「さあ着いたよ」
そう声をかけてナガヒロ・ケンはラピス・ラズリを招き入れた。
ゆっくりとラピスの手を引きケンは家の中へと進んでいく。
リビングまで来た所で向き直り、軽く膝を折りラピスの目線に合わせて語り掛ける。
「改めまして、これから宜しくねラピス」
どこか安心できる笑顔で優しくラピスに挨拶をする。
「ヨロシク」
コクン と軽く肯きラピスも返事をする。
ナガヒロ・ケンとラピス・ラズリの共同生活の始まりだった。
東京都内に在るマンション、ここが二人の新居だった。
もともとシークレットサービスであるケンはネルガルの宿舎に住む事を義務付けられていたが、ラピスの教育上よろしくないと言う事で転居願いを出していた。
もちろんそんな事が認められる筈が無い、ラピスは貴重なマシンチャイルドだしケン自身も、アキト・プロスペクター・ゴートの3人がナデシコに乗船する事が決まっている以上シークレットサービスのトップに近い立場である。
そんな二人がなぜ宿舎を離れる事が出来たかと言うと、対処に困ったケンがホシノ・ルリに相談したためである。
ケンに相談を受けたルリはその足でネルガル会長室に向かい僅か10分ほどで転居許可を取り付けて来たのであった。
その後会長室では、何故か隅っこで涙を流すアカツキの姿が目撃されることとなった・・・
・
・・・・・・・・・原因は謎のファイルであったらしい。
午後5時
間取りの確認と部屋割りを済ませたケンは台所に立っていた。
トントントン
軽快に包丁の音が響く。
意外に腕は良さそうだ。
「ちょっと待っててね、すぐ作るから」
ケンはラピスに声をかけると今切った食材を手早く調理していく。
そんなケンの後姿をラピスはじっと見詰めていた。
時々包丁の音に反応して体が左右に揺れるのが、なかなか可愛い。
そうしてる内に料理が出来たのだろう出来あがった料理をテーブルに並べていく。
「ラピス退屈だったかい? もう出来たから一緒に食べよう」
ラピスはケンの問いかけにフルフルと首を横に振ると、テーブルに向かって歩いて行った。
パタパタとスリッパの音を鳴らしながら歩くその姿はとても微笑ましい、事実ケンもそんなラピスを見てニコニコと笑っている。
二人はテーブルについて食事をはじめた・・・・・・・・・・・・が、ラピスはじっと料理を見詰めたまま動かない。
その様子を見ていたケンは何かに気が付いたのかラピスに話しかける。
「ラピス、もしかして食事をした事が無いの?」
ラピスはその言葉に小さく肯くと、上目使いにケンを見る。
おそらくは如何すれば良いのか解らないのだろう、ラピスのそんな様子を見たケンの中でクリムゾンの研究者達が抹殺リストに載ることになった。
ケンはラピスに近付くと皿の上の料理を食べやすく切り分けた。
そして
「はい、ラピス口をあけて」
ケンは料理をフォークに刺すとラピスにそう言い、自分の口を開けてラピスに口を空けるように促す。
ケンはラピスの口に料理をもっていく。
「はい、噛んで」
モグモグモグ、と何処か一生懸命にラピスは口を動かす。
「噛んだら少しづつ飲みこんで」
その声に従ってラピスは咀嚼した料理を飲みこんで行く。
「どう?美味しかったかい?」
「ヨクワカラナイ」
初めて食事をしたのだから当然の反応なのだかラピスはケンに嫌われたくないのか何処か申し訳なさそうである。
そんなラピスにケンは笑って答える。
「ねえラピス、これから色んな物を食べよう。そして色んな所に行って、色んなものを見よう」
「イッショニ?」
こわごわと、だけど大きな期待をこめてラピスは問かける。
「もちろん。一緒だよ」
その答を聞いたときラピスは笑った。
ケンがはじめて見たラピスの笑顔だった、その笑顔は余りにも透明でラピスの無垢な心をそのまま映している様だった。
ケンとの出会いから始まったラピスの「思いで」に大切な1ページが刻まれた日だった。
代理人の感想
ううっ、ええ話や。
なんかこう、思わず涙腺が緩みまくりです。
こう言う純粋にハートフルな話はActionでは貴重ですからねぇ。
・・・・・ついでに言うと「壊れていないラピス」と言う点でもかなり貴重かも(笑)。