アオイ・ジュン
彼は不思議な人だ、ナデシコに乗っていた人に聞くと「いい人」と言う答えが必ず返ってくる。
初めて会ったとき彼は手を血塗れにしながら射撃訓練をしていた。
明らかに疲労しフラフラだった、だけど眼だけがギラギラと光っていた。
ナデシコの乗組員は程度の差は有っても皆「いい人」だ、そんな中で彼だけが孤立していた。
いったい彼に何があったのか私は知らない、誰に聞いても何も答えてはくれない。
いや、ほとんどの人は詳しい事を知らない様だった。
そんな中、彼の・・・・ジュン君の寂しそうな姿が私の脳裏に焼きついていた。
長く続いた戦争も終わり、世界は概ね平和だった。
まだまだ世界に不満と怒りを持つ者は多くいたが・・・・・・・
私は時々ジュン君を街に連れ出す。
買い物をしたり、食事をしたり。
何気なく辺りをぶらつく事もある。
その日も何時ものように辺りを見て回っていた・・・・・そして、私はここで初めて自分の気持ちを自覚することになった。
鈍い、痛みと共に
町の中心からはかなり離れた寂れたところだった。
自分がもう何歳か覚えてないと言った感じの老女の占い師だった。
戯れの占いのはずだった。
「いかんよ。この男はいかん」
老女は一瞬ぶるると身を震わせると、ジュン君の顔をじっと凝視した。
口出しすることの出来ない厳しい空気を感じて、私は口をつぐんだ。
ややあってから、老婆は声を低めてつぶやいた。
「彼自身は悪い男ではない。だが、周囲に不幸を招く星の下に産まれている。この男のそばには、無残な殺され方をした少女の霊が見えるよ」
私はひどく腹を立てた。
はったりだとしても、話があまりにも陰惨だ。
私はこういうたぐいの脅かしは好きではない。
思わず立ち上がって老占い師に反論しようとした。
「まだ、そばにいるのが見えるか」
ひどく、ひどくのどかな声だった。
「まだ、ついておるのう」
「・・・・・そうか」
彼はほっとしたように微笑み、確かめるようにつぶやいた。
「まだ、僕のそばにいるか・・・・・・・・」
しょうがないやつだ、と言わんばかりに目を細めた。
はじめてだった。
何もかもがはじめてだった。
彼があれほど穏やかな声を出すのも。
あんな深い微笑を見せるのも。
自分のことを「僕」というのも。
すべてが、はじめてだった。
6年。
彼と出会い同じ世界を感じてきた6年。
(ジュン君・・・・・・)
深い想い。
6年側に居ながら知ることの無かった深い想い。
悲しいほどの想いだった。その想いが私に向けられた物ではないのに、いやだからこそ清冽なまでもの痛みを感じさせる想い。
と、ジュン君は突然自分の手を持ち上げ、それに見入った。
まるでその手が想い人を殺したのだと言わんばかりに。
ジュン君はその手を握り締めると、そっと上を向いた。
遥か彼方を見晴るかす瞳の先に在る何か。
その何かが私ではない事に酷く心が痛んだ。
6年の時をへて、私は彼に恋していることを知った。
12の時に出会い今は18、私の中で彼はとても大きな存在になっていた。
アオイ・ジュンと白鳥ユキナそして・・・・・・・チハヤ
春がきて
夏がきて
秋がきて
冬が去る
変わらない
変わらない筈だった
6年間変わらず
想いを自覚してからの2年間も変わらない筈だった
山々が新緑の時を経て、紅に彩られる季節。
彼は、ジュン君は毎年この季節になると1〜2週間ほど姿を消し、その行方がわからなくなる、その間ジュン君が何処で何をしているのか、誰にも解らなかった。
だが今年は違った。
ジュン君は何を思ったのか、ここに私を誘った。
丘の上に聳え立つ一本の大樹。
ジュン君は木の根元に跪くと降り積もった木の葉を軽く払った。
現れたのは、小さく積まれた石の塚だった。
そこに誰が眠っているのか、聴くまでも無かった。
想い人。
私は彼女のことを知らない。
知る意思も、必要も無かった。
誰も教えてくれなかったか。
それを今後悔している、私は死者のことも生者のことも、何も知りはしないのだから。
音の無い世界。
遥か昔に時の流れから切り離された世界。
この場所に自分の居場所は無かった。
炎と黒煙が私の周りに渦巻いていた。
幾らか離れたところで爆音も聞こえる。
テロ
ここ数年世界規模でテロが多発していた、現在の世界に不満を持ち暴力によって世の中を変えようとする連中が世界には大勢いたのだ。
私は、私とジュン君はそんな彼らの凶行に巻き込まれたのだ。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・なんで・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・なんで・・・・何でこんなことに・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・なんで!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
幾つかの掠り傷と打撲、私が受けた被害はそれだけだった。
そして、私の目の前には血だらけになって倒れているジュン君がいた。
爆発の瞬間ジュン君は私を庇い、その衝撃を自分の体で防いでくれた。
「・・・・・・う・・ううっ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・なんでなのよ・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・なんで・・・・何でもっと自分を大切にしないのよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・なんで!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・さあな」
ジュン君の手が私の頬をそっと撫でた。
「俺は満足して逝こうとしてるんだ」
「そんな、そんな!!」
「・・・・・・・・・いままで・・・・・・ありがとう・・・・・」
「・・・・・・・・・そんな・・・・・・・」
「・・・・やっと・・・・・やっと彼女の所に行けるんだ・・・・・」
「馬鹿なことを言わないで!!」
涙を、堪えることが出来なかった。
やっと、やっと気づいたのだ。
6年以上掛かってやっと。
私はジュン君の手を握って、情けなさに震えていた。
たくさん、たくさん愛してもらったのに、私はその万分の一も彼に返すことが出来なかった。
どうしたら良いのか解らなくって駄々をこねる子供のように何度もジュン君に繰り返した。
「帰ろう、ジュン君。みんなの所へ、帰ろう・・・・・・・」
ジュン君は私の頬から手を離すとほんの少しだけ笑って、そっと呟いた。
「・・・・・・・・・・こんどは・・・・・守れた・・・・・」
突然ジュン君が、あれ、と虚空を見つめ驚いた顔をした。
嬉しそうな瞳が、静かに微笑んだ。
ジュン君は何かを迎え入れるように、手を持ち上げようとした。
私はぞっと震えた。
この表情を私はかつて一度だけ見たことがあった。
「だめ!!」
とっさにジュン君の体にしがみついて、空に向かって泣いて訴えた。
「連れていかないで!!」
どこにいるのだろう、どうすれば聞き入れてもらえるのだろう。
必死で虚空を探した。
ジュン君を連れ去ろうとするものに、泣きながら哀願した。
「お願い!! 連れていかないで、愛しているの・・・これからもずっとそばに居たいの!!・・・・・・・連れていかないで・・・・・・」
風が鳴っている。
私は見た。柔らかい微笑をした少女が、そっとジュン君を抱きしめるのを。
ああ、この人にはかなわない・・・・・・・・・
私は諦めざるを得なかった。
だってこの人は、ジュン君を見ているだけで、ジュン君の側に居るだけで、幸せになれて、ジュン君を幸せに出来るのだ。
この人はジュン君に恋してる、ジュン君に恋してる・・・・私はこの人にかなわなかった。
「ひどい」
私は座り込んだまま天を仰いだ。
涙が落ちた。
私はそっとジュン君にそっと唇を合わせた。
ジュン君の身の内から流れ出た血が静かに私の中を駆けた。
「ひどいよ、ジュン君・・・・こんなふうに置いていくなんて・・・・・・・・」
ネルガル系列の病院の一室で私はずっと前に読んだ本の一説を思い出していた。
「愛する者のいない世界で、一人生きるのは、辛く寂しいことだ」
ほんとうに・・・・
ほんとうにそうだ・・・・・・
これからの人生・・・・
彼の、ジュン君のいない世界でいったい何をすればいいんだろう。
いったい・・・・
なにを・・・・
なにを・・・
あとがき
ああっ! 石を投げないで・・・・
「エリナ・キンジョウ・ウォン」を読んで頂くと良く解る事なのですが、私は「キャラをいかに美しく、鮮烈に殺すか」ということを題材に小説を書いています。
・・・・・・後もう2,3人殺す予定ですが・・・・・・
実はこの作品、ネタの使いまわしを行っています。
他の二次創作小説でほぼ同じ流れのものが有ったりします(汗)。
メルアド変わりました〜
tohoo@ayu.ne.jp
何か有りましたらこのアドレスにお願いします。
ゴールドアームのどうでもいい感想。
ゴールドアームです。
何というか……とっても「やおい」なお話ですね。
実は結構好きなんですが(笑)。
ですから内容については何も語りません。これはこれでいいんです。
あとがきの意見に関しては……私は、どっちかというと殺さない方なので。
え? 結構殺してるって?
まあそれはその……
それはさておき、内容とは関係のない苦言を一つ。
句読点の使い方には注意しましょう。
狙った部分があるかもしれなかったので、明らかに抜けていたと思われる箇所以外はそのままにしてありますが、私が校正担当だったらもっとあちこち手を入れまくっていると思います。
その他文章のフォーマット的にも何カ所かいじりたくなってくるし。
文章的には別段おかしくはないので、区切りに関してもう少し考えた方がいいと思います。もったいないくらい文章のリズムが死にまくっているところが見受けられましたので。
一つだけ例を挙げておきます。
冒頭の部分です。私なら、こう書きます。
私が何を言いたいのか、これで読みとっていただけたら幸いです。
彼は不思議な人だ。ナデシコに乗っていた人に聞くと「いい人」と言う答えが必ず返ってくる。
初めて会ったとき、彼は手を血塗れにしながら射撃訓練をしていた。
明らかに疲労しフラフラだった。だけど眼だけがギラギラと光っていた。
ナデシコの乗組員は、程度の差は有っても皆「いい人」だ。そんな中で彼だけが孤立していた。
いったい彼に何があったのか私は知らない。
誰に聞いても何も答えてはくれない。
いや、ほとんどの人は詳しい事を知らない様だった。
そんな中、彼の……ジュン君の寂しそうな姿が、私の脳裏に焼きついていた。