が立っていた。

……夜天の書の守護騎士達のお出ましか。

「フラット・テスタロッサ。
貴様のリンカーコア、貰い受ける!」

シグナムがそう言って剣を抜くと、両脇に立つヴィータとザフィーラも戦闘態勢を整えた。

同時に展開される封時結界。

俺は携帯を操作して音楽を止め、適当にポケットへとしまいつつアルギュロスに指示を出す。

「アルギュロス。
リンディに警報を送れ。
返信は無視しろ、全力戦闘で行くぞ!」

【了解ッス、ご主人!
接敵警報、最大出力で送信。
装備展開するッス!!】

銀の光につつまれ、戦闘準備を整える。

くっくっく、3人同時か。
いや、ひょっとすると4人総出かもな?

随分と買いかぶられたものだ。
それなら、盛大に歓迎されてやろうじゃないか。

知らずの内に、俺の口元は釣り上がっていた。

やっぱ、こうじゃなきゃ俺じゃねぇ。

「かかって来い!
相手になってやるっ!!」

 

 

 ◇ シャマル ◇

 

 眼下で戦闘が始まった。

フラットちゃんを確実に仕留める為に、ヴォルケンリッターの全力で彼女と相対する。

「……確実にリンカーコアを蒐集する為とはいえ、
4対1は卑怯臭いなぁ〜〜」

私の隣に居るはやてちゃんが溜息と一緒に言葉を漏らした。

今、私達が居るのは背の低いビルの屋上。
戦っている四人の近くで結界の中。

はやてちゃんが私の隣に居るのは「事情を知った以上、私も行く」と主張した為であり、
現状で、はやてちゃんを一人に出来なかったから。

「主はやてが管理局に捕まるくらいなら、一緒に行動した方がマシだろう」とはシグナムの発言。

強固に反対したヴィータも、戦闘には参加しないというはやてちゃんの言葉で渋々と引き下がった。

「まぁ、フラットちゃんは強いですし、
彼女に怪我を負わせずにリンカーコアを奪うにはこのくらいしないと……」

「そやな、
私の為に可愛い子が怪我するんは、間違っとるからなっ!」

私の言葉に、ウムウムと頷くはやてちゃん。
なんだか親父臭い台詞な気がするのは……気のせい?

「……はぁ。
結局、闇の書とコンタクトは取れずじまいで、私の方のリミットが来てしまうとはな〜」

溜息を吐くはやてちゃん。

そう、
中途半端に力を蓄えた闇の書は、はやてちゃんから猛烈な勢いで魔力を奪い出したの。

その結果、はやてちゃんは魔力の異常枯渇で苦しむ事に。

即日リンカーコアの蒐集再開が決定され、
フラットちゃんに白羽の矢が立った。

聖祥小学校の制服を着ていたという情報を元に、学校から後を付けて今に至る……と言う訳ね。

「自業自得ですよ、はやてちゃん。
リンカーコアの異常を黙ってる所為で、最悪の事態になるまで私達も気付かなかったんですから。
……もっと、自分の体は労わって下さいね?」

「こんな事したくないんやけどな」と零すはやてちゃんに忠告する私。

さて、私も戦闘の補助に入りましょうか。
ぐずぐずしていると管理局が増援を寄越してしまう。

私の結界を抜くのは難儀でしょうけど、早く彼女を倒してしまうべきだわ。

眼下には、3人の騎士と互角にやり合っている少女の姿。

……凄い。

絶対に複数と打ち合わない様に、巧みに立ち位置を変えている。

1対多数の戦いに慣れているように見えるのは何故?
まだ小さな女の子なのに……。

「うっわ〜〜、凄いなフラットちゃん。
まるで時代劇の殺陣やな。
違うのは、相手役の皆も強いから攻撃が上手く決まらんって所か〜」

叩き付けられる鉄槌を避けて、銃撃。

切り上げられる剣撃を避けて、蹴り。

押し付けられる障壁を避けて、斬撃。

フラットちゃんがカウンターで振るう攻撃をシグナム達も避けている。

ベルカの騎士は近接戦闘を得意としている。
対するミッドチルダの魔導士は中〜遠距離の砲撃戦を得意としている。

なのに、フラットちゃんはベルカの騎士の攻撃を捌いている。

私に格闘のセンスは無い。
でも私もベルカの騎士である以上、格闘戦の知識は持っている。

そんな私から見てフラットちゃんの動きは洗練されているとは、とても言えない。

だけれど、シグナム、ヴィータ、ザフィーラの3人を相手に対等に戦えている。

荒い攻撃なのに、とても的確。
緻密なコンビネーションだけれど、動きは単純。

なんとも奇妙な子だわ。
まるで、ジャングルで生き抜いてきた野生児のような……。

おっといけない。

今、必要なのは戦闘支援であって、分析じゃないわ。

「お願い、クラールヴィント。
開いて、旅の扉」

右手のクラールヴィントで地面と水平に旅の扉を展開する。

目標の足元にも旅の扉が展開し、あちらとこちらの空間を歪めて繋ぐ。

すると、

旅の扉から、フラットちゃんの足が飛び出した。

「うひゃあっ!?
なっ、
何したん、シャマルッ!?」

隣でビックリするはやてちゃん。

まぁ、いきなり女の子の下半身が飛び出したら驚いて当然よね。

「クラールヴィントでフラットちゃんの立っていた空間とココを繋いだんです。
それで足場を失った彼女は、こうやって宙吊り状態という訳です」

えっへんと胸をはる私の目の前で、フラットちゃんがジタバタと足掻いている。

丁度、脇の位置で旅の扉の枠に引っかかり、身動きが取れなくなっているみたい。
人は下半身が埋まってしまうと自身の力だけで脱出するのは困難を極める。

魔法を使えば別だけど、今のフラットちゃんは慌てていて、その事に気付いて居ないみたい。
後はヴィータちゃんかシグナムが一発決めて、大人しくなった所でリンカーコアを頂けば万事修了ですね♪

おっと、フラットちゃんが無茶苦茶に暴れてる。

はやてちゃんを安全な所に移動させないと……。

旅の扉はデバイスを構成要素に組み込むので、今の私は身動きが取れない。

「はやてちゃん、ちょっと離れてて……」

「シャマル!
前見て、前!!」

「え?」

はやてちゃんから旅の扉へと再び視線を戻すと、
肩を引っ込める事で旅の扉を潜り抜けたフラットちゃんと目を合わせてしまった。

良く見ると、髪型の崩れた彼女の瞳は涙でうるんでいて、顔色も青ざめていた。

「……よぉ、
なかなか愉快な真似をしてくれたな。
お蔭でスイカ割りに供されるスイカの気持ちが、もの凄く良く分かったぜ」

「……そ、それは良かったデスネ」

「おうよ。
だからな、テメーには濃厚なお礼をしなきゃ気がすまねぇ」

ガチリと大きな音を鳴らした拳銃型アームドデバイスを私へ向けるフラットちゃん。

私の目の前で展開された術式が凄い勢いで魔力を唸らせ、力を溜めていく。

あは……、
やっちゃったかも。

……でも、はやてちゃんだけは守らないと……。

 

 

 ◇ フラット ◇

 

 落とし穴にはめて下さったシャマルへ砲撃準備に入った俺。

「吹き飛ばせアルギュロス!」

【Lightning Bus……】

「させっかよっ!!」

トリガーを引き絞ろうとした瞬間、聞きなれた声と鉄塊が風を切る音が聞こえた。

咄嗟に音がした方向と反対に飛び退る。

だが、視界に入った長柄のハンマーは直撃コース。

強引にアルギュロスの銃身で受け止める。

俺の後を追って来たであろうヴィータのグラーフ・アイゼンと、
アルギュロスの銃身に展開した魔法陣が接触し、魔力光を周囲に散らす。

「ちっ、ドイツもコイツも邪魔をっ!!」

左手もアルギュロスの銃身へ這わせ、ヴィータを押し返す。

「アタシだけを相手にしててもいいのかっ?」

デバイスの向こう側でヴィータが笑う。
同時に背後で、ヤバい位の殺気と風を切る音が発生した。

ド畜生め。
全力で嬲り殺す気かよっ!!

逃げ場を求めて空へ飛ぶ。

ギリギリのタイミングでさっきまで立っていた所に剣が突き刺さった。

避け切れなかった俺の髪が斬り飛ばされ空に舞った瞬間、視界の隅に青い影が映る。
視線を向けるとザフィーラとその拳が目の前に。

「っ!?
テメッ……」

アルギュロスを向けて迎撃しようとするも、ザフィーラの拳が俺の腹を強打する方が早かった。

そのまま俺は木の葉の様に吹き飛ばされた。

クルクルと回る視界、ズキズキと痛む脇腹。

そして、怒りに染まる思考。

何とか空中で体勢を整えると、真正面から3人の騎士共が迫って来た。

「……いってぇぇっ、
上等だっ、クソ野郎共っ!!
よくも俺の髪をっっっ!!!!」

畜生、ポニーにしていた髪の半分以上が断ち切られてしまった。
身長ほどもある長い髪を維持するのはクソ大変なんだぞっ!!

【Lightning Buster LethalDose】

おおよその狙いで、ライトニングバスター最大出力を盛大にぶっ放す。

さすがの騎士共もこの巨砲には足を止めて回避するしかない。
カートリッジ二発分と俺の魔力を盛大に喰らう一撃だ。

出来た僅かな時間で、万が一に備えて用意しておいた秘策をベルトに増設したポーチからゴッソリと掴み出した。
試験もまだの新兵器だが、喰らいやがれっ!!

 

 

 ◇ シグナム ◇

 

 ザフィーラが殴り飛ばしたフラットへ3人で追撃をかけた瞬間、砲撃魔法で私達の足を止められた。

次の瞬間、フラットはベルトのポーチから宝石のようなものを大量に掴み出した。

……?

宝石にしては形が歪だ。
サイズも小さいし、特に輝きに優れている訳でもないらしい。

私が疑問に思っていると、フラットは宝石らしき結晶を空にばら撒いた。

結晶は自発的に空に浮かんでキラキラと輝いている。

「……アイツ、何する気なんだ?」

ヴィータにも判らないらしい。

「……判らん」

ザフィーラも首を傾げている。

「たしかに、意図が読めん。
だが、一つだけ判っている事がある」

私の呟きに「それは何だ?」と二人が答えを求めた。

「フラット・テスタロッサは明らかに腹を立てている」

「「……それは確かに」」

ここからでもフラットの表情が怒りに染まっているのが判る。
そして彼女が生半可な攻撃はしないだろう事も。

【ご主人!無茶ッス!!
それはまだ試運転もして無いッス!!
どうなるか判ったモンじゃ無いッスよ!?】

「うるせぇっ!
だから今試すんだろうがっ!!
そもそも、一対多数の戦闘の為に用意したんだ!
今使わんで何時使うっ!!」

キラキラと空に浮かぶ宝石の向こうでフラットと相棒が怒鳴り合っている。

【……了解ッス。
術式を展開するッス】

諦めた口調のデバイスが魔法陣を展開すると、無数の結晶達のそれぞれに魔法陣が展開した。

「其は音速の一撃。
其は熱を追う狩人。
其は鋼の蛇也!!」

フラットの言葉と共に20個ほどの結晶達が魔力を骨格に鋼の槍へと姿を変えていく。

先の尖った円筒。
1m半くらいの長さ。
先端から少し離れた位置と後端に、魔力で出来た小鳥のような翼が四方に生える。

まるでデバイスが待機状態から戦闘状態に移行するようだ。

いや、

「……まさか、あの結晶はデバイスコアの欠片か?」

私の呟きにフラットがニヤリと笑って答えた。

「その通り!
こいつ等はデバイスコアの欠片に簡単なプログラムを仕込んだ、使い捨ての独立型デバイスだ!!」

【ターゲット、個別にロック……完了。
何時でも撃てるッス】

フラット達の発言にハッとした。

視界に入っている独立型デバイスとやらは、ざっと20機近く。
これが一斉に襲い掛かるだと!?

「破烈の産声を上げろ!!
サイドワインダー!!」

【Fox2!】

フラットの掛け声と共に翼を羽ばたき、後部から魔力を噴射して飛び出す鉄の槍達。

一直線に私達に向かって突っ込んで来る。

それを見て取った私達は三方に分かれる事で、その攻撃を避けた。

「……速い」

避けこそしたが、驚くべき速度で飛翔する独立型デバイス。
20機の内、3分の1ほどが私へと穂先を向け直して再度突進してくる。

小刻みに進路を変える事で体当りから逃れるが、諦める事を知らぬデバイス達は力の限り私達に喰らい付く。

なるほど、デバイス本体に飛翔魔法を加味して自動追尾する槍に仕立て上げたのか。

速度と小回りが利くのはデットウエイトたる魔導士を牽引する必要が無いからだな。

……、
だがしかし、それだけでは恐るるに足りん!

私の後ろを律儀に追尾するデバイス共の内、2機を振り返りざまに一閃する。

ふん、驚きはしたが所詮は唯の……

と思った瞬間、私は爆風に包まれた。

【Panzer Geist】

レヴァンティンによる咄嗟の防御魔法が間に合ったが、コレは何だ!?

爆風を意にも返さず私達を追撃するデバイス群を回避しつつ、周囲に目を向ける。

ヴィータも反撃したと同時にデバイスの爆発に巻き込まれたようだ。
その事から射撃魔法による迎撃に切り替えているが、高速で飛翔するデバイス群相手に撃破率が上がらない。

ザフィーラは戦闘特性から私達よりも小回りが利かないので、高出力障壁の展開で一気にデバイス群を受け止める作戦に出た。

足を止めたザフィーラの前に展開される青い障壁。

突き刺さる7機のデバイス。

次の瞬間、暗くなりつつある空を大爆発が照らした。

「ザフィーラ!
大丈夫か!?」

『ああ、大丈夫だ』

もうもうと舞い上がる煙の向こうから念話でザフィーラの声が届く。

思わず安堵の溜息が零れる。

だが……、

「余裕ブッこく暇は与えねぇ!」

【Lightning Buster OverDose】

直上からフラットとアルギュロスの声が響く。
同時に盛大なカートリッジの撃発音と砲撃魔法の砲撃音が轟いた。

全力でその場から退避すると、ギリギリの位置を銀の閃光が駆け抜けていった。

フラットの攻撃こそ避けたが嫌な予感が身を振るわせる。

振り返ると眼前に迫ったデバイス群。

「くっ、私の足を止めるのが目的かっ!」

直撃を食らうよりも迎撃した方が被害が少ないと判断。
5機のデバイス達をレヴァンティンで斬り飛ばす。

再び爆風に晒されるのを必死に耐える。

「……足を止めさせ、視界を奪った。
これでチェックメイトだっ!!」

左からフラットの声が聞こえ、右手に飛び去りつつレヴァンティンで防御しようと身を構える。

だが、爆煙から抜け出した時、フラットは真上に居た。

くそっ!
フェイントかっ!

「もらったぁぁっ!!」

フラットがアルギュロスから発生させた光刃を一直線に振り下ろす。

駄目だ。
迎撃も防御も間に合わない……。

私の冷徹な部分の思考が結論を告げるが、簡単に諦める事は私の誇りが許さない。

自らバランスを崩して倒れる事で、ほんの少しでも光刃に切り伏せられる時を伸ばす。
右手のレヴァンティンを強引に振り上げる。
左手に鞘を展開しつつ己の盾に構えようとする。

私の今の立ち振舞いはハッキリ言ってみっともない有様だ。

だが、戦いとは勝者が全て。

敗者には何の価値も無い。

ましてや、この一戦には主はやての御命がかかっているのだ!
断じて負けられない!!

「おおおおおおおっ!!!」

フラットも、この一撃に全てをかけているのだろう。

目が覚める様な一閃が私の額に吸い込まれるように伸びた次の瞬間、

青い障壁が、銀の光刃を受け止めた。

「今の内に後退しろっ、シグナム!!」

背後から聞こえるのは頼もしい同胞、ザフィーラ。

「散々コケにされたテメーにゃ、お礼返ししてやるぜっ!!」

そう叫んだヴィータがフラットの脇を駆け抜けた。

「……あん?」

フラットが怪訝そうな声を上げると同時に、ヴィータの後を追いかけていたデバイスの群れがフラットに襲いかかった。

上手い!
愚鈍に追尾を繰り返すデバイス達の特性を逆手に取ったのか!!

爆風に巻き込まれまいと、全力で後退する。

が、

直撃しただろうデバイス群は何時になっても爆発しない。

何が起こった?
と、フラットをマジマジと見つめる私達。

良く見ると、
フラットに突撃したデバイス達は、いつの間にか停止して彼女の側で静かに浮いていた。

「くっくっくっ、
敵の攻撃を敵に喰らわせるのは良い戦法だ。
だがな、
その程度の対策ぐらい、初めっから取ってあるぜ!!」

「運用者の側に接近した時点で一度、待機状態に戻るのさ」とフラットが慎ましい胸を張る。

そして再びデバイスコアの欠片を散布して高速で飛び回る槍達を増やした。

「アハハハハーーーッ!!
踊れ、踊れぇっ!
踊り疲れたら丁寧に舞台から退場させてやるぜぇ!!」

【Fox2】

オーケストラの指揮者のようにアルギュロスを振るうフラット。

フラットの意を受けて無数のデバイス達が私達に襲い掛かる。

……なんという事だ。

狩るのは私達では無かったのか?

フラットのリンカーコアを蒐集すべく待ち伏せたというのに、

明らかに戦力で勝っているはずの私達が、

何故、押し負けているのだ。

 

 

 ◇ リーゼアリア ◇

 

 私達は闇の書の発動に備えて、フラット・テスタロッサと守護騎士達の戦闘を結界の隅で観察していた。
誰にも見つからないように偽装や探知妨害の術式は張り巡らせてある。

闇の書がフラット・テスタロッサのリンカーコアを蒐集し、本格起動したら、
私達が即座に拘束して、この為に用意したインテリジェント・デバイス<デュランダル>で永久凍結処理。
その後、闇の書を完全消滅させる方法が見つかるまで封印する……はずだったんだけれど……。

「お〜〜っ、
大したもんだ、あの子。
圧倒的な戦力差を道具で覆すか〜〜。
本人の魔力資質も高いし、将来はSSSクラスに届くかにゃ〜?」

「やめなさいよ、ロッテ。
生贄にする子を褒めてどうするのよ。
それに、あの子が負けないと私達の計画が始まらないわ。
……たしかに凄いとは思うけど……」

アースラの会議の後でエイミィと話していた『新兵器』がアレなのだろう。
まさかデバイスコアの削りカスから武器を作りだしてしまうとは……。

確かに、術式(プログラム)を走らせる容量さえ確保出来るのなら小さな欠片でも問題無い。

しかも元が捨てる物だっただけに使い捨てにしても惜しくない。

なるほど良く考えられている。

「……それに単純な術式だから武装隊の隊員でも簡単に使える。
火力も侮れないし、使い勝手も良さそう……」

ミッドチルダの魔導士ではまず思いつかない発想ね。

私達が愛用する消費型魔力増強デバイスや、ベルカのカートリッジが似ているといえば似ているけれど、直接武器にする訳ではないし。

最近では魔導士の資質による戦力格差が広がる一方だし、
この使い捨てデバイスというアイディアはミッドに革命をもたらすかもしれないわ。
術者に魔力消費以外の負担をかけない武器という点も見過ごせない。

「おやおやぁ?
アリアも、あの子を褒めちゃってるじゃない。
……、
ま、それでも結末は変わらないだろうね。
戦力差を補う為に、盛大に魔力を消費してる。
大容量カートリッジがあっても、焼け石に水だ」

「……そうね。
フラット・テスタロッサとしては短期決戦で終わらせたいのでしょうけど」

だが守護騎士達は飛び交うデバイス群を避ける事に専念してフラットとマトモに戦おうとはしていない。

防御に特化した守護獣。

近接戦闘に長けた烈火の将。

オールラウンドに戦える鉄槌の騎士。

そして、戦闘支援型の湖の騎士。

この4人とたった1人で対等に戦えている時点で無理がある。
ロッテの言う様に戦力差を魔力で補っているフラットは直ぐに魔力を枯渇させて戦闘不能に陥るだろう。

「……お、アリア!
見てみなよ。
影の薄いのがフラットに一泡吹かせたよ」

ロッテが楽しそうに指を指す。

沢山の使い捨てデバイスを引き連れ、逃げ回る守護騎士の背後に転移魔法が浮かび上がる。
湖の騎士が得意とする『旅の扉』だ。

大きく開かれた『旅の扉』に使い捨てデバイスの群れが突っ込む。
そして、デバイス群は湖の騎士側の『旅の扉』から飛び出した。
飛び出したデバイス群はそのまま直進して別の守護騎士を追い回していたデバイス群に直撃。

空に爆炎が花開いた。

手駒を減らされたフラットが湖の騎士へと突撃をかけるが、他の守護騎士達の妨害で足を止められる。

「状況が変わったわね」

「……だね。
ま、頑張った方じゃないかな?」

「何時でも出られるように準備しておくわよ」

「ほいほい」

そう言って私達は懐から平坦な仮面を取り出した。
仮面を身に付けると、術式が発動して私達の姿が変わる。

クライド君の身体と声をモデリングした偽装。

ささやかな、私達なりの皮肉。

闇の書は、闇の書と共に散ったクライド君によって葬られるのだ……。

 

 

 ◇ フラット ◇

 

 くそったれ!

シャマルの奴がサイドワインダーを大量処分してから戦いの流れが変わっちまった。

隙を見つけた奴を仕留めようと突撃をかけると、転移魔法から飛び出して来たザフィーラが強力な障壁で攻撃を受け止めてしまう。

即座にヴィータの奴がロケットハンマーで俺を吹き飛ばし、

トドメにシグナムがビルごと俺を切り裂こうと剣を振り下ろす。

くそっ、
サイドワインダーの動きを見切られた上で、俺の迎撃パターンを作られちまった。

……いつの間にか、攻守逆転して俺が追い回されている。
状況を覆すには連中の度肝を抜くか、力で押し切るか……。

熟考している暇は無い。
空を飛びまわるのも、サイドワインダーを作るのも、牽制の砲撃だって俺自身の魔力を消費しない訳にはいかない。
このままでは、大技をブチかます為の魔力が尽きてしまう方が早い。
大容量カートリッジで攻撃に必要な魔力は補えるとしても、最後に物を言うのは自身の魔力なのだから。

【ご主人!
ここは一度引くべきッス!!】

「るせぇっ!
判ってるよそんな事はっ!!
逃げれねぇんだよっ!
こいつ等の包囲網のど真ん中なんだからよぉっ!!」


アルギュロスに文句を言った瞬間、ビルを貫いてシグナムの蛇腹剣が飛び出した。

「っちぃぃっ!!」

咄嗟に生き残ったサイドワインダーを剣先に突っ込まして軌道を変える。
同時に地表へと急降下。

頭上で空気を穿つ音と「くそっ、ちょこまかとっ!」というガキっぽい声が聞こえた。

音だけを頼りにヴィータが居るだろう方向へアルギュロスを発砲。

そのまま振り返らず、地面を蹴って水平に飛ぶ。
同時にアルギュロスの弾倉を解放して撃ち尽くしたカードリッジを詰め替える。

「アルギュロス!
フルドライブの用意をしろっ!!」

【警告!
フルドライブ・モードも試運転して無いッス!
今度も成功するとは限らないんスよ!!】

「判ってんだよっ!
そんな事はっ!!
それでも、やるしかねぇだろうがっ!
このまま追い詰められるか、逆転の一撃に賭けるか、どっちがテメーの好みだっ!!」

【…………了解ッス。
FullDrive・Ready】

アルギュロスの銃身が展開してデバイス・コアが露わになる。
複数の魔法陣とウィンドウが展開する。

フルドライブ・モードはアルギュロスに組み込んだっきり一度も弄ってないので安全最重視で慎重に術式を起動させるつもりなのだろう。

だが、この状況下でそんな悠長な事をしている暇はなかった。

「これ以上、テメーに何もさせねぇ!
このビックリ☆オモチャ箱ヤローがっっ!!」

上空からヴィータがロケットハンマーを振り下ろす。
ヤナ予感がして、チラリと背後を窺うとシグナムが突きの構えで疾走していた。
正面からはザフィーラ。

立ち止まって方向転換しようとしたら、足が地面から離れなくなった。

チェーン・バインド。
あのドジっ娘シャマルの拘束魔法かっ!

しくった、今はアルギュロスが使えねぇ!
サイドワインダーは展開している暇がねぇ。

こうなったらデバイス無しの魔法行使しかねぇか!?
駄目だ、やっぱり術式展開してる間に攻撃を喰らっちまう。

……打つ手が無い。

畜生っ!
諦めてたまるかっ!!

咄嗟に俺はアルギュロスを口で咥えて、両手をフリーにした。

何としてでも連中の攻撃を捌いて、拘束を解き、そののち撃破してやるっ!!

ふっふふしへひゃはぁあっ(ぶっつぶしてやらぁあっ)っっっ!!!」

気合を入れて拳を打ちつける。

が、

次の瞬間、その気合は無用の物となった。
俺の全周を覆う若草色のバリアーが3人の突撃を食い止めたのだ。

「……やれやれ、いっつもフラットは無茶をしてるなぁ」

拘束が解除されて振り返ると、そこには。

「ひゅ〜ろ・ふふらひは!」

「誰だよそれ。
良い加減、アルギュロスを咥えるのやめなよ」

「……あぐ。
ユーノ、なんでお前がココにいるんだ?」

アルギュロスを右手に持ってコートの袖で咥えていた時に付いたヨダレを拭き拭き、ユーノに答える俺。

「無限書庫で古代ベルカの術式集が見つかったんだよ。
で、それをもってアースラに直行したらフラットが戦ってるって話じゃないか。
増援を送りたいけど、クロノの奴は武装隊を率いて他所の次元に出張っちゃってるらしくて直ぐに動けるのが僕しかいなかったんだ。
そこで早速、結界に穴を開けて僕を転移させたのさ」

「間一髪、間に合ってよかったよ」と苦笑するユーノ。

「ふん。
俺一人でも十分だったがなっ!」

【照れ隠しはかっこ悪いッスよ、ご主人】

「うるせぇ!
誰が照れ隠しだっ!!」

「まぁまぁ二人とも。
今はそんな呑気な会話をしている時じゃないだろ?」

ユーノの言葉に周囲を確認すると、なるほど守護騎士の連中がバリア突破の準備を始めていた。
具体的に言うと、各々デバイスにカートリッジを込めている。

「と、言う事だけど……どうする?」

「決まっている。
正面からぶっ潰す!」

【フルドライブ、展開準備完了ッス!!】

「………………」

ユーノが呆れた顔で俺を見ている。
「何が言いたい?」と言う風に見返してやると、渋々と口を開いた。

「あのさ、
正面から戦って追い詰められていたのに又、真正面からぶつかるの?」

「フラットってもうちょっと利口だと思ってたんだけどなぁ」と呟くユーノ。

「……聞こえてるぞ、ユーノ。
それはともかく、まぁ、見てろ。
俺達のフルドライブは一味違うぜ、なぁアルギュロス!」

【展開開始ッス!!】

アルギュロスがいきなり分解する。
銃身、弾倉、グリップとトリガー、ハンマー。

光が右腕を包むと、頑丈なガントレットとなって姿を現す。
銃身が更に分割され、バレルが肥大化して1mを越える鉄杭に変わる。

握ったままのグリップとガントレットが結合、弾倉があった部分が盛り上がって照準器が出来上がる。
ガントレットにピストンやパイプや歯車やらのメカニズムが組み合わさり、鉄杭が接続される。
弾倉もメカニズムの一部となり、カバーに包まれる。
そして、最後に細長い円柱状のデバイス・コアがメカニズムの中央にセットされた。

【アルギュロス、フルドライブ・モード、
『パイル・ドライバー』展開完了ッス!!】

パイルドライバー、すなわち杭打ち機である。

「……げ、また悪趣味な……」

ユーノが呆れた声を出す。

ユーノを無視して右手を軽く振り回す。

杭は全長の半分の位置で杭打ち機に収まっている。
攻撃時には、この杭が前後に動く。
右手はグリップごと固定され、自由になるのは指先くらいだ。
体格の割に巨大な装備になってしまったが、物は軽いので振り回される心配はあまり無い。

左手をベルトの弾入れに伸ばす。
よし、スピードローダーはまだ一つ残ってる。
リロードしてから一発も撃って無いし、いざとなれば、一発づつカートリッジを装填すればいい。

「よし、行くぞアルギュロス!
ユーノ!
俺の攻撃と同時にバリアを解け!!」

【パイル、撃発位置へ】

「わ、判ったフラット!」

機械的な音を立てて、杭が後退する。

Bless the Judas Priest(ユダの司祭に祝福を)!!
地獄の底から神を称えろ!
汝、夜に蠢く者なればっ!!
All Guns Blazing!!!」

バリア越しに見える守護騎士達3人に向け、右腕を突き出す。
慌ててユーノがバリアを解除。
同時に俺はアルギュロスのトリガーを引き絞った。

【Impact!】

大爆音が周囲に轟く。

特大カートリッジ5発の同時使用だ。
むせ返るほどの魔力を纏った杭が高速で前進し、大気を穿ち抜いた。

限界まで飛び出した杭を中心に巨大な魔法陣が走る。
その魔法陣の外側、上下左右に更に魔法陣が展開する。

そして、放たれる銀色の魔力が周囲を明るく染め抜き、守護騎士達は5発の閃光の彼方に消えた。

……だが、奴等がコレで終わるはずも無い。

アルギュロスが自動で杭を元の位置に戻し、弾倉のカバーを開いて使用済みのカートリッジを排夾する。
即座にスピードローダーでカートリッジを装填すると、再び弾倉がメカニズムに組み込まれる。

よし、試運転は成功。
フルドライブも問題無く使えるな。
魔力消費に伴う軽い立ちくらみを覚えたが、ナントカなるレベルだ。

ふん、大容量カートリッジ5発でも足りないのか?
それとも、カートリッジ使用による魔力のバックファイアが原因か?

「……終わった?」

背後で問いかけるユーノに振り返らず答える。

「いや、これくらいで終わるのなら当の昔に決着が付いている。
トドメを刺さないとな」

現に守護騎士達は陽炎の向こう側に今も立っている。
ザフィーラの奴が盾となって庇ったようだ。
全員ダメージは受けているようだが……。

「ふん、ユーノ。
連中の足止めは頼んだぞ」

ユーノの返事を聞かずに飛び出す。

再びアルギュロスの杭が撃発位置に移動する。
前を見据えると、若草色のチェーンバインドが守護騎士達3人を拘束するのが見えた。

よし良くやったユーノ!
お蔭で真っ直ぐ狙える。

「このワンころっ!!!
テメェ、いつもいつも俺の攻撃を防ぎやがってムカつくんだよぉっ!!!」

バインドをどうにかしようと焦るザフィーラへとアルギュロスを振り降ろす。

咄嗟にザフィーラがシールドを展開するのが間に合う。
そして、アルギュロスの杭が後退した撃発位置のまま、シールドにぶち当たる。

「死ねぇぇぇぇっ!!
Ram it Domn!!」

【Impact!】

障壁破砕攻撃、ラム・イット・ダウン。

再び、大爆音が轟く。

だが、全てを穿つ杭が前進し始めた瞬間、

ガントレットのメカニズムが悲鳴を上げた。

「っ!?」

咄嗟に左手で顔を庇うが、弾け飛ぶパーツと爆発する様に溢れ出す魔力に身体ごと吹き飛ばされる。

そのまま電柱に叩き付けられ、道路にずり落ちた。

「……、アルギュロス」

【……強度……不足……ッス、ご主人……】

「ふん。
とっとと、ガンナーフォームに戻れ」

物事が思い通りに行かなかった不満と、衝撃で身体に力が入らない現状を噛み締めながら地面に拳を突き立て、起き上がる。

【……エラー……。
……システム異常……により、……モードチェンジ不能……ッス……】

「ちっ、仕方ねぇ。
……撤退するしかねぇか」

「いいえ。
貴女は逃がさない」

背後に急に人の気配が現れると、左肩を掴まれた。
ブッ壊れたままのアルギュロスの杭を背後の人間に叩きこもうとしたら、身体から力が抜けた。

「御免なさい。
貴女のリンカーコア、頂いて行きます」

背後からシャマルの声が聞こえ、
促される様に下を見ると、俺の胸から右腕が飛び出していた。
光り輝くリンカーコアを手にしている。



この光、妙に馴染み深い気が……。

いやいや、そんな事を考えてるんじゃねぇ、リンカーコア持って行かれたらしばらく戦闘不能じゃねぇか。
くそったれ、そんな面白く無い事させるかよっ!!

気合を入れて右腕を動かす。

人様の胸元へ無遠慮にブッ刺した、このヤンチャな手を御仕置きしてくれるわっ!!

と、唐突に右腕が軽くなった。

「は?」

「へ?」

ゴトリ、という音に俺とシャマルが反応する。

俺達の視線が足元に向くと、そこには鉄杭を生やしたガントレットが転がっていた。

「きゃっ、きゃ〜〜〜っ!?
腕が千切れちゃったっ!?
何でっ!?!?」

俺よりも先に驚くシャマルにムカつきつつも、自分の右腕が生えていた部分を注視する。

肘から先が消えていた。

いや、現在進行形で腕が消えていく。

銀色の粒子になって、俺の身体が崩壊して行く。

何故だ?
リンカーコアが抜かれると身体が崩壊するなんて初耳……いや、そうか。

俺はそもそも、Mrsテスタロッサが偶々拾った霊魂とやらをリンカーコアに纏めた物だったじゃないか。
フェイトの願いとジュエルシードのお蔭で人の形を取ってるだけの。

状況が理解できても、俺の身体が崩壊するのは止まらない。

「……す、スマン……フェイ………」

ちっ、
最後の言葉も言い切れないとは。

はぁ、やれやれだぜ。

…………、

………、

……、

……脳裏にフェイトの泣き顔が浮かぶ。

……、

…………ああ、畜生。
なんで、俺はこんな土壇場でも未練だらけなんだ。

……クソッタレ、諦めてたまっ……、

……、

……、

…、



 

 

 ◇ はやて ◇

 

 その戦いは、私の覚悟を粉々に打ち壊した。

目の眩むような閃光が飛び交い、身の竦むような爆音が私の心を脅かす。

フラットちゃんが豹変したように大暴れを始めてから、私は何度も「帰ろう」と言いそうになった。

口にすれば、皆の足並みが乱れてフラットちゃんに皆を傷つけられたかもしれへんから、言わなくて良かった。

いや、
それはホントや無い。

私は目の前の戦いを前に、ただ、声を上げる事も出来ず怯えていただけ。

でも、

だからこそ、

コレは私の罪なのだろう。

動きを止めた隙を付いて、シャマルが「旅の扉」でフラットちゃんの背後に瞬間移動。

そして、リンカーコアを奪った瞬間、

フラットちゃんは……、

……光に消えてもた。

私の側に現れた人影に視線を向けると、シャマルが闇の書にリンカーコアを与えようとしていた。

「あ!
ちょっ!!
シャマルッ!!」

「……言いたい事は判ります、はやてちゃん。
でも、彼女のリンカーコアをこのまま放置しても、魔力が周囲に霧散して消えて無くなります。
それくらいならいっその事、蒐集してしまったほうが……」

【Sammlung】

闇の書が声を上げて、ページが開かれる。

私の誕生日の日におぼろげに聞いた闇の書の声。
その声を聞けた事を喜ぶほどの心の余裕は何処かに消えてた。

呆然とする私を置いて、フラットちゃんのリンカーコアが次々にめくられるページへ刻印されてく。

リンカーコアの煌きが消えると同時に闇の書のページも最後に到達した。

パタン。

フラットちゃんが居た残滓は闇の書が閉じる音で無くなった。

「……なぁ、シャマル。
自分ら、リンカーコア抜いても人は死なへんから大丈夫やって言うたよな?
しばらく不自由になるだけやって!!
なら、
コレは何なん?」

闇の書が空を浮かんで、私の膝の上に帰ってきた。

「……あ、その。
正直、何故こうなったのか……判らないです。
おそらく、フラットちゃんに特殊な事情が……」

「フラットちゃんが元に戻る可能性は?」

「……判りません」

「っ!
……そうか……」

「あっ!
でも、闇の書の機能を使えば……可能性は……」

自分でも信じてなさそうな雰囲気でシャマルが私を慰める。

「……もぉええよ。
私、フラットちゃん、殺してもうた……」

闇の書の表紙に水滴が落ちる。

雨?

空を見上げても、雨雲は無い。

再び闇の書に視線を落として、ようやく納得した。

「あはっ……なんで、私泣いてるのん?
人殺しは、悲しんだりしたら……あかんやん」

「ちょ、待ってください!
はやてちゃんが殺したんじゃないです、私が手を下したんですから!!」

なんかシャマルが言ってるけど、何を言ってるのか判らんようになってきた。

涙で歪む視界に三つの人影が飛び込んでくる。
たぶん、下で戦ってた3人やな。

彼女等にも聞こえるように、私は口を開いた。

「……ごめんなぁ。
私、こんなんなるなんて思ってなかった。
こんな事なら、大人しゅう死ぬん待っとった方が良かったわぁ……」

「な、なんて事を言うのです、主はやて!!」

「そうだぜ!
死んで良い事なんか、一つもないって!!」

「死は何も生みません、主!」

「…………」

皆が口々にナニカを言っている。
なんだか、慰めてくれてるようだけど、私にはその資格が無い。

「……闇の書、
私の声を聞いてるなら、願いを叶えて。
私達は存在したらアカンねん。
だから、跡形も無く、消滅させて……。
でも、ヴォルケンリッターの皆は……」

【Jawohl.
主の命に従い、封印を解放します。
ユニゾン開始。
同時に、システム・ヴォルケンリッター、スタンド・アローン・モードへ移行。
管制システムから切り離します……】

闇の書から光が溢れ出す。

ああ、身体に力が満ちていく。

同時に私の意識は闇の向こうへ……。

最後の瞬間、声が聞こえた。

「……また、全ての終わりの時が……、
……一体幾つの悲しみを抱き続けて行けばいいのだろう。
だけれど、
感謝します、我が主(マイスター)はやて。
自らを消去せよという命令を……私は、待っていた。
さあ、全てを消してしまおう。
後悔と悲しみだけの旅路は、今ここに、終焉を向かえるのだから……」

 

 

 ◇ リンディ ◇

 

 ……まさか、こんな事になるなんて。

フラットさんなら大丈夫だと、勝手に思い込んでしまっていたのだろうか。

後手ばかりを踏んでいた「闇の書」事件は、ついに闇の書の……いや、夜天の書の本格起動を許してしまった。

所有者であるはやてさんの身体を核に夜天の書が肉体を形成する。
一気にはやてさんの身体は18歳ほどにまで成長し、髪も伸びて色が変わる。
全身に拘束具のようなベルトを張り巡らせ、ミニスカートにジャケット、背中に黒い羽を生やす。
ユニゾン・デバイスの能力なのか、目の色も顔つきも変わってしまった。

ん?
銀髪に赤目って、なんだか見慣れてるような……。

「離してっ!
フラットがっ!
フラットがっ!!」

あ、しまった。
戦えなくとも観戦は出来たほうがいいだろうと、アースラの艦橋にフェイトさんとなのはさんも呼んでいたのだった。

暴れるフェイトさんをなのはさんとアルフさんが懸命に抑えている。

「何で!?
何でジャマするの!?
早くしないと、フラットが!!」

「落ち着いて、フェイト。
フラットの奴は、もう……」

「ここで暴れても意味ないよフェイトちゃん!
信じて、フラットちゃんを!!
どんなに傷を負っても不敵に笑って帰ってくるフラットちゃんを!!」

「……う、ううっ、フラット……」

なのはさんの言葉が利いたのか、フェイトさんが大人しくなった。
ふぅ、医療班に鎮静剤を用意させたのはやり過ぎだったかしら?

と、フェイトさんが顔を上げ、メインモニターをマジマジと見つめた。

メインモニターにはユニゾンした夜天の書の姿が。

「……フラット?
ちがう、フラットはあんなに大きくない。
……そうか、お前がフラットを取り込んだなっっ!!」

ああ、そうよ、フラットさんだわ。
銀髪赤目といえば、その通り。

私がポムと手を叩いた時、フェイトさんが魔法陣を展開した。

「キサマァァァッ!!
フラットをっ!
返せぇぇぇぇっ!!」

一瞬で転送魔法陣が稼動状態になり、アルフさんとなのはさんを巻き込んで転移する。

…………。

い、いけない!
呆けている暇じゃないわ!!

一応、船医のお墨付きが出たとはいえ病み上がりで全力戦闘なんて危険すぎる。

「エイミィ!
クロノを至急、現場へっ!!
必要な全ての行動を私の権限で承認します!!」

「りょ、了解しましたぁっ!!」

エイミィが通信機に慌てて向かう。

「アースラ、第一級戦闘態勢!
アルカンシェルの魔力充填も始めなさい!!」

「!?
しかし、アルカンシェルの破壊力ではっ!」

艦橋の先任士官アレックスが振り返って私に異議を唱える。

「そうよ!
下手に地表を撃てば、この星を滅ぼしてしまうわ!!
それでも、特大規模の次元崩壊を起こさせるよりはよっぽどマシなのよ!!」

「っ……了解」

不満を隠し切れない様子でアレックスが作業に入る。

私も出来るのなら地表へ向けてアルカンシェルなど撃ちたくない。
本来ならば、こんな事になる前に騒動を収めてしまわなければいけなかったのだ。

それでも、夜天の書が起動した以上、最悪に備えなければならない。

お願い、フェイトさん、なのはさん、アルフさん、ユーノ君。

今頼れるのは、貴方達だけなの。

「……クロノはまだなのっ!?」

「今、連絡が付きました!!
武装隊と共に転移に入った所です。
数分以内に現場へ到着します!!」

「判ったわ」

……これで戦力的にはなんとかなるかしら。

問題は、今も活動している守護騎士達がどういう選択を取るかという事だけど……。












 第5話 完















 あとがき 改

「泉の騎士ちゃうくて湖の騎士じゃね?」という誤字報告を受けて、他の点も2、3修正した改訂版です。

ついでにチョコチョコっと文を付け足してます。

ま、ホントーに付け足しただけなので既に読んで頂いた方には面白くないかと思います。ユーノ君の活躍は弄ってないですし(爆

さて、『フラットの成長』の投票はこの改訂版、投稿を持って締め切らせて戴きます。皆様の御協力、ありがとうございました♪

投票総数は55票。

<成長>ダントツの38票。
<ロリ>11票。
<微成長>4票。
<所有魔力量で可変式>2票。

胸のサイズは、
<フェイトより1cm小さい>逆転ブッチギリの16票。
<巨乳あるいは爆乳>11票。
<微乳もしくは無乳>7票でした。

健全な意見が多くてビックリです(そこ、驚くトコ違う

この結果をもちまして『フラット君は成長する』に決まりました〜〜!!ドンドンパフパフ〜☆

具体的にはフェイトとほぼ同じ身長(若干フラットが低い)で、胸はフェイトより推定1cm小さい……で。

でも<可変式>のアイディアが秀逸でしたのでそちらも採用させて戴きます。

つまり年頃の女の子も、つるぺたロリっ子も一粒で二度美味しいって事ですよ旦那ッ!!

P.S.

パイルバンカーとガトリング砲は漢の魂です。ドリルとチェーンソーと飛び出しナイフと……etc.
男のイチモツを失ったフラットだからこそパイルに惹かれ……うわっ!?なにするやめ(ry







感想代理人プロフィール

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代理人の感想
んー、成長しない場合、人間界の人たち(翠屋とか、アリサすずかとか)と絡ませられないというデメリットが発生しますね。
それさえクリアできる(人間界のからみをカットするなり、その場合だけ変身魔法使うなり)ならば小さいほうが色々と面白かろうと思うのですよ。フェイトに愛でられてストレス溜めるとか、ヴィータと少女漫才コンビ組むとか。
ああ、少女漫才じゃなくて少女ドツキ漫才か、この二人だと()

にしても、消滅イベントここで来るかー。
なのはに比べてフェイトの反応があれですが、やっぱりフェイトはヤンデレというか、感情が極端から極端に走るひとであるとは思います。
人間としての様々なシステムの構築と経験値の積み重ねが薄いから、普段はともかくこういう極限状態になるとすぐにハングアップするんですよね。

人間的成長に繋がって欲しいところではありますが、さて。

そして、結局ピンポイント活躍なユーノ君に合掌。彼はまぁ、そう言う立場の人なのだと理解してはいますが。w


>男のイチモツを失ったフラットだからこそ
・・・いかん、不覚にも納得してしまった。w


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