ネルガル会長室

「テンカワ君仕事しない?」

「仕事?」

「そ、クリムゾンの研究所を一つ潰して来て欲しいんだけど」

食事の後に紅茶を頼むような口調でアカツキは告げる

「理由は」

それに対してアキトは、肉の焼き方は何にするといった感じに返答する

「いや〜、実は前にうちの研究所からマシンチャイルドのサンプルが盗まれてね、それがクリムゾンにある事がわかってね」

「ほう・・・・・・・・・・・・アカツキ」

「解ってる、取り戻してくれたら里親を探す、人体実験もしない」

冷や汗をかきながらも表向きは平然と答えるアカツキ

アキトはその答えを聞くと何も言わず席を立ち部屋を出て行く

「じゃ、よろしくね」

アカツキはアキトが部屋を出る瞬間そう声をかける

「・・・・・・・・・」

アキトは何も答えないがその口元が一瞬笑みを浮かべたのをアカツキは確かに見た

 

 

 

 

 

ネルガルシークレットサービス チーム「エグザイル」

アキトが鍛え淘汰して作り上げたネルガル最強の実行部隊

「隊長」

まだ少年といって間違いのない男がアキトに声をかける

「ナガヒロか、状況は」

ナガヒロ・ケン

エグザイル副隊長、シークレットサービスに於いてアキト、プロスペクターに次ぐ実力の持ち主、若干十九歳の若者である

「エグザイル総勢16名いつでも行けます」

「そうか」

アキトの言葉を皮切りに沈黙が訪れる

時が流れ

「・・・・・・・行くぞ」

その言葉に従い彼らは動き出した

宴が始る

 

 

 

 

 

 

 

 

襲撃は成功だった、完全な奇襲でクリムゾンの守備隊を壊滅させメインシステムを掌握し後は目的の回収だけだった、この男が現れるまでは。

「何故だ、何故貴様がここにいる」

アキトは震えそうな声を律して問いかける

「ほう、我を知っているのか」

編み笠にマントを纏った男は面白そうに舌なめずりをする

「隊長!」

男に向かって攻撃しようとする部下を片手で制しアキトは命令を下す

「ナガヒロ、皆を連れて任務を続行しろ」

「・・・・・・・ふう、解りました」

そう言うとケンは部下を連れて駆け出した、彼には解ったのだろう目の前にいる男が自分達よりも強いという事が

「ふむ、我とやるつもりか」

「ああ、北辰貴様を殺すのはこの俺だ」

自分に狂気を植え付けた男、北辰を前にしてアキトの心は冷たくそして滾っていた。

氷の中で燃える炎、そう表すのが尤も妥当だろう。

闘いが始った

 

 

 

 

 

 

 

一瞬というには長過ぎる、永遠というには短すぎる

二人の狂い人の闘いはたった一撃で終りを告げた

アキトの手刀が迫った瞬間、北辰は己の攻撃を捨てて手刀をかわそうとした。

結果北辰の首を狙ったアキトの手は北辰の左の眼を貫いた。

「ぐ、まさか我以上の狂気を持つものが地球に居たとはな」

紅く染まった左眼を押さえながら北辰はアキトを睨む

「名を聞いておこうか」

「テンカワ・アキトだ」

北辰の問いに答えながらアキトは止めをさすタイミングを探る

「テンカワ・アキト、その名忘れんぞ」

そう言うと北辰は何かを地面に叩き付ける、瞬間あたりに光があふれ北辰は姿を消す

「閃光弾か」

光が収まったあと北辰を取り逃したのにアキトは淡々と状況を確認した

「北辰、俺も忘れん貴様を殺すのは俺なのだから」

 

 

 

 

 

 

 

アキトと北辰の闘いが終わった時ケンは目的の場所までやってきた。

第3研究室

そう書かれた部屋の前に部下を残すとケンは一人で部屋に入っていった。

「・・・・・妖精・・・・・」

薄暗い部屋の中で巨大な培養層の中で膝を抱え眠る少女の姿は幻想の中に在る様で、少女の全てにケンは心を奪われた。

 

 

 

 

 

 

 

ネルガル会長室

「いや〜おみごと」

楽しくってしょうがないと言った様子でアカツキは労をねぎらう。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

それに対してアキトは黙して何も語らない。

「何か欲しいものがあったら言ってね、なんでも用意するよ」

よほど機嫌が良いのだろう大風呂敷を広げるアカツキ。

「そうか・・・・・・・・・・・・・・アカツキ」

「なんだい?」

「サンプルの里親、あれをナガヒロにやらせろ」

「ケン君に?」

めったにないアキトのお願いに喜びながらもその内容に戸惑うアカツキ。

「本人が強く望んでいる、俺に口添えを頼みに来るほどにな」

「ふ〜ん ま、本人達がそれで良いって言うんなら良いんじゃない」

「そうか」

そう言うとアキトは黙り静かに酒を飲み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ネルガル総合病院

VIPルームの中でナガヒロ・ケンは妖精の目覚めを待っていた。

アキトから里親の任命を受けてからすぐにこの部屋を訪れてもう2時間も少女の寝顔を見続けていた。

そして

「ダレ?」

無機質な、だが透き通るように透明な声がケンの耳を打つ。

「ケン、ナガヒロ・ケンそれが俺の名前だよ」

「ケン?」

返された答、それは自分の名前とは思えないほど甘美な響きを持っていた

「そう、君の名前を教えてくれるかな?」

「・・・B−27・・・」

「違う、それは君の名前じゃないよ」

自分を番号でしか表せない少女、その姿は余りにも幼く儚い。

「デモ、ソウヨバレテイタ」

感情のこもらない声が心を打つ

「そうか、じゃあ俺が君に名前をあげよう」

「ナマエヲ?」

「そう、君だけの名前を、君のためだけにある名前をあげよう」

そう言うとケンは微笑みながらゆっくりと少女の頬に手を添える、もしここにホシノ・ルリが居たら彼女は驚いただろう、ケンの微笑みはアキトが数年前まで彼女に向けていたものにとても似ていたのだから。

「琥珀の瞳、まるで宝石みたいに綺麗だ・・・・・そうだラピス、ラピス・ラズリそれが君の名前だ」

「ラピス・ラズリ・・・・・・キレイナナマエ」

「気に入ってくれたかい?」

ケンの問にラピスと名づけられた少女は小さく肯いた。

「良かった、ねえラピス良かったら一緒に暮らさないか?」

ケンはそう言うとラピスに向かって手を差し出す。

「イッショニ?」

「そう、家族になろう」

ケンの答を聞きラピスはおずおずと差し出された手を握った

この瞬間から二人は家族になった。




ナガヒロ・ケンとラピス・ラズリ

数奇な運命で巡り合った二人は運命に弄ばれ、この後たった1年ほどで命を落とす事になる、だがこの時そして最後の瞬間まで二人は家族を手に入れ幸福であった。

これはナガヒロケンとラピス・ラズリ、そしてテンカワ・アキトの「始りの終り」であり「終りの始り」であった。

 

 

代理人の感想

 

ううっ、ドライな文体なのに泣かせてくれますね。

私の両目がウェットです。

なんちゅうか、男はやはり心のどこかに「王子様になりたい」という願望があって、

そこに響く物があるんでしょうかね。

広い意味での父性愛というか保護欲というか・・・。

そう言う意味でナガヒロさんがちょっぴり羨ましい代理人でした。