「よお!相変わらず良い腕してるな」
バッタを殲滅した後、ナデシコに着艦したアキトに整備班長のウリバタケが声をかける。
「そうでもないさ」
そっけない答えだが何時もの事なのかウリバタケは気にもしない。
「で、どうだいこいつの使い心地は?」
今しがたアキトが戦闘で使った漆黒のエステバリスを見上げて問い掛ける。
「パワーとバランスは申し分無い。だが反応が遅い」
「おいおい、もうこいつの反応速度に追いついちまったのかよ」
「上げられるか?」
「ほんの少しならな。だがそれ以上は無理だ」
「そうか、頼む」
アキトの返事にウリバタケはスパナを軽く振る事で答える。
それを確認したアキトはブリッジに向うため格納庫を後にした。
ナデシコ艦内 ブリッジに繋がる廊下
(アキト)
(ルリか、どうした?)
リンクを通じて話し掛けてきたルリにアキトが答える。
(いえ、その・・・・)
(ルリらしくないな、ハッキリしろ)
(その・・・・ユリカさんの事です)
(・・・・・・・・ユリカがどうかしたのか?)
何処か躊躇う様な問いに同じく躊躇う様に答える。
(話さないんですか?)
(・・・・・・・ユリカの愛したテンカワ・アキトはもういない、そして俺の愛した「ユリカ」は死んだ・・・・・・・俺の腕の中でな)
(それで良いんですか?ここには確かにユリカさんがいます。同じ顔で、同じ声をした遺伝子まで同じ「ユリカさん」が)
(あいつは俺の事を最後まで愛してくれた。それなのに俺が「ユリカ」を求める訳にはいかないさ)
(・・・・・・・アキト)
(それに今はお前たちが側にいてくれる。そうだろ?)
(はい。アキト、私達はいつまでも貴方の側にいます)
(・・・・・ありがとう)
そうしている間にブリッジに辿り着く。
ナデシコ艦橋
扉の開く音と共に黒を基調とした制服を纏った男が入ってくる。
「おや、来ましたね。皆さんご紹介します、ナデシコ副提督兼パイロットのテンカワ・アキトさんです」
プロスペクターがアキトのことを紹介する、それに対するクルーの反応は千差万別だった。
興味津々な者、何処か面白そうな者、喚き散らす者、興味深げに観察する者そして爛々と目を輝かせる者。
「テンカワ・アキトだ、よろしく頼む」
極めて簡潔なアキトの挨拶。
「アキト、アキトだぁ!ねえアキトぉ!」
「ユリカ・・・久しぶりだな」
周りは”このふたり知り合いか?”というような感じで見ている。
「やっぱりアキトは私の王子様だね!ユリカがピンチの時にいつも助けに来てくれるもん」
にわかに騒がしくなるクルー達、そんな中でルリの心はささくれた麻の様に乱れていた。
リンクで繋がっているためアキトの強い感情が流れ込んでくるためだった。
普段ならこんな事は無いアキトの強い精神力は自分を外に漏らさないしルリも自分から覗こうとはしない。
嘆き、怒り、悲しみ、そして歓喜、様々な感情がアキトの中を駆け巡りそれがルリにも流れ込む。
傍目からは解らないが歯を食いしばり必死に自らを制し、皮膚が破けるくらい強く拳を握り締めている、そんな感覚さえルリは感じていた。
「ユリカ・・・・・お前の知っているテンカワ・アキトはもう何処にもいない、昔の事は忘れろ」
冷徹なアキトの声、何処までも冷たくそして圧倒的な威を含んでいる。
その声はムネタケを黙らせユリカを押し留め、ブリッジから「声」を奪った。
「ミスター、俺は休ませてもらうぞ」
アキトはプロスペクターに声をかけるとブリッジを出ていく。
ブリッジに「音」が、「声」が戻るのにはいま少しの時が必要だった。
クルー達がアキトに圧倒されて呆然としている中でルリだけは強い悲しみの感情に震えていた。
代理人の感想
わ、短い(爆)。
「感想お願いします」って言われたけど・・・・はっきり言って感想の書きようがないな〜(苦笑)。
まあ「アイツは俺を愛してくれたのに」のくだりは
アキトとユリカをくっつけない為の方便としてはそれなりに新鮮ですけどね(笑)。